ナギサ様の脳を破壊し隊   作:あみたいと

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少女たちの決戦

 

 

 

 

 

 シッテムの箱

 

 一見するとただのタブレット端末にしか見えないそれは、現代技術では再現不可能なオーパーツの1つだ。

 搭載されているパワーは凄まじく、科学技術の英傑達が集うミレニアムのコンピューターにも匹敵する演算能力を誇り、どんな戦況でも瞬時にリアルタイムで把握することができる。

 他にも先生と繋がりのある生徒に、一時的なバフ(能力向上)を付与し生徒の潜在能力を引き出したり、キヴォトスに埋まっている他のオーパーツを起動出来たり、メインOSであるアロナのアシストによって、とある兵器のハッキングを阻止したり、所有者である先生の身体に影響を及ぼす外的要因を探知した途端に、防御シールドを展開するといった意味不明な能力まである。

 

 

 

 だか如何に優れた道具であっても、使いこなせなければ宝の持ち腐れ。

 

 そもそもシッテムの箱は、先生しか起動することができない。そのオーバースペックとも言える性能の真価も、先生の技量が合わさることで初めて発揮することができる。

 

 

 

 

 

 先生はシッテムの箱を()()として、この状況を打破する為に起動する。

 1秒のロードも挟まずに点灯した画面には、現在の戦場を俯瞰した映像と敵性反応の示すアイコン。そして先生と共に戦う絆を深めた生徒たち──ヒフミ、アズサ、ハナコ、コハル、マリーの名前があり、それぞれの詳細な能力が確認できる。

 

 

「ほっほっほ……」

 

 準備運動の一環である跳躍をしているナズサ。

 かなり切羽詰まっている筈なのに緊張感を感じさせず、余裕を兼ね備えどこか抜けている態度は少しミカと似ていた。

 

 

 ……ナズサは謝罪をしてきた。つまりは()()()()()()なのだろう。その真実にはショックを受けたし、思うところが全く無いと言えば嘘になる。聞きたいことも山ほど残っている。

 

 それでも、何よりこの場に駆けつけて来たことが純粋に嬉しかった。

 

 それは先生だけではない。補習授業部みんなも同じだ。

 だから、今はその気持ちだけを込めて端的に一言だけ──

 

「行くよ」

 

「……はい!」

 

 力強い返事と同時に、手元の画面に『ナズサ』の文字が浮かび上がる。

 

 

「っ──!」

 

 ナズサが10回目の跳躍をした瞬間、筒音と聞き間違える程の豪快な音が鳴った。

 

 目の前で突如発生した轟音と風圧に怯む先生。

 すぐさま体勢を立て直して確認すると、さっきまでナズサが立っていた木目の床が、手榴弾が爆砕した後のように割れていた。

 

 一体何が起こったのか……周囲を見渡すと、それはすぐに分かる。

 

 前方にて、ミカとナズサが互いの得物で───刀のように鍔迫り合いをしていた。

 

「ぐぐ……」

 

「──っナ、ズ、ちゃん……!?」

 

 20メートル程の距離を瞬く間に詰めたナズサ。不意打ちとも言える肉薄に遅れることなく反応したミカ。

 

 それはたった一手で両者の実力の高さが窺えるものだった。

 

「聖園ミカ、援護する!」

 

 しかし目の前においそれと突っ込んできたナズサは、ミカの周囲を取り囲むアリウス生徒の格好の的だった。

 一糸乱れぬ素早さで、同時にナズサに向けて構える。

 

「あ、待って──!」

 

「ぐぐぐ……ぐっ! やっぱ無理~!!」

 

 ちょうど5秒の競り合い。

 甲高く情けないセリフをナズサが挙げた途端、アリウス生徒の一斉射撃が火を吹く。

 

 

 

 ……が、それは標的を捉えることは無かった。

 

 

 

 トンッ、とナズサは空高くジャンプ──バク転で上方向に逃げ攻撃を回避した。それは傍から見れば分かるものの、当事者であるアリウスの目には突然ナズサが消えたように映る。そうして目標を見失い混乱に陥っているアリウス生徒へ、空中での無茶な体勢から的確に速射し次々と無力化していく。

 

 そんな曲芸にも眉一つ動かさず冷静に応戦するミカ。空中にて身動きが取れないナズサへ銃口を向け撃ち放つ──しかし両者の間で火花が散るのみで、決定打にはならず。更に僅かにすり抜けてきた弾丸も、ナズサは浮きながら上手く身体を捻って躱し、ミカは一歩も動いていないのに、まるで銃弾が避けていると錯覚する程掠ることすら無かった。

 

 

 追い込まれた自分達を守るように天井から乱入しミカと対峙、からのとんでもない勝率の低さと弱音の暴露、と思いきや目で追えない程の速さで肉薄。そして潔い諦めの早さと大ピンチに陥るも、とんでもない技で切り抜ける。

 

 二転三転するナズサにひやひやし、思わず叫びたくなる先生だったがそれはまだまだ続く。

 

 

 見事帰還してきたナズサはキメ顔で、至って冷静に端的に鷹揚なくハッキリと一言。

 

 

 

「うん。勝てる気がしない」

 

 

 

 今までのおちゃらけたイメージとかけ離れた──いや、そういった部分を残しながら、見せつける身体能力の高さのギャップに愕然とする先生……え?

 

「いや諦めるの早すぎない!?」

 

 着地点はナズサらしいものだった。

 

「だって! 今の先生のバフも乗っかった割と渾身の一撃だったんだよ!? それを難なく受け止めてさ! その後の射撃も上手く力を乗せれたのに、ミカちゃん虫を叩き落とす感覚で撃ち落としたんだよ!? やっぱり確定会心はズルいって!!」

 

「な、なんて? 確定?」

 

 矢継ぎ早に語るナズサ。先生からしたらどっちも充分ヤバいのだが、ナズサからするとミカはもっとヤバいらしい。

 

「……でも諦めてはいないよ。ただ、ミカちゃんだけで手一杯なのに、あの人数を相手はキツイなぁ~って」

 

 嘆きならもその眼の闘志は衰えることなく、一瞬たりともミカへの視線は離していなかった。

 

 ナズサ曰く、ミカの戦闘能力はこの場の誰よりも──勿論ナズサよりも上だと言う。ただシッテムの箱の力と先生の指揮があれば、何とかギリギリ綱渡りではあるが戦える。……しかし相手はミカだけではない。大隊規模のアリウス生徒も同時となると確実に勝機はない。

 

 

 

 それがナズサ1人だけの場合は。

 

 

 

「ナズサちゃん」

 

 いつもピンチを切り開いてきた部長の一声が。

 

「私たちも戦います。ナズサちゃんは1人じゃありません!」

 

 そうだ、忘れてはならない。この戦いは彼女たち──補習授業部の戦いでもあるということを。

 

「多人数相手は慣れている」

 

「そ、そうよ! 私たちの存在を忘れちゃ困るんだから!」

 

「ここまで来て、1人だけでイクなんて水くさいじゃないですか♡」

 

 ここまで共に時間を過ごしてきた仲間達。元を辿ればきっとそれは歪な関係性なのだろう。それでも彼女たちは、温かく手を差し伸べていた。

 

「……ごめんなさい」

 

 しかしその手を取るのには勇気が必要だった。

 素直に歓喜することは憚られ、拒絶してしまう。

 

「ナズサ、ここは感謝だよ」

 

 そんなナズサを優しく後押しする先生。

 

 その言葉を受けて、中々に拭えない罪悪感をはにかみながらナズサは笑った。

 

「ありがとう、ございます」

 

 

 

 

 

 

 

 補習授業部、シスターフッド、そしてナズサの指揮を先生が執り始めてから、攻勢は目に見えて逆転し始めていった。

 

 シスターフッドが参戦したとはいえ、全体数では未だに負けている。

 しかし、地形と補習授業部の能力を上手く噛み合わせた戦術、アズサが予め仕掛けておいたトラップ、シスターフッドとの連携によって、次々とアリウス部隊を各個撃破していった。

 

 

 

 そうした援護の甲斐もあって、ナズサはミカとの1vs1へと持ち込めていた。

 

 その戦いは全くの別次元のものであり、個と個のぶつかり合いだった。

 

 室内という3次元空間を存分に利用し、自慢のフィジカルで床や壁、天井までも蹴り縦横無尽に飛び回るナズサ。上下左右、様々な方向から飛んでくる銃弾を的確に撃ち落とし、更にはナズサの次の着地点を予測し偏差撃ちをしているミカ。

 

 何故こんなにもアクロバティックなものになっているのか。

 それはナズサの銃がARでありミカはSMGであるので、出来る限り距離を離して少しでも自分の武器の有利を押し付ける為、必然的にこういった戦いになっていた。

 

 ……と言っても、このキヴォトスにおいては元の銃種の有効射程は当てにならない。

 

 ヘイローを持つ全ての人間に備わっている───神秘、崇高、神の力、芸術、テクスト、スキル……様々な呼称をされるそれらの()は、銃弾や砲弾を喰らっても『痛い』で済むほどに肉体の強度を上げ、普通の人間には不可能なレベルの動きを可能にする、身体能力の恩恵をもたらしている。

 

 そしてそれは例えば……全力疾走する時の脚のように、思いっきり握り拳をつくるように、滑らかにペンでものを書くように、銃へ()を込めることが出来る。

 

 すると銃の威力が元の何倍にも、人によっては数十倍にも跳ね上がり、勿論有効射程にも影響を及ぼしている。

 

 特にミカは後者の──数十倍にも跳ね上げるタイプであり、小口径と侮るなかれ、一発の被弾が致命打になるものだった。

 

 なのでこの対策も言わば悪足掻き、やらないよりはマシといったものだ。しかも時々隙を見つけては、川を泳ぐ鮭を捕える熊のように俊敏に詰め寄り、拳を突き出してくる始末。

 それでも最大限の努力をしなければ勝機は見出せない。そのぐらいミカの実力は凄まじいものだった。

 

 因みに今のところミカパンチは全て避けているが、勢い止まらず空振った先の壁や床は無惨に砕け散っていた。ぶっちゃけ言うと銃よりそっちの直撃の方が怖い。

 

 

「あははっ☆ㅤ 















ㅤナズちゃん、ヒーローみたい」

 

 皮肉気に笑うミカ。その心は矛盾に満ちていた。

 

 ナズサにはこのまま被害者として、悪者は自分だけにするつもりだった。そう覚悟は決めていた。だから、補習授業部とシスターフッドと……先生と結託して、自分に立ち塞がる。その形はある意味理想的なものだった。

 

 その筈なのに……ナズサに裏切られたと、ズルいと一瞬だけでも思ってしまった。やっぱりナズサだけは味方でいて欲しかったと。昨日自分からそう言ったのに、やっぱり辛いって……。

 

 そして昨日ナズサへ言ったこと、決めた覚悟がもう折れそうになっている自分が、嫌になっていた。

 

「……そんなのじゃないよ。私だって立派な裏切り者。それも補習授業部と先生とお姉ちゃんと……ミカちゃんを裏切った最低のね!」

 

「っ! やめて──ッ!!」

 

 ()()だ。そんなことを言わせるつもりじゃ……そんなつもりじゃなかったのに。

 

 ぐちゃぐちゃになりそうな感情をそのまま乗っけてナズサへ放つ。その威力は今までの人生の中でもトップクラスのものだった。

 しかしどれだけ強力な攻撃も当たらなければ意味が無い。捉えきれなかった弾丸はそのまま入口へとぶち当たり爆音が鳴る。開放感抜群の玄関へと突貫工事が完了した。なお、雨ざらしになり靴箱等は一切無い模様。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 今までも何度かナズサと撃ち合いまでの喧嘩に発展したことはあったが、ここまで苦戦したのは初めてだった。

 いくら先生の力添えがあるとはいえこれは──高等部になってからは一度もそういったことがなく気付かなかったが、いつの間にか明らかにナズサの地力が上がっていた。

 

 最初にナズサが仕掛けた特攻……ナズサは難なく受け止められたと言っていたが、そんなことはなかった。あのスピードは完全に不意を突かれたし、身体が自然に反応したから良かったものの、鍔迫り合いの力勝負は若干ではあるが、初めて押された。もしもアリウスの援護がなかったら、どうなっていたか分からない。

 

 それにこんなにも激しく動き回りながら銃弾を避けつつ、攻撃の全てに()を込めている……にも関わらず、息切れの1つもしていない。ナズサの常軌を逸したタフさに辟易しつつあった。

 

 更にミカのコンディションは最悪であり、特にメンタル面の不安定さから、普段通りのパフォーマンスを出し切れてなかった。頼みの綱であったアリウス生徒も分断され次々と鎮圧されており、全滅も時間の問題だった。

 

 

 もう悠長にやっていられない。

 次のリロードのタイミングで決着を付けると決めたミカは、浴びせられる銃弾に構うことなく不動となり、ナズサの発砲音を数えて機をうかがう。

 

 そしてそれはすぐに訪れた。

 

「────っ!」

 

 床が軋み砕け散る程に一気に踏み込み、飛び回っているナズサへ突貫する。その形は奇しくも、ナズサが最初に仕掛けたものと同じ構図だった。ただ違ったのが、その速度はナズサの数倍のものであり到底目で追えるものではなく、周囲に人が居たならば、吹き飛ばしてしまう程の衝撃波を放っていたこと。

 

 

 

 そして瞬く間に眼前まで迫り、銃口を向け────

 

「────え?」

 

 ナズサの銃が淡い光を纏っていた。

 

「悪いけど……我慢してね!!」

 

 そう叫ぶナズサが、弾が尽きている筈の銃の引き金に指を掛けると──マズルから暗く輝く琥珀色の弾丸がミカへ襲い掛かる。

 

「ぐっ、あぁっ!!」

 

 ドドド、と容赦なくそして()()()ことなく鳴り響く。

 それは弾丸という外的要素を用いないで行う、純粋なエネルギーの固まりの放射だった。そんな芸当が可能な人物は、キヴォトス内に於いても限りなく少なく、勿論ナズサも今までそんなことは不可能だった筈。

 

 隠していた切り札を真正面から喰らったミカは、そのままステージへ吹き飛ばされる。それでもナズサは攻撃の手を緩めず、土煙へ向かってひたすらに撃ち続けた。

 

 1分程の連射。通常のARではありえない量……LMG並みに撃ち切ったナズサは着地した途端に膝をついた。

 

「はぁはぁ……や、やったか……!?」

 

 古今東西、そのセリフがどれだけの“効果”を持つのか、ナズサが知らない訳がない。しかし必死になりすぎて完全に忘れていた。それに実際にこういった場面に出会すと、思わず口にしてしまうものである。

 

 

 

「何これ、洒落にならないなぁ……」

 

 煙が晴れる。その中から1つのシルエットが、能天気な、されどいつもとは違う焦燥感を含んだ声音。

 あれだけ撃たれたのにも関わらず制服には多少土汚れが付いただけ、その陶器を思わせる美しさと健康的な瑞々しさが両立した肌には、多少の擦り傷があるも──少しはしゃぎすぎた子供のように感じるものだった。

 

「……洒落にならないのはどっちだよ、ははは……」

 

 一方ナズサは今ので大分体力を持っていかれた様子。苦笑している顔には汗がダラダラと流れ、滅多な事をした副作用か鼻血が噴き出し、珍しくぜぇぜぇと肩で息をしている。

 

 決着は一目瞭然だった。

 

 

 

 しかし──

 

 

 

「ナズサ!」

 

「あ、先生……」

 

「ナズサちゃん鼻血が!」

 

 時間切れだ。先生とヒフミがナズサへ駆けつけ、遅れてハナコ、コハル、そしてアズサが到着する。

 ナズサがミカを引き受けている間、補習授業部とシスターフッドがアリウス生徒達の完全鎮圧が完了したようだ。

 

 

「……どうして?」

 

 ミカのそれは──自分へ向けて問いていた。

 

「セイアちゃんが襲撃された時だって、動かなかったのに……今このタイミングでシスターフッドが介入するなんて、冗談にもほどがあるよ。……何を見誤ったのかな?」

 

 一つ一つ反省会をするように、ミカは言葉を続けていく。

 一体何が()()となったのか。

 

 浦和ハナコ……警戒すべき存在であったことは知っていた。しかしいつの間に無害な存在になっていた。

 白洲アズサ……ただの操り人形に過ぎなかった彼女が裏切ろうとなかろうと、なにも変わることはなかった。

 阿慈谷ヒフミや下江コハルこそ、変数になるような存在ではなかった。

 

 ならば桐藤ナズサ……親友であり唯一自分の計画を知っていた彼女。しかしナズサはミカを裏切らなかった。誰一人にも、計画を話すことはしなかった。

 

「………………」

 

 数多の無言の視線に晒される中、1人の大人の存在を改めて思い出す。

 

「……そういえば、一番大きい変数を忘れていたね」

 

 シャーレの先生。彼を利用し巻き込んだ時点でミカの敗北は決定していたのだ。

 

「はぁ……ダメだなぁ、私」

 

 自虐的に笑い、萎れた花のように小さく呟く。

 

「ミカさん、セイアちゃんは……」

 

『セイア』ハナコから出たその名前にミカの顔が曇り、懺悔と後悔が入り混じり噛み潰すように紡ぐ。

 

「……本当に、殺すつもりじゃなかったの。今の私が何を言っても言い訳になるけど……」

 

 

「……セイアちゃんは無事です」

 

 

「っ!?」

 

 目を見開き、初めて動揺を見せるミカ。

 

 セイアは実は生きていて首謀者が判明するまで、安全の為に死を偽装していた。現在はトリニティの外の病院で療養しており、まだ目は覚ましてはいないが、救護騎士団の団長──ミネ団長が傍に付いていると。そしてセイアを助けたのは……。

 ハナコが告げる衝撃の真実に、最初こそ疑っていたものの、彼女の真剣な眼差しを受け、やがてミカの胸の裡は一杯になった。

 

「そっか、生きてたんだ…………良かったぁ」

 

 それは安堵だった。

 泣き出しそうな声と共に、プツンと糸が切れたように身体が弛緩し、その手からするりと銃が零れ落ちる。

 

「……降参。私の負けだよ」

 

 あっさりと宣言したミカは、両手を上げて降参の意を示す。

 

「おめでとう補習授業部……そして先生、あなたたちの勝ちってことにしておいてあげる」

 

 ミカはその重荷から解き放たれ、吹っ切れていた。

 

「もう何でもいいや、好きにして」

 

 そして、いつもの彼女からは想像も出来ない諦観の笑みを浮かべ──アズサへと向き直る。

 

「アズサちゃん。自分が何をしているのか、その結果この先どうなるのか。それは分かっているんだよね?」

 

「…………」

 

 その厳しい言葉は……アズサを責めるように聞こえていたが、その実は自責の念が含まれていた。

 

「……トリニティが、あなたのことを守ってくれると思う? これから追われる日々がずっと──それに、サオリから逃げ切れると思う? アリウスの出身ならもちろん知っているよね、et omnia vanitas……」

 

「……うん、分かってる。それでも私は最後まで足掻いてみせる、最後のその時まで」

 

「……そっか」

 

 アズサの言葉を噛み締めるように眼を瞑る。数秒、何かを納得したのか、ミカは普段通りの優しい声音に戻っていた。

 

 

 

「……さて、お縄につきますか」

 

 鼻血を拭い立ち上がるナズサが見やる方向には───粉々に吹き飛び躯体が剥き出しになった玄関に、規則の象徴、漆黒の制服を羽織った生徒が散見される──連絡を受けた正義実現委員会が到着していた。

 

「ナズちゃ──」

 

「最後まで付き合うから。友達として」

 

 何かもの言いたげなミカへきっぱりと言い放つ。それには今度こそ、ミカは俯くことしか出来なかった。

 

 

 そしてナズサは補習授業部の面々へ振り向く。

 

「みなさん。私が言えた義理じゃないですが……最後の試験、頑張ってください。応援してます」

 

 既に夜は明け、太陽が顔を覗かせ始める。

 朝焼けに照らされたナズサの顔は、薄明のように淡く澄み渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ミカ……」

 

 正義実現委員会に連行され、憂いを帯びている猫背に声をかける。

 

「今はちょっと、先生からは何も聞きたくないなぁ……」

 

 バツが悪そうに笑うミカ。

 

「やっぱりシャーレを巻き込んだのが、私の最大のミスだった」

 

 

 

「うん、でも──

 

 

 3週間前。鮮緑に囲まれ、燦燦と降り注ぐ光を反射し、宝石のように輝いていたプールでのやり取り。

 先生を騙そうと画策していた自分に送ってくれた言葉、ちょっとした意地悪のつもりだった。

 

 

 

『もちろん、ミカの味方でもあるよ』

 

 

 

 ……あの言葉を聞いた時は本当に、本当に嬉しかったんだ」

 

 

 何の迷いもなく愚直に先生はそう言った。

 その時の純粋な──まるで運命の王子様と出会ったようなときめきと、そんな自分をからかった親友を思い出し、少し頬を赤らめる。

 

「あの時、もし……」

 

 その続きを言うことは出来ない。

 

「ううん、やっぱり何でもない。……バイバイ、先生」

 

 思い付いた言葉を振り落とすように首を横に振り、手のひらを先生へ向けるミカだった。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして実行犯であるミカ、事情聴取としてナズサが連行され、取り敢えずは一件落着……とはならない。

 

 そうある意味ではここからが本番だ。

 

 戦いの疲れを癒す間もなく、決戦の地へと赴く。

 

 長いようで短かった3週間。思えば始まりはバラバラのボロボロだった。

 それが合宿を経て──協力しながら勉強をして、時には遊んで、食卓を囲み、一緒の部屋で寝て、その絆は深まり、実力もグングンと伸ばしていった。

 

 泣いても笑ってもこれが最後。これまでの努力の成果を発揮する時が来た。

 

 

 

「では第3次特別学力試験……開始!」

 

 先生の合図と共にペンを走らせる。

 

 その姿は3週間前とは別人だった。

 

 過酷な道のりを歩みやっと着いた会場を試験用紙ごと爆破されても、途方もないほどに合格ラインを引き上げられても……何度も何度も模試をして、お互いを信じて支え合い、不可能と思われたミッションもクリアし、挫けずにここまでやってきた────

 

 

 

 

 

 

 

 

第3次特別学力試験 結果

 

 

 

ハナコ 100点

 

アズサ 97点

 

コハル 91点

 

ヒフミ 94点

 

 

 

 

 

 

 

 

 

補習授業部──全員合格

 

 

 

 

 





評価、感想、ブグマ、誤字脱字報告ありがとうございます。

投稿ペースが落ちてて申し訳なく候。自分の遅筆さが憎い……これも全て陸八魔(ry

予想以上に感想を頂けて驚いています。一つ一つ全てニヤニヤしながら拝見しています。本当に励みになります。



ここから余談というか妄想の垂れ流しです。

今回の話、原作のゲーム内だとヒフミ、コハル、アズサ、ハナコ、マリーが編成されていてミカやアリウス生徒達と戦闘するんですが……この世界のゲーム内では、アリウス生徒だけでミカとは戦闘しないんですよね。正確には、1ウェーブ、2ウェーブとアリウス生徒を倒していって、最終ウェーブの体育館のステージに入る所までは同じなんですよ。そこでミカとナズサが戦っていて、いざ加勢しようとした瞬間、ナズサが『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』と塗りつぶされたEXスキルをミカに撃ち、バトルが終了する。今回はそんなイメージが少しでも伝わったらいいなぁ、と思いながら書きました。

因みに、最後ミカが倒れてリザルト画面に移行する一瞬、ナズサのHPゲージが確認できるんですが、何故かさっきまで満タンだったHPゲージが、4割ほど無くなっているんですよねぇ……。




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