ナギサ様の脳を破壊し隊   作:あみたいと

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後片付けと支度

 

 

 

 

 

 ふと先生が気が付くと、そこはかの始まりの場所、ティーパーティー御用達のバルコニー……にあるティーテーブルには大きなケーキスタンドが佇み、それを囲む二つの椅子……その一席に腰を掛けていた。

 

 「一体どうしてここに?」と疑問に思いながら辺りを見渡すと──同じようにテーブルを囲む少女が目の前に座っていた。

 

 先生の腰ぐらいまでの身長、頭部から上へピンと張っている狐を彷彿とさせる二つの耳、淡く輝く金色の腰まである髪の毛、センターで分け露出しているおでこはシミひとつない。そして纏う制服は、純白な生地と所々に張り巡らされた幾何学的なブロンドのライン、その特徴は少女がティーパーティーの一員であると証明するもの。

 

 瞬間、先生の記憶が何故今まで忘れてしまっていたのか不思議なくらいに鮮明に蘇る。そう、このバルコニーで彼女と邂逅するのは始めてではない。

 

 あの問答────五つ目の古則『楽園の証明』について。

 合宿の時、ハナコが言っていたソレに何処か既視感を感じていたが……そうだった、それはこの少女が最初に振ってきたものだった。

 

 しかし先生は答えなかった。いや、正確には()()()()()()()()

 この空間では何故か先生の声が出ない。まるで真空空間かのように音が全く伝わらない。

 

 それは今回も例外ではないらしく……戸惑う先生を一方に、少女は鈴が跳ねるような綺麗な声音で朗々と語っていく。

 

 ナギサから呼び出されたあの日からの先生の軌跡。補習授業部が如何にして始まり合格へ至ったか、そしてこれから彼女達一人一人の心変わりと歩んでいく道。この事件の発端となったミカとナギサの顛末を。

 

 

 ──── ()()()()()()を避けるようにして。

 

 

 そうして少女は「ここまでは、よくできたお話」と区切ると、今の今まで浮かべていた慈しむような表情とは一変し、険しく諦観の表情を浮かべた。そして先程までの語りとは違う……半ば投げやりになったような、でも何処か捨てきれない“何か”を抱えて言葉を続ける。

 

「でもまだエンドロールには早すぎる。なにせ君が見守るべき結末は、まだその全貌を現していない」

 

 少女は一歩たりとも動いていないのに、大きく眼前へと迫っていると先生は錯覚するほど、少女からは凄みが滲み出ていた。

 

「このお話がたとえどんな風に転がっていこうと…………全ては、破局へと収束していく」

 

 しかし同時に、年相応に見える弱々しい様相も孕ませており。

 

「……暗雲。誰の手にも負えないような、二度と太陽を拝めるとは思えなくなるような……そんな暗雲が、今ゆっくりと押し寄せてきている」

 

 本人は自覚せずとも少女もまた、誰かに手を差し伸べて欲しい一人であった。

 

「まだ残っているものがある、これで終幕じゃない……そのことは君がきっと、誰よりもよく分かっているだろう?」

 

 問いかけに対し先生は未だ何も返せない。

 それは少女も分かりきっているのか、先生に追求することはなかった。

 

 

 ……時間も終わりか、覚醒が近づいてくる。

 徐々に景色に白みがかかっていき、瞼が落ち始めてきた。

 

 

「…………すまない」

 

 ポツリと口にした謝罪。それは先生へ向けたものであると同時に、この場に居合わせない“誰か”に送っているようものだった。

 

 先生は浮上していく意識を気合で無理矢理引きとどめ、瞼を開き少女の言葉に耳を傾ける。

 

 

 

「もう抗いようのないことなんだ」

 

 

 

「知り得た頃には何もかもが手遅れで……」

 

 

 

「雁字搦めとなり、毒牙にかかり、決して抜け出せない歯車と果て」

 

 

 

()()の──動機も経緯も全くの不明瞭ではあるが、その確固たる強靭な意思と覚悟によって齎される惨憺たる景色は、今まで観てきたどんなものよりも強大で絶望的で……そして“確定的”だ」

 

 

 

「しかも更に……更に深い絶望の谷が続いている……よりにもよって、残酷なことにそれだけは確信してしまった」

 

 

 

 少女の顔は無力に打ちひしがれ、潰えてしまいそうな程に憔悴しきり……そして懺悔と悔恨に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………せい?」

 

 肩を揺さぶられ耳元に優しい声音が響く。

 

「先生?」

 

 眩い光が差し込み眼を細めながらも、段々と眼が慣れてくると……広がっていた光景は、黒いベールから覗き込む薄い紅眼、シスター服に身を包み、腰まである銀灰色の髪が特徴的な少女だった。

 

「……ごめん、ちょっと寝てた」

 

 どうやらいつの間にか眠りこけていたらしい。

 生徒の前───サクラコに失礼を働いてしまったと謝罪する先生。

 

「……お忙しいのは存じておりますが、もう少々集中していただけますと」

 

 シスターフッドの長らしく、たとえ先生であろうと厳格に苦言を呈するサクラコ。

 しかし先生は知らない。実は先生に溜まっている心労を考慮して、10分ほど仮眠を取らせていたことを。ましてやサクラコが微笑みながら先生の寝顔を見守っていたことなど、この先誰も知ることはないだろう。

 

 

 

 

 眠りこけていた先生の為に今一度サクラコはここまでの出来事を簡潔に並べ、そして本題へと入った。

 

 それはセイア襲撃事件の詳細な情報の擦り合わせである。

 

 セイアが襲撃されたのは夜中の3時、一番に駆けつけたのは救護騎士団のミネだった。ミネはセイアの安全を確保する為に、ティーパーティーへ「ヘイローを破壊された」と嘘の情報を流し、騒動に紛れて行方を晦ました。その所在は救護騎士団のメンバーさえも知らされていなかった。

 

『ヘイローを破壊された生徒』が狙われるはずがない。ミネ団長視点では誰もが容疑者であった以上それは最善の判断であり、事実犯人であったミカはその落とし穴に引っ掛かっていた。

 

 そして現在、セイアの怪我は既に回復しているものの、未だに意識が戻らず眠り続けており、原因はミネも分からないという。

 

 

「おおよそといった形はありますが、この辺りが百合園セイアさんが襲撃された件についてのお話です」

 

 一旦の区切りを付け、用意していた飲み物で唇を湿らすサクラコ。

 それに倣って先生も目の前に置かれていたマグカップを運ぶ。

 

 ふぅ、とお互いに一息つく光景は、どちらも何かしらの苦労を抱えている似た者同士に見える。

 

「次にですが────」

 

 そしてサクラコが次の話へ進めようとした瞬間、遮るようにガチャリと扉が開かれた。

 一体誰が……?と音が鳴った方へ視線を向けると……。

 

「ハナコ!」

 

 ひらひらと手を振るハナコ。見知った少女の登場に先生の顔が明るくなり、決してサクラコとの会話が息詰まっていた訳ではないが、一定の緊張感が走っていた空気が良い意味で緩む。ハナコにはそういった部分の才があった。

 

「あまり面白くないサクラコさんに捕まって苦しんでいるのではないかと思い、先生を助けに来ちゃいました。ふふっ♡」

 

「……冗談を言うタイミングではありませんよ、ハナコさん」

 

 むぅ……と眼を細めハナコを睨みつけるサクラコ。しかし浴びせられている当の本人はどこ吹く風。

 因みにサクラコは地味に「面白くない」というハナコの一言が刺さっていた。それも彼女が顔を顰める要因なのであった。

 

「サクラコさんは相変わらずですねぇ……今度一緒に、ちょっと過激な本でも読みませんか♡ 何となくですが、サクラコさんはそういった方面に免疫が無さそうですし……うふふ♡」

 

 微笑むハナコのそれはサクラコが見せるような慈愛の笑みではなく、ターゲットをロックオンした獣に近いものだった。

 

 しかしサクラコは意趣返しかのように気にすることなく話題を変える。

 

 …………実は過激な本の意味がイマイチ理解出来なかっただけであるが。もしもハナコの発言の意味を汲み取れていたら、恐らく取り乱していただろう。

 

「……ハナコさん。あの時の約束、忘れていませんよね?」

 

「……もちろんですよ」

 

 今までシスターフッドは政治事の争いには介入することは無く、それは変わらないと思われていた。

 

 しかしあの晩長い間貫いてきた沈黙を破り、ナギサを助ける為、ミカを止める為にシスターフッドは助力した。

 それはもちろんタダのボランティアではない。ハナコとの間で交わされた取引に応じたのだ。

 

 そして今、その代償が支払われる────

 

 

「『登校時の制服には、裸のみを認める』……そんな校則を作り、トリニティを『裸の楽園』へと変える計画に手を貸してほしい……そういうことでしたよね?」

 

「ええ、そうで────はい?」

 

「まさかシスターフッドがこんな陰謀を企んでいたなんて……さすがサクラコさん、謎に包まれた秘密主義集団の長ですね」

 

 神妙な顔付きになり、妙に芝居かがった口調でハナコは続ける。

 

「それにあの例外に関する条項、『原則は全裸。ただしシスターフッドのみ、登校時にベールの着用を認める』……流石の私も慄きましたよ。裸にベールだなんて、何という新しい世界……」

 

 慄いたという言葉とは裏腹に満面の笑みを浮かべるハナコ。

 

「はい……っ!?」

 

「ですが、今の立場では協力せざるを得ません……そしてやるからには、必ずや成功させてみせます!」

 

 まるで敵に屈服し歯痒く仕方がないと言わんばかりの台詞回しだが、その眼はメラメラと闘志に燃えていた。

 

「しかしそのベールの件はズルすぎます。ですので私から提案ですが、『原則は全裸。ただし全生徒、靴下だけは着用可能とする』というのは如何でしょうか!」

 

 一体何がズルくて何処が提案なのかサッパリだが、ハナコとしても譲れないもの(性癖)があるらしい。

 

「これを飲んでくださるのなら、その計画に協力しましょう!」

 

「さ、さささサクラコ様!? そ、そんな計画を……!?」

 

 敬虔な信徒の一人であり可愛い後輩のマリーが、頬を赤らめ戸惑いと抗議の視線を送る。

 

「違いますよ!?」

 

 ただでさえ誤解されやすいサクラコに、更に謂れのない風評被害が発生しかけたのであった。

 

「そんな……」

 

 本当に心底落胆しショックを受けた顔をするハナコ。

 

「『そんな……』ではありません! いきなり何を言っているのですかあなたは!」

 

 そんなハナコをキッと睨み付けるサクラコ。

 

「『私たちがハナコさんの頼みを聞く代わりに、ハナコさんも私たちからの頼みを一つ聞く』、そういう約束でしょう!?」

 

「あぁ……そんなお話もありましたねぇ」

 

 

 

 閑話休題。

 

 サクラコとハナコの間で交わされた取引。それは無干渉主義から体制が変わっていき、これから政治事にも加担していくことになるであろうシスターフッドが、その際にハナコの力を借りるというものだった。

 

 その話を聞き、一瞬先生の顔が曇る。

 

 ハナコはその才から会う人全員に特別視され持ち上げられ、それに嫌気が差しわざと退学になろうとしていた。

 しかし補習授業部に出会い、一切のフィルターを通さずに自分を見てくれて、本当の自分を曝け出せる友達を作れたことにより、ハナコは立ち直ることができた。

 勿論今は当時とは違う状況ではあるが、それでもハナコがまたこうやって介入していく事を先生は心配していた。

 

 だがそれは幸いにも杞憂に終わった。

 

 マリーやサクラコはハナコの心情を尊重し、約束の内容はあくまでも『手伝い』の範疇である。決して無理やりといった手段は取らないと。

 

 それは生徒達の成長であり、少しずつではあるがこの学園が更に良い方向へ向かっていってるのだと思えるものだった。

 

 

 

 

 次の談論はセイア襲撃の実行犯である白洲アズサ、そして真犯人の一人であった桐藤ナズサの処遇について。

 

 テスト終了後アズサは正義実現委員会によって取り調べを受け、詳細な事件の裏側を偽りなく語った。

 襲撃の間にあった空白の一時間、そこで行われたアズサとセイアのやり取り。アズサがアリウスを裏切ってまで守りたかったものを。

 

「……そうですね」

 

 サクラコは手元の用紙から目を離し先生へ向き直ると、また二人の間に緊張が戻る──が次の瞬間には霧散した。

 

「とにかく白洲アズサさん……彼女がトリニティに転校してきて、そして実際にナギサさんを守り抜いた。そのことは明白です。更にその過程で様々なことがあったとはいえ、特別学力試験にも合格。補習授業部は彼女を含めて全員、明確な結果を残しています」

 

 怜悧なサクラコが柔らかく微笑む。

 

「文句の付けようなど無いでしょう……彼女の書類は、私が正式な物にしておきます。もちろんそれはシスターフッドが保証しましょう。誰にも、異議申し立てなどさせません」

 

「……ありがとうございます、サクラコさん!」

 

「本当にありがとう」

 

 ホっと胸をなでおろす先生。ハナコは既に知ってはいたが、改めてサクラコへ礼をする。

 こうしてアズサはシスターフッドの助力もあり、正式にトリニティの生徒として迎え入れられ堂々と門を歩くことができるようになった。

 

「そして桐藤ナズサさん、彼女の処遇も決定しました」

 

 サクラコは続けてもう一人──ナズサの名前を出す。しかしその笑みを崩すことはなかった。

 

「ナズサさんはミカさんの計画に加担さえしてはいましたが……この事件の被害者であった補習授業部への献身的なサポート、アリウス生徒達の襲撃からナギサさんや先生を守り、自らミカさんを止める為に尽力し、説得も心掛けていたところから随所に情状酌量の余地があると判断されました。それなりのペナルティを受けることにはなりますが、今後の学園生活に支障はきたさないでしょう」

 

「そっか……良かった」

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

「……ヒフミさん」

 

「こんにちは、ヒフミ先輩」

 

「ナズサちゃん……元気そうで良かったです。な、ナギサ様は……少し痩せられましたか? だ、大丈夫ですか?」

 

 例のテラスへ招待され、出迎えた二人の姉妹にヒフミは若干の困惑をしていた。

 一般の生徒ならばティーパーティーの茶会に招待される事自体が稀有であり、緊張や戸惑いを覚えることはおかしくない。

 

 しかしヒフミはこうした機会が初めてではない。

 

 にも関わらず反応に困っている理由……それは珍しく制服ではなく給仕服を纏い、一切の無駄話をせず淡々と茶を淹れるナズサの姿。そして普段は威風凛然としているナギサが、まるで叱られた子供のように萎れ、眉毛は下がり琥珀色の瞳を震わせながらヒフミを見つめていた。

 

「……ヒフミさん、どうか謝らせてください」

 

 そうして沈痛な面持ちのまま切り出したナギサは──頭を下げた。

 

「私は、ヒフミさんのことを疑いました」

 

「えっ、あっ……」

 

「これまでヒフミさんが理不尽に負った傷を考えると、私はこの場で紅茶をかけられたとしても何も言えません」

 

 全ては誤解であり、ナギサもまた騙されていた被害者でもあった。

 だが、だとしても親愛なる友人を追い詰めた事実は変わらず、そんな己をナギサは許せる訳もなく……こうしてケジメの一つとして謝罪の場を設けた。

 

「ヒフミさんが、水着姿の犯罪者集団のリーダーだなんて……私はどうして、そんなことを……」

 

 神妙な顔付きのまま突如として出てきた“真実”に肩が跳ねるヒフミ。

 確かにナギサが行ったことは非道な過ちではあるが、これに関しては純然たる真実である。

 

 しかしそんなことをナギサが知る筈も無く……どんどんと自分を追い込んでいくナギサの姿は少々気の毒なものであり、更には言えばヒフミはナギサを許すどころか、恨んですらいない。

 

 ……余談ではあるが、妹の方が肩をプルプルと震わせている事に、二人が気付くことはなかった。

 

「私を許してくださいとは言いません……許されるとも、思っていません。ですが──」

 

「そ、その、ナギサ様。私は大丈夫と言いますか……も、もちろん大変な時もありましたが……何よりもまず先に、これだけはお伝えさせてください」

 

 ナギサにはそんな顔はしてほしくないと、ヒフミは遮るように切り出す。

 

「私はナギサ様を憎んだりなんて、そんなこと考えたこともありません。ですからどうか、これ以上は謝らないでください……」

 

 優しいヒフミらしい──優しすぎる、それと同時にヒフミの併せ持つ強さが垣間見える言葉だった。

 

「……私だったらきっと、許せなかったと思います。ヒフミさんは、どうして……」

 

「ど、『どうして』と言われましても、何ででしょうね……? あ、()()()……」

 

 その強さを本人は自覚していないが。

 

 

 一方、ヒフミの一言一句を噛み締めるように瞼を閉じるナギサ。

 

 そんなヒフミの慈愛が詰まった言葉の中に一つ、あの晩を想起させるものがあった。

 

 

「(あはは……)」

 

 

 襲撃者を前にニッコリと微笑んだナズサ、ハナコからの伝言にあったあの笑い。

 

 

 

『あはは……えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ』

 

 

 

 全てを操っていたボス、阿慈谷ヒフミ。

 数少ない友人とのかけがえのない時間を楽しんでいたのは自分だけ。彼女はそれを『ごっこ』と呼び、穏やかな笑みの裏側で弄ばれていた。

 

 

 

 

 

「ごふっ! ごほっ、けほっけほっ!」

 

「な、ナギサ様……!?」

 

 もちろん誤解である。しかしハナコのささやかな仕返しは、ナギサの脳へしっかりと刻みこまれ(トラウマ)ていた。

 

「けほっ、けほっ……こほん。いえ、その、お気になさらず……」

 

 涼しい顔に切り替える早さは流石ティーパーティーというべきか。……片手に携えているティーカップは、ガタガタと音を鳴らしているが。

 

「クッ……ククク……」

 

「ナズサちゃん!? 大丈夫? お、お腹痛いんですか?」

 

 ナギサが吹いた茶を、有無も言わせない熟達のスピードで拭いていたナズサが突如として蹲る。

 

「ブフッ、あ、あの、ちょっと……すみません、お手洗いにいってきます……」

 

 そのままヒフミとナギサが声をかける間もなく、速やかに退出するナズサだった。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

「といったことがあったみたいです。……誤解はもう解いたのですが、少しやり過ぎてしまったみたいですね……」

 

 まさかここまでとは……と苦笑しながら若干反省するハナコ。先生にはナギサのメンタルケアという新たな仕事が降って湧いたのだった。

 

 先生への報告事項を済ませたサクラコとマリーは、シスターフッドとしての通常業務に戻る為部屋を退出し、部屋に残された先生は同じく残ったハナコから近況報告を受けていた。

 

「そういえばナギサさんは、どうやら他の方にも直接頭を下げに行っていたらしいです。私も謝られました、酷いことをしてしまった……と」

 

 やはり根は優しく真面目なのだろう。だからこそ疑心暗鬼の闇に囚われてしまったのだから。そしてそれも少しずつ抜け出せつつある。

 

「にしても……そういったところを見ると、やっぱり姉妹なんだなって感じますね」

 

 それはまだナズサに具体的な処罰を下される前……一時的に地下室に拘束されていたナズサに、補習授業部一同で面会した時のことだった。

 開口一番に「ごめんなさい」と泣きながら謝罪し、更に第3次特別学力試験の結果──全員合格という最高の報告を受けたナズサは、「良かった」「ごめんなさい」の二つしか喋らないマシーンと化していた。

 

「……私、やっぱりまだ何かあるんじゃないかなって思っているんです。ナズサちゃんが裏切るだなんて……」

 

 取り調べに曰く、ナズサはゲヘナが憎くミカと結託してエデン条約を阻止しようと企んでいたらしい。

 

 しかしハナコも先生も、このナズサの動機は嘘なのではないかと睨んでいる。

 もしもそこまでゲヘナを憎んでいたならば、美食研究会と邂逅した際にもっと怒っていたはずだ。しかし拘束された彼女達には好意的に接し、あまつさえゲヘナの生徒であるにも関わらず打ち解けていた。

 

「……先生はミカさんの動機に関してはどう思いますか?」

 

 ミカに関しても……正直に言うとまだ深くは関わっていないから断言は出来ないが、本当にゲヘナが憎くて……それこそ友達であったセイアと親友であるナズサの姉であり、幼馴染のナギサを殺そうとしたとは思えない。

 

 それに──

 

 

『ナズちゃんは何も知らない!!』

 

『ナズちゃんは私に騙されたの!』

 

 

 涙目になりながら叫んでいたミカ。

 それは明らかにナズサを庇うような言動であり、先生はそれがずっと引っ掛かっていた。もしかしたらナズサは……いやミカも本来は巻き込まれてしまった立場なのではないか。

 そこに今回の事件の発端が隠れている。そんな気がしてならない。

 

 

 とにかく問題はまだ山積みであり、全ては解決していない。

 

 取り敢えずナズサに会いに行こう。

 個人的にも彼女には聞きたいことがあるのだから。

 

 

 

 

 





感想、評価、誤字脱字報告ありがとうございます。

最近諸事情が重なり執筆出来ていませんでした、すみません。
久しぶりの投稿がほとんど原作の書き起こしで申し訳なく候。でもどうして必要だったんや……実はこれが難しくて筆が止まっていたのは内緒。

でもあたい……止まらへんから!ヘイローに誓います!ナギサ様の脳を破壊するまで、絶対に!止まるんじゃねぇぞ……。




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