前話のジュースを買った後のやり取りを少し加筆しました。
短い内容ですが結構大事なので一読して頂けると幸いです。
あと最後にアンケートがあるので良ければ答えてください。
黄昏の斜陽が降り注ぐトリニティの敷地に、一つの影が伸びていく。
「……この先ですね」
再確認するように呟く。厳かさと柔らかさを含んだ声音。胡散臭いとも言える。
整然と漆黒のスーツとネクタイ、相反する純白のシャツを着こなし、コツコツと心地良い革靴の音を鳴らしているのは──右目にあたる部分が銀色に輝きながら燃え盛り、そこから顔全体へ亀裂が走っている。更に口と思われる部分も同様にひび割れ銀色の耀が覗き、その形は微笑みにも嘲笑にも見え……着服する黒よりも闇い長身のマネキンであった。
彼の名は『黒服』
……と言ってもこの名は彼が自称しているだけに過ぎず、それが本名なのか否かは彼のみぞ知るが……便宜上として、更に彼自身もこの名を気に入っている為、本名など些事でしかない。
重要なのは黒服が先生と同じキヴォトス外から到来したヘイローを持たない“大人”であり、ゲマトリアのメンバーであること。
そんな彼が──二足歩行の犬や猫型の人やロボット達が闊歩するキヴォトスでも類を見ない様相、そして先生以外の大人である彼が学生達の花園に乗り込んだ暁には、どんな目で見られ何が起こるかなど、言うまでもないだろう。
しかしこの場に彼を咎めるどころか、正義実現委員会に通報する者も、奇異の視線を浴びせる者すら誰一人として居なかった。
時刻は時計の短針と長針が対極に位置する夕暮れ時。平日であれど年頃の学生達にはまだまだ遊び足りない時間帯。
黒服は不自然な程に人が払われたメインストリートを抜け、この広すぎる学園のとある一郭へと進んでいく。
トリニティ総合学園の膨大な敷地には、まるで城のように聳え立つ本校舎は当然のこと、シスターフッドの大聖堂や校舎にも劣らない部室会館。数々の伝統の品が並ぶ美術館や音楽堂、天井まで届く膨大な数の書棚が立ち並ぶ古書館と様々な設備が整っている。
そして学生が英気を養うには必須の──校外にある店にも負けず劣らずのクオリティを提供する売店。
昼休みなどには店内には勿論、備え付けられたテラス席や、巨大な噴水を一望できるベンチなどで、昼食を頂くのがこの学校の生徒達の日常だ。
それは昼休みだけに限らず、放課後に雑談の場として利用されることも少なくない。
が、あらゆる売店が立ち並ぶそこには、たった一人の少女しか存在していなかった。
サイドに二つ、シュシュで自慢の清廉なブロンドヘアを団子にし。なにか作業をしていたのだろうか?猛暑日だった今日には合わない
「お! きたきた~」
そんな活発さの化身のような少女は、黒服を認識するやいなやその端正な顔に花を咲かせ、琥珀色の瞳を輝かせながらぶんぶんと大きく腕を振っていた。
それはまるでデートの待ち合わせ場所に訪れた恋人を迎え入れるような無邪気さで────
(クックック……やはり貴方は歪んでますね……)
黒服の好奇心を満たし、そして頭痛を加速させるには十分すぎるものだった。
「こうしてお会いするのは初めてですね」
「はい。噂はかねがね聞いております」
無事に少女──桐藤ナズサと合流出来た黒服。
軽い挨拶を済ませ、そのまま立って話すのもなんだと言いあるスイーツ店のテラス席に腰を掛け向かい合った。
片や黒いスーツの長身のマネキン、片やキヴォトスの花の女子高生。
状況だけ見れば、仲睦まじくデートをしているとギリギリ言えなくもない。
「改めまして。桐藤ナズサさん、私のことはどうか『黒服』とお呼びください」
「わかりました、じゃあ黒服さんで……あの~因みになんですがコレって本当に大丈夫なんですよね?」
「勿論です。現在の私達の会合は誰一人として“観測”出来ません」
今宵の話し合い場を設けたのは黒服だった。
ナズサの都合に合わせて自分の使えるあらゆる手段で隙を、死角を生成することで校内に堂々と侵入し二人きりになれる状況を作り出した。
ただここに至るまで果てしない労力がかかっており、普通ならばあまりにもコストに釣り合っていない。
「それに万が一露呈してしまった場合、文字通り私の首が飛びかねないので」
ナズサの心配をクックックッと他人事のように笑う黒服。それは自信の裏返しであった。
ゲマトリア間で結ばれている不可侵の掟。
黒服が現在行っている事案はこれに反する行為であり、しかも相手はあのベアトリーチェ。更にそんな彼女が最近
だからこそ、たった一度の密会に見合わないコストを掛けたのだ。
それだけの価値と
「そっか……良かった。実は私も一度黒服さんとお会いしてみたかったんです!」
ニコリと微笑むナズサを滴る汗。しかしそれは不衛生とは真逆の──彼女を彩るパーツに過ぎず、その姿はたとえ同性であっても思わず目を見張ってしまう程に扇情的だ。
しかし、彼女の背景を知っている黒服だからこそ、その笑みはとても不気味に見えた。
何故“大人”である自分に対してそんな顔を向けられるのか。何故あれだけ忌避していた肌の露出を、自分に限って余すところなく魅せているのか。
「でも取り敢えず! 黒服さんのお話とやらをお伺いたいです!」
ちらりと、勘づかれないように机上に置かれているナズサの腕を盗み見る。
夥しい。一般人ならば思わず目を背けたくなる、手首から二の腕にかけてまでの様々な“痕”。それは表面に現れているものだけでなく、彼女の華奢な身体全体に広がっている。
「では早速ですが……単刀直入に申し上げると、桐藤ナズサさん。私と契約を結びませんか?」
***
ゲマトリアは互いの目的や利害が一致すれば、時に他のメンバーが保有する能力や技術を利用することもある。
勿論黒服とベアトリーチェも例に漏れず。特にここ最近はベアトリーチェの計画が本格的に動き出したことで、顔を合わせることも度々あった。
そんなある日、ベアトリーチェからある話が持ち掛けられた。
しかしソレは今までと一線を画す荒唐無稽……無謀とも受け取れるものであり、流石の黒服も苦言を呈した。
確かに理論上は可能とされている。しかしソレに耐え得る肉体と精神は存在せず、実行したならば崩壊してしまうのが常であると。
貴重な生徒を……神秘を無駄に犠牲者にしてしまうだけだと。
「勿論分かり切っています。ですがそれが唯の有象無象ではなく、“ロイヤルブラッド”ならば?」
耳を疑った。
ロイヤルブラッドは彼女の計画に必須であり、この神秘が満ちて蔓延するキヴォトスに於いても指折りの存在だ。
しかも黒服がベアトリーチェに協力したのは、そのロイヤルブラッドが来たる儀式までの安全と保険の為であり、今までの行動と矛盾しているのだ。
そんないきなりの方針転換に困惑する黒服だったが、どうやらそれはベアトリーチェの期待通りの反応であったようで、愉快そうに笑いながらわざとらしくとぼけた。
「あぁ、言ってませんでしたね。実はもう一人、新たなロイヤルブラッドを入手したのですよ。なのでその子は贄としてではなく、兵器として運用しようかと」
驚いた。
それは新たなロイヤルブラッドを手中に収めたことでもあるが、一番はそれが彼女の領地でありアリウスの生徒ではなく、トリニティの──現役の生徒会の肉親であると。
正直疑問……いや、疑念はあった。
しかし続けたベアトリーチェの言葉に黒服は──黒服だからこそ頷く以外の選択肢は無かった。
「安心してください。サンプルなら
喜色満面に意気揚々と出された提案に、使い潰すという彼女の割り切りには同調は出来ないものの、黒服はそれを自覚しながらも釣られることとなった。
「まぁ“アレ”に耐えきった彼女なら潰れはしないでしょうが」
ただベアトリーチェの小さな呟きが僅かに引っ掛かっていた。
数日後、約束通りサンプルは届いた。それもオーダーした量より遥かに
そのことに思うところが無かった訳でもないが、彼もまたゲマトリア。
同情しつつも今まで入手困難だった宝を前に、高揚し逸る気持ちを抑えながら検証を開始した。
それがパンドラの箱であると理解するのに時間はかからなかった。
桐藤ナズサ。
資料に記載されていた過酷な実験を耐え切る神秘と精神力、生徒会の血を引くキヴォトスの中でも稀有な存在。
更にベアトリーチェは濁していたが、あれは懐刀として仕立て上げるつもりだ。
あの傲岸不遜な彼女が子どもを
興味は確かにあった。
だがそれだけの理由では不可侵の掟を破るまでには至らない。
そう、今回の密会へと踏み出す決め手となったものがある。
ベアトリーチェから渡された皮膚や血液、髄液、唾液等のサンプルを徹底的に調べ上げた先で待ち受けていたもの。
桐藤ナズサのデータを映すモニターを前に、黒服は誰に聞かせる訳でもなく独り呟いた。
「ベアトリーチェ、貴方は己が
震えているのは掻き立てられる研究者としての興味か。
桐藤ナズサの存在は──その魂は酷く歪んでおり、その在り方はキヴォトスではなく“外側”から来たモノである。
外の存在。
それはキヴォトスに置いても一際目立つ存在であり、例として先生やゲマトリアが当たる。
しかし彼女の場合は少々語弊がある。
同じ“外”であっても大きな違い。
キヴォトスという箱庭の外界ではなく。
桐藤ナズサの持つ外の意味は──別宇宙、別次元、またはパラレルワールドといった類だった。
実在はするが観測は決して出来ない外側。
つまりは桐藤ナズサは、我々ゲマトリアがいずれ打破すべき『狂気』その一端でもある。
外の存在といっても、それがキヴォトスにどのような影響を齎すかはその後の当人次第だ。
しかし彼女は──彼女達は違う。
神秘と奇跡の絶妙なバランスの上で成り立っているこの世界で、存在するだけで全てを滅ぼすに値する力を秘めている。
勿論最初は信じられなかった。
何より矛盾点が多すぎる。
まず第一に奴らは自らこの世界を観測し、干渉出来ない。正確には可能であるが、それは砂漠の中から一本の針を見つけるようなもの。
次に奴らは解釈されず、理解されず、疎通されずが基本的な本質であり──だが今のナズサはどうか?そんなものとは無縁の生徒になっている。
そうだ、生徒だ。
桐藤ナズサは生徒として、神秘と恐怖を兼ね備えている。
不可思議、不可解な──反転とも違う現象。
それらから考えられることは一つだった。
桐藤ナズサはなんらかの要因で外側からキヴォトスに漂着した。そして本来ならばそのまま世界を滅ぼす厄災と成っている筈だったのだが、それは違った。
何を思ったのか、どのような理論を用いてなのか全くもって不明だが、キヴォトスという箱庭に自身が生徒として変質することで適応し共存したのだ。
研究者としてこれ程敗北的に感じ、好奇心と興味を唆られる事はないだろう。
だがまだ掟を破るまでには至らない。
トドメとなった決め手。
それはナズサがベアトリーチェの実験台として──崇高への試作として利用していたのだ。
黒服はそこで初めてベアトリーチェの計画の全貌を察知した。
“色彩”
ソレもまた外側の存在であり、神秘を恐怖へと反転させる性質を持つ。
ベアトリーチェはソレを利用することで崇高へと辿り着けると考えたらしい。
それはまだいい。彼女の計画に口出しすることはしない。
だが桐藤ナズサと色彩の接触、これは看過することは出来なかった。
元外側の存在からキヴォトスの生徒として在り方を歪曲、そこにまた別の外側の狂気──それもキヴォトスの生徒の特効とも言える色彩のトッピング。
目には目を歯には歯を、狂気には狂気を。蠱毒、闇鍋……もはや桐藤ナズサに相応しい表現は残っていなかった。
もはや規模はキヴォトスだけに留まらない。
この星すらも破壊し尽くすに足る地雷と化していた。
***
「つまり私を助ける為にスカウトに来たと?」
相変わらず眼を輝かせたままのナズサが、小首を傾げ黒服が話した内容を纏める。
「はい、もちろん貴方の大切な人はしっかりと保護させて貰いますよ。それも貴方の管理下で」
────しかしナズサは今にも暴発する地雷かと問われれば、そうでは無いのも事実だった。
更にナズサの力は余りにも唯一無二であった。余りにも歪であり、尚も適応し続ける彼女だからこそ可能な荒業。
通すべき筋を倫理を因果を理を、改竄し上書きし捻じ曲げ破り正面から堂々と突き通す。なんなら新たなレールすらも造ることが可能。
確かに悪と言えるだろう。ありとあらゆる姑息な手段を用いてルールの穴を掻い潜り、純朴な少女達を騙し誑かし陥れるそれは邪道であり非道だろう。
ただそれは
何よりもここ最近ナズサの行動を監視し、ベアトリーチェに付き従う理由を詮索した結果。どうやら本人は自身が何者であり、何を秘めているのか自覚していないようだった。
故に見極める必要があった。
桐藤ナズサは我々、ひいてはキヴォトスにおいての災禍となるか、それとも福音となるのかを。
そしてあわよくば────
「それに貴方の身体はかなり危険な状態です。このまま進み続ければいずれは命さえも失ってしまう可能性があります」
「まぁ私の身体のこと私以上に知ってますもんね!」
「…………」
ここ笑うところですよ。と全く笑えないブラックジョークを笑顔で飛ばすナズサ。そこを突かれると少々耳が痛い。
だがこのまま進めば命を落とす。それは決して嘘ではなかった。
不眠不休で馬車馬の如く働く彼女を
勿論唯の栄養剤などではなく、いわばドーピングのようなものである。
それを過剰な──ただでさえ歪な彼女へ腕に痕が残る程接種しているが、現状彼女の身体に大きな異常は見当たらない。
ただしこのまま続けていけば、いずれ命の危険を伴う“可能性”は確かにあるのだ。それにナズサの身体が別の意味で“危険”なことに変わりはなく、嘘は決して言っていない。
軽い脅しに近いもの。
しかしナズサが紡いだ言葉は思惑に反したものだった。
「ごめんなさい。お言葉は嬉しいですが丁重にお断りさせてもらいます」
「……理由をお聞きしても?」
ナズサの返答に黒服は眼……と思われる部分を細める。
「……これはとっても大切なことなんですが黒服さん、貴方は大きな勘違いをしています」
「勘違い?」
まさかの言葉に思わずオウム返しをする黒服。
それに頷いたナズサは人差し指を立てた。
「私は……現状がさいっっっこうに愉しくて満足しているんですよ」
瞬間、鳥肌が総毛立った。
突如として、これまでのナズサが見せてきた無邪気な笑みとは一変。ニタァと表現するのが正しい、愉悦と喜悦と邪悪に満ちた笑みへ切り替わる。
「はい……?」
「
大好きなこの世界。
その妙な言い回しの意味を反芻した黒服は、自身がとんでもない思い違いをしており、最悪の事態であることを悟った。
桐藤ナズサは己の存在を自覚し理解していた。
「あらゆる神秘があって、あらゆる奇跡があって、あらゆる愛があって、あらゆる青春があって、あらゆる感情があって……」
ゆっくりと、しかし嫌に耳に残り、着実に蝕んでいく語りから始まった。
「シャーレが連邦生徒会がアビドスがトリニティがゲヘナがミレニアムがアリウスが山海経が百鬼夜行がレッドウィンターがSRTがヴァルキューレがクロノスがゲマトリアがヘルメット団がカイザーが土が風が海が空が宙があって!!!」
ヒートアップしてくナズサは両手で身を抱き抱え震え始める。その眼は既に焦点が合っておらず、昏い狂気が渦巻いていた。
「隣にはお姉ちゃんが! 大好きなナギサ様とミカが居て! フヒッ、ふふふ、あははははは!! 大好きで、大好きな、大好きなんですよォ!! この世界に生まれて幸せで幸せで幸せで……」
成程。と本性を現し始めたナズサに臆することなく観察していた黒服は、彼女の根本……その狂気の一端を理解する。
外側の存在でありながら色彩とは違いこのキヴォトスという箱庭を、愛おしく想っている。それが少々強すぎるだけで、ただ在るだけで破滅に導くようなものではない。
「ですがこのままでは、恐らく貴方はそれらを全て失い、二度とその眼で視ることが叶わなくなりますよ」
ならばまだ彼女の手を取れる道筋が残っている。
しかし一拍置いて続けたナズサに、黒服は彼女が所詮は狂気であると
「……でもね黒服さん、私が一番見たいのはね」
それこそが彼女の本質であった。
「冷静沈着で厳然としていて優雅な仕草から近寄りがたくて、器用な筈なのに不器用な面もあって、そして厳しくもとっても優しくて美麗で清廉な大好きなお姉ちゃんがね」
「埃と曇天と炎が舞う青春とはかけ離れた絶望の谷へぶち落とされて、裏切られて、砂煙と涙でぐちゃぐちゃに歪めた大好きなお姉ちゃんのご尊顔なんです」
ばさばさと両翼を激しく扇ぐ音が、けたたましく響く。ねっとりとした口調で
「──っあはっ! ふひひ、フヒュ……はぁはぁ……」
「──────」
絶句。
声が出てこないとは正にこの事だった。
世界の美しさと尊さを、大好きな人を理解し語っておきながら、それら全てを壊したい絶望させたいという酷く歪で醜悪な精神破綻さ。
挙句の果てそれらに性的興奮を覚え、語りだけで眼前に人が居るのにも関わらず
いっそベアトリーチェへ同情の念すら湧いてきた。
彼女もまさか自分の計画が、こんな願望の為に利用されているなど露程にも思っていないだろう。
「………………」
少々気が落ち着いたのか、身を抱えたまま顔をテーブルへと俯かせたまま固まるナズサ。
そんな姿に黒服は完全に取引を諦めていた。
本人が言った通り『現状を愉しみ、満足している』のだ。本能で動いてる現在のナズサは梃子でも動かない。
更に厄介なのがナズサは現在、本質たる狂気を哀れな姉へ向けているが、それがいつかはこのキヴォトス全体へと向けていく可能性が大いにある。
つまりナズサに対する対応策を早急に講じる必要性が出てきた。この神秘が溢れる箱庭を我々は失う訳にはいかない。
────確かにこのままでは彼女は厄災のままであっただろう。きっと黒服とも袂を分けていた。
しかし忘れてはならない。
同時に桐藤ナズサはキヴォトスの生徒でもあることを。
「そして信じているんです、先生を」
唐突に、キヴォトスにおいても、黒服にとっても特別な意味を持つその名称が飛び出る。
(まさか、先生も狂愛の対象に……!?)
身構える黒服だったが、それは杞憂に終わった。
「先生、ですか?」
恐る恐る、なるべく刺激しないよう穏便に尋ねる。
すると黒服の返事をどこか嬉しそうに受け取ったナズサは、先の邪悪さに満ちた様相とは一変。まるで恋焦がれる少女のように手を握り合わせた。
「……はい。地獄の真っ只中に放り込まれた全ての生徒たちを、我武者羅に突き進み、隣で励まし支え時に叱り、大切なものをがんがんと拾い上げ、汚泥の沼に囚われたら掬い上げ、臆し踏み出せないならば優しく送りだして、常に灯火として導きとなる」
噛み締めるように、想い人を謳うように。
「疑心、疑念、憤怒、怨嗟が跳梁跋扈する絶望の淵からでも生徒と心を通わせ、一緒に曇る昏き闇を切り開き、眼を覆う程の、しかして決して見離すことは出来ない透き通るような奇跡へ、ハッピーエンドへと昇華させていく
望んでいるのはハッピーエンド。
それも彼女の個人的な解釈としてではなく、キヴォトス全ての生徒たち、大切な姉である桐藤ナギサ、そして先生にとっての結末だった。
***
黒服はナズサを手中に収める目論見は破棄し、また敵対する意思も消え失せ──彼女の行く末を見届ける選択肢を取ることにした。
半分は先生へ寄せている一方通行の信頼から…………もう半分はナズサの“友達”として。
それは『今回持ち掛けた話は無かったことにしてください』と、ナズサとの交渉を切り上げ退散しようとした時のこと。
「あ、待ってくださいよォ……まだ私のお話を聞いてないじゃないですかぁ……」
興奮冷めやまらぬといった口調のまま、席を立とうとした黒服を引き留めたナズサ。
そういえばと、会合時のナズサの言葉を思い出し椅子に座り直しながら、失礼しました、と一言置いて『それで一体どのような?』と尋ねると、ナズサは身を乗り出し右手を差し出してきた。
「私と、友達になってくれませんか?」
ただただ純粋な好意、一周回って最初に見せていた無邪気な笑顔が帰ってきた。
友達……ともだち。
勿論言葉の意味としては知っている。しかしナズサの言っている意味が分からない。どうしてこの流れでそうなるのかと。
「今更なんですが、貴方達生徒から見て私がどのような存在かご存知ですよね?」
「はい」
即答。
だが決して適当な返事ではない。彼女は正しく理解している。何せ目の前で大人の餌食となっている子どもを見ているのだから。
「だからなんですか?」
そして切って捨ててみせた。
「ええそうでしょう。きっとこの世界では先生が
侮辱とも受け取れるナズサの言葉。しかし黒服は不快感を覚えるどころか、彼──ゴルコンダと似ている
「それが友達になってはいけない理由であると? そんなもの、私にとってはわだかまりにすらなりません」
理解していて尚も変わらず、友好を深めたいと、屈託のない見惚れてしまいそうなほどに美しい笑顔で、隣人と手を取り合うように手を差し伸べる。
「それに私たち、一つ共通点があるじゃないですか」
「共通点?」
年相応の得意げな表情になり、悪戯をしかける子どものように黒服の眼前へ迫った。
「暁のホルス」
「────」
小鳥遊ホシノを冠する二つ名。しかし現在そう呼んでいるのは黒服だけであり、しかも一切の関わりを持たないナズサが何故それを知っている。
「──に纏わる事件で……さっき語ったモノ──黒服さんも直接見る……どころか体験しましたよね? そして見入ってしまった。先生の“輝き”を」
そこでナズサに抱えていた違和感が腑に落ちた。
どうして彼女はあそこまで先生を信じられるのか。まだ先生が秘めている力を視ていない筈の彼女が。
「……桐藤ナズサさん、貴方は一体どこまで
黒服が問いた瞬間、世界がやけに静かになった。風が囁く音のみが場を支配する。
「……私には絶対に許せないものが三つあります」
するとナズサは突然立ち上がり、呑気に伸びをしてから口を開き始めた。
「一つはこの
「一つは百合の間に挟まる男」
「最後の一つは────」
夕陽を背景に蠱惑的に口端を吊り上げ、口元に人差し指を立てる。
「ネ タ バ レ です」
「あぁ、やはり貴方はどうしようもなく歪んでいる……」
少女は全てを識り、狂愛している。
そこに善も悪も関係ない。
その豪胆さ──いっそ生意気とも言える傲慢さが、桐藤ナズサという存在だった。
ナズサ『あの〜今更ながら、どうかこの事は内密に……」
黒服「クックックッ、勿論です。”友達”の夢を邪魔する不粋な真似は致しません」
ナズサ「黒服……!」
評価、感想、ブグマ、誤字脱字報告ありがとうございます。
なんかどんどん存在しない記憶見てる人増えてない?大丈夫?もしかしてこの小説ってそういったヤバい作用でもあるの?
tip!
ナズサはタイトルコール時、『ブルア……ブルーアーカイブ!』と略称を言いかけている。
『それなりに楽しかったですよ、ナギサ様との姉妹ごっこ』の言い方に関してなのですが自分の中でも、恐らく感想欄の中でもヒフミの伝言()みたいに『あはは……(後略』と静かに名乗り上げるのと、『あはは!!(後略』と狂ったように思いっきし大爆笑しながらの告白の二つに別れていると思うんですよ。
自分も悩んでいて一応両パターンとも思い浮かんではいるんですが、良かったら皆さんはどっち派かアンケートでお答えください。
P.S.あくまでも参考なのでご了承ください。
X-Dayのセリフ、あなたはどっち派?
-
前略)ごっこ……派
-
前略)ごっこォ!派
-
どちらでも構わん派