ナギサ様の脳を破壊し隊   作:あみたいと

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肥大化する爆弾

 

 

 

 慟哭と少女が闇夜へと溶けていって幾許か。膝を付いて涙を零していた少女も立ち上がり去った時。

 

「フヒュ……いやまさかここにも立ち会えるなんて思ってもみなかったよ」

 

 純白と漆黒が現れた。

 

 恍惚とした笑みを湛えて身体を身震いさせるのは、エデン条約を大混乱に陥らせた要因の一端を担う裏切り者。片や控えるように一歩後ろで、変わらぬ罅割れた銀色の炎を湛えて様子を伺うゲマトリアに所属する悪の大人。

 性別も体格も立場も年齢も、何もかもがアンバランスな二人組は、アズサとヒフミからすれ違うように高架橋に降り立つ。

 

「あぁ良い! 凄く良いよ!! 人殺しの道へ進む覚悟を決めたアズサ先輩がヒフミ先輩に出会えた感謝の言葉と今生の別れを送る。ヒフミ先輩も本当は止めたかったんだよね。でもこれまで見せたことなかったアズサ先輩の『人殺しの顔』を見て足が竦んじゃって頼みの綱である先生も正実もシスターフッドもみーんなボロボロで……」

 

 今この瞬間までヒフミが座っていた場所に近づくと――あくまでも近づくのみで、決して触れることはなく――経典を読み上げるかの如く、読点付けずに一切噛むことなく捲し立てるナズサの語り、それを粛々と浴びる黒服。

 

 それはもはや様式美と化しているものだった。

 

 ……実を言うと流石の黒服でも若干辟易してはいた。

 誤解されないように補足しておくと黒服には決してナズサのような加虐趣味は無い。ただ自身の崇高の為に手段を選ばないだけであり目的ではなく、それが要因で先生とも敵対関係にあるだけだ。

 

 だがこれは一種のガス抜きに近い行為であり、万が一にもナズサが暴走しない為の必要事項だと自負していた。

 

 そう、元を辿れば黒服にも要因がある。

 独りで完結できていたナズサに接触を図り、奇しくも彼女の本能を暴き立ててしまい、計らずともその夢という名の欲望を語らう相手になってしまった友達。

 

 一度でも孤独を離れたら、人は耐えることができない。

 

 勿論当てはまらない例外も存在するが、ナズサがそれであると決め付けるのは楽観視が過ぎている、リスク管理をしておくに越したことはない。

 

 それはある意味では――“大人の責任”のようなものなのかもしれない。

 

 だが決して義務感などだけではなく、好意に近いものを持って彼女と行動を共にしているのもまた確かだった。忘れてはならないが彼女の邪悪な部分だけでなく、現役の女子高生としての面も確とあり何気ない会話はコロコロと変わる表情も相まって、ナズサとの会話には好感触を覚えていた。

 

 何よりキヴォトスを箱庭と認識し解釈し、透き通る程に不純で純粋に此方(ゲマトリア)の話題に興味を示す生徒の存在は何にも代えがたい。

 

「しかし……この流れは良くないのでは?」

 

 震えるナズサを余所に、闇夜に途切れている高架橋の先を黒服は見つめる。

 それはアズサが進んでいった人殺しの行き着く先――どう足掻いてもナズサが忌み嫌うバッドエンドに他ならない。

 

 はっきり言い切ってしまえば、彼女達の結末など黒服には微塵も関係のないことであり、更に言うならば黒服のその言葉は質問というよりも確信を得るための確認に近いものだった。

 

「それは大丈夫!」

 

 そんな黒服の思惑通り、邪悪な笑みを深めていたナズサが純朴に瞳を輝かせて振り向いた。

 

「理由をお尋ねしても? ……いえそれは――」

ネタバレ、だよ?」

 

 黒服の言葉に底冷えする声振で被せた瞬間、突如としてナギサ様の脳を破壊し隊――が点々と顕現する。

 奈落へ落下、吸い込まれていく錯覚を覚える根源的な恐怖心を煽る顔面、白と橙のツートンカラーで構成された聖徒会だったモノ。

 

 そして輝く――純朴な光とはまた別の、邪悪な黒が幾重にも重なることで放たれる光を宿した()()()()

 

 それが意味することはただ一つ……今のナズサは仮面を外していた。

 あの仮面は色々と多機能かつ高性能だが、一番の目的はプラグインの役割を持つこと。

 

 と言っても誰でも使えばETOやミメシスに干渉出来る訳ではないが――兎も角としてあれが無ければ、例え片手で数える程度であれど彼女達を召喚することは不可能。

 にも関わらず彼女達は現れた、それが意味することは――

 

「まぁまぁ、全ては明日になれば分かるよ!」

 

 僅かばかりの沈黙の後、ニコリとナズサが微笑み瞳に琥珀色が戻る。すると彼女達もほろほろと崩れるように霧散していく、それにナズサは気にかける様子……そもそもナギサ様の脳を破壊し隊を召喚していたことに自覚すらしていなかった。

 

「だから古聖堂周りの……そうだな、唯一崩れてなかったクソデカ電光看板があるビルの屋上に集合ね! 期限は雨が晴れるまで! 絶対に来てよ!?」

 

 そんなこんなであれよあれよと約束が取り付けられ、『んじゃオレは場所確保しとくんで』と言い残してナズサは去っていった。

 ポツンと高架橋に残された黒服はくつくつと沸いてくる笑いを抑える。

 

「変わらず嵐のような友達ですね……それにしても」

 

 新たな疑問と懸念事項が湧くも一つ確信を得た。

 

 桐藤ナズサは未来を識っている。

 

『暁のホルス』を把握していた件に関して、当初は圧倒的な情報網を保有していると加味して尋ねた『どこまで識っているのか』という質問、それに対して彼女は“ネタバレ”と答えた。

 あの時妙に噛み合っていないように感じたのは、ナズサが質問の意図を間違えていたのだろう。自分が行った計画と目的をどれだけ知っているのか?という質問ではなく、どこまで()のことを知っているのか。

 

 そして今の『見れるとは思っていなかった』との発言と、『雨が晴れるまでに集合』という妙に具体的かつ曖昧な時間、そしてナズサが過信とも言えるソレを持っていることに関して、少し()()をかけた質問に……予想通り『ネタバレ』と返した。

 

 やけにナズサを気に入っていることが腑に落ちた。恐らくベアトリーチェはナズサのこの能力を既知しているだろう。

 

 まぁただナズサの秘密を暴いたからと言って、これを利用してナズサに何もする訳ではない。これは単なる好奇心で暴いただけで、ゲマトリア(研究者)としての性のようなものだ。

 

 だけども――――

 

「クックックッ……ベアトリーチェには教えて、友達である私に対して隠してるなんて、少し妬けてしまいますね」

 

 久しく覚えていなかった感情と、大人げなく思い付いた()()()()に心底面白可笑しく笑う黒服だった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「チェックメイトだ、アズサ」

 

 ぱらぱらと、舞った埃に囲まれた中で口端の血を拭いながらも睨み続けるアズサを冷たい銃口と視線が見下ろす。

 

 サオリとアズサの間には実力差がある。体格差の有無だけでなく、射撃術、体術、格闘術にそれぞれ程度はあれど明確な差があった。

 更には相手は4人……最悪それ以上の5人の可能性があり、まともに正面から挑めば古聖堂の二の舞になることは言わずもがな。

 

 勿論そんなことはアズサ自身が重々承知している。

 サオリ達の拠点に忍び込み、ブービートラップを始めとしたあらゆる罠を設置。サオリ達が帰還した際に先手を仕掛け狙撃手であるヒヨリを落とす。次に上階に仕掛けた手榴弾を起爆することで崩落させ、ミサキ達の身動きを取れなくする。

 

 そうしてサオリと1vs1の状況へ持ち込み、罠を張り巡らせたエリアへと誘い、屋内の柱などの遮蔽物を駆使した戦闘を繰り広げた。

 しかしアズサに銃器の取り扱い方などの戦闘の基礎から応用、思考はサオリが教え込んだもの。彼女の戦術は手に取るように分かり切っており、遥かなアドバンテージだった。

 

 よってアズサの全ての抵抗は……最初から無駄で無意味に――

 

「いつからアリウスは巡航ミサイルやあんな不思議な力、『ヘイローを壊す爆弾』なんて物を……?」

 

 アズサの眼光がより鋭くなっていく。

 

「いつからナズサと……!」

 

 恐らくは時間稼ぎであるとサオリは読み切っていた。

 だが良い機会だとして、ここでアズサを徹底的に否定して、潰すことを目的にその企みに乗った。

 

「アズサ、どうしてお前が勝てないのか分かるか?――――弱いからだ」

 

 殺意の有無。それさえあれば道具は関係ない。重要なのは意志だけ。

 全ては虐げられてきた“恨み”を証明する()()でしかない。

 

 道具、何もかも道具に過ぎないんだ。

 そう口にした時と同時に過る。

 

 本当?

 その声はどこからか、足を引っ張るように――

 

「いつから?」

「……!?」

 

 サオリの肩が跳ねる。

 そう、いつから。

 

「もう一度聞く、『いつから』だ? その恨み、私はただあそこで『習った』だけだ……その恨みは、一体誰の――」

虚しい(うるさい)

 

 アズサの言葉を遮るように引き金を引く。

 

「弱いな、白洲アズサ。その弱さがお前を縛り付けているんだ」

 

 これは弱さ。弱さなんだと。

 いつまでも縋り付き、意地でも抵抗するその姿勢が虚しいと。

 

「そう、こんな状況でも離そうとしないその人形のように」

 

 サオリが見やる大切に抱えている少し奇怪なキャラ物の人形。

 そんな取ってくだらない物がアズサにとっての(希望)、それがトリニティで過ごした連中との■しかった大切な思い出――私はそれを知っている。知っている?

 

 マスクの下、サオリの顔が誰にも……本人すらも気付くことなく歪んでいく。

 

 

 アズサはトリニティで沢山の■せを得た。

 

 

 そんなものは存在しない。これはただの弱さだ。

 

 

 本当?

 

 

『くヒュッ……ははは! アハハハハ!!』

 

 

 どうしてこうなってしまったのか、今まで決して浮かべなかった問いが過った。

 

「虚しい」

 

 撃つ、撃つ。

 

虚しい(認めない)虚しい(認めない)虚しい(認めない)虚しい(認めない)虚しい(認めない)虚しい(認めない)虚しい(認めない)虚しい(認めない)虚しい(認めない)虚しい(認めない)

 

 マズルフラッシュが眩く度に過る彼女の姿。

 

「虚しい虚しい虚しい虚しい虚しい虚しい虚しい虚しい虚しい虚しい」

 

 1マガジン分を撃ち終え、大量の薬莢が転がる音と硝煙が漂う。

 そこまで撃ちこみ、痛みに喘ぎながらもアズサの闘志は揺るがない。アズサは終ぞ、意地の強さを魅せつけて屈することはなかった。

 

 ならば――

 

「友情……その無駄で虚しいものから壊してやろう。たしかヒフミ。だったか?」

 

 退くことは許されないサオリにある選択肢は一つだった。

 

「…………」

 

 とそこへ、駆け付けたアツコがサオリに手を添えた。

 手話も言葉も用いず、仮面越しではあるもののアツコの感情――心配、不安、そして悲しみ。

 

「姫。心配しなくても、手加減してる。こいつのことならよく分かって――」

 

 サオリは最後の感情には目を瞑り、アツコに言い聞かせようとした時。

 懐に忍ばせていた手榴弾を起爆しアズサが逃走を図った。

 

 勿論逃がす訳にはいかないと、サオリもその後を追いかけて煙の中を突き進む……が、すぐに足を止めた。

 

「……まぁ良い、どうせまたあいつはやって来る」

「……?」

 

 何かを拾い上げ確信を持って呟くサオリに首を傾げたアツコが近付くと、その手には少しだけ煤で汚れているアズサがずっと抱えていたあの人形があった。

 

「なにせ大事な『友情の証』を落としていってしまったからな。あいつは必ずこれを取り戻しに来るだろう」

「…………」

「こんな……こんなつまらない物が、アズサの心を支える光なんだろう」

 

 手にした人形に対して忌々し気に言葉を並び立てるサオリだったが、アツコにはその眼にサオリ自身も自覚できていない感情があるように見えた。

 

「また捕まえた時に、あらためてこの世界の真実を教えてやる……そう、無理やりにでも」

 

 ――ピッ、ピッ

 

 その時だ。

 

 薬莢が転がる音でも、手榴弾の爆発によって崩れる建物の音でもない。

 等間隔に鳴る機械音の存在に気付く。音源に耳を澄ませば目の前の……手のひらの中からだった。

 

「何だ? 中に……」

 

 ナイフを取り出し人形へとあてがう。……その一瞬、僅かだがサオリの手が止まったのをアツコは見逃さなかった。

 繊維を破き綿を取り除くと、何か固い物にぶつかった。

 

 ――ピッ、ピッ

 

 ケータイ電話が粘着テープによって巻き付けられ、そこから伸びる赤と緑の配線。

 紛れもなく爆弾であった。

 

 だがこれは――

 

「これはセイア襲撃の時に渡した……!」

 

 ヘイローを破壊する爆弾。

 

 

「逃げろ、姫っ――――」

 

 

 

 ***

 

 

 

 曇天から降りつける雨は人殺しを成し遂げた者への祝福のシャワーなのか、今朝までの青き空はその顔を見せることはない。

 

「…………」

 

 トリニティ、古聖堂跡地。その路地裏にアズサは蹲る。

 爆発音を背に聞き届けてからのアズサの記憶は曖昧で、何故、どうやってここまで辿り着いたのか覚えていない。いや、そんなことなどどうでもいい。

 

 ただ在るのは、残ったのは『人殺し』という圧倒的な絶望だけ。もう二度とあの光へと帰れない絶望だけ。

 

「ごめん、ヒフミ……ごめん」

 

 

 

 

 虚空に消えていくように思えたその言葉は――届けられる。

 

 夢を通して見ているかの人(先生)へ。

 

 

 





アニメのOPにナズサが映り込んでいたの気が付きました?

https://x.com/takaharu_RH/status/1777162435704877220

という素晴らしい幻覚が顕現した絵を書いて頂いたので見てください!!


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