短めです
既に日を跨いだ深夜であるにも関わらず、トリニティ総合学園は灯りが燈ったまま。夜が更けた学内に沢山の生徒が集まっている様は、特別感と高揚感を覚えてもおかしなことではないが、この場に居合わせる生徒達にはそんな楽しむ余裕などは無い。
コハルを連れてハナコと合流を果たした先生は、その後ヒフミと落ち合い――怪我人の搬送が完了し、学園内でも人が捌けて落ち着きがある校門付近で彼女達は揃っていた。
一人でも空白ができてしまっては補習授業部とは呼べない――彼女達の表情は、沈痛なものとなっておりこの面々では珍しい沈黙が流れる。
いつだって率先して最初に動き、みんなを纏め上げて引っ張ってきたのは補習授業部の部長であるヒフミだった。そして今回だって……心苦しくも彼女が沈黙を破る。
「先生、アズサちゃんが……居場所が違うんだって、言われて。こんな大変なことになってしまって……でも私、なにもできなくて……」
宵闇に溶けていくヒフミの言葉。
それは普通を自称しながらもそこはかとなくも確かな力強さを持ち合わせて、何度もみんなを助けて前向きな心持ちにさせてくれたものではなく、ただ一人の……路頭に迷う普通の高校生が絞り出したものだった。
「それにナズサちゃんが……自分のせいだって……」
ぽつりぽつりと尻すぼみになりながら、たどたどしくもはっきりと飛び出た予想外の人物の名前に、真っ先に反応したのはコハルだった。
「どうして、ナズサが出てくるの……!?」
しかしコハルに投げられた疑問はヒフミ自身も抱えているもの。ヒフミの困った表情を見て察したコハルは、そのまま先生へ困惑と不安、そして助けを求める視線を送る。
彼女達には知る権利と必要性があることを重々承知している先生は、僅かばかり渋い顔になりながらもゆっくりと口を開き始めた。
「な、ナズサが裏切り者だったなんて……」
そうしてあの場所で起きた真相の一部始終を、憶測などは極力排除し先生は告げた。
それに対してやっぱり一番に大きく反応を示したのはコハルで、決して少なくない時間を過ごした友達の裏切りに信じられないと頭ごなしに否定しようとするも、同様に時間を共にして助けてくれた先生の真剣な声音と眼差しに飲み込まざるを得なかった。
「やっぱり、そうだったんですね……」
アズサの言葉とあの悲壮に満ちた表情から推測ができてしまっていたものの、外れていて欲しいと願っていたヒフミの表情はより沈んでいく。
そしてハナコは動揺を表に大きく出すことはなくとも――ナズサに何か裏があることは前々から予想が付いており、先生とも何度かその話をしたことはあった。アリウスと組んで条約に襲撃をかけるまでは流石に読めなくとも、ある程度の事態が起こるだろうと覚悟は出来ていた。
だからこそ……それまでにもっとナズサと話をするべきだったと、これまで一度も抱えたことのない類の後悔が過る。何より目の前で沈痛な表情を浮かべている友達に対して、どんな風に言葉を掛ければいいのか迷い……僅かな、けれど確かな怯えを抱えていた。
「……それなら! なおさら放っておけないじゃない!」
友達が悩んでいるなら、苦しんでいるなら助ける。正義実現委員会のエリートであるコハルにとって、それは至極当然のこと。
だけど今、それが当たり前にできるのは何よりも代えがたい才能だった。
「わ、私は知ってる……ひとりでいることとか、置いていかれることとか……それが凄く悲しいことだって!」
だからアズサをひとりにさせることなんて出来ないと言い切り、ヒフミ達を見据える瞳は揺らぐことなく、小さな体躯はほんの少しだけ縮こまりながらも震えは無い。
「ここまでヒフミがずっと引っ張って、頑張ってくれた。勿論みんなの努力があってこそだけど、それでもヒフミが自分達の目指すものを諦めなかったから」
そしてまた、生徒が踏み出そうと動き出したのならば、それを助けるのは先生として当たり前のこと。
『だから……えっと』と、気持ちが先に溢れて上手く言語化に困っているコハルを助ける形で、先生は柔らかく微笑む。
「そ、そうよ! 私は頑張った。でもその陰で、あんたがたくさんの面倒なこととか、部長として色んな事をしてくれたのも……そのおかげで頑張れたのも、ちゃんと知ってる!」
その二人の姿に――コハル自身はヒフミを励ますつもりであったが、意図せずとも確かにもう一人の少女……また孤独の路頭へ迷い込み始めていたハナコを掬い上げていた。
「そうなんですよ。ヒフミちゃんが諦めずにいてくれたから、私も今こうしてここに居られるんです」
そう口にしつつ、こっそりコハルと先生……ここに居ないアズサとナズサを見やり笑みが浮かぶハナコ。それはこの補習授業部に出会ってから
「コハルちゃん、ハナコちゃん……」
「だから大丈夫。どうしても分からない時は私もいるからさ、今はダメだとしても一緒に悩んで、相談して、解決しよう」
先生もずっと伝えたかった言葉――
「……ありがとうございます」
ずれていたペロロバッグの肩紐をかけ直し、顔を上げる。
そこには補習授業部の部長であり、“自称”平凡な高校生のヒフミが帰ってきていた。
そんなヒフミの様子に一安心し、満足そうに頷く一同。既にこれ以上の言葉も憂いも不要だった。
「私もちゃんと学びました。諦めません。いつまでも悩みません」
一度目を瞑り、逡巡する。
煌びやかでとても楽しかった数週間の合宿を。初めて出来た自分の大好きを共有できる友達のことを。そしてこの先にもっと沢山訪れて、学び、体験する大切な日々を。
「アズサちゃんとナズサちゃんを、助けにいきます」
再び瞳を広げて、みんなが――
「では、みんなで行きましょうか」
「う、うん! それにナズサが裏切り者なら……理由とか、きっと訳があってそれは全然分からないけど……だからこそ絶対にとっ捕まえて反省させるんだから!」
「はい。アズサちゃんに会って今度こそ……」
「「言いたいことは、伝えないとですね?(だね?)」」
見事綺麗にハモったハナコと先生。すると一瞬ぱちくりと互いに目を合わせ、軽く吹き出した。
ここで少し「相思相愛ですね♥」とか「繋がっちゃいましたね♥」とか、からかいたくなる衝動に襲われたハナコだったが、今回ばかりは自重して先生の言葉に耳を傾ける。
「友達でも、生徒でも……言わないと伝わらないからね」
「……はい! 今度こそ、はっきり言ってみせます……!」
そうして彼女達は出立した。
調印の場にして戦場、曇天降り注ぐ古聖堂へと。
正直前話にここまで入れるべきでした……めちゃ短くてすみません。
次回