皆様方、ご機嫌よう。
先程は取り乱してしまい、お見苦しい所をお見せました。少しばかり、すこーしだけ感情の整理と言いますか、ちょっと混乱して失態を晒してしまい申し訳ありません。
……いやね?違うんスよ。
そもそも俺はあそこでフェードアウトするつもりだったけど――ちょっと癖が出ちゃって。
確かにあの時はテンション上がって視野が狭くなってた。
でも仕方なくない?
ナギサ様のご尊顔はもちろん、ヒフアズの鉄橋での別れ、そして覆面水着団からの……ちなみにアビドスの面子はあそこで初めて見れたんだよ!遠目からだったけどみんな超可愛かった。
あ、そういやまだ柴関ラーメン行けてない……老後には必ず行かなくては。
あと余談だけどおじさんってやっぱエグいわ。
こうしてキヴォトス人として、それなりに戦闘とかも経験した上で、生で拝むことにより実感したけど隙が無い。さすが、キヴォトスでも最強の話になると話題に挙がるだけある。
……野暮だけどヒナとどっちが強いんだろう?
ちょっと話が逸れたけど、こうして変わった流れからのブルアカ宣言!からの晴れ渡る青空!これを見たかったんだぁ……。
うん、やっぱこのコンボずるいよ。こんなの喰らったら幸せドーパミンどばどばになるのは火を見るよりも明らかってやつでしょ。
んで、そうして正に絶頂の只中にね、前にも言ったけど“気付いて”しまった先生の表情というか、感情の蠢きというか、そういった一面を拝めるチャンスが訪れたとあらば……。
ちょっかい出しちゃうのが性ってもんでしょうよ!
でも、まぁ、うん。これを悪癖って言うんだろうね。少しおいたが過ぎたと言うべきか、まさか先生があんなに……いや、なんでもない。
というか!そもそも黒服は何処に行ったの!?黒服の前だから躊躇う事無く感涙して、思いの丈をぶちまけてたのにいきなり先生が後ろに居たし。
学校で先生のことをお母さんって言っちゃった時みたいな恥ずかしさだったんですけど!?
次黒服に会ったら絶対に問い詰めてやる。
そうしてちょいとトラブルはありつつも、色々見たかったこと、やりたかったことリストを一気に消化した訳ですが。
ご褒美が終わったらまた仕事ですよ、仕事。
ビジネスパートナー兼ご主人様、ベアトリーチェお姉様からの命――ロイヤルブラッド、秤アツコの回収。
本当に人使いが荒い。でも私はあくまでベアトリーチェの従順な僕……否、道具ですからね、致し方ありません。
ユスティナ聖徒会とはまた別枠である存在、私が独立させた私兵も手に入れて、ロイヤルブラッドの力も使い崇高に至る。
これら全てが完遂すれば確かにキヴォトスでもトップの戦力を得ることが出来るでしょう。
完遂出来たらの話ですがね。
あ、勿論俺は決して手を抜いたりなどはしませんよ?ベアトリーチェお姉様の為に全力を尽くしますとも。
……だって俺程度の存在で“結末”が変わることなどありえませんし。
まぁちょっと、先生の件だけが気掛かりというか、警戒すべきですが、俺がやることはただ一つ。
あ~、早くミカちゃんとサオリちゃんがしのぎを削り、感情を吐露しあってぶつかり合う姿がみてぇなぁ!
***
エデン条約襲撃という二大学園に修復不可能な傷を負わせかねない重大事件の解決への糸口は、奇しくもトリニティとゲヘナの協力だった。
勿論そこには補習授業部やアビドス対策委員会、そしてシャーレの先生がこれまでキヴォトスを跨いで紡いだものがあったからこそのものだが。
紆余曲折ありつつも確かにあの時の両校は、歩み寄れていた。
兎にも角にも峠は越したことになる。
となれば次に待ち受けるのはあらゆる雑務の山々達だった。
「その書類はこちらに置いておいてください。あとで目を通しますので」
話が少し逸れるがキヴォトスでも屈指の歴史を誇るトリニティ総合学園、そのトップに立つという事には様々な意味と役割を持つ。
特殊な成り立ちからなる組織の管理、他学園とのコミュニケーション、格式ある手本としての振る舞い。
多くがこの学園の校風による特有の悩みとなることがあるが、その中でもトップに立つ人間として他学園や企業と変わらない普遍的なものもある。
「これとこれは正義実現委員会へ、あ、ついでにこちらの書類を救護騎士団へお願いします」
捺印を押しても押しても振り続ける数々の書類の処理。それも今回のような事件の後では被害報告書から調査報告書、負傷者の報告書など、種類は多岐にわたりながら波のように押し寄せる書類達。
途方もなく感じるその量は、並の人ならば卒倒してしまっても不思議ではないもの。
「……」
淡々と的確に、そして素早く処理していく。嘆く暇どころか、その選択肢などありえない。
それもまた、古今東西問わず上に立つ人間へ求められる能力だ。
しかし。
その圧倒的な手腕はもはや彼女の日常業務の一環として些事に過ぎないことであり……今、普段通りとなんら変わりない姿は果てしなく異様な光景だった。
「……あ、あの、ナギサ様よろしいでしょうか」
強張りながらも、おずおずと小さく右手を挙げた一人のティーパーティーが前に出る。
重く漂う、正確には机に向かい今も作業の手を止めないナギサの姿は、しなやかで完成された仕草である筈なのに、それはまるで今までのくせとして染み付いた動作をただ切り貼って取り繕ったような気持ち悪さ。
そこに意志や感情が一切乗っていない、機械のような動作的に感じるもので、それを行っているのがリーダーとしての自覚と振る舞いを重んじつつも、親しい相手には確かに人間くさい――年相応の少女としての顔を持っているナギサだという違和感。
しかし万が一踏み込んだのならば……崩れる、いや壊れてしまいそうな、そんな誰にも触れさせないと言わんばかりの得も知れない圧は、厳正に職務に取り組む姿勢とは全く違うものだった。
「その……ミカ様からお手紙が届いてまして……」
差し出されたのはとてもティーパーティーのトップ同士の連絡に使われる代物とは思えない、無駄に可愛いデコレーションが施された一通の封筒。
それも当然。これはティーパーティーではなく、幼馴染――■の親友――からとしての手紙なのだから。
内容に至っては……やれテレビをもっと大きな物にしろだの、やれハンドクリームを補充してだの、相も変らぬ十何年来の付き合いの幼馴染そのもので――
「ミカさんのお食事は今後全てロールケーキだけで構いません」
半分呆れが混じった息を零しながらも、どこか安堵とも受け取れる笑みを浮かべて処分を下す様もまた、少々無邪気すぎるミカと……■■■を叱りつける定番となっている仕草だった。
何も映さない瞳孔だけを除けば。