ナギサ様の脳を破壊し隊   作:あみたいと

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補習授業部

 

 

 

「み、見てくださいナズサさん。この『学園制服特集』……色々な制服があるんですね……」

 

「なかなかに前衛的な服装もチラホラあるね……。このゲヘナの行政官の制服とかモロ横乳はみ出してるじゃん」

 

 キヴォトスはその膨大な土地の広さ故に、長年放置され手をつけられていない区画が多々ある。

 ここ、トリニティ自治区にひっそりと佇むとある廃墟もその一つ。人々の記憶からは忘れ去られた場所には、また人々から忘れ去られた人間が集っていた。

 

 アリウス分校の特殊部隊、アリウススクワッドのアジトである。

 ベアトリーチェによって育まれた、トリニティへの憎悪の炎を燃やす彼女達ではあるが。現在その根城からは、お菓子を食べながら机に雑誌を広げ、和気藹々と年相応の歓談が響いていた。

 

「……ナズサ、なぜお前がここにいる」

 

 リーダーである錠前サオリは、その弛んだ空気を払拭せんと、この場に居合わせる馬鹿(ナズサ)を睨みつける。そもそも本来ならば、敵同士の関係なのだ。馴れ合うつもりなど毛頭ない。

 

「ヒヨリちゃんが読みたがっていた雑誌を届けに。あと、お菓子とか飲み物も持ってきたよ」

 

「……はぁ…………」

 

 しかし、屈託のない笑顔で堂々と間抜けな回答を返されると、怒る気力も失せる。

 

「リ、リーダーも雑誌どうですか? 他にもキヴォトス最強和菓子特集とか、キヴォトス最強水着特集とか……」

 

「ヒヨリ……」

 

 完全に絆されたヒヨリを尻目に、どうしてこうなってしまったのか思い返す。

 

 

 突如マダムに協力者として紹介されたのは、あの日、聖園ミカと一緒にカタコンベを抜けて、自治区へやってきたもう1人の少女、桐藤ナズサだった。

 マダムには、ナズサはミカと違いエデン条約の作戦にも参加すること。アリウススクワッドの部隊以外には、作戦実行までナズサの存在を明かさないこと。ナズサもまた、生徒会長の血を引いており、アツコの負担を共有できること。そして、そこまでの信用に足る理由は明かせないが、私が保証する。と説明を受けた。しかし、そう簡単に信用など出来るわけがない。何か不審な動きなどしたら、ヘイローを破壊するのも辞さないつもりだった。

 

 しかし、そんなこっちの気を知ったことかと、ナズサはガンガンと距離を詰めてきた。

 

 いつの間にかアジトまで特定し、マダムから呼び出された帰りに必ず寄ってくる。

 最初は他のメンバーも警戒していたが、こいつの馬鹿さ加減と餌付けに陥落した。

 

 

「まぁ……勝手にさせとけば、リーダー。別に害は無いし、食料や飲料水はあればあるだけ損はない」

 

 部外者には一番厳しいと信じていたミサキも諦めており。

 

 (スッスッ……)

 

 アツコまでも「楽しそうだから、いいじゃない」と、マスク越しに見守っている。

 

「………………」

 

 何のメリットがあってナズサは協力しているのか、その理由はハッキリとしていない。確かに馬鹿ではあるが、聖園ミカ程にゲヘナを憎んでいる訳でもなく、古聖堂の襲撃の意味を理解していないわけでもない。それにアツコと同じ生徒会長の血を引いている……何か裏がある。それは全員が気付いていた。

 

 それでも――ただ仲良くしたい。一緒に喋りたい。対等の過去の蟠りを気にしないナズサの姿に嘘はなかった。

 

「サオリちゃんもどう? お姉ちゃんのこだわり抜いたお菓子、結構盗って……頂いてきたからさ!」

 

 vanitas vanitatum et omnia vanitas.

 全ては虚しい。どこまで行っても、全てはただ虚しいものだ。

 

 それが、大人から……マダムから教えられたこの世界の真実、摂理。

 

 

 ……そのはずなのに、今、この瞬間の。たとえ泡沫であっても。虚しいものでも。

 

「……甘い物は苦手だ……」

 

 この陽だまりと甘さを享受したいと、本当に思ってはいけないのだろうか?

 

 

 

 ***

 

 

 

 無事に先生がナギサ様からの依頼を承り、翌日である今日から補習授業部が始動することとなった。

 そんな記念すべき日、俺はこのキヴォトスでも1、2を争う程にバカデカい本校を疾走していた。

 

 どうも。初日から早速遅刻している補習授業部監督、桐藤ナズサです。

 

 いや、これには明確な理由があるので聞いて欲しい。

 今日のスケジュールは朝、ベアトリーチェお姉様の呼び出しに始まる最高のスタートだった。アリウススクワッドと軽く親睦を深め、その後急いで通学し通常通りの授業と、ナギサ様の給仕を兼任……までは良かった。問題は放課後、どっかの立て籠もり犯(アズサ)のせいで、面倒な事後処理の書類作業が待ち受けていた。

 

 ……完全に失念していた。あの日、副隊長(アズサ)は正義実現委員会を相手に、3時間に渡る攻防を繰り広げていたことを。

 

 こうやって尻拭いをする立場になって実感したことだが、キヴォトスの治安維持組織の職員は過労死しても全く不思議ではない。

 トリニティは他校と比べても、公共物の破壊など表立ったトラブルが少ないが、一歩外に出るとあら大変。

 いつの時代だとツッコミたくなる絡まれ方をされる治安、揉め事に発展すれば銃火器、戦車のオンパレードだ。そんなトラブルなど日常茶飯事のキヴォトスで、その度に動いている人がいるのだと思うと感謝してもしきれない。

 

 ですので、感謝しながら全力で正々堂々と真心を込めて古聖堂とナギサ様の脳を破壊する。と、ここで改めて決意します。

 

 

 そんな地獄をなんとか処理しきり、やっとこさ部室へと向かえていた。

 

 本当は、先生とヒフミ元帥と一緒にメンバー集めに参加したかったが仕方ない。自己紹介までには間に合わせなければ。

 

 そして、副隊長には一言…………。

 

 ――あれ? ナズサ様じゃない?

 ――おーい、ナズサ~。なに急いでるの?

 ――また何かやらかしてナギサ様から逃げ出した?

 ――流石、トリニティの2大問題児。

 

「いやいや! 今回に関しては完全に被害者だから!」

 

 すれ違う生徒から次々と飛んでくる野次を捌く。

 一応従者とはいえ敬われてもいい地位なんだが? まぁ俺自身が立場などは一切気にせず接しているので構わないが。

 

 ……うん。でも言われて今までの行動を振り返れば、確かに俺には責める資格なかったわ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ナギサから渡された名簿と、補習授業部の部長に指名されたヒフミを頼りに、補習授業部の部員を見つけ出した先生は、補習授業部の部室として割り当てられた教室に集めた。

 何故か水着になっているハナコを制服に着換えさせたり、教室で立てこもりを計画するガスマスクを装着したアズサを引き留めたりと、ひと悶着はあったが無事に軽い自己紹介を済ませ、この部が発足された理由……3回ある特別学力試験に全員で合格することで、落第を防ぐ救済措置であること。それまで放課後はこの教室で勉強する旨を説明した。

 

 心当たりはあるのか、納得の表情を浮かべている各々だったが、1人頑なに現実を認めない少女がいた。

 

「つまり私は今まで、本当の実力を隠してたってこと!!」

 

 レベルの高い上の学年のテストを受けたから落第しただけ。そう豪語する彼女の名は下江コハル。補習授業部唯一の1年生であり正義実現委員会のメンバー。コハルは、その誇りの高さゆえ事実から目を逸らし、この空間に居ることが恥だと感じていた。

 

「今度のテストはちゃんと、1年生用のテストを受けるから! そうすればちゃんと優秀な成績を収めてはい終わりってわけ。分かる?」

 

「えっと、個人で優秀な成績を出したとしても、それでこの部を卒業できるわけではなくって……」

 

 先程の説明を聞いていなかったのか……不安を覚えるヒフミは意にも介さず、コハルは羅列する。

 

「じゃあね、精々頑張って!」

 

 そして勝利の宣言をしたコハルは、そのまま堂々と真っ直ぐに扉へ向かい……。

 

「すみません、遅れました!」

 

「あいたっ!?」

 

 颯爽と扉を開いた闖入者によってその道は阻まれた。

 

「いたた……」

 

「あ、ごめん。大丈夫?」

 

 なにしてんの!? と、文句の1つでも口に出そうとしたが、素直に謝罪し手を差し出された事で、根は真面目であるコハルの怒りは沈み……。

 

「は!? ナズサ!?」

 

「およ? コハルちゃん。ひさしぶり」

 

 桐藤ナズサ。

 次期ティーパーティー候補で現ティーパーティー桐藤ナギサの妹。それはコハルの友達であり、積年の相手だった。

 

「ん? コハルちゃん? もしかして何処か痛めた?」

 

「………………」

 

 コハルは俯いたまま動かない。それもその筈、コハルの灰色の脳細胞は今、急激に活性化し1つの疑問を解いていた。

 

 なぜナズサがこの教室に来たのか。

 

 間違えて入室した? いや違う。通常時この教室は使用されていない。そして、ナズサは開口一番に「遅れました」と、確かにそう言った。つまり補習授業部に呼び出されていた……。落第一歩手前の集まりに……。

 

 ふっ……っと、コハルが吹き出す。

 

「ははは! 落ちたものね! 桐藤ナズサ! 次期ティーパーティーとして恥ずかしくないの!?」

 

 差し出された手を払い除け、自身の立場は棚に上げ高笑い、水を得た魚の如くここぞとばかりに煽る。

 

「それに遅刻だなんて。危機感はないの? ナズサ”様”?」

 

 積年の恨み果たしたり。そう言わんばかりに胸を張り、腰に手を当てながらドヤ顔を見せつけ、勝利の甘美に浸るコハル。

 

「………………」

 

 ナズサは反論する素振りをみせずにただ俯くだけだった。

 

「彼女は一体何者なんだ?」

 

「桐藤ナズサさんって、あのティーパーティーの……」

 

「あぅ……あ、あのコハルちゃん。ナズサちゃんは……」

 

 ヒフミが止めようとするも、コハルは更にヒートアップし徐々に枷が外れていく。すると、やがて冗談のラインも緩んでしまい……つい、滅多に言わないことまで言ってしまう事故、なんてことは少なくないだろう。

 

「どう? 見下していた存在になるのは!? いい気味ね!」

 

 要領が悪く勉強は苦手で人見知りの自分と、問題ばかり起こしているけど将来有望で、周りからも慕われているナズサ。同い年に見せつけられる残酷な差。人見知りのコハルとも仲良くしてくれて、友達になってくれたナズサに秘かに感じていたコンプレックスを吐き出してしまった。

 

 

 ……言い過ぎた。

 

 ナズサは優劣など気にしない、誰にでも平等に接していてそれが嬉しかったのに……自分から壊すような真似を……。

 集まる視線と空気にコハルは、自分が何を言ってしまったか自覚するも既に後の祭り……。

 

「そんなこと絶対にしないよ、コハルちゃん」

 

 諭すように優しい声音が響く。

 全く動かずに俯いていた顔が上がり、その双眸は後悔で泣き出しそうになるコハルを捉えていた。

 

「見下してなんかいないよ。コハルちゃんは大切な友達なんだから……大好きだよ」

 

 そのままコハルの左手を、柔らかな両手で包み込んだ。

 

「は……は、はぁぁぁぁぁ!!? ななな、なに言ってるの!?」

 

 唐突に真っ直ぐな好意を臆面もなくぶつけられ、赤面したコハルの顔は茹でダコのように赤くなり、頭からは湯気を発していた。

 

「あら♡あらあらあらあら」

 

「?」

 

 黄色い声を上げるハナコ、その意味がイマイチ分からないアズサ、事の成り行きを見守る先生……。

 

「なにって、なにが?」

 

「す、好きって……」

 

「うん、好きだよ?」

 

「あ、あわわわわ……」

 

 そして、()()を察し顔面蒼白のヒフミは恐る恐る口を開いた。

 

「あ、あのコハルちゃん。その、実はですね……ナズサちゃんは補習授業部の部員ではなくて、監督として呼ばれたんです」

 

「……えっ? 監督?」

 

 突如降ってきた新情報をコハルの脳が理解を拒む。

 

「そう。先生をサポートして、みんなが勉強に取り組めるよう手助けするんだ」

 

「なっ……!?」

 

「それでねコハルちゃん……とっても大切なことなんだけどさ。私、好きな子はいぢめたくなるタチなんだ」

 

 と、コハルを優しく包み込んでいた両手がガッチリと握り締められる。

 

「へ? な、なにを言って」

 

「勉強、頑張ろうね……しっかりとその脳髄に叩き込んであげるから」

 

 先程の澄み渡り慈愛に満ちた瞳から一変、それは獲物を追い詰めた捕食者の眼をし、口端が僅かに吊り上がっていた。

 

「あぅぅ……ナズサちゃん、手加減してあげてね?」

 

 ヒフミはご愁傷様です。と、合掌し、ハナコはどこか尊いものを眺める視線を流し、アズサはナズサのオーラの緩急に感心していた。

 

「ご、ごめん悪かったからさ、そ、その、手を離して、いや……こ、怖い! は、離して! 助けて!」

 

 自分が一体何に火を付けマーキングされたのか、コハルは本能的に感じ取った。が、時すでに遅し。

 

 

 その後第一次特別学力試験までの一週間、めちゃくちゃ勉強した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一次特別学力試験

 

 

ヒフミ:72点
アズサ:32点
コハル:52点
ハナコ:2点

 

 

 

 

結果は不合格。補習授業部の合宿が決定した。

 

 

 






最終編第4章が更新されるので、次回は遅れるかもしれません。


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