ナギサ様の脳を破壊し隊   作:あみたいと

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4章ヨカッタ、ハヤクツヅキヨミタイ……
4章が良すぎたので筆が進みました。



それはとても貴い日々

 

 

 

 

 

 補習授業部学力強化合宿 1日目。

 

 結局、昨日はプールに水を張ったところで陽が落ちてしまったので、遊ぶことは出来なかったが充分に親睦を深めることは出来た補習授業部。

 ならば、次にやることは決まっている。1週間後に控える第二次特別学力試験へ向けて、みんなで協力して勉強に取り掛からなくてはならない。

 

「おはよう!」

 

 朝一番に挨拶を放つアズサ。その目はやる気に満ち満ちており歯磨き、シャワーを済ませ、バッチリ制服に着替え終わっていた。

 

「おはようございます、アズサちゃん。朝から元気ですね♡」

 

「おはよう。ハナコ先輩、アズサ先輩」

 

 しかし、返ってきた返事はアズサよりも早く身支度を済ましていたハナコと、本校から歩いてやってきたナズサだけだった。

 

「あうぅ……アズサちゃん……10分……あと10分だけ……」

 

「んん……もう朝……?」

 

 部長であるヒフミは一晩を越え、プレッシャーから解放されたのか、まだ疲れが溜まっていた様子。コハルの方は単純に朝が弱かった。

 

「?……ナズサ、なにをしているんだ?」

 

「ヒフミ先輩の寝顔を撮っています」

 

「いや、それは見れば分かるが……」

 

 機を逃さんとばかりに、いつの間にか取り出した一眼レフカメラで、悪びれる様子もなく堂々と盗撮を実行するナズサ。的外れな返事で誤魔化そうとするも、表情が読み取りにくいだけで、意外にも好奇心旺盛なアズサは簡単には逃がしてくれない。

 

「なんで撮っているんだ?」

 

 なんでなんで? 一体どういった目的が? と、その純粋無垢な眼で近づいてくるアズサに、ナズサはバツが悪そうに顔を顰める。

 

「あー……。みんなの活動を記録しようと思いまして! 思い出として振り返れるように……と」

 

「なるほど、確かにそれは大切だ」

 

「いいですねそれ。人気のない合宿所で行われた秘め事……その全てを余すことなく記録する……♪」

 

「ははは……」

 

 この写真を取引材料にして、ナギサに休暇を貰おうと企んでいることは、桐藤家の名に関わる問題なので黙っておくことにした。

 

「そ、それよりさ、コハルちゃん起こさなくていいの?」

 

「あ、そうだな。コハル、朝の支度を始めよう。まずはシャワーだ」

 

「ん……。え? ちょ、まって」

 

「あらあら、ふたりで仲良く洗いっこですか?」

 

 まだ寝ぼけまなこのコハルを引っ張り出し、シャワールームへ連行するアズサ。しばらくもしない内にコハルの悲鳴が木霊する。

 

「あら^~」

 

「良いですねー、裸の付き合い♡ ナズサちゃん、これも記録しないんですか?」

 

「……ハナコ先輩。それだけは許されない。あの園に自らの意思で立ち入る、それがどれだけ罪深いものか、貴女なら理解る筈だ」

 

「……じょ、冗談ですよー、あははは……」

 

 ちょっと揶揄うつもりだったが、目を濁らせ底冷えするトーンの返事が返ってきた。ハナコは底知れぬ深淵の一端を覗いてしまったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 その後朝食を済ませ、教室に集合した。

 

「みなさん! 聞いてください!」

 

 教壇に立ったヒフミは、この限られた一週間をどのように過ごすべきか説明をした。

 

 まずは、第二次特別学力試験を想定した模擬試験を行い、現状の実力を再認識。そして効率的に勉強する為のアプローチとして、1年生の試験であるアズサ&コハルを、ヒフミとハナコが勉強を教えることになった。ハナコに関しては元々1年生は成績が良かったので、何故現状に至ってしまったのか、その問題を一緒に模索していくことに。定期的に行う模擬試験は、先生とナズサが過去問から作ることになった。

 

 更に、良い成績を残せた人にはなんとご褒美まで用意したという。

 

 一同が期待に膨らむなか、ヒフミが自信満々にバッグから引き出したのは――――。

 

「良い成績を出せた方には、この『モモフレンズ』のグッズをプレゼントしちゃいます!」

 

「モモフレンズ……?」

 

「何それ?」

 

「……っ!!」

 

「でたわね」

 

 モモフレンズ。それはキヴォトスの一部のマニアに、絶大な支持を得ているファンシーキャラクターブランド。

 

 しかし、ハナコは街で見かけたことがあるかも? と要するに存在すら知らず、コハルに関しては完全に気味悪がっており、ヒフミの推しキャラクター「ペロロ様」に対して、卑猥な名前と辛辣な見解を示し、どちらも反応は微妙なものだった。

 

 だが忘れないでほしい。先程も言ったがモモフレンズの独特なキャラクターデザインは、人によっては深く心に突き刺さる魅力がある。

 

 そしてここに1人、運命の出会いを果たした少女がいた。

 

「アズサちゃん? どうしました?」

 

 無言で目を細めながら、ヒフミにゆらゆらと近づくアズサ。

 積み重なったモモフレンズ達の一歩手前までやってくると、フリーズしぷるぷると肩を震わせ――。

 

「か」

 

「か?」

 

「可愛い……!!!」

 

 補習授業部の活動が始まって以来、とびっきり一番の花を咲かせたアズサだった。

 

 

 

 見事にモモフレンズに見事喰いついたアズサに、一人?一匹?ずつ懇切丁寧にモモフレンズの詳細な説明をするヒフミ。

 

「この長いのは? イモリ……いや、キリン?首に巻いたら温かそうな……!」

 

「それはウェーブキャットさんです!いつもウェーブしてて――」

 

「これは? この小さいのは?」

 

「それはMr.ニコライさんです!いつも哲学的なことを言って――」

 

 最終的にアズサのモチベーションは爆上がりし、ヒフミは貴重なモモフレ仲間が出来てご満悦。正に一石二鳥だった。

 

「あら、何だかヒフミちゃんが楽しそうに、と言いますかお人形さんと同じような表情に……♡」

 

「モモフレ仲間ができて喜んでるのかな……?」

 

 その様子を微笑ましく見守るハナコと先生。

 

「あぁァァ……脳が……脳にっ!……満たされていくっ!」

 

「ちょっと……ナ、ナズサ!? 落ち着いて……!? いや、目が怖い!」

 

 頭を抱えて悶絶するナズサを必死に宥めるコハルに目を瞑れば、そこには透き通った光景が広がっていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 お見苦しい所をお見せしてすみません。桐藤ナズサです。

 

 

 ヒフアズか、ヒフナギか。どちら派なのかと聞かれたら、俺は躊躇うことなくその愚問を投げかけた者を殺す。

 

 ずっと訓練漬けの毎日で、普通の学生としての生活を知らなかったアズサ。しかし、トリニティに転入して補習授業部になり、そこで学ぶことの貴さと楽しさを。初めての友達を、共通の趣味を持ったアズヒフ。

 

 中々人に本音を打ち明けられず、その気品に満ちた所作から話しかけづらいと評されているナギサ様。そんな彼女にも、ヒフミが優しく包み込む様な姿勢とコミュ力で陥落させ、寵愛を受けることとなったヒフナギ。

 

 これらを比べること自体烏滸がましく、万死に値する。

 そこには、どちらも言葉に尽くせない、女の子の曇り顔とは別ベクトルの「崇高」があるのだ。

 

 ただ……少し個人的な話になってしまうんだが、俺は言わずもがなナギサ様が好きだ。だからちょっとだけ……ヒフミがアズサと仲良くしている様を見て、脳が破壊されるのを見てみたい気持ちがややある。いや、あるだけだよ?

 

 

 兎に角、2人の距離が更に縮まる要因になったモモフレンズとの出会い。

 俺はこの瞬間を見届けることが出来て幸せです。

 

 

 ただ、まだ終わりではない。今日はもう1つ目標としていたものが訪れる……。

 

 陽は既に傾き、時計の短針が6時を回った頃。それは起きた。

 

 コハルと同じ1年生の範囲を勉強していたアズサが、1つコハルにこの問題はどうしたらいいのか、と質問され見事解決した事が始まりだった。

 普段は教えを乞われる側になることが無かったコハルは、質問され、あまつさえ素直に感謝されたことで得意げになり、聞きたいことがあるなら何でも聞いて、と調子に乗ってしまった。

 

「コハル。この問題も教えて欲しい」

 

 結果、コハル自身も分からない問題を質問されることになった。さっきあれだけ大口を叩いたのに答えられないのは恥ずかしい。

 少し待って、とバッグから参考書を取り出そうとした時に、音もなく()は現れた。

 

「んしょっ」

 

「……? これは?」

 

 コハルが満面の笑みで取り出したのは――全体的にピンクを基調とし、男女が見つめ合う表紙。デカデカと右上に表記されたR-18のマーク。端的に言えばエロ本だった。

 

「この参考書に載っているのか?」

 

「うん。この参考――あれ?」

 

「エッチな本ですねぇ」

 

「この電子の時代に紙媒体とは趣があるなぁ」

 

 

 

 …………………………………………

 

 

 

「うわあぁぁぁぁぁっ!? な、なんでっ!?」

 

 赤面し光速でバッグにしまい込むも、時すでに遅し。

 

「コハルちゃん、それってエッチな本ですよね? まあある意味参考書かもしれませんが。隠しても無駄です、『R-18』ってバッチリ書いてありましたよ?」

 

 そんな可愛い(面白い)瞬間をハナコが見逃すわけなかった。ここぞとばかりに矢継ぎ早に舌を回す。

 

「ち、違う! 見間違い! とにかく違うから! 絶対に違う!!」

 

「私の目は誤魔化せませんよ、確実にアレなことをする本でした。それも結構ハードな……」

 

 

 はい。来ました。エロ本イベント。

 やっぱりむっつりじゃないですかやだー。本人はずっと押収品だと訴えていたけど、真相はどうなんですかねぇ?

 

 そうして2人が口争……まぁ勝敗は決しているが。それをこのまま見ているだけでも面白いが、折角この場に居合わせるならやることは決まってるよなぁ?

 

 その本の中身を、コハルの真髄をこの眼に焼き付ける。

 というわけで、早速ですがエロ本を少々拝借させて頂きます。

 

 

「……Oh」

 

「はっ!!?? ナズサ!? なに勝手に見てるのっっ!?」

 

 あぁ、取り上げられてしまった……。

 

「ナズサちゃん、どのような内容でした? 迅速かつ丁寧な説明をお願い致します!」

 

「あ、あああぁ……」

 

「世界は……広かった……」

 

「……っ!? ナ、ナズサちゃん!? 一体なにを見て……!? しっかりしてください!」

 

 

 意識がぼやける……声が遠くから聞こえる……俺は……なにを……。

 

 

 あぁ、そうだ。確かコハルのエロ本を読んで……。

 

 

 内容は……コハルの名誉を守る為に……墓場まで持っていきます。

 

 

 

 ***

 

 

 

 補習授業部学力強化合宿 2日目。

 

 

 先生はナズサに屋外プールへ連れられて来ていた。曰く「先生と会いたがっている人がいる」と。

 

「わあっ、水が入ってるー!」

 

 その待ち人は水面に反射する陽光へ当てられ、無邪気な声を上げていた。

 ティーパーティー、聖園ミカである。

 

「ミカちゃん、連れて来たよ」

 

「えへへ……ありがとう。こんにちは☆ 先生!」

 

「……お待たせ。用件を聞いても良いかな?」

 

 これは先生本人も気付いていないことだが、生徒の挨拶を返さずにすぐ話の本題に入ろうとする、というのはとても珍しいことで、どれだけミカのことを警戒しているのかを言外に語っていた。

 

「にしてもナギちゃん、ずいぶん入れ込んでいるみたいだねー。こんな施設まで貸し出しちゃって……ところで、合宿の方はどう? 遠いのを良いことに、何か楽しそうなことしてたりしてない? 例えばみんな水着でプールパーティーとか!」

 

「………………」

 

 明るくおちゃらけた性格で生粋のおしゃべり好きのミカは、話題を提供して先生の警戒を解こうとするも、逆効果のようだった。

 なにせこの場には、補習授業部の真実を知る人間しかいない。そこにこうして呼び出されたのは、ソレに関するものだと察した先生は、自分からは切り出さずミカの出方を窺う。

 

「……そこまで警戒されちゃうのは心外だなー。私こう見えても繊細で、傷つきやすいんだよ? ……ところでここ、食事とか大丈夫? ナズちゃんがいるから美味しい料理とか作ってもらってるだろうけど、ケーキとか紅茶とか送ろっか?」

 

「………………」

 

「……ふふっ、ごめんね? 先生もあんまり長い前置きは好みじゃないかな?」

 

 ここまで無視されると、さすがのミカでも引かざるを得ない。素直に本題に入った。

 

「先生、ナギちゃんから取引とか提案されなかった?」

 

「……取引?」

 

「例えば、そうだなぁ……『トリニティの裏切り者』を探して欲しいとか?」

 

 その言葉を聞き先程から一言も喋らないナズサを見る。

 ナズサは薄い笑みを貼り付けたまま、事の行く末を見守っている。

 

「その反応やっぱりかー、ナギちゃん相変わらずなんだから」

 

 話を続ける――ミカはナズサの監督役の意味を理解しているようだった。

 

「理由とか、目的とか、どうして補習授業部がこうしたメンバーで構成されてるのかとか、詳細なことはナギちゃん教えてくれなかった?」

 

 裏切り者に関するアレコレを聞いてくるが、先生は詳細など一切聞いていない。否、取引は断ったと。もちろんミカは問う、何故断ったのか。それに対し先生はハッキリと答えた。私の役目ではないから。と。

 

 その答えにミカは納得した。シャーレは本来トリニティと無縁の第三者の立場。トリニティが世界の中心の自分とは違う。

 

 ただ、それなら1つ疑問が残る。

 

「もしトリニティの味方じゃないんだとしたら……ゲヘナの味方? 連邦生徒会の味方? それとも、誰の味方でもない……とか?」

 

 少し意地悪な質問、一体どんな答えが返ってくるのか興味本位に。

 

「私は、生徒たちの味方だよ」

 

 それは真っ直ぐな想い、先生の信念だった。

 

「……そ、そっかー。それは予想外だったなぁ」

 

 何処か恥ずかしそうに頬を搔きながら、「ならさ」と、ミカはまたしても意地悪に聞く。

 

「先生は一応、私の味方でもある……って考えても良いのかな? 私も一応この立場とはいえ、生徒に変わりはないんだけど……」

 

「もちろん、ミカの味方でもあるよ」

 

 自信を持ち胸を張って言える。全ての生徒に分け隔てなく寄り添う、と。

 

「……わーお」

 

 興味本位から始まった問答は先生の圧勝だった。

 ただ敗北したとはいえ、それは陰惨なものではない。

 普段の爛漫さとは一転。目を見開き赤らめたまま固るミカの姿は、まるで運命の王子様と出会ったお姫様だった。

 

 

 

 ………………パシャリ。

 

 この場には似つかわしくないシャッター音が鳴り響く。

 その音でミカは引き戻され思い出した。この密会の場にはもう1人、親友が居ることを。

 

「……はっ!? ちょ、ナズちゃん!? なにニヤニヤしてるの!?」

 

「べっつにぃー……。いやー、ええものですなぁ、カメラ持って来て良かった良かった」

 

「ちょっと!?」

 

 長年の付き合いで気の置けない親友が、照れている顔を見たら――どの世界でも同じことが起こるだろう。そこまで難しいことではない。ただ普通と少し違ったのは、この少女はそれを既に予見し、用意周到に準備していたことだった。

 

「ちゃーんと撮れてるね。やっぱデジタルカメラは、スマホにはない良さがあるよねぇ」

 

「ナ、ナズちゃん!」

 

 だが、ナズサは忘れていた。先生は全ての生徒の味方であることを。それに自分も含まれて居ることを。

 

「ナズサも忘れないでほしい。私は君の味方でもあるからね」

 

「……お、おぉぉ」

 

 安全圏から引きずり降ろされ、狼狽えるナズサ。

 

 そのチャンスをミカは逃さなかった。

 

「ナズちゃんだって人のこと言えないじゃん! そのカメラ貸して! その顔、撮るから」

 

「や、やめろ離せ! 力じゃ勝てるわけないだろ!」

 

「……なにそれ? どういう意味かな? ナズちゃん?」

 

「そりゃもちろん……あ、待って、笑顔が怖い! た、助けて先生! 味方なんでしょ!?」

 

 ……それと同時にミカの味方でもある。これに関しては全面的にナズサが悪いので、助けは聞かなかったことにした。

 

 

 

 

 

 穏やかな時間はすぐに過ぎ去った。

 

 本題――その告げられた真実はどれも重く衝撃的なものばかりだった。

 

 

 百合園セイアがヘイローを破壊されたこと。

 

 ナギサが探している『裏切り者』は白洲アズサのこと。アズサはアリウス分校の生徒で、ミカがトリニティに転校させたこと。その理由は、アリウスとトリニティの希望の象徴になってほしかったからだという。そして先生にはアズサを守って欲しいと。

 

 更に真の裏切り者の可能性……ナギサがエデン条約を結ぶことで、強大な軍事力を手中に納めることが可能と語った。それを使って何をするか定かではないが……。

 

 因みにナズサはミカに協力していて、二重スパイのような役割だと明かされた。

 

 

 そして、ナギサを信じるか自分を信じるか。最終的な判断は先生に任せる。そう言い残してミカは去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 もしもあの時、先生がミカとの会話で抱いた僅かな()()()の正体にさえ気付けていれば、この後に待ち受ける最悪の事態は避けられたのかもしれない。

 

 

 

 ***

 

 

 

 学校を代表する立場になると校内に私室が与えられる。これはその一室で、ナギサが夕食後の一杯を嗜み、安らぎのひと時を過ごしていた時の出来事。

 

 

 部屋への自由入室を唯一許可しているナズサが、蹴破る勢いで扉を開く。

 

「おねーちゃん!」

 

 ナズサが猫なで声で『お姉ちゃん』と呼ぶときは、大抵何かを頼み込む時か後ろめたい何かを隠す時……それはナギサの経験則から判断できることだ。

 要するにろくなことではない。

 

「なに?」

 

「一週間の休暇が欲しいんだけどさぁ。補習授業部の合宿に付き合うため――」

 

「却下します」

 

 取り付く島もなかった。

 

「言ったでしょう? 付添人としての業務が優先と。そもそもナズサがどうしても監督をやりたいと嘆願してきたから、仕方なく配属したのですよ」

 

 全く何故分かり切っていることを……呆れながら茶菓子を放り込む。

 

 しかし、今回のナズサは一味違った。合宿になにがなんでも参加する為、()()()を用意していたのだ。

 

「そうと思ってね……お姉ちゃん、これ」

 

 テーブルに差し出されたのは1枚の紙切れ。

 

 何がしたいのやらと捲ると……。

 

 

 

 そこには、ヒフミがペロロ様人形を抱きしめている寝顔写真があった。

 

「っっっ!!!??」

 

 瞬間、ナギサに衝撃が走る。手に持つ紅茶の水面は波紋を浮かべ、額には汗が滲み出て、自慢の羽が忙しなく音を立てる。

 今まで数々の交渉、外交をこなしてきた自慢のポーカーフェイスが崩れ落ちた。

 

 これは……限りなく黒に近いグレーだ。

 ゴクリと唾を飲み込み写真とナズサを交互に見る。

 

 どうする? と、ナズサは静かに視線を送っていた。

 

「分かり、ました……」

 

「ふふっ、まいどあり~」

 

 それじゃ早速荷造りしてきまーす。と部屋を出ていくナズサ。

 

 

 ……しかし、ただで転ばないのが桐藤ナギサ。そこにはティーパーティー、そして姉としての矜持があった。

 

「ところで! 話が変わるんですが……」

 

 その言葉の強さは修羅場をくぐり抜けてきた鶴の一声。思わず背筋が伸び足が止まるナズサ。

 

「最近、やたらとストックしていた茶葉やお茶菓子が()()()()()()()んですよね……」

 

 場の流れが変わった。何かマズイ。

 そう察知した時には、既に逆転の攻勢は始まっていた。

 

「その無くなってしまった物の中にはですね、キヴォトス随一の職人様が作ったお茶菓子や、私が個人的に仕入れたこだわりの逸品もあって……。そうですね。どれも軽く10万はくだらないかと……?」

 

 心当たりがあり過ぎる。

 元々、こっそり拝借することは多々あった。だが、本当に少しだけだったのでお小言レベルで済んでいた。

 しかし、最近アリウススクワッドの為に……割とガッツリ盗んでいた。

 どうせ忙しいしバレていないだろう。と調子に乗っていたツケが回ってきた。

 

 

 昔聞いた言葉を思い出す。

 

 切り札は先に切った方の負け。

 

 ナギサは大人のカードに匹敵する、盤面そのものを逆転させる切り札(ジョーカー)を伏せていた。

 

 

 振り向かずにナギサを窺う。

 

 今なら水に流してあげますよ……ナギサの眼がそう語っていた。

 

 

「……これからも誠心誠意業務に努めさせて頂きます」

 

「えぇ、よろしくお願いしますね。ナズサ」

 

 勝利の美酒、ならぬ紅茶を戦利品と共に味わうナギサだった。

 

 

 





沢山の評価、感想、ブグマありがとうございます!本当に励みになります。


それで、存在しない記憶シリーズの感想を読んでいた時に、そういえばまだナズサの詳細なプロフィール書いてなかった。と今更思い出したのでゲーム風に書いてみました。



名前 桐藤ナズサ
年齢 15歳
身長 156cm
趣味 人の笑顔を見ること 写真撮影

武器 AR 固有武器 amo tÆ Â 元銃 FA-MAS G2


トリニティ総合学園所属、トリニティを構成している生徒連合「フィリウス」の次期リーダー候補。生徒会「ティーパーティー」であるナギサの妹で従者でもある。

いつも何かと問題を起こし、その度にナギサに叱られている様は、もはやトリニティの名物と化している。しかし、偏見や立場を一切気にしない振る舞いと、誰にでも平等に接する言動から人望は厚い。いつも校内を縦横無尽に走り回っており、彼女に話しかけられたら妙に高級なお菓子を貰えるらしい。


武器に関しては、自分の力では上手く描写出来ず、また元ネタの銃名を作品内で書いていいのか分からなかったので、ここに記載しておきます。

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