4章最高でした……OSTを早く聞きたいでござる。
今日も一日補習授業部の合宿活動が無事終了した。
早速合宿の成果は現れ始めており、コハルは遂に合格ラインである60点に到達し、アズサもあと一歩と言ったところだった。ハナコは一応前回から2倍の8点になった。……元が低すぎるのでまだまだだが。
途中シスターフッドのマリーが訪ねてきて、アズサが設置していたブービートラップに引っ掛かり、大爆発が起きたがキヴォトスにおいては些細なことだ。
完全な貰い事故を喰らったマリーの用はその爆発魔であり、煤塗れになりながら伝えられたのは、前にアズサが助けたイジメられていた生徒のお礼だった。
因みに補習授業部発足時にアズサが、正義実現委員会と3時間に渡る攻防戦を繰り広げていたのは、アズサに懲らしめられた犯人が報復として、嘘の情報を正義実現委員会に流したのが原因だった。それに対しアズサは、特に気にしていない様子で、寧ろどのようにしたらもっと道連れを増やせたのか、別の意味で反省していた。
それに――――
「いつまでも虐げられてるだけじゃダメ。それがたとえ虚しいことであっても、抵抗し続けることを止めるべきじゃない」
アズサが示したそれは少々手厳しいものであったが、何よりアズサ本人が大切にしている信念だった。
そして就寝時間の現在、先生に割り当てられた部屋にはヒフミ、ハナコ、そして先生の3人が密会(比喩)していた。
元々合宿が始まってから部長であり、部員の中で唯一補習授業部の真実を知っているヒフミとは、2人きりで話し合うことが多々あった。そして今回も相談したいことがある、と言われ待っていたのだが、いざノックが鳴りドアを開いた先には、もはや見慣れつつある水着姿のハナコがいた。
ただし、深夜にいきなり押しかけ、心構えをしていない状態での邂逅は流石に心臓に悪いが。
実はハナコもアズサのことで先生に相談があったらしい。そこに予定していたヒフミがタイミング悪く登場し、一種の修羅場になりかけた……というよりかは、ハナコが喜んで(?)仕立てあげようとした。
ハナコからの相談とは――アズサが毎晩何処かへ出かけているらしく、帰ってくるのも夜明けまでという生活が続いており、このままではいずれ倒れてしまう。事情は分からないがこのまま放っては置けない。というものだった。
ただ、そこでハナコが「試験も大切ですが、ただ落第というだけです。身体の健康と比べられるようなものではないと思いませんか?」その一言についヒフミは、落第だけじゃ済まされない、あと2回の試験が不合格だと退学になってしまう。と補習授業部の真実の一端を話してしまった。
ヒフミの暴露に最初は困惑していたハナコだったが、先生に補習授業部が特殊であり、退学がシャーレの力で可能であることを説明され納得した。そしてハナコは今まで本当の実力を隠していたことを謝罪し、これからの試験は真面目に取り組むと約束した。
更には卓越した自前の洞察力で補習授業部という存在を考察し、このシステムを作り上げたのはナギサであり、エデン条約を阻止せんとする者の容疑をかけられた集まりであることを見事に的中させた。
「……そうなると、ナズサちゃん……監督である彼女は私たちの監視をしている、というわけですか?」
「えっ!? そ、そうなんですか?」
ヒフミとハナコに緊張が走る。
ハナコは自分の勘の良さをこれほど憎んだのは初めてだった。補習授業部のみんなと同じく、本当の自分をさらけ出すことが出来た数少ない友人。そんな彼女のことを冷静に監視官と判断できる自分の冷たさに。
「確かに監視の為とナギサには言われたけど……ナズサ本人は違うみたい」
「どういうことでしょうか? ナズサちゃんは命令で……」
「理由は分からない。ただ、ナズサは補習授業部を大切にしてくれて、試験の為に惜しまず協力している……信じられるよ」
確信めいた先生の返事にホッと胸をなでおろす2人。
「そうなんですか……良かったぁ」
「ごめんなさい。こんなこと聞いてしまって」
「大丈夫だよ。それじゃあ、夜ももう遅いしそろそろ寝ようか」
その後2人が先生の部屋から出た時、ちょうどトイレに向かうコハルと出会い、とんでもない誤解が生まれたのはまた別の話。
***
「さぁでは記念すべき第1回、補習授業部の水着パーティーを始めます♡」
何故か肌が普段以上に艶やかになり、恍惚とした顔のハナコが開催を宣言する。
「あうぅ……」
困惑しつつも動じない所に肝の強さを感じるヒフミ。
「…………」
変わらず冷静沈着な表情のアズサ。
「なんで、どうしてこんなことに……」
早く着替えたいと縮こまり、赤面を浮かべるコハル。
窓に激しく雨が打たれ、時折閃光が迸る。真っ暗闇の広い体育館に集う4人のスク水戦士たち。
「いやぁ~眼福眼福。先生もそう思いますよね?」
傘をさすだけでならず、レインコートを二重に羽織り、フードを深々と被り、更には撥水スプレーをかけて万全を期していたナズサ。
「色々とすごい光景だ……」
唯一の生存者、スーツ姿の先生。
雨合羽の重装備の不審者と1人の大人が、スク水姿の少女たちを一列に並べている光景は、控えめに言ってただの事案だった。
それは遡ること1時間前。
予報になかった雨が降ってきたことにより、干しっぱなしにしてた洗濯物が完全に使い物にならなくなってしまった一同。しかも洗濯物を回収する際に着ていたジャージも濡れ、着替えが無くなってしまった。下着のまま勉強する訳にもいかない為、仕方なく洗濯物が乾き終わるまでの間、部屋で待機していると、更に不幸が続き、まさかの停電が発生。洗濯機が停止するだけでなく蓋も開かなくなり、結果こうして水着に着替え体育館でパーティーが始まった……。
「いや待って! 流されないわよ!? 水着パーティーって何なの! 卑猥!! 授業もできないし着る服も無いところまでは同意だけど、だったらおとなしく部屋で休めばいいでしょ! 普通に考えて!」
「あら、ですがこういう時間こそ合宿の花だと思いませんか? みんな寄り添って、お互いの深い部分をさらけ出し合う……雨も降っている上に停電で何も見えませんし、雰囲気は最高です!」
「あはは……た、確かに合宿の定番という感じはしますね」
「なるほど、それがこの水着パーティーか」
合宿、突如のトラブルでの停電、そしてパジャマパーティーならぬ水着パーティー。これらの要素が混ざり合い特別な環境となった現在、コハル以外の面々はテンションが完全に舞い上がっており、コハルの訴えも虚しく散るだけだった。
「ふふっ♡ 私こういうこと、すっごくしてみたかったんですよね。なので、ちょっとテンションが上がっていると言いますか……」
饒舌に語るハナコは、年相応のお喋りが大好きな少女だった。
それに当てられたのか、アズサも普段の読み取りにくい表情が和らいでいた。
「気持ちは分かる。私も何なら、補習授業部に入って以来ずっとそういう気持ちだ」
「あら、そうなんですか?」
「うん。何かを学ぶということも、みんなでご飯を食べることも、洗濯も掃除もその一つ一つが楽しい」
「あら……♡」
そこから語られたアズサの素直な感謝。
若干の気恥ずかしさがあるのか、頬を僅かに赤らめながらも、こういった特別な場だからこそ言えることだった。
「コハルと一緒に勉強するのも楽しい」
「っ!? きゅ、急になに!? 何でそんな急に恥ずかしいことを!?」
好意を真っ直ぐにぶつけてくる相手に弱いコハルは、先程までの文句はどこへやら。
「ま、まぁ私みたいなエリートと一緒に勉強して、タメになることは多いと思うけど?」
満更でもなさそうにニヤニヤと口角を上げていた。ちょろい。
「あらあら……♡」
「あっ……」
尚、その一部始終に1人の心肺が停止しかけたが。
更に追い打ちは続く。
「アズサちゃん……最初はあまり表情の変化も読み取れなくて心配でしたが……良かったです」
「もちろんヒフミもだ。本当にいつもお世話になってる、ありがとう」
「っ!!? あ、アズサちゃん!! うわーん!!」
補習授業部が始まってからずっとアズサのことを気にかけていたヒフミ。最初はガスマスクを付けて警戒心MAXだったアズサの成長に、感極まったヒフミは思わずギュッとアズサを抱きしめる。
「ひ、ヒフミ、少し苦しい」
「あがっ…………」
「っ!? な、ナズサ?」
レインコートの塊が突然胸を押さえつけ蹲る。
ガサゴソと擦り合わさる音とヒューヒューと掠れた呼吸をするナズサに駆け寄る先生。
「大丈夫?」
「いえ、お構いなく。唐突の供給に身体がびっくりしただけですから」
「供給……?」
ナズサの言っている意味は把握出来なかったが、その顔は幸福感に満ちていたのでそれ以上は踏み込まない事にした。というより、あのハナコが焦燥を浮かべていたので、何かがマズイと判断した先生は速やかにナズサから距離を取った。
そこからは他愛のない話が始まり――――
「そういえば今トリニティのアクアリウムで、『ゴールドマグロ』という希少なお魚が展示されているらしいですね」
「あ、私もそれパンフレットで見ました! 『幻の魚』と呼ばれているんですよね?」
「はい、どうやら近くの海で発見されたとか、見に行きたいのですが、入場料も安くはないので……」
「海、か……そういえば一度も行ったことないな」
「そ、そうなんですか!? 1回も……?」
最近話題になっている時事や流行の話や、いつかは補習授業部で海にも行ってみたいと、夢を膨らませたり……。
「それでとっくに潰れたアミューズメントパークなのにも関わらず、夜になると何やら騒がしい音が聞こえてきて……」
「そ、そんなわけないじゃん! 聞き間違えよ!」
「まぁ、私もそういう噂として聞いただけですが……」
「いやだっ! 絶対嘘! 全部誰かの悪ふざけ!」
「あ、あはは……」
雰囲気に乗じて噂になっている怪談なんかを語ってみたり……。
「世の中には2種類の人間がいる。水着を着る側と観る側だ。ハナコ先輩、分かりますよね?」
「むぅ……やはりナズサちゃんとは、一度腰を据えて話し合わないといけませんね」
「あんたたち何言ってるの!? エッチなのはダメ! 死刑!!」
水着に着替えようとハナコに提案されたナズサが、美学を語りだし譲れない戦いが始まったりと、過ぎ行く時間はあっという間だった。
そうしてパーティーも半ばと言ったところ、ハナコがずっと心配していたことを口にした。
アズサが夜あまり寝られていないことを。本当は抜け出して何処かへ出かけていることも知っていたが、それはあえて黙っていることにした。
アズサは、夜中に敵が侵入してきそうなルートに罠を設置していたという。しかしそれはみんなが大切であり安全を守りたい、という不器用ながらもアズサなりの優しさだった。
ただ、最後にアズサが発した言葉。
「この世界は、全てが無意味で、虚しいものだ。だから、もしかしたら……私はいつか裏切ってしまうかもしれない……みんなのことを、その信頼を、その心を」
その覚悟にも似た何かに引っ掛かりを覚えたハナコだった。
***
夜――もはや深夜の域に入った学校に人の気配はない。
静まり返った長い廊下を1人の少女が身をかがめ、忍び足で歩いていた。
未だに明かりが灯っている部屋の前まで辿り着くと、そっと扉の隙間から中の様子を窺う。
部屋の中央で、テーブルを広げ泰然とティーカップを口に運ぶナギサが、待ち人来たらずと鎮座していた。トリニティ生徒の筈なのに頭から角が幻視できる。それは正に鬼。妙に笑みを深めているのが余計に不気味だった。
「うっわ……めっちゃ怒ってる……」
まだ寝てなかったのかよ。と悪態をつくナズサ。
エデン条約を控え多忙に追われてる今、最近は家にも帰らずに学校で寝泊まりをする日が多い。幸いにもトリニティは施設が充分に備わっているので、生活する分には何も不便はないのだが……。
本来ならば付添人にも与えられる個室が、セイアの襲撃があった手前安全を配慮して2人で同じ部屋――ナギサの部屋で過ごす事になってしまっていた。
つまり帰宅時間が完全に把握されるのである。
このままだと状況は悪化する一方、意を決して扉を開く。
「た、ただいまー……」
「おかえりなさい、ナズサ。待ってましたよ」
いつもと変わらない穏やかなトーンなのが背筋を凍らせる。
言い訳の余地なし。ナズサは素直に謝ることとした。
「ごめんなさい」
「……はぁ。こんな夜遅くまで出歩いたことは一旦置いておきましょう。私が今聞きたいのはゲヘナ生と戦闘をした……これは事実ですか?」
「はい……」
実はここまで遅くなったのは、水着パーティーが終了した後に補習授業部と商店街で食べ歩きをしていたからだった。
それだけならまだしも、偶然にもゲヘナの美食研究会がゴールデンマグロを盗み暴れている場に鉢合わせ、彼女達の暴走を食い止め、ゲヘナの風紀委員に引き渡すまで付き合ってしまった。
「あれだけ危険は冒さないようにと言ったじゃないですか!」
「…………」
部屋どころか、学校中にも響き渡る程の怒声。
ただそれも一瞬の出来事だった。
「怪我は……していないのですね?」
その声はとても弱々しく、不安げなものだった。
世話が焼け困らされることも多いけど、いつも周りに気を配っている優しい妹。
しかし最近のナズサは、偶にふと何処かへ消えてしまうのではないか、そんな漠然とした雰囲気を纏っていた。付添人となり一緒に居る時間は増えている筈なのに、拭えない不安は増すばかり。
そこに入った補習授業部の監督の嘆願、そして今日の出来事。
幸いにも先生が送ってくれたと報告が入ったお陰で落ち着けたが、いつまで待っても帰って来ないのは本当に心臓に悪かった。
「ごめんなさい 次からはちゃんと連絡もする」
「……はい、頼みますよ。ナズサ」
「それじゃあさ! ケーキ買ってきたんだけど、どう?」
湿っぽくなった空気を払拭するように明るい声を上げるナズサ。
「……こんな時間にですか?」
「まぁまぁ、たまにはさ? いいじゃない。最近お疲れのようだしさ!」
ナズサが取り出したのは、お土産としてハスミを誘惑に堕とした例の店のケーキだった。
「お姉ちゃんこれ食べたいって言ってたでしょ?」
確かにそう言った覚えはある。ただ、最近はそもそもプライベートの時間すらまともに取れず、スイーツ店を巡るなど以ての外だった。自分ですらも忘れかけていたことを、態々覚えて気を配ってくれる、こういったところが本当に憎めなかった。
2人分、小皿に乗せて向かい側にナズサが座る。
羽のように軽いスポンジがフォークを簡単に通し、口内に入ればたちまち溶ける。絶妙な甘さと苦味を兼ね備えたチョコが、喉を通り抜けていく。疲れた身体に染み渡っているのがひしひしと感じられた。
「お、美味しい……」
「良かった」
いたずら成功といった表情で笑うナズサに、謎の敗北感と羞恥心に襲われ顔を背ける。
「……また、こうやってみんなとお茶したいね」
ふと、ナズサが呟いたそれはとても切実なものに聞こえた。
ハッとなり正面を見据えると、暗い陰を帯びたナズサがいた。
「……出来ますよ。全てが終われば。きっと」
それになんと答えたらいいのか分からなかった。だから月並みな言葉しか出てこなかった。
久しぶりに2人きりで食べたケーキはとても甘く、そして今は苦い思い出だった。
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