ナギサ様の脳を破壊し隊   作:あみたいと

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イロハの絆エピソード1より抜粋。

「もし表面上だけニコニコして近づく存在がいたら、普通嫌じゃないですか? 自分が利用されそうだなと思いませんか?」

「そんなトリニティみたいなやり方、気味悪くありません?」


……トリニティにはそんな人がいるのかぁ……こわいなぁ……。



本心

 

 

 

 斜陽が照らす教室、響き渡るはペンが紙をなぞる音。

 教壇に先生、隣にナズサが座り真剣な眼差しを向けている。

 

 第2次特別学力試験まで残り2日。

 ラストの仕上げへ追い込む為の第3次補習授業部模試が行なわれていた。

 

 

「そこまで」

 

 先生の合図と共に終了のチャイムが鳴り、ペンを伏せる。そのままナズサが答案用紙を回収したところで、やっと緊張が解け息をつけることができた。

 

 

 

「先生……結果をお願いします!」

 

 採点が終わりみんなの心の準備も完了したところで、ヒフミの合図に頷きテストの結果を告げる。

 

「それじゃ発表するね……ハナコ69点、アズサ73点、コハル61点、ヒフミ75点!」

 

 先生から告げられた結果は、合格ラインである全員一致60点代のボーダーを超えていた。

 

「や、やりました……!?」

 

「ほ、本当っ!? 嘘ついてない!?」

 

「……!」

 

「あらあら♡」

 

 一拍の静寂が訪れる、そしてすぐさま歓声に切り替わった。

 

「すごいです! アズサちゃん、60点どころか70点を超えてしまいました! 本当にすごいです! 頑張りましたね……!」

 

「……うん!」

 

 誰よりも先に反応したのは部長としてみんなを引っ張ってきたヒフミだった。自分のことのようにはしゃぎながら、遂に合格ラインを突破したみんなを褒めたたえる。

 

「コハルちゃんも! ギリギリでしたが、これは紛う方なき合格です! すごいです、やりましたね!」

 

「ゆ、夢とかじゃないよね……? ほ、本当に……!」

 

 ヒフミに肩を揺さぶられ現実を認識できたコハルの表情と声が、どんどんと晴れ渡っていく。

 

「あはっ……こ、これが私の実力よ! 見たか!!」

 

「はい! これぞ正義実現委員会のエリートです、さすがです!」

 

 そして今まで一桁代だったハナコ。実際は実力を隠していただけなのだったが、それでも素直に喜べるところがヒフミの長所だろう。

 

「それに、ハナコちゃんも……」

 

「運が良かったですね、うふふ。良い感じの数字です♡」

 

「本当に……ハナコちゃんに以前何があったのか、何を抱えているのかまだ分かりませんが……でも、良かったです……」

 

「ヒフミちゃん……ありがとうございます。そしてごめんなさい。心配をおかけしてしまって……」

 

 かくして遂に希望の光が見えたことに士気は向上、油断せずに体調管理にも気を配りながら、ラストスパートに取り組む補習授業部だった。

 

 

 

 

 

 ――――とその前に1つ決して忘れてはならないことがある。

 

 

「うーん……どの子にしよう……」

 

 結果を出せた――つまりヒフミの用意したモモフレンズのご褒美がアズサを出迎えたのだが、選べるのは一匹だけという苦渋の選択を強いられ、アズサはうんうんと頭をひねらせていた。

 因みにハナコは謹んでお断りし、コハルも同様……なんなら未だにヒフミの趣味だけは看過できずにいた。

 

「私には無理だ……ヒフミが選んでくれ」

 

 デフォルメされた髑髏の仮面を着け、ツノが生えた黒いカバのような容姿のスカルマンと、眼鏡をかけたペロロ様――ペロロ博士の2種類まで絞れたが、そこから決めきれないようで決断はヒフミに委ねることとした。

 

「……ではこちらの、インテリなペロロ博士はどうでしょうか!」

 

「……! よし、じゃあこの子だ!」

 

「実はこのペロロ博士は、物知りで勉強もできるという設定なんです。まさに今お勉強を頑張って、すごい成長している真っ最中のアズサちゃんにはぴったりかなと!」

 

 ちょっとだけ勉強しすぎたせいで、少しおかしくなっているという裏設定も、ちょいちょいズレた奇行に走るアズサと少し似ていた。

 

「良かったね、アズサ」

 

 ご褒美を手にし、ご満悦なアズサに賛辞を送る先生。

 

「うん、気に入った。本当に可愛い、好き。えへへ……」

 

 いつものポーカーフェイスを崩してだらしなくニヤニヤと笑い、ペロロ博士を抱きしめながら頬擦りをするアズサは少し幼く見えとても愛おしいもので、その破壊力は1人の命を奪いかねないものだった。

 

「あ、あああぁぁぁ……」

 

「またなってるし……」

 

 もはや恒例となりつつあるナズサの限界化。コハルは既に抑えつけるのを放棄していた。

 

「な、ナズサちゃんもどうですか? モモフレンズグッズ」

 

「へっ!? 私!?」

 

 唐突に投げかけられたヒフミの提案に、ペロロ様並にイッてた焦点が戻るナズサ。

 その顔には動揺が浮かんでいた。

 

「はい。ナズサちゃんも毎日ここまで来てくれて、賄いとか模擬試験の用紙作成を手伝ってくれたりしてくれましたから」

 

「え、あ。えっと……ど、どうしよう……」

 

 普段は全く迷いがなく思い切りのいいナズサが、歯切れ悪くどこか対応に困っている様は滅多に見ないものだった。

 

「あ、ごめんなさい。もしかして、ナズサちゃんはあまりお気に召しませんでしたか?」

 

 目尻が下がり、不安気に尋ねるヒフミ。

 モモフレンズは人を選ぶ。だから遂にできたアズサという同志に舞い上がって、少し押し付けるような形になってしまったことを悔いていた。

 

 たがそれは杞憂に終わる。

 

「いや、そういうわけではなくて……。私()()()が貰って良いのかなって」

 

 恥ずかし気に赤らめた頬を搔きながら、消え入るような声で心情を打ち明ける。

 

 その様相を見たヒフミはいけると判断し押していった。

 

「はい! ぜひ貰ってください!」

 

「うん、ナズサも沢山頑張った。モモフレンズを受勲する権利がある」

 

「わ、分かった分かった。……じゃあこの子でお願いします」

 

 眼を輝かせながら詰め寄る2人を宥めながら選んだのは、アズサが悩んでいたもう一匹のモモフレンズ、スカルマンだった。

 

「ありがとう、ヒフミ。これは一生大切にする」

 

「ヒフミ先輩ありがとうございます」

 

 獲得したモモフレンズを優しく抱きしめるアズサとナズサ。

 アズサは初めての友達のプレゼントであり、これをヒフミだと思い大事にする。ナズサは桐藤家の家宝にする。と、それぞれの思いを口にした。

 

「そ、そこまで言っていただけるとちょっとビックリしてしまいますね……!? ですが、私も嬉しいです。それはアズサちゃんとナズサちゃんの努力の証ですから!」

 

 そんな重い告白をも受け止め喜ぶヒフミの度量はまさに部長に相応しいものだった。

 

「うーん……趣味の世界は広いですねぇ」

 

「………………」

 

 果たして人の事は言えるのか、世界の広さに呆気としているハナコ。相変わらずの見てはいけないものを見る眼になっているコハル。

 

 

 

 そんな和気藹々と盛り上がるなか、一歩後ろに引いて傍観していた先生……と、ハナコは気付いてしまった。

 

「……本当に、ごめんなさい」

 

 抱えたぬいぐるみに霞むように謝罪し、喜悦とは別の……罪悪感を秘めた眼をしているナズサに。

 

 

 

 ***

 

 

 

 私の罪深き行いをお許し下さい。桐藤ナズサです。

 

 

 ……仕方ないだろ!!! ヒフミ元帥からモモフレンズを頂くなんて、許されざることだと頭では理解していても欲しいじゃん!! 神も許してくれるだろ! てか許せ!

 

 重々承知しておりますとも、何やってんだと。

 滅茶苦茶悩みましたよ? この世界に転生してあの瞬間が一番脳ミソ使ったと思う。

 

 モモフレンズはヒフアズを象徴するものだ。

 あれを受け取ったのがアズサだけだったことで、2人の距離は更に縮まったと俺は思っている。

 

 そんな特別なものを俺が貰うなど言語道断、散々語った禁忌である“挟まる”行為にほかならない。

 

 

 …………でもさ、あんなにヒフミ元帥が申し訳なさそうな顔したらさ。無理やん? 忘れないで欲しいけど、俺は女の子に似合うのは笑顔が一番だと思ってるから。

 

 それにアズサからも、あんな風に言われた手前……このままヒフミ元帥のご尊顔を曇らせるわけにはいかないので、受け取っちゃいました。

 

 その時のヒフミ元帥とアズサの顔ったら……やっぱり笑顔はサイコーだな!

 

 

 まぁそれでも罪の意識は消えないですが……この業は一生背負う覚悟です。石を投げつけられても何も言いません。

 

 

 

 

 

 そうして昨日が終わったわけですが……。

 

 第2次特別学力試験が明日に控えた今現在、絶賛先生とナギサ様がバトってます。まぁ静かな戦いですが。

 

 ナギサ様に呼び出された先生をテラスまで案内し、模範に則った礼儀ある順序を踏んで挨拶を交わした所までは良かった。

 

 火蓋が切られたのは、ナギサ様がいつの間に仕入れてきたのやら、ミカが接触したという情報を皮切りに、それはもう寒気が走る程の満面の笑みで「トリニティの裏切り者は見つかりましたか?」と問いただしたとき。

 

 対して全く動じなかった先生の返答は、誰かを疑うことに時間は費やさない。補習授業部が報われるように最善を尽くすだけと、変わらない信念を突き通しているものだった。

 その答えにナギサ様は顔を顰め、何故補習授業部があのメンバーなのか改めて説明した。

 

 

 そして出てくる彼女――ヒフミのこと。

 

 ナギサ様はヒフミを好いている。しかし、耳にしてしまった犯罪集団のリーダーであるという噂。それが誤解であることは先生は分かっているが、証明はできない。

 

 ヒフミの優しさをナギサ様は痛いほど知っている。それでも、どれだけ信じていても本心は分からない、心の中身など、証明できるものではない。所詮は()()なのだから。

 

 

 

 ***

 

 

 

「所詮他人だなんて……そんな言い方はやめてほしいな、お姉ちゃん」

 

 加熱していく議論のなか、傍観に徹していたナズサが口を開いた。それは裏切り者を追及するものでも、先生を尋問するものでもなく。ただ切実な願いだった。

 

「っ……」

 

 その言葉にハッとしたように目を見開くナギサ。

 

 瞬間、先生は合宿初日にナズサが言っていた言葉、お姉ちゃんを頼みます――を思い出しその意味を理解した。

 憶測でしかないが……信じていても本心は分からない。それはナギサ自身への免罪符であり、自罰でもあったのだろう。

 

「分かったかもしれない。……ナギサ。今の君はきっと、疑心暗鬼の闇の中にいる」

 

「……はい? 疑心暗鬼の、闇……?」

 

「見たいものだけを見て、信じたいことだけを信じてるんだと思う」

 

 ナギサは口を噤み眉間に皺を寄せる。

 

「君を、そこから出してみせる。そして絶対に、補習授業部のみんなを合格させる」

 

 それは決意表明であり、宣戦布告であった。ナギサは静かに紅茶を一杯啜り、先生を見据える。

 

「……つまりお話はシンプルになったということですね……承知しました。どうか頑張ってください、先生」

 

 要するに喧嘩は買ったということだ。ナギサは笑みを貼り付けたままナズサへと顔を向ける。

 

「私は、私なりに頑張りますので……手始めにナズサ、あなたは明日本校からの外出の一切を禁止します」

 

「……!?」

 

「お姉ちゃん、どういうこと?」

 

「その内分かります。これはティーパーティーとして、あなたの主としての命令です」

 

 その眼は険しく、意志の固さを感じるものだった。

 横暴ではあるが、その話をするなら既に補習授業部という存在自体が横暴である。つまり付添人の拘束程度は造作もない。

 

「ナギサ……!」

 

「先生、そもそもナズサは私の従者です。なにか?」

 

「そう言うならナズサは補習授業部の監督でもあり――――」

 

「違います、ナズサはあくまでも貸しているだけです。本来の業務ではありません」

 

 そもそも監督は本人の志願によるものであり、筋はナギサが通っていた。

 

「それに明日限定です、別に監督を解雇しても良いのですよ?」

 

 ……それは困る。もちろん生徒は信じているし、明日無事に合格するつもりではあるが……ナギサの対応を見ると万が一もあり得る。

 ナズサの存在は補習授業部にとっても欠かせないものになっており、彼女の賄いや模擬試験作成の手伝いにどれだけ支えられてきたか。

 

「……それではここらへんでお開きとしましょう。ナズサ、見送ってあげてください」

 

 今回の話し合いの行く末は……決裂に終わってしまった。

 

 

 

 

 

「ありがとね、先生」

 

 校門まで見送りに付いてきたナズサが先生の背に声をかける。

 振り向くと……夕陽に照らさたナズサの表情は全く見えなかった。ただその声は鈴のように跳ねていて――――

 

「まぁこれから先も大変だろうけど……ね? 先生」

 

 またもや、暗い陰を感じさせるものだった。

 

「ナズサ、君は――」

 

「じゃ! 補習授業部のみんなにもよろしく!」

 

 そしていつも踏み込む前に消えてしまう。出会った当初から時折見せる不安定な()()

 今回も続きを聞く前に、ナズサは羽をなびかせ去っていった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 翌日、ゲヘナ自治区で行われた第2次特別学力試験は、全員が答案用紙を紛失したことにより不合格となった。

 

 

 





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