デザイアグランプリ第二回戦、迷宮脱出ゲーム。一般人を守りながら暗号を解いて、閉ざされた迷宮から脱出せよ。ボランティア部の後輩である上遠赤哉が暗号のヒントを掴んだようだが、相手は極度の無口。聞き出そうとしてる間に、ジャマトライダーに襲撃され青山優が大ケガを負ってしまう。攻略アイテムをゲットしたことで、ジャマトライダー自体は撃破できたが、迷宮にはまだ二体もジャマトライダーが残っている。早く暗号の謎を解かなくては……
「立てるか、青山」
変身を解き、青山に肩を貸す。ジャマトライダーの蔦による攻撃は食らわなかったようだが、蔦の緩んだ首元には、はっきりと締め付けられた跡が残っており、血が流れていた。次にジャマトライダーに突撃なんて真似をしたら、命の危機どころじゃないだろう。変身なんて以ての外だ。
「ごめん……ニンジャバックル落としちゃった…」
青山は頭をふらふらさせながらホールの方向を指差す。そこでは、ジャマトライダーとギーツのフィーバーブーストフォームが熾烈な争いを繰り広げていた。そのホールの柱に引っかかるように、ニンジャバックルが落ちていた。拾いに行きたいところだが…これ以上青山をジャマトライダーに近づかせる訳には行かない。
「上遠、暗号のヒントについて聞きたい。安全なところまで離れよう」
俺たちはホールを背に西館の広場へ足を向ける。上遠赤哉は、まだだんまりを決め込んでいる。
*
上遠赤哉の声を聞いたのは一度だけ。俺がボランティア部に加入した日。以前そう語ったのを覚えている。あの日の記憶がリピートする。
「私は二年の新井紅深。これからよろしくね、墨田奏斗君」
新井紅深はそれだけ言って、興味なさげに定位置に戻った。運動部でも無いのに、やけに大きいショルダーバッグから文庫本を出して、無表情で表紙を開いた。陳腐な言い回しだが、表情は当に氷。でも、話ができない相手じゃない。声をかければ取り合ってくれるし、それなりのユーモアも持ち合わせている。
そんな新井紅深よりも冷たく、それでいて硬い。南京錠のような性格をしたのが上遠赤哉だった。部長の元を離れた上遠は、資料棚に体重を乗せて携帯ゲームをプレイしている。俺は何を考えていたのだろう、新井紅深ではなく、最初に彼に声をかけたのだ。
「君、一年の子かな?さっき自己紹介したけど、俺は墨田奏斗。元バスケ部。よろしくね。君は?」
残った部員の一人が不良だったからだろうか、話しかけやすかったのかもしれないし、如何にもコミュニケーション能力に問題がありそうな見た目に気の毒に思ったのかもしれない。何方にせよ、記憶を取り戻した今はわからないことだ。聖人の頃の俺は自己紹介のテンプレートを読み上げると、上遠の反応を待つ。しかし、上遠は何も返さず、画面の上を指が滑るだけだった。
「ちょっと?聞いてんの?」
どれだけ俺が声のボリュームを上げても、上遠は目を合わせようとすらしない。部長と話していた不良の部員が、クスリと笑うのが見えた。俺は結局聖人になっても、人との付き合い方をわきまえられていないのである。見かねたのか、部長が部屋の角に俺を呼び寄せると、小声で説明した。
「君、最初に話しかけるのが彼だなんて度胸があるねぇ。彼は誰とも話さないよ」
「じゃあ……どうやってボランティア部に勧誘したんですか?」
また煽ってプルタブでも持ってこさせたのだろうか。俺が疑問を投げかけると、部長は待ってましたというように口角を上げた。
「別に、入らないか、と聞いたらね。頷いてくれたんだよ。それで、入部届を渡したら本当に入ってくれるもんだからさ。でも、君も気にならないかい?極度に無口な男が、ボランティア部に入ってくれた理由」
確かにそれは気になる。部長の勧誘にすぐOKを出したのだから、部活に特別嫌悪感を抱いている訳ではないだろう。
「僕は聞かせてもらったよ。正真正銘彼の口からね」
部長の事だ。汚い手を使ったに違いない。口から聞いたと言うより、問い正したと言う方が合っているのではないかと思う。
「もし、彼を深く知りたいなら、約束をすることだ。生ぬるい覚悟で関わったら、きっと後悔するね」
その時は、上遠と友達と呼べるような関係になるつもりはなかった。あくまで聖人の俺は、ボランティア部の活動に参加してほしかっただけ。彼も、独断の善意に巻き込まれただけの人間だった。
あれから暫く上遠赤哉は部室にいたが、携帯のゲームをクリアしても、ゲームのガチャで一番レアそうなのが当たっても、無反応を貫いていた。もっと喜んでもいいんじゃないかと思うが、ここまで無だと、何が面白くてゲームで遊ぶのだろうか。子供の時から染み付いた習慣が抜けていないから、と俺は解釈している。
結局、活動時間内で、上遠赤哉の肉声を聞けたのはこの一言だけ。
「あ」
部室の時計を見て呟いたその言葉だけだった。時刻にして十七時二十三分。俺が部室に入って三十分足らずの時間である。彼がなぜその時間に反応したのかはわからない。が、彼はそのまま荷物をまとめると、部室を去っていった。
それ以来彼は、部長が呼び出したとき以外の、ボランティア部の活動に一度も顔を出してくれなかった。だから彼の透き通るような声を聞いたのも一度だけなのである。
もっと部長の話を聞いておくべきだったと後悔している。上遠と広実須井がどのような約束を交わしたのかは知らないが、上遠から話を聞き出すためには、約束が必要らしい。
西館のメインホールに入ろうと、金箔で装飾されたドアを開こうとした時、手が止まった。中から声が聞こえる。晴屋ウィンか?
「この迷宮を出る手がかりならわかってる。ギーツを出し抜いて、俺たちと脱出するか?」
俺と青山は、ドアに貼り付いて中の声をより聞こうと試みる。自分だけが裏をかいてると思うなよ。少々姑息だが、上遠からヒントを聞き出せれば、一気に暗号の答えに近づく。利用しない手はない。後ろから上遠が引いたような反応をしていたのが癪だが。晴屋ウィンは、誰かに共謀を持ちかけているようだが……誰に対してかは直ぐにわかった。嬉しそうに返す尾形次郎を嗜める、吾妻道長の声が強く響いたからである。
「お前たち運営の手解きは受けない」
俺と青山は顔を見合わせた。晴屋ウィン、やっぱりあいつは運営側だったか。信用しないで正解だった。それに…狙いは英寿を脱落ないし退場させる事か。
「無敗の男に、運営のテコ入れか?」
「なにそれ。勝ち負けを運営が決めてるってこと?なんか、すっごいムカつくんだけど」
同感だ。俺たちはゲームの中で願いのために、はたまた誰かを守るために、戦い、傷ついてきた。あっちにどんな事情があるのかは知っこっちゃないが、特定の誰かを落とそうと考えているなんて。運営は公平な存在だと考えていたが。どうやら、参加者の願いを踏みにじる行為に手を染めていたらしい。俺も青山も、吾妻道長と考えは同じだ。俺達は自分の意思で戦っている。誰もが思い通りになると思うな。
「暗号を解く。出口に行くぞ」
俺達は再び航路を変え、今度は城の出口を目指した。背後から金属が擦れる音と、打撃音。あっちでもバッファがジャマトライダーと戦い始めたらしい。
ギーツとバッファが暴れ回っていたためか、城内のジャマトの数は大分減っていて、楽に城外に出ることができた。城を出ると、階段の先に出口はある。だが、ここからかなりの距離があり、ジャマトが至る所に。俺たちは階段を覆う高台に隠れる。
「なぁ、上遠。お前が持っているのが、暗号のヒントなんだよな?」
上遠はこくりと頷き、握りしめた手帳と挟まれた紙を見せてきた。俺は手帳をパラパラと開く。案の定、全部ジャマト語で書かれていて、俺にはただ蔦が沢山描かれているようにしか見えない。だが、何を示したものなのかは掴めた。ジャマト語の下に、油絵の挿絵が入っている。
「これ、何の本なの?」
「厨房にあったしな。なんかのレシピだろ。ジャマトが飯なんて食わないだろうが、ご丁寧な人間の再現か?」
手帳には、手順ごとにしっかりと挿絵が入っているが……残念ながら料理の心得は無い。はっきり言って、イラストだけじゃ何をしているのか全くわからない。完成図的に、これはグラタンだろうか?
「グラタン…?グラタンってマカロニでしょ?何炒めてるのこれ?」
レシピの最初の手順は、フライパンで何かを炒めるらしい。イラストのフライパンにはただ茶色い粒が乗っているだけ。木の実…なのか?試しに文字を解読しようと試みても、ジャマト語で四文字書かれたあとに、三文字分丸括弧で囲まれている。
「全然わからん……上遠?これって?」
ダメ元で質問してみても、上遠は何も話さないのはわかっていた。やりたくは無かったが。やっぱりあの手を使うしかないか…俺はため息を一つついて、小指を上遠に差し出した。青山がぎょっとしたようにこちらを見るが、無視して俺は語りかけた。
「上遠。俺と約束しろ」
上遠が初めてはっきりとこちらを見る。彼にとって、約束がどんな意味を持つかは知らない。過去を勝手に利用しているようで気が引けるが、今は全員の命がかかっている。四の五の言ってられない。
「俺は、どんなことがあっても。お前を見捨てたりしない。お前を笑わない。だから、その代わりだ。暗号のヒントを教えてくれ。そうすれば、俺は絶対に約束を破らない」
こういう後々まで響く決め事はできるだけしたくない。だけど、こうでもしなければ、あいつは教えてくれないだろう。かなり無理な約束だけど。上遠は、二、三秒息を吸うと、俺の指に自分の指を重ねた。
「…………約束……破りませんよね」
「破れる約束なんて、約束じゃないだろ」
俺たちの間で交わされた会話は、初めてにしては高得点だったと思う。上遠は、目を隠していた前髪を掻き分けてどかすと、レシピ本を指さしながら、饒舌に語り始めた。
「このレシピはアッシ・パルマンティエ。有名なフランス料理ですよ。グラタンってのはあながち間違いじゃないです。牛ひき肉をマッシュポテトで覆ったグラタンですね。だから、フライパンで炒めているのは牛ひき肉かと。でも、レシピでは最初に四文字書かれたあとに三文字かっこで閉じられてますね。それに、かっこの中に掻かれた文字の二文字目は、普通のジャマト語より小さく書かれてます。恐らくはや、ゆ、よ、か。つ、またはあ行のどれか。それで、ジャマト語がひらがなに解読できるとしたら、"ひきにく(ぎゅう)"と書かれているのかな、と。それで、ひきにくの"ひ"の形は、暗号の一文字目と一致します」
すっご……俺は、一息で吐き出された文章量に面食らう。とりあえず、暗号の一文字目が"ひ"なのはわかった。俺が言葉を返そうとするよりも速く、青山が反応した。
「すっ、ごくない!?マジで探偵じゃん!もう他のもわかったの!?」
上遠赤哉……無口だが、心の内に秘めた思いは人一倍強い。そう実感する。こんなん聞いて、誰が笑うと言うのだ。十分誇っていい、素晴らしい知識じゃないか。俺と青山が手放しで褒める中、上遠は他の推理もこれまた饒舌に語った。
暗号の二文字目は、"ら"。これまたフランス料理のラタトゥイユから。そして三文字目は、"け"。これはパンの中に混ぜる木の実、ケシの実から推測した。
「じゃあ、暗号は……」
「ヒ、ラ、ケ、か!すごっ!もうクリア目前だよ!」
「あぁ。俺がジャマトを引き付ける。だから、お前らが暗号を解け」
『SET』『SET FEVER!』
俺はブラストバックルを左に、フィーバースロットバックルを右に装填し、高台を飛び降りると共に変身した。
『GOLDEN FEVER!』
来い!もう一回ブースト!俺は着地する寸前で、ガスの噴射で二弾ジャンプのようにもう一度飛び上がり、広場のジャマトを踏みつけるように着地する。だが、赤い装甲は装着されていない。代わりに、ピンクのバンドと、ちっちゃいハンマー。この装備は見慣れている。
「ブースト以外も出るのな。これ」
運任せだ。こういうこともある。まぁいい、久しぶりにこいつを使ってやるのも、悪くない。ハンマーを思いっきり投げつけ、前方のジャマトを怯ませると、ブラストで一気に加速し、ハンマーを押し込むように蹴り込む。折角だ。新しい戦い方を試してやる。
俺がジャマトを相手取っていると、その間をすり抜けて上遠と青山が抜けていった。そして、二人は出口の前で勢いよく立ち止まり。大声で答えを叫んだ。
「「ヒラケっ!!!」」
しかし、音声認識機械は、耳障りなブザー音を鳴らすだけだった。ハズレだと?何でだ、上遠の推理は完璧だったはず…!
「……ジャマト語……まさかと思ってたけど……」
上遠は、苦虫を噛み潰したような表情で声を絞り出した。
「……ジャマト語で喋らなきゃ、正解扱いにならないみたいです。ジャマトの迷宮だから、当然かもしれないけど……」
「ええぇ!?折角謎解けたのに、ジャマト語翻訳しなきゃいけないの!?そんなんズルじゃん!?」
青山はボロボロのはずの喉を荒らげて頭を抱える。いったい未知の言語の解読にどれだけの労力を要すると思っているんだ。勘弁してくれ。俺がどうしたものかと、片手間に執事ジャマトを撃破すると、上遠ははっきりと呟いた。
「……城に戻ります。きっと、先輩たちと同じく、このゲームの謎に挑んだ仮面ライダーがいたはず。その人たちが何かしらのヒントを残してくれていたら……」
「駄目だ、危険すぎる。他のライダーが戻ってくるのをここで待とう。あいつらだってタダじゃ帰ってこない」
その方が得策だろう。俺だって、二人の人質を何時まで庇いきれるかわからない。その中でも、特に青山は危険な状態なんだから。
「でも、約束なんですよね?僕の話を笑わない代わりに、暗号のヒントを教えるって。先輩たちは、僕を笑わなかった。だから、僕にも約束を守らせてください……!」
ここまで上遠が熱い男だとは思ってなかった。冷たい、南京錠なんて表現はもう使えないな。だったら俺も応えなければいけない。
「わかったよ。とっとと行け!」
『GOLDEN FEVER VICTORY!』
俺は手元のハンマーを空中に投げ、叩き落とすような蹴りでハンマーを発射。一帯のジャマトを一気に撃破した。まだ左右からジャマトは向かってきている。俺は二人の背中を押すと、ジャマトと戦い始めた。二人は、城でまだ未探索の塔を目指す。
俺はそれを見届けると、もう一度スロットを回した。もしブラストを引き当てれば、ダブルで強くなれる…!
『GOLDEN FEVER!』
またかよ……今度は緑色の弓、レイズアローだ。ブラストどころか大型バックルすら引き当てられないとは…運悪すぎないか…?レイズアローを右に振り抜いて、矢を三本連続で放ち、数体を撃ち抜く。振り抜いて、さらにもう一発…と思ったところ。放たれた弓を弾いたジャマトがいた。その手にはジャマトバックル。あれで蔦を伸ばして防いだか。
「ジュラピラ」『JYAMATO』
ジャマトライダーがまた増えやがった。いや、あのデザイアドライバー、もしかしたら。あの時俺がフィーバーで倒した個体のやつかもしれない。元から相当数いるなら、最初に一気に襲ってきたはず。デザイアドライバーか、ジャマトバックルを回収しない限り、奴らは何度もでも現れる…か。
「来いよ…」
レイズアローでジャマトライダーのパンチを受け流し、ブラストの噴射で身体を捻りながら背中に周る。そしてレイズアローの射撃をゼロ距離で撃ち込んだ。矢は一度貫通したものの、ジャマトライダーの傷は直ぐに塞がる。不利と判断した俺は一度距離を置くために、背中を蹴って離れる。
すると、空から二つの宝箱が落ちてきた。
「なんだ…?シークレットミッションは何も…」
しかも、片方は黄色い箱。デザイアドライバーとIDコアが格納されているはずの宝箱だ。追加エントリー…?なんでまたこんなタイミングで……いや、違う。念のためスパイダーフォンを見ると、丹波一徹が脱落扱いになっており、逆に桜井景和がエントリーしている。エントリー権を譲渡でもしたか。ということは……
「ああっ、奏斗くん!」
「なんで、再エントリーなんかしたんだよ!」
「俺も戦うよ。皆を守るために…!」
来やがった、超ド級のお人好しが。景和はジャマトを押しのけながら、宝箱を空け、デザイアドライバーとIDコアを入手する。もう片方には、マグナムバックル。景和は首の締め付けに苦しみながらも、急いでいる様子だった。俺はジャマトライダーを押さえつけながら、景和の城への道を作った。
「おい!ホールにニンジャバックルが落ちてる!必要だったら使え!」
「ありがとう…!奏斗君!」
景和は大切な人たちを守るべく、城内へ入っていく。あの記憶を失っていたときの情けない姿とは一変、世界を守るライダーらしい決意の顔で。さぁ、このジャマトライダーどうするかねぇ…
ジャマトライダーの目は、相変わらず妖しく光る。
*
館の北西に位置する塔は、植物にまみれていた。ただのオブジェかとと思っていたけど、壁の植物が剥がされた跡があって、厳重な鉄扉が見えていた。既に誰かが入っていったらしい。僕と青山さんは、目を合わせて頷くと、塔にそっと近づく。
「よっ!」
「うわっ!」
背後から肩を組まれて、青山さんはぴょんと飛び跳ねる。僕も内心驚いていたが、彼とは約束を組んでいない。無視を貫いた。国民的スター、浮世英寿だ。被害者の小学生、葉山良樹も連れている。スターなんてエンタメに興味は無い。以外だが、青山さんもその方面には疎いらしく、浮世英寿に淀まず返答する。ミーハーそうな性格してるのに。
「何です?浮世英寿さん?」
「いや、俺もこの塔に用があってな。ダパーンはどうした?」
「奏斗は私たちのために戦ってくれてるの。暗号の答えはわかってるんだけど、ジャマト語に翻訳しなきゃいけないらしくて」
青山さんは、僕の代わりに詰まることなく話してくれた。この人も…僕の話を聞いて笑ったりしなかったな。この人は、信用できるかもしれない。元々、約束という決め事は、僕を受け入れられるかを見極めるために始めたんだから。
「俺も暗号のヒントは掴んでいる。ジャマト語については……この塔に答えがあるはずだ」
僕たち四人は、塔を見上げる。
塔に先に入った人はまだ中にいるようで、ガサゴソと漁る音と話し声が聞こえた。僕たちは階段を登り終えると、開きっぱなしの扉の先に、一組の男女がいたのを発見した。あのナビゲーターの人と、なんかチャラい人だ。
「ほらほらほら!あったぞ〜!」
部屋の中央のテーブルに、古びた手帳とボイスレコーダーが置かれていた。チャラい人は、それを手に入れようとするが、横から浮世英寿がするりと入り込んで、手帳とボイスレコーダーを横取りした。
「ギーツ!」
「先輩ライダーが解いた暗号のヒントか」
浮世英寿はそれをパラパラと捲り、ボイスレコーダーから録音された音声を再生した。ジャマトの声が、何度も部屋にリピート再生される。よく部屋を観察すると、館の地図に、ジャマト語が記されたブロック。あらゆる資料が散らばっている。脱出のために、相当の労力を尽くしたのだとわかる。逆に、これだけしても簡単には脱出できない非情を感じた。
「おい、それをよこせ!」
浮世英寿は、跳びかかるチャラい人をはらりと避け、僕に手帳を渡してくれた。
「しかし、ゲームマスターの命令に従わされて大変だな。ツムリに一目惚れだなんて大芝居までしちゃって」
中間管理職と言うのだろうか。現場に駆り出される人は大変だな。と、今はそれよりも、暗号。さらっと手帳を見てみると、前の仮面ライダーさんは本当に賢い人だったのだなと実感する。言語学者だったりしたのだろうか?一文字ずつ解読するために、あらゆる策を実行していた。"ひ"をジャマト語で何と言うかを知るために、館でボヤ騒ぎを起こしてみたり。この仮面ライダーさんが、脱出できなかったことが無念でならない。
僕が手帳を読み込んでいるうちに、チャラい人と浮世英寿の口論は続いていた。
「仕方ねぇな…なら、実力行使に出るまでだ」
「俺とやる気か?」
二人はそれぞれのバックルを構えて、一触即発の雰囲気だ。でも、ナビゲーターの人が割って入って止めた。
「待ちなさい!参加者の妨害は違反行為です。ナビゲーターとして見過ごすわけにはいけません!」
きっと、このナビゲーターさんにも思うところがあったのだろう。ナビゲーターさんに止められて、二人はバックルを下ろす。
「なら、正々堂々勝負だ。どっちが先に、暗号を解くか。行くぞ」
僕たちは浮世英寿に連れられ、塔を去ることとなった。ちゃっかり、チャラい人とナビゲーターの人も付いてきている。浮世英寿とその二人に挟まれた僕と青山さんは、ひそひそ話で会話した。
「ねぇ、逃げなくていいの?奏斗やばいじゃん」
「でも、ここで逃げたら…手帳を奪われて終わりですよ…」
今は、この人たちのいざこざに付き合うしかない。
浮世英寿が訪れたのは、さっき僕たちが行き損ねた西館のホールだった。食事の用途としても使うのかもしれない、シーツのかけられた丸机に椅子が沢山。でも、壁一面が金ピカで眩しい。浮世英寿の目当ては、壁にかけられた植物の絵画だ。
「今度はアケビ…」
浮世英寿は、絵画の下に刻まれたジャマト文字を凝視すると、ブロックごと文字を入れ替えて正しい配置に戻した。傷の位置で見抜いたようだ。でもなんで文字が、入れ替わっていたんだ?
「えっ!ちょちょちょ、なんでわかった!?」
「狐を化かそうたって、そうは行かない」
この人がやったのかよ。本当に運営という人たちは、浮世英寿を落とすことに邁進しているらしい。
「うわっ、姑息〜」
「心の声、出ちゃってますよ」
青山さんは明らかに不快そうな顔をしている。だけど、僕も思ってることをはっきり言ってくれて、少しすっきりした。浮世英寿は、チャラい人の肩に手を乗せて煽ると、堂々と啖呵を切って見せた。
「なんで運営が俺を落とそうとしているのかは知らないが、俺はゲームマスターの思い通りにはならない。俺たち参加者は、ゲームマスターの駒じゃない!」
浮世英寿は続ける。
「俺たちの意志でここにいる。俺たちの意志で戦っている!俺たちの運命は誰にも決めさせない。俺たちの手で決める!」
ホールにジャマトたちが侵入してくる。浮世英寿は、銃のバックルをベルトへ運ぶ。
*
流石に小型バックルの装備じゃ無理があったか。ジャマトライダーの必殺技を防ごうとしたレイズアローは、粉々に砕けてしまい、俺も三歩ほど後退して膝をつく。暫くの連戦で、足にダメージが溜まっていた。じわじわと、痛みが広がっていた。限界は近い。
「こんな所で…終われるかよ…!」
『MONSTER!』
もう一度スロットを回すと、やっと大型バックルの装備が出た。だがまたしても運がない。ブラスト以外だったら、遠距離で戦えるマグナムかビートだと思っていたのに…だけど、小型バックルよりはマシだ。俺はモンスターの能力で腕を伸縮させ、思いっきりジャマトライダーを殴る。モンスターの一撃は何とか効いたようで、ジャマトライダーを一瞬怯ませた。このまま畳み掛ける。俺はこのゲームでの鬱憤を晴らすように、前進しながらジャマトライダーを何度も殴った。
「本当にっ、さ!暗号だけでも!面倒なのに!なんで!わざわざ!お前らの言葉を知らなきゃ行けないんだよ!」
ジャマトライダーな防御の姿勢をとっても、お構い無しに攻撃を続ける。
「おまけに!緊急措置のアイテムは!運要素ばっかで!全然当たり!出ないし!」
鬱憤が晴れるどころか、むしろ怒りがとめどなく湧いてくる。よし、決めた。今度スロットを引いてブラストが出なかったら、このバックルにはもう頼らない!いっそ捨てる!
「信じる者は…報われろ!」
『BLAST!』
「来たっ!」
『JACKPOT HIT!FEVER BLAST!』
上下にそれぞれブラストフォームの装備が付き、頭部の耳が黒から金色に変わる。上半身でブラストを使うのは初めてだ。両肩から迫り出すようにガスボンベが付き、背中に向けて管が伸びている。足に付けているときの排出口のうち、二つづつが背中に取り付けられたらしい。変身したフィーバーブラストフォームは、何時もよりも、何倍も力が増幅している感覚があった。
手始めに俺は全身の噴出口から一気にガスを噴射し、ブーストよりも数段階速いスピードでジャマトライダーに接近。ストレートパンチをお見舞いした。あまりの速さにジャマトライダーは防御が遅れ、クリーンヒット。地面に倒れる……よりも速く後ろに回り込み、低姿勢からのキックで足をさらい、今度は前傾姿勢になった所を肘を振り下ろして硬い地面にジャマトライダーを叩き込んだ。
「速攻で終わらせる」
『HYPER BLAST!VICTORY!』
これ以上の戦いは必要無い。必殺技を発動すると、二の腕と太腿のファンが回転。周囲の気流が変化する。両手を勢いよくクロスさせると、全身からガスが噴射。二つの竜巻が起こり、ジャマトライダーはそれに挟み込まれ、装甲がガリガリと削られる。そして、竜巻の勢いにのまれ、こちらに押し出されてきた。俺は為す術もなく飛ばされてくるジャマトライダーとすれ違うように回し蹴りを命中させ、ジャマトライダー、二度目の撃破に成功した。
「よし」
ジャマトライダーの撃破に伴って、ジャマトバックルとデザイアドライバーが散らばる。ジャマトバックルは大きく吹き飛ばされてしまったようで、辺りを見ても影は無い。だが、デザイアドライバーはあった。中央のIDコアを取り外して、掌で握りつぶす。案外簡単にIDコアは壊れ、これでこのドライバーはジャマトから解放されたってわけだ。俺は変身解除をすると、もう一つのデザイアドライバーをジャケットの中にしまい込む。もしかしたら使い道があるかもしれない。これは黙っておこう。ちょうどナビゲーターの目もないし。
「奏斗!無事だったんだね!」
ちょうど、鞍馬祢音が城から出てきたところだった。そういえば、こいつらとは一度も城内で会わなかったな。続いて、葉山梢や景和等、一通りのメンバーがぞろぞろと出てくる。そこに青山と上遠の姿は無かった。あいつら、まだ脱出できていないのか。
「どうしよう」
「まだ出口の謎が解けてない」
口々に話す鞍馬祢音と吾妻道長も、連戦で相当疲れているらしい。だが、暗号自体は解けている。後はジャマト語をどうするか。
「それは…」
「謎なら解けている」
振り返ると、英寿ペアや晴屋ウィンペアに紛れて、青山と上遠もこちらに近づいていた。英寿と合流していたのか。何はともあれ、これで全員揃った。
「ここにある文字は、館内に付いていた絵画の文字と同じだ。ヒマワリのヒ。ウツボカズラのラ。アケビのケと同じ文字だ」
館内の絵画ぁ?もしかして、運営はそっちの方向から暗号を解く事を想定していたのか。英寿はスマートに真実に辿り着いていたが、大きく遠回りして館内の料理のレシピから真実を解き明かした俺たちは、かなり泥臭い戦法だったのだと自覚する。まぁ、上遠の推理と観察眼があってこそだったが。
「じゃあ…答えはヒラケだ!」
景和はお手本のような間違いをし、エラー音に突っぱねられる。吾妻道長にニヤけ顔で見られていた。そう、暗号の答えは日本語じゃない。
「ジャマトの言葉だよ。あいつら、変身するとき、ジュラピラ〜ヘンシン〜って、言ってたじゃない!?」
青山は大袈裟なジェスチャーで謎解きに意見を加える。英寿はそれを面白いと受け入れ、同調した。
「そうだ。それがジャマトの言葉で変身を意味していたとしたら」
「なるほど。じゃあ答えは、その手帳の中か」
俺が上遠の手帳を指差すと。上遠は手帳に挟まれた紙を広げる。
「それはジャマト語の音読表だ」
「これがジャマト語の読み方…」
鞍馬祢音が表を眺めていると、ジャマトの残党がまだ飛び出してくる。どれだけ湧いて出てくれば気が済むのか。
「ここは俺たちが食い止める!その間に!」
「青山ちゃん!お願いね!」
景和と鞍馬祢音は真っ先にジャマトを食い止めるべく変身する。俺はその前に上遠に向き直り、一つ言葉をやった。
「約束…守ったな」
『BLAST!』
俺は上遠の顔を見る前に変身し、防衛に加わる。背後では、青山と丹波一徹。そして被害者陣営が音読表と手帳を頼りにジャマト語の解読を試みている。音読表に無い文字は、手帳から抜き出し、いよいよ暗号の答えが、青山の掛け声で、彼らの声により発せられた。
「せーのっ!」
「「「「「「セオスズダ!」」」」」」
遂に、扉は開いた。
「やっとか…」
俺たちはジャマトの魔の手よりも速く、扉の向こうへ走り抜け、
『MISSION CLEAR』
迷宮の扉は再び固く閉ざされた。
*
「この子達のことは、私がきちんと送り届けます。そちらのお嬢さんは本当にいいんですか?」
「ああっ、いいんです、いいんです!」
尾形次郎さんの親切な誘いを、私は笑顔で断る。一応私はデザイアグランプリ参加者。最後までツムリちゃんの話を聞いてからじゃないと、解散できない。ツタが取れた首元は、やけにスースーしているように感じる。
葉山良樹君と浮世英寿さんが最後に会話をしていたので、折角だから私もすることにした。この探偵、上遠赤哉君と。
「今日はありがとう!助かった!」
私の労いの言葉に、上遠君はペコリと会釈するだけで返した。相変わらず愛想無いなぁ。でも、私は知っている。彼の持つ情熱と、約束を守る強い意志を。
被害者の皆はバスに乗り込み、無事に帰路へとついた。束の間と言うにはハチャメチャ過ぎた出会いを、彼らは内に秘めながら生活していくんだろう。デザイアグランプリの情報を公に公開するのは禁止されているのだから。もっとも、スターとインフルエンサーと一緒に命がけの脱出ゲームをしただなんて、言っても誰も信じないだろうけど。
「桜井景和様のエントリーに伴い、丹波一徹様はここで脱落となります」
そうだ、桜井景和っていう就活生の人の代わりに、おじいちゃんがここで脱落になるんだった。おじいちゃんはそれを快く受け入れているようで、桜井景和さんに感謝の笑みを浮かべた。
「ああ。助けてくれて、ありがとう」
「でも、おじいちゃんにも叶えたかった理想の世界があったのに…」
奏斗曰く、この人はお節介のお人好しらしい。最初は言われても信じられなかったけどな。エントリーする前は、ヘロヘロでのらりくらり。不安要素の擬人化みたいな人だったのに。私たちの周りにも、記憶が無いせいで性格が変わっている人もいるのかな?
「いんや。今を精一杯生きていれば、まだまだ現役。若くなりたいとは、思わなくなったよ」
「そっか…お元気で…!」
『RETIRE』
おじいちゃんは、孫を見るような朗らかな笑みと共に、脱落となった。デザイアドライバーがカラカラと地面に落ちて、ツムリちゃんがそれを拾う。桜井景和はさんはそれを見届けると、今度は私に近づいてきた。
「これ、確か君のだよね。ありがとう。返すよ」
そう言って、桜井景和さんはニンジャバックルを差し出してくる。ニンジャバックルね…渡すのは惜しいけど、この人も私たちのために十分戦ってくれた。私なんて、ほとんど何もしてないし。皆に守られてばっかり。だから、今度は私が守る番になるんだ。
「いや、それはあげます。私には、これがあるから!」
私はポケットに忍ばせていた、フィーバースロットバックルを高らかに掲げる。それは、塔を出た直後。
「必ず勝ち抜く…!そう信じた奴だけが…運を引き寄せる!」
迷宮の庭園にて、戦闘をギーツとパンクジャックの二人に任せた私たちは、植え込みの側に隠れていた。その時、私たちを見つけたメイドジャマトが襲ってきたんだけど…!
『FEVER MAGNUM!』
ギーツが上下何方も白くなった姿に変わっていて、二丁拳銃を連射して私たちを助けてくれた。ギーツの鮮やかな連撃に倒れたメイドジャマトの服から、コロッと宝箱が落ちる。
「ねぇねぇねぇ!これって!」
そこに入っていたのが、フィーバースロットバックルってわけ。
「じゃあ、これはありがたく使わせてもらうね」
それに、私には厨房でゲットした小型バックルが二個もある。そのニンジャバックルは、私からの迷惑料だ。
桜井景和さんは、ツムリちゃんから受け取ったデザイアカードに、自分の願いを書き始めた。
「また世界平和をお願いするの?」
「ううん。俺の願いは、退場した全ての人たちが蘇った世界」
「相変わらず壮大だな」
鞍馬祢音さん、桜井景和さん、浮世英寿さんの三人が、次なるゲームに向けて火花を散らしている様子を、私は遠巻きに眺めていた。そして、何やら吾妻道長さんと話し終えたらしい奏斗に、耳打ちで話す。
「ねぇ、退場した人を蘇らせるって、なんでさっきいなくなったおじいちゃんを戻そうとしてるの…?」
私の質問に、奏斗は深くため息をつく。一々ムカつくなぁ。
「お前さぁ…わかってなかったの?さっきの爺ちゃんは脱落、記憶を消されるだけ、退場はジャマトに殺られて、二度とこっちに戻れなくなった奴らのこと…!」
「ふ〜ん…………あっ!」
デザイアグランプリの了見を深めていると、一つ大きなことに気づく。私が今日何のために外出していたか。それは…
「今日部活だったじゃん!!!あぁ〜!バックレたと思われてるよ〜!てかっ、部活のバッグ、さっきのバスん中だし!ねぇ!奏斗、どうしよう!?」
「じゃぁな〜」
私が助けを求めた当人は、鼻で笑うと、振り向いて歩き出していた。デザイアドライバーを外して、元いた場所に転送されようとしている。私は、ガラガラの喉の痛みを忘れるくらい、思いっきりの声で叫んだ。
「卑怯者!!!」
と。
※
そう、やっぱり浮世英寿は母親を探して…
「そりゃ、運営が落とそうとするわけだ。それで、浮世英寿は君のお父さんに興味を持ちましたか…?」
「うん…でも、何でこんなことさせたの!?お父様もお母様も、何もデザイアグランプリに関係無いじゃん!」
危ない船を渡らせたせいで、彼女は怒り心頭だ。
「まぁまぁ…落ち着いてくださいよ。事情は追って話します。今見えてるものが…正しいなんて限らないんだから。それが、自分の記憶でさえもね」
あなたもそう思うでしょ、奏斗先輩。あなたには二度と見せさせない。あの凄惨な過去は…
DGPルール
ゲームマスターの許可があれば、
エントリー権の譲渡が可能である。
たとえ相手が、デザイアグランプリ未経験の、一般人でも。
次回:仮面ライダーギーツ外伝
「そのドライバー返せ!!!」
─生き残りをかけた─
「取り返せなかったら…ライダーの座から脱落?」
─椅子取りゲーム!─
「信用ならないね」
「"変異したジャマトを見つけた"とかね」
10話 変心Ⅳ:奪われたドライバー