仮面ライダータイクーン・桜井景和の途中参戦によって、第二回戦を切り抜けたデザイアグランプリ。新型バックルの登場によって、強化されてゆく仮面ライダーたちだったが、プレイヤーの一人、仮面ライダーパンクジャック・晴屋ウィンが運営側だと判明。ギーツを脱落させるために暗躍を開始していた。なぜ運営はギーツを落とそうとするのか、隠さねばならない秘密があるのか。それは…
「浮世英寿の真の願いは…母と会うことか」
「うん。スターになったのも、そのためなんだって」
スターになって、デザイアグランプリのスポンサーにでもなるつもりか。鞍馬祢音さんは、立てかけた鏡の前で髪を縛りながら、僕との会話を続けていた。やけに気合入ってるな…と、コーヒーをちびちび飲みながら思う。
「あの、失礼だったらいいんですけど、誰かと遊びにでも行くんですか?」
「うん。奏斗とご飯に行こうと思って」
思わず口の中のコーヒーを吹き出してしまった。霧状に散布されたコーヒーが、大事な機材にかかって、あたふたと拭く。
「何?朋希も行きたい?」
「いやっ!そうじゃ無いんですけど!何で彼なんです!?絶対仲悪いでしょ!?」
僕は祢音さんに好意はない。ただの部下と上司である。しかし、何で寄りにもよって奏斗先輩をご飯に誘ったのだ。ダパーンとナーゴは以前のゲームで蹴落とし蹴落とされた、不仲中の不仲のハズ…奏斗先輩は殺されでもするのだろうか。
「ま、奏斗とはまだ仲良くなれて無いしね〜じゃ、行ってきま〜す」
祢音さんは僕の訴えなど聞く耳を持たず、IDコア管理室を出て行ってしまった。どうしたものか……いや、やっぱり止めるべきでしょ!
「ちょ、ちょっと待ちましょうよ祢音さん!」
僕も祢音さんの後を追おうとIDコア管理室の扉を開ける。しかし、そこにいたのは祢音さんではなく、別の男だった。
「久し振りだね〜仮面ライダーハイトーン」
「帰れ」
「まぁまぁいいじゃないか。実は借りたくてねぇ〜ガルンとランサーのIDコアを…」
男は、手を差し出す。
*
ここで座っている間に、どれだけのお冷を消費したのだろう。遅い…遅すぎる…本当に来るのか?
「お客様、お待たせしました。ナンプレートでございます」
「…ありがとうございます」
男性で褐色肌の店員さんが、待ち望んだものをテーブルに運んでくれた。ここは潮風の気持ちいい海に隣接した、人気のインドカレー屋だ。席も窓際の二人席を取れた。ロケーションは完璧だ。
俺は図書館から借りてきた雑誌を、鞄にしまう。
まだ湯気の立つナンがニ枚に、シーフードカレーと大豆などを煮込んだダルカレー。鼻腔を刺激するスパイスと、ナンから漂う優しい小麦の香りに、今すぐがっつきたい気持ちを抑え、手を合わせる。
「いただきます」
それからは早かった。若者の間で話題と聞き、恥を忍んで来て正解だった。海が近いこともあって、新鮮な魚介の使われたシーフードカレーは絶品だし、豆類もしっかりとアク抜きがされていて癖がない。ナンも大きすぎるかと思ったが、これじゃ足りないくらい手が進む。以前、ギロリのカレーを逃したときは残念だったが、これで無念が少しは晴れるだろう。
半分ほど手が進んだところで、周りの席に座っていた若者たちが黄色い歓声を一斉にあげて、俺は耳を塞ぐ。どうやら、誰か有名人が来店したらしい。
「ねぇ!祢音ちゃんじゃん!!!」
「ウソっ!?本物めっちゃかわいい!!!」
うるさいなぁ。カレー屋はライブ会場じゃない、カレーを食べるところだ。俺は真っ当にカレーを楽しみに……あれ?なんで俺ここに来たんだっけ?
「あっ!奏斗早いね〜って!?ちょちょちょ!何もう頼んでんの!?一緒に食べる約束だったじゃん!」
若い女どもの波を掻き分けて出てきた鞍馬祢音は、小さいスーツケースを手放して俺のテーブルに近づいてきた。約束…?
「いや、約束なんてしてないが?」
「もうっ!とぼけないでよ〜!」
ちっ、バレてたか。迷宮を脱出してからというもの、しばらくジャマトの出現は無かった。平和な毎日を過ごしていた俺に届いた一通の連絡。それが、鞍馬祢音からの『一緒にご飯食べに行かない?』という誘いだった。スパイダーフォンである程度他の参加者と連絡は取れるが……こんな形で悪用されるとは思っていなかった。断っても良かったのだが、どうしても惹かれてしまった。集合場所に指定された、予約が既に三ヶ月待ちまで伸びていた、この超人気カレー店内にの存在に。
鞍馬祢音は、上を向いて大袈裟なため息を吐きながら椅子に座る。周りの女性客からの、視線が刺さる。これは俺が鞍馬祢音を蔑ろに扱っている件への怒りか…?いや、それとも鞍馬祢音と話している恨みか…有名人とは関わりたくない。
「お客様、大変申し訳無いのですが…」
黙って牽制し合う俺たちの元に、さっきカレーを運んできた褐色の店員さんが声をかけてくる。
「他のお客様のご迷惑になるので、奥の座敷に移動してもらってもよろしいでしょうか…?」
鞍馬祢音目当てに、一気に店内は騒がしくなっている。俺みたいに興味のない奴にとって、最悪極まりない状況のはずだ。ここは大人しく従うことにして、俺と鞍馬祢音は店内の角に位置する個室に移動した。個室には、何かの民族の物と思われる仮面が壁にかけられていて、薄気味が悪い。たが、入り口には簾がかけられていて、人だかりも避けられそうだ。俺たちは荷物を壁のフックに吊り下げると、腰を下ろした。
鞍馬祢音が相当ご立腹なものなので、俺は改めて運ばれたカレーに手を付けず、彼女のトークに付き合うことにした。
「で!今日も二人から逃げるのに手こずっちゃってさぁ〜」
「もしかして、家出配信ってやつ?」
「知ってるの!?まぁ、友達と会うって言って見逃してもらったんだけどね〜」
友達って、俺のことかよ……家出配信って、わかってはいたが相当家庭状況に参っているらしい。鞍馬財閥…金融、メーカー、商社、サービス……日本のあらゆる経済を支配している、本当のセレブの一族。デザグラを通しているとはいえ、その令嬢に飯を誘われるとは、三ヶ月前の俺に言っても信じなかっただろう。
鞍馬祢音がハイテンションで話を続けているのに相反し、俺の心は警戒を解けていなかった。俺は、過去のデザグラで鞍馬祢音を陥れようとした身。他の参加者を差し置いて、俺を飯に呼び出した理由が掴めない。好意的に捉えるなら、これは鞍馬祢音に過去の不敬を撤回する場を与えるつもりか。でも、本当は違うだろう。
俺は鞍馬祢音に恨まれている。そして、今度は彼女が俺を騙し討ちしようとしているのではないか。鞍馬祢音は、次のゲームに向けて俺に探りを入れようとしているはずだ。
予想が的中したのか、会話は不自然にデザグラの話題に変わる。しかし、鞍馬祢音から出た質問は、想定外の内容だった。
「ねぇ…奏斗はさ…デザイアグランプリの運営の人たちって、どう思う?」
てっきり、デザイアカードに書いた願いを聞かれるのかとひやりとしたが、運営の事か。彼女の質問の仕方は言い淀むようで、歳頃の女子たちがするような愚痴の類とは違う雰囲気だ。何か隠し事があるのかと勘ぐったが……警告の意味を含めて、俺は彼の正体を伝えることにした。
「信用ならないね。パンクジャックって、いるだろ?あのチャラ男。あいつ、デザイアグランプリの運営らしい。ギーツを落とそうって、バッファに誘いをかけているのを、青山と聞いた」
「ウィンが…?」
鞍馬祢音にあまり驚いている様子はない。恐らく、鞍馬祢音が今日俺を呼んだのはこの質問をするためか。こいつもこいつなりに、運営に不信感でもつのってきたか。俺も俺なりに調べてきた。今の鞍馬祢音も信用はできない。俺は壁にかけていた鞄から一冊の雑誌を取り出し、鞍馬祢音に突き付ける。それは半年前に発行された、インディーズバンドを紹介するものだ。
「俺も気になって調べてみた。晴屋ウィンは、自分が言っていた通り、知る人ぞ知るパンクロッカー……たが、実家は晴屋商事っていう、貿易を扱う超大手の大企業。そうだな…鞍馬財閥の次か次くらいには、金持ちなんじゃないか?」
雑誌の中に写る晴屋ウィンの所属するウェザーハーツは、別に表紙を飾っているわけではなく、今人気真っ只中のバンド・エンペラージョーの同期その3として、とても小さい枠で紹介されているだけだったが。探すのに苦労した。本当に知る人ぞ知るすぎる。CDの売上も検索をかけてみたが、大して売れた様子もなく、赤字。たが、破産せずにここまでやれたのは、親が借金を肩代わりでもしたのだろう。
だが、問題は晴屋ウィンではない、その大本、晴屋商事にある。
「お前、考えたことある?デザイアグランプリの運営資金がどこから来ているのか」
鞍馬祢音は俺の言いたいことがわかったのか、目を大きく開いた。
「世界を守るゲームなんて、大層な事は言ってるが。デザイアグランプリのシステムは、明らかに現代のものじゃない。ジャマトの生態だってそうだ。だから、デザイアグランプリの運営は、ここじゃないどこから来た異世界人だって、俺は考えてる」
鞍馬祢音が黙ったままなので、そのまま話を続けた。
「デザ神の願いを叶える力……それも異世界から持ち込んだものだろう。浮世英寿は、元からスターじゃなかった。過去すらも改ざんする程なら、叶えられない願いは無いに違いない。だったら、デザイアグランプリを運営するための資金だって、その力で賄えばいい話だ。でも、運営はそれをしていない。願いを叶えるためには、一定の条件があるのかもしれないな………だから、運営には独力で金を稼ぐ必要がある。そのために……後はわかるか?」
わざとなのか、鞍馬祢音は少し盛った反応で変える。
「あー!だから、お金持ちの会社とスポンサー契約でも結んで、お金を払って貰ってるってこと!?」
「そうだ。金を払ってもらった会社には、きっと異世界の技術でも横流しさせて満足でもさせてるんだろう。晴屋商事は、デザイアグランプリと癒着している」
我ながら、いい線を行っている考察だと思う。俺には、もう一つ疑念があった。それは、不自然な鞍馬祢音の追加エントリーについてだ。
「………最近、鞍馬財閥に不自然な金の動きはあるか?」
質問を投げかけられた鞍馬祢音は、明らかに機嫌が悪くなった様子だ。家出したいと言っときながら、家族への愛は本物らしい。
「はぁ?私が運営だって言いたいの!?」
「憶測の話だ…晴屋商事がデザグラと繋がってるなら、鞍馬財閥が狙われていたって、不自然じゃないだろ!」
「私だって知りたいよ!だって!」
鞍馬祢音の怒気に、思わず声が大きくなる。鞍馬祢音も声を荒げようと立ち上がったその時…
鼓動を感じた。
俺たちのいる座敷の前を、赤い帽子の少女が通り抜けたかと思うと、狭い部屋の中で、二つの物体が地面と擦れ合う音がした。俺は、自分の腰の近くに落ちた"それ"を拾う。白いに、黒いクレスト。落ちていたのは、仮面ライダーダパーンのIDコアだった。同時に、鞍馬祢音もナーゴのIDコアを手に驚きを隠せない様子だ。
俺は反射的に、靴も履かずに座敷を出る。入り組んだ通路には、赤い帽子の少女はおらず、鞍馬祢音目当てに集まった観客しかいなかった。何が起こっている…?あの少女はジャマトなのか?それとも運営?次のゲームの舞台設定か?それともまた不測の事態?
「ねぇ!奏斗!」
鞍馬祢音が俺を呼び止める。振り返ると、彼女は家出配信用のキャリーケースをひっくり返していた。
「ドライバーが無い!」
あの赤い帽子の少女は、IDコアのみを残し、俺たちのデザイアドライバーを盗んだようだ。いよいよ、次のゲームが始まる。
デザイア神殿に訪れた参加者は、一人残らずドライバーを装着しておらず、全員あの少女に盗まれた様子だった。盗まれたのはデザイアドライバーのみで、IDコアとバックルは無事。随分と器用に盗んだものだ。
「これで参加条件が揃いました。それでは今から、デザイアグランプリ第三回戦・椅子取りゲームを始めます」
「椅子取りゲーム…?」
「椅子は椅子でも、ライダーの座を賭けたゲームです」
モニターに表示されたジャマトは、今までに見たことが無いタイプだ。黄土色と赤のグラデーションの体色に、網目状の身体。そしてウイルスに酷似した巨大な両手。キノコがモチーフなのか。名はビショップと付けられている。そのビショップジャマトを取り囲むように、七つのドライバーが表示された。
「ここにいる七名のドライバーが、謎の少女に奪われて、一つはジャマトに使われ、ライダーになってしまいました」
七つのドライバーの内一つに、朽ち果てたIDコアが表示される。
「つまり…残るドライバーは六つ。エリア内に潜伏する隠れんぼジャマトを撃破する前に、ドライバーを手に入れていた方が勝ち抜けとなります」
今回のゲームも、以前の迷宮と同様に、ただフィジカルに依存するゲームでは無い。少女の潜伏先を探すスキルが必要になるだろう。鞍馬祢音は不安げに呟く。
「取り返せなかったら…ライダーの座から脱落?」
「ジャマトが手に入れるよりも先に、ドライバーを取り返さないと、勝ち残れる枠はどんどん減っていきます」
「じゃあ、ドライバーはどこを捜せば?」
景和の問に、運営は答えるはずもなく。既に戦闘で軽症を負っていた英寿が、何時もよりも引き締まった様子で言うのだった。
「手がかりはただ一つ。赤い帽子の女の子だ」
一度デザイア神殿から戻り、カレー屋から出た俺たちは、互いに睨み合っていた。旗から見た観客たちが、痴話喧嘩か?痴情のもつれ?何て好き勝手言っている。俺たち二人の関係は、ゾンビサバイバルの時よりも悪化していると言えた。
「私、奏斗には負けないから」
「ふんっ、お嬢様がどうやって生身でジャマトと戦うんだよ?」
ジャマトもドライバーを狙っている。生身の戦闘は避けられない。特に、俺たち二人は、スポーツに疎いお嬢様と、怪我の足を引き摺る男だ。他のフィジカル強者たちとは、アプローチを変えなければならない。
「そっちは勝手にしてれば?私には、いっぱい味方がいるもん」
鞍馬祢音は、デコレーションされた自撮り棒片手に去ってゆく。配信でもして、視聴者から情報提供をあおるつもりだな。たが、俺には秘策がある。迷宮脱出ゲームで、倒したジャマトライダーからドロップしたドライバーだ。念のため取っておいたが、まさかこんなに早く使うタイミングが来るとは。予備のドライバーは、自宅は運営に監視されている可能性があったので、ボランティア部の部室に隠しておいた。早速取りに行こうと、俺は駅へ向かう。
*
なんか奏斗と鞍馬さん、険悪ムードで不安だなぁ……
「はぁ…」
ため息が止まらない。本当は奏斗も呼ぼうかなぁと思ったんだけど、とても誘える感じじゃなかった。私が向かっているのは、学校の付近に位置する神社。そこに、赤い帽子の女の子の情報があると、私は確信している。どうしようかなぁ……やっぱり一人じゃ不安だし?奏斗呼ばなきゃかなぁ…
「「はぁ…」」
ため息が誰かとシンクロした。驚いて、声の主へ視線を送ると、そこには蕎麦屋の作務衣を身に纏った、桜井景和さんがいた。
「桜井さん…!」「青山ちゃん…!」
私たちはお互いに名前を読んだだけで、会話が続かない。桜井景和さんがいたのは、この町一番人気の蕎麦屋さんだった。私生活がどうなっているのかは知らないけど……ここの店員さんだったのか。気まずいな…と思って、思わず切り込んだ質問をしてしまう。
「あの…なんか悩みでも?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどね。なんか、祢音ちゃんと、奏斗君が心配って言うか…」
「えっ!それ、私も気になってたんですよ!」
会話の共通点どころか、悩みの内容まで丸まんま同じで、思わず声のトーンが上ずってしまう。デザイア神殿に来たときに、最初から二人はいたんだけど…ずっと睨み合っていて怖かった。海賊ゲームで一緒に戦ってた時は、あんなに仲良さそうだったのに。
「鞍馬さんと、奏斗って、仲悪いんですか?」
私の質問に、桜井さんは首を傾げながらも答えてくれた。
「う〜ん?それは俺もわかんないんだよね。実は、奏斗君がゲームに参加するのは二回目なんだ。一回目の時は、結構荒れてて……祢音ちゃんを騙して、落とそうとしたんだよ」
「はぁっ!?それ、めっちゃ悪いやつじゃないですか!」
そんなことしてたのか…後で説教決定。でも、二回目の参加なのはなんとなくわかってた。昔のこと聞いても、はぐらかすばっかだし。
「でも、それ以来はなんか反省してみたいで…?俺は迷宮脱出からの参加だったけど、それまではいい感じだったんでしょ?」
「はい…心配ですね……今は、仲間割れしてる場合じゃないのに」
桜井さんって、結構周りが見える人なんだな。お人好しって、皆から称されている理由が、わかる気がする。晴屋ウィンって人が運営だってわかって、私は他の参加者に疑いをかけずにはいられない状態になっていたけど、この人なら、信用できる。
「私、女の子がどこにいるか知ってるんですけど、付いてきてもらえません?早くしないと、ジャマトにドライバー取られちゃうかも…!」
「ホントに!?助かったよ!」
私が神社に女の子がいるってわかった理由。それは…
迷宮の事件があってからというもの、バスの運行数は凄い減ってて、部活が終るタイミングで、家まで運んでくれるバスはなかった。くそっ、あの部長…一時まで部活伸ばしやがって。そのせいで家までの距離を歩かなきゃいけない。こんな、重労働毎日やってらんない。
「最近さぁ、優付き合い悪くない?」
「えっ?」
考えに耽っていて、隣の同級生の話を全く聞いていなかった。しまった、何の話だったんだろう?私の左肩に手を乗せた彼女は、バレー部のエースの子だ。この子には逆らえない。もし逆鱗に触れてしまったら、私の部活での立場はたちまち無くなってしまう。とりあえず私は、適当に話を合わせることにした。
「そ、そうかなぁ……」
「わかるわかる。学校でも、なんか避けられてるカンジ」
右側から、エースの子の幼馴染ががっちりと距離を詰めてくる。この二人が、バレー部を掌握している諸悪の根源……って、奏斗みたいな言い回しになってたかな。今まではバレー部であり続けるために、なし崩し的にこの二人に従って、目立たないように意見を合わせてた。二人が喜ぶように、共感し、怒り、悲しむ。バレーを続けるためにはそれしかなかった。でも、この頃はそれすら意味を感じられなくなっている。
「あ、でもこの前、墨田奏斗と一緒にいるの見たって、友達が言ってたの聞いたよ?しかもおそろコーデで」
「マジぃ?あの勘違い野郎と?」
迷宮脱出ゲームの終わり、二人で話してたのを誰かが見ていたのか。おそろコーデって…デザイアグランプリのユニフォームのことね……ボランティア部と同様に、奏斗の学校生活の悪評は底辺に近い。周りを拒絶する鋭い目つきと、塩対応で、嫌われるのは必然だったけど。だったんだけど…
「いやぁ……話してみたら、結構悪い人じゃないよ…?」
私が見せた本音は、やっぱり二人の意志にはそぐわないみたいで、二人は顔のシワを寄せる。
「はぁ?んなわけ無いじゃん。優、これから墨田と話すの禁止ね」
「あとボランティア部もね〜これ、強制だから」
強制…ね。私は、ボランティア部も、奏斗も悪い人だとは思えない。皆自分なりに考えがあって、それが偶然学校というシステムに合わなかっただけなんだ。頭ごなしに否定なんてできない。けど…
「う…うん、わかったよ…」
「だよね!良かった〜!じゃ、それだけだから。じゃぁね〜」
二人は、私の返答を聞くと、足早に道を引き返していった。もう用は無いんだろう。あぁ…情けないなぁ…本当なら、あの人たちの誤解を解いてあげるべきなのに。
私は家を目指して、人気のない神社を通り過ぎた。
心臓がとくりと高鳴った気がして、足が止まる。
そして、カラカラと足元にIDコアが落ちる。
「えっ…?」
私がIDコアを拾うと、神社の本堂の奥へ、赤い帽子の女の子が歩いて行った。遅いような速いような、不思議な動きで。そして右手には、デザイアドライバー。もしかして、あの子?鞄をドカッと下ろして中を探っても、やっぱりドライバーだけがない。
「きみ!ちょっと待って!」
赤い帽子の女の子は、雑木林へと消えてゆく。私は走って追いかけようとしたけど…
『GATHER ROUND』
そこで呼び出しがかかった。
私と桜井さんは、赤い帽子の女の子を目撃した神社へとやって来た。休日の昼下がりだと言うのに、人気はなく、葉の落ちた木に結ばれた凶や小吉のおみくじが風に揺れている。部活用の鞄を背負い直しながら、赤い帽子の女の子を探す。
「あそこの雑木林の奥に、女の子が歩いて行ったんですよ」
「雑木林ね…」
私たちがちょうど雑木林へと続く石畳の階段を見ると、そこを数体のジャマトが忙しなく登っていくのが見えた。あいつら全員にドライバーを奪われたら、ジャマトライダーだらけで勝ち目が無くなる…!
「ジャマトたちも探してるんだ…!」
「急ぎましょう!」
大急ぎで飛び込んだ雑木林は鬱蒼としていて、ジメジメと足元が泥濘む。その中で、ジャマトに囲まれるように、赤い帽子の女の子が立っていた。一体のジャマトが少女の手から無理やりドライバーをひったくる。
あのジャマトからドライバーを取り返す。こんな事もあろうかと、秘策を考えてきたのだ。そうでもなきゃ、ここまで部活用の鞄を持ってこない。
「よし…桜井さん…ここは私にまか」
「そのドライバー返せ!!!」
桜井さんは私の話を聞くよりも早く、ジャマトの群れへ走り出してしまった。そのがむしゃらなタックルで、奇襲を受けたジャマトが驚いている。
「もうっ…少しくらい待ってくれても…!」
私は鞄からバレーボールを取り出す。それを左手で構えると、右手を添えて心を落ち着かせる。そして、ボールを前方に放り投げ、ジャンプと共に右腕をしならせるように動かし、ジャンプサーブを放った。私の右手に弾かれたボールは空中でスピードを増し、ジャマトの頭に直撃。まるで弾丸に撃ち抜かれたかのように、ジャマトはぶっ飛んでいった。上手く行った…!制服でやるの初めてだったけど…!
桜井さんは私のサーブに驚きながらも、ジャマトからドライバーを奪い返し、私へそれを投げる。
「青山ちゃん!」
「ありがとうございます!」
「困った時は助け合い!行こう!」
ゲットできたドライバーは二つだけ。私たちは、他の参加者を助けるべく、IDコアをドライバーにはめた。
空に投影された映像には、ドライバーの状況が逐一表示されている。走りながら横目で確認してみると、残るドライバーは三つ。私たちが手にしたドライバー以外の二つは、ジャマトが手に入れたみたいだ。一つ、ヒビ割れたIDが表示された分が増えて二つになっている。ジャマトはドライバーをゲットするだけじゃなくて、変身できない参加者も襲うらしい。工業大学の構内に、ジャマトが入っていくのが見えた。
「残るドライバーは三つかぁ…さ、こん中の誰が脱落するかな」
円形になった校舎の中心の中庭に、浮世英寿さん、吾妻道長さん、晴屋ウィンさんの三人が集まっている。そして同時に、ジャマトの群れも乱入してきた。中にはジャマトライダーが一体混じっている。速く助けないと…!
「みんな!今助ける!」
「ここは私たちが!」
「情けなんているか!」
ジャマトとの間に割って入った私と桜井さんはバックルを構えるが、その手を吾妻さんが払った。相当気が立っていて、目は力強く私たちを睨んでいる。
「なんでだよ!困った時こそ助け合いだろ!?」
負けじと喰いかかる桜井さんの胸ぐらを、吾妻さんが掴む。
「お人好しが…!俺達がライバルだってことわかってんのか!」
今にも殴りかかりそうな雰囲気に、思わず声が出る。
「助け合いましょうよ!この戦いでデザ神が決まるわけじゃ無いんですよね…!だったら、ジャマトに殺されて終わるよりは、皆で次のゲームに行ったほうがいいんじゃないですか…!」
ここで口論を続けるほうが面倒だと思ったのか、吾妻さんは手を離して桜井さんを押し飛ばす。だけど、納得がいっている様子はない。
「時には周りを頼ってもいいんじゃないの?一人で生きていける人間なんていないわけだし…!」
「お前の言う通りかもな」
桜井さんの言い分に、同調したのが浮世さんだった。
「一人でやれるって信じても、どうにもならない時もある…自分を信じすぎるのが、裏目に出ることも…誰かの支えがなければ、人は生き残れない」
桜井さんは、浮世さんの言葉で決心が付いたのか、もう一度ジャマトに向き直る。よし…私も。桜井さんはニンジャバックルを、私はフィーバースロットバックルをドライバーにセットする。
『SET』『SET FEVER!』
私はバレーでサーブを打つときのルーティンと同じように、左手を伸ばして右手を左手首に添えると、右手を頬まで引いた後、スロットを回した。
「変身!」「変身っ!」
『NINJA!』『HIT!ZOMBIE!』
スロットで当たったのは、巨大な毒手にチェンソーのゾンビだった。めちゃくちゃ禍々しい見た目だけど、ちゃんと使いこなせるかなぁ…?ふとした間に、桜井さんの変身したタイクーンがもう戦っている。私も行かねばと、ゾンビブレイカーのポンプをスライドさせる。
『POISON CHARGE!』
「おんもんたっ!」
刃が回転して、激しく振動するゾンビブレイカーに振り回されながらも、一匹づつ着実になぎ倒していく。右足を軸に一回転して、ゾンビブレイカーに込められた毒を一気にまき散らす。
『TACTICAL BREAK!』
即効性の毒を得たジャマト達は、表面から溶けてドロドロと崩れる。結構グロい。ゾンビブレイカーは使いづらかったので、少し離れたところのジャマトに投げつけると、左手の爪でジャマトの胴体を刺しては投げ飛ばし、群れを将棋倒しにさせる。さらにドライバーのリボルブオン機能を発動。三回ほど連続で側転しながらゾンビブレイカーを拾いつつ、鎧を足側に移動させた。
『REVOLVE ON』
側転の勢いで正面のジャマトにドロップキックをくらわせ、振り向きながらゾンビブレイカーで残りのジャマトを両断した。
「次はジャマトライダーを…って!?何戦ってるんですか!?」
なんと、大学の広い駐車場では、果敢にも浮世さんがジャマトライダーに生身で立ち向かっていた。ジャマトからドライバーを取り返すつもりらしい。けど、人間の拳じゃジャマトライダーに傷を付けられなくて、逆に吹っ飛ばされてる。
「英寿!今助ける!」
タイクーンが直様浮世さんを助けようと駆け出す。私もその背中を追おうとしたが、私を呼ぶ声に動きが止まった。
「青山優ちゃん…だよね?」
タイクーンの横をすり抜けるように、声の主は現れる。桜井さんには見えていないの…?声の主は、黒いローブを纏っていて、服装はおろか顔すら見えない。声質的に、なんとなく男の人だってのはわかった。何なんだ、この人。
「そうですけど…何で私の名前を?」
会ったことがない人だけど…聞いたことがある声な気がする。いったいどこで…?男の人は、私の問に答えずに話を続けた。
「墨田奏斗君に、伝言をお願いしたいんだ。"願いを叶えたいなら、思い出せ。君の過去に、幸多からざる"とね」
幸多から…ざる?普通、幸多からんって言わない?過去は不幸ばっかりってと?何が言いたいんだこの人。私が返答に困っていると、ナビゲーターのツムリちゃんがデザイア神殿を離れて、ここまで歩いてきていた。なんだろう、知り合いなのかな?顔は怒ってる。嫌な感じだ。
「ムスブさん、勝手な真似はやめてください。何のつもりですか?」
「おや…ツムリちゃん。本当は墨田君の所に直接行きたかったが…取り込み中だったんだ」
「全然返答になってません!」
この男の人は、"ムスブ"と言うらしい。ムスブさんの言動はのらりくらりしていて、ツムリちゃんの苛立ちが溜まっていくのがわかる。
「僕は墨田君と友達になりたいんだ。僕が望む理想の世界を、彼は叶えてくれるだろう」
「無闇にプレイヤーと接触するのは止してください!不正行為とみなして、即刻退場にしますよ!?」
「あぁ…わかったわかった。じゃあ最後に一つ、いや二つだけ」
ムスブさんはツムリちゃんをなだめるようなジェスチャーをすると、ダボダボの袖に手を通して、宝箱を取り出すと、それを私に投げてくる。危なっかしく受け取った宝箱の中には、なんとブーストバックルが入っていた。
「うそ…なんで?」
「それは口止め料。ここで話したことは、墨田君以外には内緒だ。他の参加者に追求されたら、シークレットミッションをクリアしたと言っておくといい。"変異したジャマトを見つけた"とかね」
この人…本当に何者なんだ?ツムリちゃんが背後で手持ちのタブレットを握りしめている。そしてムスブさんを叩こうとしたが、ムスブさんはそれをローブをひらひらさせながらかわして、右手の人差指を立てた。
「最後に…もし墨田君が伝言の内容を信じなかったら、君のIDコアに触れさせてあげるんだ。君の分だけセーフティーは解除してある。君は知らないかもしれないけど……一人減っているんだ。君の学校から、墨田君の大事な人がね」
最後にと言う割にムスブさんはペラペラと早口で台詞を読み上げると、霧に隠れたように消えてしまった。
「彼の言うことは聞くべきじゃありません!墨田様にも他言無用ですからね!!!」
ツムリちゃんは地団駄を踏むように広場から去ってゆく。何だったんだ…今の。正直疑問しかでてこない。あのムスブって人は…デザイアグランプリ運営の人なのかな。ツムリちゃんは、パンクジャックの蛮行を阻止しようとしたり、ムスブさんに振り回されたり、デザイアグランプリの運営も仲良しこよしじゃないらしい。
それに、一人減ってたって……まさか、あの子?てっきり転校でもなんでもしたんじゃないかって思ってたけど、あの子もデザイアグランプリの被害に?"
『COMMAND TWIN VICTORY!』
私が呆然としていると、既にジャマトライダーとの決着が付いていた。どうやら、浮世さんが新バックルを手に入れたみたい。全身メカニカルな造形で、頭部にはオレンジとシアンのバイザー。そして、両肩の一対のキャノン砲から放たれるビームで、ジャマトライダーを焼き払っていた。
「破壊力がありすぎだな…!」
新しい力に感嘆するギーツ。空を見上げると、タイクーンの表示がギーツに切り替わっている。多分、桜井さんからドライバーを借りたんだろう。私も今度こそ皆と合流しようと、浮世さんと桜井さんの元へ小走りで近づく。
「それ、新しいバックルですか?」
「俺も初めて見る装備だ。っと、その前に…」
初めて見る装備を十分に使いこなせている時点でスゴいけど。不思議とキザな感じはしない。これがスターではなく、本来の浮世さんの性格なのか。浮世さんは変身を解くと、デザイアドライバーだけじゃなく、マグナム、フィーバーはおろか、新型のバックルまでもをまとめて桜井さんに渡した。桜井さんは新型バックルを手に驚いた様子。
「ありがとう…て、これも?」
「ああ。感謝するのはこっちの方だ」
「まぁ…何はともあれ。これで私たち三人は勝ち残りですね」
浮世さんは、ジャマトライダーからドロップしたドライバーを拾おうと足を向ける。しかし、すんでの所でドライバーを横取りする人がいた。吾妻道長さんだ。
「これは俺のもんだ」
「椅子取りゲームってのは速いもん勝ちだろ?」
吾妻さんの肩に、晴屋さんが手を乗せる。この人の入れ知恵だな…そもそもこのゲーム自体が、ギーツを落とすための作戦だったんだ。
「せこっ!恥ずかしく無いんですか手柄をぶんどって!」
「作戦の内だ。お前みたいなモブならわかるだろ?このゲームは、スターも何も関係無い。勝ち残った奴だけが、たった一つの願いを叶えられる。そういうゲームなんだよ」
吾妻さんが空中のビジョンに目をやると、ジャマトが所持していた筈の椅子がバッファのものに変わる。そして、立て続けに、残りの椅子も全て埋まった。しかも、ジャマトのものに。
「椅子が二つ減った…!」
「今ドライバーを持ってるのって…!」
「俺たちだけだ」
つまり、今椅子に座れていないのは、浮世英寿さん、晴屋ウィンさん。そして、鞍馬祢音さんと奏斗の四人。今この状態でビショップジャマトを倒してしまったら、一気に四人が脱落になってしまう。何やってるんだ…鞍馬さん、奏斗…!
*
どうしてこんな事になった…!焦燥に駆られる心を抑え、打開策を必死に考える。ドライバーさえあれば、変身できるのに……!
背後には、負傷した二人。
そして…眼前には、二体のジャマトライダーが迫っていた。
DGPルール
IDコアは本人専用だが、
デザイアドライバーは誰でも使用可能である。
ジャマトに奪われないよう、ご注意を。
次回:仮面ライダーギーツ外伝
「どうせドライバーがあった所で、あなた達は退場になる」
─運営の暗躍は進む─
「今は負けられない!」
「休んでなんかいられるか…!」
「そのために戦うって決めたんだから」
「快富……俺は、俺達は、」
11話 変心Ⅴ:怒りのハイトーン