デザイアグランプリ、第三回戦。椅子取りゲーム。仮面ライダーの座をかけ、ドライバーを取り合う過酷な戦い。見事ライダーの座を勝ち取った三名と、未だ手に入れていないギーツ、ナーゴ、ダパーン、パンクジャックの四人が取り残され、椅子取りゲームの行方は如何に…そして、謎の暗躍を始めたこいつの目的とは…?
「いやぁ〜面白くなってきたじゃないか」
「お前…なんでカローガンにあんなこと言った?墨田奏斗に、隠された過去はないだろ?」
ムスブはキャスター付きの椅子でもゴロゴロと転がりながら、デザイアグランプリの様子を眺めている。ちょうどそこでは、ギーツにドライバーを貸すか否かで、タイクーンとバッファが揉めている所だった。
「俺は知ってるよ。二大会程前のデザイアグランプリ、そこで墨田奏斗にとって決定的な出来事が起こった。そしてそれを…君は隠蔽している。参加者全員のIDコアから消去したんだろ?鵜飼玲の記録を…!」
「お前…!」
激情に心が支配され、衝動的にムスブの胸ぐらを掴んで壁に押し当てる。絶対に守るんだ……先輩だけは…!
「俺はね…アルキメデルの破壊的な思想には反対してるんだ。安心しなよ…俺は彼と"友達"になりたいんだ。それに、君は今他に気にする事があるだろう?ギロリからの司令はどうするんだい?なっ、"仮面ライダーハイトーン"」
「あんな事案、直ぐにでもカタがつく。それよりも、ガルンとランサーのIDコアで何をするつもりだ」
「君の後輩の、成長のためさ」
ガルンとランサー。かつてのデザイアグランプリに参戦していた外国人二人組が変身していたライダー。小型バックルながらも、怒涛のコンビネーションで最終戦付近まで勝ち残った実力は計り知れない。脱落後は鞍馬財閥のSPとして吸収されたはずだが……厳重に管理していた二人のIDコアは、貸してと言いながらも、ムスブが盗んだあとであった。一応ゲームマスターにも報告したが、返ってきたのは全く別の司令だった。
(ダパーンが不正なドライバーを所持している。君にしか頼めない。協力を要請する)
僕はムスブから手を離す。そろそろ、祢音さんと奏斗先輩が追い詰められている頃だ。助けに行かなければ。司令という名目の元に。
ずれた眼鏡を右手で直しながら、僕はデザイアドライバーを装着した。
*
タイクーンとカローガンがデザイアドライバーを手に入れる数時間前。
子連れの家族が、のほほんとピクニックを楽しんでいる。そこで私は寂しくベンチに座り、視聴者のみんなから来た情報を吟味していた。正確すぎる話は逆に嘘っぽいよね…ファンに囲まれちゃったらデザグラどころじゃないし。だとしたら可能性があるのは、たくさん同じものが挙げられてる情報で、ジャマトが隠れ家に選びそうな場所。
「神社の裏の雑木林ね……」
行ったことは無い場所だけど、誰かと一緒なら。景和か英寿に頼んで、一緒に来てもらって…いや。駄目だ。この椅子取りゲームは、奏斗と真っ向の勝負なんだ。視聴者のみんなは、私自身の力と運で集まってくれた人たちだけど、デザイアグランプリの参加者にはそれは通用しない。英寿とか道長はともかく、ミーハーそうな青山ちゃんまで私の動画を見てくれていないんだし、このゲームは、誰の力も借りないで、私一人の力で解決しなきゃ。
「奏斗には、絶対に負けない!」
別にゾンビサバイバルゲームでの彼の行動に、恨みがないと言ったら嘘になる。私も、奏斗の缶蹴りゲームの様子を見ていた。その時の奏斗は、自分の願いを叶えるために真っ直ぐだったし、誰の願いも笑おうとしなかった。だけど、人はすぐには変われない。奏斗と一緒にご飯に行って、それを痛感した。彼は人を信じられない。まだ世界を恨んだままの、私怨に溺れてしまった人なんだ。
よし!と気合を入れてベンチから立ち上がる。改めて神社の場所を確認しようとスマホを見ると、また新しい目撃情報が出ていた。もう神社に行くことは確定していたので流そうと思ったけど、動画付きで送られていたので、念のため確認することにした。
「えっ…?」
『ヤバい鬼ごっこしてるの見た!』と一文添えられて送られた動画は、住宅街で、家の中から外を撮影したものだった。制服を着崩して金髪の高校生くらいの男の子が、道路を必死に逃げる様子が映り、それから数秒空いて、五体くらいのポーンジャマトが男の子を追って走る。そんな動画だった。なにこれ…ジャマーエリアに巻き込まれた一般人かな?だったら、他の参加者が助けに行くはず。私が行く必要なんて……今は神社が先決……
「………もうっ!」
これは私に寄せられた情報だ。私が助けに行かなきゃ、視聴者の皆に示しがつかない。そう自分に言い聞かせて、私は男の子を追うことにした。この学校の制服、見覚えがある。そう、奏斗と同じ学校の制服だ。
私に送られた動画を元に、SNSでは拡散が始まっていた。確かデザイアグランプリには、『第三者への情報公開を禁ずる』とあったはずだけど、この人は大丈夫なんだろうか。人が少ないガラガラの駅から一歩出て思う。
かなり長い時間電車に揺られて、やっと奏斗の住んでいる地域までやって来た。ホントはベンとジョンに送って欲しかったんだけど、理由聞かれたら答えづらいし、それこそお母様にチクられたらアウト。一人でこんな遠出なんて許すはずがない。でも、駅の前に停められた数台のタクシーを見て、その手があったか、と私はため息をつくのだった。奏斗、こんな遠くからご飯食べに来てくれてたの?リアルで一時間かかったんだけど。マップアプリで見てみても、目当の神社は等に通り過ぎちゃったし、しょうがなく私は奏斗の通う学校を目指すこととした。
都心からちょっと離れてるとは言え、学校に行く手段は、自転車か区営のバスくらいしか無い。しかも、等のバスも迷宮脱出ゲームの件を受けて本数が減っていた。タクシーを使えば楽だったけど、道中で見かける可能性も鑑みて、徒歩でズンズン町を進んでゆく。
学校までは結構距離があったけど、誰ともすれ違うタイミングは無く、ただ無駄に時間が消費されている気がして、ヒールが地面を蹴る音は強くなっていった。
私は歩き疲れて、道端にあった公園に足を向けた。さっきまでいた都心の公園は親子いっぱいで光って見えたのに、このガラガラの公園はなんだかくもりって感じ。砂場の中央にあったドーム状の遊具のくぼみに腰掛けて、私は空を仰いだ。
「はぁ…やっぱり無駄足だったかなぁ…」
「……おい、誰かいるのか?」
「うわっ!」
ドーム状の遊具の中から声からして、私は砂場に背中から崩れ落ちた。この遊具、中に入れる構造だったみたいで、斜面に空いた穴から声が聞こえた。私は砂を払い、そろりと中をのぞきみる。
「助けてくれっ、って…女かよ」
「女って…そんな頼りにならないみたいな……ああっ!」
遊具の中に隠れていた声の主の残念そうな返答に一度ムスッとしたが、そんな気は一瞬で吹き飛んだ。その声の主こそ、動画に映っていた高校生の男の子だったからだ。私は遊具の中に体を押し込んで、男の子に近づく。
「君、大丈夫だった!?ジャマトはどうしたの!?」
「…ジャ?ぁあ、あの怪物のことか?」
男の子はテンションの上がる私に少し引きながらも、はっきりとした物言いで事の顛末を話してくれた。
「部活の終わりに、モノ片付けようと思って、部室に寄ったんだよ。そしたら、部室に、赤い帽子のガキがいたんだ」
赤い帽子の女の子…!でも、なんで学校なんかに?
「俺、驚いて。壁の本棚とぶつかっちまって、本が雪崩みたいに崩れてきて…そしたら本の裏に、コレが…」
男の子がブレザーの内側のポケットから取り出したのは、なんと、デザイアドライバーだった。私は思わず目を見開く。そのデザイアドライバーには、IDコアがついてない。赤い帽子の女の子は、このデザイアドライバーを回収しようとしたのかな?でも、まさかこんなチャンスが巡ってくるなんて。
「それでジャマトに追いかけられてたんだ………君、名前は?」
「俺?俺は
へぇ〜この子は視聴者なんだ。やっと味方が現れたような気がきて、自然と気分は上がる。
「知ってるんだ。結構コメントしたりしてくれてるの?」
「いや…墨…同じ部活のヤツが見てただけ」
そう返す郁真くんの顔は心底興味がないと言ったようだった。しかも、すみ…?そんな珍しい苗字、奏斗以外にいないでしょ。郁真くんは、奏斗と同じ部活なんだ。確かボランティア部だっけ、英寿が口にしてた気がする。いやいや、今は奏斗のことはどうでもいいんだ。
「そのドライバー、私に貸してくれない?それ、私にとっても大事なものなの。これを持ってたら、ジャマトにも襲われちゃうし」
デザイアドライバーがありさえすれば、このゲームは勝ち抜けられる。私は真っ直ぐ郁真くんの目を見てお願いするけど、郁真くんはそっぽを向いた。
「ダメだね。これは部室にあった物。うちの部員の物だ。信用できないヤツに渡せるかよ」
なんでわかってくれないかなぁ!ボランティア部の人って皆捻くれてるの!?
*
「無理しないで、少しはサロンで休んだら!?」
「ギーツに勝てるチャンスだ、休んでなんかいられるか…!」
「道長さん…!」
吾妻さんは、そう言って足早にまた戦闘に向かった。サロンのソファーに深く座った私は、同じくらい深くため息を付いた。
さっきの戦闘で、私たちは全く上手く連携が取れなかった。遂に現れたビショップジャマトの正体とは、赤い帽子の女の子そのものだった。ウイルスによる幻覚作用と、広範囲の爆撃。私たちは互いに攻撃し合う結果となり、撤退を余儀なくされた。
私の注意も散漫だった。人間関係の上手く行かない参加者たちに、ギーツ落としを狙うパンクジャック。そして謎の男、ムスブが言ってた、奏斗の秘密。そして、消えてしまった同級生、鵜飼玲。わからないことばっかりで、不安ばかりが溜まってゆくだけだった。
「あの…桜井さん。もし、このまま残りの四人が脱落してしまったら、私たちだけで、世界は守れるんでしょうか…?浮世さんも、鞍馬さんも、奏斗も居ないで…」
「…どうかな」
「今までのゲームだって、奏斗に守ってばっかりで私、何もできて無いし…!」
桜井さんは、弱音を吐く私の前に座ると、賢明に励ましの声をかけてくれる。
「それはしょうがないよ!だって俺達は、たまたま選ばれた一般人なんだし…!」
「本当にそうなんですか!?」
私はムスブの発言を想起する。
(墨田奏斗君に、伝言をお願いしたいんだ。"願いを叶えたいなら、思い出せ。君の過去に、幸多からざる"とね)
なんで偶々選ばれた私達に、隠された秘密とか、どうしても叶えたい願いとか、そんなものがポンポン出てくるんだ。私には何もないのに。私の不安は焦りとなって、思わず桜井さんに吐き出してしまう。
「願いを叶えるために、人を恨んだり、騙したり…それって、本当に見ず知らずの人同士で出来ることなんですか!?私達、理想の世界が叶えられるとかって、騙されてるだけなんじゃ!?」
桜井さんも少なからず思うところがあるようで、押し黙ってしまう。気まずい静寂が少し続いて、サロンの空間にモニターが表示された。それは、ジャマトの大群に吾妻さんが向かっていく様子だった。群れの最奥には、赤い帽子の女の子。赤い帽子の女の子は不気味な笑みを浮かべると、ビショップジャマトに変貌する。
『こいつさえ倒せばゲームクリアだ!変身!』
仮面ライダーバッファは、単身ジャマトの群れに突入する。
「俺たちも行こう!」
「…はい」
私は、ポケットの中のブーストバックルを握りしめる。
ジャマトに逃げ惑う人の波を掻き分けて、やっと現場に駆けつけた。そのままドリルバックルで変身しようとしたけど、手が止まる。
「私は…なんのために、誰のために戦えばいいんだろう…」
「世界を救って、理想の世界を叶えるためでしょ?」
桜井さんは、嘘偽りない瞳でこちらを見る。
「そのために戦うって決めたんだから、今ここにいるんじゃないの?」
…そうだ。私には、願いなんて無い。ただ、平凡に暮らせればいいだけ、そう思ってた。でも今は、願いが見つかった気がする。
「桜井さん、ありがとうございます…!」
私はドリルバックルに加えて、右手にブーストバックルを取り出す。桜井さんは「いつの間に…!」と小声で驚いていたが、直ぐにジャマトに注意を戻した。
『SET』『SET』
「「変身!」」
『GREAT!』『DUAL ON!BOOST!ARMED DRILL!』
『Ready?Fight!』
「まずはジャマトライダーを!」「はい!」
変身した私たちは、それぞれジャマトライダーを一体づつ相手する。上半身にブーストに、左手にドリルを装備した私は、果敢にジャマトライダーへ立ち向かう。
ジャマトライダーのパンチを左手のドリルで受け流すも、蹴りでコンクリートの柱まで追いやられてしまう。ジャマトライダー…正直見たくも無い相手だけど…ここで負けてらんない…
「叶えたい願いとか、よくわかんないけど…今は負けられない!あんたたちに、皆の…平和な生活を奪わせないために!」
腕のマフラーから火を放ち、渾身のパンチでジャマトライダーを怯ませると、逆に壁にへと押し当てる。さらにそこから、マフラーから炎を吹かせると同時にドリルを高速回転させ、思いっきり前進してジャマトライダーの装甲を削った。さらにドリルを全力で押し込み、柱ごと巻き込んでジャマトをぶっ飛ばした。
ブースト…こんな力が…!
『JYA JYA JYA STRIKE!』
ジャマトライダーはツタをまとわせた巨大な拳を私に向ける。けど、そんなのお構いなしだ。私には戦闘センスなんて無い。ならやることは、一点突破あるのみ!さっきと同じようにドリルとブーストの同時加速で突破し、突進でジャマトライダーを大きく吹き飛ばす。
「これでトドメ!」
私はドリルバックルを外し、今度はチェーンアレイバックルを装填。オレンジ色のチェーンアレイを装備した。
『DUAL ON!BOOST!ARMED CHAIN ARRAY!』
右側のブーストバックルのハンドルを引いて、チェーンアレイの鉄球に炎を纏わせる。
『BOOST TIME!』
チェーンアレイを振り回して勢いを付けると、鉄球を鎖から切り離し、真上へへと投げた。私にとっては、この攻撃が一番やりやすい!
『CHAIN ARRAY!GRAND VICTORY!』
私も上空へ跳び上がり、バレーのサーブの要領で、鉄球を思いっきり叩いた。発火した鉄球は鋭く棘のように、ジャマトライダーを貫き、左側の上半身がえぐれて無くなるほどの威力を見せ、ジャマトライダーを撃破した。それに伴って、デザイアドライバーもドロップする。
「やった!これで椅子がまた…って…うわぁ〜っ!」
勝利の余韻を味わっていると、ドライバーのブーストバックルが煙をあげて飛んでいってしまった。一回しか使えないの…!?あれ!?
*
学校に付いたときには、もう手遅れだった。ぐちゃぐちゃに荒らされたボランティア部の部室を見た時、遂にここも運営に目をつけられたかとヒヤリとした。だが、それは直ぐに杞憂だと気付くと同時に、もっと面倒事に巻き込まれている事を意味していた。
隠し場所としていた本の裏に、デザイアドライバーは無かった。そして、校庭から聞こえる悲鳴。急いで窓から身を乗り出して見るてみると、ボランティア部の快富郁真が何故かデザイアドライバーを片手に、ジャマトから逃走していたのだ。
何やってるんだあいつという思いを呑み込み、俺は快富郁真を追う。快富郁真、二年生。元陸上部。典型的な不良だが、補導の履歴は、中学三年生の一度のみに遡る。今にしてみれば、快富郁真と俺は、互いに避けていた関係性だったと思う。同じ二年生でボランティア部である以上、学校の腫れ物仲間なのは違いないのに。認め合わないことで、まだ自分は学校の底辺なんかじゃないと思い込みたかったのか。
しばらく町中を探してみても、快富郁真どころかジャマトの姿も影もない。上手く逃げおおせたのか、ジャマトにドライバーを奪われたか。もういっそのこと、予備のドライバーは諦めて、赤い帽子の少女探しに注視するべきだろうか。これは鞍馬祢音との勝負。あっちはSNSで情報を集めているから、どうしても赤い帽子の少女探しには鞍馬祢音に軍配が上がる。だったらこっちはドライバーを先にゲットしないとお話にならない。
「くそっ…!ここでもアイツに負けるのかよ…!」
何時だって、俺は持つ者を恨んでいた。なんで俺は持っていなくて、努力もしない奴が幸福に生きれているのか。そして俺はゾンビサバイバルを得て知ったはずだった。現状に不満があるのは、誰だって同じ。そこで腐るか反逆するかは本人次第。もっと冷静であれ、もっと他人を知れ。自分に言い聞かせて、古びた民家に囲まれた公園を通り過ぎようとしたその時だった。
「わかってる!?これを持ってると危ないんだよ!?」
「尚更渡せねぇだろ!どう考えてもアンタが持つ方が危なくね!?」
……なんか遊具の中から聞こえる。子供が内側に入れるように空洞のあるドーム状の遊具の中で、男女が言い合っている。声を聞く限り、快富郁真と鞍馬祢音だ。快富郁真はともかく、なんで鞍馬祢音がここにいるんだよ。俺が遊具に近づいても、二人が気付く様子は無かったので、穴から中の様子を覗いてみた。そこでは、鞍馬祢音と快富郁真が砂まみれの状態でデザイアドライバーを取り合っていた。そのデザイアドライバーとは、俺がジャマトライダーから入手した物である。
「……なぁ!お前ら何してんの!?」
俺が声を張り上げると、二人はビクッと肩を強張らせて動きを止めた。なんでコイツがここに…と二人共同じ顔をしている。先に行動に移ったのは、快富郁真のほうだった。彼は遊具から出てくると、デザイアドライバーを差し出してくる。
「墨田…!これ、お前のか?」
「…そうだけど?」
この期に及んでも疑念を持ってるのか。マジで信用無いな俺。俺がデザイアドライバーを取ろうとすると、快富郁真はさっと手を引く。そこで彼から出てきた声は、早口で、こっちの身を案じているようだった。
「…信じていいのか?なぁ、このベルトは何なんだ、あの怪物は?」
「知った所で、お前はどうもできない。ドライバーを返せ」
きつい言い方だが、デザイアグランプリの情報を公開するのは禁止事項…こいつも別にジャマーエリアに巻き込まれた訳じゃない。必要以上に伝えるのは、かえって危険を招く。
「おかしいだろ…!お前、なんか危険な事に手出そうとしてんだろ、近道をしようとすると、大抵後悔するもんだ、やめておけ…!」
何もわかってないで、偉そうな口を…!どうせ俺達は同じ境遇なんだ。自分のことは、自分でわかる。が…やっぱり説明しなきゃだめなのか…?
「奏斗!ジャマトが!」
ドライバーを巡ってもたもたしている間に、ジャマトが来てしまった。公園の鉄柵を壊しながら、ポーンジャマト共がにじり寄ってくる。俺は再び快富郁真に手を伸ばすが、抵抗してドライバーを渡そうとしない。先頭のポーンジャマトが、デザイアドライバーを装着する。
「ジュラピラ…ヘンシン…」『JYAMATO』
一体のジャマトが既にドライバーを入手していたみたいだ。くそっ、どうする?生身でジャマトライダーに敵うはずがない。
ジャマトライダーが俺達に殴りかかろうとしたその時…
「よっと!」
一人の仮面ライダーがジャマトライダーを飛び蹴りで退けた。それはギーツでもタイクーンでもない。エントリー形態のそのライダーは、流線型の紺色の頭部をしている。
「イルカ…か?」
「なんでここに!」
鞍馬祢音が強く反応したかと思うと、そのライダーはビートバックルを取り出し、ドライバーに装填した。
「変身」『BEAT!』
『Ready?Fight!』
謎のライダーはビートアックスを構え、ジャマトライダーに立ち向かう。ジャマトライダーのパンチをビートアックスで受け流し、肩のスピーカーから爆音を発する。爆音は衝撃波となりジャマトライダーの全身から火花が散った。
『ROCK FIRE!』
立て続けにジャマトライダーの胴体にビートアックスを突き刺すと、そのまま六弦を弾いてジャマトライダーを内側から引火させた。
『TACTICAL FIRE!』『BEAT STRIKE!』
さらにビートアックスを引き抜くと同時に足に炎を纏わせて、傷口に蹴りを叩き込んだ。この連撃を受けたジャマトライダーは、為す術もなく爆散する。このライダー、強い。あのジャマトライダーをこんなにも速く始末してしまうなんて。謎のライダーはジャマトライダーからドロップしたデザイアドライバーを破壊しようと、ビートアックスを突き立てる。が、その手はこちらを見て止まった。
「うわ…不正なドライバーってそっちか。だったら、悪く思わないでくださいね」
『METAL SANDER!』『TACTICAL SANDER!』
謎のライダーは唐突にビートアックスの攻撃をこちらに向けてきた。ビートアックスから放たれた電撃は地面を伝い、俺達の足元で発火する。俺は何とか横に逸れて回避できたが、二人は爆発の勢いに飛ばされて遊具に激突してしまった。
「おい…何すんだよ!」
「あなたたちの仲が悪いのがいけないんです」
ビートアックスを投げ捨てた謎のライダーは、さっきまで破壊しようとしていたデザイアドライバーをジャマトに投げ返す。
「興が冷めました。どうせドライバーがあった所で、あなた達は退場になる。浮世英寿は既に学んだようですよ。誰かの助けが無ければ、人は生き残れないってね」
デザイアドライバーを新たに手に入れたジャマトは、再びジャマトライダーに変身する。謎のライダーは、その様子を見届けると公園を立ち去ろうとする。俺は追おうとしたが、地面から突如生えて来たツタが道を塞ぐ。もう一体の新たなジャマトライダーが別方向から現れていた。ジャマトライダーに視線が寄っている内に、謎のライダーは消えてしまった。
どうする…!今度という今度こそ追い詰められてしまった。ここから俺が勝つためには…鞍馬祢音に勝つためには…!
俺が考えてるうちも、ジャマトライダーは迫り、タイムリミットは擦り減っていく。背後に目をやると、快富郁真は額から、鞍馬祢音は腕から血を流していた。そこで俺は、謎のライダーの言葉を思い出した。
(誰かの助けが無ければ、人は生き残れないってね)
誰かの、助け…………俺はなんて馬鹿だったんだ。今この状況で一番大事なのは、鞍馬祢音に勝つ事でも、ゲームを勝ち抜ける事でもない。戦う力のない快富郁真を守ることでは無かったのか…!俺のデザイアカードに書いた願いはなんだ……そうだろ。
「快富……」
俺は快富郁真と鞍馬祢音を両肩に抱えて、遊具の裏に逃げる。ジャマトライダーは直ぐにやって来る。チャンスは一度きりだ。
「快富……俺は、俺達は、デザイアグランプリっていう、あの怪物と戦うゲームに参加してる」
鞍馬祢音が、話してもいいのかと言うように肩に手を置いて制止したが、俺は構わず続けた。
「そこで優勝したら、どんな願いでも叶えられる。でもその代わり、怪物に殺られたら、二度と元の生活には戻れない」
「何だよそれ……なんでそんなゲームに参加なんてしたんだよ…!死んだら…終わりなんだろ…!」
当然の反応だ。快富郁真は俺を突き放す。
俺は大きく息を吸うと、自分の願いを高らかに宣言した。
「俺は……こんなクソみたいなゲーム、終わればいいと思ってる…!だから、願ったんだよ…"デザイアグランプリの存在しない世界"を!」
「……嘘でしょ…」
自分の願いを、誰かに口にしたのは初めてだった。最初は、捻くれた感情で書いた願いだった。それでも、運営はこの願いを取り下げなかった。その時、俺の心に沸々と溜まっていた感情が芽生え始めたのだ。デザイアグランプリが無ければ…桜井兄妹のように苦しむ人々がいなくなるって。
「頼む…!だから、ドライバーを貸してくれ。こんな悲劇も、くだらない戦いも、必ず俺が終わらせる…!」
快富郁真は強気な表情を崩して、手元のドライバーを見る。それを両手で一度強く握りしめると、俺の胸にデザイアドライバーを置いた。
「わかった!言ったからには…死ぬなよ…!」
俺は、両手でデザイアドライバーを受け取る。そして、IDコアをはめ込んだ。
『ENTRY』
運営は、このドライバーを正式な物として認めていない。だから今から、ジャマトライダーを二体同時に相手取って撃破しなければならない。苦行なのは間違いないが、やるしかない。
俺は遊具の影から飛び出そうとしたが、袖を誰かが掴んで止めた。振り返ると、鞍馬祢音が立っていた。
「待って…!奏斗…これ、使って」
そう言って鞍馬祢音が渡してきたのは、彼女愛用のビートバックルだった。彼女だって、本当の愛が欲しいという、叶えたい願いがあるはず。それでも俺に託してくれるのは、彼女も理解してくれたのだ。今は個人の勝ち負けよりも、皆でこのゲームを切り抜けるべきだと。
「あり、がとう…ちょっと行ってくる…!」
『SET』『SET』
左側にブラストバックルを、右側にビートバックルを装填し、鍵盤を弾く。テクノ的な音楽が辺りを包む。俺は、変身の掛け声と共にターンテーブルを動かし、コックを開いた。
「変身!」
『DUAL ON!BEAT&BLAST!』『Ready?』
「さぁ…ここからが、本番だ!」
『Fight!』
このゲーム、必ず全員で勝ち抜く!
『FUNK BLIZZARD!』『TACTICAL BLIZZARD!』
二体のジャマトライダーは同時に地面を介してツタで攻撃してくる。俺はそれを、冷気を放つビートアックスをプロペラの様に回転させて氷の板を作って防ぐ。ツタは生成される氷と共に凍結し動きを止め、ジャマトライダーの足も冷気が伝って動かなくなる。
俺はガス噴射による大ジャンプで固まったツタを飛び越し、着地する前に踏み台にするように蹴って反対側に着地する。そしてビートアックスの斬撃で二体の背中に深く斬り込むと、胸部の装甲から放たれる音符型のエネルギー弾と、足のファンから発する鋭利な特性を持つ風でさらにダメージを与える。
何とか氷の拘束を解いたジャマトライダーのストレートパンチを、ビートアックスで受け流し、二体目のパンチはしゃがんでかわす。そのままの体制でジャマトライダーの膝裏に蹴りをくらわせて体制を崩し、立ち上がりながら押し込む様に二体同時に蹴り飛ばした。
『REVOLVE ON』
最良の必殺技を放つために、俺はドライバーを反転させ、上半身にブラストを、下半身にビートを装備し直す。そして、両方のバックルを操作し、必殺技を発動した。
『BLAST!BEAT!VICTORY!』
地面を強く蹴って爆音を放つと共に、音量メーターを模した足場が発生。ジャマトライダーらはその中で激しく揉まれ、空へ投げ飛ばされる。背部のノズルからガスを噴射して飛び立つと、上空へ運ばれたジャマトライダーの首を両手でそれぞれ掴み、地面へと叩き落とした。
この攻撃によりジャマトライダーは爆散し、その中に、二つのデザイアドライバーだけが残った。
「勝った…!」
俺は変身を解除して、二つのデザイアドライバーを拾い上げる。それと同時に、さっきまで使っていたデザイアドライバーは火花を立てて壊れてしまった。どうやら、今まで相当ジャマトたちに酷使され続けていたらしい。もう同じ手は通用しないな。
遊具の裏から、快富郁真と鞍馬祢音が心配そうに顔を覗かせる。
「祢音!」
俺は少しだけ笑いかけると、ビートバックルとデザイアドライバーを祢音に投げた。祢音は受け取ったドライバーにIDコアをセットする。俺もそうした。これで一先ずはゲームクリア。そして彼女は、俺の一瞬の顔のほころびを見逃していなかったらしい。ニヤニヤしながらこちらに近づいてくる。
「あれ〜?今奏斗笑ってたでしょ!?」
「笑って無いが…?」
「またまた〜!」
祢音のつっつきを避けつつ、新しいデザイアドライバーにIDコアをはめ直す。これで俺もゲームクリア。なんとか三回戦を突破できた。
「お前たち、仲いいんだな。見直したよ、墨田」
快富郁真が、肩の砂埃を払いながら俺の目を見て話し始めた。
「ずっと、思ってたんだよ。もしかしたら、俺とお前は同じなのかもしれないって。けど、違った。お前は、自分で決めたことは、とことん貫き通せる。強いやつだった」
快富郁真は、俺に手を差し出してくる。
「だから、友達になって、俺に学ばせてくれ。どれも、俺には出来ないことだから…」
俺は、ぐっと胸が熱くなって、郁真の手を握り返した。こんなにも、明確に友達を作ったのは何時ぶりだろう。とても、懐かしい感じだ。
「あぁ。俺たちはそうだな────友達、か」
「なんか、すっごいアツい展開?男の友情?初めて見たよ」
祢音はうんうんと頷いている。てっきり、愉快なムードに流されそうになったが、重要なことを忘れていた。郁真から手を離して、俺は祢音に声をかける。
「あの仮面ライダー…お前と知り合いだろ」
「…バレてた?」
なんとなく検討は付いていた。謎のライダーと遭遇した時、明らかに彼女はあのライダーを知っている風だった。
(なんでここに!)
なんて、知ってなきゃ出てくるはずが無い。そして、デザイアドライバーを回収、破壊しようとしていたあの行動、運営のライダーだろう。祢音は、俺に心を開き、正直に話してくれた。
「あの人は、仮面ライダーハイトーン。私はね…ゾンビサバイバルで脱落した後、あの人に修行をしてもらってたの。今後のデザイアグランプリでも、生き残れる様に」
成る程。妙に慣れたビートバックルの扱い。誰かに教えてもらっていたのか。祢音は、ビートバックルを手に語る。
「私は、ハイトーンが仕事をしてる部屋に出入りさせてもらってるだけで、運営のライダーじゃないの。だけど多分…奏斗の言ってたことは当たってる。鞍馬財閥のこと。そうでもなきゃ、運営の人に、色々教えてもらうことも、追加エントリーなんかも、できるはず無い…」
やっぱり、鞍馬財閥はデザイアグランプリと繋がっていたか…そこも調べてみる必要がありそうだな。そして、仮面ライダーハイトーン。あいつは俺たちを見逃してくれたのか、それとも、本当に見捨てるつもりだったのか。わからないことばかりで、どこから手を付ければいいのか…
『MISSION CLEAR』
スパイダーフォンから、ゲーム終了のアナウンスが鳴る。俺たち以外に、誰がこのゲームをクリアできたのだろうか。焦ることばかりで、進行状況を確認する暇も無かった。俺が開いたスパイダーフォンを、祢音も覗き込む。そこには、参加者が突破したか否かが表示されている。
『PUBLICATION OF THE RESULTS』
「えっ…?」
俺たちは、その結果を見て息を呑む。
浮世英寿・LOOSE
ありえないはずの光景が、そこにはあった。
※
「…ダパーンの願いを、承認してもよろしかったのですか?」
サマスは、墨田奏斗の"デザイアグランプリの存在しない世界"と記載されたカードを見ながら問う。それに対し、プロデューサーであるニラムは、両腕を広げて答えてみせるのだった。
「一人のプレイヤーの願いで完結するデザイアグランプリ。それもまたリアル。そうなれば、この時代から撤退すればいい。それに…彼の"想い人"でも復活させれば、満足して終わるだろう」
DGPルール
ゲームマスターは、
ゲームの勝敗を操作してはならない。
常に、公平な判断を心がけてください。
次回:仮面ライダーギーツ外伝
「あれがラスボス…!」
─ラスボス最終戦─
「僕が、そういう人を集めたからね…」
─記憶を消された者達は─
「君はもう必要ない」
「だから、奏斗は…思い出さなきゃ駄目だよ」
12話 変心F:願いがための資格