仮面ライダーギーツ外伝 一歩IF:片脚の男   作:みなかみ

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12話 変心F:願いがための資格

 

 佳境を迎えたデザイアグランプリ。第三回戦にて、五人のライダーが信頼と誇りの元に死力を尽くしジャマトと戦う中で、なんと不敗の男・浮世英寿が脱落するという波乱の結末になってしまった。

 それだけじゃない。私の上司、仮面ライダーハイトーン・芹澤朋希がゲームマスターの司令で乱入したせいで、私が運営とやり取りしていた事が奏斗にバレてしまった。そして、私も信じたくなかった、デザイアグランプリと鞍馬財閥の関係も……こうなった以上、私も調べるしか無い。鞍馬財閥は、いつからデザイアグランプリと関わっていたのか、なんで私がエントリーさせられているのか、聞き出すんだ。

「どうした、祢音。そんな怖い顔をして」

「お父様…デザグラの事、知ってますよね?」

 私の父親、鞍馬光聖から。

「お前には関係のない話だ」

 私と向かいのソファーに座ったお父様は、やっぱりしらばっくれる。でも、もう後には引けない。私は立ち上がって、お父様に詰め寄る。

「どうして私がエントリーすることになったんですか?それに、ハイトーンのことだって」

「…それがお前の望みだったからだ。彼は元気にしてるか?」

「質問に答えてください!」

 私が口調を強くしても、お父様は表情に綻びを見せない。また毅然として、最初の答えを返してきた。

「お前が知る必要はない」

 …もういい。この人は口を割らないと理解した。それに、ここまでデザグラの話を遠ざけるってことは、逆に知っていると見ていい。それがわかっただけでも十分だ。もっと別のアプローチを考えよう。今度はハイトーンから聞いてみよう。

 私はお父様の私室を出る。また奏斗や英寿と一緒にご飯でも行こうかな…と考えた所で、英寿はもういないんだと思い出した。あのゲーム以来、パンクジャック・晴屋ウィンが行方不明になっている。多分、英寿の脱落も…ゲームマスターの作戦だったんだ。それで、ゲームマスターと繋がっていたウィンは、もうお役御免になってゲームを降りたか、それとも…

「お嬢サマ…」

 廊下の角を曲がると、そこでSPのベンとジョンが待っていた。妙に、険しい顔持ちをしている。

「…今日は家出しないよ?」

「デザイア、グランプリノ、最終戦に参加スルつもりデスカ?」

「え…?」

 そう言って、ジョンはIDコアをスーツのポケットから取り出した。白と黒のIDコアだ。見たことがない。同様に、ベンもIDコアを持っていた。デザグラを知っているのは、IDコアに触れたから……?でも、なんで二人がIDコアを。ベンは、私の手首を掴む。

「もうデザイアグランプリに参加スルのはやめてクダサイ…!」

「なんで…!今度こそここまで来たのにっ!」

前のデザイアグランプリでは、最終戦どころか三回戦にすら駒を進められなかった。やっと願いに、本当の愛に手が届くんだ。ここで辞めたら、意味がない…!私はベンの手を腕を振りながら解く。

「私はデザイアグランプリで世界を守ってる!その見返りで願いが叶うのは、別に良いことなんじゃないの!?」

「デザ神になってモ、お嬢サマの願いハ叶えられナイからデス…!」

 ジョンの一言に、体の芯が震えた気がした。疑念が確信に変わる、あの感じ。

「鞍馬財閥ハ…デザイアグランプリノ、スポンサーだったんデス。お嬢サマがエントリーしたのハ、きっとお父サマガ、ナニカ…」

 やっぱり、鞍馬財閥はそうだったんだ…

 ベンとジョンは本気だ。私が助けを求めたら応えてくれるし、心配してくれる気持ちも本当。だから裏切るのは心苦しい。だけど、今はどんな思惑があろうと、可能性があるなら賭けたい。きっと、願いを叶えた先で、本当の私に会えるから。

「ごめんね」

「お嬢サマ!」

『ENTRY』

 私はベンとジョンが止めるよりも速く、ドライバーを装着してデザイア神殿に向かった。 

 

             *

 

 母親は、ボランティア部に加入した件をいたく喜んでいた。父親は、「そうか」と二つ返事をしただけだった。両親にとって、所詮俺は欲求を満たすための道具だったのだと自覚させられる。思い通りに動けば受け入れ、逆らえば突き放される。そこに俺の感情は必要ない。だから、両親は本当の俺を知らない。デザグラか原因で二度も、三度も性格が反転した、俺を。

 …本当の俺とは、一体誰なのだろう。バスケに熱中していた俺か、人類滅亡を願う俺か、世界平和を掲げる俺か、後悔から目を背けてデザグラを終わらせようとする俺か。デザグラにムカついたのは本当だし、直ぐでも終わらせたいと思っている。だが、わからなくなる。今やっていることは、自分の心に正直な行いなのか。足を引っ張る。バスケ、人類滅亡、世界平和、捨ててきた願いが今も俺をがんじがらめにする。本当の自分が、わかっている人間などいるのだろうか。

 こいつらを見て、つくづく思う。

「さて、これで全員集まったね」

 肩に緑色のデッキブラシを抱えた広実須井は、各々好きな場所に立ち尽くした俺たちを見ながら宣言した。ここはいつもの部室ではない。サッカー場が隣接した河川敷である。等のサッカー場は、いつも市の少年団が毎日練習に励んでいるそうだが、今日は休みらしい。がらんとしている。

「全員って…新井はどうしたんです?」

 俺は、河川敷に降りる階段に鎮座した上遠赤哉と快富郁真を見て言う。どちらも、バケツや洗剤等の掃除類を手にしている。かくいう俺も、ゴム手袋とブラシの持参を強要された。それに、全員と言う割には、一人足りない。新井紅深だ。今日はボランティア部の活動は無いはず、突然休日に連絡が来たかと思ったら、新井には秘密だ、と。

「ボランティア部の本当の活動ですよ、先輩」

「お前は初めてだったなぁ…」

 質問の答えになっていない。ボランティア部の本当の活動?ボランティア部とは、学校というシステムに不適合な人間が最後にやってくる墓場では無かったのか。ただボランティアという名目だけを貰える、そういう場所。そういえば、迷宮脱出、椅子取りと、二つのゲームに巻き込まれた上遠と快富だったが、よくよく考えればあの場にいたのは不自然だった。俺が行っていたボランティア活動に二人は参加してなかったし、それなら上遠は学校に向かうための区営バス、快富は学校の近辺に制服姿でいたのは明らかな違和感だ。よく出来すぎている。もしかしてあの日、二人は俺の知らないボランティア部の活動をしようとしていたのか…?

「…うん。じゃあ、彼女に会いに行こうか」

 部長がやっと新井について触れたかと思うと、三人は一つの方向を向いて歩き出した。その先には、左手に川と、電車が上を通過する高架橋くらいしか無い。そこに新井が…?

 冬が近付いて、河川敷の植物は枯れ始めていた。元々伸び放題だったはずだが、随分歩きやすい。が、その辺に空き缶が落ちていた。三人はそのゴミに目もくれず、ひたすら先を目指す。

「待って、ここで止まろう」

 部長が両手を広げて、俺たちは制止する。新井に会うったって…俺が声をかけようとすると、上遠が口に手を当てるジェスチャーをして止めた。快富が高架橋の根本を指差す。ここから高架橋は、十メートルは離れたかくらいだ。

「ふふっ、あははははっ!」

 そこに、新井はいた。学校での大人しい性格からは一変。高笑いをしながら、高架橋の壁にスプレーで落書きをしていた。取り巻きはいない、たった一人だ。綺麗だった茶髪のロングヘアーは、ボサボサのハーフアップに変わっていて、挙げられた髪の隙間からは剃り込みが見える。服装も肌の露出が多く、肩には正方形が組み合わさったかのようなタトゥーが彫られていた。

「人ってのは、監視を抜け出せればあんなもんさ」

 言葉を失う俺に、広実須井は振り返る。

「僕たちボランティア部の存在意義はね、慈善行為のためじゃない。"新井紅深の汚点を隠す"ことなんだ」

 広実須井は、新井紅深の出生を語り出す。

「彼女はね、僕の古くからの知りあいだったんだ。知りあいって言っても、ただ近所に住んでただけで、公園でたまに会って遊ぶくらいだったよ。でも、僕は知らなかったんだ。彼女が、家で虐待を受けていたことを」

 鞍馬祢音とは別ベクトルの、家庭環境の不自由。つまり…今の彼女の行動は…

「親から虐げられ、誰にも相談できていなかった。そんな鬱々とした感情が溜まって、彼女はあの様に、公共物に当たるようになった。まだ、落書きぐらいじゃ可愛い方だね」

 不自由から生まれた自由への欲求。鞍馬祢音の場合は、自分が愛を求める事に繋がったが、新井紅深の場合は、他の存在を破壊する方向へ向いた。如何に、俺がかつて抱いていた、鞍馬祢音への恨みがちっぽけだったものだと、思い知らされる。新井紅深の欲求と怒りは、最悪の状態で現れていた。

「高校になって再会してから、僕がボランティア部を立ち上げたくらいで、彼女の奇行を知ったよ。そして、ボランティア部の正式な活動方針を決めた。彼女の秘密を守り抜くためには、並の人じゃ直ぐに話が漏れてしまうと思ってね、信頼できそうな人を勧誘した。そして、彼女を守るために、僕たちは活動している」

「……なんで、そこまでしてやってるんですか?」

「裏切るような人間が勝つよりも、裏切られた人間が勝つ方が、面白いとは思わないかい?」

 広実須井の顔は笑っていたが、瞳の光は歪んでいた。

 

 

 新井紅深が去った後、俺たちはすぐ作業に取り掛かった。川から水を引いて、洗剤が地面に落ちないように布を敷く。郁真が持ってきた洗剤は強力で、彼女の描いたスプレーアートは瞬く間に薄れていった。スプレーアートはピンクや黄色など、ケミカルな色合いだったが抽象的で、特にこれといった具体例は出てこなかった。

 …人の本質って、わかんないもんだな。新井紅深の本当の姿を見て、改めて思う。もしかしたら、今手を動かしている他の三人も、見せていない側面があるのかもしれない。

「君が始めて入部した日は、大層な聖人君子で驚いたよ…」

「そうそう。性根の腐ったやつが来るって聞いてたんだけどなぁ」

 水を汲み直してきた二人は、俺をからかう。その話はやめろ。わりと引きずってんだから。確かに、掃除の人手が増えるのかと思っていたら、ガチでボランティアをするやつが来たら、引いたってしょうがないだろう。

 雑巾で壁を拭いていた上遠が、手を動かしたままフォローした。

「ま、人なんて実際に関わってみなきゃどんなもんか、わかんないじゃないですか。僕たちって、そういう人の集まりでしょ?」

 デッキブラシで壁を擦りながら聞いていると、広実須井もデッキブラシを取った。

「僕が、そういう人を集めたからね…話を広めたくないなら、他で噂が立ちそうな人でガードするだけさ」

「それで集められたこっちは溜まったもんじゃないぜ、部長」

 毒づく郁真の発言は、どこか清々しい。実際に、俺もボランティア部を居心地の良い場所だと思ってしまっている。全員どこか触れてほしくない所があって、誰も踏み込もうとしない。だから気を使わなくてもいいし、悪態をついても誰かに咎められる訳じゃない。学校という枠が息苦しくかった俺にとって、それは暁光だった。

『GATHER ROUND』

 突然の呼び出し音に、背筋が伸びる。以前の椅子取りゲームの結果発表で、ツムリが言っていた事が、まだ記憶に新しかった。

(恐らく、次のゲームが最終戦になります。仮面ライダーの皆様、心してかかってください)

 遂に来た。二度目の最終戦、圧倒的王者・浮世英寿無しで挑む、ラスボスとの戦い。俺はデッキブラシを壁に立てかけ、三人の顔色を伺う。

「野暮用が出来たので、今日はこれで」

 デザイアグランプリについて知っている上遠と郁真は、目線を合わせて頷いてくれた。広実須井はきょとんとしていたが、俺の表情から何かを汲み取ったのか、軽く手を挙げた。

「いってらっしゃい」

 俺はデザイアドライバーを片手に、最後のゲームへと…

 

 

「皆さん、ラスボスが現れました。これより最終戦、戦艦ゲームを始めます」

 浮世英寿のいないデザイア神殿は、どこかしっくり来ない。心なしか、ツムリの声も落ち込んでいるようだ。

「今回はスコア勝負です。ラスボスが退去するまで、町の防衛をしてください。スコアトップの方がデザ神となり、理想の世界を叶えられます」

 直接ラスボスを倒す必要が無いのか。それなら簡単…とも行かないか。わざわざ運営が倒す必要はないと言っているんだ。相当強力な力を持った相手に違いない。

「私達で、太刀打ちできるのかな…」

 鞍馬祢音が心配そうに呟く。しかしそれは、直ぐに決意へと変わった。

 自由を自ら掴み取る覚悟を決めた彼女は、ただ前を向く。

「勝てば…本当の愛が手に入る…!」

 誰よりも平和を信じる彼は、拳を強く握りしめる。

「やってやるよ…退場した人達を、蘇らせるために…!」

 真の願いを見つけた彼女は、両手で頬を叩く。

「勝ち負けは関係ない…皆の日常は、私が守る…!」

 三度目のチャンスに挑む彼は、ただはっきりと目標を見据える。

「勝つのは俺だ…そして全ての仮面ライダーをぶっ潰す力を手に入れる…!」

 そして…ようやく墨田奏斗という自分と向き合い始めた俺は、これまでの道のりを思い出す。

「もう誰にも失わせない…このゲームは、俺が終わらせる…!」

 五人は振り返り、戦地へと赴く。

 

 

 地上では、槍を構えた衛兵ジャマトがうじゃうじゃとおり、その奥には、またもやジャマトライダー。そして、ウツボカズラに似た、ルークジャマトまでいる。確か前は頭領ジャマトとしてだったか。

 空中を浮遊する巨大なラスボスは、ラフレシアを模した中央の器官から、極太のビームを放ち町を破壊していた。それに、全身から生えた触手を強力で、触れるだけでたちまちビルが崩れていく。

 民間人の避難は進んでおらず、その数は計り知れない。

「あれがラスボス…!」

「スコアの高いジャマトは俺が貰う!」

「俺は人命救助を!」

「勝つにはどっちも大事だよね!」

 真っ先に、吾妻道長、鞍馬祢音、桜井景和が飛び出して行き、それぞれ仮面ライダーに変身する。迫る敵は正面のみ。ここを守りきれば民間人への被害も抑えられる。

「青山、俺たちも行くぞ!」

「ねぇ…!」

 前に出ようとする足が、青山の声で止まる。彼女を見ると、俺を見る目が泳いでいた。この期に及んでろくでもないこと考えてんのか…いや、違うか。何かを俺に伝えようとしている…?

「何だよ」

「いや…何でも無い…」

 青山はフィーバースロットバックルを手に、俺に変身を促す。一体何なんだか…今は最終戦の真っ最中。油断なんてしてられるか。

『SET』『SET FEVER!』

「「変身!」」

『BLAST!』『HIT!BLAST!』

 仮面ライダーカローガンがスロットで引き当てたのは、ダパーンと相性のいいバックル、ブラストだった。基本足に装備する俺とは対象的に、上半身に武装している。俺たちは同時にジャンプし、ジャマトへ跳びかかった。左足で剣を弾き、押し込む様にジャマトを踏みつけ、カローガンはジャマトを正面から殴って着地した。

『Ready?Fight!』

 俺は踏みつけていた衛兵ジャマトを、地面に擦り付ける様に蹴り上げ、前方に吹き飛んだ所をカローガンが渾身のパンチで倒した。俺たちは並び立ち、ジャマトを迎え撃つ。

 カローガンは衛兵ジャマトの槍を掴んで、思いっきり引っ張る。そのジャマトの姿勢が前方に向いた所を計らい、頭を足場にしてさらにジャンプ。背中を蹴って吹き飛ばし、空中で回し蹴りをして一体撃破した。

 衛兵ジャマトは俺たちを取り囲み、隊列の取れた動きで斬りかかる。しかし、直様カローガンがガスを噴射しながら地面を殴り、発生した突風で衛兵ジャマトたちは空中に舞い上がった。俺はそれに対してファンから生じた鋭利な風を蹴りによって放ち、空中のジャマトを撃破。衛兵ジャマトの一掃に成功した。

「ここいらはこれで片付いたか」

「ねぇ!あれみて!」

 衛兵ジャマトをあっさりと撃破出来た俺たちだが、バッファはルークジャマトの強力な打撃に、ナーゴとタイクーンはジャマトライダーの防御力を前に苦戦していた。この力、ジャマトたちがパワーアップしている…?

「助けに行かないと!」

「いやまだだ!民間人が逃げ遅れてる!」

 既に避難が完了したかと思っていたが、まだビルの中に逃げ遅れていた人がいたらしい。出てきた所をジャマトに襲われている。他のライダーは救助に向かえない。俺たちは、民間人を襲うジャマトを撃破するべく二手に離散した。

「一体どこから湧いて出てきやがる…!」

 今にも民間人の少女を刺そうとしていた衛兵ジャマトを、間一髪で蹴り飛ばす。ジャマトを退けた間に、一般人は逃げ去っていくが、その少女は留まったままだ。俺は振り返りながら呼びかける。

「おい何やってんだ速く逃げ……新井!?」

「その声は…奏斗君?」

 新井紅深は地面にへたり込んだまま、俺の名前を呟いた。新井紅深は、先程の高架橋に落書きをしていた時の派手な格好とは変わって、いつもの落ち着いたブラウスとロングスカートを着用していた。それにしても、三回連続でボランティア部と遭遇……新井が出てきた建物を見ると、それはビル型の納骨堂だった。本当にこんな所で何してたんだよ…!

「事情は後で話す…だからとっとと逃げろ…死ぬぞ!」

「まって…!奏斗君は逃げないの…!?」

 俺の脅しに屈せず、新井は足を掴んできた。ライダーの力なら振り払うのは容易だが、必死の剣幕に動きが止まる。

「俺は…!」

「やぁやぁやぁ!墨田君!楽しんでくれてるかいっ!?」

 郁真の時と同じように、新井を説得しようと試みたが、謎の男の声に遮られた。声の主は、柱の陰から、手を叩きながら現れる。ローブを深く被っていて、人相は伺い知れない。口調から、一瞬広実須井を連想したが、直ぐに違うとわかった。部長は俺を奏斗君と呼ぶ。墨田と呼んできたコイツは、部長じゃない。

 あまりの展開の連続に、新井も頬を引きつらせていた。

「カローガンからの伝言は…聞いたかい?」

 青山から…伝言?全く聞いてないし、デザイア神殿で合流するまで、学校でも会っていなかった。もしかして…戦闘前に俺を一度引き止めたのは…何かを伝えたかったのか?

 謎の男は、俺の反応を見て察したのか、大袈裟なため息を吐く。

「あ〜あ。彼女に任せたのは間違いだったな。なら僕の口から言おう。願いを叶えたいなら、思い出せ。君の過去に、幸多からざる」

 俺の…過去?そういう回りくどい言い回しは嫌いだ。伝えたいことがあるなら、はっきり言ってくれてと毎回思う。

「…もう最終戦。願いを叶えるのは次に持ち越しだね…その前に、理想の環境をお届けしよう…変身…!」

 男は、握りこぶしを心臓の前に当てると、ジャマトに変身した。しかし、その姿は通常のジャマトとは違う。普通ジャマトは植物を模した形態がほとんど。だが、謎の男の変身したジャマトは、左手はシャコガイの貝殻の様に二股に裂け、右手にはカサゴの様な棘が突き刺さる。下半身には腰蓑の様にカニやエビの足が生え、頭部は骸骨がクラゲを被った様な出で立ち。水生生物をまぜこぜにしたその姿は、ジャマトとも形容しがたかった。

「先ずは名乗ろう。僕はムスブ。またの名を、アクエリアスキメラジャマト。やっぱり長いな、変異ジャマトでいいよ」

「名前なんかどうでもいい。何を企んでる」

 コイツが知っている俺の過去について、興味が湧かないと言ったら嘘になる。IDコアは、触れるとデザイアグランプリの記憶を思い出せる。しかし、俺のデザグラの起源はあの宝探しゲーム。

 でも、俺には失われた過去がある。

 それは、以前の神経衰弱ゲームから、缶蹴りゲームの間に現れていた現象。俺の中に響く誰かの声だ。その声の主は、俺と親しい人物だっようだが、全く身に覚えがない。こよムスブという男は、何を知っているんだ…?

「言っただろう…?これから理想の環境を用意してあげるよ…っ!」

 変異ジャマトは、肩のカサゴの棘を引き抜くと、それを獲物に襲いかかってきた。座ったままの新井の手を離させ、棘の刺突を左足で払う。確かカサゴには毒があったはず、くらうのはマズい…!

 変異ジャマトを遠ざけようと膝蹴りを放つが、左手のシャコガイで膝を挟んでくる。俺はそれを一歩下がって回避する。コイツ、俺の弱点を知ってやがる。やっぱり何か…!

「奏斗!」

 民間人の救助を終えたカローガンが、横から乱入してきた。飛び込みながら上半身に掴みかかり、開けた道に変異ジャマトを投げ飛ばす。ブラストのガス噴射がよく効いた。

「おいおい、邪魔をするなよ…君はもう必要ない」

 倒れ込んだ変異ジャマトは、水中を漂うクラゲの様な動きで立ち上がる。

「どうせろくでもないこと考えてるんでしょ!」

「ははっ、当たり」

 突如、カローガンの背後から地面を突き破り、蟹の腕の部分が現れた。その腕はカローガンの背中の装甲を切り裂く。死角になっていた腰蓑を伸ばして、地面に潜行させていたのか。俺は直ぐにカローガンのフォローに回ろうかと思ったが、また新井が足を掴んだ。

「だめ…!いっちゃだめ!」

「悪い、今は御託を言ってる時間は無いんだよ…!」

 今度は強く新井を突き放して、俺は膝をついたカローガンの肩を抱える。

「立てるか…?」

「うん…まだ行ける!」

 カローガンは立ち上がり、もう一度スロットを回す。

『HIT!MAGNUM!』

 マグナムを引き当てたカローガンは、マグナムシューターでの射撃を開始する。変異ジャマトはそれをシャコガイの殻で防いでいたが、俺は横から回り込み、殻を蹴り上げて変異ジャマトの防御を崩した。そのタイミングで弾は肘関節に命中。変異ジャマトは大きく仰け反った。

「今だ!」

『FEVER!TACTICAL BLAST!』

 カローガンがフィーバースロットをマグナムシューターにセット。金色の炸裂弾を放つ。

「せいっ」

 しかし、それを変異ジャマトはシャコガイの殻でいとも簡単に弾いてしまった。弾かれた弾は、跳ね返って工事中のビルに命中する。その衝撃で、建てられた骨組みが崩れてきた。

「…っ!」

 この程度なら問題ない、と高をくくっていたのが仇となった。崩れ落ちてくる鉄骨のちょうど真下に、新井がいる。あいつ、まだ逃げてなかったのかよ…!

「新井……ぐあっ!」

「駄目じゃないか…敵に背を向けたら」

 新井を助けようと前傾姿勢になった身体が、背中への衝撃と共に地面に落ちる。そして、瞬く間に全身が痺れ、呼吸が苦しくなってきた。背中に目をやると、変異ジャマトのカサゴの棘が、深々と突き刺さっていた。毒…!アーマーのダメージ超過で、変身が解除される。身体が動かない、はやく、あらいを…

 

 その刹那、カローガンが新井を庇うように覆いかぶさった。

 

 そして、カローガンの元に、次々と鉄骨が降り注ぐ。痛々しい音と、曇ったうめき声が、鉄骨の山から聞こえた。

「かはっ、があっ、青山ぁっ!」

「ま、結果的には良かったかな…」

 ムスブの姿に戻った変異ジャマトが、背中の棘を引き抜いて、二度激痛が走る。しかし、それよりも今は、カローガンの安否だった。俺は動かない両足を引きずって、鉄骨の山に身体を地面に擦りながら近づく。鉄骨の山が、少し崩れたかと思うと、数枚の鉄骨が内側から退かされ、中からカローガンが出てきた。その後ろの、新井は無事である。

「ご、めん、奏斗みたいに、できなかった、よ…」

 変身が強制的に解除され、鉄骨の上に青山は倒れた。

「青山っ…!」

 ただ、彼女の名前を呼ぶことしかできない。

「青山ちゃん、奏斗君!」

 薄れゆく意識の縁で、景和の叫ぶ声が聞こえた。

 

 

 目が覚めると、そこはサロンの仮設ベットだった。起き上がろうとしても、激痛が指先まで襲う。この毒が命に関わるものかは知らないが、痛みと痺れはゲームが終わるまで続きそうだ。

 無理やり身体を起き上がらせ、隣を見ると、ベットの上で青山が眠っていた。俺は、ほっと胸を撫で下ろす。青山は、退場にはなっていなかった。一命をとりとめたらしい。

 新井はいない。一般人として、ジャマーエリアを出されたか。

 赤いカーテンで隔たれたサロンの向こう側で、ギロリと参加者たちが言い争う様子が聞こえる。

「アイツが知ってる俺の記憶をな…ゲームマスター…」

「ゲームマスター!?」「ギロリさんが!?」

「どこまでも悪運の強い男だ…」

 …あの声、英寿か!?記憶を取り戻したのか…それに、ギロリが、ゲームマスター……成る程、それなら合点が行く。バックルやルールの知識に精通し、ルールブックには書いてなかったデュオ交代権でゲームを動かした。それができるのは、ゲームマスターくらいだ。

「ギーツのIDコアをくれ」

「君は既に脱落した身だ。仮面ライダーの資格はない」

 タイクーンの場合はエントリー権の譲渡で済んだが…運営はギーツ落としに邁進していた。簡単にYESとは言わない。

 しばらく話を聞いてみたが…ギロリと英寿の主張は中々噛み合わず、議論は中を舞っていた。その中で、何となくバッファが脱落してしまったのもわかった。五人の内、一人は脱落し、二人は重症で戦闘不能、残りは戦意喪失…ギーツ一人いないだけで、ここまで散々な結果になるとは…お笑いもんだ。俺はゆっくりとベットに身体を沈め、青山を見た。

 最初は、理不尽にキレたり、言う事聞かなかったり、自己中な奴だと思っていたのに。やはり人は、前面だけじゃ何もわからない。もしコイツと、別の出会いができていれば。郁真の様に友達になれたかもしれなかったのに。人生は、不公平だ…

「却下だ!お前にはもう、仮面ライダーの資格はない!」

「あります…!浮世英寿様には、仮面ライダーの資格があります」

 声を荒げ感情を露わにするギロリを、ツムリが制した。

「ツムリ…どういうつもりだ」

「彼が最初に叶えたからです。"俺が死ぬまで、デザイアグランプリに参加できる世界"と。彼が死なない限り、彼は仮面ライダーギーツです」

 思わず、枯れた笑みが溢れる。アイツ…最初に叶えた願いがそれとか…どこまで計算ずくなんだよ。まだ、到底敵わない。

「ほんっと、凄いね…あの人…」

「青山…」

 青山が目を覚めしていた。彼女も身体を動かそうとするが、相当酷い痛みなのだろう、直ぐにベットに倒れる。その一瞬で、ベット滲んだ血が見えた。そして悟る。コイツの命は、今にも消えかかろうとしている。早くゲームをクリアしないと、コイツの命は無い…

 俺は、無理やりベットから這い出て、カーテンを開く。もう、立っているのさえやっとだった。景和が心配そうに駆け寄ってくる。やっぱり俺たちを運んだのはコイツか。

「奏斗君…!無理しちゃ駄目だよ…!」

「いいんだ…英寿…」

 俺は、ブラストバックルをポケットから取り出す。今はもう、英寿に賭けるしかない。青山の命を、救うためには。英寿はブラストバックルを受け取り、デザイアドライバーを装着する。俺は、かつての郁真の言葉に、自分を重ねて言った。

「言ったからには、絶対守れよ…!」

「ああ。ちょっと行ってくるよ…世界を救いに」

 

             ※

 

 マグナムシューターの銃撃で、衛兵ジャマトを一掃したギーツは、ブラストバックルを右側に装填する。

『DUAL ON!BLAST&BOOST!』

 縦横無尽に空中を飛び回り、ブーストの強力な蹴りはジャマトライダーにも有効。衛兵ジャマトは為す術もなくガス噴射によって威力を増したパンチで粉砕された。

 

             ※

 

 時が経つ度に、青山の呼吸は荒くなっていく。俺はベットの傍らに座り、壁にもたれかかりながら、青山に声をかけた。ゲームさえ終われば、青山の怪我は回復し、重症の棄権扱いでゲームを降りられる。まぁ、これは最終戦だから、離脱も何も無いが。

「青山、もう少しでゲームは終わる…負けんな」

「…そっちこそ…死にそうじゃん…」

「まあな…」

 英寿なら、必ずゲームを攻略できる。それをただ、必死に待つしか無い。青山は、息も絶え絶えの声で、俺に問いかけてきた。

「あのさ…奏斗って…彼女いたことある?」

「…はぁ…?こんな時に恋バナかよ…」

「答えて」

 一度は呆れたが、青山の眼差しは本気だった。答えるのは癪だが…気の紛らいくらいにはなるか。

「いねぇよ。こんな性格だ…わかるだろ」

「……そっか…なら、教えてほしい。奏斗は、何を願ったの?」

 一瞬告白でもされるかとビビったが、流石に違った。俺の願いは、デザイアグランプリの無い世界。既に祢音や郁真には教えていたので、俺は抵抗なく答えた。

「…デザイアグランプリの存在しない世界だ」

「…………そっか。なら、選んで。奏斗は、これからも、その願いを、ずっと……願っていられる?」

 難しい質問だな。このままでは脱落は確定だし…次のデザイアグランプリに招待されなければ、もうこの願いは忘れたままだ。どうしようも無い。ならば、もしデザイアグランプリに今後も招待されるとしたら…?

「わからない……俺は、どれが本当の自分なのかわからないんだ。だから、今の願いはただの気の迷いなのかもな。また、招待されたとしても、俺の願いは変わるだろう。本当の俺は…何処にもいない…」

 青山は俺の自嘲を、間髪入れず否定した。

「違うよ。少なくとも、私が知っている奏斗は……願いに真っ直ぐだったよ。よくも悪くもね…人間なんてさ…コロコロ感情変わるじゃん。事あるごとに願いが変わるなんて…それでいいんだよ……一番駄目なのは、自分と向き合わないこと…」

 俺の手を、青山が掴む。

「だから、奏斗は…思い出さなきゃ駄目だよ。奏斗の、スタートを…」

 青山は、俺の手を、腰のIDコアまで運んだ。そして…カローガンのIDコアに触れた瞬間…思い出す。

 

(奏斗君も行くよね?あそこのカレー屋さん、半田君も絶賛だったよ?)

 

(大丈夫、奏斗はちゃんとみんなを見れてるから)

 

(全国大会、奏斗の夢なんでしょ?)

 

(…奏斗、また明日ね)

 

 謎の声の主…思い出す。俺の、本当のバスケ部としての記憶。

「玲…?」

「もう、迷っちゃ駄目だよ…奏斗…」

『RETIRE』

 青山は、デザイアドライバーを残し消えた。英寿が、ゲームをクリアしたのだ。同時に、毒の痛みと痺れも消えてゆく。

 ただ今は…かつての友人・鵜飼玲にただ、思いを馳せた。

 どうしてずっと、忘れていたのだろう。

 

             ※

 

 芹澤朋希は、強く机を叩く。

「くそ…ムスブのやつ…!カローガンのIDコアに細工を…!」

 彼もまた、かつてのバスケ部の日々を思い出していた。

 

             ※

 

 私に、将来の目標はない。以前まではそうだった。

 小学生の頃、惰性で始めたバレーボールを生きがいだと思い込み、クラスの怖い女子に従ってでも続けてきた。

「あっれ〜優、最近練習きてないじゃん。どったのぉ〜」

「あのさぁ、今度お願いあるんだけど〜」

 いつもの二人が、今日も両サイドをがっちり固めてくる。今度はどんなお願いだろう。どうせこの二人は、私が練習に来てないことを咎めたい訳じゃない。使い勝手のいい人がいなくなるのが嫌なだけだ。また、ボランティア部の愚痴に付き合わされるとか、そんなところだ。もう、聞いてやる必要はない。

「あ…私もうバレー部辞めたんで」

 それだけ言って、私は二人の包囲を抜け出した。後ろから、二人がグチグチ言っているのが聞こえる。勝手に言っていればいい。なんだか最近、迷うことが無くなった。それはなんでだろう、今なら、自分のやりたいことがはっきりとわかる。私の将来の夢は…

「誰かを救える、看護師になる」

 私の心は決まった。

 

             ※

 

 デザイアグランプリの運営は、一枚岩ではない。世界を変える力を扱い、時代を行き来する。もちろん、その力を悪用しようとする者も現れる。

「うむ。デザイアグランプリの存在しない世界か…叶えてやらないのは惜しいな…」

 先代ゲームマスターのコラスは、奏斗のデザイアカードを眺める。

 

           DGPルール

 

  ゲームの中で受けた、傷や状態異常のダメージは、

 

      ゲームクリアと共にリセットされる。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「喧嘩はよくありませんよ?」

─失われた─

「城玖と朋希はいいのか?」

─記憶とは…?─

「おめでとうございます!厳正なる審査の結果、あなたは選ばれました!」

13話 変心IR:運命の瞬間へ
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