仮面ライダーギーツ外伝 一歩IF:片脚の男   作:みなかみ

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13話 変心IR:運命の瞬間へ

 

 それは、高校二年生になってすぐの頃。

 俺は体育館で、ひたすらにシュート練習に打ち込んでいた。手のひらを離れたバスケットボールは、きれいな弧を描いてリングにすっぽりと収まる。

「おい奏斗…もうやめようぜ」

 地面に仰向けに寝転んだ半田城玖(はんだきずく)は、怠惰な声を発する。時刻は午後七時半。気づかぬ内に、もうこんな時間だ。でも、この市民体育館の使用は九時まで許可されている。

「まだだ。こんなんじゃ全国大会には届かない」

「全国って……そんな事言ってるのお前だけだぞ」

 城玖はバスケットボールを、大道芸人の様に両腕の上を転がせる。ヒマそうだ。コイツが練習しないならそれはそれで、俺が練習するだけ。というか、なんで帰らないでここに居座っているんだ。毎日飽きずに、何かするわけでもないのに。

「俺は本気だぞ…」

 地面を跳ねていたボールを拾い直して、スリーポイントのラインからもう一度シュートを放つ。今度も無駄な跳ね返りもなく、リングに落ちていった。

「もういいじゃん。そんだけ上手けりゃ、練習しなくてもいいだろ」

「本番で百パーセントの力が出せるのは別だ……だからこうして、準備してるんだろ。暇なら練習相手くらいになれ」

 俺が促すと、城玖は渋々立ち上がり、ジャージの袖をまくった。

「ワンオンワン、お前強いんだよなぁ…」

 俺が先にディフェンスとなり、受け取ったボールを城玖に投げ返す。試合開始の合図だ。始まると同時に、城玖が仕掛ける。ドリブルを付きながら、一度右にフェイントを入れて左に飛び出した。俺はそれを、自慢の脚力で切り替えして追いつき、ボールを奪った。

「足速ぇ~一年からレギュラーだもんな…敵うわけねぇよ」

 城玖は、無理無理、としきりに言いながら定位置に戻り、もう一度仰向けに広がった。俺は奪ったボールで片手間にドリブルをつく。

「お前だって、もうレギュラー入りだろ。俺より上背あるんだし、これからもっと上手くなるさ」

「だといいなぁ」

 そもそも、足の速さでボールを追いかける俺と、フィジカルの強さを持ち味にディフェンスを固めるあいつじゃ、プレーの方向性が違う。適材適所、人には元々決められた才能の限界があり、それを超えることはできない。

 "右足"を強く踏み込んで、手元のボールを放つ。バスケシューズが地面と擦れて鳴り、静かにボールはリングの中に収まる。今度はコート半分も離れていたが、これまた綺麗にシュートが決まった。 

「…なぁ、俺らって、全国大会行けると思うか?」

「行けるさ…俺とお前なら」

 全国大会はまだまだ先だが、時間は無い。地区大会、県大会を勝ち抜く必要がある。でも、俺はこの時思ってもいなかった。俺の人生が、ここから二転も三転もすることになるとは。

 

             *

 

 ずっと失っていた記憶。俺は、ずっと一人でバスケをしてきたと思っていた。だから、怪我をした時に俺を"助けようとした人"はいなかった。孤独。そしていつしか人類滅亡を願うようになった。

 だが、実際は違った。

 俺には、鵜飼玲という彼女がいた。

 そして、俺を"助けようとした人"は確かにいた。いたはずだった。

 

 

 高校二年生の初夏。県大会の準決勝でインターハイ出場の夢を絶たれた先輩方は卒部し、二年生に代替わりしたこの頃。俺は部活の現状に辟易していた。

「ほんっとに、どいつもこいつも…!」

 俺は体育館で一人、ボールを床に強く打ち付けた。予定表では今日、放課後に練習があったはずである。だと言うのに、来たのは俺と城玖だけ。他の部員は、口裏を合わせてサボりだ。先輩から全国出場という夢を託されたのだと言うのに、誰も彼もやる気のない奴ばかり。こんなことでは、全国どころか県大会出場すら危うい。新入部員も一人だったし、本当にこのままで大丈夫なのか。

 城玖は探しに行ってくると、カンカンで体育館を飛び出し、残された俺はただ自主練をしながら待つほか無かった。

 隣の半コートでは、女子バスケットボール部が練習を始めている。向こうは和気あいあいとしていて、楽しそうだ。俺は目を背けて、またシュート練を開始する。本当は体力系のトレーニングや、通しの練習を今日はしたかったが、もしかしたらサボりの奴らが戻ってくるかもしれない。希望的観測だが、俺は彼らを待つことにした。試合は一人じゃ出場できない。どうしても、あいつらには出てもらうしか無い。

 程なくして、コートの隅においていた携帯が着信音を鳴らした。画面には、城玖とある。サボりを発見したのかもしれない。ボールを脇に抱えて、携帯を耳に当てる。

「見つかったか?」

『あぁ。でもあいつら、カラオケに居座って出ようとしねぇ。どうする?』

 無理にでも連れ返せ!と言いたい所だが、部活をサボってカラオケか。ここまで来たら、もう顧問の出番だな。もう怒りを通り越すレベルの愚かさ。ため息しか出ない。

「顧問をそっちに寄越す。お前は練習に来てくれ」

『はぁ…わーかりやした。行くわ』

 城玖も憤りの感情が抜けて、諦めに変わったのだろう。素直に従った。電話を切ると、体育館を慌ただしく一年生が入ってきた。そう、彼が唯一の新入部員。マネージャーの芹澤朋希だ。身体が弱くて選手としては活動できないが、記録や雑事で活躍してくれている。頼れる後輩だ。朋希は、息を切らしながら早口で語る。

「ヤバいっす先輩!女子バレー部がコート使わないなら退けろって、進軍してきてます!」

「何だと!?それはマズい!」

 バスケと女子バレー部…というより、俺と女子バレー部は犬猿の仲だ。いつもバスケ部の部員がサボるものだから、活動していないものと見なし、領土を荒らしに来るのだ。体育館の使用時間は前半と後半に別れていて、バスケは前半、バレーは後半。ここでバスケ部を追い返せれば、たっぷり練習時間が取れるというわけだ。

「あのさぁ~!コート使わないならさ、退けてくんない!?」

 来やがった。ヘッドの二人の両サイドに、何人も女子がずらずらと並んでいる。まるでヌーの大移動のようだ。抑えようとする朋希を突き飛ばし、領土に踏み込んでくる。

「フツウに考えてさ、練習もないのに居座ってる方がおかしくない?」

 長身の方がねぇ!と共感を求めると、皆お手本のように強く頷き共感する。中には躊躇いがちなやつもいた。こいつらの手法はこうだ。味方をいっぱい作って、従わないやつは切り捨てる。いじめの標的にされたくなくて、他のやつも従うというやつだ。趣味が悪い。

「いや、今はバスケ部が使用を許可されている時間だ。それすらわからないなんて、お前ら馬鹿じゃないだろ?」

 バレー部に対抗して、俺も睨みを効かせて煽る。今思えばこれが、学校で孤立する理由の一つだった。でも、この時は違った。

「喧嘩はよくありませんよ?」

 温かく場を和ませる声色が、女子バレー部と俺の間を通り抜けていった。反射的に、俺たちは声が発せられた方向を向く。

「ごめんない。女子バレー部のみなさん。彼もすっごく頑張って練習してるんです。見逃してもらえませんか。ね?」

 女子バスケットボール部のエース・鵜飼玲だった。身長が高く、糸目だが、端正な顔立ちをした美形の彼女は、学校の人気者。彼女が微笑めば、誰もが振り向く。女子バレー部も、彼女の振る舞いを見て、じゃあ仕方なくと去る。美人の力って、すご。

「すみません、なんか偉そうに口出ししちゃって。半田君がいつもお世話になってます」

「おいっ!何やってんだよ玲!」

 そうこう言っていると城玖が体育館に戻ってきた。そして、鵜飼玲を見るや否や、頭をかきながらつっかかる。

「あら、迷惑だったかしら」

「あぁ迷惑だよ大迷惑!いいからあっち行ってくれ!」

「ちょっ、やめましょうよ先輩〜!」

 城玖と鵜飼玲は、小さい頃から幼馴染らしい。学年は同じなのだが、城玖は早生まれ。鵜飼玲に何かと子供扱いされて、邪険に思っているらしい。鵜飼玲を突き放そうとする城玖を、朋希が抑える。

 俺たち四人のバスケはここから始まったのだ。

 

 

 その日の練習は終わり、声をかけてきたのは鵜飼玲からだった。

「奏斗君も行くよね?あそこのカレー屋さん、半田君も絶賛だったよ?」

 "奏斗君も〜"と言うのだから、てっきり城玖と朋希も来るのかと思って油断していた。次の日、実際にカレー屋に行ってみると、いたのは鵜飼玲一人だけだった。

 今思えば、あのカレー屋は鞍馬祢音と行った店と同じ所だ。

 先に鵜飼玲は到着していて、向かい合わせに座る二人席で待っていた。本当は今日、市営の体育館で自主練をしたかったのだが。俺が鵜飼玲を見つけると、こっちこっちと小さく手招きをする。俺は向いに座って鞄を下ろす。

「今日はなんで俺だけ?城玖と朋希はいいのか?」

「う〜ん?まぁ、奏斗君に私的な相談があってね…」

 鵜飼玲は、糸目を吊り上げ、右手を胸に当てると、ずいと俺に近づいて、衝撃的な発言をした。

「私と、付き合って欲しいなぁって」

 俺は椅子から転げ落ちた。いや、いくら何でも急展開すぎる。俺と鵜飼玲は、部活での体育館の使用時間が被るためか、数回話すことはあった。しかし、彼女から恋愛対象として見られていたとは…しかもこっちは、「あ、美人。」程度にしか思っていなかったのに。ぁあ、そうだ、これは俗に言う嘘告というやつだ。罰ゲームで、クラスの嫌われ者に告白でもしろなんて言われたのだろう。そら、顔を見れば悪趣味な笑みがきっと…

「ごめ、奏斗君、大丈夫!?」

 そう言って手を差し伸べる彼女の顔は、耳の先まで真っ赤で、汗がだらだらと流れていた。嘘ではないと直感的に悟った。何だこれ。今までバスケ漬けの生活を送ってきた俺にとって、初めての経験だった。

「……ああ。大丈夫」

 俺は、彼女の手を取り立ち上がる。結果は、言わなくてもわかると思う。

 

 

 俺と付き合い始めたと、城玖と朋希に言いふらしたのは玲からだった。城玖はそれを聞いた途端に、飛び跳ねながら喜び、朋希は倒れるんじゃないかってくらいに叫んだ。城玖に報告するのは正直不安だったが、彼には既に別の彼女がいたようで、特に気にしてはいなかった。

 同時に、俺はバスケ部としての活動に行き詰まっていた。未だに他の部員は練習に来ず、加速度的に全国大会の夢は遠ざかっていく。俺は何度も部員に練習に来るように説得を試みた。しかし、何度やっても上手く行かない。そこでも、玲は俺を励ましてくれた。

「大丈夫、奏斗はちゃんとみんなを見れてるから。全国大会、奏斗の夢なんでしょ?諦めちゃ駄目だよ」

 そこで、俺は知った。玲はそうやって慰めてくれたが、俺は、皆の事を見れていなかった。ただ部員達を、全国大会に行くための道具だと無意識に思ってしまっていた。それじゃ、誰もついてくるはずがない。

 俺はそれから、具体的なビジョンを部員に伝えることにした。守備にはお前が不可欠だ、お前の切り替えの強さが必要だ…など。部員に、なぜ自分が必要とされているのかを、しっかりと伝えた。すると不思議に、部員は付いてきてくれた。彼らに必要なのは説教ではなく、存在意義を伝える事だった。

 次第に、部活のモチベーションは上がっていき、俺たちは地区大会を優勝。晴れて県大会の切符を掴み取った。

 そして同時に、

「…奏斗、また明日ね」

 この言葉を最後に、鵜飼玲はこの世から消えた。

 彼女はジャマトに殺され、蘇らなかったのか。違う。鵜飼玲が消えた時期は、浮世英寿がスターになる世界を叶えたタイミングと被っている。つまり…彼女は仮面ライダーとなり、退場したのだ。

 退場した者は、世界から忘れられる。存在が消えるのだ。

 鵜飼玲という存在が失われたことで、歴史は変わった。

 俺は、独りよがりな説教を辞められず、バスケ部は再興できない。

 そういう世界に、彼女の死によって変わった。

 そして、俺を"助けてくれる人"は、"見捨てる人"になった。

 

 

「どうして誰もわかってくれないんだよ…!」

 俺はあの日、また部員の説得に失敗し、一人寂しく道を歩いていた。この時の、俺のバスケへの情熱は本物だった。しかし、世界は理不尽だ。俺は、ボールをついていて、周りが見れていなかった。

「え」

 けたたましい轟音と共に、俺の人生は終わった。

 

 

 今日も最悪の目覚めだった。何度夢であることを願っただろう。俺の右足はまだ、ギプスで固定されたまま動かない。そして、いくら怪我をしていても、学生は学校に通う義務がある。怪我をして以来、最初の登校だった。

 松葉杖をつきながら、校門をくぐる。そこで俺は、違和感に気づいた。数名の男子学生が、バスケットボールやユニフォームを持って校舎に入っていく。何故だ。俺がいなきゃ、バスケ部で活動する奴なんていないだろう。そう思っていた。

 俺は、確かめることにした。放課後、いつもバスケ部が活動していた時間に、体育館立ち寄った。まだ、右足はズキズキと傷んでいた。

「っしゃぁ!まだまだ行くぞ!」

 城玖が強く声を張り上げる。それに、他の部員は楽しそうに応じた。その時、俺は察した。バスケ部が活動していたのは、怠惰だった訳では無い。俺がいたからだ。全国大会なんて無い夢を皆に付き合わせ、足並みを揃えない。過度なメニューは、ただ身体に悪いだけ。俺が怪我によって排除された今、バスケ部が活動しない理由は無かった。

 当時の俺は、事実を受け止めきれなくて、城玖を問い詰めた。バスケ部の活動は終わっていて、体育館には、誰もいなかった。

「何なんだよあれ……何でバスケ部が活動してるんだよ!?」

「お前さ!勘違いしてるんだよ。全国大会なんてさ、でっかい夢掲げられて、こっちはいい迷惑なんだよ!奏斗、お前もう少し周り見ろよ」

 城玖はそれだけ言って体育館を去った。

 俺は、その場に崩れる。

 何だよそれ…夢をみちゃ、行けないのかよ。なんでそれを、否定するんだよ。俺の何が駄目だって言うんだよ………憎い。こんな、俺を受け入れない世界なんて………滅んでしまえ…!

「おめでとうございます!厳正なる審査の結果、あなたは選ばれました!」

 顔を上げると、そこには、謎の女が立っていた。女は、俺の前にしゃがみ込み、右足に手を触れる。するとたちまち、痛みが引いていき、足の怪我が回復した。そして悟った、こいつは、俺たちのいる世界の人間ではないと。

「これは特典です。怪我をしていては、戦えませんからね。今日から、あなたは仮面ライダーです!」

 彼女は、手元の箱を俺に手渡す。中には、ベルトとIDコアなるものが入っていた。特に"触れても何も起こらない"。ここからが、物語の本当の始まりだった。

 

             *

 

 …全部、思い出した。鵜飼玲……俺の大切だった人。失われた、バスケ部としての、本当の活動の記憶を。本当だったら、俺は部員と和解し、着実に全国を目指せているはずだった。でも、玲の消滅によって、玲の存在によって成り立っていた、部員と和解するという出来事が無くなり、俺のバスケ人生は暗黒に成り代わったのだ。

「…思い出したか、ダパーン」

「…ギロリ」

 青山が消えた病室に、ゲームマスターである彼が入ってきた。なんのつもりだ。もうゲームは英寿のおかげで終わった。俺にもう用はないはずだ。

「デザ神決定戦が、すで行われている。狐狩り。もしギーツを討伐できれば、君がデザ神になれる」

「…何だよそれ。ふざけんなよ。これ以上、俺はどうすればいい。玲が消えた以上、バスケを、あいつら三人が好きだった"本当の俺"は帰ってこない。戦う理由なんか…」

 慟哭に溺れる俺に、ギロリはデザイアカードを差し出した。

「あるさ。デザイアカードの願いを書き換えることを、特別に許可する。それで何でも願えばいい。もちろん、ギーツを倒せればの話だが。これも、君にあげよう。じっくり考えるんだ」

 ギロリは、青山の消えたベットに、羽ペンにデザイアカードと、ブーストバックルを置いて立ち去った。俺は、ブーストバックルと白紙のデザイアカードを取る。こんな理不尽なゲーム俺は…

『PUNKJACK LOOSE』

 スパイダーフォンが、晴屋ウィンの脱落を伝える。英寿…お前がその気なら、こっちだってやってやるよ。俺は、デザイアカードに願いを殴り書きした。

 

 

 翌朝になっても、狐狩りは続いていた。俺は、その様子を影から眺めていた。

 どうやら、タイクーンが殺る気になったらしい。どちらも新型のバックル、コマンドツインバックルから生じた、レイジングソードで斬り合っている。あのバックルは、一定以上レイジングソードにエネルギーを溜めないと真価を発揮できない。

 どちらもチャージが完了し、もう一つのバックルをベルトに装着した。

『『TAKE OFF COMPLETE!JET&CANNON!』』

『Ready?Fight!』

 ギーツは飛行能力に優れたジェットモードを、タイクーンは破壊力に優れたキャノンモードを選択し、一対一の果たし合いは廃倉庫の奥へと移る。覚悟を決めたタイクーンの攻撃は血気迫るもので、ギーツにダメージを与えはしたものの、実力はやはりギーツの方が上。次第に劣勢に追い込まれる。

「やっぱり、強い…!」

「お前も強くなったなぁ…でも、俺の勝ちだ!」

 俺もタイクーンに加勢するべきか。でも、躊躇いの思いが抜けない。俺は、新たに記載したデザイアカードを見る。そこには、"鵜飼玲が復活し、またバスケができる世界"と書いた。今なら、ギーツを倒せる。たが、本当にいいのか?これは運営が仕組んだギーツ落としのためのゲーム。それで願いが叶って復活して、玲は嬉しいか?

「ギーツが生き残る結末は存在しない…」

 タイクーンとギーツの戦いを傍観する俺の前に、ギロリが現れた。俺がいることには気づいていないようだが、何をするつもりだ。

『GLARE LOG IN』

 なんだあのベルトは…?俺たち参加者が使っているものとは違う。運営専用のベルトか?ギロリは認証カードをベルトにスライドさせる。

「変身」

『INSTALL.DOMINATE A SYSTEM GLARE.』

「ギーツ…お前を勝たせるわけにはいかない。消えてもらおう」

『DELETE』

 ギロリの変身した仮面ライダーグレアは、肩のビットを空中に浮遊させ、エネルギーを充填する。いよいよ運営が直々にギーツを…!

「…っ!」

 俺が叫ぶよりも速く、タイクーンがエネルギー弾を放った。そのエネルギー弾はギーツを通り越し、グレアのビットに命中。必殺技を阻止した。

「あいつ…!」

「俺がピンチになれば、きっとあんたが直接出てくると思ってたよ」

「どういうつもりだ!」

 タイクーン…ギーツまで騙すとは…!ギロリはタイクーンを問い詰めるが、倉庫の外にクリーム色のスーツを着た男性が現れ、注意がそちらに移る。

「確かにこの目で見させてもらった。ゲームマスターが不正を働く、一部始終を」

「ニラム…どうしてここに…!」

 ギロリが彼の名前を叫ぶ。ニラム、どうやらこの様な場所に来るのが考えられないほど、立場の高い男らしい。彼の横に、次いで鞍馬祢音が現れた。

「ゲームプロデューサーに告発させてもらいました。このゲームは全部…あなたが英寿を落とすためにやったことだって!」

 プロデューサー。デザイアグランプリに、そんな役職が。だが、祢音のやつ。前はあんなに鞍馬財閥との関係を疑った俺にキレてたのに。それすら受け入れて告発したとでも言うのか。英寿を守るために。

「パンクジャックさんを使って…英寿を排除しようとした…!結局は全部あなたの仕業…こんな不公平なゲーム、私は認められない!」

 晴屋ウィンの脱落は、ギロリの仕込みだったのか。ならば、最終戦に不在だったのにも説明がつく。こいつ…本当に英寿落としに躍起になっていたか。

「ゲームマスターによるプレイヤーはの不意な関与は認められない…ゲームマスター失格だ」

 ニラムの言葉に、ギロリは激昂する。

「バカな…私はギーツくだらない願いから、世界を守ろうと…!」

「くだらないなんて言うなっ!」

 タイクーンが、珍しく声を荒げる。

「…今まで、大勢の人たちが、デザイアグランプリに参加してきた…命がけで…自分の人生を賭けて…戦ってきた。どんな願いだって、命を賭けて戦えば立派な願いなんだ…それを、くだらないなんて言うあんたが許せない!あんたは、みんなの思いを踏みにじったんだ!」

 命を賭けて…戦えば。

「…愚かな。理想の世界を叶えるチャンスを棒に振るとは。お前らは…強制退場だ!」

 グレアが二人に殴りかかり、さらに鞍馬祢音も変身して加勢に入る。俺も行くべきか……俺は、新しいデザイアカードをもう一度見る。あの時は…流れに乗って感情をぶつけてしまった。いつだってそうだ。感情に身を任せて行動して、周りに当たって、結局最後は後悔する。そしてまた、人生は不公平だ、理不尽だ、不幸が向こうから襲ってくるなんて、恨み節を叩く。

 俺は新しいデザイアカードを破り捨てた。

「不幸は…確かに襲ってくるのかもしれない」

 それでも、幸運はあった。英寿と、景和と、祢音に会えて。それだけじゃない、青山も、吾妻道長も、晴屋ウィンも。一緒に戦えた。仲間だった。不幸の中からでも、幸運は救い出せる。

「不幸が襲ってくるなら………自分から幸運になるしか無いじゃないか…!」

『SET』『SET FEVER!』

 俺は決意して、倉庫の影から飛び出した。右側にフィーバースロットを、左側にブーストバックルを装填し、グレア向けて走り出す。途中でビットがレーザーで襲い、地面が爆ぜ、右足が傷んだ。それでも、今は構わなかった。

「変身!」

『JACKPOT HIT!FEVER BOOST!』

 一発で、幸運は訪れた。全身に真紅の鎧を纏い、グレアを殴りつける。フィーバーブーストの力は絶大で、一撃でグレアは倉庫の外に吹っ飛ぶ。

「奏斗君!」「ようやく来たか…!」「待ってたよ!」

 三人が、俺の登場を讃える。

「……ごめん。遅くなった…」

 俺たち四人は、ゲームマスターとの最後の戦いに挑む。

 五つもあるグレアのビットは、完全に自動操縦で、多方向から俺たちを襲う。俺はそのレーザーの雨を掻い潜り、再びグレアに殴りかかる。しかし、今度はビットに防御され、辺りを噴煙が舞う。一度距離を取ったタイミングで、ナーゴが高台に移動した。

「退場するのはあなただよ!」

『ROCK FIRE!』

 ナーゴが連携技の号令を取り、タイクーンはレイジングソードにエネルギーをチャージ、ギーツは空へ飛び立った。

『TACTICAL FIRE!』『TACTICAL RAISING!』

 二人の同時攻撃を、グレアは防御する。俺はブーストバックルを再度起動し、必殺技を発動した。

『BOOST TIME!』

『GOLDEN FEVER VICTORY!』

 全身のマフラーが火を吹き、俺の身体は加速する。そして、ビットの防御よりも速く、二人の同時攻撃を防いでいたグレアの前に迫り、渾身のアッパーでグレアを上空に押し上げた。そしてその先には、必殺技を発動したギーツ。

『COMMAND TWIN VICTORY!』

 ジェットの飛行能力により、さらに強化されたキックがグレアの胸部に炸裂。グレアは地面に叩きつけられ、爆発した…と思いきや、グレアはまだ変身解除すらされていなかった。流石は運営のライダー…性能に埋められない差があるのか。一度の使用回数を過ぎたブーストバックルが飛んでいき、通常のブーストフォームに戻ってしまった。

 グレアは諦めずに、俺たちに歩み始める。しかし、ニラムが割って入って止めた。

「…これ以上、大切なプレイヤーに傷をつけられては困る」

 ニラムが指を弾くと、グレアの変身が解除され、ギロリの身体がホログラム状に分離していく。これは消滅か、それとも更迭なのか。真意は分からないが、ギロリは狼狽えた様子だ。

「待て…!ジャマトは今も成長し続けている…!私が仕切らないで、あいつらとどう対抗するっていうんだ!」

 ギロリはニラムに殴りかかるが、既に崩壊し始めた身体は、ニラムに触れられない。そしてニラムは満面の笑みでギロリにこう答えるのだった。

「あなたの代わりはいくらでもいる」

 ギロリは悔しそうにもう一度ニラムに触れようとしたが、抵抗虚しく、運営用のドライバーだけを残して完全に消えた。

 これで終わりか……ニラムはドライバーを拾おうと手を伸ばす。

 その時だった。

 

 ドライバーは、ニラムの手元に収まる寸前で、通りすがりの誰かに奪われた。

 

 その男は紫色のスーツにマントを羽織り、右手には杖。そして、血に染まった真っ赤な仮面を被っている。新しいゲームマスターか?

「何…?」

「久しぶりだねぇ…ニラァ〜ム」

 男は仮面を外し、シルクハットを被りなおす。

「コラス!なぜあなたがここに…!」

 コラスと呼ばれた男は、俺たちに杖の先を向ける。

「君たちを、我がゲーム、デザイアロワイヤルに招待しようッ!さぁ、叶えろ……デザイアグランプリの存在しない世界をォッ!」

 そう言って、コラスは俺のデザイアカードを空に掲げた。

 また鐘の音が聞こえ、俺が驚くよりも速く、ジャマーエリアのようなものが広かった。

 

           DGPルール

 

  デザイアグランプリは──────────────

 

 

 

           DRルール

 

         これは、宇宙で最も

 

   スリリングかつエキサイティングなゲームである!




次章予告

「さあ始めよう…デザイアロワイヤルをっ!」

「世界は終わらせない」

「俺がデザ神となるっ!」

「一輝兄があの壁の中に!」

「幸せだったけど…最高じゃなかった…」
────────────────────────────
「僕たちも手を貸します!」

「こいつは最高だな!」

「1000%ありえない」

「或人社長は、現在宇宙に」

「heyheyhey!令和ライダー…揃い踏み…実に感動的だね!」

「「「「「変身!」」」」」

14話 交差Ⅰ:開幕!デザイアロワイヤル!
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