14話 交差Ⅰ:開幕!デザイアロワイヤル!
─コラスが願いを叶える力を発動する数時間前─
BLUE BIRD。元FENIX所属の五十嵐大二が創設者となり、新たに創り上げた平和維持組織である。門田ヒロミ、ジョージ狩崎を始めとした元フェニックスの人員の他にも、以前は敵対関係にあった秘密組織・WEEKENDの構成員、夏木花や玉置豪等もブルーバードの一員として、日夜平和を守るために奔走している。
そんな彼らが、現在対策に当たっているのは"空の裂け目"である。
かつて、地球に潜伏していた地球外生命体・ギフ。人間の心に生じる負の側面・悪魔を食料とし、数多くの人間を悲劇に陥れた彼は、ギフの遺伝子を継承した存在、五十嵐三兄妹とその悪魔の手によって引導を渡された。しかし、彼が命を落とし爆散した空には、かのガンマ線バーストのような跡が残ったのである。
既にギフは存在していないとは言え、未だ不明な点が多く、彼由来のスタンプや瞳といった遺留物は、ギフ亡き今でも新たな事件を引き起こしていた。とすると、この裂け目も何者かに利用される可能性は高く、裂け目への対応が、当面のブルーバードの課題となっていた。
日は高く昇り、太陽の光が裂け目の黒きを際立たせる。
「狩崎、裂け目の状態は?」
仮設テントの中に設置されたラボ。そこで最後の調整を行っていたジョージ・狩崎に、隊長である門田ヒロミが声をかける。ジョージ・狩崎は、ディスプレイと研究資料を凝視しながら、ヒロミの問いに答えた。
「今も裂け目は縮まり続けているよ。これが続けば、あと三十分で完全に塞がる」
ブルーバードによって、警戒区域に指定された一帯の中央には、新たに開発されたパラボナアンテナの様な照射器が設置されている。この照射器こそ、ブルーバードが何ヶ月もかけた開発した、裂け目を完全に閉じるための装置・ベリリュンヌである。
ベリリュンヌは、今もオレンジ色の特殊光線を裂け目に照射している。この光線の効果によって、裂け目は順調に塞がり始めていた。
「よし。俺も警備に当たる。狩崎、ここは任せた」
狩崎はそれにグッドマークで応えてみせた。
仮設テントを出ると、そこでは既にブルーバードの作業車や大量の機材がキャンプを形成しており、その最深部にベリリュンヌはあった。創設者である五十嵐大二は、家族と温泉旅館にて休暇中。来れなかったのは残念であるが、家族水入らずとなれば仕方が無い。
「遂にこの日が来たか…」
ヒロミは空の裂け目を見つめる。この裂け目さえ収まれば、暫くは平和が訪れる。彼はこれまでの戦いを思い返すと、よし、と気合を入れ直し、ブルーバード専用のバイクに跨がる。キーを回してエンジンを起動すると、不意に謎の仮面を被った男が現れた。コラスである。
「ハ〜イ。門田ヒロミ」
ヒロミはコラスからただならぬ雰囲気を感じ取り、右腰に携帯していた電気銃の銃口を向ける。
「何者だ」
「スカウトさ…!君をデザイアロワイヤルの司会として招き入れたい」
デザイアロワイヤルという、聞き馴染みの無い単語に、ヒロミは戸惑う。しかし、動揺の色を見せずに銃を構え続けた。
「今日は大切な日だ。スカウトだがなんだか知らないが、邪魔はさせないぞ」
「大切な日ね…ふんっ、それは私とて同じこと」
コラスは後ろ手に隠していた小型の麻酔銃で、ヒロミの首筋を射抜く。麻酔は強力で、ヒロミはバイクから転げ落ちた。
「さあ始めよう…デザイアロワイヤルをっ!」
コラスが高らかに宣言し、空を見上げると、縮小し始めていた裂け目が途端に拡大し始める。それを目視したコラスは、低い声で嗤いながら、ヒロミを抱えてその場を後にした。
一方、テントの中。裂け目の拡大を確認した狩崎は、驚愕しながらも大急ぎで各機材に不備は無いかを探っていた。
「ベリリュンヌに異常は無い…!では何故?」
別の監視地点で作業をしていた玉置豪と、夏木花が慌てた様子でテントに転がり込んでくる。玉置は息を切らしながら、タブレット端末に表示された分析結果を狩崎に手渡す。
「狩崎さん!裂け目の中央に熱源反応が!」
「恐らく…生命体じゃ…」
「What's!?」
三人は、テントを出て裂け目を凝視する。確かに、裂け目の中央に二種類の発光体が見えた。それは、人のようで、人ならざる姿をしている。裂け目をこじ開けた発光体は、流星の様に地面に着地した。その勢いで周辺に衝撃波が生じ、辺りの機材が破壊される。ベリリュンヌはこの衝撃に耐えきれず、火花を散らして活動を停止した。
噴煙の中から現れた二体の生命体は、つまらなそうに辺りを観察する。そして、二体の視線は狩崎を始めとする三人にとまった。
「イザンギ…奴らは?」
「バリデロ…こいつらは人間…地球の下等生物だ」
イザンギ、バリデロと互いに呼びあった地球外生命体は、腕のデバイスで三人を解析する。
「彼らはギフの遺伝子を所持していないようだ…イザンギ」
「的外れだな。やはり"契約破棄後"では役に立たん」
突然現れて好き勝手言い散らす彼らに、腹が立った狩崎と花は、それぞれドライバーを取り出す。
「Hey…誰が下等だって?」
「私の本気…見せてやるわよ」
臨戦体制に入った二人に対して、バリデロは杖を構える。
「始末するか?」
しかし、それをイザンギは左腕を広げて諌めた。
「不要だ。下等生物が二、三匹消えた所で、ギフの力は手に入らん」
「それもそうだな」
イザンギとバリデロは地面を離れ、次なる標的めがけて飛翔する。冷静さを保っていた玉置は、彼らの行く末を不安そうに案じた。
「あいつら、ギフの遺伝子を狙ってるって事は…」
「マズイ…狙いは五十嵐一家だ!」
*
…………よう!皆久しぶり!覚えてくれたかな?俺は五十嵐一輝!好きな物はお風呂とサッカー。家族皆で、しあわせ湯っていう銭湯を経営してる。色々あって仮面ライダーになり、色々あって仮面ライダーを引退した。今日は、父ちゃんと母ちゃんの結婚記念日で、家族皆で温泉旅行に行くんだ。
「ほら一輝!荷物積むぞ!」
「兄ちゃん、クーラボックスお願い」
「りょーかい!」
これが俺の父ちゃんと、弟の大二。本当は父ちゃんが運転するはずだったんだけど、ペーパードライバーだったから大二が運転することになったんだ。俺は後ろのトランクを開けて、道中で必要になる飲み物や食材が入ったクーラボックスを積み込んだ。他にも、皆の服が入ったスーツケースに…何と言ってもマイ風呂道具。これは欠かせない。
一通り荷物を積み終えると、家から母ちゃんと妹のさくらが出てきた。母ちゃんはベビーカーを押している。美人でしょ?
「えー!?もう荷物入れちゃったの?まだ予定より二時間も速いよ!?」
「まぁまぁ、いいじゃない?途中で、ヒロミさん達にお土産買いましょ?」
母ちゃんはユッキーのハッピーチャンネルっていう、動画配信をやってるんだ。前は父ちゃんが頑張ってたんだけど…俺はよくわかんないや。さくらは最強だから、怒らすのは厳禁。
そんでもって、家族は他にもいる。大二の悪魔・カゲロウと、さくらの悪魔・ラブコフだ。流石に全員は自動車に入れないから、今は二人の心の中で休んでるみたい…………俺にも、バイスって悪魔がいたらしい。だけど、バイスの事や、俺が仮面ライダーとして戦ってた記憶だって、まるっきり思い出せないんだ。不思議だよな。バイスの話題になると、家族皆が寂しそうな顔をする。きっと、相当騒がしかったんだろうな。俺の知らない話で、家族が悲しむ。でも、それは紛れもなく俺が招いたことで……幸せな毎日だけど、俺はその時だけ、心がギュッと痛むんだ。
……って、俺のことよりも。皆聞いてくれ、ビックニュースなんだ。最近、五十嵐家に新しい家族が増えた!その名も、五十嵐幸四郎!
「幸四郎も、旅行楽しみだろ?」
俺はベビーカーの前にしゃがんで、幸四郎と目を合わせる。まさか弟がまた一人増えるなんて…人生って何があるかわからないよね。
「兄ちゃーん!そろそろ行くよ!」
幸四郎と話してる間に、家族皆が車の前に集合していた。幸四郎、俺たちも行かないとな。俺はベビーカーを押しながら、みんなの元へ一歩前へ出る。
しかし、その一歩は赤い壁に阻まれた。
「うわっ!」
突然俺と家族を隔たる様に現れた壁は、見たただけで触れるとヤバいと直感でわかった。ベビーカーを咄嗟に引いて、幸四郎を守る。壁の向こう側から、みんなが俺と幸四郎を呼んでいる。壁は半透明で少し向こう側が見えるけど、何が起こっているかはよくわからない……携帯!携帯で連絡を…と、俺はポケットからスマホを取り出す。そこで通話アプリを開こうとしたその時、画面が砂嵐に変わって、一人の男が現れた。
『諸君!君たちはとても幸運だ!』
「ヒロミさん!?」
画面に映っていた男は、紛れもなく俺たちの仲間のヒロミさんだった。だけど、格好もなんか王族みたいな紺色に金の服を着てて変だし、様子がおかしい。何より変なのは、普段の勤勉で真面目な態度からは考えられない、このハイテンション。
『君たちはデザイアロワイヤルのエントリー権を得たっ!』
彼がそう言うと、空から黄色とピンクの箱が降ってくる。二つの箱は、しあわせ湯の入口の前に落ちた。あれ…この箱、どこかで?俺はベビーカーを引きながら、先ずは黄色い方の箱を開ける。そこには、見たことのないドライバーと、この丸いやつは?俺は、水色とピンクのそれに触れる。そして…思い出した。
(…俺が…家族を守るっ!)
(…お前は俺を裏切らない…!)
(これからは………俺が君を守るよ…!)
(…だって…家族だから…!)
これが、俺の戦いの記憶……そして、俺の相棒・バイスの記憶…!
「バイス…っ!」
心に呼びかけても、バイスは返してくれない。俺の記憶だけじゃ、復活できないってのか。折角…思い出せたのに…
幸四郎が泣き始めて、俺は我に返った。バイスのことも大事だけど、今は幸四郎を守らないと…!
「大丈夫だからな…幸四郎…!」
俺はベビーカーを抱えて、幸四郎と一緒に壁から離れる。一体何が起きているんだ……あのバリアは、エリア666の時の?いや、あの事件に関わっていた人間は全員逮捕されたはず。ヒロミさんが悪用…?そんな事をする人じゃない。だったらこの人は誰なんだ。
『君たちのもとに、デザイアドライバーとIDコア、そしてバックルを支給した』
玄関先に放置したままの箱にあったベルトは、デザイアドライバーっていうのか。いつもと違うヒロミさんは、そのままデザイアロワイヤルのルール説明を始めた。
『デザイアロワイヤルは、仮面ライダー同士が争い合う、とても刺激的なゲームさ…!最後の一人になった者には…理想の世界を叶える権利を授与しよう!』
理想の世界が叶う…?じゃあ、バイスが復活することも?
『デザイアロワイヤル第一回戦!悪魔マラソンゲーム!壁が収縮しきる前に…ゴールに辿り着けばクリア!それ以外のルールは無用!ライバルを蹴落とし合い、最強の座を手にするのだっ!』
願いを叶えるために、誰かを蹴落とすなんて…そんな理不尽なゲームあるかよ…!そんなもの、俺は認めらない。幸四郎を守るためにも、ヒロミさん…?を止めなきゃ…!俺はデザイアドライバーにIDコアをはめて、腰に装着しようとする。しかしそれは、エラー音共に弾かれた。まさかこれ…幸四郎宛に支給されたものって事!?
『さぁ!悪魔マラソンゲーム!スタートぉ!』
ヒロミさんの宣言と共に、空が赤く染まり、壁が収縮してゆく。
「くそっ!」
俺はベビーカーから幸四郎が入った籠を外して、しあわせ湯に大急ぎで戻る。壁に飲まれる前に、ドライバーだけでも回収しないと!俺はしあわせ湯の番台に隠されていたアルミケースを取り出し、中身を確認する。そこにはリバイスドライバーと、レックスバイスタンプがあった。ほとんどのバイスタンプは大二のブルーバードに返却しちゃったから、手元にはこれしか無い。俺はリバイスドライバーを装着して、ケースを片手に、しあわせ湯を後にした。
そしてついでに、バックルが入っているらしい箱も手に。
*
コラスがヴィジョンドライバーで俺の願いを叶えた瞬間、俺たちは別の場所に転送させられていた。そして俺はなぜか西洋の甲冑を着せられている。暑い、動きづらい、よく見えない。俺は兜の頭を外す。ようやく周りが見えてきた。俺達四人は、四角いテーブルを囲むように座らされている。それに…みんな変な服を着ていた。
「は…ここどこ?」
「ええっ!?みんな何その服!?」
RPGゲームの僧侶の様な服を着た景和が、隣で驚く。それを、俺の向いに座っていた英寿がツッこんだ。英寿は盗賊の様な格好だった。
「お前もな。ここはコラスが作ったゲーム空間みたいなもんか」
つまりこの格好もコラスが用意した策略の一部ってわけか。これは警戒しなければ…。
「あ、ただのコスプレ喫茶だね。ここ」
策略違うんかい。魔法使い衣装の祢音が指さした先に、QUESTAREAとこの店の看板があった。普通に俺たち以外の客もいるし、ただの思い違いか……でも、碌でも無い事が起こっているのは確かだ。それは、俺たちの元に歩いてくるこの男の存在が物語っている。吾妻道長…
「どういう事だ。なぜ俺が生きている」
「うえええっ!?」
「道長!」
景和が椅子から転がり落ち、祢音が立ち上がって驚く。ドラゴンの刺繍が入った中華服姿で、ヌンチャクを乱雑に持っている。ちゃっかりこいつもコスプレしていた。こいつが生きているのは、俺が願っていた世界が叶ったからか。退場者の復活まで願ったつもりは無いが…コラスが何かしらの目的で復活させたのだろう。英寿もそれを理解し、冷静に状況を整理し始めた。
「…コラスという元ゲームマスターが、ダパーンの"デザイアグランプリの存在しない世界"を悪用したんだ」
「奏斗君、そんな願いを?」
「お前は見抜いてたか、英寿」
こいつには何でもお見通しだな。吾妻道長は、ふんと鼻を鳴らしてヌンチャクを肩にかけた。
「おい…呼び出しみたいだぞ」
吾妻道長が振り向く先に、ツムリが現れる。しかし、やはり様子が違った。深い赤と黒のドレス……地雷系とは少し違う、ゴスロリってやつか?ツムリもコスプレをした…わけじゃないか。
「え?ツムリちゃんイメチェン?かわいいね!」
「こんにちわ~!みんな〜!」
何時もの誠実な雰囲気と真逆で、キャピキャピした口調は、いちいち語尾にハートマークがついているようだ。イメチェンと言うには雰囲気が違いすぎる。
「あなたたちは、悪魔マラソンゲームのレアプレイヤーとして招待されました〜!」
レアプレイヤー?俺達はデザイアロワイヤルの正規の参加者じゃないのか。俺たちが困惑していると、ツムリは無条件に俺たちをゲームエリア内に転送した。
空は赤色に塗りつぶされ、ドーム状に広がったジャマーエリアのようなものが町全体を覆っている。
あの謎な衣装もいつものデザイアグランプリのユニフォームに着替えさせられていた。しかし、各部にあったDGPとあった意匠が、DRと赤文字に変わっている。これはデザイアロワイヤルの略か。
「このゲームエリア内には、1000人を超える仮面ライダーが潜んでいます!あなたたちは、その仮面ライダーに狙われるレアプレイヤー!」
1000人も仮面ライダーが。デザイアグランプリの十倍以上だな。いや、むしろエリア内の人間全員が巻き込まれてるって考えたほうがいいか。
「レアキャラが勝ち残る条件はたった一つ!エリアが収縮しきる前に、エリアの中央にあるゴールに辿り着ければ勝ち抜けよ。さ、誰が命を落とすのかしら?楽しみ〜!」
明らかに毛色の違うゲームに、言葉を失う。俺たちの返答を待たずに、ツムリはゲームの開始を宣言した。
「さぁ!悪魔マラソンゲーム、始まりよ!」
ツムリは宣言と共に消え、壁が段々と迫ってくる。
「どうする!?」
「今はゲームをやりきるしか無い、命を落としたら終わりだ」
英寿は表情一つ崩さずに、ツムリが消えた先に沢山設置されていた乗り物の数々を指差す。自転車にサイドカー、バイク……なんかよくわかんない物まで、とにかく沢山。でも、まぁ…
「一択しか無いよね…」
景和がおずおずと見たのは、荷台付きのトラック。五人まとめて移動できるのはこれしか無い。
「で、誰が運転するの?」
祢音が言うと、颯爽と吾妻道長が運転席に乗り込んだ。確かに、俺と祢音はトラックの免許が取れる年齢じゃないし…土木系の仕事に就いている吾妻道長が適任だろう。
「おい、さっさと乗れ」
「だって」
俺達は吾妻道長に促されて、トラックの荷台に乗り込んだ。
「行くか…」
トラックはSTARTと書かれた看板を抜け、公道へ出た。
*
五十嵐一輝は、変わり果てた町の様子を目の当たりにしていた。
「何だよこれ…」
町の大通りでは、ピンク色のハンマーや、青色の盾を持った仮面ライダーらしき人々が、本気で戦っている。それも、一人や二人ではない。大通りを埋め尽くすほどに、争いの喧騒は激しさを増している。お人好しが人生きっての性分である五十嵐一輝は、目の前で殴り合う仮面ライダーの間に割って入った。
「おい!何してんだよ!」
突然現れた一輝に、仮面ライダーは振りかざしたハンマーを止めたが、すぐに一輝を突き放す。
「うるせぇ!お前も戦わないなら死ぬぞ!」
「あぁそうだ。戦わないなら死ね!」
背後の仮面ライダーもシールドで一輝を振り払い、すぐにまた戦い始める。背中に抱えた幸四郎は、未だにわんわん泣いていた。一輝は"戦わなければ死ぬ"という言葉の意味が捉えられず、ただ困惑するのみ。それでも一輝は、二人の争いを止めようと手を伸ばす。
その時、道の中央で大爆発が起きた。大通り中の仮面ライダーが戦いの手を止め、爆発に気を取られる。そこから、二体の宇宙人がゆっくりと現れた。イザンギ、バリデロ。二人の宇宙人は、仮面ライダー達には目もくれず、五十嵐一輝に焦点を合わせる。
「信じ難い…この惑星の下等生物に、ギフが倒されたとは…」
「バリデロ、我々の狙いは一つだ」
イザンギとバリデロは、腕から蜘蛛型のデバイスを飛ばし、ギフの遺伝子を検知する。意外にも、先に行動に出たのは、大通りで争っていた仮面ライダー達だった。
「こいつらレアプレイヤーか…」
「だったら、やるしか無い!」
仮面ライダー達は、一斉にイザンギとバリデロに襲いかかる。しかし、そこには埋められない力の差があった。バリデロが杖の尖端に火を灯し一振りすると、一度にして大通りの仮面ライダーはデザイアドライバーを破壊され、多方向に吹き飛ばされた。
「おい、大丈夫かっ!」
一輝は先程までハンマーを装備していた男に駆け寄る。彼の身体には既に赤い亀裂が走っており、今にも消滅寸前だった。
「あんた…もしかして、リバイか…?」
「…!なんでそれを…」
男は最後の力を振り絞り、一輝の胸ぐらを強く掴んだ。
「キツネ共を…探せ…!」
『MISSON FAILED』
男は、ガラスが砕け散るかのように消滅した。他の参加者たちも、同様に。目の前で命が零れ落ちてゆく様子を目の当たりにした一輝は、拳を握りしめながらイザンギとバリデロを睨みつける。
「お前ら…!」
「邪魔者は消えた。さぁ、ギフの力を我々に捧げよ」
「自分が何やったかわかってんのかっ!」
激昂する一輝に、イザンギは心底わからないという様子で首を傾げる。
「…?弱い者は淘汰され強き者は生き残る、当然の摂理だろう。君もデザイアロワイヤルに参加しているんだ。戦わないのか?」
一輝は幸四郎を庇うように立ち、レックスバイスタンプを構える。臨戦体制となった一輝に、バリデロは声を高ぶらせた。
「やはりお前も醜い下等生物だな。感情に身を任せるとは…!」
「人の幸せをもて遊ぶ奴らは…俺が許さない…!」
一触即発の状態となった両者。一輝が変身しようとするも、二人が放った蜘蛛型デバイスによってそれは阻まれた。そして、大量の蜘蛛型デバイスは、背中の幸四郎を掠め取り、バリデロの手元に収まる。
「幸四郎!俺の家族を返せ!」
「家族…?何故そのようなものに拘る?ただの群れではないか?」
幸四郎を手に立ち去ろうとする二人に、一輝は食い下がる。彼の怒りは、冷静さを欠くほど高まっていた。
「待てぇっ!」
一輝が二人に掴みかかるが、いとも容易く引き剥がされ、逆に投げ返される。イザンギはしつこい一輝にため息を溢すと後ろに組んだ手から二つのバックルを取り出す。それは、マグナムとブーストのバックルであった。バックルを空中に投げると、今度は"ギフスタンプ"をバックルに押印した。そして、二つのバックルは中から血を吹き出すかの様に黒い液体が流れ、二体のデッドマンに変貌した。
『MAGNUM…!』『BOOST…!』
「残されたギフの力…欠片程度だが、お前には丁度いい」
マグナムデッドマンは、全身が白く、頭部は直角三角形の様な形をしており、さながら上から見た銃のようなデザインで、左目から飛び出たスコープが緑色に光る。そして両腕はそのまま全体がライフルに変形していて、地面に付くほど全長は長い。
相対してブーストデッドマンは、赤く、頭部は楕円形。全身のあらゆる場所からマフラーが生えており、胸部のエンジンが今も震えている。マフラーからは、排気ガスが延々と吹かれていた。両者共に、口元はギフテリアンと酷似していて、剥き出しの歯がギチギチと音を立てていた。
二体のデッドマンを置いて、イザンギとバリデロはエリアの中央へと飛び去った。同時に、デッドマンは一輝に攻撃を開始する。先にブーストデッドマンが地面を殴り、発した地割れが一輝の足場を奪う。地割れから強烈な熱波が押し寄せ、一輝は怯むが、それでもバイスタンプを押印し、仮面ライダーリバイに変身した。
「変身!」
『───アップ!オーイン!────!ヒアウィー─────!仮面ライダー!リバイ!───!リバ──!』
一輝の変身したリバイは、バイスがいない為半分以下の力しか出せない。以前そう注意勧告がヒロミからなされていたのを、一輝は思い出した。現在のリバイは、綺麗な発色をしていたピンクのスーツは灰色となり、複眼の赤だけが光る不完全な状態まで弱体化していた。
「前の時より、力が弱まってる…!」
一ヶ月前のブラッドベイドとの戦いではまだ出力を維持できていたのだが、バイスがいない影響が時を超えて今現れていた。バイスの力を失った形態"絶リバイ"は、オーインバスター50で戦いを挑む。
マグナムデッドマンの銃撃をスライディングでかわし、低い姿勢のまま前進しつつ、二体の脇腹を斧で斬り裂いた。が、半分以下に弱った力では深い傷には至らず、デッドマンはピンピンしている。
今度こそとレックスの力を解放、両足を恐竜に変化させ、連続のキックを放つ。ブーストデッドマンは連続キックに高速のパンチで応戦し、全て拳で防御した後、膝蹴りで絶リバイを跳ね返した。それと同時にマグナムデッドマンがスコープで照準を合わせ、リバイのバイスタンプを撃ち抜き、強制的に変身を解除させた。
「…っ!」
地面に転がり落ちた一輝は、レリーフに大きく傷の付いたレックスバイスタンプを息も絶え絶えのまま拾う。このままでは、満足に変身もできない。マグナムデッドマンは、一輝の頭部に狙いを定める。
「変身!」「変身!」
『MAGNUM!』『BLAST!』
突如、一台のトラックが乱入。半壊した荷台から二人の仮面ライダーが飛び出してきた。一人は上半身にマグナムを装備したギーツ。そしてもう一人は、ブラストを装備したダパーンだった。
*
出発して間もなく、町が異様な形相に包まれていると察した。トラックの荷台の中にはモニターが設置されていて、トラックの上から四方を撮影した映像がリアルタイムで確認できた。モニターに映された映像には、赤い壁に飲まれて崩壊する建物の他に、突発的に起こる爆発が確認できた。それは、町で一般人の仮面ライダーが争っている事を如実に表している。デザイアグランプリに招待され、ジャマトと戦うことになった俺たちも大概だが、いきなり何も知らないまま人同士で争えるなんて、普通に考えてありえるか?それこそ俺みたいに捻じ曲がった精神性をしてるやつばかりじゃないし、もしかして運営に騙されでもしてるんじゃ…
「おい、伏せろ!」
運転席の吾妻道長が叫ぶ。間髪入れずに、車体が右側に大きく揺れた。トラックはちょうどレインボーブリッジを通過した所。俺たちは荷台の壁にぶつかってもみくちゃになった。英寿が真っ先に立ち上がって、モニターの映像を確認する。
「敵襲みたいだぞ」
俺も映像に目を通す。車体の後方を映した映像には、二個も小型バックルを装備した一般人仮面ライダーが、プロペラで飛行しつつ、チェーアレイでトラックを狙う様子が捉えられていた。一般人仮面ライダーは、チェーンアレイを荷台めがけて振り回す。今度は鉄球が荷台に命中し、上半分が剥がれた。吹きさらしになった荷台に、今度は白い軽自動車が近づいてきて、助手席からアローを装備した仮面ライダーが乗り出した。トラックに横付けし、アローでこちらを狙撃してくる。姿勢を低くしてなんとか避けるが、チェーンアレイの攻撃を受けまいとトラックが揺れ、否が応でも身を外に晒されてしまう。
「どうなってんの〜!?」
「まずい!」
トラックが急ブレーキをかけて止まった。同時に攻撃の手も収まる。恐る恐る荷台から顔を出すと、トラックは橋の中央で立ち往生していた。チェーンアレイを装備した仮面ライダーが着地し、停車した自動車からは二人も仮面ライダーが降りてくる。片方は運転していたやつだ。そして前方には、道を埋めるように数多の仮面ライダーが待ち構えていた。どれも装備しているのは小型バックルだが、数が多すぎる。十、いや二十。捌ききれない。
「囲まれちゃったよ…」
「これがレアプレイヤーへの待遇か」
じわじわと一般人ライダーたちがトラックとの距離を詰める。俺は声を張り上げて一般人ライダーに問いかけた。一回でも理由を聞いとかないと腑に落ちない。
「おい!何で俺たちを狙う!全員でゴール行けば勝ち抜けのはずだろ!?」
俺の声に応えたのは、チェーンアレイを持ったライダーだった。
「ゴール…?そんな話は聞いてない。最後の一人になるか、レアプレイヤーを倒すか。お前らやっちゃえば、楽に勝ち抜けできんだよ!」
それが一般人ライダーに課せられたルールってわけか。じゃあゴールの存在はレアプレイヤー限定…?
「リバイってやつはいないみたいだが…レアプレイヤーは速いもん勝ち!殺らなきゃ殺られるのが…デザイアロワイヤルだ。俺たちは死ぬわけにはいかないんだよ!」
一般人ライダーにも止む終えない事情があるらしいが、こっちにも譲れない願いがある。ここで安々命をやる気は無い。誰だって同じ、こいつらだってそうだ。
「このままつっきる…タイクーン、ナーゴ、援護しろ」
運転席の吾妻道長が小声で告げた。彼の提案に、二人は口角を上げて頷いた。今回は随分と素直だな、コイツ。景和と祢音は、バックルを手に運転席側の天井に飛び乗る。そして、バックルをベルトに装填した。
『『SET』』
「変身!」「へ〜んしんっ!」
『NINJA!』『BEAT!』
『Ready?Fight!』
二人が変身すると同時に、吾妻道長がアクセルを踏んだ。大勢のライダーがトラックの急発進にびっくりしながらも攻撃してくる。そこで、両手で印を結んだタイクーンが術を放った。
「分身の術っ!」
空中や道路に大勢の分身が現れ、一般人ライダーの目をくらます。攻撃の手が一点に集中しないタイミングを見計らって、ナーゴはビートアックスの弦を弾いた。
『TACTICAL BLIZZARD!』
ビートアックスが発した氷は、トラック一台が通れる分の坂を作り、トラックはタイヤを空回りさせること無くジャンプ台を登り、一般人ライダーたちを大ジャンプで跳び越した。トラックは地面に激しくぶつかりながら着地し、荷台が跳ねるように揺れる。一般人ライダーはタイクーンの分身に足止めされている。逃げるなら今だ。俺たちを乗せたトラックは、一般人ライダーの目から逃れるように、市街地へ走った。
「なんとか、これで撒けたか?」
「まだ安心はできない。一般人ライダーの人数はあんなもんじゃないだろう」
英寿の言う通りか。スパイダーフォンで確認してみると、ゴール地点までの距離はまだ30キロも先。地図に俺たちの変身するライダーのマークが表示されている。まだ道のりは長い。なんとか窮地を乗り切り、ほっと荷台の残った壁にもたれ座る。
思ったよりもこのゲーム、ルールが入り組んでる。元々ゲームに参加していた所謂レアプレイヤーは、40km先のゴールに辿り着けばクリア。巻き込まれた一般人ライダーは、最後の一人になるまで戦うか、レアプレイヤーを倒せば複数人で勝ち抜けできる。なるほど、そりゃレアプレイヤーを狙うわけだ。俺たちの命が一般人五人分としてカウントされていたとは、コラスは命の裁量が狂ってやがる。
「ねぇ!一般人の仮面ライダーって助けなくてもいいのかな…?だってあの人たちも、コラスに巻き込まれた普通の人でしょ?」
景和は迫りくるエリアを眺めながら呟く。
「ふん。ならどうやって助ける?一般人を助けるために俺たちが犠牲になったって、コラスを止めるやつはいなくなる。あの人らを救うためには、俺たちがコラスをぶっ潰すしかねぇだろ」
ハンドルを握る道長は淀みなくゴールを見据えている。コラスがゲームを開始できたのは、ギロリが持っていた運営のドライバーを盗んだからだ。なんとか取り入れれば、ドライバーを奪い返せるチャンスが来るかもしれない。一般人を助けるのはそれからだ。
地図に表示された俺たちのマークは、順調に目的地に向かっている。暫く敵襲も無く、ぼけっと地図を眺めていると、突然地図に一つマークが増えた。
「は?おい、お前らこれ!」
呼びかけに荷台の四人が俺のもとに集まり、地図を拡大して確認する。灰色とピンクのマーク。今までに出会ったことのない仮面ライダーだ。祢音は表示されたマークを指で差す。
「確か…さっきの仮面ライダーが"リバイがいない"とか言ってたよね?」
「レアプレイヤーは俺たちだけじゃ無いってこと…?」
「ここから近いな。おいバッファ」
「もう向かってるさ」
トラックが通りの角を曲がり、下町の大通りに出た。同時に、トラックの頭上を、ゴールへと飛来する二体の怪物の姿が通り過ぎた。背中に赤子を抱えている。何なんだあいつら。コラスの投入した敵か?
ふとした合間に、これまた二体の怪人と戦うリバイが見える。力を発揮しきれていないのか、二体の怪人に追い詰められ変身解除されている。あの怪人…マグナムとブースト?
「何か知ってるかもしれない…助けるぞ、ダパーン!」
「わかった」
英寿は以前俺から借りていたブラストバックルを返却してきた。英寿はマグナムを、俺はブラストをドライバーに装着し、走りながら荷台を飛び出した。
『『SET』』
「変身!」「変身!」
『MAGNUM』『BLAST!』
『Ready?Fight!』
着地しながら二人で二体の怪人を蹴り、リバイに変身していた男を間一髪で助ける。二体が怯んだ所を、先ずは俺が先制。ブースト怪人の一直線なパンチをガス噴射で錐揉回転しながら避け、顔面を蹴り飛ばす。そして俺が蹴りの勢いでバク宙をしている間に。
ギーツの高速射撃。腕を振り抜く合間何度も放たれた銃弾は、確実に装甲の隙間を射貫く。
「大丈夫?」「しっかり!」
倒れていた男を、景和と祢音が荷台で介抱している。これ以上の戦闘は無用だ。とっとと離脱しよう。
「もう出るぞ!」
吾妻道長がアクセルを強く踏み、タイヤが空回りしながらもトラックは発進する。マグナムの怪人がロングレンジからの射撃を行ったが、これも難なくギーツが撃ち落とし、怪人は追跡を諦めた。
「あの怪人はいったい…?」
俺が変身を解除して座り込む。俺の疑問に、英寿が即座に答えた。
「あれはデッドマンだな。前に戦ったことがある。強い力を媒体にして、誕生する悪魔だ」
悪魔って…何でも知ってるなという関心よりも、ファンタジーな存在への疑心の方が先に出てくる。というか、デザイアグランプリで戦うのは普通ジャマトだけのはず。じゃあなんでこいつはそのデッドマンとやらと戦ったことがあるんだ…?
「お前、何でデッドマンを知ってるんだ…」
「ちょ、まだ動かないほうがいいって!」
祢音の静止も聞かずに、男は起き上がる。彼の目線の先は、英寿だ。
「よっ、久しぶりだな」
二人の間に何かあったようだが、微妙な何とも言えない空気が続く。その静寂を終わらせたのは、ゲームマスターの宣言だった。
『やぁ!頑張ってるね諸君!』
空中にゲームマスターの映像が流れる。その背後には、ツムリに…上流貴族みたいな格好をした男もいた。その男は、ハイテンションに叫びながらゲームの進行状況を告げた。
『ゲームの参加者は既に半分に減ったが…苦戦してるようだなぁ!』
次いで、ツムリも語る。
『そこで、と、く、べ、つ、に。これから十二時間、エリアの収縮を停止します!』
十二時間もか…それなら簡単にゴールに…
『でも、こらから沢山デッドマンをい〜っぱいそっちに送るから、死なないように気をつけてね?』
結局それで足止めかよ。運営の目的は何だ…?
「あっちもトラブってるみたいだな」
「ぐずぐずしてる暇なんて無いだろ、速く隠れられそうな場所を…」
英寿は冷静に推理を続けているが、猶予は無い。十二時間も戦い続けるなんて、身体が持たないぞ。俺たちが手をこまねいていると、トラックの進行方向に、一人の男が立っていた。吾妻道長はゆっくりとブレーキを踏み、警戒を強める。
「何もんだ」
「困ってるんだろう。助けるよ。そこの五十嵐一輝君とは友達なんだ。ここから近い、ついてきてくれ」
黒いハットに、ベージュのロングコート。そして首からぶら下げたペン。謎の風貌の男は、トラックを先導する。彼が目指した先は、ボロボロの廃校だった。
劇場版
─ギーツ×リバイス
令和・バトルジェネレーションズ・ロワイヤル─
DRルール
一般人が変身する仮面ライダーと、
特別枠のレアプレイヤーでは、クリア条件が異なる。
次回:ギーツ×リバイス
「飛電インテリジェンスの技術を、提供しに参りました。」
15話 交差Ⅱ:月下の防衛戦!