─新シーズンの印象は?─
「まぁ、オーディエンスがいようがやることは変わらない。どう評価されようが、目の前の勝ちに向かうだけだ」
─怪我によるハンディキャップはどのように捉えていますか?─
「バックルを使えばある程度カバーはできる。心配はさほど大きくないけど、こんな事で他の奴らに負けはしない」
※
あんな啖呵を切ってみたはいいが、最近足に違和感を覚えることが多くなっていた。デザグラで負った傷はゲームが終われば回復する。だから気兼ねなく戦っていたが、ツムリに臨時的に修復してもらっていのが、限界が来ているのかもしれない。それに…デザグラの怪我が治らなかったやつもいる。青山優だ。当時は一々気に留めている余裕なんてなかったが、今にしてみれば、海賊ゲームで負った火傷を、あいつは迷宮脱出ゲームに持ち越していた。あれはどういうことだったのだろう…
「これ景和の手作り!?」
外から祢音の明るげな声がして、俺はタープを出る。景和が皆に向けて自炊をしてくれたそうだ。
「まさかとは思うけど、下剤なんて入れてないでしょうね」
「そんな事するわけ無いでしょ…」
優しげな声で、景和がお盆に乗せた朝食を配る。白米に味噌汁、焼き魚や納豆。正に健康的な日本人の朝食だ。バスケをやらなくなって以来、まともに朝食も摂らなくなってしまっていたな。元気は朝食から、と自分に言い訳して、一番端の空席に座る。
「もしお前がデザスターならありえる。プレイヤーを妨害するのがデザスターの役目だからな」
「私、大事な試合前は、他人が用意した飲食物は食べないようにしてるの」
この二人はずっと辛辣だな。当然か、この中に裏切り者が混ざってるとなっちゃ。我那覇冴は席を立って、カーテンで仕切られた自室のカロリーメイトやウィダーゼリーを取って戻る。アスリートって、そこまで気を使うんだな。
「へぇ〜アスリートってそうなんだ」
祢音と完全に同じ感想で、少し恥ずかしくなった。一つ開けてさらに隣に座っている五十鈴大智は、眼鏡を光らせながら朝食をまじまじと見つめている。
「なぜ君が突然朝ご飯を作るなんて言い出したのか、興味深い問だ」
「それなら俺も気になるな。タヌキ君の料理の腕が如何なものか」
ハンモックから降りた橋結カムロが、俺と五十鈴の間に座る。
「俺はただ料理が好きなだけだよ。今でも子ども食堂のボランティアやってるし。カムロ君よりは、腕は落ちるけどね…」
謙遜するエプロン姿の景和。それを無視した橋結カムロは、お椀によそわれた味噌汁を凝視する。糸目なので眼力はよくわからないが、眉間に寄った皺が、シェフとしての真摯な態度を彷彿とさせた。具はネギとワカメで、なんの変哲も無いように見えるが…
「……煮干し」
「は?」
「なんで分かったの!?」
思わず間抜けな声を出した俺に対して、のけぞって驚く景和。まさかこいつ…見た目と匂いだけで出汁を当てたのか…!?
「へぇ…やるな」
感心する英寿を他所に、さらに味噌汁を一口。そして彼は高らかに叫んだ。
「百点!」
「えぇっ…!」
百点の評価を得られた景和は、喜びよりも驚きのほうが先に来たようだった。橋結カムロは世界中の味に触れてきただろうに、最も食に対して厳しい男だと思っていた。決して景和が料理下手とは言わないが…百点?なんのつもりなんだ?橋結カムロはお椀を置き直し、立ち上がって景和に指をさした。
「俺より腕は落ちる?当然だろう、俺は天才シェフだ。だが…シェフは家庭料理と張り合うべきではない。家庭料理の本質とは、味ではなく愛!一口食べて、タヌキ君が本当の善意でこれを用意したとわかった。なれば、この味噌汁は百点だ。心遣い感謝するよ、タヌキ君。まぁ、常に二百点を出せねばならないのが天才の辛いところだが…」
最後の一言が無ければ完璧だったと思う。
「やっぱり人の心というのはの面白いな。気持ち一つで味の評価か変わるとは…興味深い」
そして五十鈴大智はなんでもクイズにしてしまう。まぁ…味が保証されてるならなんでもいいか。もう食べるぞ俺は。今日は予定があるんだ…
「は〜い!お食事中失礼〜!」
焼き魚に伸びた箸を、チラミの声が遮った。ツムリもいる。
「レディースアンドジェントルメンにプレゼント。あなたたちのスパイダーフォンに、デザスターのとうっひょうっ機能を追加したわ」
箸を置いてスパイダーフォンを見ると、新しいアプリがダウンロードされていた。六角形のハニカム的に並べられた参加者の顔写真。どうやらここから投票が行えるようだ。
「次のゲームが終わるまでに、デザスターだと疑う人に投票してちょうだい。途中で投票を変えてもOK!一番票を集めたプレイヤーは、強制脱落フッふぅ〜!」
後半は早口でよく聞き取れなかったが、これがデザスターへの勝ち筋になるってわけだ。でも裏を返せば、落とすプレイヤーを見誤れれば、デザスターの判別をより困難にする。投票は慎重に行わなければ。
景和作の朝食を堪能した後、俺は隣町の市民会館の前に立っていた。ボランティア部の活動ではない。先日の吾妻道長が退場した最終戦の日以来、新井紅深が町中に落書きをしなくなったからだ。広実須井部長は、不定期に起こることだからと言っていたので時が来ればまた招集がかかるだろう。しかし、意外な人物からの呼び出しがあった。俺は携帯の連絡用のアプリを再度開く。
『今度、空いてませんか?』
上遠赤哉だった。本来ならば、前シーンズンのデザグラの記憶は全てリセットされているはず。迷宮脱出ゲームで培った、俺と上遠の"約束"も無かったことにされているはずだった。約束が無ければ、俺と上遠は会話できない。では何故、向こうから接触してきたのか?確かめずにはいられなかった。
「なんか嫌な予感が…」
その嫌な予感とは、会館のドアに貼られていたポスターのせいだ。なごやか子ども食堂、本日のメニュー・カレー。この会館は、地域住民が自由にイベントを開けるように設けられているものらしい。そして、現在は親が忙しかったり身寄りのない子供にご飯を作ってあげる、子ども食堂が毎日開かれているそうだ。
(今でも子ども食堂のボランティアやってるし)
今朝の景和の言葉を思い出す。あいつが言ってる子ども食堂ってここじゃないよな…?いや、でも英寿と蕎麦屋に行ったときに桜井家とは近所だって発覚したし……そもそも、子ども食堂のためだけにこの会館が利用されているわけじゃないし。偶然だ、偶然。
「あっ!君が上遠君が呼んだ助っ人ね!」
「え?」
俺が入口を前に右往左往していると、段ボールを両手に抱えた女性が声をかけてきた。年齢は俺の親とタメくらいか…?段ボールにはじゃがいも、にんじん…まさかこの人、食堂の管理人か…!?
「私は大田原まみ。ほらっ、入って入って!」
俺の返答を待たずに、大田原まみは会館の奥へと入っていく。俺はしょうがなく、しょうがなくだ。その後を追った。
一階の最奥には、それなりに広いキッチンスペースがあった。普通の家庭の五倍は広い。ここで料理教室も行っているのだろう。既に、エプロンと三角巾をした上遠赤哉が仁王立ちで俺を待っていた。いつも目を隠すほど長い前髪も、料理のためかピンクのヘアピンで留められている。
「あの…上遠?これはどういう」
戸惑いを隠せない俺に、上遠は無言でエプロンを押し付けてくる。大田原まみに勧められ、白と黒のツートンカラーのエプロンを着させられた。なんだ…この状況は?事態が呑み込めないうちに、先に上遠は調理に入ってしまった。ピーラーでじゃがいもの皮を剥いている。エプロンを着てしまった以上、手伝うしかないか。出かけたため息を堪えて、とりあえず手を洗うことにした。既にシンクにはじゃがいもの皮の山が出来ていて、彼の手際の良さを思わせる。
「えっと、カレー…なんだよな?」
カレーについてはある程度心得がある。俺好みなのはスパイスが効いたルーに、ナンで食べるものなのだが…食べる相手は子供だしな。甘口上等、あくまでスタンダードでか。
ハンドソープで入念に手を洗っているうちに、上遠は全てのじゃがいもの皮を剥き終えてしまった。俺も慌てて泡を流して、包丁を握る。そして、皮の剥かれたじゃがいもを八等分にしていく。じゃがいもは煮込めば溶けちゃうしな…これくらいでいいだろ。ていうか、芽も全部取られてるし、相当腕がいい。カットしたじゃがいもを水にさらし、どんどんと山を消費していくうちに、俺に流れてくるのは人参に切り替わった。
その後も目を痛めながらも玉ねぎを切り、豚肉を炒め、ついに煮込みの作業にまで至った。上遠の料理の手順には一切の迷いがなく、俺が助っ人として来る必要なんて無いんじゃないかと思うほどだ。固形の甘口カレールーを入れた鍋を、お玉でかき混ぜながら、そんな事をぼうっと考えていた。
「ごめんねぇ、料理まで手伝ってくれて」
先程まで付け合せのサラダを作っていた大田原まみは、炊飯器の起動ボタンを押す。上遠は子どもたちのための皿を戸棚から取り出していた。料理まで…?
「助っ人って、カレー作りのことじゃないんですか?」
「…?上遠君は、子どもの相手に最適な人がいるって、言ってたわよ?」
「は?」
お玉を回す手が止まる。同時に、会館の入口からわぁわぁと盛んな声が聞こえてきた。声のトーンは大人のそれではなく、甲高くて耳障りな。子どもの声…
「さ、行ってきて。すぐに用意するからさ」
半分強引に、廊下に追い出される。廊下の果て、玄関に子どもたちがぞろぞろと集まっていた。午前中は学校で用事でもあったんだろうか、不釣り合いな大きさのバックが目立つ。子どもたちは行儀良く食堂に使う会議室に向かっていたが、エプロンをした俺を見るや、すぐに歓声をあげながら群がってくる。
「ねぇ〜お腹すいた〜!」
「今日カレー!カレーなんでしょ!?」
子どもたちのハイパワーに押されて、食堂に突き出された。圧倒的な物量に、抵抗することができない。人気メニューのカレーに浮き足立つ子どもめらをなんとか押しのけながら、会議室に人数分のテーブルと椅子を並べる。
「お兄ちゃんご飯たべたら遊んでよ!」
「わたしおままごとやりたい!おままごとやりたい!」
「は!?おままごと…?」
小学三年生くらいの男の子と、小学一年生ほどの女児が同時に俺の両腕を引っ張ってせがんできた。これじゃまるで大岡裁きの渦中にいる子ども……いや、子どもはこいつらか。でも、この重労働は正直キツすぎる…!
「ぐおぉぉぉぉ!」
今度は俺の両脇腹にしがみついた子どもを引き摺りながら、キャスターの付いた長机を並び終えた。右脚の怪我を悪化させないよう、ほとんど左脚で踏ん張っていたためか、世界が傾いているように感じられた。
「はいっ!できたよ~」
大田原まみが鍋や食器を乗せたワゴンを押しながら現れると、子どもたちはワッと賑わって、俺からワゴンの方へ流れていった。やっと開放された……その辺に重ねて置いてあった椅子を引いて、深くそこへ座る。一気に肩に重しが乗ったようだった。
子どもたちの持つお盆に、カレーライスや温野菜のサラダが乗せられていく。それを受け取る顔は輝いていて、純真無垢そのもの。俺からは失われたものだ。子どもたちは、さっきまでの暴れっぷりが嘘だったかのように、大人しく席についていた。
「じゃぁ、みんな!せ〜の!」
大田原まみの号令で、「いっただっきま〜す!」の大合唱が館内に響く。そして、一斉にカレーライスにがっつき始めた。こうして、純粋に食事を楽しめるのも、子どもの特権だよな。少し歳を重ねると、周りの目とか気にするようになって、自分に嘘をついた食事をするようになる。子供たちがご飯に夢中になってる間に、少し休ませてもらうか……この後はおままごとか…これじゃボランティアとやってるのと同じだな。
うなだれる俺の前に、不意にカレーライスが現れた。上遠が、またしても無言で皿を押し付けてくる。食べていいってことか…?それにしても、こいつはなんでこんな慈善活動をしてるんだ…?
「いただきます」
素直に皿を受け取って、米とルーを絡ませて口に含む。確かにそれは甘口だった。でも、くどくはない。むしろ爽やかさまである、突き抜けるような自然な辛さもあった。以前サロンで食べたギロリのカレーや、祢音と行った店のカレーとも劣らない。このルーの味は、固形のカレールーだけで出せる味ではなかった。俺が見てない間に何か入れたか…?
「美味い」
つい口から漏れた言葉に、立ったままの上遠は頷く。料理は愛情だって、あいつも言ってたしな…きっとこれも愛情とやらが詰まってるんだろう。
「みんな久しぶり!」
聞き覚えのある声に、スプーンを動かす手が止まる。声の正体を確かめようと、視線を寄越すよりも早く一人の男の子が反応した。
「あっ!景和兄ちゃんだ!」
またこのパターンかよ…!今更何をしに来たのか、桜井景和に子どもたちが群がっていた。咄嗟に背を向けて、机の裏に隠れようとするも、時すでに遅し。
「あっ!奏斗君!どうして!?」
完っ全に神経衰弱ゲームの時と同じ流れだ。どうしてこいつとはこうも巡り合う。はしゃぐ子どもの群れを隙間を縫うように、大田原まみが景和に語りかけた。
「なに?景和くん知り合い?」
「あーまぁ、友達って感じですかね!」
なんでそんな誇らしそうに言うんだよ。誤魔化しきれないと観念して、椅子から立ち上がろうとする。
すると不意に外から爆発音がした。
揺れは断続的に続き、蛍光灯の明かりがチカチカと点滅する。正体はすぐにわかった。これは地震じゃない。周囲の建物が破壊されて起きた衝撃だ。出たなジャマト…
「奏斗君!」
「わかってる!」
上遠にカレーを押し付けて、景和と共に玄関から外に出る。会館に向けて、数体のジャマトが進軍していた。ウツボカズラのルークジャマトに、ジャマトライダーが六体も。随分と大勢で来たもんだ。通った道は破壊されたようで、至る所から黒煙が見える。
『『SET』』
「「変身!」」
『BLAST!』『NINJA!』
俺たちが仮面ライダーに変身すると、騒ぎに寄せられた子ども食堂の皆が外に出てきた。子どもたちは俺たちが変身した事に驚いているようだが、上遠の表情にも動揺の色が見えていた。やっぱりこいつは……
「みんな逃げて!」
タイクーンがそのやり取りをしている合間にも、二体のジャマトライダーが俺たちに殴りかかる。他の四体は何もしてこない。ジャマトライダーの重い一撃を、半歩下がってスレスレで避けて、これ以上先に進まないよう両腕で抑え込む。子ども食堂の皆は、ジャマーエリアに阻まれて逃げられないようだ。
「待てっ…!」
子どもたちに怪我をさせるわけには…!ジャマトライダーの右腕で掴んだまま、ガス噴射と共に飛び上がって、ラリアットをくらわせて攻撃。ダメ押しの一発を…と思ったところで、ジャマトたちが一点を注視していることに気付いた。
「何だ…?」
子ども食堂がある会館の上空に、赤い六角形のリングが収縮するように規則正しく浮かんでいた。今度はルークジャマトの方に目をやると、黒と紫のボールを持っている。ルークジャマトが一歩前に出ると、ハニカム構造の結界の様なものが現れる。その表面には、5POINTと表示されていた。…………!このゲームまさか!
「まずい!」
ルークジャマトが大振りでボールを投げる。俺は直ぐ様ガス噴射で大ジャンプ、ボールをリングに入れさせまいと手を伸ばした。が。
『JYA JYA JYA STRIKE!』
俺の右足首をジャマトライダーの蔦が掴んだ。そのまま振り回されて、会館の壁に叩きつけられる。咄嗟のことに防御もできず、瓦礫と共に地面に落ちた。アーマーに守られて大した怪我にはならなかった。しかし、蔦に締め付けられた右脚がジリジリと痛む。くっそ…
「大丈夫!?」
「俺はいい…それよりも…!」
直ぐにタイクーンがフォローに来てくれたが、ボールは虚しくもリングを通り過ぎた。そして、GOAL!!とリングの前に文字が浮かび上がった。遅かったか……!
ボールがゴールしたことを確認したジャマトたちは、エリアの中央へと戻ってゆく。ジャマーエリアの中心には既に得点板が表示されていて、ジャマトチームに五点入っている。一時間のカウントは始まっていた。
『ジャマトが現れました。これより二回戦、ジャマーボールを始めます』
ツムリの宣言に合わせて、残りの五人が転送されてくる。
『ライダーとジャマトの陣地に別れ、ボールを奪い合います。ゲームは前半、後半の二回。それまでに相手陣地のゴールにボールを入れ、得点の多かったチームの勝利です』
ゲームの概要を聞いたプレイヤー達は口々に喋り始める。
「要はドリブルの無い足が使えるバスケみたいなものか」
「じゃあ仲良く今回は団体戦ってわけね」
「だが忘れるな。当然デザスターの妨害がありうる!」
『ただしゲームに負けたら、ジャマーエリア内の町は滅び、人々は助かりませんのでご注意ください!』
チラミが追加した投票機能。今回のジャマーボールで確実に一人は脱落になる。必ず誰かは投票機能を意識した動きをするようになる。いかにヘイトを稼がないか、疑われないか。仲良しこよしなんて、思わないほうがいいだろう。
子ども食堂の屋上に移動した七人。頭上にはジャマトのゴール。ビル群を抜けた先にあるゴールは、とても小さく見えた。でも、勝つためには行くしか無い。地面に無造作に置かれたボールを、英寿が拾った。
「今度はこっちが攻める番だ」
一体のジャマトライダーが屋上に現れる。どうやら早速ボールを奪うつもりらしい。英寿は歩みを止めずにボール中に放り投げる。そして生身でもお構い無しに振るわれる拳をいなしながら、パワードビルダーバックルを装填。レバーを引いて、ジャマトライダーに背を向けたままギーツに変身した。
『DEPLOYED POWERED SYSTEM!GIGANT HAMMER!』
振り返ると同時にギガントハンマーで大振りの一撃。ジャマトライダーを相手陣地にぶっ飛ばした。ギーツが落下したボールを掴むと、他の参加者もバックル片手に変身する。
『ZOMBIE!』『BEAT!』
『MONSTER!』『GOLDEN FEVER!』
「タイクーン、ダパーン。取り返すぞ」
ギーツからタイクーンにボールが渡されると、皆がゴールめがけて走り出す。俺はロポと共に先頭を駆けた。建物と建物の間を二人で飛び移ると、後方からボールが投げられる。
「冴さん!」
タイクーンからパス回しが開始した。ボールをキャッチしたロポの前に、ジャマトライダーが二体立ちはだかる。先ずはゴールに近付くことが優先……!左側のスロットにゾンビブレイカーバックルを使用する。
『SET』『DUAL ON!BLAST!ARMED BREAKER!』
ゾンビブレイカーを横に構えて、ジャマトライダーのパンチを一手に抑え込む。そして片手でポンプを右にスライド。
『POISON CHARGE!』『TACTICAL BREAK!』
毒をまとったノコギリ状の刃を回転させ、前進しながらジャマトライダーを押し退ける。そのスキにロポの俊足がジャマトライダーの間を駆け抜けた。
「大智!」
ボールはナッジスパロウへとパスされる。だが彼の前にもジャマトライダー。蔦による障壁がパスコースを分断する。それでもナッジスパロウの放ったパスは蔦の隙間を塗って空中へ。これはギガントハンマーを手放し大ジャンプしたギーツが取った。そしてボールは再び俺たちの元へ。二体のジャマトライダーにゾンビブレイカーを投げつけ、両手でしっかりとキャッチ。
(ドリブルの無い足が使えるバスケみたいなものか)
さっき大智はあぁ言っていたが…正直このゲームは…
「得意分野だ!」
あえて俺は右手でドリブルをしながら前進する。さっきまで相手していたジャマトライダーが止めようとしたが、こんな緩いディフェンスで止められてたまるか。ドリブルを両手で交互にして判断を鈍らせ、さらに股抜きパスで先にボールだけを行かせると、ガス噴射をしながらスライディングで二体をかわし、再度ボールをキャッチ掴んでドリブルを続行する。久しぶりだ、この感じ。
「早くパスを!」
隣を走っていた我那覇冴の呼びかけに我に返った。そうだ、これは団体戦だ、個人戦じゃない。バスケットボールをしている高揚感に、周りが見えなくなっていた。
「祢音!受け取れ!」
少し隊列の前に飛び出ていたナーゴへロングパス。一気に距離を稼いだ。ナーゴはそのままゴールへ直行しようとしたが、ルークジャマトにボールを掠め取られる。まずいぞ、このままボールをキープさらたら……
「させんぞ!」
突然、ディフェンスの持ち場を離れたヘリアルが、プロペラで飛翔しながらボールを奪い返した。ディフェンスの層が薄くなってしまったが、この場合はしょうが無い。
「決めろ!オオカミ君!」
「わかった!」
ヘリアルからボールを投げ返され、ロポは一直線にダッシュする。もうディフェンスに回っているジャマトはいない。ギーツとナッジスパロウが相手をしている。待てよ…あのルールは説明されていたか?
「冴!一旦止まれ!」
「ええっ!?」
俺の叫びも虚しく、ロポはダンクシュートの要領でボールをゴールしてしまった。それも超至近距離。間に合わなかった…
「あれ!?三点しか入ってないよ!」
ナーゴの言った通り、俺たちのチームには三点しか得点されていない。これはバスケと同じなんだ。つまり、
『近距離は三点。遠距離ラインからの得点は五点になります』
解説どうも…と、そうこうしている間に、ジャマトもパス回しを始めていた。ビルの壁を破壊してギーツの行く手を阻んでいる。なんでもありだな。俺も速く戻らないと…
「急がなきゃ!」
走っている内にナーゴと合流し、共にディフェンスに回ろうとするも、ジャマトライダーが伸ばした蔦が屋上の配電盤をもぎ取り、俺たちに投げてくる。流石に当たったら一溜まりもない。バックステップをして回避行動を取る。とことん足止めする気か。
「あっ!」「まじか…」
顔を見上げたときには、ジャマト側に三点入っていた。
3対8。未だ点差は埋まらず。ディフェンス陣の間で何があったかは知らないが、こっちはただ点を入れるしか無い。ヘリアルからボールが回ってきた。
「俺が何とかするしか…!」
ドリブルしつつ左右に揺れながらフェイントをかけ、一気にジャマトライダーの包囲網を抜ける。行けるぞ…他にジャマトはいない。五点ラインギリギリまで行って、シュートを決められれば。
「ここだ………っ!」
俺は遠距離ラインの前に立ってスタンダードなフォームでシュートを決めようと、膝を折り曲げる。だが、そこでルークジャマトの横槍が入った。俺達のゴール付近にいたルークジャマトの、ロングレンジからのビームが、足元に向けて放たれる。その衝撃で足場が崩れ、俺の体は遠距離ラインを超えてしまった。でも、ここで決めなきゃ、またジャマトに点を決められる。やむを得ない…!
「くっ…そ!」
落下しながらもボールを手放し、またしても近距離のシュート。何とかボールはゴールを通過した。しかし、入ったのは三点。6対8でジャマトのリードを許したままだ。前半戦も残り二十分となった所。各プレイヤーの焦りも見え始める。
「パンダ君」
路地に着地し、ディフェンスに戻ろうと踏み出したところを、ヘリアルに止められた。またしても持ち場を離れて、ジャマトライダーを相手取っていたらしい。プロペラだけでよくやるな。まぁ、そのおかげでマークが緩まって助かるが。
「どうした?」
「タヌキ君の様子がおかしい。ジャマトの攻撃を躊躇っているようだ」
ジャマトへの攻撃を…?それが本当なら、どういうつもりなんだ。でも、タイクーンが使い物にならないのだとしたら、ディフェンスを任せるのは少し心配だな。
「俺達もディフェンスに回ろう。試合は後半戦もあるんだ。今はセンターラインを下げて、チャンスを待つ」
「それが得策だろう。さぁ、行くぞ!」
ヘリアルはプロペラで浮かび上がると、自身の手を掴むように促してくる。なるほど、これなら速い。素直に左手で捕まって、ゴールへ直行する。プロペラは二人分の体重でも速度を落とすことなく、会館の姿が直ぐに大きくなった。
「っ!見ろ!」
ヘリアルが先に、ボールの行方に気付いた。ルークジャマトがゴールを決めようとしているのに、タイクーンは棒立ちだ。
「何やってんだあいつ…!」
『SET』『DUAL ON!BLAST!ARMED SHOOTER!』
小型バックルよりマグナムシューターを生成。ハンドガンモードで銃弾を乱射してルークジャマトの足を止める。ヘリアルから手を離し、転がりながら着地。ルークジャマトとタイクーンの間に割って入ろうと駆ける。
しかし……
「ぐっ!があっ…!」
右脚に走る、刺されたかのような激痛。視界がぐにゃりと歪んで、前のめりに倒れた。あの時だ。最初にジャマトライダーの蔦で締め付けられたせいで、一気に負荷がかかったのだろう。立ち上がることができない。倒れ込んだままでも、マグナムシューターを前に伸ばして、ゴールを阻止しようと発砲する。だが、痛みで全身が震え、正確性を失った射撃は、ルークジャマトにかすりもせず、そのままゴールを許してしまった。一気に五点が入る。
ブラストバックルでも、カバーしきれなくなっきてるな…
「奏斗君!」
「あんた、何でこんな状態で…!」
タイクーンとロポが俺を心配して寄って来た。ロポはアスリートだからだろう。俺の症状を一見で見抜く。
「今は休んでなさい」
「ダパーン。後は俺達に任せろ」
顔を上げると、ギーツがボールを持っていた。
俺の前半戦は、ここで終りを迎えた。
*
─ジャマーボール前半を終えての感想は?─
「攻撃の要のパンダ君が使えなくなった。別の攻め方を探さねばならないな」
※
俺が倒れている合間に、ギーツがロングシュートを決めてくれたようだ。点は何とか11対13までに縮まり、前半戦は終了した。後半戦は明日の夕刻となる。デザイアエリアのベットで横になっていたが、痛みはなかなか引かなかった。楽な体制を探してベッド上をぐるぐると回っている内に、ベッドルームの扉が開かれた。
「どれ、脚の手当をしてやろう」
「お前にできるのかよ」
橋結カムロは救急箱を持っていた。いくらこいつが器用であるからと言って、俺の怪我が治るわけがない。
「この怪我はツムリに一時的に治してもらったものだ。その限界が、来ただけだろ」
「なぁに、テーピングぐらいはできるさ」
頑として橋結カムロは出ていかなかったので、俺は観念して右脚をベッドから下ろした。骨折自体は治っているが、無茶な動きをすればまた骨に傷がつく。それが医者の診断だ。ジャマトライダーの攻撃で、ヒビが入ったかもしれない。右脚は青く、血の巡りが悪くなっているようだった。
「すまないが、明日の後半戦はディフェンスに回ってほしい。攻撃は変わりに俺がやる」
シュルシュルと包帯が脚に巻きつけられてゆく。怪我した部位を固定するように、様々な角度から。
「わかってるさ。なにも、攻めるだけがバスケじゃない」
「その言葉を聞いて安心した。さ、できたぞ」
「は、もう?」
気付くと、脚のテーピングは済んでいた。驚いたことに、全く痛みがない。固定の方法が良かったのか?全然ズキズキしないし、多少動かしてもなんら問題無し。恐るべし、技術力No.1と称された男。
「すっご…」
「まぁこんなもんだ。俺の手にかかればな!」
この自画自賛さえ無ければどれほど良かったことが。もう少し話して行くつもりなのかと思ったが、橋結カムロはいそいそと救急箱を片し始めた。
「今度はタヌキ君の所へ行ってくるよ。彼も調子が悪いようだしな……」
確かに。ジャマトに何か、思うところがあったのか。攻撃を躊躇するほどだ。相談してくれたっていいだろうに。
「それじゃ、俺はここで……おっと!」
勢いよく振り返った橋結カムロ。扉を開いた出会い頭に、ツムリが立っていた。
「奏斗様。サポーターからのお呼び出しです」
サポーター…?もしかして、俺にバックルをくれたオーディエンスのことか?それが何で俺に。
デザイアドライバーを装着すると、自動的にオーディエンスルームへと転送された。オーディエンスは、俺達の戦いを観戦するであろう瞳型のビジョンの他は、一面本棚。その仰々しい雰囲気に気圧されながらも、サポーターを探す。
「いない?」
地面に積み上げられた本の山脈の陰にでも隠れてるのかと考えたが、姿も形もない。呼び出しておきながら、不在とかどういうことだよ。
「こっちです」
上方から声が聞こえて、顔を上げる。高く重なった本棚の天辺に、一人の仮面ライダーが座っていた。エントリーフォームだが、あのマスクには見覚えがある。紺色で、流線型の造形。椅子取りゲームの時に戦っていた運営のライダー。脱落した祢音を稽古し、人一倍強くしたのも、確かこの男だったはずだ。
「ハイトーン…?お前が俺のサポーターってやつか?」
「半分正解。僕は代理です」
ハイトーンは本棚から飛び降りる。その衝撃で、部屋中のホコリが舞い、グラグラと山脈が揺さぶられる。そして、デザイアドライバーを外して素顔を……は?
「芹澤!?」
仮面ライダーハイトーンに変身していたのは、かつてバスケ部で共に活動していたマネージャー、芹澤朋希だった。身体は弱いが気配りのできるやつで、なんでもズバズバアドバイスしてくれていたのを覚えている。
「お前、なんでデザグラの運営なんかに…?」
「………以前。玲先輩とデザグラに参加しました。その時のゲームで、僕はあなたのサポーターに推薦を受けたんです。ちょうど、玲先輩も退場してしまって、断ることもできず…IDコアの管理業務に就いていました」
玲が退場した時、芹澤もそこにいたのか。二人共、慣れないことばかりで、大変だったろうに。玲が消え、俺の人生が変わった。芹澤が記憶を保持していながらも、俺に接触できなかったのは、運営からの圧力もあったのだろう。辛いのは、俺だけじゃなかったはずだ。
「そっか…お前も、辛かったよな……」
玲の話を黙ってていられた事実よりも、バスケ部として真っ当に努力していた日々を共有できる奴がいるほうが、今はありがたかった。それだけで、あの毎日が無駄じゃなかったって思えるから。俺が芹澤の肩に手を置くと、彼は一歩引いて深々と頭を下げた。
「ごめんなさい…!奏斗先輩が、玲先輩の事を思い出したら…きっと、死ぬほど無茶をすると思って…!IDコア内の記憶のデータを消去したんです。でも、それがあなたに"人類滅亡"を選択させることになるなんて…馬鹿でした」
今までデザグラを通して積もった謎が、晴れてゆくようだった。俺の過去の蛮行は、芹澤が俺を気遣った結果だったのか……必要以上の心労を、彼にかけてしまっていたようだ。謝る必要があるのは、俺のほうだろ。
「ごめん……でも、もう大丈夫だ。今は、信じられる仲間がいる。デザスターなんて言ってるけど、英寿たちとは仲間だ。玲とお前の無念は…俺が晴らす。怪我しちまったけどな」
最後の言葉は、自然と笑ってしまった。自虐ではなく、無理に後輩にカッコつけようとする姿と、前半戦の情けなさのギャップが、自分の中で開いてしまったからなのかもしれない。俺の言葉に芹澤はホッとしたのか、やっと顔を上げてくれた。
「ありがとうございます…奏斗先輩。今日来てもらったのは、サポーター代理として、伝言あったからなんです」
「伝言…?」
芹澤は自身のデザイアドライバーを眺めると、また俺に目線を戻した。
「あなたのサポーター・モーン曰く。嘘つきは一人ではない、ということです」
モーンとか言うサポーターは、随分と不親切な性格らしい。俺はまだその言葉を意味を、深くは理解できなかった。
桜井景和は、子ども食堂の隅で頭を抱えていた。
「どうなってるんだよ…」
過去の退場者の言葉を喋るジャマト。ジャマトとは一体何者なのか。
(ワタシハ…カタナキャナラナインダ…)
(ショウボウシナンデネ…)
彼らの言葉が、景和の頭の中でこだまする。デザグラの退場者達は、ジャマトとなってしまったのか?疑念が晴れぬまま、景和はサロンに戻ろうとデザイアドライバーを取る。
「はぁ……」
デザイアドライバーを装着しようとしたところで、食堂の扉が開いた。景和は急いでドライバーを後ろ手に隠す。食堂に入って来たのは、奏斗の後輩である上遠赤哉だった。景和も、一応上遠赤哉と顔見知りである。と言っても、迷宮脱出ゲームで巻き込まれた被害者同士だったのだが。上遠赤哉は景和の事を忘れているはずだった。
「俺の代わりに、食堂を手伝ってくれてた子だよね…?」
「もっと前」
上遠赤哉の威圧感のある声に、景和は後ずさる。彼の中から、得も言われぬ影のようなものを感じたからだ。
「もしかして……前に会ったときのこと、覚えてる?」
今度は言葉を発さずに、こくりと頷いた。デザグラの記憶は本来、世界改変と同時に消去される。それなのに、上遠赤哉は迷宮脱出ゲームの一部始終を記憶し、景和に接触していた。
「…………家に帰れないのは、悲しい」
「え…?」
「あなたが……皆を守ってくれること、期待してます」
人と話せない男の、途切れ途切れの言葉。口数は少なくても、景和の心には上遠赤哉の言葉がずっしりと乗っかっていた。そして、景和ははっきりと答えた。
「守るよ。約束する」
そして、二人のやり取りを部屋の外から盗み聞きしていた男が一人。橋結カムロである。
「……上遠赤哉。またモーンの差し金か」
上遠赤哉の姿を確認した橋結カムロは、景和と接触せずに子ども食堂を後にした。
墨田奏斗が去ったオーディエンスルームにて。芹澤朋希は深く溜息をついた。もし真実を知れば、奏斗の破壊衝動は自分を襲うかもしれない。朋希にとって、奏斗がデザグラを通して精神的に成長していた事は幸いだった。今はただ、恨みの矛先がデザグラに向いているだけ。鵜飼玲の死に際を知れば、また奏斗の破壊衝動は復活する。
「おっつかれさまぁ〜ハイトーン」
本棚の裏から、モーンが顔を出した。彼女が朋希という代理を立てた理由はただ一つ。新井紅深の姿と共有している素顔を晒させないためである。
「こんな事をして、何をするつもりです?上遠赤哉まで駆り出して、奏斗先輩をデザ神にしたいんじゃないんですか?」
朋希の追求を、モーンはソファーに座りながら飄々とした口調でかわす。
「もちろん。奏斗にはデザ神になって欲しいよ。そのためにさ…使える内にボラ部を使っておかないと」
モーンは手近にあった文庫本を取って開いたが、直ぐにつまらなそうに閉じてしまった。
「ボラ部の皆が活躍すれば…もっと私はドキドキできる…!」
俺のサポーター・モーンとか言うやつは、どうして俺に会ってくれなかったのだろう。リアリティーライダーショーだって見世物にして、俺達の人生をおもちゃにしてるんだ。そんなことに金をかけられる奴等なんかに、俺達の常識は通用しないか。サロンでは他のメンバーも、オーディエンスに監視されていようがお構い無しで、紅茶を嗜んだり本を読んだり、好き好きに過ごしていた。
ソファーに腰を下ろし、参考書を広げる。俺は仮面ライダーだが、それ以前に学生だ。課題を始末しなければならない。が……冬休みも残り半分。それまでには家に帰らないと、親に怪しまれる。両親は俺に興味がないので、今のところは文句を言われずに済んでいる。今シーズンは遅遅として先に進まないし、冬休み中の完結は諦めたほうがいいか。なら、チラミになんて言えば…
(ダメよ。アンタは今オーディエンスを楽しませる貴重な、ライダーなんだらから)
くらい言われそうで腹が立ってきた。
「僕、わかっちゃった。デザスターが誰か…」
唐突な五十鈴大智のカミングアウトに、皆手を止める。デザスターが…もう?またお決まりの推理だろうか。分厚いハードカバーの本をサイドテーブルに置き、五十鈴大智は座ったまま、一人のプレイヤーに目を向けた。
「正解は君だ…桜井景和」
景和が…デザスターだと?にわかには信じ難い推理に、眉間にシワが寄る。視界の端で、ハンモックに腰掛けた橋結カムロが腕を組んでいるのが見えた。デザスターと指名された景和は、少し顔が引きつっている。それは、真実を当てられた動揺か?間違った推理から来た困惑からなのか?真意もわからぬ前に、五十鈴大智は椅子から離れて饒舌に語り始めた。
「前半戦、彼はジャマトへの攻撃を渋っていた」
「それ、私も見た」
「俺もだ」
五十鈴大智の推察に、我那覇冴と橋結カムロが同調する。口には出さないが、確かに俺も見た。ボールを持ったジャマトを前にしてもだ。おかげで、数点失点している。
「僕たちの足を引っ張るためだったんじゃ…!」
「違う!これには理由があって、大智君にも話しただろ!?」
流石の景和もこれには焦った様子で反論する。しかし、五十鈴大智の反応は、知らないの一辺倒だった。
「さぁ…何も聞いてないけど…?」
「何言ってるんだよ…!ジャマトが前に退場したライダーの…シロクマさんの言葉を喋ってたって!」
「…嘘でしょ?」
「待て…ジャマトが言葉を喋った…?」
言葉を喋るジャマト。確か………そうだ。俺も遭遇したことがある。迷宮脱出ゲームだ。厨房で俺と上遠を襲撃したジャマトライダーは、俺の名前を呟いて、攻撃を中断した。シロクマが誰かは知らないが、俺の身内には退場者もいる。半信半疑だった五十鈴大智の推理が、端から崩れていくようだった。
「何でそんな大事なことを隠してたの!?」
「正解は彼がデザスターだから…!」
「違う…俺じゃない…!信じてくれ!」
我那覇冴と五十鈴大智の二人に詰め寄られ、景和は俺や祢音に助けを求める。俺の持っているカードは、確かに五十鈴大智の推理を崩す物になるだろう。
だが…俺はだんまりを決め込む事にした。俺が発言したところで、この空気が変わるとは思えない。加えて、ここで景和が落ちてくれれば、推理の的が絞れる。五十鈴大智の狙いもそうだろう。俺は他のメンバーに見えないように、スパイダーフォンで景和に投票した。
「ま、お前にはギロリを騙した前例があるからな」
「驚いた。タヌキ君がそんなに"化かし"上手だったとは…!」
英寿や橋結カムロも概ね同じ判断をしたのか、冷淡な反応で返す。
「君のバックルは没収させてもらうよ」
景和の荷物から、ニンジャバックルが奪われる。ここまでやるとは、徹底的だな。五十鈴大智に陥れられた景和の目力は一層強くなる。
「はい!はい!は〜い!」
ピリついてきた空気をこじ開けるように、チラミとツムリの両名が入って来た。こいつらが来たということは…
「盛り上がってきたところで〜!デザスター投票、中間発表
と行こうじゃな〜い!」
チラミが子供向け番組のようなコミカルなノリでツムリに指示すると、中間発表の結果を載せたホログラムが浮かび上がった。案の定、景和に四票。そして、未投票のやつが三人。まだ見極める判断をしたプレイヤーがいるようだ。
「疑いを晴らせなきゃ、脱落はお前で決まりかもな」
「……そんな……」
信じられないと言うように、景和は目を泳がせた。
*
日は登り、昨日と同じ午後一時となった。後半戦がスタートする。俺とヘリアルのポジションを入れ替え、俺と景和、そして五十鈴大智でゴールのディフェンスを担当する。景和にバックルがないのが心配だが…
『それでは、ジャマーボール後半戦、キックオフです!』
子ども食堂の屋上に転送される。迎え撃つジャマト達は…昨日よりも明らかに数が増えていた。ルークジャマトに六体のジャマトライダー、大勢のポーンジャマト。
「なんかあっちの量増えてない?七体七じゃないの?」
「ボールも二つに増えてる」
「ジャマトにちゃんとしたルールを求めるほうが無理だろ」
祢音と我那覇冴の分析に、淡白な反応で返す。
「皆、くれぐれもデザスターには気を付けてね」
「当然だ!今は眼の前の勝ちに集中!」
五十鈴大智はあからさまに忠告をしたが、それも橋結カムロの大声にかき消された。デザスターが誰であれ、ここでジャマトに敗北しては元の木阿弥。せめて戦っている間だけでも、助け合わねば。
「始まるぞ!」
英寿の号令に合わせて、一斉にバックルを手に取る。
『SET CREATION!』『SET FEVER!』
『『『『SET』』』』
「へ〜ん!「「「「「変身!」」」」」しんっ!」
『DEPLOYED POWERED SYSTEM!』
『MONSTER!』『ZOMBIE!』
『BLAST!ARMED SHOOTER!』『BEAT!』
『HIT!NINJA!』『ENTRY』
『Ready?Fight!』
二個に増えたボールは、両陣営一個ずつ。オフェンス担当のギーツ、ナーゴ、ロポ、ヘリアルが攻撃を押しのけながら進軍する。一度、ナーゴがジャマトライダーのタックルを受けてボールを手放したが、ニンジャフォームを引き当てたヘリアルのワープが瞬時に取り返した。あっちは任せておいても大丈夫そうだな。
ブラストバックルの高起動能力で、即座に一番高いビルの屋上を陣取る。両陣営のゴールを一望できるこのポイントなら、狙撃でディフェンスをしつつ、いざという時はオフェンスのサポートもできる。必要なのは、広い視野…!
『RIFLE』
マグナムシューターのスコープを覗くと、早速ナッジスパロウがジャマトライダーからボールを奪い取ろうとしていた。彼に近づこうとするポーンジャマトを、一体一体撃ち抜いてゆく。地味だが、現状脚への負荷を抑えるにはこれしか無い。
「………もうお出ましかよ…」
スコープから目を離して振り向くと、大ジャンプしたジャマトライダーが、空中より拳を振り押していた。右側に転がってこれを避けると、ちょうど拳がクレーターを作っていた。銃口を向けると、左の上腕でガードしながら突撃してきたので、ライフルモードのまま一点集中で連射。銃弾は左手首に五発命中。左手を大きく仰け反らせながら怯んだので、負担の少ない左脚で思いっきり旋風脚。首に思いっきり叩き込んで屋上から蹴り落とした。
「悪いな。昔の俺だったらやられてたよ…」
ジャマトライダーを退けられたので、再び戦場に視線を移す。すると、ルークジャマトが肥大化した左腕にボールをねじ込み、ビームごと発射した。ナッジスパロウがなんとかガードしたが、弾かれたボールは一直線に子ども食堂のある会館へ。
「…やっば!」
子どもたちが危ない。反射的にビルから飛び降り、会館へ向かおうとビルの壁を蹴る。だが、空中で俺に掴みかかってくる奴がいた。さっきぶっ飛ばしたジャマトライダーが、俺を通させまいと飛びついてくる。力強い両腕に動きを止められ、地面へと真っ逆さまに落ちていった。
「いつまでも…邪魔すんな!」
ジャマトライダーにゼロ距離で銃口を押し当てて、ブラストバックルをマグナムシューターのスロットに装填。玉砕覚悟で必殺技を放つ。
『BLAST!TACTICAL BLAST!』
鋭い空気の圧縮弾が、俺とジャマトライダーの間で炸裂する。その余波で出来た物凄い風圧で、ジャマトライダーの拘束を流れた。マグナムシューターが盾になってくれたおかげで、ダメージも最小限に抑えられた。今度こそジャマトライダーはエリア端にぶっ飛んでいった。
俺が地面に着地すると同時に、久しぶりに見る銀の翼がルークジャマトを連れて飛び立つのを目視した。タイクーンのコマンドフォーム・ジェットモードだ。シークレットミッションをクリアしたのか。念の為、俺もゴールへ戻る事とした。
タイクーンがコマンドツインバックルを手に入れた一部始終を、モーンと朋希は観戦していた。
ナッジスパロウの弾いたボールが、子ども食堂を襲撃する。衝撃で天井が崩れ、食堂内に避難していた子どもたちに降り注がんとしていた。
『………!』
咄嗟に上遠赤哉が数名の子どもたちに覆い被さる。が、もう間に合わない。赤哉が痛みに耐えようと、ギュッと目を閉じた、その時だった。
『大丈夫…?さぁ、奥へ逃げて!』
タイクーンが、崩れ落ちた瓦礫を受け止めていた。これにより、"最初に民間人を三人救助する"というシークレットミッションがクリアとなった。
『子どもたちを守らないと…!』
シークレットミッションクリアの特典に、コマンドツインバックルがタイクーンへと贈られる。モーンと朋希は、景和がデザスター投票で不利になったことで、彼のサポーターがテコ入れしたのだろうと、すぐに感じ取った。しかし、モーン注目の的は、全くの別にあった。
「あーっ!もう!邪魔しないでよタイクーン!後ちょっとで死んでたのに〜!」
モーンは悔しそうに両足をジタバタさせる。横目でその様子を見ていた朋希は、ポケットの中に忍ばせていた"破損した仮面ライダーシャギーのIDコア"を握りしめた。
(正気じゃないよ…あんた)
ゴール下まで救援に向かうと、何やらナッジスパロウとタイクーンが揉めていた。何があったんだ…仲間割れしてる場合じゃないだろ…!
「違うんだ!」「邪魔するな!」
互いに掴み合った二人は、バックルの性能差でタイクーンが競り勝ち、振り解いた際にレイジングソードがナッジスパロウのアーマーを斬り裂き、変身解除させてしまった。今のは故意か、偶然か…?
「くっ!」
その間にも、ルークジャマトはゴールを決めようとジャンプする。俺は何とか寸前で止めようと、ガス噴射を織り交ぜたジャンプで追うが、時すでに遅し。ルークジャマトは自分ごとゴールにボールを滑り込ませ、伸ばした俺の手は虚しく空を切った。またしても、11対16と突き放されてしまう。
まずい…このままタイムアップになったら…!
DGPルール
プレイヤー全員から
デザスターだと疑われた者は
ゲーム終了時、強制脱落する。
誰を落とすも、プレイヤーの自由。
次回:仮面ライダーギーツ外伝
「久しいなぁギーツ!」
「誰かを疑わせるか…それとも信じさせるか…」
─ジャマトの真相が明らかに!?─
「まずいよ!もう時間がない!」
「俺が守るんだ…だからこそ………このゲームに勝つ!」
23話 発露Ⅲ:投票!信じられるのは誰だ!