─デザスターは五十鈴大智さんではありませんでした―
「ふむ……やはりそうだったか。スズメ君は、自らの利となるために嘘をついてたということだな」
─残った六人の中にデザスターがいます―
「それもそうだが……スズメ君は脱落する際に嘘をつくのは一人ではないと言っていた。その言葉は自分を指していたのか、はたまた……」
※
午前八時。もう皆起きて、景和の朝食を食べている頃だろうか。俺はと言うと、寒空の下清掃活動に勤しんでいた。冷水で濡れた手を、乾いた風が吹きさらす。
「なんか…悪いな、朝イチで」
「友達の頼みだからな…五時起きだ」
「奇遇だな。俺もだ」
ボランティア部のメンバーに掛け合って、来れたのは快富郁真だけだった。ゴム手袋を持ってくれば良かったと、激しく後悔する。水の染み付いたスポンジは拍車をかけて冷たくて、皿洗いをする母の気持ちがわかったような気がした。
「だけどよぉ……何でこんなところに落書きしたんだろな」
今回、新井紅深の落書きが残されていたのは、廃倉庫が密集した地帯。シャッターにスプレーを噴射されなかっただけマシだっただろう。廃倉庫と廃倉庫の間の路地に、落書きはあった。デザイアグランプリの三回戦がいつ起きるかわからない以上、この時間帯を選択して来る他無く、こんなことになっている。
「…新井のやつ、虚しくならないのかね…」
破壊衝動…なんて言うが、かつての自分を鏡写しにされているようで、溜飲が下がらない。蛍光塗料がぶちまけられた箇所の汚れを落としきって、ようやく一段落だ。今回の落書きは範囲が広くて、まだまだ掛かりそうである。てか、部長はよくこんな所に落書きあるの見つけたよなまったく…
水で濡れた壁を雑巾で拭く作業に移ると、胸ポケットの携帯が鳴った。流石にスパイダーフォンを普段使いはできないので、デザグラメンバとはスパイダーフォンで、プライベートの連絡は普通の携帯でしている。普通のスマホの方が鳴ったって事は、デザグラとは関係のない連絡だ。
「部長がやっと起きたか…?」
手元の雑巾をバケツにスローインして、携帯を取る。電話を寄越してきたのは、部長でも上遠でもなく、親父だった。親父から前触れもなく直電…珍しいな。まさか…ボランティア部で遠征しているという嘘がバレた…?恐る恐る受話器のボタンを押して、耳に押し当てる。
「もしもし?」
『おぉ、奏斗……今どこにいる…?』
何か激しい運動でもしたのだろうか?息が切れている。そっちこそ何をしているんだか。親父の呼吸の後ろで、時計の針の音がやけに大きく聞こえる。
「言ってるだろ。ボランティア部の遠征。冬休みいっぱいかかるって」
『あぁ、そうだったか。今日中は帰ってこなくていいぞ』
親父は安堵したような声を発すると、一方的に電話を切った。そんな事確認するために、わざわざ?携帯を耳から離すと、快富がニヤニヤしながら熱い視線を送っていた。
「お前、家出の言い訳に俺らのこと使ってんの?なんか嬉しいなぁ」
「関係ない。俺だって帰れるなら帰りたいよ…」
サロンでの生活は、プライバシーも何も無くて、寝ていても心休まらない。五十鈴大智がいなくなって、多少はスペースを拡大できたが、何よりも地面が硬い。一回でもいいから、家のフカフカベッドで爆睡したい気分だった。つい漏れてしまった弱音に、快富は意外にも険しい顔つきになった。
「もしかして…デザイアグランプリか…?」
「…!お前も、覚えてんのか?」
上遠に続いて、こいつも…?なぜだ?最近の運営はガバが起きているのだろうか?
「そうなんだよ。なんか最近まで忘れてて、一回学校寄った時に、フッと。お前、デカい怪我とか、しなかったか…?」
「まぁ、見ての通り」
見た目ではわからないだろう。デザグラのシステム的に後遺症が残ることは無いが、そこそこデカい怪我は何回かしていた。それにしても、こいつも記憶を取り戻した理由は曖昧か。
「今はメンバーとシェアハウスやらされてるんだよ。笑えるだろ?」
「なんか…恋愛ドキュメンタリーみてぇだな」
快富からそんな感想が出てくるとは思いもよらず、吹き出してしまう。恋愛ドキュメンタリー…実際のところは恋のドキドキなんて展開は全く無く、いつ寝首をかかれるかドキドキする状況が続いているわけだが。
噂をすればなんとやらか。今度は鞄に忍ばせていたスパイダーフォンが振動した。
「デザグラか?」
「あぁ。こんな朝っぱらから…」
画面を確認すると、着信主はツムリ。間違いない。またしても電話を取って、通話に応じる。
『奏斗さん!ジャマトが現れました!』
「すぐに行く!」
スパイダーを鞄にぶち込み、デザイアドライバーを取り出して背負う。ジャマトは朝は活動しないだろうと踏んでいたが、これじゃ意味が無いな。
「奏斗!」
急ぎ足で去ろうとした所を、快富に止められる。
「掃除は任せろ!」
「頼んだ!」
全く頭を使わない会話を交わした後、俺はデザイアドライバーを装着して現場に転送された。
到着した現場は、運送会社のオフィスの前。カモフラージュできているつもりなのか、ジャマト印の軽トラックが停車した。建物と合体した車庫の陰から半身乗り出す。だが荷台の中身は、ブルーシートのハウスに覆われて伺い知れない。青いパリパリとしたジャケットを着たジャマトたちが、コソコソとトラックから降りる。三体いた。
「何を運んでる……?」
遅れて、すでに変身したタイクーンとナーゴも現着。ジャマトが荷台から積み下ろししていたのは、これまたジャマト印の段ボール。割れ物でも入っているのだろうか?慎重かつ丁重に扱っている。タイクーンとナーゴは互いに頷き合い、ジャマトに攻撃を仕掛けた。突然の襲撃にジャマトたちは動揺しているようだ。俺もブラストバックルを装着して、後に続いた。
「変身!」『BLAST!』
出会い頭に、段ボールを三段も重ねて運んでいるジャマトに膝蹴りをぶち込む。これを喰らったジャマトはおもいっきり段ボールをぶちまけて倒れたが、残りの二人が地面と激突する前になんとか段ボールをキャッチする。中身を確認して、異常が無いことに安堵したようだった。それにしても、張り合いの無いジャマトたちだな。攻撃力が皆無すぎる。
「あれっ……弱っ……?」
タイクーンが驚いたように呟いて、ニンジャデュアラーでジャマトを押し返す。この攻撃でジャマトは重なるようにぶっ倒れた。大事に持っていた段ボールが散らばり、その内の一つがこちらに口を開けて落ちてきた。赤い繊維状の包装紙に、転がって出てきたのは、スイカ……?それを見たジャマトらは、頭を抱えながら防御する姿勢となった。
「えっ、なん」
途端に、スイカは俺たちの足元で大爆発した。
「爆弾っ!?」
恐らく誤爆だったのだろう、ジャマトたちは悔しそうにそそくさと去っていった。
デザイア神殿に一度戻ると、既に全員集合していた。
「私たち運営の元に、このようなものが」
ツムリが見せたのは、擦れだらけの古紙にメッセージが書かれた、手紙のようなものだった。丁寧に、黒い封筒に収められていたようである。記されている文字には見覚えがある。うねうねした蔦のような文字。迷宮で嫌と言うほど見た。
「ジャマトの言葉か」
「はい。翻訳したものが…こちらです」
表示された翻訳文を、我那覇冴が読み上げる。
「お前たちの世界に……時限爆弾を仕掛けた…!?」
「爆弾…さっきのが時限爆弾ってこと?」
「果物に擬態とは……いかにもジャマトらしい発想だな!」
一瞬見ただけだが、爆弾の形は普通のスイカと遜色なかった。青果店なんかに隠されでもしたら、探しきる事なんてできないぞ。言葉に詰まる俺たちに変わって、ツムリが残りの文章を音読した。
「タイムリミットは日没。もし爆発してしまったら人質の命は助かりません…永久に」
*
『第三回戦、時限爆弾ゲーム。仕掛けられた時限爆弾を見つけて、解除してください。爆弾を配達しているジャマトもいます。仕掛ける前に、止めてください』
今回もジャマトは、人目につかない工場地帯をうろちょろしている。箱の中身は爆弾。誘爆に気を付けて戦うなら、小回りが利くブラストバックルの方が有効であると判断し、景和から借りパクしたコマンドバックルをしまい直して、ニンジャデュアラーレイズバックルを代わりに装填した。
『SET CREATION!』『SET FEVER!』
『『『『SET』』』』
「へ〜ん!「「「「変身!」」」」しんっ!」
『DEPLOYED POWERED SYSTEM!GIGANT SWORD!』
『BEAT!』『NINJYA!』
『HIT!ZONBIE!』
『DUAL ON!BLAST!ARMUD DUALER!』『ZONBIE!』
『Ready?Fight!』
仮面ライダーたちは、逃げ惑う配達ジャマトを追跡する。
ニンジャデュアラーを分割し、長身の刃がそなえられた片方を投擲する。ニンジャデュアラーは地面に突き刺さり、驚いた運送ジャマトは段ボールをぶん投げながら転んだ。空中に放り出された段ボールを、空中で逆さまになりながらキャッチ。運送ジャマトの頭上を飛び越えて着地する。どれどれ、まずは爆弾とやらの中身を確認してみるか。段ボールの蓋を開くと、赤い包装紙と共に大量のキウイフルーツが入っていた。耳を近づけてみると、確かにカチカチと時計の針が進む音が聞こえた。
「こんなプレゼントもらいたくないな…」
改めて段ボールの中を見ると、爆弾の下に脅迫状と同じ古紙のメッセージカードが入っていた。人間に送り付けるのが目的だからだろうか、ジャマト語に加えて、最初から翻訳文が添えられていた。
「本日中にお召し上がりください…期限は日没まで」
脅迫状の内容と一致する。手紙の裏には、翻訳文のついていない文言が書かれている。切手も貼ってあるし、住所かなんかだろうか?爆弾の入った段ボールを投げ返し、運送ジャマトがあたふたと慌てているところに、ニンジャデュアラーで斬りかかる。
畳が敷かれ、障子で仕切られたオーディエンスルーム。ちゃぶ台の上に置かれたカエルの置物…否、座っている彼は、タイクーンのサポーター・ケケラ。不器用ながらも運送ジャマトを追いかけ奮戦するタイクーンの姿に、ケケラは嬉々とした声色である。
「いいぞ…桜井景和。もっと貪欲に行け…」
「楽しそうだね、ケケラ」
そして、ケケラの隣で胡坐をかき、ギーツの活躍に少年のような笑顔を見せているのは、ギーツのサポーター・ジーン。彼もまた、自身が設定した『最速でジャマトを一体撃破する』というシークレットミッションをクリアしたギーツにご満悦だ。彼がプレゼントしたのは、ギーツが最も得意とするバックル、マグナムバックルだった。マグナムフォームに変身したギーツは、専用武器のマグナムシューターを駆り、鬼人のごとき勢いでジャマトを撃ち倒してゆく。
「悪いがジーン。デザ神になるのは桜井景和だ。あいつは必ず大物になる…」
「そんなこと言って、シャギーの時も、ギーツがデザ神になったよ?これからもそうなんじゃないかな~」
「シャギーは期待外れだったからな…てか、あれは途中でモーンに譲ったからノーカンだろ!?」
過去のデザグラ談議に花を咲かせる二人。さらにそこに、障子をどかしながら、モーンが入室した。
「私に何か用?」
「ちょうどいい。お前の次のお得意さんの活躍を拝んでやろうじゃねぇか」
ケケラの声に合わせて、オーディエンスたちはダパーンに視線を集中させる。ダパーンは怪我の補助の意味も込めてブラストバックルを愛用している。だが、度重なるゲームの中での酷使もあり、まだ万全な状態の右足と、各種武器に頼った一歩引いた戦い方に変わっていっていた。ケケラとジーンからは、弱腰と捉えられてもおかしくない姿勢に、案の定顰蹙を買ったようである。
「ありゃダメだな。あれじゃ生き残れてもデザ神にはなれりゃしねぇ」
「やっぱりギーツだよ。もっとスマートに戦わないとさ」
ケケラとジーンの反応に、ジーンの反対側に体育座りをしたモーンは、あきれ顔を見せた。
「二人ともわかってな~い!ああいう、弱くても、それを認めてなくて、本気を出せばできると思ってる。健気で、惨めで、どうしようもない人間が一番良いんだって。それに…絶対王者でも正義のヒーローでもない、欠点だらけの紛い物がデザ神になるほうが、もっとドキドキできると思わない?」
「趣味合わねぇな…まったく」
「でも、それも面白いよね。だって、一人の仮面ライダーに、二人もサポーターはいらないじゃん。二人とも、そう思うでしょ?」
ジーンがそう纏めると、残りの二人も推しの観戦に集中する。ちょうど、それぞれの推しの三人が集合したところだった。
『やっとその姿になれたんだな』
『やっぱりマグナム似合うね』
『サンキュ』
軽口をたたく三人。そんな彼らの足元に、桃の爆弾が投げ込まれた。
「「「!?」」」
突如として起きた推しの危機に、サポーターの間で戦慄が走った。仮面ライダーたちは咄嗟に回避行動をとって軽傷で済んだが、サポーターの心中は穏やかではなかった。むしろ、不機嫌さを隠すつもりもない。
「誰ぇ!?あんなことやったやつ!?」
「デザスターのミッションかな……浮世英寿はこんなことで死ぬ男じゃないけど…気に入らないね…」
「ふざけたことする奴だな…誰だ、キューンの推しか!?嘘つき野郎か!?オイ一回巻き戻して再生しろぉ!」
サポーターは、推しさえ良ければ他には全く興味が無い様子だった。
飛ぶはずの無い方向からの爆弾。後ろの方向に桃の爆弾を持ったジャマトはいなかったはずだが…?俺たちは気を取り戻して、運送ジャマトに武器を構える。運送ジャマトの実力はとてつもなく低く、あっけなくほとんどの個体を撃退てきた。
「逃がさないよ~!」
後方から意気揚々とナーゴが俺たちを追い越す。ヘリアル、ロポも続いて追跡したが、運送ジャマトは時限爆弾をシェイクして地面へと投げる。爆弾を振ったことで起爆までの時間が短縮されたようであり、オレンジ型の爆弾は黒煙を上げて爆破した。すぐに黒煙は晴れたが、すでに運送ジャマトの姿は無かった。これ以上の戦闘は不可能だと、皆変身を解除する。
「ジャマトは倒せたけど、時限爆弾の手がかりは無しね」
「どこに仕掛けられたんだろう…?」
「ジャマトが使っていたのはフルーツ型の爆弾だったな」
手がかりか…いや、無いこともない。ジャマトから奪った手紙を、ポケットから取り出す。
「段ボールに入ってた。誰に仕掛けるまではわからなかったけど…脅迫状と同じで、期限は日没までって書いてある」
英寿に見せようと差し出すと、横から橋結カムロに奪われた。橋結カムロは日本語で書かれた文章ではなく、なんと裏に描かれた住所らしきものを音読し始めた。全く言葉を詰まらせる様子もなく。
「ふむ…東京都台東区浅草…」
「待て…そこの住所、俺の実家がある所だぞ」
英寿が珍しく驚いた表情を見せる。橋結カムロがジャマト語をすらすら読み始めたことも気になるが、浅草が実家。さすがキツネと言うべきか、なるべくしてスターになったと言うか。ジャマトの次の狙いは英寿の家族…?
「日没まで……ちょっと見して!」
さっきからぶつくさと呟いていた景和が一転して焦った様子で手紙をもぎ取る。
「期限は日没…まさか!」
思うところあったのか、景和は手紙を投げ出してその場を去ってしまった。神妙な面落ちで英寿と橋結カムロが背中を追いかける。あいつ、爆弾の仕掛けた場所が分かったのか?状況が上手く呑み込めない俺に、我那覇冴と祢音が説明してくれた。景和の姉・沙羅の家に寒中見舞いのパイナップルが贈られていたこと。彼女がこの手紙と全く同じ文言を語っていたこと。
「狙いは仮面ライダーの家族ってわけか……待てよ」
(あぁ、そうだったか。今日中は帰ってこなくていいぞ)
今朝の親父からの電話。そもそもかけてくる事すら珍しかったし、妙に俺の居場所を気にしているようだった。
「一緒に来てくれ…爆弾は一つじゃない!」
もう一つの狙いは、俺の家族だ。
実家の玄関の引き戸を、外れるほどの勢いで開く。靴を脱いでいる時間すら惜しくて、土足のままリビングに転がり込んだ。予想は的中していて、木箱の中から赤と青のコードが伸びていて、両親をぐるぐる巻きにして拘束していた。木箱の中身を確認すると、先ほどのものと全く同じ手紙と、ブドウ型の時限爆弾が入っていた。
「来るな奏斗!こんなところで何してるんだ!ボランティア部の遠征は!」
「ごめん父さん…あれ嘘なんだ。今助ける!」
早く二人を開放しなければ。コードに手をかけて、緩ませようと引っ張る。
「まって!本当に爆発しちゃうなら、勝手にいじったら危ないよ!」
リビングに入ってきた祢音が、俺の手首を掴んで止めてくれた。確かに、赤か青か…なんのヒントも無しに切るのは危なすぎる。両親を前にして気持ちが焦っていた。額の汗を二の腕で拭って、深呼吸をする。
「え!祢音ちゃん!?奏斗知り合いなら早く言いなさいよ~」
「あ、どうも…はは」
気が動転している俺を他所に、母は少し喜んでいるようだった。俺が祢音を恨んでいる間に、母は祢音TVに熱中していたのか。命の危機が迫っているのにお気楽なもんだと思ったが、無理にでも明るく取り繕っているようにも見える。続いて我那覇冴もスパイダーフォンを耳に当てながら追いついてきた。電話先は橋結カムロだろう。スピーカーモードなのかと疑うほどのバカデカい声が聞こえる。
「景和の家にも爆弾があったみたい。コードの答えを知ってるのはジャマトだけだって」
「まじか……早くジャマトを探さないと…」
立ち上がって、家を去ろうと振り返る。しかし、両親からの追及は逃れられなかった。
「待て……爆弾だかなんだか知らないが、こんな危ないこと止めるんだ…!」
「そうよ!せっかく怪我が治ったのに……もう心配させないで…!」
やっぱりそう言うよな。でも、デザグラの事を易々と口外はできない。俺はいつもと同じように言葉を濁した。
「ごめん…もう決めたんだ。大丈夫、死なせはしない」
それ以上の静止は耳に入れず、俺は家を出た。
俺はその時、祢音の羨むような視線に気づかなかった。
玄関の扉を閉めると、我那覇冴の通話が終わったようだった。入れ替わるように、祢音の携帯が着信音を鳴らす。スパイダーフォンではない、プライベートな連絡だ。祢音を視線に入れないように離れて、我那覇冴に通話の内容を確認しようと迫る。
「ジャマトがどこに潜伏してるか目星はついてるのか?」
「運営が捜索するから、仮面ライダーはしばらく待機だって」
「それで見つからなかったらどうするんだよ…」
あのチラミ率いる運営が信用できるとは到底思えない。時刻は十一時、日没の四時まで時間が無い。快富と掃除をしていた時はまだ朝八時だったのに、ジャマトをもうすぐ昼を過ぎそうだ。
「そういうわけにはいかない。友だちの家族を助けたいの」
なにやら祢音が電話先と口論になっているようで、俺と我那覇冴は背筋を伸ばして凍り付いた。相手は親だろうか?祢音の口調は、しだいに強くなっている。
「どうでもって……友達と遊ぶことも、恋愛することも禁止されて、私の自由を何もかも奪って……」
内容を聞くに、相当親との関係は劣悪なんだろう。セレブ故なのか、親にそこまで執着する理由があるのか。過保護すぎる親子関係は、基本的に無緩衝の俺の家庭事情とは180°異なる。
「自分の幸せは、自分で叶えるって、私……決めたから」
最後にそう言って、祢音は一方的に電話を切った。何て声をかければ……と迷っている内に、躊躇いがちながらも我那覇冴が祢音の肩に手を置いた。
「祢音ちゃん…大丈夫?」
「……うん」
祢音の見せた笑顔は嘘であると、流石に俺でもわかった。
日没まで、残り三時間。サロンにいてもどうも落ち着かなくて、バックヤードを行ったり来たりしていた。今まで、両親には迷惑ばっかりかけてきた。俺がデザグラに参加したせいで、二人が死ぬなんてことがあったら……
「くそっ…」
「大丈夫?」
我那覇冴の声に、歩みを止められる。振り返ると祢音も一緒にいて、我那覇冴はスポーツドリンクを投げてきた。有名なメイカーのものだ。我那覇冴が大会用に準備した備蓄だろう。
「…悪いな」
「ううん。きっと私も家族が標的にされたら、冷静でいられない」
キャップを開けて、勢いよく喉に流し込む。焦って、昼飯も取っていなかった。久々の水分が身に沁みる。誰かと話せて、気分も落ち着いてくるようだった。
「ねぇねぇ、奏斗の家族って、どんな感じなの?」
我那覇冴よりも、祢音がずいと前に出てくる。きっとこいつは、俺の家族関係に、人並みの愛を見ている。だが、たとえセレブの家庭では無くても、本当の愛に溢れているとは限らない。俺は全く誇張なしに、かつての家庭事情を語った。
「まぁ……親父はサラリーマンで、母さんはパートの普通の家庭だよ。でも、俺は二人に嫌われてる。多分、愛なんて無い」
二人は黙ったままだったので、そのまま話を続ける。
「知ってるだろ?怪我して、バスケが出来なくなって。全部終わったって、思ってた。だから、世界が全部敵に見えて……母さんも、親父の言うことも信じられなくて、反抗して……何も言われなくなった。親父は向こうから何も話してこなくなったし、母さんは無理に明るく振る舞うようになった。でも…親は親だ。俺のせいで狙われて死ぬなんて、あんまりだからな。助けたあとは……もう、会うことなんて…」
「そんなことないよ!」
祢音は、下を向きながら強く叫んだ。そして、胸ぐらを掴むほどの勢いで俺に詰め寄る。眼力は強いが、瞳は少し泳いでいた。
「な、なに…?」
「きっと、お母さんたちは奏斗が心配なだけなんだよ…!でも、お互いになんて声をかければいいのかわからなくて…きっと悩んでる…!奏斗の愛は本物だよ……だから、絶対助けて、仲直りする……いい!?」
唐突に強く言葉を吐き出した祢音に、俺は言葉が詰まる。彼女も通じるところがあったのか、我那覇冴が表情を和らげる。
「きっと、言葉だけじゃ伝わらないこともあると思う。私の実家は沖縄料理屋だったの」
我那覇冴が柔らかい声を出すと、祢音も俺の傍らで耳を傾けた。
「でも、父が病気で倒れて、経営が回らなくなって。どうしても、スポーツで全国を目指す下の子たちの夢を叶えさせてあげたくて、私なりに色々努力してきた」
そうか、彼女の願い・身体能力の維持は家族のためだったんだな。もし…姉弟が夢を叶える前に、自分が折れてしまわないように。ただ、お金を稼ぐだけではなく、自分が辞める理由を自らの閉ざしたんだ。
「勿論、私の力だけじゃ届かないこともあった。その時支えてくれたのが家族なの。家族にはきっと、言葉を超えた絆……みたいなものがあるの。だから、今は離れてても何度だってやり直せる。奏斗とお父さんたちは、家族なんだから」
最後に、我那覇冴は両手を強く俺の肩に置いた。俺にもう一度、信じてみる権利があるのだろうか。家族の絆ってやつを。
サロンでツムリの報告を待つ英寿、景和、カムロの三人。景和はただ報告を待っているのが症に合わないようで、忙しなくサロン内を動き回っていた。比較的英寿とカムロは落ち着いていて、カムロが淹れた珈琲を二人で嗜んでいる。
「どうやら、フルーツにも種類があるらしいな」
「確かに、パンダ君とタヌキ君の家に贈られたフルーツは違うものだった…」
英寿とカムロの会話に、気づきを得た景和は、声が上ずる。
「……じゃあ!そのフルーツを持ってるジャマトを見つければ!」
「可能性はあるな!コードの答えを知っているかもしれん…!」
「だが、問題は俺とタイクーンに爆弾を投げたデザスターが誰か…」
ジャマトがいない方向から飛んできた爆弾。既にデザスターの所業であると推理していた英寿は、過去の仮面ライダーの行動を思い返す。爆弾を投げられたタイクーン、ダパーンは仮に外れるとした時に、デザスターの可能性があるのは、ロポ、ヘリアル、ナーゴの三人に絞られる。
「おっと…俺を疑っているのか?残念だが俺ではない!なぜなら……俺はあの時ジャマトの爆弾を集めていたからな!爆弾を投げられた瞬間を見ていない!」
そう言ってカムロは、机の下にしまっていた段ボールを取り出す。段ボールには、ジャマトが仕掛ける予定だった時限爆弾が数々入っていた。
「安心しろ!中の回路は取ったから爆発はしない!」
「いや、それアリバイになってない気が…」
景和はボヤきながらも段ボールを覗き込む。集められていたのは、リンゴ、オレンジ、キウイ、そして梨。景和と奏斗の家族に贈られたパイナップルとブドウは無かった。
「君らが投げれた爆弾は桃。しかし俺は桃の爆弾を知らん!どうだ、完璧なアリバイだろう?」
「いや、そうでもないな。何でお前は俺達に桃の爆弾が投げられた事を知ってる?見てなかったんだろ?」
英寿の指摘に、カムロは言い淀む。
「確かに、なんで知って、」
「ドカーン!!!!!」
カムロを追い詰めたかと思われた英寿。しかしそれも突然現れたチラミの叫び声に阻まれた。景和は突然の大声に尻もちをつき、眉間にシワを寄せながら耳を抑える。何の用か、チラミは声を低くしながら宣言した。
「デザスター投票中間発表よぉ…!」
彼のドでかい声を聞きつけたのか、残りの三人もサロンに戻ってくる。中間発表の結果は、景和を除いて全員に一票ずつ入っていた。未投票の一人は言わずもがな景和だろう。結果を見た祢音は、率先して声を出す。
「今は私たちが足を引っ張りあってる場合じゃないよ。沙羅さんと、奏斗のお母さんたちを助ける方法を探そう…!」
「ありがとう、祢音ちゃん…!」
景和は正直に感謝していたが、英寿は見逃さなかった。祢音の、意図的にデザスター探しを輪から外すような発言に。
サロンの電話が鳴り、チラミが受話器を取る。内容は聞かなくても分かる。俺たちはデザイアドライバーを腰に装着した。
「ジャマトが見つかったわ」
俺は助けて見せる。俺の家族を。
*
解除のコードの答えを知っているのは、ブドウを持っているジャマト。そう英寿は言っていた。トラックの輸送ルートは、ツムリが抑えた。でるきだけ仮面ライダーの目につかない場所を通りたかったのだろう、今朝も訪れた廃倉庫の地帯を経路に選んでいたようだ。傾き始めた太陽が、逸る気持ちを加速させる。やり直す前にドカンなんて、させてたまるか。
廃倉庫の周辺を走るトラックは二台あった。あのどっちかに、ブドウとパイナップルを持っているジャマトが……!トラックはT字路で二手に分かれる。
「俺たちも二手に分かれる。タイクーン、ヘリアル、行くぞ!」
「奏斗、冴さん、行くよ!」
英寿と祢音の号令で二手に分かれ、俺たちは走りながら変身した。
「へ〜ん!「「変身!」」しんっ!」
『DUAL ON!GREAT!BLAST!』
『BEAT!』『ZOMBIE!』
時間切れまでもう一時間もない。取り逃すわけには行かない。ジェットモードで一気に決めてやる。トラックを逃がすまいと、俺たちは剥がれたアスファルトに足を取られないように走る。逃げ去るトラックを守るように、廃倉庫の中からも運送ジャマトがわらわらと出て、俺たちを足止めする。小まめに時限爆弾を投げてくるせいで、迂闊に攻撃できない。トラックを逃さないためには……そうだ、デザイアロワイヤルの時と同じことをすれば…!
「冴さん!祢音!トラックの動きを止める!」
ロポはピンと来ていなかったが、俺と行動を共にしていたナーゴには合点がついたようだ。走りながらビートアックスを叩く。
「そうだよね!あの時と同じ!冴さんはジャマトを退かして!」
「わかった!」
『ZOMBIE STRIKE!』
ロポがクローを備えた左腕を振るうと、地面から毒手が入って、運送ジャマトの足を掴む。そして、右腕に持ったゾンビブレイカーのポンプを、左腕に引っ掛けて作動した。
『POISON CHARGE!』『TACTICAL BREAK!』
そして、毒の斬撃を発射すると、運送ジャマトが手にしていた時限爆弾に誘爆。大爆発を起こして、運送ジャマトの殆どが巻き添えになった。そして、トラックの後ろ姿が見える。
「届けぇっ!」
『FUNK BLIZZARD!』『TACTICAL BLIZZARD!』
ビートアックスより地面を這うような氷が生じ、トラックのタイヤに到達する。氷によって捕らえられたタイヤはそれ以上回転できず、停車した。それでも、時限爆弾を守りたいのか、生き残った運送ジャマトたちが大急ぎで積み下ろしを始める。
「逃がすかっての…!」
俺はガス噴射で荷台に飛び移ると同時に、レイジングソードで一刀両断。荷台のハウスを斬り払う。そして、中であわあわしていた運送ジャマトを難なく蹴りで処理し、積まれた段ボールの中を確認する。しかし、積まれていたフルーツは、リンゴ、桃、スイカ…だめだ。ブドウがない。くそっ…こっちはハズレかよ…!
「あっちに逃げてる!」
ロポの声に、はっと我に返る。ロポが指差す先に、廃倉庫の路地を抜けて逃げようとしている運送ジャマトがいた。しかもご丁寧に段ボールを数個持っている。ブドウはあそこだ…!
「逃がすか…!」
『FULL CHARGE』『TWIN SET』
『TAKE OFF COMPLETE!JET&CANNON!』
『Ready?Fight!』
コマンドフォーム・ジェットモードへ変身。飛行と同時に身体を横に傾け、狭い路地を一気に飛び抜けると、路地の出口に着地し、逃げ道を閉ざす。反対側の道も、ナーゴとロポが閉ざした。
「鬼ごっこは終わりだ!」
『RAISE CHARGE!』
レイジングソードのボタンを叩くように押し、刀身にエネルギーを流動させる。しかし、そこでジャマトは驚くべき行動に出た。段ボールからブドウの時限爆弾を取り出すと、それをシェイクした後、上に投げたのだ。ブドウの時限爆弾は空中で肥大化。実がそれぞれ房から弾け、四方八方に霧散。いくつかが俺達に向けて飛んできた。
「くそっ!」
『TACTICAL RAISING!』
やむを得ずレイジングソードで必殺技を発動。込めれたエネルギーが開放され、オレンジとシアンの半透明であり巨大な刃が形成される。そしてその刃をレイジングソードこと振るい、落下する実を一気に切断した。切断こそしたものの、相手は爆弾。至近距離の爆風は凄まじく、何歩か後ずさる。勢いが少し弱まり、爆風の中目を凝らすと、運送ジャマトは逃げ道の無いはずの路地から消えていた。
「ジャマトが消えた…!?」
だが、ナーゴとロポは無事だ。ビートアックスで氷の壁を作って防いだようだ。二人の周辺の壁が水で濡れている。
「まって!倉庫の壁に穴が!」
ナーゴの言う通り、先程まで運送ジャマトがいた箇所の隣の壁に溶けたような穴ができている。ブドウの炸裂弾の特性を利用して、俺たちを足止めしつつ、逃げ道を爆発で作ったのか。小賢しいことしやがる。急いで駆け寄って、人一人通れるくらいの大きな穴を覗くと、運送ジャマトたちが一目散に逃げてゆくのが見えた。
「もう逃さないよ!」
「私たちに任せて!」
ロポとナーゴが先に穴に飛び込む。俺も追おうとしたが、ジェットモードの翼が穴の縁に引っかかる。思いがけない足止めに面食らったが、さして問題は無い。
『REVOLVE ON』
キャノンモードになれば良い。発想の勝利だ。始めて成ったコマンドフォームは、横方向にはコンパクトで、難なく穴を抜けられた。
侵入した廃倉庫内では、ナーゴとロポが見事な連携で運送ジャマトを足止めしていた。二人が左右に別れ、活かして逃げ道を着実に潰している。狙うべき相手はわかっている。中央の運送ジャマトだ。他の運送ジャマトが明らかに庇うように取り囲んでいる。
「これで決める!」
『ROCK ON!』
俺がそう叫び、二連式のキャノン砲にエネルギーを集中させると、二人もこちらの意図に気づいてくれた。他の運送ジャマトを武器で薙ぎ払い、強固なブロックを解いてくれる。照準は完全に決まった。ブドウの時限爆弾を持った運送ジャマトはあわあわと後ずさるが、もう逃さない…!
『COMMAND TWIN VICTORY!』
「だあああっ!」
反動で多少仰け反りながらも、二連の高圧ビームを放つ。照準の通り、ビームは運送ジャマトを貫き、焼き払った。よし…!これでコードの答えがわかる…!俺たち三人は変身を
解き、運送ジャマトの亡き骸を確認する
「赤と…青!?」
「同時に切れって事か…!」
答えはわかった。あとは……
家に全速力で戻ると、両親に仕掛けられた爆弾は既に爆発寸前。狭いリビングを圧迫するほどの大きさになっていた。
「奏斗!来るんじゃない!」
「危ないから離れて!」
両親は俺を引き離そうと止めるが、もう迷っている猶予なんて無かった。電話の隣に置いてあったペン立てからハサミとカッターを取る。俺はハサミを持ち、もう一つは祢音に渡した。同時に切らなければ、間違った判定になって終わりだろう。
「大丈夫……絶対に助けるから…!」
俺たちは膝立ちになって、俺は青、祢音は赤のコードに刃を立てた。しかし、そこでまた躊躇いが生じる。もし間違っていたら…?また呼吸が粗くなって、聴覚が鼓動に支配される。しかしその緊張はすぐに治まった。我那覇冴が、ハサミを持つ俺の手に後ろから両手を重ねていた。一度顔を見ると、我那覇冴も決意に満ちた表情をしている。覚悟は決まった。必ず、母さんたちを救う…!
「「「せーの!」」」
コードを同時に切るのに合わせて、日が完全に沈んだ。正解か不正解か、唇を噛んでその時を待つ。
時限爆弾が枯れるように萎んでいく、推理は当たっていた。
「や、やった…」
緊張が緩み、手からハサミが落ちる。両親に向けて、声をかけるよりも速く、向こうから俺に抱きついてきた。冴と祢音の手前、いい大人が少し恥ずかしい気もするが、今はどうしても安心が勝った。
「二人とも、ごめん。俺、今まで……」
「いいんだ。奏斗が無事で良かった…!」
二人が俺を抱きしめる力は強く、でもそこには確かな温かみのようなものがあった。爆弾に助けられたのは二人の方なのに、俺の安否を心配していることが、如何にもマイペースな俺の親らしかった。
「奏斗が怪我をしてね……私たちも、何て声をかけてあげればわからなかったの。今まで何もしてあげられなくて、ごめんなさい…!」
「そんなこと、言うなよ…!母さんたちは何も悪く無い…全部全部、わかってたつもりなんだけどな…」
久しぶりに、本音で二人と話せた気がする。これから、もっと話そう。最初から、全部やり直そう。きっと、わかりあえる………家族だから。
奏斗と両親のやり取りを、リビングの入口から眺める祢音と冴。確かにそこにあった墨田家の家族の絆に、祢音はとびきり顔をほころばせた。
「な〜んだ。やっぱりあるじゃん。本当の愛!」
「お互いを心配して空回りしてたとこ、まさに家族って感じね」
二人も顔を見合わせ、笑い合う。
冴のスパイダーフォンがメールを受け取った着信音を鳴らした。それは、桜井沙羅の救出チームに所属した橋結カムロからのものだった。『無事救出!』とだけ書かれた本文と共に、写真が添えられている。
「ここにも、中々の家族仲発見」
いたずらっぽい笑顔で、冴が目にしたのは、カムロと英寿がピースマークを作る後ろで、桜井姉弟が言い合いをしている写真だった。沙羅に押されて、景和の顔が情けなくブレている。無事に、二つの爆弾は解除された。
だが、まだゲームは終わっていない。
*
ジャマーガーデンにて、爆弾ゲームの顛末を見届けた一人のサポーターは、舌打ちをしながらタブレットの電源を切った。彼女の名はベロバ。ジャマトに資金援助するスポンサーであり、仮面ライダーバッファのサポーターたる女である。
「つまんない。とびっきりの不幸が見れると思ったのに…!」
「まぁまぁ、落ち着いてください」
苛立ちを抑えられないベロバを宥める中年の男は、アルキメデル。ジャマトを育成する"父親"である。ジャマトが育てられるジャマーガーデンも、ベロバの投資によって成り立っている。ここで彼女の機嫌を損ね、ジャマーガーデンが破壊されでもしたら、ジャマトの理想を叶える手立てが無くなってしまう。
「ふん、まぁいいわ。私も推しが見つかったし…」
今のベロバは、半ジャマト化している道長にご執心だ。彼女が求めるのは、人の不幸。親友を失い、デザイアグランプリでの熾烈な戦いの果てに命を落とした男の不幸は、彼女にドストライクだったようだ。
「必ず叶えて見せる。じきに、ジャマトの世界がやって来る…!」
アルキメデルは、ジャマトが育つ大樹に目を凝らす。
仮面ライダーが去った廃倉庫。運送ジャマトらはこっそりとそこに戻り、爆発せずに残っていた時限爆弾を回収していた、次なる標的に、仕掛けるために。
「ジャマト…ってやつだよな」
デッキブラシを肩に担いだ快富郁真は、陰に隠れながら目を擦る。数時間前まで決戦の場となっていたこの廃倉庫は、早朝、新井紅深の残した落書きを掃除した場所だった。忘れ物のデッキブラシを取りに戻った快富郁真は、偶然か必然か、ジャマトの姿を目撃してしまったのである。
「奏斗に連絡……っ!」
ポケットにしまったスマホを取り出そうと屈んだ快富郁真。そこで担いだデッキブラシが木箱に積み上げられたドラム缶を倒してしまい、静けさに包まれていた廃倉庫にガラガラと騒音が響き渡る。
「やっば!」
逃げようとする快富郁真。運送ジャマトが爆弾を投げようとしたその時……割り込んでくる者がいた。黒いローブを被っている、ムスブである。ムスブは手を前に出すだけで運送ジャマトを静止し、引き下がらさせた。
「大丈夫か!?郁真」
「その声は…綾辻さん!?」
「久しいなぁ…郁真…!」
フードを脱いだムスブの顔は、上遠橙吾ではなく、七三分けに眼鏡の男・
DGPルール
デザスターは、秘密の指令を実行しなければならない。
もしゲーム終了時に成し遂げられなかった場合は、
強制脱落となる。
次回:仮面ライダーギーツ外伝
「あたしたちと一緒に世界を変えましょ?」
「参謀って所かな」
─狙われるデザイアグランプリ─
「お願い…!家族を助けたいの…!」
「まさか、君がデザスター…!?」
25話 発露Ⅴ:裏切り者の正体!?