仮面ライダーギーツ外伝 一歩IF:片脚の男   作:みなかみ

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25話 発露Ⅴ:裏切り者の正体!?

 

 モーンのオーディエンスルーム。爆弾ゲームの翌日に、そこに呼び出された奏斗は、サポーター代理である芹澤朋希と対面していた。いつも通りモーンの姿は無く、奏斗はまだ自身のサポーターが同輩である新井紅深であることは知る由もない。

「爆弾ゲームは終わっていない?」

「はい。運送ジャマトに指示をしていた、爆弾魔ジャマトがいるようです。それに…」

 朋希は手元のタブレットを操作すると、瞳型のビジョンに爆弾ゲームのハイライトを再生させた。前半戦のダパーン・コマンドフォーム・キャノンモードの活躍が振り返られた後、残りの三人の戦いにハイライトはシフトする。荷台から爆弾を投げながらトラックで逃走する運送ジャマト。追跡するは、マグナムフォームのギーツ、ニンジャフォームのタイクーン、スロットでモンスターフォームをヒットさせたヘリアル。姉を標的にされているタイクーンは、トラックを逃がさまいと、三体に分身。目にも留まらぬ連続攻撃で、荷台ごとトラックを破壊した。爆炎の中から、フルーツ型の爆弾が落ちるが、目当てのパイナップルは見当たらない。

『パイナップルはどこだ…!』

『…おい、あれを見ろ…!』

 真っ先に、ヘリアルが異変に気付いた。トラックの焼け跡の炎の合間から、デザイアグランプリのユニフォームを着た男が歩いてきているのが目視できた。

「道長…やっぱり生きてたのか!」

 退場したはずの男・吾妻道長の参戦に、奏斗も驚きが隠せない。

『お前らの相手は俺だ…!』

 ギーツを強く睨み付けた道長は、ジャマトバックルを構える。その左手の甲は、植物の根のようなものが禍々しく浸食していて、彼が人間でありながらもジャマトになろうとしていることを現わしていた。デザイアドライバーにジャマトバックルがセットされると、道長の全身を電流が走り、蔦による鎧が形成されてゆく。ジャマトバックルにヒビ割れたIDコア。使用者にそれ相応の負荷を与えることは明白だった。その激痛に苦悶の表情を浮かべながらも、彼が敵意の視線を仮面ライダーから外すことはない。

『変身…っ!』『JYAMATO』

 仮面ライダーバッファ・ジャマトフォーム。ジャマトライダーと同じ鎧に、片目は亀裂が残り光を失っている。バッファは仮面ライダーに向けて飛びかかりながら拳を振り下ろす。全員が間一髪の所でそれを避けると、拳により地面に大きなクレーターができた。通常のバックルでは出せない高火力。それも一重にジャマト向けにリミッターが外されているからであろうか。

「ジャマトになって、何をするつもりだよ、あいつ」

「だれか彼を唆しているサポーターがいるのかもしれません」

 そして凶暴化するバッファをギーツが引き受け、残りの二人はジャマトの捜索へ。無事にパイナップルを持ったジャマトは見つかり、ヘリアルがモンスターの伸縮能力で先回り。無事にタイクーンは運送ジャマトを撃破してコードの答えを知ることができた。一方ギーツとバッファの戦いは、ややギーツが優勢。日没と共に道長の体にも限界が訪れ、撤退した。以上でハイライトは終わりを迎える。

「ジャマトバックルを使っていましたが、意外と彼はピンピンしているようですね」

 次に朋希は、運営が撮影したインタビュー映像を流す。どこで撮影したのか、植物園のような施設内を移動する道長に突撃取材を行った様子だった。

『オーディエンスだか何だか知らないが、そんな奴らは眼中にない。お前らが応援してる奴は俺が全員ぶっ潰すから覚悟しとけ!』

 全く変わらない血の気の多さに、奏斗は苦笑いを溢す。

「ジャマトに肩入れしてもやることは変わらない…か」

 捨て台詞を叫んだ道長はそこでカメラに噛み付き、映像は途絶えてしまった。

 それと同時に、ツムリのアナウンスがデザイアエリア内に響いた。

『第三回戦・時限爆弾ゲーム。今度は我那覇冴様のご家族が、ターゲットになってしまいました』

「冴さんの家族が…!?」

 奏斗は大急ぎで、オーディエンスルームを後にした。

 

 

 場所は変わり、ジャマ―ガーデン。道長のインタビュー映像を見終えたベロバは、また一つジェリービーンズをつまむ。

「あははっ!さいっこう!デザイアグランプリに喧嘩売るなんて…!どうかしてるわアンタ」

 当のインタビューを受けた道長は、足を揺すりながら鉄製の階段に寄り掛かる。その上ではアルキメデルが、ベロバの背後にはフードを被ったムスブが道長を見つめていた。

「そんなことより本当に理想の世界が叶えられるんだろうな…?

 道長の問いに、アルキメデルが答える。

「もちろん。その為にジャマトを育ててきたんだからね」

「君は僕らの期待の星さぁ。君ならきっと…あの浮世英寿も化かせる」

「私たちの目的はねぇ…デザイアグランプリが持っている、創世の女神を奪う事」

「創世の女神…?」

 道長は聞き覚えの無い単語に疑問を浮かべる。創世の女神。それこそが、デザイアグランプリ変革の要であり、保管場所は運営上層部のみが知るトップシークレットとされている。ムスブは両手を重ねると、囁くように語る。

「デザイアグランプリは、どうやって参加者の願いを叶えていると思う…?女神さまに、飽きずにお祈りしているんだよ」

「それさえ奪えばぁ…世界は私たちの意のまま…ふふっ。あたしたちと一緒に世界を変えましょ?」

 ベロバの持ちかけに、道長は沈黙を貫く。そこで道長の思考に割り込むように、一人の男が発言した。

「そいつは興味深いね」

「お前は…?」

 腕を組みながら、植物の隙間を通り抜けて現れたのは、デザイアグランプリで脱落したはずの、五十鈴大智であった。

「彼女にスカウトされた……参謀って所かな」

「仮面ライダーに対抗するゲリラ組織を結成するの!」

 ベロバは甲高い声で笑う。

 ジャマトガーデンズによるデザイアグランプリへの反逆が始まろうとしていた。

 

             *

 

「探すのはメロンのジャマトか!?」

「うん!冴さんのためにも、私たちで見つけよう!」

 地下駐車場に逃げ込んだ運送ジャマトを、祢音と共に追いかける。冴さんには家族と仲直りをするきっかけをもらった。だったら彼女の家族は、絶対に助けなければ。運送ジャマトが投げてくる爆弾を、二人で前転しながら避ける。背後から吹きさらす爆風を背に、レイジングブラストフォームに変身した。

「へ~ん!「変身!」しんっ!」

『DUAL ON!GREAT!BLAST!』『BEAT!』

『Ready?Fight!』

 変身が完了するのと同時に地面を蹴り、ガスを一気に放射する。駐車場は白い霧に包まれたかのような状態となり、見えるのはせいぜい場内を照らす天井のライトのみとなる。運送ジャマトは目を擦るが、視界は鮮明にならない。が、仮面ライダーは違う。複眼越しに見た景色は、センサーでしっかりと運送ジャマトの居場所を捉えていた。レイジングソードをスライディングしながら左右に連続で振るい、次々と撃破しつつ段ボールを奪い取る。ガスの目くらましが自然に消えると、ナーゴも同様に運送ジャマトから段ボールを奪い取っていたようだ。俺たちが駐車場の中央に集合すると、ロポも遅れて到着した。

「奏斗、祢音ちゃん、メロンを持っていたジャマトは!?」

「ダメだ、全部ハズレ…!」

 俺とナーゴが押収した段ボールの中身は、リンゴ、梨、パイナップルの三種。目当てのメロンは無かった。この爆弾ゲームも後半戦。ここまで来ると、ボスに設定されていると聞いた爆弾魔ジャマトが、メロンのコードを知っているのではないか。

「………っ!冴さん危ない!」

 危険を察知したナーゴが、ロポに向かって叫ぶ。次の瞬間、ロポが蔦に絡めとられ、無理やり奥へと引き摺り込まれて行った。誰の仕業かは、すぐにわかった。吾妻道長だ。彼の姿を確認した俺は、すぐに行動に移った。引き摺られているロポの前に回り込み、レイジングソードで蔦を切断した。斬られた蔦は道長の元に集まり、鎧となって貼り付けるように装着される。

「…変身っ」『JYAMATO』

 ロポに手を貸し立たせると、バッファを強く睨む。こいつ…今更何のつもりだ。

「どけ。お前に用はない」

「嫌だね。死者は黙って寝てろよ」

 安い挑発に乗ったバッファの大振りのストレートを、レイジングソードで受け止める。攻撃を止められたバッファだったが、それでも構わず上体を変えずに拳を押し込んで来る。この猪突猛進ぶり、マジで牛だな…!バッファの腹部に蹴りを当てた後にガスを噴射し、勢いで姿勢を崩させる。そこですかさずレイジングソードを引き抜いて、棘のついた装飾を斬り落とした。よし…所詮はジャマトバックル。借り物の力に過ぎない。コマンドなら火力で押し勝てる…!

 さらにバッファに斬りこもうとレイジングソードを振り上げる。

「邪魔はさせないよっ!」

 視界が一瞬で横に流れた。遅れて、腹部にズンと重く痛みが響く。地面を転がり、痛みに耐えながら顔を上げると、バッファを庇うようにアクエリアスキメラジャマトが佇んでいた。こいつ、ジャマ―ボールに続いて…ここでも妨害してくるか。邪魔はどっちだよ。それにしても…こいつがバッファに協力…?どちらも単独行動を貫いているものだと思っていた。ジャマトもゲームの枠を超えた組織的な行動を始めているのか……?

「さぁ、あの時の第二ラウンドだね…奏斗くん」

 俺が言葉を返すよりも早く、変異ジャマトが棘での刺突を放ってきた。突然の攻撃で防御が間に合わず、レイジングソードを弾かれる。レイジングソードはカラカラと転がり、なんとか上段蹴りで数歩退けたが、その間にバッファがロポとナーゴに襲い掛かっていた。特にロポを執拗に狙っている。

「俺のゾンビバックルを渡せ!」

 ジャマトバックルの人の枠を超えた超パワーに、二人は圧倒される。俺もフォローに走りたかったが、変異ジャマトがそれを許さない。またしてもヤシガニの脚を地面から生やし、ロポたちと俺の間に壁を作った。

「バックル狙い…お前の入れ知恵か!」

「違うね、有望な参謀を雇わせて貰ったんだよ」

 参謀……今は考えてる暇がない。なんとか変異ジャマトを退けて、バッファを何とかしないと…!

 変異ジャマトの横一線の斬撃を、姿勢を低くして避け、ガスの噴射の反動を利用して地面を滑りながら背後へと回り込む。そして右側からのみガス噴射を行って浮かび上がり、そのままの勢いで背部に蹴りを放った。だが、それもシャコガイの特性を備えた左腕から放たれる裏拳にガードされてしまい、一旦ガスを逆噴射して貝殻を蹴り返して距離を取った。

「おいおい、逃げてるだけじゃ二人は救えないよ?」

 変異ジャマトは悪辣な笑い声をあげると、背後のヤシガニの壁を少しどかす。すると、ゾンビバックルを奪われたロポが、今にもバッファにトドメをさされそうになっていた。

「お願い…!家族を助けたいの…!」

 くそ…!おれがもたついてる間に…!

「やるしかないっ!」『BLAST STRIKE!』

 ファンから発生した斬撃性能のある風を右足に纏い、さらに蓄積したガスを全て開放、推進力を向上させる。前進しなが叩き落すような回し蹴りを放つ。初撃はガードに用いていたシャコガイに命中し、変異ジャマトは後方に体制が崩れる。さらにそこからも同様の回し蹴りを繰り返し、ついに変異ジャマトを退けることに成功した。流石に痛手を喰らった変異ジャマトのシャコガイは大きく凹んで砕けていた。変異ジャマトが横に逸れた隙にレイジングソードを拾い、ヤシガニの壁を斬り捨てて反対側に出る。

 バッファは苦しみながらも、ジャマトバックルに手を伸ばして必殺技を放とうとする。ロポを庇うように、ナーゴが覆いかぶさる。ここからコマンドに変身するのは間に合わない…!なら!

『GREAT STRIKE!』

 チャージしたエネルギーを犠牲に、レイジングソードにエネルギーを纏わせると、バッファの手元を狙って、アンダースローで投擲する。エネルギーを開放したレイジングソードは空中で勢いを増し、ジャマトバックルを叩こうとするバッファの手を弾く。

「邪魔するな…!」

「邪魔でも何でもしなきゃいけないんだよ。この人には恩がある」

「なら…まとめて消えろ!」

『JYAJYAJYASTRIKE!』

 バッファが必殺技を発動させ、地面を蹴る。地面から伸びた無数の蔦が、俺たちに襲い掛かった。咄嗟にロポとナーゴの前に出るが、ガスもレイジングソードのエネルギーも切れている。ここからどうしようにも、バッファの追撃の方が速い。どうする…!

『TACTICAL SHOOT!』

 伸ばされた蔦に、赤色の弾丸が命中した。その後も弾丸は蔦の進行方向を阻むように幾度となく発射され、バッファの必殺技を完全に相殺した。弾丸は俺たちの背後から発射されていた。後ろに首を捻ると、マグナムフォームに変身したヘリアルが、ライフルモードのマグナムシュータ―のスコープを覗いていた。いつの間にか、変異ジャマトは消えている。ヘリアルが撃退でもしてくれたのだろうか…?

「危なかった…!ここは引くぞ!」

『HANDGUN』

 ヘリアルがマグナムシューターをハンドガンモードに変形させ、一歩前に出る。心なしか、彼の鎧に水滴が付いているように見えた。

『BULLET CHARGE』

 ヘリアルは天井に発砲し、スプリンクラー用の水道管を撃ち抜く。雨のように水が降り注ぎ、バッファがひるむ。そして続けて地面に発砲。舞い上がった砂塵に合わせて、俺たちは撤退した。

 

 

 傷の手当のためにサロンへ戻った冴と祢音。奏斗とカムロは、再びジャマトの捜索に戻った。運営の捜索を頼っていれば、もう日没までは間に合わないと語っていた。祢音の手に包帯を巻いた冴は、バッファとの戦いを思い出す。こうして祢音が怪我を負ったのも、彼女が戦いの中で冴を庇ったためでもある。ダパーンとヘリアルが駆けつけてくれたおかげで軽傷で済んだのも、不幸中の幸いと言うべきか。冴は、包帯を金具で止める。

「どうしてあんな無茶を?」

「だって…冴さんがいなくなったら、誰が冴さんの家族を助けるの…?」

 母親に束縛され、自由などない。その中で、奏斗とその両親を目の前にし、祢音の家族に対する思いや欲求は、より強いものとなっていた。それが、たとえ自分のもので無かったとしても。

「幸せな家族…ずっと守っていくんでしょ?だから戦ってたんでしょ…?冴さんに…お姉ちゃんにもしものことがあったら…弟も妹も…悲しむよ」

 そして、祢音は知っている。デザイアグランプリのリセットのルールで、傷が癒えたとしても、心の傷が消えるわけでは無い。敗北し、血生臭い戦いの記憶を失ったとしても、幸せになるとは限らない。もし自由になりたいのなら、幸せを掴みたいのなら、最後まで自分の腕でもがかなければならない、と。だから祢音は、冴にも自らがデザスターであることを明かすつもりはない。幸福を、自らの力で手に入れるために。

「入っていいか?」

 カーテンが開かれた先には、浮世英寿が立っていた。片手にはブーストバックルが握られている。景和向けに設定されたシークレットミッションを見抜き、出し抜いて手に入れたのだ。ちなみに、もう一つのボーナスであるスロットは、景和へ渡った。

「バッファにバックルを奪われたそうだな」

 冴は英寿に返す言葉も無く、沈黙する。

「あいつを野放しにしておくと厄介だな…」

 バッファの一連の行動に、英寿は苦い顔をする。ロポのバックルが狙われたのも、途中でムスブが乱入したのも、全て五十鈴大智の発案である。かつて捨て台詞だと思われていた五十鈴大智の発言が、仮面ライダー達に思わぬ形で襲い掛かっていた。

「ナーゴ…君に紹介してほしい人がいる」

 そこで、バッファ対策に英寿が講じた方法とは…

 

 

 英寿が向かった先は、日本一と名高い都内の中華料理店。回転テーブルに並べられた逸品を挟んで席についたのは、クリーム色のタキシードに身を包んだ男、ニラムであった。

「デザグラのプロデューサー様に会えて光栄だよ」

「要件はバッファか…」

 ニラムは小皿に炒飯を山盛りによそい、テーブルを回して英寿へとよこす。

「ああ。まさかとは思うが、あいつの妨害もショーの…一部ってわけじゃないんだろ?」

 英寿はニラムに対し、バッファを始めとしたジャマト側の一連の動きの対処を要請する。その会話の中で、互いに料理へ舌鼓を打ちながらも、静かな空中戦が起きていた。

 英寿が運営に対し詮索すると、ニラムがそれを自然な流れで避け、逆に英寿の謎という反撃を放つ。流石にプロデューサー程の地位となると、口は堅い。チラミの方がまだガードは緩いだろう。

 そんな彼らの論争を、部屋の外から盗み聞きしている者がいた。青一色の中華風に、金色のバンダナを頭に結んだ橋結カムロだ。彼は杏仁豆腐が乗せられた盆を持ちながら、ドアの陰に潜む。"天才シェフの能力"を利用すれば、たとえ一流の店であろうと潜入は容易であった。むしろ、店側が喜んで迎い入れたくらいである。

「折角なら、やるとこまでやってくれよギーツ。君の、2000年を賭けた願いも、無意味に終わる……最後に勝つのは僕だ…!」

 嘘つきは、デザスターだけではない。

 

 

『TACTICAL SLASH!』

 ニンジャデュアラー・ツインブレードを交互に投げ、数体の運送ジャマトを挟み撃ちにして斬り伏せた。辺りにこれ以上敵がいないことを確認すると、変身を解除する。逃げ回る運送ジャマトを追いかけているうちに、市街地を離れてしまったようだ。見渡すと、築二十年は下らないだろう平屋の家屋が点在している、寂れた町並みであった。まぁ、空気はきれいだ。

 運送ジャマトが残した段ボールを確認すると、またしてもメロンの姿無し。

「もう爆弾魔ジャマトを探したほうが良いな…」

 冴さんの家に仕掛けられた時限爆弾のコードは赤、青、黄の三種だった。もしかしたら俺の時みたいに、二本コードを切断する必要があるのかもしれない。となれば、もはやその辺の運送ジャマトが答えを知ってる可能性は捨てて、爆弾魔ジャマトのアジトを突き止めたほうが早い。押収した爆弾は、スパイダーフォンで連絡すれば運営側が回収してくれるとツムリから知らされていたので、そのままにして立ち上がる。

「いた……奇遇だね。奏斗君」

「なっ…!新井!?」

 何の偶然だろう。長い通りの果てから、新井紅深が歩いて来ていた。しかも、先がピンクの三つ編みに、白と黒のロングスカート。落書きを残す時とは違う、新しい私服だろうか?デザグラの事を悟られまいと、慌てて箱を背中に隠す。

「何してるの?そんな珍しい服着て。お洒落さんに目覚めたの?」

 新井は口を尖らせながら、服を引っ張ったり突付いたりしてくる。くっそ…日は傾き始めてる。こいつに足止めされてる暇はないってのに…!

「んぁあ…悪いが、急いでるんだ…!今度埋め合わせするから……あぁ、じゃあな!」

「待ってよ」

 新井の静止を耳にせず、その場を立ち去ろうとする。今期のデザグラが終われば、新井の記憶も消えるのだ。なら、ここで多少不自然な動きをしたって……

「奏斗君さ!綾辻誠司って人、知ってる?」

「は…?」

 到底、彼女から飛んでくるとは考えられなかった問いに、足が止まる。何故今そんな話を…?綾辻…そんなやつのことなんて……いや、俺は知ってる。彼のニュースは、かなり世間を騒がせた。

「綾辻誠司……"ソニカ"の社長だろ。誘拐事件に巻き込まれて、死んでる」

 ソニカというのは、腕時計型のデバイスを開発してた、ベンチャー企業だ。初代社長たる綾辻誠司は、気骨に溢れた性格で、タレントとしても人気だった。

 しかし五年前、数人組の若者に誘拐され、その先で命を落としたとされている。死体は既に溶かされていて見つからなかった。後に逮捕された若者たちは、金が目的だったと主張するのみ。一部では、誘拐は他企業の依頼だの、綾辻誠司はまだ生きてるだの、根も葉もない噂が立ったものだ。当日中一だった俺たちには、センシティブな事件だったと記憶している。

「ふぅん……そんな人だったんだ」

「知らなかったのか?」

 新井の素っ気ない反応に、眉をひそめる。そっちから話を振ってきて、何も知りませんなんてあるか。

「まぁ、別に興味とか無かったし。ちょっと気になっただけなの。じゃあさ、郁真君と綾辻誠司が従兄弟ってことは、彼から聞いたりしたの?」

 彼女から聞いた言葉の意味がすぐには咀嚼できずに、何度も脳内をこだました。初耳に決まってるだろ。あいつと、綾辻誠司が……?

「なんでお前は知ってるんだよ」

「教えてもらっただけだよ。郁真君と、自然な会話の中で」

 どうもペースが新井に取られて、思考がまとまらない。こいつは何を企んでる…?考えを整理しようと新井から目を逸らすと、太陽が西に大きく傾いているのが見えた。そうだ、今はゲーム中。綾辻誠司の事は、後で詳しく聞けば良い。今はジャマトだ…!

「悪い。また今度」

 もう、新井に振り返ることは無かった。

 

             ※

 

 奏斗が去った後、モーンは震えながら口元を抑える。

 恐怖とも笑いとも取れない引き攣った表情が、西日に照らされて影を作った。

「これ…ドキドキできてるかなぁ…!学校に潜入するの…正解だったかも…!」

「いい加減、悪趣味すぎて欠伸が出るわぁ」

 視界の先に消えてゆく奏斗の背中。その間に、ベロバが割り込んだ。傍らには、五十鈴大智の姿もある。彼女らの姿を一目みたモーンは、胸焼けしたような不快な態度をとる。

「貴方に言われたくない。そっちこそ、死人を愛する気持ちはどうなのさ?」

「あら?あんたよりは数倍健全よぉ。あんたもこっち側に来れば、もっとゾクゾクできるんじゃない?」

 ベロバはそう言って艶かしくモーンの頬に触れる。モーンは強く拒絶し、レーザーレイズライザーの銃口をベロバの肩に押し当てた。

「私が求めてるのはドキドキなの。貴方の道楽に興味はない」

「だったらあんたも、ウダウダ悩んでないで、墨田奏斗とサポーターとして会いなさい。ドキドキしたいなら…ね」

 二人のサポーターが火花を散らす光景を、五十鈴大智は黙って眺めているだけだった。

 

             *

 

 ツムリからアナウンスが入った。ついに爆弾魔ジャマトが見つかったらしい。結果的に俺が運送ジャマトを追いかけていた地点と近く、アジトは郊外の工事現場だった。

 盛り土の裏から顔を覗かせ、アジトの様子を伺う。アジト、という触れ込みだから室内なのかと思っていたが、ガッツリ屋外だ。仮設のテントを二張りほど用意して、段ボールに爆弾を詰めている。当の爆弾魔ジャマトは、ビショップジャマトと見た目が酷似していた。いや、ベースにしていると言ったほうが正しいな。作業中の運送ジャマトに奇襲を仕掛けようと、ブラストバックルを手に取る。

 だが、ドライバーに装着しようとする直前で、腕を掴まれた。血流が止まるほどの強い力で握られ、バックルが手から落ちる。焦って顔をやると、快富がそこに立っていた。腕を振り払い、ブラストバックルを拾い直す。どこかでつけられでもしたのだろうか。

「快富?下がってくれ…もう時間が無いんだ」

「お前……俺、前に言ったよな。近道をしたら、大抵後悔するって」

 覚えている。俺と快富が友達になるきっかけを作ったのもあの時だった。椅子取りゲーム。ドライバーを快富に譲ってもらう過程で、彼から出た言葉だった。それが今になってなんで蒸し返されるのか。

「俺さ……誠司さんと会ったよ。おかしいんだよ、あの人は死んだはずだった」

 綾辻誠司と遭遇した…?ありえない、死んだ人間と再び会うなんて、それこそ道長くらいの特例でもない限り…そうか。少し考えれば、すぐにわかることだ。綾辻誠司は、元デザグラの参加者だ。そして命を落としジャマトとなり、ジャマトとして快富に接触した。ジャマーボール合戦の時と、仕組みは同じのはずだ。

 当の事情を知る由もない快富は、何時にないしおらしい様子だ。ジャマトと会って、何があったと言うのだろうか。彼は直ぐに事情を語り始めた。

「お前を止めろって、あの人に頼られた」

──────────────

 その夜、俺は誠司さんと会った。

「久しいなぁ…郁真…!」

 フードから顔を露わにした誠司さんは、五年前と全くと言っていいほど変わらぬ目つきの鋭さだった。違う、誠司さんは溶かされて死んだはずだ。生きてるなんて、ありえない。だけど、ありえないと考えるほどに、目の前のくっきりとした輪郭の様が、鮮明に表れていくようだ。息が荒くなる俺を気に留めていないのか、誠司さんは耳を塞ぎたくなるほどの大声で喋り始めた。こういうところ、同じだ。

「お前、見ないうちに派手になったなぁ!誠司兄ちゃんが居なくて、寂しくなったか!?」

 誠司さんはこっちの気持ちなど考えずに、ガシガシと頭を撫でる。誠司さんは従兄だ。ちゃんとした兄弟ではない。面倒見の良い性格だったからか、こうして兄のふりをしたがる。懐かしい気持ちになるのを必死にこらえて、後ずさった。本物なわけない。遺体は見つからなかったけど、葬式もやった、墓参りだって、何度も行った。誠司さんは死んだ、死んだんだよ。

「ま…お前が信じられないのも当然だよなぁ…でも、こうして生きてる…!誘拐された後、ライバル会社の重役に監禁されてたんだよ…!なんとか逃げてきたんだ。信じろよ…なっ!」

 だからなんだ。ワイドショーで言われてた失踪説っての本当だって説得したいのか。五年も監禁されて、よく正気を保っていられるよな。

「逃げられたのも、デザイアグランプリの運営に助けてもらったからなんだよ」

「デザグラ…!?あの、奏斗が参加してるやつか?」

 俺が口からデザグラの名を出すと、誠司さんは手を叩いてこちらを指差して来る。

「そうだ!デザグラさんには恩がある。俺にとっても、お前にとってもだ!だからな郁真、一つ頼まれてくれよ…!」

 誠司さんは、俺の肩を前からガシッと掴んだ。

「あの墨田奏斗とか言う参加者、いるだろ?あいつは裏切り者だ。他の参加者に手を出す前に、お前が止めろ。それが…お前が人生を挽回できる正しい道なんだ」

 俺が誠司さんの目を見ようとすると、もうそこにはいなかった。悪い夢でも見ていたのだろうか?でも、声も、しゃべり方も、間違いなく綾辻誠司だった。そして引っかかる。正しい道という言葉が。

──────────────

 郁真の話したことは、ジャマトとの接触と形容するには、あまりにも不可解な話だった。俺が、裏切り者…?デザスターの話をしていたのだろうか…?でも…残念だ。”俺はデザスターじゃない”。綾辻誠司の言っていることは、明らかな誘導で間違いなかった。

「五年前、誠司さんが誘拐される前に、俺と会ってたんだよ。そん時に言ったんだ。”お前は、お前が正しいと思う道に行け”って」

 郁真の声は震えていた。すでに死んだと思っていた大切な人の死を、今一度認識させられることは、どれだけ苦しいことか。

「その言葉と似たようなこと言われて、迷っちまった…!でも、」

 ジャマトの策略。生前の綾辻誠司の中でも印象深い言葉を、揺さぶりをかけるつもりで郁真に使ったのだろう。だが、郁真は既に覚悟していた。彼は、強い男だ。郁真は空を仰ぎ、叫んだ。

「俺は、家族を信じたい!でも、お前も信じたい!」

「郁真…!」

 郁真ははっきりと前を向くと、俺の胸を拳でドンと叩いた。

「お前が裏切り者なんて、あるはずがねぇ…!だから、俺は、誠司さんを裏切る!」

 背後から爆発音が響く。もう、他のライダーが戦いを始めていた。俺も行かなければならない。それに、郁真が俺を信じると言ったのだ。応えないでどうする。必ず、デザスターの正体を暴き、俺がデザ神になる…!

「また行って来るよ。お前を裏切らないために」

『SET』「変身!」

『DUAL ON!GREAT!BLAST!』

『Ready?Fight!』

 盛り土を一気に飛び越えて、戦地に足を踏み出す。ライダーたちは、とめどなく爆弾を投げてくる運送ジャマトの弾幕に手をこまねいているようだった。特に、ロポなんてバックルを奪われたせいでエントリーフォームだ。戦いにくいったらないだろう。だが、俺ならあいつらの弾幕を完封できる。俺は皆の前に立ち、ブラストバックルを再起動した。

「伏せてろ!」『BLAST STRAKE!』

 その場で大きく回し蹴りすると、ファンから発した風が風圧の壁を作る。その壁に掠め取られた爆弾たちは運送ジャマトに飛び返ってゆき、連鎖的に誘爆して運送ジャマトを大量撃破した。護衛を失った爆弾魔ジャマトはメロンの時限爆弾を抱えたまま慌てふためいている。やっぱりあいつがメロンを持ってたか…!

「やるなダパーン。後は任せろ」

 いつブーストバックルを手に入れたのだろうか、マグナムブーストフォームのギーツが俺の肩に体重を乗せてくる。肩を回してそれを解くと、レイジングソードを斜めに構える。

「ふざけんな。あいつは俺が倒す…!」

「フッ、面白い」

 ギーツの軽口を無視し、ブラストバックルの能力で爆弾魔ジャマトに飛びかかる。後ろからギーツもふくらはぎのマフラーから炎を放って接近していた。俺たちは同時に膝蹴りを胴体に命中させ、着地する。どうやらここは、ギーツと共闘をする流れとなったらしい。ギーツが精密射撃で両手首を撃ち抜き、爆弾魔ジャマトの手からメロンの時限爆弾を放させる。俺はそれが地面に着弾する前に下段蹴りで横方向に弾いた。その低い姿勢のままレイジングソードで三回ほど斬り込むと、ギーツが俺の背中を片手で飛び越え、ブーストの高火力の飛び蹴りを放った。爆弾魔ジャマトは大きく怯み、段ボールを重ねて置いていたワゴンに激突する。

「よし…!」

『FULL CHARGE』『REVOLVE ON』『TWIN SET』

『TAKE OFF COMPLETE!JET&CANNON!』

『Ready?Fight!』

 俺はベルトを反転し、最初からキャノンモードを選択し、爆弾魔ジャマトに向けてエネルギー弾を連射する。エネルギー弾は辺りの時限爆弾に誘爆し、爆弾魔ジャマトは自らが用意した爆弾の爆発に巻き込まれる。

「決めるぞ!」『ROCK ON!』

「任せろ」『MAGNUM!』

 俺は両肩のキャノンにエネルギーを収束させ、ギーツはマグナムシューターにマグナムバックルを装填。シリンダーを回転させ、待機状態に入る。

 照準を合わせ、爆弾魔ジャマトに必殺技を放たんとした瞬間。

「何するんだよ!」

 タイクーンの叫び声に、必殺技をキャンセルして振り返る。そこでは、タイクーンが所持していたらしいフィーバースロットバックルを、なんとあのロポが無理矢理強奪している様子が繰り広げられていた。プレイヤー一同に、困惑の空気が流れる。

「負けるわけにはいかないの」

「何のつもりだオオカミ君…!」

「まさか…君がデザスター!?」

 ヘリアルとタイクーンの追求に、ロボは淀みなく答えた。

「そうよ。ここであんたたちが脱落になれば、私がデザ神になれる!」

『SET FEVER!』

『JACKPOT HIT!GOLDEN FEVER!』

「家族は…私の手で守る!」

 スロットよりブーストフォームとなったロポは、全身に炎を纏い、俺の横を通り抜けてゆく。あまりの展開に、言葉に詰まる。冴さんがデザスター…?今まで不審な動きは無かったはず…いつだ?何を見落としていた……いや、そこまで完璧に隠せていたのだとしたら、なぜ"今カミングアウト"した?にわかに、冴さんが裏切り者の正体であるとは信じられなかった。

「私がケリをつける!」

『REVOLVE ON』

 ロポは脚側にアーマーを移動させ、霊長類最速の名に恥じない瞬足と連撃で、爆弾魔ジャマトを追い詰めてゆく。時にはフェイントを織り交ぜ、彼女の戦闘センスの高さを感じられた。

「ダパーン。俺たちは残りを片付けるぞ」

「っ………わかった。行こう」

『『REVOLVE ON』』

 ギーツに促され、キャノンモードからジェットモードに。ブーストフォームになったギーツは、ブーストライカーに搭乗。こんな大変な時なのに軽口を叩いている。

「本日のハイライトと行きますか、コ〜ンちゃん」

 ブーストライカーにそんなあだ名付けてたのかこいつ。モンスターバックルに(おやすみ…)なんて話してた事もあったし、ペットでも飼うのが好きなのか?まぁいい。

 ブーストライカーが先に発進し、すぐにジェットモードの高速飛行が追い越す。地面に着地すること無く投擲された爆弾を避け、翼で何体も同時に薙ぎ払う。やはり爆弾は厄介と言えど、それさえ完封してしまえばこっちのものだ。

『RAISE CHARGE!』『BOOST TIME!』

 俺たちは同時に必殺技を発動する。ギーツが前進しながら運送ジャマトを殴りまくっている内に、俺は背部のバーニアを点火。低空飛行で運送ジャマトの集団に迫る。

『BOOST GRAND STRIKE!』 

『TACTICAL RAISING!』

 ギーツがアッパーカットで打ち上げた運送ジャマトを、飛び抜けるのと同時に一刀両断した。これで運送ジャマトは全滅。そして、ボスにも終わりの時が来ていた。

『GOLDEN FEVER VICTORY!』

 ロポがクラウチングスタートの姿勢からスタートを決め、爆弾魔ジャマトに急接近する。ロポの膝蹴りから始まった連撃は、獲物に噛み付く狼の牙のように深く命中し、爆弾魔ジャマトを木っ端微塵に粉砕した。

 上空に停滞したまま、爆弾魔ジャマトの亡骸を確認する。確かに、二色のコードが見えた。

「青と黄色だ!」

 ギーツの声を聞くや否や、ロポとナーゴは弾かれるようにに市街地へ戻ってゆく。俺も向いたかったが、一度郁真の安否を確認しておくべきだと考え、地面に着地した。綾辻誠司に擬態したジャマトが、何を企んでいたのかも気になる。

「まさか、冴さんがデザスターだったなんて…」

 しゃがみ込んだタイクーンが、ぽつりと呟く。彼は信じているようだが、ギーツも薄々ロポはデザスターではないと察しているようだった。ロポがデザスターである素振りを見せたのは、誰かを庇うため…?冴さんが庇いたくなるような人間なんて、一人しかいない。ということは…?

「なぁ、デザスターって」

「困るよなぁ!お兄ちゃんを裏切るのは!」

 耳を塞ぎたくなるほどの大声が、工事現場一面に響く。はっとして声の方向を見ると、俺が変身した盛り土の前で、綾辻誠司が郁真の首を背後から締めていた。俺たちに対する脅しのつもりか、空い左手でナイフを郁真の腹部に押し当てている。

「動くなよ…俺の腕にかかれば!ここから一突きでこいつを殺せる…!」

 助けようと咄嗟に出た足が止まる。綾辻誠司の脅しに対してではない。彼の発言が、どうしても引っかかったからだ。タイクーンとギーツは、普通に一般人が高校生を人質に取っているように見えたはず。案の定、タイクーンは綾辻誠司の茶番に動揺したようだ。

「なっ…その子を離せ!」

「待ってくれ。あいつはジャマトだ」

 俺が静止すると、なんとギーツが情報を補足してきた。

「あぁ。あの男、過去にデザグラで退場した男と顔が同じだ。デカい声だったから、よく覚えてる」

 やっぱり。綾辻誠司は退場者だったか。だがどうする。一突きで殺せる程の"器用な動き"が詭弁じゃ無いとしたら。不用意な動きは郁真の命に関わる。

「ざけんなよ…」

 黙って綾辻誠司に従っていた郁真が、小声で呟いた。声は次第に大きくなる。

「ふざけんな……ふざけんじゃねぇよ!俺の知ってる誠司さんは、そんな事言わねぇ!放任主義で、胡散臭いところもあったけど……誠司さんはこんな俺を……肯定してくれた!その誠司さんを……馬鹿にするんじゃねぇ!」

「その辺にしておけ!」

 郁真の叫びに、一度は綾辻誠司が逆上するのではと焦燥を覚えた。だが、次いで声を荒らげたのは、綾辻誠司でも、ギーツでも無かった。気迫こそあるが、少し掠れている。老人の声だった。綾辻誠司の背後から、麦わら帽子を被った、農家のような風貌の老人が歩いてきていた。

「いつまで遊んでるんだ……!余計なことはするなっ!」

 突然の老人の登場に、誰も言葉が出ない。老人の怒りを汲み取ったのか、綾辻誠司はナイフをぽいと投げ捨て、郁真から腕を離した。俺は郁真に駆け寄り、肩を貸して綾辻誠司から後退りするように離れる。

「はぁ…わかったよアルキメデル。娯楽ももう終わりだな」

 綾辻誠司が胸の前で拳を握りしめると、水を被ったように全身が崩れ、アクエリアスキメラジャマトに変身した。ムスブの正体は、綾辻誠司に擬態した姿だったのか…!?

「また会おう仮面ライダー諸君」

 アクエリアスキメラジャマトは、アルキメデルと共に去って行った。俺たちは変身を解き、顔を見合わせる。

「あのアルキメデルとやらがジャマトを扇動してるらしいな」

「酷いな…家族の顔を利用して、一般人に近づくなんて」

「…………全くだ」

 この思いは、まだ俺の中で留めておく事にしよう。アクエリアスキメラジャマト……綾辻誠司……ムスブ。まだ、喉に小骨が刺さったような歯切れの悪さを感じていた。

 

             *

 

 郁真を無事に家へと送り届けた後、俺たちはサロンへ戻った。彼のメンタルも心配だが、乗り越えられると信じるしか無いだろう。郁真は強い、一度は綾辻誠司の死を乗り越えてるんだから。

 ゲームの方は、無事に爆弾を解除できたようだ。肝心な時に助けに向かえないで、申し訳ない。デザイア神殿に一足先に戻っていた橋結カムロと共に、冴さんと祢音を迎え入れた。ゲームをクリアしたというのに、デザスター疑惑のせいだろうか。二人の顔はどんよりしていた。

「皆さん。お疲れ様でした。投票締め切りとなります」

 ツムリに催促され、スパイダーフォンの投票アプリを開く。デザスターが誰なのかは見当がついている。でも、今じゃない。せめて、今回だけはデザスターを庇おうと嘘をついた、彼女に投票することにした。それが、彼女の思いに報いる事になると思ったからだ。

「デザスター投票の発表です」

 デザイア神殿に、結果が表示される。まさか、というかやはり、冴さんに六票入っていた。

「自分に投票したのか」

 英寿の問いかけを無視し、冴さんはデザイア神殿を去る。慌てて祢音が先を追いかけた。その冴さんの背中が、今はとても大きく見えた。

 家族の幸せ、そこにある愛を尊重した冴さんは、祢音に願いを叶えてほしかったのだろう。例えそれが、デザスターを残す結末になってしまったとしても。

 

 

 デザイアグランプリの放送が終わり、ビジョンは今回のハイライトを流し始める。まさかのバッファというダークヒーローの乱入が、オーディエンスを賑わせているのは紛れもない事実だ。

「バッファの支持率…7%、ね」

 制服姿の新井紅深は、読みかけの文庫本を鞄に詰め込む。冬休みはあと数日で終わる。彼女にとって、目近で推しに会える学校というイベント、とても気持ち高ぶるものであった。最低限の筆記用具しか入っていない筆箱を押し込もうとしたところで、彼女の手は止まった。

「モーンとして、奏斗と会う…か」

 その思いも、シワだらけの参考書と共に鞄に閉じ込められた。

 

          DGPルール

 

       どのライダーを応援するかは、

 

       オーディエンスの自由である。

 

          たとえそれが、

 

    ジャマトに寝返った裏切り者だとしても。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「ゲームマスターと戦うの!?」

─デザグラのために、─

「これで世界は、僕たちの物か…」

「面白くなってきたじゃなぁ〜い!」

─チラミ、動きます!─

「デザ神決定戦を所望する!」

─君は、誰?─

26話 発露Ⅵ:追跡!デザ神決定戦!
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