これまでの戦いで、二人の仮面ライダーが脱落した。一人は仮面ライダーナッジスパロウの五十鈴大智。そして仮面ライダーロポの我那覇冴。どちらもデザスターではなく、仮面ライダーナーゴ、鞍馬祢音がデザスターだった。確実な証拠こそ無いが、彼女で間違いない。
「いやぁー皆久々ぁ」
何より、ここからは立ち回りをより意識しなければならない。デザスターを下したうえで、支持率もトップにならなければデザ神にはなれない。今まで生きてきて、他人から良く思われようなんて、考えた試しが無かった。
「冬休みが終わって、僕ももうすぐ卒業さ」
それに、警戒すべき人間…嘘つきは一人じゃない。橋結カムロ…もしあいつが…
「まただね、奏斗君」
「うおっ!」
眼前に、いきなり広実須井部長が割り込んできて、思わず声を出してしまった。しまった。ついまたデザグラの事で考えふけってしまっていた。他の席についていた部員からも、同情の視線が注がれている。上遠と快富はデザグラを知っているが、事情を知らない新井からの目は冷たい。精巧なマネキンに見つめられているようだった。
「奏斗君はさ、疲れてるんだよ部長。からかうの、やめたほうがいいかも」
「いや、大丈夫だ。ごめん」
「あ、そう」
素っ気ない態度で、視線を手元に戻す。そして、まっすぐ肩にかかった茶髪をいじり始めた。機嫌でも悪いのか。爆弾ゲームで遭遇したときは、埋め合わせはすると一方的に逃げてしまったが、そのせいで気を損ねたのかもしれない。あのときの髪色は、先端がピンク色になるようにグラデーションがかかっていた。今それが無いってことは、染め直しでもしたのだろう。品行方正な生徒に見せかけるために。茶髪を地毛と言い張っているのは、せめてのもの抵抗か。
「ま、いいよ。今日は顔合わせだけだからさ。解散、解散」
部長に促されて、皆は席を立つ。俺もそれに倣い、部室を出た。学校がまた始まったので、新井が落書きをする頻度も減る事だろう。デザイアグランプリも、佳境に入ろうとしている。チラミの言う通りなら、このシーズンもいよいよ大詰めらしい。以前集められたときに言っていた。
「改めて、今の状況をおさらいするわよ~」
ゲームも始まっていないのに、デザイア神殿に集められたのは、今までのおさらいも兼ねてのことだったらしい。デザイア神殿を取り囲む瞳型のカメラの数は、今までよりも倍近くに増えていた。オーディエンスが増加したのか、新規視聴者にも丁寧なところが、如何にもエンタメ重視のチラミらしい。くねくねした動きが何時にも増して気持ち悪かった。
「最終戦をクリアした段階で、オ~ディエンスの支持率が一番高いプレイヤーがデザしぃんとなり、理想の世界を叶えられる。で、現在の支持率が…ドドン!」
俺たちプレイヤーは、ホログラムに映された支持率のグラフに見入る。明らかに、赤の割合が多いようだった。そして他に目立つのは、紫色のアイツ。
「ギーツ、27%。タイクーン、20%。ダパーン、18%。ナーゴ、14%。ヘリアル、14%。バッファ、7%」
「え…?なんで道長も支持率に入ってるの?」
「道長さん、デザグラにエントリーされてないのに…」
関係ないやつに票を取られてるんだ。真っ当に戦ってるこっちの身としては、冗談じゃない。復活してからの道長だって、ゲームに参加するわけでもなくただ暴れてるだけ。そんなやつを支持するのは、相当悪趣味なオーディエンスだけだろう。祢音と景和の戸惑いは当然と取れる。だが、俺の隣で仁王立ちしていた橋結カムロは、余裕の態度を崩さないようであった。
「いいじゃないか!願いのためなら手段は選ばず、そういう姿勢は嫌いじゃない。受け入れてやればいい。悪党は、正面から砕いてこそだ…!」
ホントに思ってんのかよそれ……彼の胡散臭い演技に、胸やけを起こしそうになる。
「バッファちゃんには、極上の公認サポーターがついたんですって…!面白くなってきたじゃな~い!」
テンションを上げ切ったチラミは、スンと冷静な口調に戻る。こういうところマジで気持ちが悪い。
「デザ神になるにはもう一つ条件がある。この中にいるデザスターがバレずに勝ち残ったら、デザ神の座を横取り出来る。つまり、最終戦の投票でデザスターを見破らなければ、支持率に関係なく…デザスターの勝ち…!ここが正念場よ。」
チラミはあからさまに祢音の方向を向いて語った。
「デザスターも、そうじゃない人もねっ」
チラミに吹聴された祢音は、鋭い眼差しを俺たちに向ける。英寿もただ、同じように睨み返しただけだった。この中でデザスターが祢音だと感付いている奴は、俺以外にいるのだろうか。また取り入られて、冴さんみたいに庇われるのも困るからな…
「次にジャマトが襲来してきた時が…運命の!勝負よ!」
かっこつけているのはいいが、この後ジャマトが全く現れずに、新学期を迎えてしまった。
下駄箱から、くしゃくしゃに踏みつぶしたスニーカーと履き替えた。高校生になった頃から使っているので、もう三年物になる。部長も卒業しちゃうし、ボランティア部はどうなるのやら。部長とか後任させられたら怠いな。デザグラだっていつ呼び出されるのかもわからないのに。まぁ今日は幸い午前授業だったし、ジャマトが来ても安心だな…もう一週間は出ていないが。
「チラミも面目丸つぶれだよなぁ…」
若干の哀れみも感じつつ、校門を抜ける。俺も、皆に伝えなきゃいけないことがあるのに、まだ会えてないわけだし。チラミと似たようなもんか。
と、街路樹が点々と植えられた道を歩く。秋は一面の落ち葉だったが、それも掃除されて、今は空しくから風が吹く。早く家路に着きたいとこだったが、打ち付けられたように足が止まった。街路樹ど歩道を隔てる、背の高いレンガに、新井紅美がちょこんと座っていた。いつの間に先回りされていたのか。いや、俺を待っているとか、思い上がりすぎだな。学校用の鞄も肩にかけてるし、ちょっと休んでるだけだろう。軽く挨拶して通り過ぎるか。
「お、じゃあな新井」
特に視線も合わせず通過する。返事は帰ってこない。ちょっと心に来るが、面倒事に巻き込まれるくらいなら…
「待ってよ。忘れたの、この前の約束」
「え」
ダメだった。新井はジャンプしながらレンガから降りると、くるくると髪をいじりながら顔を上げた。
「この前の埋め合わせ、するんでしょ。ちょっと付き合ってよ」
いつも冷徹な態度なのに、こういうところはちゃっかりしている。
*
新井に手を引かれて、学校から一番近いショッピングモールへとやってきた。彼女の目的は、ここら辺では一番多きい書店。年の暮れに合わせて様々な賞が発表されたようで、それを買い漁るつもりらしい。今年も、思想の強そうな文学作品や、若者に受けがよさそうな恋愛小説、流行った実写映画の原作本、インフルエンサーの自伝など、実に多くの本が目立つように平積みされていた。新井は俺にカゴを持たせると、すべて一種類ずつ放り込んでゆく。金銭面は全く考慮していないらしく、手に迷いが無い。
「いいのか、こんなに買って」
「うん。どうせ他のことに使わないから」
落書きのためのスプレー代はどう工面してるんだか。本は一冊ずつほど軽いが、塵も積もればとは正にこのことで、筋力の落ちている腕には苦しかった。ミステリー大賞を受賞したハードカバーの本が積まれたところで、ようやく彼女の手が止まった。
「せっかくだから、奏斗君が好きな本も買ってこうか?」
「は?いいよ別に」
悪いが俺に読書の趣味はない。素っ気なく突き放しすぎたのか、新井は珍しく不機嫌な顔になる。しまった、またやった。新井は俺に人差し指を向けながら詰めてくる。この状態の新井で、ここまで感情を出すのは珍らしい。
「いい?本は自分を作るのに大事な要素なんだよ。奏斗君って、今まで自分のせいで人を傷つけたこと、たくさんあるでしょ?」
「う。ま、まあ」
俺が黙ると、新井は満足したのか、文庫本コーナーに足を運ぶ。そして、棚の中からセピア一色のの表紙をなした小説を押し付けてきた。裏面の説明文を読むと、ミステリーらしい。これでどうやったら自分を作れるのだろうか。彼女のセンスは伺い知れないが、こんなに本をかき集めているなら間違いない、か?
「行こうか、その本ついでに買ってあげるから」
さっきまでは怒っていたはずなのに、レジに振り返った新井の口調は、なぜか爽やかだった。
奏斗が不在のサロン。プレイヤーにツムリを含めた五人でババ抜きをする中で、一人チラミは抜け殻のように地面に横たわっていた。
「なぁ、ゲームマスター大丈夫なのか?」
「もう何日もジャマトが表れていないので、腐っていしまいました」
景和の持ち札からカードを引きながら、ツムリは答える。ウキウキでババ抜きを楽しむツムリは、運営の業務から解放されて随分と爽快な気分のようだ。ジャマトがいつ町を襲撃するかは完全に向こうの気分なので、こうなれば運営は受け身になるしかない。普通ならジャマト側が強力な個体を育てているのではと思案すべきであるが、チラミはデザグラが盛り下がるほうが重要なことらしい。
「ジャマトが来ないと、ゲームが始められない……か」
「このままじゃデザ神が決まらないもんな」
「まぁ、世界が平和なのは、いいことじゃん!」
明るく両手をあげる景和に、英寿と祢音は笑顔でかえした。エンタメにこそ振り切っているが、デザイアグランプリの本質は世界を守ることである。
「よくなぁい…ジャマトを……もっとジャマトを~!」
「むぅ…まぁゲームマスターの言うことも一理ある」
それまで無言でカードをいじっていた橋結カムロが、ようやく口を開く。
「もしこのままジャマトが来ずに、デザグラが打ち切りになってしまったら?」
橋結カムロの想像に、プレイヤーの表情は硬くなる。今のデザグラは、オーディエンスの人気で成り立っていたことが分かっている。オーディエンスが求めているのは、仮面ライダーの命を賭した戦い。ジャマトが消失してしまえば、ただ一般人のシェアハウスを垂れ流されているだけの、退屈極まりないものになってしまう。そのような事態になれば、オーディエンスは別の刺激を求めて新しいコンテンツに移動するだろう。それは、プレイヤーにとっても望んだものではない。
「本物の愛も、世界平和も、願いのために戦ったこれまでの努力は無駄になる…それはこっちも願い下げだ…!」
カムロはトランプを机に叩きつけ、地に寝そべるチラミに向けて立ち上がった。
「ゲームマスター…!デザ神決定戦を所望する!」
チラミは、サングラスの片側を開いた。
「面白い、君の考えたとおりになってきたな…!」
運営側の動向を把握したアルキメデルが、にやけ顔で五十鈴大智に賛美の言葉を贈った。出現の途絶えたジャマト。それもすべて、自称参謀の大智が考えた、デザグラを乗っ取る策である。
「痺れを切らしたゲームマスターはどうすると思う?答えは…?簡単に彼の要求を受け入れる」
思惑入り混じる新シーズンは、プレイヤーにも運営も想像できない形で閉幕を迎える。
いよいよツムリに呼びだされ、プレイヤーはようやく腰を上げた。集められた広場には、ジャマトどころかジャマーエリアすら展開されていない。
「これより、デザ神決定戦を始めます!」
「あの…それはいいんですけど、奏斗君は…?」
横並びになった四人のプレイヤー、そこに仮面ライダーダパーンこと、墨田奏斗の姿が無かった。デザ神決定戦が始まろうとしているのに、どこをほっつきまわっているのか。ダパーンの支持率はトップでもないし、最後のアピールチャンスを逃せばいよいよもってデザ神に手が届かなくなる。オーディエンスからの非難の声が上がることは間違いない。運営はそんなことを毛ほども心配していないようである。
「奏斗様はサポーター様のご意向で、しばらく不在となります」
「サポーター…?」
英寿が眉をひそめて反応したが、ツムリは声色を変えずに最終戦の説明に移った。
「ジャマトは現れなかったので、ゲームマスターが自ら敵役として参加します!」
ツムリの手のさす方向、階段を介した高台にチラミが立っている。ギロリと同じ、ヴィジョンドライバーを装着して。
「手加減は、ナシでいくわよ」
『GLARE2 LOG IN.』
親指で生体認証を終え、プロビデンスカードを手に取る。そして、思いっきりのけぞって叫んだ。
「っしゃあぁ!変っ、身っ!」
『INSTALL.』
プロビデンスカードをスラッシュするのは、チラ見ではなくガン見で。スラッシュを終えると、チラミの体がピクセル状に組み変わり、形成された五つのビット・ヒュプノレイから紫と水色のレーザーが照射。モノクロの鎧が装着され、ヒュプノレイが合体すとともにエネルギーが行きわたり、新たなゲームマスターのライダー、仮面ライダーグレア2へと変身した。
『I HAVE FULL CONTROL OVER,GLARE2.』
「勝負…!」
「ゲームマスターと戦うの!?」
これまでのグレアとは異なり、グレア2の頭部や各部のヒュプノレイは赤いノイズが入っている。かつてダパーンが会敵したコラスの変身するグレア3は、この中の誰も目撃していないので、グレア2の姿がより新鮮に見えた。さらに2という名。カムロ以外の三人は、グレアの強さを知っている。三人で協力し、今もなお最強戦力のコマンドバックルを二つ投入しても、まともにダメージを与えられなかった。そのグレアが2になったのだ、前よりも強化されていると見て間違いない。グレア2との直接対決を覚悟し、プレーヤーたちは身構える。グレア2が最初に取った行動は。
「へへへっ!」
「い~ち。に~い」
逃走一直線。始まるツムリのカウント。あまりの突拍子の無さに、全員があんぐりと口を開く。ツムリのカウントが進み、グレア2はよたよたした足取りで離れてゆく。仰々しい雰囲気で始まったデザ神決定戦の気の抜け具合に、だれも動き出すことができず、グレア2の背中が視界から遠ざかってゆく。その中で橋結カムロ、彼だけが口元を隠しながら笑っていた。
「やっぱり…ゲームマスターが持っていたか」
「きゅ~う。じゅう!これよりデザ神決定戦・鬼ごっこゲームスタートです。逃げたゲームマスターを…」
「御託はいい!グレア2を捕まえたやつがデザ神!そうだろう!」
『SET FEVER!』
ツムリのナビゲーションを遮り、待ってましたとカムロが階段を駆け上がる。
「変身!」『HIT!BEAT!』
突如ヘリアルの取った独断行動に、ツムリは膨れ顔になり、早口で残りのルールを言い放った。
「ゲームマスターを捕まえた人がデザ神です!前後半一時間ずつ!妨害するライダーもいますのでご注意を!」
まだ変身していない三人を狙い、グレア2のコントール下に置かれたライダーたちが二体、攻勢を仕掛ける。一体はハンマーバックルを、もう片方はモンスターバックルを装備している。「なんでこんなことしなくちゃいけないんですか!?」と反発しつつも、景和はモンスターグローブの一撃をかわす。ツムリはすでにサロンへ去ってしまったようだった。音一つ立てず。運営ライダーを前蹴りで退け、英寿はマグナムバックルにて変身した。
「やるしかないか……変身!」『MAGNUM!』
ギーツの後を追い、景和と祢音も変身する。
「「変身!」」『NINJYA!』『BEAT!』
運営ライダーの機械的な攻撃に対して、三人は連携して迎え撃つ。対して、へリアルは単独でグレア2に勝負を挑んでいた。
『METAL THUNDER!』「くらえ!」『TACTICAL THUNDER!』
ビートアックスを爪弾き、青白くスパークする電撃を発射。しかしこれをグレア2は水中を漂う昆布のような、クネクネした動きで避ける。ヘリアルはグレア2の戦闘スタイルを何となく察していたようで、ビートアックスの刃に帯電させ、近接戦へと切り替える。グレア2の動きはふざけているとしか考えられないが、回避能力は本物で、ヘリアルの連続攻撃をすべてギリギリで避けていった。
「やるな、ゲームマスターって肩書は間違いじゃないらしい!」
ヘリアルがビートアックスを左下から弧を描くように振り上げ、グレア2は右ひじと右ひざの間にこれを挟んで防御する。
「やるわね。今まで猫ちゃんでも被ってたのかしら?」
「サポートのほうがオーディエンスの支持率を稼げると思っていた。焦ってるんだよ。ポイントが足りないもんで!」
力が拮抗した状態から、ヘリアルはそのまま押し切るのではく、ビートアックスを強く引き相手の体制を崩す。そして、前傾姿勢に崩れたグレア2の首筋を狙い再びビートアックスで斬り上げる。グレア2も抵抗し、上半身を後ろに逸らせることで回避してしまう。ヘリアルはまだ諦めずに、フェンイントを交えながらも攻略の糸口を探らんとする。
「でも、少し本気になったからって、やられるほどの私じゃないのよ!」
『HACKING ON CRACK START 』
グレア2がヴィジョンドライバーの指紋認証に今一度触れると、まだ稼働していなかった胸部のヒュプノレイが展開。ヘリアルにとって不意打ちとも言える形でヒュプノレイが分離され、怯んだ所をレーザー攻撃で退けられる。その合間にヒュプノレイは柱の陰で待機していたGMライダーと合体。グレア2の支配下となる。
「さらに、いくわよぉ」
グレア2は両手に持ったバックルを次々ヴィジョンドライバーに読み込ませ、GMライダーを強化する。
『SET UPGRADE.REMOTE CONTROL BLAST.』『SET UPGRADE.REMOTE CONTROL CHAIN ARRAY.』
「ちっ!」
上半身にブラストバックル、下半身にチェーンアレイバックルを装備したGMライダーは、背部からのガス噴射でヘリアルへ急接近。気流でチェーンを操作し、ヘリアルのビートアックスを巻き取り、一度攻撃の手を奪う。武器を奪われた瞬間、ヘリアルは後方にターンしつつ即スロットを回し直し、装備をリセットする。引き当てられたのはニンジャで、ニンジャデュアラーをツインブレードに分離して、GMライダーのチェーンアレイの投擲による攻撃を、真っ向から跳ね返す。その間に、グレア2は逃走してしまった。
建物の屋上に避難したグレア2は、設置された定点カメラにアピールする。
「どんな茶番だ!と思っているそこのあなた!このゲームが終わるまでに、プレイヤーはデザスターが誰かを投票する。デザスターを見破れるかどうかが、このゲームの焦点よ!」
ゲームマスターの言葉は、確実にオーディエンスに届き、盛り上がりは最高潮を見せる。
そして、言葉を受けとっている人間はもう一人いた。
──────────────
『どこの茶番だ!と思っているそこのあなた!』
「デザ神決定戦…!?そんなアナウンスなんて無かったぞ……!」
とある喫茶店の通路の陰で、墨田奏斗は何度も瞬きを繰り返した。スパイダーフォンより、チラミの仕掛けた罠とGMライダーに悪戦苦闘する仮面ライダーらの様子が再生されている。プレイヤーは本来、サポーターを介さなければデザイアグランプリを視聴できない。それがなぜか、外出中の彼のもとへ届いている。ツムリからの呼び出しがなされなかった彼が、デザ神決定戦が開催されている事実を知るなど、できるはずがないのだ。
俺は、新井の優雅な休日に振り回されているはずだった。鞄に忍ばせていたドライバーにIDコア、バックルに異常はなく、脱落扱いにはなっていないようである。支持率も英寿と景和に続いて18%だったし、サポーターのモーン以外にも俺が戦うことを望んだオーディエンスがいたはずだ。それがなぜ今?ここまで来てハブられている?画面をタップし、シークバーを操作する。この中継が始まった最初の時間まで、映像を巻き戻した。
俺がこうしてデザグラを視聴できている理由は、一通のデータがメールにて届いたからである。差出人は不明。開いてみると、デザイアグランプリの本放送へのアクセス権が仕込まれていた。知らぬ間に、スパイダーフォンのアプリの中にデザグラを視聴するアプリもインストールされていて、最近流行のサブスクかのような出で立ちである。だが、過去のシーズンを視聴するには、さらなる権限が必要なようで、俺に与えられたアクセス権だけでは無理だった。そして、どの会員でも閲覧できるのが、最新話とでも言えば良いのだろうか?デザ神決定戦の生中継だったのである。すでに、同時視聴率は億を超えていた。
『奏斗様はサポーター様のご意向で、しばらく不在となります』
サポーターの意向だと?サポーターなんてそもそも会ったこともないし、芹澤にも不審な動きは見られなかった。ツムリは景和にそう説明したが、全く心当たりがない。芹澤に直接聞いてみるか?もうそれしかないだろう。考えるよりも早く、芹澤に電話を飛ばしていた。一回目のコールで、芹澤は電話に出た。急いでスパイダーフォンを耳に当て、口元を隠す。まだ公共の場であることを覚えていられるくらいには、冷静さが残っていた。
「芹澤、デザ神決定戦ってなんだよ?なんで俺が呼ばれてないんだ?サポーターの意向って?」
『先輩、なんでデザ神決定戦のこと知ってるんです……?まぁ、言葉の通りです。モーンは、貴方が心配なんですよ、きっと』
「きっとって…」
芹澤の言葉は投げやりで、まともに取り合うつもりが無いようである。電話は一方的に切られてしまった。新井には悪いが、ここは一旦切り上げてサロンに向かおう。芹澤とモーンが答えるつもりがないのなら、ツムリに直接聞いてみるしかない。鞄をまさぐって、デザイアドライバーに手をかける。しかし。
「奏斗君。席取れてるよ、早く早く」
通路を曲がってきた新井に背中を止められた。この前無理やり振り切ってしまった手間、今更逃げるのも難しい。彼女にストレスを溜めてしまえば、落書きが増えて、ボランティア部の拘束時間が増えてしまうかもしれない。ここを立ち去るのは得策じゃなかった。
「わ、悪い。今行く」
前半戦は無理だが、後半戦は後日だろう。もう三時を回っているし、今日は耐えるしかないか。諦めて、新井が取ったという席に着いた。荷物が多くて店員が配慮してくれたのだろう。正方形の四人掛けのテーブル席に、新井と向かい合うように座った。テーブルには大量に本が積み重なっていて、モーンのオーディエンスルームの様を思い出して頭が痛んだ。そのうち、俺が中央に置かれたメニューに目を通していると、店員が呼ばずとも来てくれたので、適当にホットコーヒーを注文した。新井はこの時期に合わずアイスココアだった。
「本の感想聞かせてよ。それ、お母さんのお気に入りだったんだ」
「そうか……すぐに読むよ」
山の頂点に重ねられていた例のミステリー小説の最初のページを開く。簡素なキャラクター紹介と、名も知らぬ哲学者の名言の後に、本編は始まった。(こんなことしてる場合じゃないんだけどな…)と思いつつも、目はすらすらと文字をなぞり始める。流石は新井おすすめ……新井を虐待していた母親おすすめの小説らしい。これを読めば、新井が非行に走ったルーツがわかったりでもするのだろうか。
主人公は二人。音楽家のチェリストと、無職同然のライター。どちらも女性である。音楽家の参加したオーケストラで本番中に殺人事件が起こり、正反対の二人が別の視点から真相を追うという内容だった。ライターといい時代設定は少し古臭いが、今でも十分通用しそうな内容だった。出版されたのは俺が生まれるよりも前で、新井の母親が愛読書にするのも頷ける……が、デザ神決定戦のことがずっと頭を支配していて、全く内容が頭に入ってこない。心の中で音読した文字が、情景を作っていかない。すべて後ろにすり抜けていくようで、ただ文字を撫でるだけの惰性の読書になってしまっていた。
俺はこんな体たらくだが、あいつら…上手くやってるだろうか?
──────────────
グレア2を見失い、GMライダーの相手をする四人の仮面ライダー。フィールド内にはチラミの設置した罠が張り巡らされおり、バリエーションに富む。スイッチ式の地雷、滑るバナナの皮、滝のように降る水。そのすべてにタイクーンは引っ掛かり、なかなかに情けない姿を晒していた。他のライダーは罠をスレスレで避けてゆき、神経をデザスターの存在へと向ける。デザスターの秘密のミッション。それが実行される瞬間、デザスターは不自然な動きを見せるはずである。デザ神になりたければ、尚更。
(やるしかない……デザ神になるのは私だ……!)
そう、ナーゴは焦っていた。デザ神決定戦の直前、彼女に示された指令。『次のゲームでプレイヤーを妨害しろ。失敗すれば、君の願いが叶うことはない。永遠に』。チラミの揺さぶりに乗せられ、彼女は結果を急いだ。一度達成さえすれば、後は味方のふりをすれば良い。安易に、その安心感に走って彼女は行動に移した。
「見つけた!あっちにゲームマスターがいる!」
GMライダーを振り払い、建物の陰を指差す。死角になっている部分が一瞬見えたと言い訳すれば、一応の理屈が通る。彼女の誘導にまんまと乗ってしまったのは、罠に連続ヒットして混乱していたタイクーンだった。
「くっ……俺が捕まえるぅっ!」
タイクーンはニンジャデュアラーを拾い、ナーゴの指差す方へ一直線に走る……当然そこにも罠があり。上から落ちてきた檻に囚われるタイクーン。自動的に変身が解除され、景和はただ困惑するのみ。ギーツとヘリアルは、ナーゴの不自然な誘導に違和感を抱いていた。
「うん…えっ?」「ほう…」
ナーゴと交戦していたGMライダーは持ち場を離れ、どこからともなく墨がたっぷりついた筆を取り出す。
「えっ!ちょ……ちょっと!ああああああああ!」
当然筆は景和へと向けられ……
*
ホットコーヒーとアイスココアが運ばれ、ようやく一息ついた。何度も居ずまいを正しながらも、ホットコーヒーをすする。そろそろ一時間が経つ頃で、前半戦も終了したはずだ。オーディエンスに媚びまくっているチラミの事だから、前半戦だけでデザ神が決まることは無いと薄々察していたので、途中からは冷静に本に集中できた。まぁ、参加できなかったせいで支持率が下がったのは解せないが。
「お客さん、増えてきたね」
読み終わった本をまた一つ重ねた新井が呟いた。読むの速…。
「ほんとだな。気づかなかったよ」
俺の背後にも、新井の前にも、あらゆる席に客がついていた。昼の休憩にも、夜ご飯にもならない微妙な夕方の時間なのに、かなりにぎわっている。新井の後ろに座った長身の男は、俺たちが来た時からいたが、紅茶一杯で何時間もくつろいでいる。呑気なもんだ。小説の方はまだ百ページも進んでいない。どこでチェリストとライターの視点が入れ替わったのかわかりづらいのだ。周辺人物の発言を見て、ようやく理解できる。その度に読み返して、何回も同じページをループしていた。読み終わるのに数日かかるぞ…これ。
「それ、おもしろい?」
「……?まだ最初だから」
まさかこの段階で感想を求められるとは。見てわからんか、まだ全然進んでないんだぞ。
「ごめん。私のお気に入りが、奏斗君からどう評価されてるのか気になって。そうでしょ、聞いてみなきゃ分からない」
「俺を連れ回したのは、それが聞きたかったのか?」
俺が本から顔を上げて問いかけると、逆に新井は新しい本に伸ばしていた手を止めた。
「……ううん。どっちかって言うと、奏斗君のことを知りたかった。いつもはなあなあで接してるけど、ふとしたきっかけで、全てを敵に回しちゃう。そんな危うさが奏斗君にはある。普通、現代人はもっと冷静だよ。自己嫌悪したり、諦めたり。君はそれから逸脱してる。君と一緒の所にいれば、その複雑なドキドキを知れるんじゃ無いかって」
くだらない好奇心だ。その興味のせいで、デザ神決定戦に参加し損ねたなんて、ふざけてる。もう、彼女の遊びに付き合う道理は無い。本を閉じて、席を立とうとしたその時だった。新井の携帯が鳴った。新井はそこに座ったまま、耳に携帯を押し当てる。立ち去るタイミングを失って、本の表紙を眺めるふりをしながらただぼうっとするのみだった。
「なに?今忙しいの………わかった。そっち行くから待ってなさい」
電話先は誰だろうか、口調も普段のペースから崩れていて、聞いたことのない喋り方だった。彼氏にそんな話はしないだろうし、腐れ縁…それとも兄弟か?そんな話は耳に挟んでないが…。ふと、新井と同じ好奇心に吞まれていることに気付く。しまった。結局は同じことを考えてしまっている。さっきまで心の中で彼女を罵倒していたのに結局これだ。嫌気がさす。
「ごめん。用事ができた」
新井は電話を切ると、学校用の鞄に本を詰め始めた。どこにそんな容量が残っていたのか、苦も無く詰め終わり、軽々と肩にかけた。知らなかったが、かなりパワータイプらしい。
「お支払いは奏斗君やっといてよ。口付けてないからそのココア。いつもお金落としてるし、チャラにしてよね」
「いつもってお前…!」
本買ってもらったのが最初だろ。そう言う前に、新井はそそくさと店を出て行ってしまった。まぁ、この本は新井持ちだったし、甘んじて受け入れるしかないな。すっかり席を立ち去る気も抜けて、深く腰を落とした。冬にアイスココアなんか手を付ける気にもならず、最初に置かれた場所のまま放置することにした。店内の暖房のせいでグラスに結露が起きていて、殊更手は遠のいた。
「俺も帰るか…」
冷めかけのホットコーヒーを一気に飲み干し、テーブルの端に置かれた伝票を抜き取る。だが、またそこで足が止まった。
「いや~外寒かったね」
「もう春も近いはずなんだがな」
カラカラと音を鳴らしながら入店してきた三人。デザグラの仲間、英寿、景和、祢音の三人だった。
「あいつら…!」
「あっ!ねぇねぇ!あそこに奏斗いるよ!」
身を隠すよりも早く、祢音に居場所がバレた。まだ帰れそうにはなかった。
コンパクトを傍らのポーチにしまった祢音は、スパイダーフォンで支持率を確認する。
「奏斗と景和の支持率…すごい落ちたね」
「それを言うな…」「それ言わないでよ…」
祢音の指摘に、俺と景和はがっくり肩を下げた。前半戦に参加できなかった俺は元より、景和は相当情けない体たらくだったらしい。顔に残った落書きがそれを物語っている。両目に書かれたマルとバツの文字が、まるでタヌキのようだ。落ちに落ちた俺たちの支持率は、健闘したらしいヘリアルとナーゴに回っている。くそ、新井に捕まりさえしなければ、何を振り切ってでも参加したのに。
「祢音ちゃんがあんなこと言うからこんな目に…」
それは落書きされた目のことか?それとも支持率が落ちたことを言ってるのか?一応話の流れは理解している。例のアプリで、前半戦のハイライトにこっそり目を通させてもらった。祢音が早まったせいで、景和は罠に引っかかった。本当に勘違いだったか怪しいが。
「だからごめんって。あそこに罠があるなんて思わなかったんだもん」
「そうだけどさ……」
二人のやり取りを横目にアイスココアをストローで吸う。その冷たさが冬場には辛く、一口で満足した。
「フッ……まるで彼氏彼女の痴話喧嘩みたいだな」
同感。ただでさえ気分が悪いのに、なんてもん見せやがる。
「彼氏じゃないから!」「彼女じゃないから!」
二人は過剰に反応し、立ち上がりながら英寿に抗議した。祢音が机に手をついた弾みに、コンパクト等を入れた化粧ケースが落ちて散らばる。そうやって全力で否定する所が尚のことそれっぽい。今の大声でかなり他の客に目立ってしまい、二人はおずおずと席に着く。景和が散らばった化粧品を拾うのを手伝っていた。
「それにしても。前半戦、どうしたんだダパーン。サポーターの意向だったそうだが、一緒に遊んでたのか?」
俺の左側に座った英寿はティーカップを持ちながら、俺の手元にある空のマグカップと、アイスココアに目を落とす。
「知るかよ。デザ神決定戦のアナウンスがされてなかったんだ。一緒にいたのも同級生で、サポーターじゃない。我儘に振り回されて、抜け出せなかった。そもそも、サポーターには直接会ったことないんだよ。できたら問い正してる」
「そうか」
それ以上英寿は追及しない。俺のサポーターを名乗っている奴。どういうつもりだ?俺の私生活が見たかったわけでもあるまいし、俺をデザ神にしたくないのか?英寿が聞いてくれたおかげで、自然と話はデザ神決定戦の話題が中心となる。
「デザ神決定戦…なんだよあれ。ジャマトが出なくてチラミがご乱心か?」
「それもあると思うけど…カムロさんがお願いしたんだよ。このままじゃデザ神になるチャンスが無くなるって」
「カムロが…?」
向かいの祢音の説明を受けて、益々焦る気持ちが出てきた。デザ神決定戦を…あいつが。
「……橋結カムロは信頼しないほうがいい」
アイスココアを見つめながら、俺はぽつりと呟いた。景和は彼を信頼していたのか、困惑の色を見せる。
「それってどういうこと?カムロさんがデザスターってこと?」
「いや、そうじゃないな」
英寿が俺よりも先に景和の考えを否定した。視線は景和ではなく祢音に向いている。英寿も彼女がデザスターだと疑っているみたいだが、それはまた次の話だ。俺は、今シーズンで積み重なっていた彼への不信感を語った。
喫茶店で現地解散し、祢音は一人住宅街を歩いていた。夕陽を川が反射し、美しく煌めいている。
その光景を眺めながら橋の上を歩いていたところで、どっと疲れがきて柵にもたれかかった。
「はぁ……英寿騙すの……しんどかったぁ…奏斗も景和も結構鋭かったし、危なかったぁ」
「そこのお嬢さん。忘れ物」
声の方向を見ると、私の後ろに座っていた背の高い人が、コンパクトを持っていた。あの時拾い損ねてたんだ。前髪で顔はよく見えないけど…けっこうイケメン?
「あっ…ありがとうございます…!」
彼に駆け寄ってコンパクトを受け取ろうとすると、すっと手を引かれた。
「さっきのはいただけないな」
「えっ…?」
「何の話か知らないけど、誰かに疑いをなすり付けようとするだなんて」
聞いてたんだ。私たちの話。デザグラの事は話せない。ここは誤魔化すしか。
「っ……これには深い訳がありまして…」
「まぁ、家出しようとしてるわがままな親不孝者の時点で、お察しだけど」
なに…感じ悪っ。祢音TVのこと、知ってるんだ。落ち着いた雰囲気の喫茶店だと思ってたのに、盗み聞きされて悪口まで言われるなんて、気分最悪だ。
「なんなんですか、いきなり」
「祢音TVを見てるすべての人が君のファンだとは限らない。自分が危なくなったら他人に…そんな調子で他人に不幸をばらまいてたら…いつか自分に返ってくるぞ」
そんなこと…自分でもわかってる。この何年間で、自分で幸運を掴もうと努力してきた。今はデザイアグランプリで戦うことが、一番自分でできることなんだ。ここまできて、引き返すなんてできない。
「ファンじゃないなら、ほっといてください」
コンパクトをはたくように奪い取って、私は彼の横を通り過ぎて行った。
電話先の彼が指定した場所は、閉店準備をしているショッピングモールの屋上駐車場だった。客はすべて退散して、がらんとした場内に彼だけがぽつんと立っていた。私は鞄からレーザーレイズライザーを取り出し、歩きながら自分の体に銃弾を撃ち込んだ。レーザーレイズライザーの能力で見た目がリデザインされ、制服姿から、ピンクの三つ編みのモーンの姿に変わる。
「彼とのデートは楽しかったかい?」
「茶化さないでジーン。私今、機嫌が悪いの」
足元に鞄を投げ捨てると、買ったばかりの本が雪崩のように散らかった。せっかくの奏斗と話せる時間だったのに、ジーンに邪魔された。これでくだらない理由だったら、絶対に許せない。
「ダパーンを前半戦に参加させなかったのはどういうつもり?後半戦もそうするのかな」
「ジーンが呼びださなかったらそうしてた。今のデザグラはくだらないもの」
「素直じゃないなぁ。君だって楽しんでたくせに…まぁいいよ。ジャマトの不審な動き、君も気付いてるだろ」
ジャマトが現れない。奏斗を前半戦から弾いたのも、そのためだった。きっとジャマト陣営はこれから、奏斗を仲間にしようとあの手この手で狙ってくる。脱落扱いにできればそれでよかったけど、サポーターの権限だけじゃそこまでできなかった。でも、奏斗をデザグラから爪弾きにするより、良い方法をジーンから提案された。ジャマト陣営を直接殴りに行くことだ。
「当然。奏斗のためならなんでもするよ。奏斗の邪魔をする雑草の駆除もね」
「その言葉を待ってた。ジャマトの動きは、僕が探っておく」
奏斗の邪魔をするやつは、私が許さない。ジーンだって、ギーツのために動いてるはずだ。これは、利害の一致。ただそれだけの話だ。
*
翌日の朝。ジャマーガーデンはジャマトの雄たけびでごった返していた。この作戦が成功すれば、自分たちの世界を創世できる。高ぶった思いは、ガーデン全体へ広がっている。デッキから上半身を乗り出して、べロバは道長へ語り掛ける。道長のジャマト化はかなり進行し、左手の甲までに浸食が広がっていた。
「ふふふっ。狙い通りの展開になったわねぇ」
「ああ。僕の予測通り、あのゲームマスターならこうなると思っていた」
作戦が成功し、大智は満足げだ。デッキへつながる階段を下りたムスブは、大智の肩を叩いた。
「おいおい。俺が誘導したからだろ…?忘れてもらっちゃ困るなぁ」
「そんなことはどうでもいい。俺は俺のやり方で願いを叶えるだけだ」
道長は彼らに目もくれず、デザイアドライバーを装着する。
それに大智も、ムスブも倣ってデザイアドライバーを手に取った。
デザ神決定戦の後半戦が始まった。後半戦の舞台は、土管が並べられた作業場である。
ナーゴのビートアックスの刺突をグレア2が受け止め、ウェーブダンスのような動きで跳ね返す。タイクーンの連続攻撃はビンタですべていなし、ギーツの射撃は地面をのたまうウナギの動きで全部避けた。なんだこれ。
「おい、これお遊戯会じゃないよな?」
「違うに決まってるだろう!さ、早い者勝ちだ!」
ヘリアルはレイズプロペラを装備し、グレア2へ突撃してゆく。今まで彼のことをサポートタイプだと思っていたが、それはオーディエンスの好感度を稼ぐための行動だったようだ。本当はゴリゴリの突進タイプで、武器の扱いがとにかく上手い。俺も負けてられるか。マグナムシューターをハンドガンモードに変え、至近距離での一撃を狙う。捕まえるのは今じゃない。機会を待たねば…!
「いいわよ、かかってらっしゃい!」
スライディングをしつつ、ガス噴射で加速する。どんだけ銃弾を避けても、近づけば関係ない。その思いでグレア2に地を這うような弾丸を連続発射する。が、今度は水揚げされた魚のように跳ねて避けやがった。滞空時間が伸びて一発も当たらない。
「ホントに気持ち悪ぃ!」
「失礼しちゃうわね!」
足首を曲げてガスの威力を操作。一気に浮かび上がり、踵落としをグレア2の背中にくらわせる。今度は命中し、一気にダメージ…!かと思ったが、グレア2は白煙と共に一瞬で消えた。地面には、藁の人形がぽつんと残っていた。
「隠れ身の術!?」
「いぇーい!ヴァーカ!」
クッソ野郎…!グレア2はいつの間にか藁人形と入れ替わり、土管の上でロボットダンスを踊っていた。レイズプロペラで飛行中だったヘリアルが、急降下して強襲を仕掛ける。だがこれも体をくの字にして避けられ、逆に馬跳びの台にされている。グレア2は馬跳びで土管の向こう側に消えてしまった。通路の近くにいたタイクーンとナーゴが真っ先に追いかける。俺もそれに続いた。
「カチッ!?あ~またか…こういう時は…」
「もう一つどうぞ。ほら行くよ!」
なにやら通路の先で二人が会話していたが、曲がり角になっていて状況が見えない。まぁ大丈夫か。俺も速く二人の所へ…!
「追いついたっ…だあああああっ!」
角を曲がった瞬間、地面が火花をたてて爆発した。二人が地雷のスイッチを武器を置いて押さえていたようで、何かの拍子に武器がずれて思いっきり爆発したらしい。俺は思いっきり爆発をくらって、マグナムシューターを前方に手放しながらぶっ飛んだ。
「大丈夫かダパーン。銃借りるぞ」
ギーツはこっちに目もくれず、俺が落としたマグナムシューターを拾って二丁拳銃でグレア2に銃撃を始めた。グレア2はヒュプノレイ同士をレーザーで繋ぎ、「五個GO!」という掛け声とともに五芒星を描いてギーツへけしかけた。そこは流石のギーツ。五芒星の中央、レーザーの張られていない部分をひねりを加えたジャンプで回避。たたみかける二丁拳銃の弾幕はグレア2の回避術でも避けられず、路地へと逃げていった。
「くっそ…今度こそ…!」
またタイクーンとナーゴの背を追おうとしたが、嫌な予感がして足を止めた。ヘリアルも何かを察したのか、スロットを回し直して装備を厳選している。三回目でブーストが出て、それに決まったらしかった。程なくして、ゴゴゴと大きな岩が転がる音と、二人の叫び声が路地から聞こえた。
「やっぱりこうなるよなぁ……」
「うむ。短絡的な罠だな…」
路地から出てきたのは、一心不乱に走る二人と、巨大なヒュプノレイの形をした岩。ギーツはするりと避けたようで、土管から出てくる。
「逃げられたみたいだな」
『後半戦残り10分です』
ツムリのアナウンスと共に、三体のGMライダーが襲い掛かる。あと10分…!もう時間がない。まだ行動に移さないか…!まだか…!
「ああ~!もう時間がない!」
「早く…!ゲームマスターを捕まえないと!」
五人がかりと言えど、次々と装備を変えて攻撃してくるGMライダーに活路を見いだせない。
「焦ると、またデザスターにはめられるぞ!お人好しの、狸さんなんだからなぁ!」
「今までの俺とは違う!お人好しとは言わせない!」
「英寿、そうやって、景和も化かすつもり!?」
三人は戦いながらも、上手く化かしあいを演じてくれている。ここを耐えれば、かならずあいつは…!
「見つけたぞゲームマスター!ここは任せた!」
ヘリアルは遠くの方向を眺めながら叫ぶ。そして、上腕のマフラーに火を灯し、加速してこの場を立ち去ろうとした。来た…!
「……!今だ!祢音!」
「わかった!」
『FUNK BLIZZARD!』『TACTICAL BLIZZARD!』
祢音は必殺技を発動させると同時にビートアックスを投擲。氷の壁を作ってヘリアルの進路を妨害する。
「おっと!なんのつもりかなぁ…デザスター君…!」
「正体見せてよね!ジャマト!」
「いい調子よ~デザスターちゃん…!」
高架橋の柱に隠れたグレア2は恍惚の表情で仮面ライダーたちの心理戦を見届けていた。その彼に、歩み寄る仮面ライダーが二人。ジャマトガーデンズの一派、仮面ライダーバッファと仮面ライダーナッジスパロウである。ジャマト側の反逆を予測していなかったのか、チラミは焦った様子である。
「何ぃ?今いいとこなのに…!」
「のこのこ出てきちゃって…」
グレア2に対面するように、バッファのサポーター・べロバも現れる。
「お調子者は…取り扱いが楽ねぇ」
『BEROBA SET』
べロバもレーザーレイズライザーにより変身し、グレア2を見下ろす。GMライダーを呼ぶももう遅し。グレア2に逃げ場は無かった。
「俺が、ジャマトだと?パンダ君と協力して、デザスターはネコ君だけじゃ無かったのか?」
「違うよ。デザスターは私だけ」
「おっとお、カミングアウトか?勝利を投げ出すとは、怖気づいたのかい?」
この期に及んで、まだとぼけるつもりか。暴く時だ。ヘリアルの…橋結カムロの…裏切者の正体を。
「お前…アクエリアスキメラジャマトって、知ってるか」
俺の問いかけに、ヘリアルは頭をかく。心底めんどくさいという様子だ。
「アクエリアスキメラぁ…?よくパンダ君を妨害してた変異種だろう。俺は戦ったことが無いが…」
「そうだ。戦ったことが無いんだよ。お前は一度も」
感じていた一つ目の違和感。俺は昨日の喫茶店での情景を思い出す。
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「アクエリアスキメラが出てきたの、何回だったか覚えてるか?」
俺の問いを、景和は指を折りながら考える。
「えっと、ジャマーボール合戦の前半戦で一回。爆弾ゲームの後半戦で、二回…全部で、三回?」
俺は頷くと、質問をさらに発展させた。
「じゃあ、そいつと遭遇した仮面ライダーは何人いる?」
今度は英寿が簡潔に答えてくれた。
「”ヘリアル以外”の六人だ」
──────────────
「ジャマーボール合戦で出たとき、お前は怪我で戦闘不能になっていたはずだった。爆弾ゲームでも、お前とアクエリアスキメラは入れ替わるように現われてた。同時に存在できてないんだよ。アクエリアスキメラが出てるとき、お前はどこにもいなかった」
「それだけだろう。戦ってないのはスズメ君だって同じだ。それに、なぜジャマトの味方が仮面ライダーとして戦う必要がある?」
論点をずらして誤魔化すつもりだな。ペースを崩される前に、もう一つの違和感を俺は明かした。
「俺の腕にかかれば!それがお前の口癖だったよな」
ギーツが俺の肩に手をついて言葉を繋げた。
「過去のデザグラに、同じ口癖の退場者がいた。綾辻誠司、アクエリアスキメラが擬態してた退場者だ」
ジャマトは退場者の記憶を利用し、その特性をコピーする。最初は橋結カムロの豪胆な性格から来た口癖だと思っていたが、前に郁真を人質に取った綾辻誠司が、全く同じ言葉を叫んでいた。そして、その綾辻誠司はアクエリアスキメラジャマトだった。
(動くなよ…俺の腕にかかれば!ここから一突きでこいつを殺せる…!)
「もう騙し合いはやめようぜ。参加者に敵が混じっていた。今回のデザグラは、白紙に戻す」
──────────────
「チラミは、オーディエンスの批判を恐れて、デザグラをやり直すって言うと思う」
ギロリがゲームマスターだった時もそうだった。ゲームマスターが不正を行えば、誰もデザ神になれない。チラミはジャマトのスパイがいることを知っていたはずだ。デザグラが盛り上がるように、意図的に参加させたか残したか。どちらにせよ、俺たちを騙して危険に晒した。不正になる。
「でもその前に、アクエリアスキメラの正体は暴くべきだ。あいつがまだ、どんな隠し玉を仕込んでるかわからない」
そこで俺たちは作戦を立てた。デザスターの疑い合いをしていると見せかけて、ヘリアルに隙を見せる。グレア2が身を隠せば、必ずどこかで抜け駆けしよとするはずだ。彼の狙いはグレア2のヴィジョンドライバーで、ジャマトもどこかで尻尾を出す。グレア2くらいのスペックがあれば、バッファや並みのジャマトには負けない…はず。そっちは放っておいても問題は無い。
「祢音、お前がヘリアルの足を止めてくれ。必ず、デザスターが見つかったとハッタリで押し切ろうとしてくる」
「…わかった。みんな、今まで騙しててごめんね」
デザスターだとカミングアウトした祢音は、憑き物が落ちたように晴れやかな顔だった。
──────────────
「諦めろ。お前の手にはもう乗らない」
俺の一言を受けて、ヘリアルはドライバーからフィーバースロットバックルを外す。変身が解かれ、そこに立っていたのは橋結カムロではなく、黒いフードを被ったムスブだった。間違ってなかった。橋結カムロはムスブだった。
「ふっ…探偵気取りがさぁ」
ムスブはフードに手をかけ、ゆっくりとそれを脱いだ。中にまみえた顔は、変わらぬ橋結カムロの顔。だが、演じることを辞め、特徴的だった細目は開かれ、青く充血した瞳がこちらを睨んでいる。しかも、それだけではなかった。顔の左半分はドロドロに溶けて形が定まらず、いくつもの顔を形成しては崩れを繰り返している。
「そうだよ。僕はキメラだ。いくつもの退場者の性格、特技、顔をコピーして新しい人間をつくって君たちに取り入った…!」
作られた顔には、綾辻誠司だけでなく上遠橙吾の顔もあった。上遠の兄貴も退場者だったのか…!
「うん。でも君たちはバカだ。簡単に信じちゃってさぁ」
「世界平和って願いも、嘘だったの…?」
タイクーンは一歩前に出て問う。橋結カムロの願いは、世界平和だと聞いている。
「嘘じゃないよ。僕が望むのは、ジャマトが平和に生きれる世界だ!変身!」
ムスブが握りこぶしを胸の前に掲げると、アクエリアスキメラジャマトへ変身する。
「逃がすな!」
『『BULLET CHARGE』』
ギーツがマグナムシューターで連続射撃をするも、銃弾はすべてアクエリアスキメラの体をすり抜けていった。そして、地面へと潜航し消えてしまう。カムロと、ムスブの変身ポーズも一致していた。
頼みのGMライダーたちも二人の仮面ライダーに難なく撃破され、グレア2もサポーターの力には適わなかった。
「あああっ!がはっ!」
べロバに敗北し、グレア2は強制変身解除。ヴィジョンドライバーを落としながら水たまりだらけの道路に転がる。自慢のサングラスも割れてしまい、スーツも泥だらけ。べロバは変身を解き元の大きさに戻ると、チラミのヴィジョンドライバーを拾い上げる。
「なんで、私を狙うのっ?」
「あんたはどうでもいいのよ~私が欲しかったのは、これ」
ヴィジョンドライバーをちらつかせたべロバに、チラミはジャマトガーデンズのおぞましい目的を理解する。
「まさか…あんたたちの狙いは…!」
「そ。創世の女神」
創世の女神を奪われれば、世界の全てが意のまま。コラスが起こした、デザイアロワイヤルの二の舞となる。ヴィジョンドライバーとは、運営の最高権力の一端なのだ。
「そしてこのヴィジョンドライバーは、創世の女神にアクセスするための鍵?でしょ?」
べロバは知っていた。ギロリから奪ったドライバーで、コラスが単体で世界を改変した瞬間を。
「それはあんたなんかが手にしていい代物じゃないの!返しなさい!」
その代物をただゲームを盛り上げるために、自らの保身のために使ってしまったツケである。べロバの念動力で吹き飛ばされる。
「あははっ!べ~っ!」
舌を出して、チラミを嘲るべロバ。ナッジスパロウは自らが望む「全人類の記憶」が手に入った世界を想像してほくそ笑む。
「これで世界は、僕たちの物か…」
「それはどうかな…?」
それを否定したのは、以外にもバッファだった。彼の見る方向に二人、歩いてくるサポーター。ギーツのサポーター・ジーン。ダパーンのサポーター・モーン。二人とも片手に認証カードを装填したライズカードリッジを持っている。戦う気だ。
「白けることするなよべロバ…!せっかくデザイアグランプリが盛り上がってきた所だったのに…!」
「あら、もっと面白いことしようとしてるだけよ~!二人とも、デザイアグランプリなんて辞めて一緒にどう?きっとゾクゾクするわ」
「ふざけないで。私、あなたのこと嫌いだから」
基本的にサポーター同士は険悪である。誰も彼も全く違う個性の仮面ライダーを推しているのだから、馬が合うはずがない。
「はぁ…あんたらとはやっぱり趣味が合わないみたい」
「合うわけないでしょ」「こっちから願い下げ…」
二人が腰にライズカードリッジをかざすと、レイズライザーベルトと、スロットに収まったレイザーレイズライザーがデザインされる。そして、引き抜いたレイザーレイズライザーにカードリッジを装填する。ジーンは左頬に添え、モーンは左目を隠すように
『ZIIN SET』『MORN SET』
ジーンは両腕で大きく円を描き、指を鳴らす。モーンは左手で後ろ髪を払う動作をすると、右足に重心を乗せ、銃口を下に向けた。
「「変身」」
『『LASER ON』』
トリガーを引くと、銃口からカード型のエネルギー弾が発射され、二人の周りを旋回する。そしてピクセル状に仮面ライダーの姿が組みあがってゆき、カードが体と一体化するとき、鮮明な姿として露になった。ジーンは青きキツネのライダーに。モーンは背中に羽根が生えた、人型でピンクの鳳凰モチーフのライダーに変身した。
『ZIIN LOADING』『MORN LOADING』
『READY?FIGHT!』
「俺が求めているのは、感動だ」「さぁ、あなたのドキドキを教えて」
DGPルール
デザイアグランプリのあらゆるシステム管理は、
ゲームマスターのドライバーによって行わている。
創世の女神へのアクセスも可能である。
次回:仮面ライダーギーツ外伝
「デザグラが続行不可能!?」
「気になる?私たちが何者か?」
─デザグラの危機!?─
「一緒に戦おう」
「君の願いは、絶対に叶わないっ!」
「これ以上…お前たちに好き勝手させるかぁ!」
27話 発露T:デザグラの真実!その先に…