『ZIIN LOADING』『MORN LOADING』
『READY?FIGHT!』
「俺が求めているのは、感動だ」「さぁ、あなたのドキドキを教えて」
チラミのヴィジョンドライバーを強奪し、創世の女神の独占を画策したジャマトガーデンズ。それを阻止せんと立ち上がったのは、ギーツとダパーンのサポーター両名だった。彼らの変身した仮面ライダーは白と黒を基調とし、マスクと胴体にレイズライザーカード状の突起が同化。デザイアグランプリの仮面ライダーたちとは一線を画すデザインであった。特に仮面ライダーモーンの背部には、メカニカルなデザインをした翼を備えており、内部の機構が一部露出している。
「仮面ライダー…!」
最初に武器を構えたのはバッファだった。ゾンビブレイカーの刃を振動させ、二人めがけて走る。それに対し、モーンは胸部のレイズライザーカード型の突起・アウトリアライザーを撫でた。気怠そうに、動作としてはそれだけだった。
「なっ!?」
バッファはいつの間にか二人の前を通り抜け、背後に瞬間移動していた。視認した対象の瞬間移動。それがモーン最大の特殊能力である。状況をすぐに呑み込めなかったバッファのゾンビブレイカーはただ空を切った。続けて、翼を上下させると、四角錘型の羽根が分離。独自の行動を取ってバッファを襲い、バーサークローを砕いた。
「まずいな…邪魔はさせないよ!」
『MONSTER!』
サポーターたちの、自分たちを力を超越したライダーシステムの力に恐れをなしたナッジスパロウ。モンスターバックルを装備し、ジーンへと突撃する。たとえどんな特殊能力を持っていたとしても、近接戦闘ならモンスターの力に分があると判断しての行動だろう。しかし、ジーンの持つ力もまた、彼の想像を凌ぐものであった。ナッジスパロウがジーンの顔面に拳を振りかざす。それよりも早く、ジーンはアウトリアライザーに触れた。
「…っ!なんだ!?」
ナッジスパロウの直線的だった拳の軌道は、不自然に曲がった。そのまま壁側に引っ張られ、壁の上に倒れた。ナッジスパロウは壁の上に立っている自分に、状況が呑み込めない。重力操作。その能力によりナッジスパロウに働く重力の方向が捻じ曲げられたのだ。重力操作を自身にも付与したジーンは、ナッジスパロウの背後に立ち、レーザーレズライザーで足元を撃ち抜く。しばらく壁の上を転がったナッジスパロウだったが、途中で重力操作を解除され、地面へと叩きつけられる。体にかかった負荷が大きく、立ち上がれない。ジーンはそのままゆっくりとモーンの隣へ戻る。
「強い…!」
バッファとナッジスパロウを軽くあしらった二人は、べロバへ銃口を向ける。
「流石。妄想癖のある人は強いわねぇ。でも、おあいにく様」
彼女の目的を理解した二人は、容赦なくべロバへ銃弾を放った。しかし、それよりも早くべロバがヴィジョンドライバーを装着し、転送され姿を消した。目的地は言わずもがな、創世の女神である。ナッジスパロウとバッファに振り替えるも、彼らの足元が液状化し、地面に沈みながら離脱した。恐らくは、アクエリアスキメラジャマトの能力であろう。彼が参加者たちを引き付けていたのも、ヴィジョンドライバーを奪われる原因となってしまった。
「どうするのジーン。逃げちゃったわ」
「こうなったらしょうがない。英寿たちと一緒に戦うしかないだろうね」
先に変身を解除したジーンは、遅れて元の姿に戻ったモーンの肩に手を置いた。
「君も決心するんだ。ダパーンは、簡単に死ぬほどヤワじゃないはずだ…」
またしても一足先に、ジーンはその場を去ってゆく。モーンはジーンの背中を見ることは無く、両手で右側の三つ編みを強く握った。
「そうじゃないんだよ…私が知りたいのは、そんな感情じゃない」
*
ヴィジョンドライバーを持つ者しか入室が許可されない、創世の間。パルテノン神殿を思わせるエンタシスの柱が等間隔に並べられたその中央に鎮座しているのが、創世の女神である。べロバはその神々しい様相に見惚れ、思わず息を吐いた。
「やっと会えたね。女神様」
赤子を抱きかかえるように腕を組んだ女性に、何対もの豪翼をそなえた巨大な彫刻は、まさに女神の名にふさわしい。このオブジェクトが、世界を作り変える力を持つというのだから驚きである。創世の女神の存在は、オーディエンスの間でも噂程度の存在であった。それが今、手の届く場所にある。自身の願いを記入したデザイアカードを手に恍惚の表情を浮かべ、創世の女神にかざした。
「さぁ、私の願いを叶えてもらうよ」
創世の間に、幾重もの鐘の音が包む。しかし、それ以上のアクションは起らなかった。困惑し、何度もデザイアカードを誇示し直すも、鐘の音は輪をかけて小さくなってゆく。
「あら…?」
「勝手なことをしてもらっては困る」
創世の間を訪れたのは、べロバだけではなかった。プロデューサーのニラムである。ベージュのスーツに、ヴィジョンドライバーを装着した彼は、指を二本立てた。ゲームマスターのチラミが持っていて、プロデューサーがドライバーを持っていないはずがない。
「ゲームマスターとプロデューサー、二つの権限がなければ、創世の力は発動しない…」
「は~あ。残念。セキュリティは強化済みってわけね」
「女神を我が物にしようとした野蛮な輩は以前にもいてね。対処させてもらった」
創世の女神の私的悪用。デザイアロワイヤルの動乱を引き起こしたコラスの存在が嫌でも思い出される。コラスの暴走が、べロバに現在の行動を思い立たせたことは明白であった。世界を作り変える女神は存在する。そして、手が届く目前なのだ。
「そのドライバーを返しなさい!」
「べ~っ!あはははっ!」
べロバに諦める道理は無かった。ニラムは深く溜息を落とすと、右手でヴィジョンドライバーの指紋認証を突破する。
『GAZER LOG IN.』
「ならば、実力行使に出るしかない」
『INSTALL.INNOVATION & CONTROL, GAZER.』
ヴィジョンドライバーに彼専用のプロビデンスカードをスキャンし、彼は仮面ライダーゲイザーへと変身した。仮面ライダーゲイザーはプロデューサー専用のシステム。紺のアンダースーツに、白と金の鎧を備え流麗なカラーリング。デザインこそはゲームマスター用のグレアシリーズと同様であるが、性能は倍であり、それを操るニラムの力量も伺える。
「また来るね、女神様……!」
ゲイザーを一目見たべロバの判断は一瞬であった。ヴィジョンドライバーを即座に外し、ドミニオンレイの攻撃が届く前に創世の間の外へ、自身を転送する。ヴィジョンドライバーとレーザーレイズライザーの力だけでは、ゲイザーにかなわないと判断したのだろう。創世の女神を発動させるドライバーの一つを持っている。そのアドバンテージが、彼女の判断を速めた。
「由々しき事態だ…」
一人創世の間に残されたニラムは、物言わぬ女神を仰いだ。
橋結カムロの正体を暴く、それでデザグラの運営は揺らぐはずだった。だが、俺の取った選択は短絡的なものであったらしい。ムスブが変身して消えてすぐに、ツムリからサロンでの待機命令が下された。理由も何も、ゲームマスターがジャマトの一派に襲撃を受け、ヴィジョンドライバーを奪われたんだとか。ジャマト派閥にはバッファも、優秀な参謀とやらもいる。もっと警戒すべきだった。ゲームマスターを誘き出し、自身の正体を餌に俺たちを足止め。ゲームマスターを助けにはいかせない。そこまでがムスブの作戦だったのだ。してやられた。
俺はサロンのカウンター席に座り、ポケットから文庫本を手に取った。新井からもらった物で、一日を越して、話は終盤まで来てしまっていた。みんなは俺のせいじゃないって言ってはくれた。でもどうしても悔しい。俺が少ない脳みそで捻り出した推理は、あいつにとって、傍観していたオーディエンスにとって、娯楽でしかなかったのだ。掌の上で遊ばれていた。今は、現実逃避でもなんでもしたい気分で、挟んだ栞に従ってページを開いた。
(わかったよ。わたしは二人いたんだ)
終盤に向けて、犯人を突き止める前に、主人公たちの独白が始まった。話の全体を通して感じていた主人公たちの「ズレ」のようなものが、少しずつ埋まっていく。これまでぼかされていた分、点と点が線になる瞬間は心地よく、読書の楽しさを久々に覚えた。この本が新井を作った…最初は半信半疑だったが、読み通してみると訳が掴めた。この本は、お前なりの主張だったのか。
「冷静だな。読書、好きなのか」
俺が本から顔を逸らした頃合いを見計らってか、英寿が隣に座り、本を覗いてくる。
「いや。友達に勧められたんだ。でも、悪くはない。もしかしたら俺の友達は、」
まだムスブへ向けた探偵気分が残っていたか、物語の中のチェリストに触発されたか。またしても持論を英寿に語ろうとしてしまい、滑る口を止めた。ヴィジョンドライバーの件で皆が足止めをくらってるのは、俺がムスブの引っ掛けにまんまと乗ったからでもある。これ以上不用意にペラペラと喋る気にはなれなかった。
「デザグラが続行不可能!?」
祢音の驚いた声に、俺たちは背の高い椅子から降りる。
「ゲームマスターの権限が奪われたので、あらゆるシステムが停止した状態です」
淡々と説明したツムリの目線の先は、ソファーの上で縮こまっているチラミだ。待機命令が有耶無耶になったってことは、運営もヴィジョンドライバーの奪還に失敗したってことか。これは厄介なことになってきたな…
「ですので、今回のゲーム並びにデザスター投票は、中止いたします」
元々今シーズンは白紙に戻すことが目的だったので、その点において異論はない。プレイヤー全員が沈黙を貫いた。でも、問題は再開が不可能になってしまうということだ。ヴィジョンドライバーを奪ったジャマトたちの拠点がわかれば。英寿がチラミを問い詰める。
「……デザグラができなくなるのは困るな。チラミ、奴らの目的はなんだ?」
「創世の女神よ」
「ん?そうせいのめがみ?」
祢音と並んで立っていた景和がチラミの呟いた単語を復唱する。創世の女神だぁ?誰の二つ名であろうか、それとも何かの隠喩?ジャマトが狙うほどの物で、ヴィジョンドライバーが無ければ介入できない、運営にとって重要度がかなり高いものなのか。創世…まさか創世の女神が俺たちの願いを…?
「なぁ、そのそう」
「いったあああああああ!」
「余計な事言うな」
俺の言葉は、手痛いビンタをくらったチラミの絶叫に遮られた。ビンタしたのは…知らない運営の奴だ。肩ほどの流した髪に、黄色のスカート、黒のジャケットを着用した女性だ。ゲームマスターを叩いて暴言を吐けるということは、それなりに地位の高い人だろう。プロデューサーレベルか。どうやら、ニラムがサロンに戻ってきたらしい。この人は差し詰めニラムの補佐か。
「あっ、プロデューサ、あたしは悪くないの!」
チラミは目ざとくニラムの入室に気付き、弁明しようとするも、きつい一言に突っぱねられた。雰囲気でわかる。ニラムも機嫌が悪い。
「ゲームマスターの権限を外部に奪われるとは、言語道断だ」
言葉だけで打ちのめされたチラミは、ソファーへと深く沈んでいく。ニラムが出てくるとなれば、事態は深刻だぞ。
「あの…創世の女神って、なんですか?」
「君たちが知る必要はない」
ニラムは答えない。俺たちに触れてほしくない理由でもあるのか…?
「運営のあんたらが慌ててるんだ。デザイアグランプリの根幹に関わることなんだろ。もしかして…創世の女神は世界を作り変える力そのもの。違うか?」
英寿の的を射た追及に、ニラムは黙って返答しなかった。
「サマス」
「デザイアグランプリを再開するには、奪われたヴィジョンドライバーを取り返す必要があります」
チラミをビンタした女性は、サマスという名で、ニラムの腹心のようだ。サマスが説明を始めると、ホログラムに地図が表示された。関東地方の外れの外れ、人の寄り付かない山奥に巨大な温室が建っているようだ。
「ここがジャマトの本拠地、ジャマーガーデンです」
「待てよ。なんでジャマトの本拠地なんか知ってるんだ?だったら、戦いの被害も、未然に防げたんじゃないのか?」
運営がジャマトと繋がってた。こんなのただのマッチポンプだ。俺の言葉は当然の物として受け取られたようで、ニラムは興味なさげだ。
「緊急事態に備え、情報は把握しておくものだ」
「人が襲われるのは緊急事態じゃないってのかよ!」
柄にもなく声を荒げてしまい、英寿に肩を掴まれて止められた。なんだよ。運営がジャマトをちゃんと管理してたら。誰も死ぬことなんて無かったんじゃないか。いや…そうじゃない。これはショーだ。結局俺たちが死のうが、一般人が虐げられようが、オーディエンスにとってはエンタメでしかない。創世の女神とやらがあれば、どんな命もリセットできるんだから。それができなくったから、こいつらは焦ってるんだ。
「いい加減化けの皮を剝がしたらどうだ?」
英寿はニラムの向かいに立ち、いたって冷静に追及を続ける。
「そもそもなぜジャマトが生まれたのか?なぜジャマトから世界を救うゲームが、ショーになっているのか?なぜ脱落者は理想を願う心を消されるのか?運営やオーディエンスの正体は何者なのか?そろそろ本当のことを言ったらどうだ?」
かつての俺は、運営を異世界人の類だと思っていた。どうやらそれも違うらしい。モーンのオーディエンスルームに並べられた本は、言語の違いこそあれど、どれもこの時代に存在するものだった。異世界から持ち込まれたような本は、一冊も見当たらなかった。よほどの読書好きなら、異世界から愛読書の一冊でも持ち込んでいてもおかしくないのではないか。異世界人の線が消えると、本格的にわからなくなってくる。
「……その問いに答える意味はない」
まぁ、お前ならそう言うよな。
「なぜなら、全てを知れば、全てを忘れることになるからだ。我々は一切合切を引き上げ、全てなかったことにする。君たちも、この世界も!デザイアグランプリの存在した事実を忘れ去り、願いは永遠に叶わない……どうした?君の願い通りのシナリオじゃないか」
苛立ちを抑えられていなかった俺の心情に、ニラムは冷笑を浮かべる。こいつ…!どうせこの世界から撤退しても、また別のどこかでデザイアグランプリを興すんだろ。何も知らない一般人を、理想の世界という甘言で釣って。
「さぁ、あんたたちがするべきことは、ジャマーガーデンに乗り込んであたしのドライバーちゃんを取り返すこ」
チラミが偉そうに調子を取り戻したのを、サマスは見逃さず首根っこを掴んで制する。サマスに暴力を振るわれるたびにサングラスの黒いレンズが飛んで行っていた。ニラムが手を叩き、俺たちに行動を促す。
「君たちが願いを叶えるために、取るべき一つの道だ」
ヴィジョンドライバーを取り返しても、ニラムが素直にデザグラを再開するとは、到底思えなかった。
ヴィジョンドライバーを奪い、作戦に成功したジャマーガーデンズ。世界を思いのままにできる直前になって、プロデューサーに阻止された。べロバの心中は穏やかではなく、道長に説明する口調は沈んでいた。
「このジャマーガーデンは、デザイアグランプリによって消されたエリアにあるの」
「仮面ライダーが全滅して守れなかったエリアを、ジャマトの育成に使ってるってことだよ」
道長、大智共に運営とジャマトの癒着を理解し、黙り込む。もうフードを被らなくなったムスブは、グロテスクな左顔をこれ見よがしにしながらアルキメデルの言葉に付け加えた。
「わかるだろう?デザグラが運営されている限り、ジャマトの自由は無い。ただゲームの駒として殺される、それだけの存在。それって、かわいそうとは思わないかい?今度は、僕たちの番だ」
「なんなんだ、お前らは……?」
困惑の道長に、べロバは満足げだ。
「気になる?私たちが何者か?」
彼女は、デザグラの真実を刻々と語り始めた。
*
ジャマーガーデンに乗り込む前に、一時間の猶予が与えられた。景和と祢音は、サポーターとの面会に行くらしい。そこでどうしても気になって、彼らのサポーターがどんな奴らなのかを聞き出してみた。彼らはこう答えた。
(ケケラって人だよ。何ていうか……結構自己主張の強いタイプだったかも。カエルだし)
(へえ~私のサポーターは控えめだな。キューンっていうの。褒めてくれるよ、手紙だけどね)
カエルに手紙と、最後の方の言っている意味は分からなかったが、彼らのサポーターは盛んにコミュニケーションを取ってくるようだ。一方俺のサポーターはどうだ。そもそも会いたくないので、向こうからコンタクトを取ろうとしない限りは、俺も会いたがらなかった。だからサポーター代理の芹澤なんて立てられて、伝言だけ。運営はガードが堅そうだし、抜き打ちで会ってみることにした。連絡もせずにサポータールームに行ってみれば、会えるかもしれない。
淡い期待を抱いて、デザイアドライバーの機能でサポータールームに自身を転送した。
『そうだ。戦ったことが無いんだよ。お前は一度も』
サポータールームでは、さっきまでの俺と橋結カムロとの問答が再生されていた。ソファーの上に、ピンク髪の女性が座っている。後ろ姿で顔は見えないが、相当デザグラに見入っているらしい。俺の入室に気付かないほどだ。こいつが、俺のサポーター・モーンか。
「お、おい」
「うわぁっぁああ!」
背中にそっと声をかけると、モーンは肩を震わせて驚き、慌ただしく本の山の裏に隠れた。相当俺に素顔を見られたくないらしい。俺は諦めて、瞳型のビジョンの向かいのソファーに座った。ほんのちょっと前までモーンが座っていたはずだが、驚くほどに冷たい。
「あんまり気ぃ使わなくていい。ただ話しに来ただけだ」
もうすっかり、オーディエンスの秘密について調べる気は失せていた。謎は絶えないが、情報量の差で不利すぎる。多分、いまのままもがいても、向こうは降りかかる火の粉にすら思えないだろう。一度ナーバスに振り切れてしまった気持ちは、なかなか元に戻ろうとはしなかった。俺は今、デザグラの事ではなく、純粋に自分を応援してくれている人間と、話したい気分になっていた。
「お前も…本、好きなのか」
隠れたままのモーンの方を見ながら問いかける。モーンはためらいながらも、やけに高く作った声で返答してきた。
「う、ウン。本ヲ読ンデルト、落ち着くんダ」
「へぇ。俺は得意じゃないな、読書。元から興味が薄くてさ……でも、友達に怒られたよ。ちゃんと自分を知った方がいいって」
モーンは黙りこくっていたので、俺は瞳型のビジョンに目を移して話を続けた。映っている映像は、ちょうどムスブがフードを脱いだ場面になっている。
「その通りだよな。いつもダメなんだ。でも、あの本読んでわかったことあったよ」
文庫本を取り出して、栞を挟んだままにしていたページを開いた。この本のトリックは、殺人事件がどうこうの問題ではなかった。解離性同一性障害…主人公は二重人格で、チェリストとライターが同一人物であるということだった。チェリストは音大生時代、周囲からのいじめによるストレスがきっかけで、豪胆な性格のライターの人格を作り、ストレスを押し付けるようになった。新井が学校では優等生であること、外では落書きばかりする非行に走っていること。それが主人公たちの特性と重なる。……あの本が彼女の一部であるとして、物語の内容通りに彼女は成長できているのかはわからない。チェリストは、もう一つの人格を受け入れ、一人の人間として一つの人格に戻る。でも、新井はできていない。だから、
「あいつは、俺に導いてほしかったんじゃないか、今の自分を信じてほしかったんじゃないか。この本を通して、そう感じた。助けて欲しいと言っているなら……俺もそうしたいと思う。……俺は正直者になれないからな。まずは、周りの人を信じるとこから始めたい。英寿を、景和を、祢音を。そしてお前も。まぁ、せっかくお前みたいに応援してくれる人がいるのに、オーディエンスだからって卑下にするのも良くない。まだニラムとかジャマトのスポンサーよりはマシだって思えたよ。お前がバックルをくれたから、ここまで生き残れてるわけだしさ」
「ソレは…ヨカッタ」
景和たちから聞いた癖の強いサポーターの面々とは異なり、恥ずかしがりやで引っ込み思案。距離感が掴みづらいな……が、正直これくらいの関係性の方が、気楽でいいかもしれない。自分のファンだからって、あれこれ質問されたら、戦う前に疲れてしまう。新井といる時よりは……あいつに失礼か。
「オーディエンスは、俺たちを見せ物にしてる。そのこと、どうしても腹が立つ。だけど…お前だけは信用させてほしい。こんな俺の…俺の願いを信じて託してくれるお前は…他のオーディエンスとは違うって、信じさせてくれ。誰かが背中を押してくれるって思うと………俺も頼もしいから、一緒に戦おう」
ま、戦うって言っても、サポートしてもらうって意味だけどな。独り言のように話していると、本音がスラスラと出てきて、こっちが恥ずかしくなってしまった。もう行くか。指定の時間よりは早いが、誰も咎めはしないだろう。俺が去る直前になって、モーンはか細い声を返してきた。
「私モ、戦う…」
その声だけで、今は前を向ける気がした。
脱落したはずのナッジスパロウが敵陣営に、仲間だったはずのヘリアルはスパイだった。ようやく姿を見せ始めたジャマーガーデンズの全容に、ツムリは不信感を募らせる。今回のシーズンを運営するにあたって、新メンバーの三人はオーディエンスの人気投票、上位三名が選ばれた。過去の強豪プレイヤーの再参戦。オーディエンスは大いに心躍らせ、かつての推しに手を挙げた。一位はロポ、二位はナッジスパロウ。ここまでは順調だった。しかし三位のヘリアル。彼がランクインした裏側には、ジャマトのスポンサー・べロバの猛プッシュにゲームマスターが負けたという噂が、まことしやかにささやかれた。あくまで噂。ゲームマスターの不正な票操作は、今シーズンのデザ神の取り消しになりかねない。だが…チラミなら、やりかねない。そんな最悪の信頼感が、ツムリの中で出来上がっていた。
「なぜプレイヤーにジャマトのスパイが紛れていたんですか…?」
「知らないわよ。私はオーディエンスの総意に応えただけぇ」
サマスに何度もビンタされ、ニラムに説教され、チラミはご機嫌ナナメだ。
「ナッジスパロウのIDコアは?ハイトーンからは、数名のIDコアと共に、上層部に引き渡したと報告が来ています!ナッジスパロウ以外のIDコアはどこに行ったんですか!?」
「ショーは盛り上げなきゃ!でしょ?」
消えた他のIDコアの行方は何処へ。
ジャマーガーデンへの強襲は、三方向から行われることになった。北から英寿が、南西から景和と祢音が。そして俺が南東から攻める。
「襲撃返しつっても…いるよな」
ガードレールのうえに座り、きつく傾斜のついた林を眺める。伸び放題の草葉が小刻みにガサガサと音を立てていた。ポーンジャマト、いるな。ジャマーガーデン周辺は、まとめてジャマトのテリトリーってわけか。こっちから目撃情報を探ってたら、ジャマーガーデンの場所を予め知っておいておけたかもしれないな。それよりも前に、運営がもみ消してたのかもしれないか。ニラムならやりかねない。
「そろそろ行くか」
『SET』
デザイアドライバーの右側にコマンドバックル、左側にブラストバックルを装填。右肩から鎖骨の部分を掻くように左手を動かし、大きく首を回す。
「変身!」
左手でブラストバックルのコックを開き、コマンドバックルの起動ボタンを叩いた。同時に、傾斜に向けて飛び降りる。
『DUAL ON!GREAT!BLAST!』
『Ready?Fight!』
落下の途中でアーマーが装備され、ガスを発射しながら軌道修正。森林に突入すると、藪からポーンジャマトが飛び出してくる。木の幹を蹴り、逆手持ちしたレイジングソードでポーンジャマトを三体同時に斬り伏せつつ着地。改めて純手に持ち替え、居合の要領で斬り上げ、背中を一刀両断してもう一体撃破する。この間に、ポーンジャマトは忍び寄り、円形に俺を取り囲んだ。
「まじで数多いな、あいつら大丈夫か…?」
飛びついて来た先から蹴り倒し、リーチ外の相手はレイジングソードの刺突で対応。陣形を切り崩しながらジャマーガーデンの中心部に接近してゆく。ジャマトの本拠地なだけあって、数が多すぎる。他のライダーの所にも、そろそろボスクラスが出てくる頃かもしれない。曲がりなりにもグレア2に勝利した連中だ。どんな隠し玉を残しているか…
「っ!」
視界が一気にツタに遮られた。地面から生えたツタが、ドーム状になって俺を囲んでいる。そして一気に収縮してきた。
「そりゃ…ジャマトライダーもいるよな…!」
その場でジャンプしつつ回転斬りをし、ツタを一度に断つ。ジャマトライダーは三体。ジャマーガーデンの警備に当たってるってことは、そこそこの強個体か…?でも、今の斬撃でレイジングソードのエネルギーは満タンだ。コマンドフォームで、一気に攻める…!
『FULL CHARGE』
レイジングソードからバックルを取り外し、ブラストバックルと付け替えようとした、刹那。
『MORN LOADING』
ジャマトライダーが空から降り注いだ三本の棘のようなものに貫かれ、爆発四散した。自立行動し、上空へと戻ってゆく棘を目で追うと、巨大な翼を備えた仮面ライダーが太陽を背に滞空していた。あの棘は、彼女の羽根だったのか。参加者とも、運営のライダーともベルトが異なる。それに、あの銃は?ジャマトライダーを一撃で何体も…並みの強さじゃない。シルエット的には女性だが…ツムリは一向に変身する素振りを見せないし。まさか。
「モーン…?お前か?」
あの銃はサポーター専用の武器。なら合点がいく。サポーターも戦う手段を持つのか。仮面ライダーモーンは、翼をはためかせ、俺の隣に降り立った。さっきは太陽の逆光でよく見えなかったが、成程。白と黒のスーツに、ピンクのライン。翼の装飾で何となくわかった。彼女は鳳凰のライダーか。俺はパンダモチーフだし、中国つながりだな。向こうが意識てるかは知らんが。
「来たヨ。約束ダカラね…」
かっこよく登場したのはいいけど、高く繕った声に気が抜ける。警戒心高いなぁ。信頼されてるか、されてないんだか。俺たちがそんな会話をしている合間にも、ジャマーガーデンの方向からとめどなくポーンジャマトと、ジャマトライダーが迫りくる。ちょうどいい。こいつと一緒に飛ぶとするか。
「一気に温室まで攻めよう。まさか、コマンドについてこれないほど遅くはないだろ?」
『TWIN SET』
ニヤつきながらコマンドバックルをブラストバックルと付け替える。左側にジェット側を装填しているから、ジェットモードになれる。俺の挑発に、モーンはこくりと頷き返事した。
「よし!」
『TAKE OFF COMPLETE!JET&CANNON!』
『Ready?Fight!』
コマンドフォーム・ジェットモードに変身した直後に、合図もなしにバーニアに点火。離陸を果たし急加速すると、モーンもそれ以上の速さで猛追する。翼を一度上下しただけで十分な推進力を生み、翼を直線状にして空を切ってゆく。並みのポーンジャマトは低空飛行により生じる風圧に耐えきれず身を投げ出し、残存勢力はたいてい翼の斬撃性能のおかげですれ違いざまに両断できた。
前方に、ルークジャマトがジャマトライダーを二体従え防衛線を張っているのが目視できた。ジャマーボール合戦の時の生き残りだな。減速しつつベルトを反転。キャノンモードになりながら着地する。ルークジャマトはタイクーンとの戦闘を経てコマンドフォームに対策を練ってきていたのか、先制一発目で右腕から赤黒いレーザービームを放って来た。俺もそれに対抗し、二連式のキャノンより鋭くレーザーを放つ。空中でレーザーは正面衝突し、小規模の爆発を起こした。俺は続けざまにキャノンより球体状のエネルギー弾を小刻みに発射、しかしこれも対策されていたのか、ジャマトライダーの集団が一歩前衛に出て、ツタの障壁を生成。これを防いだ。ツタが何層にも絡まっていて、突破するには手を焼きそうだった。
「こいつらさえ抜ければもう温室なんだけどな…」
「任セテ」
モーンが胸のカードの様な突起を撫でると、視界が一変した。
「これは…!」
気付いた時には、ルークジャマトたちの背後に回っていた。瞬間移動ってやつか?俺たちの仮面ライダーの力よりも、サポーターの方が上物の力を支給されてるってわけか。だけどこれで、防御は関係ない!
「がら空きだ!」
油断している彼らの背後に向けて、容赦なくエネルギー弾をぶっ放す。先ずは防御の要であるジャマトライダーから崩す。完全に不意を突かれ、ジャマトライダーは背中にもろにエネルギー弾をくらった。自らが生成したツタの壁に衝突し、残りのジャマトたちが慌てて振り返る。その時にはもう、俺は接近してレイジングソードを振り上げていた。ルークジャマトや残りのジャマトライダーごと、ツタをぶった斬る。切断した先からツタは枯れてゆき、反対側にモーンが見えた。予備動作から、することは分かっている。
「えぐいことするな…!」
鋭利な棘を、怯んだジャマトたちに一気に放っていた。俺は着弾する直前でモーンの隣に瞬間移動される。無数に羽根が体を貫き、ジャマトたちは苦しんで膝をついた。えげつない攻撃に若干引いたが、これであいつらを倒せる。
『LOCK ON』『COMMAND TWIN VICTORY!』
エネルギーを収束してキャノンから極太のビームを、左から右に薙ぎ払うように放った。モーンの羽根攻撃で相当ダメージをくらっていたジャマトたちは成す術もなく、ビームに焼き払われた。ツタの壁も含めて、爆発とともに大きな炎があがる。
「早ク温室に…!」
「いや、まだいる」
次第に収まっていた炎の向こうから、ムスブが歩いているのが見える。流石に炎は苦手なのか、ローブの中から滝のように水を流し、消化しながら向かってきていた。相変わらずグロい顔面してやがる。顔半分は見慣れた橋結カムロなのに、目を大きく開いていて、面影が全くない。笑ってるのか?
「おいおいおい。容赦ないなぁ!ジャマトだったらどんな仕打ちをしても良いと思ってるのかい?」
炎の海を見渡しながら、ムスブはにっこりと笑う。仲間が殺されて悲しいなら、笑うべきじゃなだろ、普通。
「君さ、わかってる?ヴィジョンドライバーを取り返しても、結果は同じじゃないか。結局デザグラはこの時代から消えるんだよ?」
「別の世界の奴らが犠牲になってほしくないから、俺が取り返しに来たんだろうが!」
『REVOLVE ON』
ジェットモードに戻り、ムスブに突撃する。変身するよりも早く取り押さえれば良かったが、加速に時間がかかり一歩遅れた。
「変身…!」
ムスブが変身したアクエリアスキメラジャマトは俺に掴みかかり、空中で取っ組み合いになる。急いでモーンが追いついてきて、ムスブを蹴っ飛ばして振り払ってくれた。アクエリアスキメラはそのまま木に激突するかと思われたが、自身を液状化して分離し回避。もう一度空中で合体して着地した。液状化は自分にも適応できるか。シャコガイの腕だけでも厄介なものなのに、攻撃がさらに通りづらくなるな。遠距離戦は不利か。
「そうやって展望もない、おめでたい頭脳がうらやましいねぇ!」
地面に潜航させたヤシガニの脚が、あらゆる方向から飛び出て俺たちに迫る。一度飛行して距離を取ろうと思った矢先、モーンが一気に前に出た。銃を握る手は、小刻みに震えている。怒っているのだろうか。モーンを突き刺さんとする腕は、全て自動操作の羽根たちに砕かれた。俺も慌てて続こうとするも、モーンは瞬間移動でアクエリアスキメラを上空にぶん投げた。投げ出されたアクエリアスキメラに、銃で容赦なくエネルギー弾を撃ち続ける。高度が上すぎると液状化はリスキーなのか、シャコガイを備えた左腕でガードしている。好機だ。
アクエリアスキメラに向けて、レイジングソードで斬りかかりながら加速。落下を続けていた彼の背後に回り、背中から生えていたカサゴの棘を斬り落とした。毒にやられちゃまずいから先に始末する。が、既に右手に一本避難させていたようで、体を捻って棘を突き立ててくる。急いでバーニアを逆噴射し後退するも、向こうのリーチの方が長い。
「ああ、ダメだ」
そう呟いたのは、俺ではなくアクエリアスキメラだった。棘が装甲を貫く直前で、彼は目の前から消えた。またしてもモーンの瞬間移動だ。転移させられ、体を不格好に捩じった状態で地上に戻された彼は、胴にエネルギー弾を直接撃ち込まれ、液状化もままならぬまま、木に激突し地に伏せた。敵に対しては、本当に遠慮がない。俺はゆっくりと地上に戻ると、モーンはダメージの大きさに動けなくなっているなっているムスブに銃口を押し当てた。もう、ジャマトの姿を保てていない。溶けていたはずの顔半分も、橋結カムロのもので固定されていた。その顔がお前の本当の顔か?
「なんだよ。そんなにオーディエンスが強いなら、古代人に戦わせる必要なんてないじゃないか!」
「喋るナ」
逆上するムスブに、モーンはさらに強く銃口を擦り付ける。もうどっちが怒っているのかわからない。だが、あいつの言ったことが引っ掛かる。
「古代人…!?お前、何言ってるんだ?」
「聞ク必要ないヨ。タダノ虚言」
「心外だなぁ!よく言うよぉ!奏斗君、信頼できるのは僕さぁ。噓つきはどっちだと思うっ!」
ついにモーンはムスブに発砲した。血の代わりか、水しぶきのようなものがモーンのスーツに跳ね返る。ムスブは苦しむような素振りを見せながらも、構わず話し続ける。不思議とモーンも、ムスブも、俺は止める気にはなれなかった。虚言と言うには、筋が通っているように感じられたからだ。
「こいつらは未来人なんだよ!君は弄ばれてるだけだ!人類滅亡なんて稚拙な願いを、嘲笑ってただけなんだよ!」
ムスブがそこまで語った所で、モーンは再び引き金を引いた。同時に、モーンの体も右方向に吹き飛ばされた。左から赤色の光線が発射され、それを脇腹にもろに受けたのだ。彼女もムスブと同じく木に激突し、変身が解除される。そして、そこにいたのは。
「新井…?」
落ち葉の上で脇腹を抑え、蹲っていたのは、私服姿の新井だった。俺の視線に気づいたのか、一気に顔が青ざめてゆく。正体を見せようとしなかったのはそういうことか。同級生に紛れて、俺を騙してたのか。何か弁明をするような声が聞こえたが、ただの音の響きにしかならなかった。俺は、動揺で前を見ることしかできなくなっていた。新井を攻撃したのが誰かなんて、どうでもいい。今は、ムスブの話を聞きたかった。
「未来人って…ホントか?」
「ああ本当さ。こいつらはね、気が遠くなるほどの未来から来た奴らだ。この時代の人間を、古代人だって蔑んで、その優越感を享受している」
未来人。その言葉で、全てがつながってゆく。世界を作り変える力…この時代の物とは思えない技術力。なんでもっと早く気づけなかったんだ。人類滅亡、デザイアグランプリの存在しない世界。なんでそんな願いを認めることができたのか。叶うわけがないって、知っていたからだ。未来は既に存在し、デザイアグランプリは続いている。俺が頑張ったって、願いは叶わない。だから泳がせて、客寄せのパンダに使う。参加者の中でも、特に俺は滑稽に思えただろう。すべて騙されていた、運営にも、新井にも。
「わかったかい?ジャマトに組しない限り、君の願いは、絶対に叶わないっ!」
そうか。ジャマトに手を貸せば、ニラムのヴィジョンドライバーを奪えば、創世の女神は…俺の物…?オーディエンスが俺を見下す世界も、この遊び場も、全てひっくり返せるじゃないか。ムスブへと手が伸びる。新井が、やめてと叫んでいる気がした。
(約束が…"夢"になってくれるその日まで)
(俺は、家族を信じたい!でも、お前も信じたい!)
直前で、上遠と快富の声が頭に響いた。家族がジャマトの犠牲となり、人生を狂わされた二人。大切な家族を、ムスブに踏みにじられた二人。彼らを思うと、ムスブの手を取る道理も無かった。ジャマトと手を組んだって、結局誰かがまた不幸になるだけだ。俺は、ムスブに伸ばした手を引いた。どうしたらいい。俺は、俺の望む世界は?俺が望む世界を叶える方法は?
オーディエンスは、平気で現代人の心を踏み荒らす。騙す。見せ物にして楽しむ。自分は何もしない。ただ楽しむだけ。
ジャマトは、人の命を奪う。大切な世界を壊し、自分たちの好きなように生きる。
俺は……おれは…どうしたらいい。
「いらなくなったらまた作り変えればいい!そうやって遊び場にしてきたのよ!この世界を!」
『FINISH MODE』
上空で、また未来人のライダーがこの世界を壊そうとしていた。常人と比較しても数倍ある体躯、あれはジャマトのスポンサーだろうか。銃にエネルギーを込めて、地面へと振り下ろそうとしている。気づけば、レイジングソードを握る手に力がこもっていた。今。俺がすべき事は。
「これ以上っ…これ以上…お前たちに好き勝手させるかぁ!」
『RAISE CHARGE!』
「うわああああああああっ!」
喉が焼けるような絶叫をあげながら、俺は未来人向けて飛び上がった。レイジングソードを突き立て、未来人の銃と激突する。大きく火花が走り、紫の放出間際のエネルギーが、全身を焦がす。力の差があることは分かってる。俺たちに渡された力だけじゃ、未来人には到底かなわない。でも、一度振り上げた拳を下すには遅すぎた。
「ちょっと、あんた正気?バカねぇ!」
「全部…お前らが招いた事だろぉ!」
『COMMAND TWIN VICTORY!』
さらにデザイアドライバーのレバーを操作し、バーニアの火力を上げる。もう着陸も防御に使えるエネルギーも残ってなかった。
「この世界は、俺たちの世界だっ!お前らの遊び場じゃない!」
「それ、あんたのサポーターに言ってあげたら?」
未来人は、いたって冷静に。空いた片方の拳で横から俺を殴りつけた。景色が一気に流れ、レイジングソードが投げ出される。
すぐに、自分が敗北したことに気付いた。
数本の木をなぎ倒しながら、俺は墜落。襲い来る爆風に、意識は消えた。
DGPルール
デザイアグランプリは、
はるか未来から訪れたオーディエンスが楽しむため、
歴史上の様々な時代を舞台に繰り広げられる
リアリティーライダーショーである。
練習を終えた体育館。奏斗と城玖は、器具庫の鍵を返しに行っている。
「玲先輩、その後奏斗先輩とはどうなんですか?」
後輩の芹澤君がいたずらっぽく聞いてきて、顔が一気に紅潮した。汗拭き用のタオルで顔を隠す。
「い、いや~夏休みの終わりに、海沿いの水族館に…」
「うわっ!マジ最高っすね!二人とも羨ましいなぁ…」
それ以上踏み込んでこないあたり、芹澤君はいい後輩だと思う。でもその前に、バスケの試合に集中しなきゃね、お互い。
「おめでとうございます!」
体育館から出ようとしたところで、見知らぬ女性の声に引き留められた。いつ入ったのだろうか?体育館の中央に、黒と白の服を着た女性が立っている。こちらに見せる微笑は、まるで女神のようだ。そして手元には、二つの黄色い箱。おめでとうの言葉は、私たちに向けてなのかな?
「あなた達は、仮面ライダーに選ばれました!」
私と芹澤君は、恐る恐る箱を受け取った。
これが、悲劇の始まりだった。
次回:仮面ライダーギーツ外伝
「水中脱出ゲーム!スタートです!」
─今、明かされる─
「消防士だからね、得意なんだ」
「先輩!落ち着いてください!」
「ふざけんな!お前の手なんて借りるか!」
「世界のことは俺に任せとけ」
「だって、奏斗がそこに!」
─黎明のすべて─
「俺は…このゲームを下りる」
28話 発露SP:再放送、黎明Ⅶ。