仮面ライダーギーツ外伝 一歩IF:片脚の男   作:みなかみ

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更新が遅れてしまい、本当にごめんなさい。
ようやくスケジュールを確保することができました。
これからも忙しい日々が続くので、次の更新は先になりそうです。

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ニチアサの感想など、皆さんと語りたいです。
生存確認にご活用ください。
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それでは、最新話をどうぞ!



28話 発露SP:再放送、黎明Ⅶ。

 

 これしかない、と思い込んでいた。俺の嘲笑われた願いを、遊び場にされたこの世界の恨みを、晴らすためには。一度決めたら後戻りができない。間違っていると最初から気付いていても、その時の感情に身を任せてしまう。俺はまだその程度で、まったく進歩していなかった。多分、これからもそうなんだと思う。デザイアグランプリが、無くなるまでは。

「この世界は、俺たちの世界だっ!お前らの遊び場じゃない!」

「それ、あんたのサポーターに言ってあげたら?」

 ジャマトのサポーターが、俺を地面へと殴り抜ける。抵抗する間も無く、高く伸びた木々を幾度となく背中で薙ぎ倒し、墜落。地面に激突した後は、表層の土を引きずりながらようやく止まった。自らが通った跡が、はっきりと残っている。変身はすぐに維持できなくなり、大破したコマンドバックルが仰向けとなった体にパラパラと崩れる。

 そして、間髪入れず襲う爆風。ジャマトのスポンサーの一撃だろう。防御も身構えることもできず、焼けるような感覚と共に意識を手放した。

 

 

『TACTICAL BLIZZARD!』

「いた、あそこに倒れてる!急いで景和!」

 燃え盛る炎を氷で相殺しつつ、ナーゴとタイクーンは歩みを進める。ナーゴ・フィーバービートフォームに、タイクーン・ブーストニンジャフォーム。彼らも爆風に巻き込まれたものの、サポーターから受け取ったバックルたちのおかげで、軽微な負傷で済んでいた。それでも、森林一帯に広がっていた木の葉が原因で炎の勢いはすさまじく、アーマーは焼け焦げ、呼吸も十分にとることができない。

「待ってろよ、奏斗君!」

 火中で無抵抗に倒れている奏斗に、タイクーンが駆け寄る。デザイアグランプリのユニフォームにはある程度の耐火性能もあったようだが、それも完璧ではなく袖口から火が上がっていた。露出している手の肌には大きく火傷ができている。周りの火が自分の放つ風で勢いを増さぬように、細心の注意を払ってタイクーンは奏斗を抱えた。ユニフォームの火を沈下し、今まで通ってきた道に振り返る。ナーゴが生成した氷の効果で、帰り道は火も無く安全である。

「祢音ちゃん!奏斗君まだ息あるよ!助けられる……っ?」

 タイクーンの視線にまず映ったのは、真っ黒な焼け跡の上に横たわっている祢音であった。ぴくりとも動かず、返事は無い。周りにジャマトはいない。他のライダーたちももう撤退しているはずだった。なのに、何故。タイクーンは考える間もなく、祢音を背中に背負おうと腰を低くする。

「先ずはここから離れないと…うっ!」

 祢音に手を伸ばしたタイクーン。負傷者をすでに抱えていたためか、背後からの攻撃に気付くことができなかった。首の裏を警棒で殴打され、一撃で気絶してしまった。祢音を庇うように倒れる景和、同じく地面に投げ出される奏斗。景和と祢音を攻撃した男は、雑に足で景和をどかすと、襟元を掴むように奏斗を持ち上げた。

「まだ死んでもらっては困る。お前にはも~っとオーディエンスをドキドキさせてくれんとな」

 ジットは、眉間に深い皺を作る。

 

             *

 

 深い。どこまでも落ちてゆく。目の前の光が遠ざかって、闇に溶けてゆく。必死にもがいても、手を差し伸べる人はいなかった。

「奏斗を……お願い。夢を……忘れないように。絶望しても、また立ち直れるように」

 今のは、玲の声?暗闇の、足元もおぼつかず、玲の声だけがはっきりと通って聞こえる。でも、息が細い。呼吸が上手くできていないような…それに、こんな取り乱した玲を俺は知らない。これは俺の記憶じゃない。今、何を聞いているんだ…?

「やめてください。また始めればいいでしょ……!僕たちには、あなたが必要だ!」

 次いで響いたのは、芹澤の怒号だった。こんなに感情を荒げて、芹澤らしくない。もしかして、こいつら今。

「ねぇ、私たち四人はさ」

「──────よけ───トーン!シャギーを!」

 英寿…?暗闇で反響して、どんな言葉を叫んでいるのかわからなかった。耳をすませていると、鼓膜が破けるほどの重く鋭い爆発音が襲った。そして滴る水滴の音。芹澤の絶叫、玲のうめき声。なんだ。何が起こってる…?闇の中で何度も目を動かし、状況を捉えようとするも、見えてくるものは無かった。確実に分かるのは、玲か芹澤が負傷し、英寿の救助は間に合わなかったということだ。玲が消滅してしまったのは、今の怪我が原因なのか…?

「遅かったか…!」

 初めて英寿の声が鮮明に聞こえて、初めて聴覚以外の五感が働き始めた。最初に触覚が覚醒したかと思った矢先、銃声と共に肩が物凄い反動に押し返される。撃ち抜かれた感覚は無かった。痛みは無い。でも、銃撃の迫力にまともに立っていられる筈もなく、後ろに大きく仰け反る。踏ん張る体力もなく、仰向けに転倒する。冷たい。と思った。地面も、どうやら俺自身も水浸しだったようで、ばちゃりと水が跳ね返る。

 これは本当に俺の記憶か…?身に覚えがない。英寿と俺は、デザイアグランプリで初めて知り合ったはずだ。芹澤と玲がどこで戦ったのかも知らない。

『ミッション…コンプリートです…』

 ツムリのアナウンスが流れる。どうした。待てよ、まだ終わらないでくれ。玲と、芹澤はどうなった。玲は、一般人を守って亡くなったんだろ。ここで死んだわけじゃないよな…?体がふわりと持ち上がり、布の上に移動された。ツムリのアナウンスが遠ざかってゆく。担架で運ばれてるのか…?まだ行きたくない。聞かせてほしい。ゲームの顛末を。まだ…覚めないでくれ…!

 

 

 さっきの記憶は……夢だったのか?

「おい────そろそろ起きろ。俺は気が短い」

 怪我人にしているとは到底思えない雑なゆすり方に、目を開かされた。意識を取り戻して最初に目に飛び込んできたのは、紫色のスーツを着た男の仏頂面だった。ここ最近一番の眼力に、跳び起きそうになるも、体がそれを許さない。喉も火傷していたようで、声も思ったように出なかった。

「だ、誰だ…お前」

「ジットだ」

 目が覚めた俺から、ジットは遠ざかってゆく。目だけを動か辺りを観察すると、真黒で真黒で煤だらけのユニフォームの下に、包帯でぐるぐる巻きにされた腕が見えた。これでもかというほど固定されていて、思うように動かせない。こいつが俺を助けて、治療をした?にわかには信じがたいが、人は見かけによらない…か?俺が寝かされていたのは、サロンにもあったような赤いソファー。モーンのと違って簡素だが、ここもオーディエンスルームらしい。痛みを堪えながらなんとか起き上がり、ソファーに座り直す。ジットは少し離れにあった柱に寄りかかって腕を組んでいた。

「モーンは、どうした」

「知らん。いらんことを聞くな。どうせもう会うつもりも無いだろうに」

 ジットの返答は素っ気なかったが、確かにその通りだった。あいつは、モーンは新井紅美で、俺を騙してた。そのことも腹が立つが、ある程度冷静に戻れた今でも、腹の虫が収まらないのは、ボランティア部の皆も巻き込んでいたというのが一番大きいかもしれない。あいつが何時からこの時代に潜伏していたのかは定かではないが、部長は新井紅美のためにボランティア部を立ち上げ、人生を捧げてきた。本当は新井紅美なんて奴はいなくて、モーンの遊びの一環でしかなかった。快富も、上遠も、デザグラに家族を奪われている。モーンはそれを知っていたはずだ。知っていて巻き込んだ。正気じゃない。

 そんなやつに、もうサポートなんてしてほしいなんて、思うわけがない。

『デザイアグランプリをご覧のオーディエンスの皆さまへ』

 ソファーと対面する形で浮かんでいたビジョンに、映像が流れ始めた。

『運営上のトラブルに伴い、予定を変更して、番組をお届けいたします』

 お詫びのメッセージが垂れ流されると、場面はゴージャスなスタジオにニラムとサマスの両名がそろっている映像に切り替えられた。なんかお昼の情報バラエティー番組みたいだな。番組名のタイトルは、緊急特番・デザグラスペシャル。

『これであなたもデザグラマニア。最後までお見逃しなきよう』

 ヴィジョンドライバーの奪還に失敗して、急遽穴埋めの番組を作ったのか。プロデューサーも多忙だな。と惰性で眺めているうちに、ジットが相当イラついてきていると気付いた。組んだ腕の中で人差し指を小刻みに動かし、左足のつま先をトントンさせている。顔面はずっと圧がすごいままだが…怒り以外の感情が読みづらい。そしてとうとう映像をぶつ切りしてしまった。本人は手で虚空を一度払っただけで、どういう技術を使ったかはわからないが。

「いいのか…?せっかくの、特番だろ」

「くだらん。こんな茶番に意味などない。俺たちは未来人で、現代を舞台にしたデザグラを行ってる。そんな周知の事実をくどくど説明されて、何が面白い」

 さっきまでその事実に打ちひしがれてたのが俺だったんだけどな…あっさりと語られてしまうと、感傷というものが薄れてしまう。成り行きで一緒にいてしまっているが、このジットという未来人は何者なのだ。モーンのことも知ってたしオーディエンスの一員…と言うにはデザグラに興味が無さすぎる。

「お前のスパイダーフォンをよこせ。デザグラ視聴用のアプリが入っているはずだ」

「は…?あれ、お前だったのか?」

「早くしろ」

 ジットが手を伸ばしながら詰めてきたので、言われるがままユニフォームにしまっていたスパイダーフォンを差し出してしまった。デザグラ視聴用のアプリ…唐突にインストールされていて謎の存在だったが、こいつが。ツムリにチラミ…ひいてはニラムすらもアプリに対して把握している素振りは見せていなかったし、それを知ってるってことは、こいつもしかしたらプロデューサーよりも上位の未来人…なのか。

 ジットは叩くように強めの指運びでスパイダーフォンの画面を瞳型のビジョンと遠隔で繋げた。芹澤と同じ方法だ。そして、過去の放送リストを遡り始めた。通常のデザグラだけでなく、デザロワの視聴権まで解禁されている。これがジットの権限か。放送リストはシーズンごとに区分されており、デザスター探しをしていた直近の放送回が乖離編、コラスの起こしたデザロワのくだりが劇場編、ギロリが失脚したのが謀略編、俺が初めて参加したシーズンが邂逅編とされていた。ジットはそれを全スルーし、邂逅編の一つ前、黎明編のリストを開いた。

「黎明編って、まさか…!」

「お察しの通りだ。お前はお勉強した方がいい。じゃなきゃ、客寄せパンダは辞められないぞ」

 黎明編、玲が退場したシーズンだ。それが何だというのだ。IDコアの記憶に封印されたものは無いはずだ。玲が死ぬ様を見て、何の勉強になると言うのだ。俺が乗り気かどうかなんてお構いなく、ジットは『黎明Ⅰ:地下世界の宝と罠』から再生した。

『ようこそ!デザイアグランプリへ!』

 いつもの恒例のツムリの挨拶からそのシーズンが始まった。集められたのは五十人。今となってはもう見慣れた英寿の堂々たる立ち姿に、キョロキョロと目が泳いでいる吾妻道長の姿が大きく映っている。バッファはこれが最初の戦いだったのか。

 そして、横並びで不安げな顔を浮かべている玲と芹澤の顔もあった。

 

 

 なし崩し的に願いを記入した後、ツムリはすぐに参加者をバラバラに巨大な地下水道へ転送した。

『運命の第一回戦は、トレジャーハントゲーム。隠された秘宝を見つけてください。制限時間は一時間。当然、宝を横取りしようとするライバルもいるのでご注意ください!それでは、トレジャーハントゲーム、始まります!』

 アナウンスの終了から間髪入れず、頭に懐中電灯を付け、砂埃だらけの服を纏ったトレジャーハンタージャマトが参加者を襲撃した。まともな戦闘経験の無い参加者たちは強制的に組まされたチームの存在を忘れ、散り散りに逃げ惑う。戦闘用のバックルも無い状況で、まともにジャマトとやり合うのは得策では無い。が、背中を見せず真っ向勝負を挑んでいるチームもあった。

「フンッ!ハアッ!」「オラアアッ!」

 浮世英寿、吾妻道長のチームである。足技で華麗にジャマトを退ける英寿に反抗するように、道長は拳一つで突破してゆく。

「噓でしょ…まずいよ…」

 二人と同じチームに振られてしまった鵜飼玲は、後方でドラム缶の裏に体を小さくして怯えていた。争いを好まない性格ゆえか、願いのためとはいえ、他者を攻撃するのには抵抗があった。動けなくなっている玲が流石に放っておけなくなったのか、英寿が足を止めて声をかけた。

「大丈夫か。止まってるよりも、動く方がまだ安全だぞ」

「は、はい…」

 ようやくドラム缶の裏から出られた玲を、道長が鼻で笑う。嘲笑の対象は、玲だけでなく英寿も含まれていた。

「助ける必要なんてあったか?どうせデザ神取り合うライバルだろ」

「これはチーム戦だからなぁ。仮面ライダー同士、仲良くするもんさ」

 舌戦で有利なのはいつも英寿である。怒りを募らせた道長は、英寿を横切り早歩きで先を目指した。ジャマトの亡骸が積みあがった地下水道の果てに、金色に煌めく宝箱が設置されている。蹴りで蓋を開くと、大量の金貨や宝石にハンマー、クロー、プロペラの各種小型バックルが埋もれていた。地下世界の秘宝とは、戦闘用バックルを指していたのである。道長はハンマーを選び、英寿にクローを、玲にプロペラを投げ渡した。

「くだらねぇ…どいつもこいつも欲望だらけで反吐が出る」

 久々に表れた血の気の多いタイプのライバルの登場に、英寿は笑みで返す。

「確かにな。俺たちは願いを叶えたいって欲望に憑りつかれてる。けどな…」

 英寿は宝箱に歩み寄り、もう目ぼしいものが無いかと思われていた金貨の山に腕を突っ込んだ。そして一気に引き抜くと、リボルバーに引き金が合体したマグナムバックルが姿を現した。三つの小型バックルはフェイクで、宝箱の本命は隠されたマグナムバックルにあった。得意げにマグナムバックルをちらつかせる英寿に、道長は怒り心頭の様子だ。

「もっとその先を見据えなきゃ、願いに足元掬われるぞ」

「ちっ!来やがったぞ…!」

 参加者たちがゲットした宝を奪い取るべく、トレジャーハンタージャマトが狭い通路を我先にとなだれ込む。

「手を貸そうか?」

「ふざけんな!お前の手なんて借りるか!」

「だろうな。……シャギー!迷うの良いが、答えはしっかり出せ!」

 英寿に発破をかけられ、玲はユニフォームの胸元を皺ができるほど強く握る。

「…!私も、戦います!」

 玲の覚悟を見た英寿は、マグナムバックルで仮面ライダーギーツに変身する。残りの二人も、その動作に倣って変身した。

 早々にバックルを手に入れ、ジャマトとの戦闘を始める参加者が出始めた頃。まだ芹澤朋希は共闘する味方すら失った状態にあった。チームを組む手筈となった参加者と共に、宝箱を見つけたは良いものの、仕掛けられていたトラップを踏んでしまったのである。トラップは古典的な落とし穴で、地下水道のさらに下の階層まで落ちた後、激流にさらわてしまった。そこで溺れかけていたところを助けたのが…

「いやぁ。君を助けられて良かったよ。僕もトラップを踏んでしまってね。チームメイトとはぐれちゃったんだ」

 仮面ライダーシローの豪徳寺武。流されている朋希を引き上げた豪徳寺自身も、水でずぶ濡れ。身を呈して朋希を助けた上で、なんと有り合わせの布で手の怪我の手当までしてくれていた。申し訳なさと情けない気持ちが相まって、朋希は言葉に迷う。

「…すいません。おんぶにだっこで」

「いいんだよ。消防士だからね、得意なんだ。人助けは日常茶飯事。さ、立って」

 手を貸し、朋希を立ち上がらせる豪徳寺。お互いにバックルが無い状態で、そのままの流れでチームを組む形になっていた。束の間の安息かに思われたが、同じく罠にはめられたジャマトが僅かな足場にこぼれ落ちてきた。ジャマトは鞭やツルハシで武装しており、生身で戦うのはいささか不利である。豪徳寺はそれを瞬時に理解し、逃げの策を取った。

「走れ!」「ああっはい!」

 芹澤朋希、豪徳寺武、浮世英寿、吾妻道長、そして鵜飼玲。この五人が、黎明編のメインメンバーとして頭角を現すこととなる。

 

 

『黎明Ⅱ:棒倒し』『黎明Ⅲ:覚醒ゾンビ』

 結果として、トレジャーハントゲームで生き残れたのは半数以下の二十人だった。残りはトラップで行方不明か、ジャマトに殺害されて退場となった。二回戦は棒倒しゲーム。ジャマトチーム、仮面ライダーチームに分かれて、自陣の柱を防衛。敵チームの柱を破壊するか、全滅させれば勝利。前半、後半戦三十分ずつ。次いで、仮面ライダーには活躍に応じてポイントが割り振られ、ポイント下位の十人が脱落となる。

 前半戦では、大本命のギーツが大活躍。アメリカンフットボールの鎧を纏い、小隊を組んで迫るアメフトジャマトを、精巧な射撃で一網打尽。他にも、シャギーがシークレットミッションクリアでブーストバックルを手に入れるなどのイベントがあったのだが、この出来事が後半戦で尾を引く形となる。一部の参加者が結託、ブーストバックルを横取りしようとシャギーの妨害を始めたのである。しかも、直接攻撃のペナルティをくらわない姑息な方法で。アメフトジャマトの大軍をあえてスルーし、後衛に単独で残されたシャギーとぶつける。シャギーはブーストを使う余地もなく追い詰められる。

 危うくジャマトに殺されかけたシャギーを救ったのは、以外にもバッファだった。

「もういい…こんな仲良しごっこなんてもうウンザリだ!俺が終わらせる…!」

 ここで図らずしもバッファは、『参加者を助ける』のシークレットミッションをクリア。ゾンビバックルを入手する。

『ZONBIE!』

 そこからは速かった。ゾンビバックルを手にしたバッファの猛攻は凄まじいもので、手始めにシャギーを妨害した参加者を、毒手で拘束。行動不能にした上で、アメフトジャマトの大軍をたった一人で正面突破。見事棒を倒して完全勝利を決めた。

 結果として、シャギーを妨害した参加者は、バッファの足止めが原因で、ポイント不足の脱落。バッファにも当然妨害のペナルティが入ったが、ジャマトの撃破数が減点を上回った。

「くだらねぇ……何が理想の世界だ」

 デザイアグランプリに真っ向から反攻するバッファの姿は、鮮烈に視聴者の目に残った。ベロバが既に目をつけていたことは、まだ誰も知らない。

 

 

『黎明Ⅳ:ダイスと駒』『黎明Ⅴ:爆音ブースト!』

 三回戦が行われたのは、人気のない集落であった。その村で開催されたゲームは、すごろくゲーム。ターンごとにサイコロを振り、マスに従ってゴールを目指す。当然イベントマスもあり、バックルの供給や、一ターン休みなどの障害となるマスもあった。ジャマトはプレイヤーの三ターン後にスタートし、二倍の目が出るダイスで運の悪かったプレイヤーを蹂躙してゆく。このゲームで特に目立つ活躍を見せたのは、仮面ライダーシローの豪徳寺武と、仮面ライダーハイトーンの芹澤朋希だ。

「願いは叶える、この世界も守るよ。悪いね、これだけは譲れない!」

『BOOST!ARMED ARROW!』

 豪徳寺武の願いは明かされることは無かった。思惑にまみれたデザグラの中でも、私欲に溺れず、それでも願い続ける心を忘れなかった。その真摯な姿にオーディエンスは心を打たれ、ブーストバックルをラッキーマスを介して彼に授けた。

「僕の願いは、”みんなとずっとバスケをし続ける”ことだ…!誰にも邪魔はさせないぞ…!」

『BEAT!ARMED CLAW!』

 先輩たちを思い、自ら体を張ることを選んだ彼は、参加者同士の熾烈な争奪戦を制してビートバックルを手にする。圧倒的な願いへの貪欲さ。隠れていた彼の本心に、バッファやシャギーはもちろん、あのギーツすらも度肝を抜かれた。

 シローとハイトーンの猛攻ですごろくゲームは終結を迎えるが、ゴールに間に合わなかった参加者は大量に脱落となり、残ったのは五人。

 そして訪れる、玲にとって、朋希にとって、奏斗にとって最悪のゲームが。

 

             *

 

 県大会に出場が決定し、俺は浮足立っていた。その裏で玲と朋希は懸命に戦っていたと言うのに。

 画面に映される血生臭い戦いを見る度に痛感する。俺はあまりにも鈍感であり、デリカシーの無い男であったと。

 戦いが激化し、心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。もう少しで、玲が死ぬゲームが始まる。

 逃げることはできない。黎明の全てを見届けることが、俺の使命であったような、まだ俺は自分に酔っていた。

 ジットはピクリとも動かず、画面も見ようとしなかった。

 

 

『黎明Ⅵ:ドッキリ!水中脱出ゲーム!』『黎明Ⅶ:群青の海賊』

 デザイアグランプリが開催されてから早三か月。最初は五十人もいた参加者はたったの五人へと減り、荒事には慣れない玲の顔は憔悴しきっていた。他の四人はまだピンピンしているが。頬の肉が削がれ、暗い雰囲気を漂わせる玲を他所に、ツムリは今日も元気溌剌だ。

「仮面ライダーの皆さん。ジャマトが現れました!」

 今回現われたジャマトは、ウェットスーツにガスボンベを背負ったダイバージャマト。海辺に陣取り、一般人を誘拐した。

「ダイバージャマトは、一般人を攫って、水中の檻に閉じ込めてしまいました」

 ツムリの司会を挟みながら、参加者はレインボーブリッジの上に転送される。

『海底に眠る鍵を見つけて、檻から一般人を解放してください。制限時間は五時間で、それを過ぎると一般人の皆様は食べられてしまいます。それでは、ゲームスタートです!』

 開始の合図と共に、海面にダイバージャマトが浮上した。水中に突撃した仮面ライダーを一網打尽にするつもりのようだ。

「先輩、大丈夫ですか?体調とか」

「うん…ちょっと寝不足なだけ」

 朋希の手前強がっているが、不調であることは明白だ。勘所の悪い道長にも見咎められ、ここぞとばかりに悪態をつかれる。

「情けないな。とっととリタイアしたらどうだ?死ぬぞ」

 英寿と豪徳寺はそのやり取りを傍観しているのみだった。ゲームは既に始まっている。朋希と道長の静止を聞きいれなかった玲が、プロペラバックルと、棒倒しゲームで入手したきりだったブーストバックルを両手に持つ。道長も渋々だが変身の姿勢を取った。

『SET』

「「「「「変身!」」」」」

『BOOST!ARMED PROPELLER!』『BEAT!』

『MAGNUM!』『ZONBIE!』『ARMED ARROW!』

『Ready?Fight!』

 各々武器を装備すると、迷いなく海面へ飛び込んでゆく。ダイバージャマトはモリを片手に、ライダーらに攻勢をかける。仮面ライダーのスーツには、水中でも呼吸が可能なように設計されているようで、ライダー同士内蔵されたインカムで会話しつつ潜航してゆく。ギーツがマグナムシューターで突きをいなしながら海底に目を凝らす。すると、水中に透明な正方形の箱が浮かんでおり、鎖でグルグル巻きにされていた。鎖は南京錠で繋がれ、唯一の扉が封鎖されている。

「あれが水中の檻か…!」

「いるね、中に人質」

 シローが言った通りに檻の中、五名ほどの男女が無造作に転がっている。意識がある様子はない。檻と仮面ライダーの間には、無数のダイバージャマトが待ち伏せており、強行突破は難しそうである。それ以前に、鍵がどこにあるのか定かでなはい状況で戦い続けるのは得策では無い。全員、薄々現状を理解していながらも、ダイバージャマトの猛攻を振り切るのは容易ではなかった。

「ゾロゾロうぜぇな…ふっ!」

『POISON CHARGE!』『TACTICAL BREAK!』

 バッファは水圧に動きを鈍らせられながらも、ゾンビブレイカーの刃でモリを溶かし斬り、ダイバージャマトを叩き切る。これまでのゲームに比べて、ジャマトの出現量があからさまに増えていた。これもまた、最終戦が近づいている証拠である。それでもジャマトをいなし続けるバッファに呼応するように、ハイトーンがビートアックスから冷気を放った。

『TACTICAL BLIZZARD!』

 冷気は海水に伝わり、棘を無数に生やした尖塔となってジャマトを貫く、勢いでバッファもくらいかけていた。

「おい!今当たるとことだったぞ!」

「しょうがないでしょ。水中じゃ、炎は消えるし雷はみんなを巻き込む!氷しかない!」

「今巻き込まれたんだが!?」

 口喧嘩をしつつ戦う二人を他所に、他の三人は順調に脅威を排除していった。脚部のブーストの噴射を推進力に、前方に掲げたプロペラを回転させての斬撃が、ダイバージャマトを斬り刻んでゆく。玲も幾重の視線を切り抜けた仮面ライダーの一人。他のメンバーとも引けを取らぬ強さだ。ジャマトの軍勢を通り抜けたところで反転し、下半身に捻りを加えた右足のキックで火炎を放つ。火炎の効果によって一部の海水が蒸発。生まれた真空部分に渦潮が生まれ、全てのダイバージャマトを押し流した。

「これで…最後…」

 まだ戦闘を開始してから三十分に満たないにも関わらず、シャギーはヘトヘトになっていた。すかさず、ハイトーンが彼女の手を取る。

「本当に大丈夫なんですか…?マジで休んだ方が…」

「大、丈夫だって」

 シャギーはハイトーンの手を剥がすと、だんまりと海流に揺られる檻に動き始める。

「どこに鍵があるかだな…」

「探せって聞こえはいいけど、この海底じゃねぇ」

 ギーツとシローは冷静に推理をし合いながら、檻に手をかける。次いで、バッファが到着した。先の戦いでストレスが溜まっていたのか、ゾンビブレイカーを真っ先に振り上げる。

「こんなの壊した方が早いだろ…ふっ!」

 ゾンビブレイカーは確かな命中精度で鎖を捉えたが、見事に跳ね返されてしまった。

「ああ!?んだよ…!」

「鍵が無いと鎖は外れないらしいな。人質は…高校生か…?」

「待って。この制服ってさ…!」

 三人の目が捉えたのは、正に芹澤や玲が通っている高校の制服そのものであった。空色のワイシャツに、白のベスト。チェックのズボンとスカート。それぞれ壁に寄り添うように気絶している。男子が二人と、女子が二人。そして、

「奏斗…?」

 ようやく追いついたシャギーが、ぼつりと言い放った。いつも通りの放課後、その背中に声をかけるように。まだ、デザイアグランプリに参加していないはずの、その男に。

 

 

「は……?」

 デザイアグランプリに、俺がいた。目覚める直前、夢のように流れ込んだ感覚を思い出す。あのやり取りは、俺が、デザイアグランプリの被害者として巻き込まれていた時の記憶ってことか…?じゃあ、この後何が起きる…?俺は、玲の死をどのように受け止めたというのだ。

「俺は、どうして、何の…つもりだ…!」

 ジットは黙りこくっている。再放送を見るその態度もつまらなそうだ。

「答えろ…!」

 なんで俺に黎明編を見せる。こんなことして、お前に何の得があるってんだ。声は相変わらず上手に出なかったが、ジットは俺の意図を汲み取ったのか、微動だにせず呟いた。

「仕事だ」

 こっちを見ようとしないその態度、誰かが黎明編を俺に見せることを指示した事実。それだけで、ジットにはこれ以上何の作為もない、情報源にならない存在であると俺は悟った。今は、ただ画面に集中するしかないようだ。

 捕えられた俺を目にし、呆然とする玲。最後に檻へとやって来た芹澤は、一度言葉に詰まったものの、玲と比べれば案外冷静だった。今までのゲームでも、桜井沙羅や俺の両親、冴さんの家族とか、参加者の家族がジャマトの標的になることは多々あった。だからこそ参加者は救助に必死になり、その分ゲームは盛り上がる。それがニラムのプロデュースの方針なのか、アルキメデルの悪趣味な戦略なのかはわからない。間違いないことは、俺があの場にいることも御多聞にもれない例だということだ。

『先輩、鍵を探しましょう。ゲームが続く限り、先輩はまだ助かります』

『う、うん。そうだよね。まだ、死んだわけじゃないし……!朋希!』

『え?』

 言葉を繰り返し平静を保とうとする玲が突然芹澤の名前を叫ぶ。暗く深い海を抜け、朋希の背後に人間の数倍の体躯を誇る鯨が大口を開けていた。寸前で気付いた玲が、朋希の襟元を掴みぐいと引き寄せ、プロペラでガードの姿勢をとる。鯨の口からは巨大な牙が生えており、実在の鯨とはまるで違う凶暴なものであった。プロペラと牙が金切り音をたてて衝突する。鯨には牙以外にも無数に鋭い歯が備わっていて、それらが一斉にプロペラに噛みつく。みるみる内にプロペラはへこみ、歪んでいった。マフラーからの火炎放射の勢いで一応力は拮抗しているものの、武器の損傷と水中という環境も相まって、玲は押されていった。

『先輩っ!』

『パワーが……でかすぎる……これは!?』

『オラアッ!』

 プロペラが折れたことと同時に、バッファが鯨を蹴り飛ばしてくれた。流石の馬鹿力だが、それに助けられた。ついでギーツが銃撃で牙にダメージを与えたことで、鯨は深海へと後戻り。

『待ちなさい…!どうしてなの…奏斗ぉ…』

 玲の訴えに敵は応じることは無く、闇に溶けてしまった。ばらばらであったライダー達は、檻の前方に一塊となる。

『今のクジラは…!』

『たぶん、ジャマトなんじゃないかな』

『どうでもいいだろ。ただぶっ潰すだけだ』

『重要なのはあの鯨を倒すことじゃない。鍵を探すことだ』

『私見ました。鍵』

 玲の発言に、他の注目が集まる。

『あの鯨ジャマト、歯の間に金ぴかの物が挟まってた。あれが鍵…だと思います』

『……わかった。まだ時間はある。一度サロンに戻って、体制を立て直そう』

 慣れない水中線で消耗した参加者たちは、ギーツの提案に同意せざる負えなかった。ただ一人、玲だけが、水中の檻に後ろ髪を引かれていた。

 

 

 水中の浮遊感が解放された芹澤朋希は、重力の偉大さをソファーの上で感じていた。海から上がった瞬間から、体が鉛のように重い。ただソファーでうつぶせになっているだけなのに、重しが矢継ぎ早に乗せられているかのようだ。横目で他の人を観察してみると、やっぱり鍛え方が違うのだろうか、存外けろっとしている。ぐったりしているのは僕と、玲先輩くらいだ。

「芹澤君、コーヒー飲む?ギロリさんに淹れてもらったよ」

「先輩、無理しなくていいっすよ。フラフラじゃないですか」

 僕の見立て通り、コーヒーカップを両手に持つ先輩の足取りはおぼつかない。カップの黒い液体が揺れて、縁を伝っていた。

「え?大丈夫だよ。これくらい部活のハードメニューに比べたら…あっ!」

 先輩が足を絡ませて転びかけた所を、英寿さんが右腕で受け止めてくれた。奇跡的にコーヒーも無事だ。

「嘘だな。シャギー、その熱じゃ無理だ。棄権したほうがいい」

「先輩、やっぱり体調悪いじゃないですか…!」

 がばっと起き上がって先輩のおでこに触れてみると、かなりの熱だった。こんな体で水中を飛び回ってたのか。最初から顔色悪かったし、もっと強く止めるべきだった。両手のコーヒーカップを奪い取ってテーブルに置き直すと、英寿さんに代わって先輩を支える。

「とりあえず、横になりましょ」

 ベットに寝かせようとする僕の腕を先輩は掴んで止めた。病人とは思えないほどの強い力でだ。

「浮世さん…っそう言って、ライバル減らそうとしてるんでしょ…?その手には乗りませんよ……皆を助けるのは私、です」

 先輩は僕の腕の中で、英寿さんを見ながら冷笑した。そんなに強がらなくても…!

「無理は言わない。世界のことは俺に任せとけ。生きている限り、やり直せる」

「あなたに、私の何がわかる……」

 僕がいくらその場を離れようとしても、二人の舌戦は続いた。どちらかと言うと、無理を止めようとしてくれている英寿さんを、先輩が突っぱねているだけだったけど。僕もおおむね英寿さんと同意見だった。道長さんと武さんの視線が冷たく刺さる。

「お前の世界は、お前だけのものじゃないぞ」

「わかってますよ。だから、私だけの……そんな世界…終わってしまえばいい」

 最後に放った言葉の意味が、僕には理解できなかった。長く喋っていたからだろう、先輩の身体がまたぐらりと揺れる。もう限界だ。やはり棄権するべきだと僕も思う。僕の願いには、先輩の存在が絶対に必要だ。デザグラの退場者は二度と復活しない。先輩が死んでしまってはデザ神になる意味がない。

「ごめんなさい英寿さん。先輩のこと、寝かせてきます」

「悪いな」

 軽く英寿さんに会釈をして、サロンに併設したベットルームへ先輩を運び、靴を脱がせて横にさせる。もう先輩は僕の誘導に抵抗するほどの力が残っていなかった。もう次の戦いに参加するのも無理だ。熱が出ている原因はなんだろう。咳とか喉の異常が見られないし、風邪じゃない?もしかしてストレス?学校生活でこれといった違和感は無かった。となると……不安要素はできるだけ、潰しておきたい。ベット横の椅子に浅く座る。

「先輩、喋れる範囲でいいです。あなたがカードに書いた願いを教えてください」

 先輩は天井をじっと眺めていたが、ため息が決心の合図だったようで、少しずつ話してくれた。

「私が……書いたことはね。”奏斗たちが、インターハイに出場できる世界”だよ」

 奏斗先輩たちが目標にしていることが、そのまんま願いだったのか。やっぱり、と言うべきか。玲先輩は自嘲気味に語り続けた。

「馬鹿だよね。最初はね……デザグラなんて嘘だって思ってたんだ。だから、おまじないのつもりで書いたの。辛くなった時のお守りになればいいなぁ……って」

「そんな……奏斗先輩はそれぐらいじゃあ」

「わかるでしょ、芹澤君も」

 フォローで入れたつもりの言葉も、容易く見抜かれてしまう。こういう時の先輩は鋭い。

「インターハイ出場はね、奏斗たちが自力で叶えようとしている願いなんだよ…?それがわかってるから、芹澤君もそう書かなかったんでしょ……!?」

 先輩は勢いよく体を起こして、僕の両腕を掴んで揺らした。

「私だけだよ、私だけなんだよ!?私だけが奏斗の願いを踏みにじってる!誰かに頼ろうとしてるんだよ!?」

「先輩!落ち着いてください!」

 熱で思考が交錯している…!先輩を床に戻して、僕も息を吸い直す。訳は分かった。先輩が今までの戦いで消極的だった理由。願いが叶っても意味なんて無かったんだ。彼女にとって、出来心だった小さな祈りが、重なり積もって苦しめてる。正常な判断はもうできないだろう。この先はもう無理だ。後のゲームの攻略は、僕たちでやって、先輩には危険脱落を選択してもらうしかない。いや、それしかない。

「後は僕に任せて。あなたは生き残ってください…!」

「無理だよぉ!だって、奏斗がそこに!いるんだよ…?私にできることなんて、奏斗を助けることくらいしか…!」

 こんなことは言いたくない。だけど、ゲームから降りれば、全部忘れる。ここでもう、折れてもらうしかないんだ。ごめん、先輩。

「あ、あんた…!そう思ってんならっ……もう二度と僕たちの前に現れるな……っ!」

 ようやく先輩の動きが止まった。僕の額からは汗が滲み、歯ぎしりの音が脳に響いた。

「芹澤様……英寿様たちがゲームにお戻りになられるようです」

「わかりました…すぐに行きます」

 ギロリさんに促されて、ベットルームを後にする。もう、振り返ることは許されなかった。

 

 

 これは、償うための戦いだ。ジャマトが奏斗を狙った理由は知らないけど、きっとこれは必然だ。身勝手な願いを背負った、私への罰。手すりを支えに何とかゲームの開始位置であるレインボーブリッジの中腹までたどり着いた。海面の向こうで、芹澤君たちが鯨ジャマトと頑張って戦っているのが見える。芹澤君は優しい子だ。さっき言ってくれたきつい言葉も、私を戦いから突き放すための出まかせ。彼は誰かのために自分が罪を被ることができる。できてしまう。

「だから、君のせいには、させないよ」

『SET』

 ドライバーの右側にブーストバックルを震えながら差し込む。手すりから離れて、私は変身のルーティンを取った。右拳を左手の頬の前で作り、今度は右側に移動させて左腕と組んで十字を描いた。

「変身っ…!」

 ブーストバックルのハンドルを強く回した。

『BOOST!』『Ready?Fight!』

「私が、奏斗を助ける!」

 私は変身を終えると、身を投げ出して頭から海面に突入した。止まらない発熱を、海の冷たさが和らげてくれるように感じる。ぼんやりして動かしづらい体も、ブーストの噴射の勢いで動けば関係ない。鯨ジャマトは吾妻さんのゾンビブレイカーや、豪徳寺さんのアームアローの攻撃を物ともしていない。多少仰け反りはするけど、体表が硬すぎるんだ。浮世さんみたいに、歯を狙うしかない。

「朋希君!彼女が来てる!」

「え……!?先輩!なんで来たんだ!死ぬぞ!」

 私はもう、芹澤君の呼びかけに受け答えはできなかった。ごめん、すぐにもう消えるから。炎の噴射を左腕のみに収束させて、渾身のパワーで鯨ジャマトに突撃する。吾妻さんが正面からやり合ってくれていたから、動きは止まっていた。ブーストのパンチは流石の威力で、一撃で左側の牙を砕いた。今の攻撃で、鯨ジャマトの体躯が上向きに傾いた。上あごの歯の隙間に引っかかっていた鍵がきらりと光る。

「おい!なにしやがる!」

 吾妻さんの怒号を無視して、鍵へと手を伸ばす。鯨ジャマトが怯んでいる今しかない。パンチの余韻が残る左手で、鍵に手をかける。私の指先は、確かに鍵の頭を掴んだ。その時、鯨ジャマトがまた動き始めた。

「うっ!ったあああっあああ!」

 鯨ジャマトが勢いよく口を閉じたのだ。プロペラを破壊するほどの強靭な顎と歯で、左腕が砕かれる。海中に血が滲んで、鯨ジャマトが暴れる度に、付随して私の身体も振り回された。激痛と、体調不良が相まって、今にも意識が飛びそうだった。それでも、執念で鍵は掴んで離さなかった。

「やめろ!シャギー!」「先輩!今助けます!」

 浮世さんと芹澤君が助けに入ろうとするけど、暴れながらの尾びれの打撃で、二人まとめて吹き飛ばされる。ごめん、二人とも。私のせいで。ごめん、奏斗、私のせいで。みんな苦しいよね。辛いよね、私もわかるよ。

「助けるから……皆、みんな…………私が!」

 刹那、鯨ジャマトと私の間に閃光が瞬いた。

 鯨ジャマトは光に目をやられて、ようやく腕から口を離した。ぐちゃぐちゃになった腕が、海流にぷかぷか揺れる。閃光が収束すると、そこには舵輪を備えた一つのバックルがそこにあった。これは…新しいバックル?

『PIRATE BUCKLE』

 パイレーツバックル…?現れたバックルは、独りでに動きドライバーの左側にはまると、勝手にベルトを反転させる。

『REVOLVE ON』『SET DEPARTURE!』

「待っててね。奏斗、皆」

 私は右手で舵輪を回した。

『DUAL ON!PIRATE&BOOST!』『Ready?Fight!』

 海賊帽子を模した鎧、両手のサーベルとアンカー、銃の武器。私は、仮面ライダーシャギー・パイレーツブーストフォームへ変身していた。

「バックルと共鳴している…?」

「ああ。シャギーの、勝敗に関係なく、自らの望みを成し遂げようとする…強い意志に」

 豪徳寺さんと浮世さんの会話が後ろから聞こえた。共鳴、強い意志に。このバックルは生きているのかな。思わず苦笑いが浮かぶ。不思議と、左腕の怪我はもう何ともなった。新フォームの特典かな。

「もう長引かせないよ……あなたも私と一緒に後悔しなさい…自分の過ちを」

『BOOST TIME!』

 右腕からアンカーを伸ばして、鯨ジャマトの身体に巻き付ける。ブーストの熱と炎の力で、私を中心に渦巻きが発生していた。私は脚を海面に向けて振り上げる。渦巻きに呑み込まれた鯨ジャマトを、遠心力の力を借りて思い切り上方向へ投げ、それを追いかけるように私も蹴りの構えを取った。

『PIRATE!BOOST!GRAND VICTORY!』

 アンカーが巻き取られ、鯨ジャマトと私の距離はギュンと縮まり、炎の力に海流の勢いが混ざったキックが腹部に突き出される。私の必殺キックのパワーは鯨ジャマトを貫き、海面を抜けて空中へと弾き飛ばした。流れに乗って、レインボーブリッジの中央に着地する。同時に、鯨ジャマトが背後に落ちてきて、大爆発を起こした。

「はぁっ……ああっ…後は……奏斗を…」

『ZONBIE!STRIKE!』

 道長さんの必殺技の巨大毒手が、浮上してきた。その手には、正方形の檻が掴まれている。案外丁寧な動きで、檻は地面へと置き直された。檻を開くのに必要な鍵は、動かなくなった左手がしっかり握っていた。人質の同級生たちと奏斗は、まだ気を失ったままだった。水が檻の中に染みていたのか、みんなびちゃびちゃだったけど。

「良かった、間に合った……」

 一歩一歩、檻に近づいていくと、背後から、他の皆が海から上がってくるのがわかった。左手はもう動かなかったので、銃を檻の前に投げ出して右手に鍵を持ち替える。震える手で南京錠に鍵を差し込み、捻る。すると、勝手に南京錠と鎖は朽ちて崩れて、正方形の箱は泡になって溶けていった。力が抜けて、奏斗の前に座り込む。確かに奏斗は目を瞑ったまま呼吸をしていた。

「……生きてる…!」

「先輩!あんた、死ぬとこだったんですよ……!こんな怪我をする必要なんて無かった!」

 予想通り、朋希君はとても怒っていた。そりゃそうだ。あんなに自分を殺して悪口を言ったのに、私がこのなりじゃ浮かばれない。

「ごめんね。どのみち、次のゲームは、無理、だよね……この怪我じゃ」

 浮世さんが言う通りなら、救済措置の棄権脱落があるはずだ。デザイアグランプリを去れば、関連する事項の全てを忘れる。願いを叶えようとする意志すらも。でも、それでいいんだ。あの願いを忘れた私は、きっとひどいことになるだろう。奏斗の夢を、ひどい妄想だと踏みにじる人間になるだろう。もういい。奏斗は一人で立てるようになるから。もう、私がいなくても仲間がいるから。項垂れて、かぼそい声で呟いた。

「奏斗を……お願い。夢を……忘れないように。絶望しても、また立ち直れるように」

「やめてください。また始めればいいでしょ……!僕たちには、あなたが必要だ!」

 そうかな。君ほどの人間が言うなら、そうなのかな…?

「ねぇ、私たち四人はさ」

 私は、ようやく顔を上げることができた。でも、そこに飛び込んできたのは、目を疑う光景だった。

「避けろっ!後ろだ!ハイトーン!シャギーを!」

 背後から浮世さんの叫び声が聞こえる。私の眼には、ただ眠りに落ちたまま、私が持っていた銃を片手で構えている奏斗が立っていた。糸に吊るされた人形のようで、銃を持つ右腕以外はだらんと力が抜けていた。景色が、やけにスローモーションに見えた。

 

 二つに分かれた銃口から、散る火花と水滴。

 

 瞬間貫く、私の心臓。

 

 変身が解けて、芹澤君の顔に返り血がついた。

 

 私は、やけに納得した気持ちで、背中から倒れた。

 

「────っ、あ、ああ、嘘だ。嘘だぁあああああっ!」

 空を仰ぐ私の視界に、芹澤君が入ってくる。他の三人も駆けつけていたみたいだけど、視界の縁は白くぼんやりしていて、芹澤君の顔しか映らなかった。私は、もう死ぬのだろう。赤いノイズのようなものが、右目に映って視界を奪った。全身から血が抜けてゆくのがわかる。最後に───伝えなくちゃ。さっきの言葉には、まだ続きが───

 

「わ、わ私たちは……じぶんで───────かはっ、ああぁ……歩かなきゃ──────」

 

 待って!待って───────まだ───────

 

『MISSION FAILED』

 

             *

 

 あの裏切られた日と同じ気持ちだった。自分がどこにいるのか、何故立っていられるのを、処理できない。理解が追いつかない。こんな、記憶、ない。

 

「俺が…玲を殺した……?」

 

 無力感。今まで積み重ねてきたものが、一気に崩れる。画面の中で、IDコアが砕けて、玲が消える。そして、泣き崩れる朋希は、青いノイズにまみれて消えた。彼の言っていた、運営に引き抜かれた瞬間だろう。残された英寿たちは、ただ玲の残した血痕と、パイレーツブラスターを弾かれ、糸が切れたように寝転んでいる俺の前に、立ち尽くすのみだった。俺は……何かに操られていたのだろうか……?いや、それよりも重要なのは、俺が玲を殺した張本人であるということだ。今はもうそれしか考えられない。

「なんで……こんな」

「何をショックを受けている?」

 ソファーの上から離れられない俺を、ジットがのぞき込む。

「今までのデザイアグランプリでも同じようにやって来ただろう?鞍馬祢音をゾンビサバイバルで撃った。お前の得意技じゃないか」

「うるさい…!うるさいうるさい!」

 両手で頭を押さえて、その場で小さくなる。それでも、ジットはしつこく追い立ててきた。

「お前の本質を思い出せ。オーディエンスがお前に求めているのは正義の仮面ライダーじゃない。狡賢く、哀れで、滑稽な……そんな仮面ライダーになれない、スターの引き立て役だろぉ…?」

 頭が割れるような思いだった。俺は、どうして今まで戦ってこれたんだ?こんな俺を知っていた英寿と道長は、どんな気持ちだったんだ?

 なんで俺は、まだのうのうと生きているんだ?

 

 

             *

 

 ジャマーガーデン突入時から、奏斗先輩が行方不明になった。祢音さんと景和さんによると、生きているところを発見したらしいが、何者かに連れ去られたらしい。彼女は一緒に戦っていたはずだ。見ていたんじゃないのか、あんたは。

「モーン、奏斗先輩は、誰に攫われたんですか!?あんた、一緒にいたんだろ!?」

「─────知られちゃった、知られちゃった────もうダメだ、全部───────台無しだ」

 モーンは、本の壁の裏で体育座りをしてブツブツ呟いているだけだった。もうこの人はダメだ。使い物にならない。

「……奏斗先輩は、あなたの事、信用してたんですよ。仲間だと思ってたんですよ。助けに行かなきゃ!もう二度と、あなたが望むドキドキは得られないんですよ!」

 僕の呼びかけに、ようやくモーンのブツブツは止まった。

「─────わからない。何もわからないの。新井紅美として生きても、落書きをしても、デザグラを悪趣味な楽しみ方をしても、全部全部!わかんないんだよぉ!」

 モーンは座り込んだまま本の壁を崩して、自らの脚に顔を沈めた。

「私って何なの?もう、デザグラで悪い顔するのも限界だよ……何が楽しくて、ドキドキするのか全然っ…わかんなくなるの」

 剥がれた仮面。ボラ部の人を危険に晒して、楽しんでいたのも全てフリだったのか?他のオーディエンスと仲良く語り合ってたのも、全てか?彼女は一体何者なんだ?

『もうジャマトは、デザイアグランプリの敵役ではありません。これからは、ジャマトの世界が始まるのです!』

 ビジョンの映像が、ジャマトの活躍を映している。なんだ?ニラムが特番をやってたはずじゃ。

『その名も……ジャマトグランプリ!』

「嘘だろ……べロバか!」

 衝撃を受ける僕に少し気が傾いたのか、モーンもジャマトグランプリのロゴを目にして目を丸くした。次いで、チラミのヴィジョンドライバーを奪った張本人であるべロバが解説を始めた。

『ゲームの目的はただ一つ…!ラスボスのプロデューサー、ニラムを倒して、ドライバーを奪うこと~!見事成し遂げたジャマトはジャマ神となり、理想の世界を叶える権利を手に入れる…!』

 馬鹿げてる。こんなものが、このシーズンの結末なのか?先輩が、祢音さんが、皆が。頑張って戦ってきたことは、無駄だって言うのか。べロバが消えたビジョンからは、ジャマトが町を襲撃する様が中継されていた。先輩は、どこに行ったのかはわからない。だけど、僕ももう見てるだけではダメなのかもしれない。ずっと探ってた、奏斗先輩を操って、引き金を引かせた者を。恐らく、ジャマト側にその力を持っているものはいない。ムスブが怪しかったが、あいつは毒と変身以外に大した能力は無い。未来人のライダーもそうだ。ジーンの重力操作も、モーンの瞬間移動でもあのような挙動にはならない。となると、もっと上位の存在、運営の中枢に人を操人形のように操作できる力を持つ者がいる。それを探るためにも。今運営を撤退させちゃいけない。

「ジャマトグランプリを止めなきゃ…!」

 僕がオーディエンスルームを出ようとすると、モーンがようやくまともな声を出した。

「なんで戦うの…」

「僕の……思い出を取り戻すためです」

 モーンが、少し息を吞むような仕草を見せた。

 

 

「逃げて!」「早く!」

 一般人を襲うポーンジャマトの魔の手を、必死に防ぐ景和と祢音。次いで、英寿も加勢に入る。

「なんでお前らがここにいるんだ?これはデザグラじゃない。戦っても見返りは無いぞ」

「そういう英寿こそ、なんで来たの?」

「素直じゃないね!」

「まっ、キツネだからな」

 今、仮面ライダーは振るいにかけられている。願いと言う目標が無くなった参加者たち。それでは、何のために戦うのか。人々の悲鳴を見逃せない者は今こうして戦地に立ち、願いを優先した者は悪へと寝返った。真の仮面ライダーとは何なのか、その問いに答える者はもう一人いた。IDコア管理室の白衣を脱ぎ、久方ぶりの、デザイアグランプリのユニフォームに身を包んだ男、芹澤朋希である。颯爽と走り現れた朋希は、英寿たちに迫るジャマトを渾身の右ストレートで退けた。

「朋希!?」「ハイトーン!?」「えっ誰!?」

 朋希の登場に、衝撃を隠せない二人と、初対面の景和が驚きの声を放つ

「僕も戦いますよ。もう、傍観なんかしてられなくなった」

 朋希の宣言を聞き入れた祢音と英寿は、話は後だと言うようにバックルを取り出す。四人のライダーは並び立ち、一斉にバックルを装着した。

『SET』

「へ~ん「「「変身!」」」しんっ!」

『NINJA!』『MAGNUM!』『『BEAT!』』

『Ready?Fight!』

 正義の仮面ライダーたちは、一斉にジャマトと交戦を開始した。

 そして、もう一つの戦いを始めようとする者たちがいた。

「皆考えることは同じか。そりゃ、推しのライダーにデザ神になって欲しいもんな」

「とっととやろうぜ。人間のモデルは窮屈でしょうがねぇ」

「同感だね」

 ギーツのサポーター・ジーン、タイクーンのサポーター・ケケラ、ナーゴのスポンサー・キューン。人間のモデルで集合した三人に相対するは、バッファのサポーターであり、ジャマトグランプリ開催の張本人・べロバである。

「まとめてかかってきなさい。捻り潰してあげる」

「待って……!」

 一触即発の状態に、横槍を指すサポーターがもう一人。ダパーンのサポーターだった者、モーンである。

「私も戦う。もう一度、やり直すために」

 モーンも、レイザーレイズライザーを取り出した。

 

 

 皆、戦っている。朋希も、モーンもだ。自分の誇りを守るために、世界を守るために。俺はどうだ。今もこうして蹲っているだけだ。

「お前は行かないのか?」

「俺は…」

 みんなと合わせる顔が無い、一緒に戦う資格もだ。もう何も考えたくない。どこかへ、消えてしまいたかった。

 腰のデザイアドライバーを外し、テーブルへそっと置く。ユニフォームの中のバックルたちも同様にだ。

「俺は…このゲームを下りる。もう、戦わない」

 ソファーから立ち上がり、足を引きずりながら、オーディエンスルームを去った。

 

          JGPルール

 

        ジャマトグランプリは、

 

     ジャマトが理想の世界を叶えるため、

 

       仮面ライダーと戦うゲームである。

 




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「ジャマトグランプリ第1回戦は、」

─ジャマトによる─

「かみなりジャマト祭り!」

─祭りが始まる!─

「面白いことになってきた…!」

「逃げるんだ!早くっ!」

「もうどうでもいいんだ…俺は…!」

「夢に全力なのが、君の強さじゃないの?」

29話 激情Ⅰ:ジャマトの世界♡
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