デザイアグランプリ、二回戦。ゾンビサバイバルゲームにで俺はゾンビウイルスに感染。自暴自棄になって、私的な恨みを抱いていた鞍馬祢音への妨害に買って出た。結果は、失敗。鞍馬祢音を感染させる事に成功はしたものの、ギーツやタイクーンの援護もあり、道連れにはできず、ポイント不足で俺は敗北を喫した。はずだった。
最終的なポイントは、俺の方が僅差で鞍馬祢音に勝っていた。土壇場で鞍馬祢音の心の強さに気付いた俺に、滑稽な行動で勝ち残った事実が、今でもずしりとのしかかっている。それは、片足だけでは支えきれない程の重みで、
「おい墨田!墨田!話聞いてんのか!」
「あっ、す、すいません───────」
今は授業中だった。デザグラの事を考えてる時間じゃない。窓側の席から、クラスのカースト上位者がクスクスと後ろ指を指している。くそっ、うっざいなぁ。特に夢も将来の羨望もない奴らは気楽でいいよ。大学でハズレのサークル引いて、人生苦労すればいいさ。逮捕のニュースが報道されたら、壁一面に飾ってやるよ。
*
バスケを失った俺の人生はただのルーティーンに過ぎない。適当に授業受けて、さっさと家帰って。九時には眠りにつく。土曜日は惰性でテレビ見て暇をつぶして、後は適当だ。日曜も何をするでもなくスマホいじって、
「奏斗、勉強しないならお使い頼んでいい?シャンプー切れちゃってたのよ」
ルーティーンにも偶にイレギュラーが起きる。今回は母親からの頼み事。こういうのは無理にゴネずに、さっさと片付けるのが最短ルートだ。俺はスマホをソファーに投げ捨てると、母親から軍資金を受け取った。
「あぁ、すぐに帰ってくる」
二、三言で済むはずだった親子の会話。しかし、俺の母親は無駄口を叩く習性がある。勉強しろだのと軽いものは聞き流せる。だが極稀に、正確にイライラする言葉をぶちかます事がある。例えを使えば、地雷。
「ねぇ奏斗。あなた、もうバスケットボールはやらないの?ほら、怪我だって殆ど治ったし、また始めたら」
「───────バスケはもうやらないよ」
殆ど、治っただって?軽く言うなよ。こっちはまだ満足に走れもしないんだ。バスケなんて出来るはずもない。続ける理由も、もう失ってしまった。俺は、もう絶対にバスケをやらない。
「そんな事言わないで。ほら、半田くんだってまたやろうって言ってたわよ」
「半田、知らないね、そんな奴」
それ以上は、会話をしなかった。母親の話を無視して、俺は外に出た。
今日は厄日だ。太陽は夏らしく、さんさんと照っている。普段外に出ないためか、服装を間違えた。猛暑に対してワイシャツとセーターじゃ分が悪すぎる。首元から吹き出た汗が、じっとりとワイシャツの襟元に染みていた。なんで遠くのドラッグストアを選んでしまったのだろう。片手に掛けた詰替え用洗剤の袋が重い。暑すぎる。俺はチェーンが錆びて推進力がゼロの自転車を必死に漕いだ。自転車は金属が擦れる情けない音を立てながらギコギコと前に進む。今家には帰りたくないが、この暑さでは先に倒れてしまう。仕方ない。近道を使おう。ドラッグストアのある通りから自宅への最短ルート。それは、公園を突っ切るルートだ。通りの近くにある公園は敷地面積が広く、しっかりと道路もコンクリで整備されてて走りやすい。近道に最適なルートだ。ここからなら下り坂になっていて、必要以上に体力を使わずに済む。
俺は坂道を一気に下り、公園に侵入する。これで一気にショートカットだ!
しかし、面倒を避けたいと思ったときは、大抵もっと不幸な事が起きるものだ。
「はぁ〜あっついなぁ」
イチョウ並木の木の下で、桜井景和がくつろいでいた。俺は咄嗟に進路を変えて木の裏に隠れる。桜井景和は、日差しを避けられる木陰で、気持ちよさそうに伸びをしている。あいつは伸びをするのが癖なのか。というか暇ななのか。普段何をしてるのかは知らないが、あいつは一体どんな仕事を。どうせあのお人好しだ。のんきに適当な仕事に就いて、充実した毎日を─────
「はぁ、また面接落ちちゃったよ。このままじゃ姉ちゃんに示しがつかない…」
桜井景和は、ため息とともに肩を落とす。就活生だったのか。というか、またって。何回面接に落ちてるんだ。ざまあみろよ、と心の中で呟きつつも、このあとどうするか考える。このまま桜井景和が立ち去るのを待つのもいいが、それまでに俺の体力がもたない気がする。こうなれば気づかぬふりして突っ切るか。一瞬だったらあいつもわからないだろう。
俺は暑さで、大分判断能力が鈍っていた。
「こんなんじゃ、世界平和は程遠いな」
もしかして、今言ってたのがあいつがデザイアカードに書いた願いか?俺のと真反対じゃないか。どこまでもお人好しなやつめ─────多分、あいつは心から世界平和なんて願ってない。でも、他に望みがないから、何となくでそう書いてる。よくある典型的なパターン。それを面と向かっていったら、あいつは怒るだろう。これ以上あいつに講釈垂れられるのはゴメンだ。
桜井景和が俯向いている内に、俺は全力の力でペダルを漕ぐ。頼む、バレるな。
「あっ!墨田奏斗!」
俺の願いとは裏腹に、桜井景和は顔を上げて俺を指さしていた。俺は反射的にブレーキをかけ、桜井景和に振り返った。そのまま無視しても良かったが、なぜだかそれができなかった。ここで立ち去ってしまえば、桜井景和から逃げた気がして癪に障るからかもしれない。
「何?俺がいるからどうしたっての?」
「いや、別にどうってことはないけど。そこに君がいたからつい」
何だこいつ。いちいちムカつく奴だ。俺は自転車に乗ったまま、精一杯声を張りながら、桜井景和を煽った。
「それなら構うなよ。どうせ俺等は敵同士だ。次にはお前を蹴落としてやろうか」
桜井景和は、鞍馬祢音の顔が頭によぎったのか、柔和な表情を引き攣らせて立ち上がる。
「ふざけるなよ!お前のせいで祢音ちゃんは─────」
「何?怒ってんのかよ」
「言っただろ!人が、幸せになろうとする権利を奪う資格何て、誰にもないって!」
怒り慣れてないのか、淀みのある口調で反論した桜井景和は、ずいと俺に一歩近づくと、左手でポケットを弄り始めた。何が起こるのかと身構えたが、ポケットから出てきたのは、以外にも、鞍馬祢音の形見だった。ハンマーレイズバックル。こいつ、拾ってたのか。
「これ、君にあげるから」
これみよがしに見せて何かと思ったら、俺にあげるだって?
「は?冗談じゃない。お前に恩を売られるつもりはない」
「だって、せっかくのマグナム、道長さんにあげちゃったんでしょ?戦う武器が無いと、ジャマトにやられちゃうよ」
天然ぶってるくせに痛いとこついてくる。思えば、最初に手に入れたマグナムレイズバックルは、言うなればアタリらしい。それに対して、ハンマーレイズバックルはハズレ。金持ちだからって、デザイアグランプリは優遇しない。桜井景和だって、鞍馬祢音が自分で頑張る意志を見せなければ、ブーストレイズバックルを渡さなかっただろう。桜井景和は、金持ちだから、可愛いとかじゃなくて、本気で頑張る彼女を信じてブーストを渡したはずだ。俺は、マグナムを手に入れた時点でかなり有利だった。それ考えずに、結局はこんな結果になっている。全部俺の思い込みが招いた結果だ。
そう考えても、やはり心の内は反発する。コイツは、まぐれで生き残った俺を哀れんでるのかもしれない。鞍馬祢音を蹴落した俺を見下してるのかもしれない。ハンマーを渡すのは、何か裏があるかもしれない。次に脱落するのは、俺かもしれない。考えれば考えるほど、闇は正論を覆ってゆく。そして、また見えなくなる。
「いらねぇよ。そうやってお人好し気取って、見返りを求めてるんじゃないのか」
「そういうんじゃないよ。デザイアグランプリは、ジャマトから世界を守る競技だろ。たまたま願いが叶うっていう景品がついてくるだけ。僕達はライバルでも、敵でもなくて、助け合う仲間同士じゃなきゃダメなんだよ」
それを思ってるのは、参加者の中でコイツだけだ。見れば見るほど虫酸が走る。コイツと会話するのはやめよう。ストレスが貯まる一方だ。俺は桜井景和を睨み付けると、無理に自転車を発進させようとする。すると桜井景和は進行方向に割り込んできた。正気か、コイツ。
「待ってって!とにかく、君はこれを使って。俺はどんな人だって、見捨てることはしたくない」
ブレーキをかけていた俺の右手に、強引にハンマーレイズバックルを持たせてくる。根負けして、俺はついにそれを受け取った。くそっ。何でこんなことに。今日は厄日だ。もうとっとと帰ろう。
「言っとくけど、貸しにはしとかないか」
『GATHER ROUND』
捨て台詞をはいて桜井景和を振り払おうとしたその時、桜井景和のスパイダーフォンから呼び出しの電子音が響いた。デザイアグランプリの三戦目が始まる。神は俺を見放したか。もう、ゲームなんてやりたくないのに。
デザイアグランプリの待機エリアである、デザイア神殿。俺と桜井景和は一番乗りだった。デザグラの戦闘服に身を包み、他の参加者を待っている間、桜井景和とは何も会話をしなかった。最終的にハンマーレイズバックルを受け取ってしまった。言いなりになった事自体はとても腹立たしいけど、ありがたいのも理屈では理解している。実際、何のバックルも使わない状態なんて、いつもの身体能力に毛が生えた程度だろう。特に足の悪い俺にとって、少しでも得物がある方が楽だ。
「おっ、早いねお二人さん」
「もう来ないと思ってたが、相当願いを叶えたいらしいな」
小金屋森魚に続いて、浮世英寿も現れる。浮世英寿は俺を見るなり、肩に肘を乗せてきた。距離が近い。
「誰が?人類滅亡の願いは、お前も対象だぞ」
「だといいな。どちらにせよ、勝つのは俺だ」
口の軽い男だ。浮世英寿はやけにデザグラに詳しい。前大会参加者の吾妻道長よりも、もっと。何か深い事情があるのかと勘ぐったが、これ以上無駄な体力は使いたくない。浮世英寿の軽口を無視していると、だいぶ遅れて吾妻道長も合流した。ゲームが始まる前から息が切れている。一体何をしていたんだ。
「速攻で─────仕事終わらしてきてやったぞ」
コイツも体外間抜けだな。
「皆さんお集まりですね。新たなジャマトが現れました」
神殿にナビゲーターのツムリが現れる。空中に表示されたホログラムには、拡大するジャマーエリアの地図と、数名の男女をさらうジャマトの様子が映されていた。さながら、"不思議の国のアリス"に出てくるトランプの兵隊の姿をしたジャマトは、統率の取れた動きで人間を襲っている。
「これよりデザイアグランプリ三回戦。神経衰弱ゲームを始めます」
「神経衰弱って─────あのトランプの?」
「まさに、今回のターゲットはトランプジャマトです」
なんて安直な命名なんだ。見た目通りじゃないか。
「カップルが集まるデートスポットを襲い、恋仲を引き裂いて自分達の巣に持ち去る習性があります」
なかなかに陰湿な習性だ。そもそもジャマトに青春を嫌悪するほどの感性と知能を持ち合わせているか謎だが。浮ついたカップルの空気はジャマトからでも不快に見えるのか。
「今回は…くじ引きでデュオを決めてミッションに挑んでもらいます」
ツムリは文字通り何もないとこから箱を取り出す。いや本当にどこから出した。
「デュオ?」
「二人一組のチーム戦ってわけか」
チーム戦?冗談じゃない。ただえさえこっちはゾンビゲームのせいで空気が最悪なんだ。誰と組んでも上手く行く気がしない。
「ジャマトを全滅させればミッション完了。今回もスコア勝負です。最終的にスコア最下位だったデュオ二名が、脱落となります」
「望む所だ」
浮世英寿は堂々とふんぞり返る。今回のゲームで二人も脱落するのか。つまりこの次のゲームで残るのは三人。最終戦が近づいてきた。いや、待てよ。今ゲームに残っているのは五人じゃないか。二人組のデュオを組むのに一人余る。五人のうち一人は孤独に戦わなきゃいけないのか?
「では、前回までのスコア成績順にくじ引きをしてもらいます。まずは…」
「俺だな」
俺の心配を他所に、浮世英寿は意気揚々とくじ引きの箱に手を入れる。やはりこいつの余裕の素振りは気に障る。頼むからこいつとのデュオだけはやめてくれ…あぁ、でも桜井景和もそれはそれで嫌だな。他も気性が荒かったり、胡散臭くて信用に欠ける。でも浮世英寿とだけは嫌だ──────
「俺の相方は…ダパーンだ」
「はぁ?」
浮世英寿の持つくじには、どデカくダパーンのマスクが描かれていた。
「よろしくな、ダパーン」
駄目だ。運が無さすぎる。俺が肩を落として落胆している内に、次は吾妻道長がくじを引いていた。吾妻道長の手元には、緑色で着色されたタイクーンのくじがあった。
「タイクーンか…」「俺が、君と…?」
吾妻道長と桜井景和でデュオが決まり、余ったのは黄金屋森魚だった。
「じゃあ、俺が組むのは、誰?」
そうだ。デュオが名目のゲームなのだ。一人で戦えってのも酷だろう。大げさな表情で問う森魚に、ツムリは微笑み、何処からともなくトランプの束を取り出した。まただ。ツムリの本職は手品師なのか。
「我々デザイアグランプリの運営側から、特別に一名参加します」
鮮やかかつ無駄のない手付きでトランプをきるツムリ。山札の一番上に来たカードを、なんとツムリは人差し指で弾き、宙を回させたカードを反対の手で掴んで見せた。もしデザイアグランプリをリストラされても、ツムリはマジシャンとして職に拝せるだろう。
「その名も…仮面ライダーパンクジャックです!」
『ENTRY』
「うわっ!びっくりした…いきなりライダー?」
森魚の隣に、既に変身した状態のパンクジャックが現れた。バックルは何も持っていないようだが…いや待て。
「なんか、奏斗君と似てる?」
俺は唖然として立ち尽くす。パンクジャックと名の付いた仮面ライダーの頭部は、俺が変身するダパーンそっくり。というか、ただの色違いじゃないか。ただ顔のパーツが全部メタリックオレンジになっただけ。それに加え、このパンクジャック、背中にマントを装着している。殊更俺のダパーンよりも派手だ。モチーフの動物は何なのだろう。かぼちゃか…?運営側のデザイナーもネタ切れなのか?
「顔出し、声出しNGのスタッフなので、ご理解ください」
まぁ色々不満はあるが…今は浮世英寿とデュオになったことのほうが問題だ。
「ギーツ・ダパーンデュオ、タイクーン・バッファデュオ、メリー・パンクジャックデュオに決定しました!今回はデュオごとに宝箱を一個プレゼントしますので、仲良く使ってください」
誰が…。
「それでは、ミッションスタート!」
*
俺と浮世英寿が転送されたのは、海岸沿いの発電所だった。
鉄柵で囲まれたコンクリート固めの道の先に、ピンク色の宝箱が見える。浮世英寿は悠々と宝箱を拾い上げ、中に入っていた黄色いバックルを俺に投げてきた。思わず、パスを受け取る要領でバックルをキャッチしてしまった。握った手を広げると、そこにあったのは、宝探しでも、ゾンビサバイバルでも見たことがないバックルだった。ライトイエローの本体に三本の、
「爪?」
「クローバックルだ。それはダパーンが使え。そのほうが二人のパワーバランスが取れるからな」
ちっ、コイツも俺に恵んでやろうってか。俺はそれを投げ返そうと思ったが、また説教じみた話を聞かされるのは嫌だったので、今回ばかりは大人しく従うことにした。浮世英寿の背後に四体のトランプジャマトが見える。一体あたりのポイントは、ゾンビサバイバルと同じなら百。最大で稼げるポイントは四百か。今回はスコアの加点が用意されていないから、あのジャマトは特殊な倒し方があると見て間違い無いだろう。神経衰弱、デュオ───────いや、何必死になってるんだ、俺。こんなゲーム勝ち残ったって、俺に何が残る。仮に人類が滅亡しても、それからの俺はどうするんだ。死ぬのか?運営は、俺の悪意を都合良く利用しようとしてるだけなんじゃないか。
「おい!行くぞ、ダパーン。ゾンビサバイバルの件なら気にするな。願いを叶えるために、貪欲になるのも、勝ち抜くには必要な資質だ」
「黙れよ…」
浮世英寿の声に、強制的に思考をシャットアウトされる。そうだ、これで死んだら、この先何もできない。デザ神になって、あの浮ついた奴らに復讐するんだ。
俺は右のスロットにハンマーを、左のスロットにクローを装填。浮世英寿はゾンビバックルをセットした。
『SET』
俺は唸るように首を回すと、バックルを起動した。
「「変身!」」
『DUAL ON!ARMED HUMMER!ARMED CLAW!』
『ZOMBIE!』
俺は仮面ライダーダパーンに変身した。そして、ゾンビブレイカーを構えたギーツが先陣を切る。
『Ready?Fight!』
俺達は平等に二体ずつトランプジャマトを相手取る。右手のハンマーで槍での攻撃をいなしつつ、背中にクローの斬撃で手痛い一撃を食らわせる。俺は足が悪いので、激しい動きはできない。でも、足が悪いなら悪いなりに、戦い方があるってものだ。俺は右腕を目一杯振り抜き、ハンマーを投擲する。そのハンマーはギーツが戦っていたトランプジャマトの頭部に見事命中。跳ね返ってハンマーは俺の手元に帰ってきた。
「おおっ、やるな」
「ちゃんと避けないと、次はお前に当たるぞ」
背後から迫っていたトランプジャマトにクローを突き刺し左手を自由にすると、今度は奪った槍をもう一体目掛けて投げた。槍はトランプジャマトの胴体を貫通し、トランプジャマトは爆散した。よし、一体目撃破。突き刺したままのクローを抜き、ハンマーをアッパーが如く振り上げた。トランプジャマトは鉄柵に激突し倒れる。やったか?
しかし、胴体に一瞬、ハートの6のトランプが見えたかと思うと、トランプジャマトは何も無かったかのように立ち上がった。先程倒したはずの分も、いつの間にか胴体の穴を塞いで復活している。トランプジャマトは俺を嘲る様にジャッジャッとポーズを取ってみせた。
「この野郎…」
一方、ギーツもトランプジャマトを追い詰めている様子だった。ゾンビブレイカーにエネルギーを集中させ、刃が振動する。
『POISON CHARGE! TACTICAL BREAK!』
ゾンビブレイカーを振り抜き、すれ違いざまにトランプジャマトを両断した。だが、やはりトランプジャマトは一度トランプに身体を分解して再構築。再びギーツの前に立ちはだかった。
「何…!」
ジャマトは俺達を煽りながら一直線に逃亡する。負けもしないが倒れもしない。面倒な相手だ。
「どうやらこのゲームには秘密があるようだ」
ジャマトが撤退したため、一度サロンに戻った仮面ライダー達は、それぞれ椅子に座って休憩していた。結局他のデュオもトランプジャマトを倒せなかったようで、三組のゼロポイントの表記が並行線を作って並んでいる。
「おお〜みんな倒せなかったみたいだね」
黄金屋森魚の軽口を無視しながら、カウンター席に座った俺は、コンシェルジュであるギロリの淹れた珈琲をすすった。口いっぱいに苦みが広がる。これが味わい深いというやつだろうか。しかし苦い。何処かに砂糖は無いか。砂糖、砂糖…。
「お探しのものはこれか?」
俺の隣に座った浮世英寿が、ガラスで出来たシュガーポットを持っていた。中には数個の角砂糖が重なっている。この男とデュオになった事を、今は心底後悔している。全てを見透かしたかのような視線。何枚も上を行かれている感覚。嫌気が差す。
「誰が必要なんて言った?」
「そうか」
浮世英寿は相槌を返すと、自分のカップに角砂糖を入れ始めた。一個、二個と角砂糖が黒い海の中に沈んてゆく。入れすぎだろ…!そんなんだったら最初からカフェオレでも頼んでろよ…!結果浮世英寿は五個の角砂糖を溶かし飲み始めた。俺が驚愕して動きを固めていると、浮世英寿は腕を組みながら語り始めた。
「攻略法ならもうわかってる。なぜこれが神経衰弱ゲームなのか、なぜ俺達がデュオを組まされたのか。お前ももうわかってるんじゃないか?」
やっぱり見抜かれてたか。
「やはりそういうことか…」
「えっどういうこと?」
桜井景和…!盗み聞きしていたのかこの狸。攻略法を他のデュオに知られてたまるものか。あっちには吾妻道長がいるんだ。脳筋戦法で突貫、ポイントを掻っ攫われたら溜まったものじゃない。
「おい、お前も体外小癪だな。人にあれだけ言っておきながら、」
「いや、英寿君に用があって────これと、君の持ってるゾンビバックル交換しない?」
そう言って桜井景和が差し出したのは、吾妻道長の持っていたマグナムバックルだった。確かに、吾妻道長はマグナムバックルを使いづらそうにしていた。そもそもマグナムバックルは遠距離専用のバックルだ。突撃して近接でぶっ放す戦い方は向いてないだろう。それに対し、ゾンビバックルは近接特化。ゾンビブレイカーと毒のデバフで怒涛の攻撃ができるバックル。直情的な吾妻道長にはぴったりだろう。だが、それを交換してと吾妻道長の代わりに欲求してくるとは、本当にコイツはお人好しだな。だが─────
「いただけないな。そうやって、自分たちだけが有利になるつもりか?」
「マグナムだって強い装備だろ?」
「ああ。俺が使えば特にな」
意外にも、浮世英寿は同意して見せた。
「各IDにはバックルとの相性があるらしい。ギーツならマグナム。バッファならゾンビを使うと力が増幅するんだ。まぁ、それを使いこなせるかどうかは、本人次第でもあるけどな」
確かに。ゾンビを使っているときのバッファの猛攻は凄まじいものだった。色合いも紫で同じ。ギーツも白でそう。だとしたら、俺にも何かしらの相性の良いバックルがあるってわけか。白いマグナムを使っても力が上がった感じはしなかったし、別のバックルがあるのか。そんな都合良く見つかるとは限らないか。
「だったらなおさら、これが欲しいだろ?」
本当にコイツはお人好しだな。どれ、一回ぐらい試してやるか。
「それならいいけど、そっちのブーストバックルも交換だ。さっき宝箱から手に入れただろ?」
どうだ。流石にブーストもとなるコイツのお人好しも化けの皮が────
「いいよ。はい」
なんと、桜井景和は迷いなく俺にブーストバックルを差し出した。マジか、コイツ。
「さて、戦力も手に入ったところだし、特訓だな、ダパーン」
特訓…?
*
ジャマトが再び現れた。今度は森林ののどかな公園の中に。おあつらえ向きに、四体のジャマトがカップルを襲っていた。
「神経衰弱ゲームと言えば、攻略法はただ一つ」
「同じ柄のジャマトを、二体同時に倒す…」
俺は先程の戦いと同じ装備を、浮世英寿はマグナムを構える。
『SET』
今度は並んで立ち、変身の動作を取る。
「「変身」」
『DUAL ON!ARMED HUMMER!ARMED CLAW!』
『MAGNUM!』
ギーツに変身した浮世英寿は、キザなセリフをジャマトに飛ばす。
「さぁ、開幕からハイライトだ」
「はいはい、じゃあ、ミュージックスタート」
俺はスパイダーフォンを持ち、クローの先端で再生ボタンを押した。
ボールを小脇に抱えた浮世英寿に連れられたのは、壁が全面鏡の部屋だった。
「ここは?」
「サロンの中にあるトレーニングエリアだ」
特訓って、マジかよ。ダルい。トレーニングエリアと称されたそこは、天井や床には謎の投影機材が設置されている。トレーニングエリアと名ばかるのに、ランニングマシンもダンベルも無いんだな。
「地上戦や水中戦、空中戦用のエリアまで、いろいろある」
いろいろの幅が本当にいろいろすぎる。地上戦ならまだしも、水中戦に空中戦?このちっちゃい部屋でか?もしかしたら床が抜けたりでもするのだろうか。現代の技術でそんな大逸れた施設が作れるのか謎だが。
「で、何の特訓?場合によっては帰るけど?」
「お前、バスケやってたんだろ」
「生憎、怪我でもうできないけどな」
残念だったな。俺はもうバスケをやらない。誰に何を言われようとも。もしバスケのトレーニングだったら、絶対にパスだ。帰らせてもらう。
「さっきの戦いでの投技。どれも一定のリズムで投げられていて、目を見張るものがあった。きっとバスケで鍛えたリズム感があったんだろう」
まぁ確かに、ドリブルとかシュートとか。相手に動きを悟られないように自分のリズムをしっかり持つのも、強いプレイヤーに必要なスキルだが…それがどうした?浮世英寿はスパイダーフォンを操作し、投影機材を起動する。すると、何もない所にジャマトが現れた。
「トレーニング用の仮想ジャマトだ。さて、ミュージックスタート」
浮世英寿のセンスだろうか、テクノポップ的な音楽が流れ始めた。
「特訓と言っても、するのは俺の方だ」
浮世英寿は抱えていたボールを俺に渡す。
「俺がお前の投擲に合わせて攻撃できるようにする。タイミングを合わせて、ジャマト撃破だ」
アイツの言いなりになるのは癪だが、それは正しい戦法だった。
『Ready?Fight!』
テクノポップの音楽に合わせ、ギーツは両腕より展開したアーマードガンから銃弾を連続発射しながらジャマトに突撃する。さらに、マグナムシューターを手の内で回転させながら銃弾を放ち、四体のジャマトに全弾命中。ジャマトは装甲が破壊され、内側のトランプが露出した。右から、ダイヤの8、スペードの9、ダイヤの2、ハートの3。
「ギーツ!右から一体目と三体目がペアだ!」
「見切った」
『SET』『DUAL ON!』
ギーツの空いていたスロットに、ブーストバックルが装填される。
『GET READY FOR!BOOST & MAGNUM!』
ギーツは最強のマグナムブーストフォームに変身。スライディングしながら、ペイント弾をトランプジャマトに投げる。
「ダパーン!この二体がターゲットだ!」
「はいよ!」
俺はハンマーを投げ、関係無いハートのジャマトを退けると、怪我をしていない左脚でジャンプし、クローで突き、もう一体のスペードのジャマトをぶっ飛ばした。脚の負担にならないように、転がり込んで受け身を取る。これで邪魔者はいなくなった。あとは、ペイント弾の付いた二体を、同時に倒すだけ。ペイント弾の付いたジャマトの一体が、槍で攻撃してくる。音楽に合わせながら背中と左腕で槍を挟み、右手のハンマーでリズミカルにジャマトを滅多打ちにした。ギーツの方も、音楽のリズムに合わせ、確実にリズムを取りながら攻撃している。俺たちのリズム感は完璧に重なった。
「そろそろいいか?」
『HUMMER!STRIKE!』
「あぁ!タイミングを合わせてフィニッシュだ!」
『MAGNUM!TACTICAL BLAST!』
俺がハンマーを投げるテンポに合わせ、マグナムシューターから必殺の銃弾が放たれる。音楽の盛り上がりが最高潮になり、二つの攻撃は同時に別々のジャマトに命中する。今度こそどうだ!
『SCORE UP』
トランプジャマトの身体は爆散。再生することなく、辺りにトランプが飛び散り、俺達に降り注いだ。スパイダーフォンを確認すると、俺達のデュオに二百ポイント加点されている。これで一先ずは安心か。
「やったな、ダパーン。最速クリアだ」
「ああ」
俺達は目線を合わせずに、クロスタッチをした。
「皆様、お疲れ様でした。逃走したジャマトはあと六体です。またいつ出没するかわかりませんので、呼び出しがあるまで、デザイアエリア内で待機していてください」
ギロリが告げた通り、ジャマトを倒せたのは俺達だけのようだった。他のペアは苦労をしている。桜井景和は吾妻道長の凶暴っぷりに振り回されているし、黄金屋森魚はパンクジャックの扱いに苦労しているようだ。まさに前途多難。ざまぁみろ。
「腹ごしらえでもしとくか、付き合え、ダパーン」
「お前の奢りならいいぞ」
俺と英寿は並んでカウンターに座る。こういう日はカレーがいい。スパイスでストレスを吹き飛ばしてやる。
「調子に乗りやがって…」
「だから言っただろ?これが勝者と敗者の差だ」
英寿の煽りスキルも中々に高い。あれを食らっていたらと思うと、寒気がする。
「かぁ~もう、こんな相棒じゃ無理だよ。もう!」
黄金屋森魚はパンクジャックを軽口小突く。すると、パンクジャックはやり返した。しかもかなり強めに。
「くじ運のせいだとお思いですか?でしたら、ご案内がございます」
ギロリのもつタブレット端末に、一枚のカードが表示されていた。そこには、デュオ交代チャンス券の文字。
「ゲームの活動時間に応じて配られるデザイアマネーで、一度だけくじ引きをやり直せる、スペシャルくじ引き券が購入できます。既に獲得済みのスコアは、個人の持ち点として新しいデュオに引き継げるので、ご了承ください。もっとも、スコア0の方々には、関係ありませんが」
嫌な話だ、正直他の誰とも組みたくない。折角ポイントが手に入って、最下位が遠ざかったんだから、このままでいさせてくれ。
「ふざけやがって。情けなんていらねぇ」
そう言うと、吾妻道長はサロンを去ってしまった。まぁいいだろう。黄金屋森魚は間違いなくくじ引きを使うだろうが、俺を引くと決まった話じゃない。俺は振り返って、目当てのスパイシーカレーを注文した。
DGPルール
IDとレイズバックルには、相性がある。
ただし、バックルが手に入るかは、プレイヤー次第。
次回:仮面ライダーギーツ外伝
「デュオ交代のお知らせです」
「勝つ執念が無いやつに、理想の世界はやって来ない」
─二組のデュオの行方は…?─
(そんな世界…終わってしまえばいい)
3話 邂逅Ⅴ?:逆転の手段