仮面ライダーギーツ外伝 一歩IF:片脚の男   作:みなかみ

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激情編
29話 激情Ⅰ:ジャマトの世界♡


 

 ジャマーガーデン跡地、爆破を逃れた廃墟にて、ジャマトの会合が行われていた。主催のべロバ、参謀の五十鈴大智、育て親のアルキメデル、内通者のムスブ、プレイヤーの吾妻道長。それに加えて、集まったジャマトが七体。ルーク、ビショップ、ナイト、そしてジャマトライダーが四体、いずれもアルキメデルが手塩にかけて育てた純粋に戦闘に特化した個体たちである。高台に上ったべロバは、左手を振り上げ宣言した。

「ようこそ!ジャマトグランプリへ!私がゲームマスターのべロバよ」

 右手には、鎖で繋がれた鈴の数々。べロバは高台から降りると、参加者たるジャマトたちに一つずつ鈴を配ってゆく。

「おめでとう。あなたたちは選ばれしプレイヤーよ」

 念願のジャマトグランプリ開催に漕ぎつけ、べロバはご満悦な様子だ。ジャマトライダーに対しては追加装備のフィーバースロットバックルが支給される最中、アルキメデルは両手に鉢植えを抱えて咽び泣いていた。

「あああぁ……これだけになってしまったが!生き残ったお前たちは大切な、大っ切な私の右腕や左腕だ!」

 当然、鉢植えにはジャマトの幼体が実っている。そんなアルキメデルの悲しみにべロバは興味関心が無いようで、参加者リストを壁に表示しながら語った。

「誰かの大切な物を壊すことによってたまるスコアを競い合う!最高にゾクゾクするゲーム!」

 ジャマトが壊すべきものにはスコアがあらかじめ設定されていた。早い話、人間を殺せば殺すほど付随してポイントも加算される仕組みだ。

「見事ラスボスを倒したとき、最もスコアが高かったジャマトはジャマ神となりぃ、不幸の世界を叶えられる!」

「さぁ、人間たちに報復する時だ!ハハハハハッ!」

 浮足立つ二人を尻目に、道長はあまりテンションが上がらないようだった。かつての名残であるデザイアグランプリのユニフォームから、革ジャンにハーフアップという出で立ちに変わっている。

「世界を作り変える力何て無いだろ」

「どうせ手に入るわ。ううん、ミッチーが手に入れてくれるんじゃない?ラスボスを倒して、ヴィジョンドライバーを奪ってね。気に入ってくれた?私のコーディネート!」

 道長はべロバを無視し、廃墟の奥へと消えてしまった。その背をナイトジャマトと五十鈴大智が追いかける。

「面白いことになってきた…!だが……」

 階段の裏で右手にぶら下げていた鈴を、ムスブはじゃれる猫のようにつつく。

(あの時……奏斗君のサポーターを攻撃したのは誰だった?赤いエネルギー弾……なぜ僕を助けた?)

「奏斗君。君のことをまだ諦めるわけじゃないよ。君は間違いなく、ジャマト側だ」

 きっと、運命は僕に味方をしている。この世界は、奏斗君は、僕がもらった。

 

 

 モーンはオーディエンスルームに戻っていた。しかし、もう本の裏に隠れるようなことは無く、背筋を伸ばして僕の事を待っていた。

「ようやく落ち着きましたか?」

「うん。芹澤君、ありがとう。でも、もう私には近づかない方がいいと思う」

「なんですか、突然」

 突然の心変わり。僕がずっと見てきた狂気的なモーンの面影はもうなかった。どちらかと言うと、奏斗先輩に接触していた新井紅美の顔に近い。

「べロバに逃げられた後、ここに贈り物があったの」

 モーンが持っていたのは、先輩のドライバーとIDコアだった。ジャマーガーデン突入以来、先輩は行方不明が続いていた。捜索も行ったが、爆破跡地に先輩の遺留品は無かった。IDコアがこうして無傷で残っているということは、先輩はまだどこかで生きているということだ。でも、先の戦いでも先輩は来てくれなかった。いや……来なかったという方が正しいのだろうか。

「奏斗は今、自分の家の近くにいるよ。多分、運営の人になにか吹き込まれて、戦いを降りたみたい。私が指示していたプレイヤーだったから、狙われたんだと思う。芹澤君もそうなってしまう前に、戦いを離れて」

「はぁ……なんでそう言い切れるんです?」

 モーンは、躊躇いこそしたがはっきりと目を見て答えてくれた。

「私に目を付けてる……デザグラの創設者に近しい人がいる。その人に逆らったら、ギーツでも勝てない」

 デザグラの、創設者に近い……!?モーンの声色には怯えが混ざっていて、とても嘘をついているようには見えなかった。でも…糸口を見つけたのかもしれない。玲先輩を殺した張本人は、モーンと繋がりがあるに違いない。ギーツでも勝てない?そんなことは鼻からわかっている。ここで食い下がるわけには、行かない。

「大丈夫ですよ。僕はデザグラ運営。つまり、そのお偉いさんの味方です。何かあるときは、解雇されるときですよ」

 僕は、精一杯能天気なふりをしてモーンの方を叩いた。出てこい。創設者のお近づきさん。僕がこの手で、お前に叶えさせる。玲先輩を取り戻した世界を。奏斗先輩が殺してしまった過去を変えさせてやる…!

 僕は高揚感と共に、先輩のドライバーとIDコア、そしてバックルを受け取った。

 

 

 家に帰る気にもなれなかった。ただ、英寿たちがジャマトグランプリを早く終わらせて、楽になりたいという思いだけだった。

 曇天の元で、ただどこかを目指して彷徨い歩いていた。

 

             *

 

 千年もの歴史を持つ鬼塚寺。そこで毎年開催されるのが、すずなり鬼祭りである。開催前日に迫った境内では、地域住民たちがせわしなく祭りの準備を進めていた。そして、飾りつけの手伝いをする者が三人。ボランティア部の広実須井、上遠赤哉、快富郁真である。ボランティア部を学校で成立させているのは、このような慈善活動を定期的に行っているからである。本来の目的である落書きの処理とは外れるが、学校に対する点数稼ぎのようなものだ。

「……結局二人とも来なかったな」

 脚立の頂点に座り込み、提灯を両手で抱えた郁真がしかめっ面になった。この数日の間、奏斗と新井紅美は学校に現れていなかった。携帯に連絡を取っても反応はナシ。今まで悪態はつきつつも学校と部活に通い続けていた二人だからこそ、郁真の心配の思いは人一倍強かった。それに、祭りののぼりを肩に携えた赤哉が同調する。

「どうして、なんでしょうか。おかしいでしょ、なにかの犯罪に巻き込まれているとか…」

 二人は共有こそしていないが、互いに別の事件でデザイアグランプリと奏斗の戦いを知ってしまった者たちである。死の危険が常に付きまとう戦いを見ているからこそ、失踪が死亡を意味する事を現実的に感じていた。もし、奏斗が命を落としていたら。そんな不安の渦中にいない広実須井はと言うと、三段重ねのビール瓶のケースを運びながら陽気である。

「そのうち帰ってくると思うけどねぇ。簡単に消える人じゃないと思うよ。あの二人は」

 もはやその軽口についていける気にもならず、二人はそっぽを向いて作業に戻った。当の須井はあっけらかんとしていたが。肩をすくめると、テントにケースを配る作業に戻った。

「あの…お祭り、明日からですよね?」

「ああ、そうだよ。出店もあるし、町中盛り上がるから、楽しみにしてなさい」

「へぇ…」

 須井の興味は、花束を大事そうに持っていた少年・ショウタと住職の会話にへと移った。まだケースが片手に残ったまま、かがんでショウタと目線を合わせた。

「鬼から怖がらずに鈴を取れば、願いがかなうってのが、すずなり鬼祭りの習わしだよ。叶うといいな、君の願いも」

「鈴を取ったら、お母さん帰ってくる?」

 ショウタが花束を所持していた意味を理解した須井は、彼の頭をガシガシと撫でた。

「もちろんだよ。君が勇気を強く出せばね」

 激励を飛ばす須井に、住職も笑顔の様子だ。しかし、楽し気な祭りの準備の空気は、鈴の音と共に消えた。神社を覆い始めた霧の向こう側から、低い笑い声が轟いていた。人の話し声、風で木の葉が擦れる音、その全てをかき消すように、彼らは現れた。

「郁真さん、あれって…」

「こんな時にゲームか…!」

 互いに状況を察した二人は、ハッと顔を合わせる。霧の先から現れたのは、ジャマトの軍団だった。ナイトジャマトが先陣を切り、ルーク、ビショップ、四体のジャマトライダーと続いている。ジャマトグランプリの開幕である。

「お前の大切な物は何だ……?」

 ジャマトたちは、腰に鈴を着用しており、不気味な音色を発していた。

「で、でたっ、鬼!」

「違う……何だあれは…!」

「ジャマトだ」

 須井の手から離れたケースが、激しく地面に跳ね返る。突如出現し、人を、物を壊し始めるジャマトたち。その度にスコアが換算されるブザー音が響いた。混沌と悲鳴の渦に堕ちた境内に、べロバのアナウンスが流れる。

『ジャマトグランプリ第1回戦は、かみなりジャマト祭り!雷を落としてぇ、町を滅ぼす。人間たちを苦しめて5つの櫓を完成させるの!そして全てを破壊する。災いの祭りを楽しみましょう!ハハハッ!』

 被害拡大を阻止せんと、郁真と赤哉が避難誘導を始める。しかし以外にも、先に行動を始めたのはこの男、広実須井だった。転んでしまい逃げ遅れた女性に斬りかかろうとするナイトジャマトにタックルを打ち込み、振り向かずに叫ぶ。

「逃げるんだ!早くっ!」

 いつもの飄々とした人相から外れ、血気迫る表情に成り代わった彼は、強くナイトジャマトを睨みつける。須井の思わぬ行動に、郁真と赤哉は唖然として足が動かない。ナイトジャマトはただの人間だと舐めている様子で、剣先を須井へと向けた。

「いい度胸だなぁ。人間の分際で」

「やれるもんなら、やってみなよ…!」

 挑発する須井に、ナイトジャマトが剣を振るい迫る。戦う力を持たない人間。ナイトジャマトにとって、敵ではなかった。

 

 

 一回戦が始まる数分前、サロンで待機していた四人のライダーたち。彼らの話題も、郁真らと同じく、失踪した奏斗についてだった。

「奏斗君……どこに行っちゃったんだよ…」

 ジャマーガーデン襲撃直後、奏斗の救出を果たすことのできなかった景和は、サロン内を行ったり来たりしながら片手で顔を擦る。同じくあっさりと気絶してしまった祢音も、ソファーの上で両足を抱えていた。

「この前の戦いにも、結局来なかったもんね…」

「でも……奏斗先輩が正しいですよ」

 祢音のソファーの背に腰かけていた朋希が、ポケットから奏斗が残したコアとバックルを取り出した。それらを握る手には、強い力が込められている。

「そのバックル……!」

「戦いを降りたんだな。ダパーンは」

「ええ……」

 向かいで腕を組み座っていた英寿は、奏斗の身に何があったか察しているようであった。奏斗が鵜飼玲を殺してしまった事実を、彼も間近で見ている。願わくば、戦いから身を引き、平和に生きてほしいというのが本音だろう。真実を知らない景和と祢音も、二人の重苦しい表情を感じて、それ以上口に出すことは無かった。

「町にジャマトが現れました!」

「ジャマトグランプリが始まったか」

 サロンに駆け込んだツムリの声を受けて、四人はバックルを手に取った。

 

 

 寺の境内には、すでにジャマトが満ちていた。四人の視線の先に映る、ナイトジャマトに剣を振るわれている広実須井。その姿を目にし、景和、祢音、朋希はすぐに走り始めたが、英寿のみ一瞬足が止まる。だが、すぐに気を持ち直して三人へと追いついた。

「「「「変身!」」」」

『NINJA!』『MAGNUM!』『『BEAT!』』

『Ready?Fight!』

 須井の肩に刃が到達する直前、マグナムシューターからの弾丸が剣を弾く。続けざまに、タイクーンが蹴りで退けた。ギーツは一度棒立ちになっている須井の顔を見るも、声をかけることも無く戦闘に戻る。ジャマトの軍団と仮面ライダーで乱戦となった状態に乗じて、赤哉と郁真が須井の腕を引いた。

「後は俺たちだけだ。とっとと逃げるぞ!」

「部長!何立ってるんですか!」

 須井も、ギーツの姿を見て唖然としている様子であり、足に釘を打たれたようにその場がから動けなかった。

『SET』「変身」『JYAMATO ZONBIE!』

 戦闘の隙間を縫うように、道長の変身するバッファ・ゾンビジャマトフォームが現れ、タイクーンを後ろから叩き斬った。不意打ちを受けて地面に背中を付けたタイクーンは、攻撃をしてきたバッファに激昂する。

「何するんだよ!?」

「お前たちにもスコアが設定されているからな」

「スコア!?」

「その通り」

 今度はボランティア部の退路を断つように、地面からアクエリアスキメラジャマトが浮上してくる。ボランティア部を守るように、ハイトーンが間に割って入る。それを気にとどめることも無く、キメラジャマトは解説を始めた。

「このジャマトグランプリでは君たち仮面ライダーが敵役さ。家族や建物、大切な物を壊すより、君らを攻撃して得れるポイントは一万と高い。要は、いいカモってことさ!」

 ムスブが背部の棘を手に持ち返したところで、戦闘が再開される。ハイトーンがビートアックスで棘の一撃をガードしたが、横からジャマトライダーが大ぶりのパンチを繰り出す。それを間一髪で身を引き避けると、二体にまとめて電撃を放って退けた。

「まさか、僕たちが敵役になるなんてね!」

「デザグラと立場が逆転したな」

 相手が幾度となく入れ替わるもつれにもつれた戦いの中で、四体のジャマトライダーがフィーバースロットバックを取り出す。べロバから支給された教科アイテムだ。左側のレーンにフィーバーバックルをセットし、スロットを回すと、一発で大型バックルを的中させた。

『HIT!MONSTER!』『HIT!NINJYA!』『HIT!MAGNUM!』『JACKPOT HIT!GOLDEN FEVER!』

「ジャマトがバックルを…!」

「っていうか、引き強すぎでしょ!」

 ジャマトライダーもデザグラの仮面ライダー達と同様の装備を活用することとなり、四人は次第に押されてゆく。タイクーンはブーストを装備したジャマトライダーの加速を重ねたパンチをいなしたが、ルークジャマトの太いツタを伸ばした打撃を受けてしまう。それでも何とかツタを右腕と脇腹で抑え込み、ナーゴを捉えていたビショップジャマトに投げ飛ばす。ナーゴもビショップジャマトの抑え込みを抜け出すことができたが、モンスターのグローブによる打撃を肩にくらってしまった。

「このぉ!」

『TACTICAL BLIZZARD!』

 ビートアックスより放った冷気で、ジャマトライダーを氷漬けにした。ついでにハイトーンとマグナムシューターを装備したジャマトライダーの間に氷の障壁を作る。氷の障壁はマグナムシューターと両腕のアマードガンですぐに破壊されてしまうが、その際に生じる白い煙に紛れ、突撃して二体のジャマトライダーの武器をビートアックスの薙ぎ払いで弾いた。

「くらえ!」

「おっとストップ」

 さらに攻撃を加えようと横に振りかざしたビートアックスを、キメラジャマトの腕に同化したシャコガイが挟んだ。ハイトーンは機転を利かせ、炎をシャコガイの内側に向けて放射し、何とか武器を取り返した。しかし、その場で二体のジャマトライダーの放つ必殺技が襲い掛かる。

『TACTICAL SHOOT!』『TACTICAL SLASH!』

「ぐっ!」

 赤く直線に迫る銃弾と、二刀の斬撃をビートアックスのボディでガードするも、勢いに押されて大きく後退させられた。同時に戦っていたナーゴとタイクーンと共に、三人で背中合わせの円陣を作る形となる。

「おいおい。一人足りないんじゃないか!?奏斗君は?」

「先輩は……もう来ない」

 ハイトーンの答えに、キメラジャマトはおいおいと両手を広げる。

「困るなぁ、それは」「知ったことか!」

『SET』『DUAL ON!BEAT&BLAST!』

 奏斗の忘れ形見のブラストバックルを使用し、ビートブラストフォームに変身する。さらに、ナーゴもフィーバースロットバックルを使用し、タイクーンはベルトを反転させた。

「そっちがその気なら…!」「こっちだって…!」

『HIT!ZOMBIE!』『REVOLVE ON』

 それぞれフォームチェンジを終え、激しい戦闘が再開される。両足からのガス噴射を常に行い、空中にホバージェットのように浮遊する。そして自ら回転しつつビートアックスを奏で、雷、氷の棘、炎の槍を次々乱射した。攻撃は地面全体をまんべんなく爆撃し、敵への攻撃と味方へのサポートを同時に行う。だが、地面より伸びてきたヤシガニの脚に動きを止められ、地面から加速してきたブーストとニンジャのジャマトに同時攻撃を受け、地面に叩きつけられた。他の三人もなかなか数的不利を覆すことが叶わず、ダメージを上けて倒れる。

「今までのジャマトと、違う…!」

 タイクーンの喉元に、ナイトジャマトが刃を立てる。

「当たり前だぁ。お前たちとは覚悟が違うからな…!」

 タイクーンめがけて攻撃が放たれる直前、サイレンが鳴り第一ターン終了のアナウンスが成された。

「命拾いしたな」

 ジャマトが次々去ってゆくと、ただ荒らされ放題の境内が残った。唯一そこに残っていたバッファが変身を解除すると、景和と祢音が彼を糾弾する。

「なんでジャマトグランプリなんかに参加してるんだよ!」

「ジャマトに味方するなんて、どうかしてる!」

「お前らには関係無いだろ」

 曲がりなりにも、これまで共に戦ってきた仲間。なんだかんだで自分たちに世話を焼き、デザイアロワイヤルでも世界平和のために貢献してくれた、仲間。景和と祢音にとって、道長に対する評価はそれなりに高いものであった。しかし、デザスター編を経て人を襲うようになった彼を、仲間と見る者はいなかった。先程までバッファと戦っていた英寿は、二人を石段の上から諭した。

「そいつに何言っても無駄だ。すべての仮面ライダーをぶっ潰すのが願いだもんな」

「ああ。デザイアグランプリなんてぶっ潰してやる…!」

「そうはさせない。俺たちにも叶えたい願いがあるからな」

 道長は一人ずつ表情を見直すと、どこかへと立ち去った。

「ほらほらほら!郁真、赤哉、片付けしなきゃ!祭りは明日だよぉ?」

 沈黙の中で、須井の楽し気な声だけが響く。まるでジャマトなどいなかったかのように、皺の寄った険しい顔が消えていた。郁真と赤哉は、目まぐるしく変わる須井の表情に、情報が処理しきれていないようであった。誰もが立ち尽くす中で、須井だけがせわしなく働き始める。

「とりあえず、俺たちも手伝おっか…?赤哉くん!」

「そうだね…久しぶりじゃん!郁真くんでしょ!」

 これまでのデザイアグランプリで交流があった四名も、祭りの片付けに加わる。それぞれさらりと自己紹介と再会の挨拶を済ませると、各々作業に取り掛かった。そのうちに地域住民も帰ってきて、祭りの準備はハイペースで進んでいった。その様子を見ていた英寿の元に、サポーターのジーンが現れる。

「それにしても昔の人間って本当に面白いね。君も懐かしいんじゃなかい?感動の再会じゃないか」

「どうかな。俺はともかく、あいつにとっては、な」

 英寿とジーンの眼は、広実須井を捉えていた。

 

             *

 

 いつの日からだろうか。力が抜けてしまったような、だけど迷いが消えたかのように感じていた。自分よりも、誰か他人を助けられる人になりたいと思い立ったのはいつからだろう。看護師になりたいと思ったのは、バレー部のユニフォームを脱いだのは。

「なんかもやもやするんだよなぁ」

 午前の講義を終えて帰路についた私、青山優は、ポスターの貼られた掲示板の前に立ち止まった。すずなり鬼祭り。学校から相当遠く離れた地域の祭りなのに、ここまで張り出されているとは。

「鬼の伝承…か」

 そんなもの、もう信じている人なんていないと思うけど。でも、鈴を取ることができれば願いが叶う…っていうのは興味がわく。そんな効力があるならば、さっと鈴をぶんどって、受験戦争に勝つという願いを叶えたいものだ。なんてね。

 無駄な妄想をしているよりも、参考書の重さに負けて、再び足を運び始める。今は勉強第一。祭りなんかに行っている時間はない。親に楽させるためにも、いい大学に行かなきゃ。部活なんかにうつつを抜かす時間はないんだ。

「集中、集中…!」

 いつのうちにか、足の回転速度が上がっていて、気づけば速歩きになっていた。

 通りの角から現れた、謎のユニフォームに包帯だらけの男に気付かないほどに。

「つったあっ!」

 まだバレー部時代の筋力が残っていたからか、私は転ばずに数歩後退した程度だった。だけど、相手の彼はそうでもなくて、力なくガードレールに腕をかけて転んでいた。曲がりなりにも、看護師を目指している身として、そのままスルーと言う訳にもいかなかった。

「あの!大丈夫ですか……!?って、あれ…?」

 しゃがんで、項垂れた顔を見てみると、かすかに見覚えがあった。確か…バレー部の人が言ってた。ボランティア部の…

「墨田奏斗……君?」

 私が名前を呼ぶと、額にガーゼを巻いた奏斗君が顔を上げた。

「お前…青山か……いや、そうか……もう忘れたんだっけ」

「…?」

 奏斗君は、学校では悪い意味で有名…だけど、なんで私の事を知っているのだろう。怪我だらけなのも心配だけど、とにかく言動に覇気が無かった。前までは、どれだけ嫌われても気にしない。鋼の心臓を持った、唯我独尊って感じだったのに。前まではバレー部の部員と一緒に忌み嫌ってたけど、もやもやが始まって以来、そこまで悪い人じゃないと思うようになっていた。それに、今となっては私も嫌われ者だ。

「ちょっと向こうの公園で休まない?私ちょっと疲れちゃったんだよね」

 今のボロボロな彼を置いていける気にはならなかった。無理やり手を引いて、彼を引っ張っていった。彼はまごまごと口を動かせていたが、私が疲れているという口実もあってか、されるがままに引っ張られていた。

 帰路を引き返して、ドーム状の遊具がある公園が見えてくる。休日の効果もあって、子供たちの声がにぎやかだった。それでも、健康用のベンチは人気が無かったので、そこに彼を無理やり座らせた。

「ここで鞄見ててくれる?逃げるとかダメだかんね」

「わかってるよ……」

 どうやら彼は約束に弱いみたいだ。鞄から取り出した財布を片手に、公園端の自販機に向かう。それまでの道のりで、やんちゃにドツキあいながら走ってゆく少年たちとすれ違った。そういえば。奏斗君の好み聞いてなかったな…コーヒーとか?甘いものとか苦手そうだし……

「あ」

 自販機の前では、さっきの少年たちが飲み干したものか、缶ジュースのゴミがポイ捨てされていた。まだ善悪のついてないガキどもめ。今回は私の優しさに免じて代わりに捨ててやろう。無造作に潰された缶を二、三個拾うと、ソフトボールばりのアンダースローで、向かいの通りにあったゴミ箱へと投げた。赤や黄の缶たちは、綺麗な放物線を描いてカランと収まっていった。

「よっしゃあ!見たかガキどもぉ!」

「やあ」

「うわぁ!」

 心からのガッツポーズを大人気も無くかましていると、突然後ろから声をかけられて、猫のように飛び跳ねてしまった。そのままの勢いのままで反転して振り返ると、糸目の青年が至近距離に立っていた。この人…どこかで?

「君、奏斗君の友達だねぇ。僕は橋結カムロ。飲み物なら、彼の好みはブラックのコーヒーだよ」

 あまりにもスラスラと言葉が出てきたので、返答に困っていると、さらに橋結カムロと言う人は話を進めてきた。

「彼には失望したな。全て諦めてしまったとは。君も、わざわざ構ってやる必要なんてないんじゃないか?学校の嫌われ者なんて、徳がないだろう?」

 橋結カムロの人の口から出てくる、ていの良い言葉にようやく気付いた。自分の思いを、彼への思いを。若干のデジャヴを感じつつも、私は毅然として答えた。

「でも、その悪い噂は…私が思っている事ではないので」

 それ以上は何も言わずに、手早く飲み物を買って立ち去ると、橋結カムロは声をかける素振りを見せなかった。

──────────────

 奏斗君も、青山ちゃんも、つまらない人に変わってしまった。どちらも、僕の願いを支持してくれる人になるかもしれないと思っていたのに。全人類の滅亡、自分だけが幸せな世界。人の心は移ろう。願いがどんな形に変わったとしても、本質は同じ人間だ。彼らの心には、留まらない破壊衝動と、保身の思いがあるはずなのだ。僕の願いの障壁にならないはずだった。やり方さえ変えれば、味方になっていたかもれない。

「私が思っていることではない…か。何が分かる…僕の事が、君たちなんかに」

 ベンチで横並びになるにこやかな二人を睨みつけ、自分がどんな存在であったかを再認識した。

──────────────

「ほら、飲み物。おごりだよ」

「あ、ありがとう…」

 ブラックの缶コーヒーを受け取った奏斗君は、明らかに渋い顔をしていた。まだ一口も飲んでないのに。あんにゃろ、嘘ついたな。奏斗君は、明らかに躊躇しながらも、缶コーヒーをあおった。ちょっと申し訳ない気持ちになりながら、隣に座る。私もあわせてブラックにしてしまったから、交換もできない。くそ、気が利かないな。普通怪我人に缶コーヒーなんて渡すかよ…スポドリとかでしょ…馬鹿か私は。

「ごめんね。いきなり連れてきちゃって」

「いや……いい」

 普段学校で絡みのない二人だ。会話が弾むはずがない。もう、こうなったら建前なんていらないだろう。私は正直な考えを口にすることにした。

「私、助けたくなったんだ。久しぶりに会った君がさ、どうしようもなく、何かが心に詰まった顔をしていたから」

 こんなお願いをするときは、顔を見てが道理なんだろうけど。彼にせめて迷惑がかからないように、ブランコで友達に背を押してもらう子供の姿をずっと見ていた。互いに変な気を起こさないように。断れる余白を残せるように。あまりにも沈黙が長くて、私の方が逃げ出したくなった頃に、ようやく奏斗君が話してくれた。

「そうだな……お前には……話してもいいかもな」

 今度は、奏斗君の方を見た。彼の方は、猫背になって目を合わせてくれなかったけど。

「俺さ……彼女いたんだよ。以外かもしれないけど……でも、別れちゃってさ。最初は信じられなかったよ」

 一言の情報量が凄いな。結構無口だと思ってたけど、感情が乗ると多弁になるみたいだ。でも、ただの別れ話を聞かされているだけには思えなくて、つい眉間にしわが寄ってしまっていた。一度沈黙を断った奏斗君は、吐き出すように言葉を出していった。

「別れた理由、全部俺のせいだったんだ。それを知ったのもさ、けっこう後の事で。知るまでの間に……結構他人に偉そうなこと言ったりして。全部馬鹿らしくなったんだ。どの口が言うんだよって。そうしたら、誰にも合わせる顔が無くなった。願いが消えたんだ。叶える資格がないってわかったから」

 それで。それで、諦めてしまったのか。始めて聞くことができた彼の本音に、嘘があるようには聞こえなかった。彼の話を聞いているうちに、自分の心のもやもやが消えていくような感覚を覚えた。知っていた気がした。こんな風に、自嘲気味で皮肉屋な墨田奏斗を。

 恋愛の話には疎いけど…一つわかることがある。奏斗君は、一人で悩んでいるだけ…だと思う。辛い現実が立ちふさがって、その壁を超えることができなかった。それでも、他の人の足を引っ張るとか、誰かに助けてと言うことができなくて、諦めてしまったんだ。私にも、そういう経験があるから、わかる。そのときに私を助けてくれたのは……助けてくれたのは……誰だったかは、もやになって掴めない。だけど、

「私の知っている君は、夢にまっすぐな人だったよ。夢に全力なのが、君の強さじゃないの?その全力があれば、きっと大丈夫だと思うな…………よっし!決めた!今から祭り行こう!」

「え」

 鞄を胸の前で抱え直すと、奏斗君の前にしゃがんで手を伸ばした。怪我人を遠くに連れていくにはおんぶが一番。

「いや、行くって言ってないし」

「大丈夫!スタミナには自信あるから!君くらいならダッシュで行けるよ!」

「会話になってないし…!」

 有無を言わさず背中に奏斗君を抱えると、駅に向かって走り始めた。彼にはきっかけが必要だ。それが何であれ、彼がもう一度全力を出せる勇気を取り戻してくれれば。今日の所は、嘘か本当かわからない鬼の伝承を信じることにした。助けるよ、君を。きっと、もやもやの先にいる私も、そうしたはずだから。

 

 

「ここか…!やっと見つけた」

 無人のオーディエンスルームに忍び込んだモーンと朋希。他のオーディエンスルームと比べて、装飾が一切存在しないその部屋では、テーブルの上にダパーンの刻印がなされたスパイダーフォンが残されていた。そして目を引くのは、中途半端なままで再生が止まっているデザイアグランプリの映像。

「ここで奏斗が何かされて……これは」

「黎明編…?」

 二人が部屋に入ったことに反応してか、続きが再生される。

『こんな世界は終わらせよう。もう一度やり直すために』

 仮面ライダーギーツ・浮世英寿がラスボスを撃破し、デザ神となった最終戦。戦場に、ハイトーンとシャギーの姿はない。片方は恋人に撃ち抜かれ、もう片方は絶望し運営直属のライダーとなった。凄惨な過去を想起してか、朋希は思わず目を背ける。

「運営の人…シャギーが死んだところを奏斗に見せたんだ」

 知る由もない真実が、奏斗に何をもたらすのか。その目的を、まだモーンは理解し始めていた。

 

 

 完全なる誤算。俺も、ちゃんとポスターを見ておくべきであった。のぼりが数本立っている商店街のT字路で、俺たちは立ち尽くしていた。

「ごめん…まさか祭りが明日だったなんて…」

「いや…俺も知らなかったし…」

 会場に近づくにつれて、違和感はあった。祭りだというのに、人のにぎわいと言うものが無い。青山…こいつ、記憶を失っているくせにぐいぐい来やがる。基本、願いが消えた参加者は生きる気力を失うものであるが、こいつの場合は逆効果。あいまいな願いが消えて、行け行けな行動力だけが残った。一緒にいては、感傷に浸っている暇がない。むしろ、気が紛れてありがたいが。

「とりあえず、また明日ってことにしよっか?迎えに行ってあげるからさ」

「いや…もういいよ。もう十分助かった」

「そう言わずにさぁ…!」

 誰かと一緒にいては、また傷つけてしまうかもしれない。それがたまらなく恐ろしかった。俺がどれだけ自我を保っていても、どこかに眠っている破壊衝動が引き起こされるかもしれない。その恐怖が拭えない限り、もう戦えない。関わりたくない。

 どうしても誘いたい青山と、もう帰りたい俺。押し問答になった俺たちの会話を終わらせたのは、重く響く太鼓の音であった。

「なに、祭りはまだ…?」

 突如、通りの奥が爆ぜた。太鼓を奏でるポーンジャマトの背後に、巨大なタンポポの葉のようなものが地面を裂き生えてきている。植物は商店街の天井を貫き、端から崩れていくのが見えた。ここまで亀裂が伝播するのも時間の問題だ。爆心地から反対方向へ、俺たちの横を次々商店街の人々が通り過ぎてゆく。アクエリアスキメラに、ルークジャマト、そしてジャマトライダー。ジャマトグランプリの会場だったのか、ここは。

「怪物…!?」

「あいつはまずい…!逃げるぞ…!」

 ムスブには会いたくはない。あいつの思惑はだいたい開示されているが、残虐な行為に躊躇がない。変身できない今は、絶対に避けるべき相手だ。彼が俺たちを認識する前に、片足の力を頼りに反対方向へ逃げる。

「待って!」

 しかし、青山に後ろ手を掴まれて足が止まった。

「おい…!」

「逃げちゃ…いけない。そんな気がするの…!」

 俺を引き止める青山の表情は、決意よりも怯えの表情が強かった。掴まれた手も、小刻みに震えている。こいつはデザグラの記憶を取り戻したわけじゃない。失った戦いの記憶がちらついて、突っかかっているだけだ。俺たちには力が無い。力が無いなら、あるやつが勝手にやる。

「俺たちの役目は終わったんだ……あとはあいつらに任せればいい…」

「それって言い訳!?本当は何か知ってるんじゃ…!」

 どうしても引き留めようとする青山に、思わず語気が強くなってしまった。

「もうどうでもいいんだ…俺は…!」

 最後に強く言い放つと、青山はそっと手を離した。またやってしまった、と思った。

「そっか…君がそう言うなら、そうなんだろうね」

 青山は俺よりも早く、逃げ惑う人の波に順応した。かつてのライダーも、願いを失えば意志が弱くなる。これでもう、戦いに関わらないでくれるなら、それが一番だ。

「ジャマト!」「これ以上好きにさせない!」

 人波に逆らって、朋希と景和が駆け抜けてゆく。俺と青山の存在には気づいていないようだった。その背中が、足取りが、力強く映る。未練を思い起こさせないように、俺は青山と、民衆の影に倣った。

『DUAL ON!BEAT&BLAST!』『NINJA!』

 俺のバックルは朋希が引き継いだか。あいつなら、俺よりもっと上手に使うだろう。背後から聞こえる激しい戦闘音に耳を遠ざけて、一刻も早くここから離れようと足を動かす。それでも怪我を引きずる歩みは遅く、どんどん最後尾へ押しやられていった。

「助けて!誰か助けて!」

 不意に、意識をつんざくような悲鳴に足が止まった。同時に、先導していた青山も振り返る。戦いの余波で天井が破壊され、その崩落の下敷きになった少年が助けを求めている。逃げ遅れたのだろうか、幸い近場のテーブルがクッションになったようで、鉄骨に片足が挟まれた程度で済んでいる。

「わかった!」

 ジャマトとライダーの戦いによる流れ弾が目前まで迫っていることもお構いなしに、青山は飛び出した。いつの間にか、通りにはもう一般人の姿はない。少年を助けに向かった青山の姿は、誰の眼にも大きく見えたことだろう。俺は咄嗟に、少年が見える対角線上の路地に身を隠した。

「青山ちゃん!?なんで!?」「おやぁ?これは奇遇だ!」

 激しい戦闘の中で組み合う形になっていたタイクーンとアクエリアスキメラがいち早く気づく。青山は近場の鉄パイプをてこに鉄骨をどかそうとしている。ダメだ。青山の力だけであの鉄骨をどかせるわけがない。助けに入れば、あいつらは俺の存在に気付く。嫌だ、もう会いたくない。戦いを降りると宣言したのに、未練がましく正義に縋りつくような姿を晒したくない。あいつらにとって、悪役として、裏切者として消えてしまいたい。あいつらを、殺したくない。

 

「お願いです…助けてください…!」

 

 見知らぬ少年と、目が合った。不意に、体が動いた。火傷の痛みが消えたように感じて、青山の持つ鉄パイプを掴んだ。

「奏斗君…」「今回だけだ……いくぞ…!」

 俺たちは息を同時に吸うと、同時に鉄パイプを下に押した。掛け声もなしに、動きがシンクロしていた。それほどに必死に、鉄パイプを押した。そのうち、ギギギと鉄が擦れる音と共に、鉄骨が少し持ち上がり、多少の隙間が生じる。もう少しで行ける…そう思った。

「危ない!」

『JYA JYA JYA STRIKE!』

 少年の救出に手一杯で、目前まで迫っていたジャマトライダーに気付くことができなかった。すでに必殺技を発動し、拳はツタで何重にも巻き付けられて肥大化している。よもや直撃は避けられないかと思われたが、間に割って入るものがいた。朋希の変身したハイトーンだった。

「先輩っ!」

 ビートアックスを両手で構え、パンチを正面から受け止めている。しかし、背後に俺たちがいるからか、攻撃を逸らすことが叶わず、両者の間で爆発が起きた。爆風の勢いでハイトーンは吹き飛ばされ、変身解除。生身で商店街の通りを転がった。それまでに、彼の装備品が地面に散らばった。そこには、俺のドライバーとバックルも含まれている。

「朋希君!くそっ!」

『DUAL ON!NINJYA&BOOST!』

 タイクーンがニンジャブーストフォームとなり、ジャマトライダーを俺たちの前から引きはがす。ライダーが一人なのに対して、ジャマトは三体。明らかにきつそうだ。多勢に無勢の状況で孤軍奮闘するタイクーンだが、次第に押されて後退を余儀なくされていた。その間も植物は成長を続け、雷が蕾の先端でほとばしっている。

「奏斗君!瓦礫が爆発で動いた!いまならどかせそう!」

「わかった…!」

 時間が無いが、今はこの少年を助けなければ。爆破の影響でコンクリート片は幾分か粉々に砕けている。俺たちが力を込めて鉄パイプを押すと、簡単に瓦礫は動いた。そのまま少年はほふく前進で這い出ることができた。少年は、恐怖でいっぱいになってしまっていたのか、礼の一言も無く怪我をした足を引きずりながら走り去っていった。今はいい。俺たちも早く離脱して…

「逃がすと思ったのか?」

「ぐあああっ!」

 ジャマトの一斉攻撃を受けて、景和も変身が解かれてしまった。俺と青山の前で、膝をついて脇腹を抑えている。今継戦するのは危険すぎる。朋希もそうだ。何とかして離脱…俺は怪我でのろいし、青山だけで三人を持って走るのは無理だ。

「あれれ?どうしたのかな奏斗君、変身は?」

 わかりきっているのに、あえて問いかけるアクエリアスキメラの声に揺れる。俺が…変身する?ブラストフォー厶のガスで目眩ましをすれば、確かに離脱は用意だ。俺は咄嗟にドライバーへと手が伸びる。しかし、伸ばされた右手は、戦う力を手にできなかった。

(わ、わ私たちは……)

 フラッシュバックする、玲の最期。変身するということは、相手を殺す力を得るということだ。ジャマトグランプリが始まって、運営が力を制御する体勢を失った。もしまた、誰かを殺してしまうような行動をしてしまったら?止められるやつがいない。

「ふっ!」

 俺が迷っている内に、また青山が行動に移した。俺のIDコアがセットされているドライバーを、腰に巻く。

「待て!」

「ここにはめればいいんだよね?」

 青山はブラストバックルを地面から掠め取り、スロットに装填する。しかし、ドライバーの使用権はIDコアに依存している。彼女がどれだけノズルを引いても、バックルは起動しなかった。

「あ、あれ!?壊れてるよ!?」

「馬鹿だねぇ!」

 業を煮やしたのか、アクエリアスキメラが貝殻の隙間から水のエネルギー弾を放つ。さらに、ルークジャマトは腕から赤色の光線を、ジャマトライダーは地面を蹴りツタを伸ばしてきていた。

「危ない!」

 攻撃の軌道上から、彼女を両肩を抱きかかえ逸らし、自分の背中を盾に小さくなった。それでも全てを避けきれるわけではなく、辺り一帯を襲う衝撃波と爆撃で、俺たちも肩から地面に落ちた。今の衝撃で、青山の腰からドライバーが外れた。俺はいち早く起き上がり、青山の肩を揺らす。

「ごめん…私のせいだ」

 青山はジャマトライダーのツタが足に掠ったようで、白いソックスが赤く染まっていた。

「いい。早く……逃げないと」

「どうやって?」

 アクエリアスキメラが、背中から棘を引き抜く。あの毒はやばい。生身で受けたら、景和と朋希も……やばい。もう戦える奴がいない。

「簡単な話じゃないか。変身して戦え!墨田奏斗ぉ!」

 棘を大きく振り上げ、迫るアクエリアスキメラ。打ち付けられる、太鼓の音が、俺の心臓の鼓動と重なる。

(くだらねぇ……何が理想の世界だ)(生きている限り、やり直せる)(僕たちには、あなたが必要だ!)(願いに足元掬われるぞ)(願いは叶える、この世界も守るよ)(私だけだよ、私だけなんだよ!?私だけが奏斗の願いを踏みにじってる!誰かに頼ろうとしてるんだよ!?)

 決めなきゃ、守らなきゃ。だめだ。また同じになる。また俺が殺す。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ───

 

          JGPルール

 

     ジャマトグランプリのスコアは、

 

     人間の大切な物を壊すことで、

 

        稼ぐことができる。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「もう…奏斗は助からない…」

「諦めたくないよ、私は」

─世界のために─

「どこで間違ったのかなぁ…?」

「誰も、お前の存在を受け入れないっ!」

─もう一度立ち上がれ!─

「俺も、仮面ライダーに…!」

30話 激情Ⅱ:群青のパイレーツ!
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