墨田奏斗に、決断の時が訪れていた。
「簡単な話じゃないか。変身して戦え!墨田奏斗ぉ!」
青山優の発言を受け、二人の抹殺を決めたアクエリアスキメラが、棘を携え走る。自らの、友人の、後輩の、仲間の危機。それでも、奏斗はドライバーを取ることができない。恋人を手にかけた記憶など存在しない。だからこそ、また手にかけてしまむかもしれない。恐怖は拭えず、震えた声を出すのみだった。
「無理だ……誰か………助けてくれ………………」
棘の切っ先が、彼の眼前に迫る。
「……また邪魔を」
棘の一撃は、直前で防がれた。庇われたと言う方が正しいだろう。瞬間移動で現れた仮面ライダーモーンの翼が、奏斗と青山を包んでいた。アクエリアスキメラの刺突は、モーンの翼を貫通している。翼が躍動し、アクエリアスキメラが退く。しかし、翼から毒が回ってしまい、モーンも膝をついた。
「ここは一旦引く!」
モーンが胸のアーマーを撫でると、全員が同時に瞬間移動。ジャマトのみを残し一斉に戦場から離脱した。
「ちっ…」
第二フェーズも終了し、三つ目の櫓が完成した。アクエリアスキメラは変身を解き、地団太を踏むように地面を蹴った。飄々とし、他人を小馬鹿にしたような言動を取る彼の姿は、もうどこにも無かった。
*
町が見渡せる屋上にて、ジーンと英寿は完成した三つの櫓を観察していた。
「あいつらの言葉が本当なら、櫓があと二つ完成したらゲームオーバー…」
「やはり私が出るしかないか」
ジャマトグランプリのラスボスに設定されているニラムと、側近のサマスも屋上へ現れたが、英寿はニラムの言葉を否定した。
「その必要はない」
「ですが、他の三人は負傷しています」
櫓の防衛に向かった仮面ライダー達で、無傷で生還できたのは英寿だけだった。タイクーンも、ナーゴも、ハイトーンも、先々で痛手を食らっている。その厳しい現状を英寿に示すかのように、危機を脱した五人が瞬間移動で屋上に現れた。五人を一気に輸送し、毒もかなり堪えたのか、モーンは変身解除の後ぐったりして四つん這いになった。
「モーン!」
すかさずジーンが彼女を両腕で支えた。景和と朋希、青山はダメージが大きく、地面から立ち上がれないどころか、呼吸も荒いままだ。しかし英寿の視線はその三人よりも、左手で震える手首を掴んでいる奏斗の姿を捉えていた。英寿は臆することなく、奏斗へと語りかける。
「ダパーン、無事でよかった」
「……その名前はもう捨てた……」
奏斗は力なく立ち上がると、英寿の眼を見ることなく吐き捨てた。
「滑稽だっただろ?何も知らずに、正義ごっこに酔ってた俺は…………今までありがとう。もう、迷惑はかけない……」
彼なりに精一杯繕った言葉を放つと、重い足取りで屋上を去ろうとする。英寿はその背中に、声をかけることはしなかった。黎明編の四回戦、自分がもう少し早く気付けていれば、シャギーは生き残り、奏斗が深い自責の念を覚えることはなかったはずだ。その後悔は絶えず、彼の心に刻み込まれている。奏斗の人生を変えたのは、自分の過ちであると。これまでも、英寿は奏斗を導きこそすれど、否定することはできなかった。
「待ってよ…!
呼吸を整えた景和が今度は説得に入る。だが、奏斗は一度立ち止まるも、無視して再び歩み始めた。
「奏斗君っ!」
景和の呼びかけはもう届かず、朋希も地に伏したまま顔を伏せるのみ。残されたダパーンの装備品だけが、無機質な風に吹かれている。奏斗が屋上の扉を閉める鉄の音が響くと、モーンがいよいよ震え声をあげた。
「もう…奏斗は助からない…やめよ……もう、壊れちゃったんだよ…………諦めようよ……」
弱気なモーンの声に、意義を立てられる者はいなかった。誰もがギリギリで、心が折れそうだった。
「諦めたくないよ、私は……」
青山優が、ダパーンの装備に手を伸ばす。
その指は、IDコアに触れていた。
明日がいよいよ最終ラウンド。参加者たちは五つの櫓完成に向けてそれぞれにポジションが与えられる。ライダーから櫓を防衛し、町に恐怖の雷を落とす。ジャマト陣営はほとんど無傷であるが、ライダー陣営でまともに戦えるのはギーツくらいだろう。ベロバやアキルメデルは勝利を確信し、スコア表を横目に薄ら笑みを浮かべている。ギーツさえ倒せば、あとはニラムだけだ。彼の変身するゲイザーと真っ向から戦闘する必要はない。ヴィジョンドライバーを奪えばよい。チラミを出し抜いたように、方法はいくらでもある。
「そう簡単に行くとは思えないが…」
「おやおや。随分と余裕が無いみたいだね」
オレンジ色の電球の下、ドラム缶に腰かけていたムスブに、五十鈴大智が語りかける。先の戦いから笑顔が消えていたムスブに対して、大智は常に楽しそうである。
「僕が怖くないのかな?今は、変身できないだろう?」
液状化した左顔を見せて荘厳に話してみせるも、大智は全く臆さない。むしろ、向いの一斗缶の上に座り、両手を組んだ。
「いいや?むしろ興味しか沸かないよ。君の正体…とかね?」
「正体?見ての通りだよ。そういう疑問は、前のデザグラで出し尽くしたじゃないか」
「もっと本質を知りたいんだ。ジャマトは基本植物だ…でも君は水性生物…しかもその混合型と来ている。君はアルキメデルと反りが合わないようだし……そうだな。正解は?君は"アルキメデル作のジャマト"ではない」
大智の推理に感服したのか、ムスブは両手を広げて困ったと示すように首を振った。
「まいった、当たり。……君には話してもいいだろう。僕を作ったのは、デザグラのお偉いさんだ。ジャマトの中では、まがい者の部類だね」
ムスブのカミングアウトに知的好奇心がくすぐられ、大智の口角が如実に上がってゆく。
「僕はそれ以外、自分が何者かわからない。全てが脱落者からの寄せ集めの記憶だからだ」
ムスブは自分のこめかみをトントンと叩く。
「だから……奏斗君と僕は似ているんだ。目的何て最初からなくて、感情で動く。自分はいない。常に過去の己を悔いているから。今を生きることしかできない。結構気に入っていたんだ、彼の事」
「なるほど。だからジャマト陣営に引き込もうと?」
これまでのムスブの行動を大智は思い返す。名目上はジャマトのスパイとして場を掻き乱しつつも、常に彼はダパーンを狙っていたことを。
「そうさ。でもね、もういいんだ。彼はもう答えを出せなくなってしまった。諦めることが、最善になったから。だからもう、彼を消すことにしたんだ。それが……元々の命令だしね」
「命令?」
「僕が作られた意味だよ。イレギュラーな参加者は消す。お偉いさんが僕に与えた役目だ。奏斗君を人として殺せってね。悪い気はしなかった。でもね、青山優が言った。僕の考えは、本当に自分が思っていることなのかってね」
本来は、奏斗から青山にかけられた言葉。誰かを批判すること、嫌いになること。それを決めているのは本当に自分なのか。他人からの評価をコピペーストしているだけではないか、しっかりと本人を見ているか。自身の本質を知り得ないムスブに、その言葉が深く刺さっていた。最初は小骨が喉に刺さった程度でも、少しづつ深く、傷口を広げるように。
「改めて考えたよ。もしかしたら、僕を作ったお偉いさんが僕の心を…とか」
未来人のデザインに制限はない。性別、職業、寿命までもが全て設定可能な未来。全てを決めることは、心までもを決め付けてしまうのか。それは本人にはわからない。
「でもね……やっぱり思ったよ。創造主なんて知ったこっちゃない。僕は、僕なんだ。僕は自分で考えて、ジャマトを慈しみ、そして……奏斗君を殺す。もう、決めたんだ」
溶けた左頬が、橋結カムロの顔を形取る。
全て思い出した。デザグラの戦いと、玲さんの事を。きっと奏斗は、一度乗り越えたはずだ。そう思ったから、あの時の私も、自分のIDコアに触れさせた。それがまた、奏斗は心が弱ってしまっている。憶測にしかならないけど、もっと決定的な何かをしたか、されたか。心の傷を治すには、時間がかかる。それこそ、ダメージが吹っ飛ぶくらいの大きい衝撃が無いと絶対に無理だ。奏斗には戦わせない、戦わせたくない。今は、心の休養が必要だ。
「でも、方法はある…!」
それは、私に奏斗のエントリー権を譲渡することだ。以前、おじいちゃんから桜井さんへ渡されたように。デザグラは今開催不可能だけど、IDコアは回収されていない。それなら…私が奏斗の代わりに戦うことだって…!私はひたすら、活気を失った夜道で、奏斗の姿を探していた。
「青山優」
私の前に、全身黒い服に身を包んだ男の人が現れた。黒いキャップを目深にかぶっていて、一瞬身構えたけど、服のプリントを見て気付いた。デザイアグランプリのスタッフだ。今まで接触したことは無かったけど…ジャマトグランプリが始まって出てこれるようになったのかな?後ろに手を組んで、にっこりとほほ笑む顔が見える。
「あの……何の用ですか?」
「君の役目はまだ早い」
『ZILLION DRIVER…!』
男の人は、後ろ手から金色のドライバーを取り出し、腰に装着した。
「えっ……!?」
『OVERLAY…!』
ベルトのサイドバックルのボタンが叩かれる。一気に力が抜けて、膝から崩れ落ちた。
「な……あんた、なに…」
記憶にもやがかかってゆく。また…忘れたくない……ああぁ─────
「墨田奏斗はアクエリアスキメラに殺させる。大丈夫。その現実が、"君が"物語を輝かせる源になる」
あれ……私何してたんだっけ、 墨田奏斗…?誰だっけ…知らないや。
──────────────
奏斗を探して、町を駆け回る景和と祢音。奏斗は怪我の身。そう遠くへは行けていないはずだった。ジャマトの襲撃を恐れてか、町中の明かりは灯されておらず、住宅街のカーテンも全て閉め切られていた。
「祢音ちゃん、ねぇあれ!」
緑に塗られたフェンスを介して、公園の広場に一人の男性の人影があった。顔は伺い知れないが、もしかしたら奏斗かもしれない。淡い希望を抱き、二人はフェンスを乗り越え、男性へ駆け寄る。
「あの!……デザグラのスタッフさん……」
「ごめんなさい、人違いでした…」
立っていた男性は奏斗ではなく、デザグラのスタッフであった。的外れなダッシュに肩を落として、二人は立ち去ろうとする。
「お待ちください。青山優からお預かり物があります」
デザグラのスタッフは、ジャケットのポケットから、青山優が持ち帰ったはずであったダパーンの装備品を差し出した。
「これ、奏斗君の…」
「ええ。彼女をこれ以上危険に晒すわけにはいかないので。お帰り願いました」
デザグラスタッフの不審な言動に、若干懐疑的になりながらも、二人はドライバーとバックルを受け取った。彼らの目的は奏斗の戦線復帰ではない。が、当のデザグラスタッフは嬉々としてダパーンの再起を語り始めた。
「実はですねぇ…私、ダパーンのファンなのです。またぜひ、彼の戦いが見たい」
「いえ。俺達は、奏斗君に戦ってもらおうとは思ってないんです」
景和は、数時間前のサロンでの出来事を思い返した。
──────────────
サロンにて、ジャマトの最後の襲撃に備えていた朋希、景和、祢音の三人。三人とも頬に大判の絆創膏を張りつけ、重苦しく黙ったままでいた。デザグラを取り戻すと意気込んだが初め、強豪ぞろいのジャマトの軍勢、そして心が折れてしまったかつての仲間の姿。一向に好転しない状況に、心身ともに弱っていた。
「奏斗…どうしちゃったんだろ。今まで、ずっと一緒に戦ってきたのに」
祢音の純粋な問いに、朋希は正直に答えた。極めて客観的に、淡々と。
「先輩は、知ってしまったんです。過去にデザグラに人質として捕らえられ、何者かに操られて無意識のまま、玲さんを殺してしまった事実を」
「……っ!?奏斗君が…」
景和と祢音もようやく真実を知り、腑に落ちたような、諦めたように顔を伏せる。
「……誰だって怖いですよ。また力を手にすれば、命を奪う可能性があるって知ったら」
奏斗の葛藤を理解し、自分の立場に当てはめて考えた景和は、苦い表情で言葉を返す。
「俺たち…どこで間違ったのかなぁ…?」
過去の戦いを振り返る。かつての奏斗。逆恨みで、祢音を攻撃した。幸せな人間が許せなかった。人と関わり、守ることを知った。彼女が世界から消えたことを思い出した。そして、彼女を蘇らせるチャンスを捨てて、助けてくれた。それからも、仲間として世界のために戦っていた。
(おい!ホールにニンジャバックルが落ちてる!必要だったら使え!)
(ありがとう…!奏斗君!)
(信じてくれるの……?)
(約束を…守りに来ただけだ)
「俺たち、知らない間に強制してたんじゃないかな。世界のために戦えって、悪いことをしたから、自分の願いは我慢しろって。嫌になって当然だよ、俺……一度でも、奏斗君の話を聞こうとか、してなかったと思う。俺にとって奏斗君はいつも、隣にいてくれる仲間で、痛みに目を向けてなかった…と思う」
景和の言葉に揺られて、祢音もかつての戦いを思い返していた。
(あれ〜?今奏斗笑ってたでしょ!?)
(笑って無いが…?)
(な、なに…?)
(奏斗の愛は本物だよ……だから、絶対助けて、仲直りする……いい!?)
「……そうだったかも。私たち、お互いに最初の印象最悪だったから。強く当たってたと思う。玲さんがいなくなって、そこから苦しいことばっかりで、辛いこと……私、考えてなかった」
祢音は両頬を叩くと、勢いよく立ち上がる。
「よし!奏斗探そう!そして謝る!」
「そうだね!俺も!」
気持ちを持ち直した二人は、意気揚々とサロンを飛び出す。
ぽつりと一人残された朋希は、その背中を追うことができなかった。
──────────────
「俺たちが間違ってたんです。心の痛みは……簡単には消せないから」
「大変かもしれないけど、奏斗の分まで、私たちが」
二人は軽く会釈をすると、デザグラスタッフの元を去った。
「それもまた良し。彼が戦いの場から消えさえすれば、物語は正しい道に修正される」
*
あれから随分と歩いて、自分の家がある地域にまで戻って来た。近隣の町で壊滅の危機が起きているというのに、夜道を仕事終わりの大人たちが闊歩している。デザグラ運営の情報統制はまだ機能しているということなのか。楽しそうに数少ない飲食店を目指して肩を組んでいた。
ここもかつては、ジャマトの毒牙にかかったことがあるのだろうか。デザグラに参加している間も、ずっと考えていたことだ。さっきすれ違ったサラリーマンも、かつては仮面ライダーだったのだろうか。それとも、大切な人を失ったことを忘れてしまったのだろうか。忘れているなら、それは幸せだ。俺みたいに、大切な人たちに、情けない姿を見せずに済む。
英寿は、道長は、これまで何を思って俺と関わっていたのだろう。道長は……多分大して考えてないな。あいつのポリシーを読み取るなら、仮面ライダーになった以上、敵でしかないだろう。問題は、英寿だ。あいつはドライに振舞っているように見えて、案外女々しい。
(願いを叶えたい。その真っ直ぐな心を忘れんな)
(鵜飼玲は…"シャギー"は勇敢だった。守りきれなかったこと、本当にすまない)
(ダパーン、無事でよかった)
ずっと……甘えてたんだ。あいつは全てを知っていた。それを呑み込んで、俺の仲間でいてくれた。そして、絶対に逃げたりしない。俺とは大違いだ。勝手に、仲間になれたと思い込んでいた。始まる前から、全て終わっていたというのに。
「やっと見つけたよ」
俯いたまま前進していたからか、前からかけられた声に反応が遅れた。久しぶりに聞く声だった。
「……祢音、景和。どうしてここに」
「前に、英寿と蕎麦食べたよね」
蕎麦。それで察しがついた。気づかぬうちにたどり着いていた。ここは、以前沙羅さんと約束をした場所だった。どれだけ俺が傷ついても、沙羅さんと景和は味方であり続けてくれるという、彼女がもう覚えていない約束。
顔を上げる刹那に目に入った。俺のドライバーとバックル。
こいつら、まだ俺に戦ってほしいと思って……
「…………事情は、朋希君から聞いた。今までごめん。俺たちが間違ってた」
意外にもにも、二人は深々と頭を下げてきた。状況が分からない。この二人に、謝られるようなことをされた記憶が無かったからだ。いや、朋希から…聞いたか。そうか、それでこいつら、自分たちに責任を感じてるのか。なんだよそれ。どこまでお人好しだよ……
「やめてくれ……もう、頼むから…………俺を受け入れないでくれ……頼む……」
もう心の限界はとうに過ぎ去っていた。膝から崩れ落ち、うずくまって小さくなる。こんなに消えてしまいたいという思いは初めてだった。もうだめだ。俺という存在が、皆を苦しめる。戦いから身を引くくらいじゃ、生温い。俺が生きている限り、皆足を引っ張られる。全力を出せない。
「だめなんだ……俺という存在が……お前たちを苦しめる……甘えたくない……最初から、俺なんて……いないほうが……!」
「最初の私だったら、そう思ってたかもね」
祢音が、しゃがみ込む俺の元に寄って来た。
「奏斗はあの日、私を脱落させた。もう、その現実は消えないし、奏斗の言う、玲さんを撃った痛みも、無かったことにはできない。だけどさ」
彼女の手元、俺の潤む視界に、今まで使ってきたドライバーとIDコアが映る。
「あれから奏斗が一緒に戦ってくれた日々が、背中を撃つんじゃなくて、守ってくれるこれまでが、私たち、すごく幸せだった。それも、無かったことにはならないよ。甘えてたのは私たちの方。世界のために、頑張る奏斗が、私たちを変えてくれたんだよ。ありがとう」
体の震えが徐々に治まってゆく。最初にデザグラを完走したあの日、俺が決心したことを思い出した。もし、不幸を幸福に変えることができたら。俺も、皆みたいに。
「ありがとう。ここからは、俺たちが君の背中を守る番だよ。忘れないで。奏斗君が救った命も、たっくさんあるってこと!」
もう、泣いている気にはなれなかった。俺は右腕で顔を拭うと、二人の手元の装備品を掴んだ。
「……ありがとう……ありがとう……いつか、必ず戻る……」
二人の触れる手は冬なのに暖かく、確かに生きていることを感じた。
*
本来中止予定であるはずの祭りは、仮面ライダーの防衛を条件に、開催の運びとなった。一度は中止が決断された催し。当日開催を向けて、改めての準備に早朝から追われていた。町内会の人々、ボランティア部、仮面ライダーの面々はせわしなく動き回った。
日が昇り、正午の開催に向けて準備もひと段落つき、各々休憩に就く。その中で英寿は、木陰であくびをしていた景和にペットボトルを差し出した。傍らにはツムリもいる。りんご飴の屋台を手伝ったようで、両手に完成品を携えていた。
「それで、ダパーンに会ったのか」
「うん。これで、奏斗君の肩の荷が、下りるといいんだけど……」
英寿は景和の隣、気に背をもたれると、自分も水のペットボトルを開けた。
「お前は流石だな。タイクーン。だが……ダパーンに過去を教える……ジャマトにできるとは思えないな」
「私たち、プレイヤーと関わる運営の人間とは、違う作意が動き出しているようです。奏斗様が最初の標的になったのか、それとも……」
「でも、俺たちはできることをやらなきゃ。人の未来を奪うゲームを、見過ごすわけにはいかない」
強く頷き合う三人。その様子を、陰で広実須井が見ていた。
境内に、子供たちの歓声がこだまする。すずなり鬼祭り、無事開催である。
たこ焼き、りんご飴、ヨーヨー釣り。小規模ではあるが、子供たちにとっては一大イベント。母親が入院していることもあり、気持ちが下がり気味だったショウタにも笑顔が見える。一時はジャマトの存在を忘れ、仮面ライダーもボランティア部も、本気で祭りを満喫した。
「はい、チーズ!」
「イエーイ!」
ツムリの合図に、郁真が大声で応える。彼女の持参したチェキが、写真の現像を始めた。集合写真に映る誰もが笑顔である。
そんな楽しい時間も、長くは続かなかった。
かみなりジャマト祭りの再開を告げる太鼓の音。地面をすくい上げるような低い音色に、子どもたちが怯え始める。英寿は子どもたちと関わる時の、柔和な顔を閉ざし、防衛に赴こうと鳥居に立ち返った。そのまま行かせるかと、朋希が肩を掴む。
「待ってください。僕たちも、戦いに…!」
「お祭りを中断できない。ここを守ってくれ」
ジャマトが櫓の完成よりも仮面ライダーの殲滅を優先してしまえば、子供たちを守る者がいなくなってしまう。そして、母親のために勇気を出そうとしているショウタの覚悟も無駄なものになるだろう。英寿の言葉の意味を理解した朋希は、惜し気に手を下ろす。
「でも……!たった一人ですべてのジャマトを防ぐのは……!」
「行かせてあげなよ」
英寿の身を案じ、英寿の背中に呼びかけるツムリ。しかし、二人の間に広実須井が割って入った。
「あなたは……!?」
「彼ができると言ったらできる」
広実須井は歩きながら前に回り込むと、英寿にしかわからないように鋭い眼光で睨み付けた。
「連戦連勝の……スター様……なんだからね」
「…………その通りだ。いいからキツネに化かされとけ」
紫の雷が、蕾から溢れ出ていた。活気が消えた大通り。英寿の行く先に、吾妻道長とナイトジャマトが擬態した今井通が立ちはだかった。
「へぇ……意外な取り合わせだな。今、祭りで盛り上がっている所だ。邪魔はさせない」
「無駄だ。お前一人でかみなり祭りは止められない」
今井通。彼もまた、英寿が戦いの中で守れなかった命である。どれだけ強い英寿でも、一人で全てを守ることはできない。これまでのデザイアグランプリの結果からも、それは明白な事実。それでも尚、英寿は諦めずに守ろうとバックルを手にした。
一方、願いのために切り捨てる覚悟が決まっている道長は、最後の警告を発する。
「もう容赦はしないぞ」
祭囃子の太鼓の音が、感情のボルテージを加速させる。
「やってやるよ。あいつの帰る場所も……この世界も……俺が守る」
大通りの中央に雷が落ち、第三フェーズが始まった。
*
すずなり鬼祭りは成功しただろうか。逆に、ジャマトグランプリの方は。
祭りに参加しなかった住民たちは、町の体育館に避難している。俺もその中に交じり、壁に寄りかかってその時を待っていた。
「おい、怪物の祭りが始まったぞ!」
体育館に飛び込んできた中年男性の悲鳴が、一斉に場内に伝播する。悲鳴の中で耳を澄ますと、太鼓の音と共に雷が弾ける重低音も聞こえた。場内で小さくなり震えあがる者、恐怖で泣き出してしまう子供、我先にと外へ逃げ出す者。沢山のジャマトに人生を脅かされた人々の顔を一人ずつ見届ける。
(俺の……するべきことは)
裏口から外に出ると、携帯に電話をかけられていることに気が付いた。一応確認してみると、やっぱり母だった。
ジャマトグランプリが始まってからずっと無視をしていたが、これが最後になるかもしれないと思い立ち、電話を取った。
「……もしも」
『奏斗!?奏斗!?あんた今どこにいるの!?』
脳を貫くほどの甲高い声に、思わず携帯を耳から離してしまう。母の叫び声が落ち着いたのを確認してから、もう一度携帯を耳に当てた。
「母さん。連絡……遅れてごめん。実は友達の家でさ……」
『そうじゃないでしょ……!戦いに……行っていたんでしょう?』
もう流石に誤魔化しきれなかったか。それもそうだな。爆弾ゲームに巻き込まれていたし、心配を随分させてしまっていた。自分の子供が危険な戦いなんて認められる訳がない。当然の反応だった。でも今は、その心配を押し切ってでも。
「……そうだよ。これから……戦いに行かなきゃ」
『もうやめなさい。お家に帰ってきていないのは、大怪我したからでしょ……!お母さん……わかってるよ』
母は涙声だった。見事に図星を撃ち抜かれ、言葉に詰まっていると、母は吐き出すようにたたみかける。
『お母さん前言ったよね、心配させないでって………奏斗以外にも、戦う人はいるじゃない。あなただけが、責任を負うことは無いのよ……!だから、帰ってきて……!』
かけられた言葉に、住民の声が遠くなってゆくように感じた。俺のこれまでの戦い、景和と祢音の言葉の意味を、そこで初めて理解したように思える。
「母さん、ごめん。やっぱり行くよ」
『奏斗っ!どうして……?』
「俺がそうしたいんだ。責任とかじゃなくてさ。俺も守りたくなったんだ。あいつらみたいに……!」
電話を切ると、俺も櫓の元へ走った。櫓を破壊すれば、落雷を阻止できる。みんなの助けになるはずだ。例えばボロボロだったとしても。俺のできることを、やれるだけやるんだ。
櫓に近づく度に、悲鳴の色は薄くなっていった。最初は避難が済んでいるものだと思っていたが、事態はもっと深刻らしい。櫓をジャマトたちが各個防衛している。通りに倒れた人々の刺し傷で勘づいた。
立体駐車場の麓、そこの櫓をあいつが、ムスブが守っている。
「やっぱりお前か……」
「巡り合わせが良いねぇ。お互いに」
俺たちは、がらんとした駐車場前の広場で相見えた。櫓の先端の蕾は今にも開花しそうで、紫の雷が立体駐車場の外壁に流動している。ムスブは橋結カムロの顔を崩すことはなく、豪胆な笑顔が消えていた。
「ムスブ。お前との戦いは……今日で最後にする」
「へぇ……よく言うなぁ〜。情けなく懇願することしかできなかった君が?やってみなよ……望み通り、終わりにしてやるからさぁ!」
ムスブが拳を胸に当て、内側から破裂するようにアクエリアスキメラジャマトとなる。あいつはもう、変身ごっこをやめにしたようだった。本気だ。向こうの心境の変化は知ったこっちゃないが……俺もただやるだけだ。
『DESIRE DRIVER』『SET』
「変身!」
『BLAST!』『Ready?Fight!』
久方ぶりの変身。多少の怪我はこのアーマーがサポートしてくれる。痛みは激しいが、動けない程ではない。これくらい、玲の痛みに比べたら。
変身後容赦なく、ヤシガニの脚が地中から無数に飛び出してくる。スライディングで合間を抜けて、包囲を突破。低い姿勢のままの回し蹴りで根元からへし折った。その間も、棘を右手に構えたキメラジャマトが迫る。
「だぁっ!」
回し蹴りの勢いで立ち上がり、膝蹴りで右肘を弾き上げる。そのまま真っ直ぐ上段蹴りを放つも、俺の攻撃は奴の身体をすり抜けた。液状化だ。勢いのまま突撃してしまい、キメラジャマトをすり抜け、背中合わせの状態になってしまった。こいつ……自分にも液状化を適用できたのか…!
「くっ…!」「バカがぁ!」
振り向きざまに、右腕がシャコガイに挟まれる。折れるほどではないが、とてつもなく強い力。骨が軋む音がして、その場に拘束されてしまう。
「いくら君が正義面したところで、過去は無くならない!」
キメラジャマトは喚きながら、俺も何度も棘で斬りつけた。スーツが火花を立て、毒が身体に染み込んでゆく。
「君がしてきたこと!その全ては消えない!表面だけ取り繕っても、中身はそのままだ!」
連撃を受けて動けなくなった所で、殻が拘束を解いた。間髪入れず殻が開き、水性のエネルギー弾が発射された。膝をついていた俺は回避が叶わず、正面からエネルギー弾を受けてしまった。身体が押し出され、立体駐車場の壁に激突すると共に爆発する。
衝撃に耐えかねたアーマーが砕け、変身解除。うつ伏せに倒れた。
「もう分かるだろ……誰も、お前の存在を受け入れないっ!」
なぜだろうか、キメラジャマトも余裕がなくなっているみたいだ。そんな彼の言葉は、俺の心に引っかかりを持たなかった。もう、俺は迷わない。
「確かに……過去はなかったことにできない……でも……」
震える身体に鞭を打って、手の力を支えに立ち上がった。
「俺はなりたかったんだ……」
初めて口にする、俺の本当の気持ち。ゾンビサバイバルから見続けていた。背中を追い続けていた。例え自らの願いのためであっても。世界のために命を張れる。そんな……
(まだ、終わりじゃないっ!)
(言ったでしょ?俺は倒れないって!)
(俺は負けない…!それだけだ……!)
(こんな世界は…一発KOだ!)
「あいつらみたいな……俺も、仮面ライダーに……!」
俺の宣言に、キメラジャマトは頭を抱え、枯れた笑いを発する。
「はぁ……君がぁ……?無理に決まってる!」
「無理かもしれない……!だけど!もう一人じゃない……!皆が背中を押してくるから……!俺は、誰に何と言われようと……!」
もう一度、深く息を吸い込んで。一歩前にへと出た。
「世界を守るっ!」
瞬間、俺の目の前にまばゆい光が溢れた。バックルと、使用者の共鳴。玲の時と同じだった。勝敗を顧みず、自らの願いに突き進む意志に。このバックルが。
「なんだと…?」
『PIRATE BUCKLE』
俺が光の中に手を伸ばすと、群青のバックルが形を見せた。大きな木製の舵輪と、荒れ狂う波が組み合わさったバックル。使い方はもう分かっていた。
『SET DEPARTURE!』
パイレーツバックルを右側に装填すると、PIRATEの文字と共に、荒波を航海する船を現すような重低音が流れ始める。俺はその音楽と共に、玲と同じポーズを取った。新しい自分への決意として。左頬の前、右手に握り拳を作ると、今度は右側にスライドさせて左腕と十字を組んだ。
「変身っ!」
クロスした左手でブラストバックルのコックを引き、右手で舵輪を回転させた。
『DUAL ON!』
パイレーツバックルから大波が溢れ出、PIRATEの文字を攫うと共に、アーマーが形成される。そして、背部から伸び出たアームが両サイドのアーマーを引き寄せることで、仮面ライダーへと変身した。
『Voyage for desire!PIRATE&BLAST!』
『Ready…?Fight!』
仮面ライダーダパーン・パイレーツブラストフォーム。以前、コラスの変身するグレア3との戦いでも発現した姿だ。しかし、明確に以前とは異なる装備品が追加されていた。襟元のアーマーから生成された深い青色のマントである。以前よりも、玲よりも強くバックルと共鳴した証明だろうか。用途はすぐに理解できた。
風によりマントがはためいた時、ミストのように水色に煌めく粒子が空気中に溢れる。そのエネルギーに包まれた俺の身体は、驚くように身体が軽くなっていった。
「超回復……?毒も……怪我も無い……!」
「そんな……ありえない!バッファと同じ……適合したと言うのか!?」
そうか。これは道長の不死身と同じ。変身者の特性と思いにより、バックルの力が数段飛躍する。単なるIDコアの相性を超えた、本質的な意味での。ムスブにくらった毒どころか、これまでの怪我も、全て治っている。ちょうど怪我にも毒にも悩まされていた所だ、ありがたい。これで全力で戦える。装備品の二連銃、パイレーツブラスターを右手に取った。
「みたいだ。覚悟しろムスブ。俺は、もう折れない!」
「……認めるものか……君だって、僕と同じはずなんだ!」
キメラジャマトの放つエネルギー弾を、銃弾で撃ち落とす。エネルギー弾は弾け、俺の後方で爆発した。
肩にかけられたホルダーからクローバックルを選び、パイレーツブラスターの銃身に装填。同時に走り始めた。
『SET CLAW!』『CLAW CHARGE!』
パイレーツブラスターにクローバックルを装填したことで、銃身の上側から二本、下側から一本、黄色のエネルギー体で構成された爪が生成される。左腕のサーベルと、武器からの爪を獲物に、キメラジャマトとの接近戦が始まった。棘の刺突を爪で横から挟み込み、サーベルで胴体を切り裂く。それもまた、液状化で回避されるが、ここまでは読めていた。
「もらった!」
パイレーツブラスターの銃身をあえて畳み、キメラジャマトの手から棘を奪う。手を離れた棘が、風に揺れながら落ちてゆく。どれだけ液状化しても、武器を持っている以上、つけ入るスキはある……!
空中で浮いた棘の切っ先がキメラジャマトの胸元を向いた瞬間を狙って、ガス噴射で威力を増した回し蹴りを放つ。足裏は棘の持ち手に命中し、威力を増してキメラジャマトの右胸に突き刺さった。
「ガハッ!」
一瞬、ムスブが怯んだ。このチャンスを逃すまいと、銃身を定位置に戻し、棘が刺さった位置に射線を合わせて発砲した。
『CLAW TACTICAL BOMBER!』
至近距離で放った二つの弾丸と共に、装備された爪も発射される。棘のダメージで液状化する余裕が無かったのか、この攻撃は正直に通った。
この攻撃を受け、櫓の元まで転がったキメラジャマトは苦し紛れに地面を叩き、大量のヤシガニの脚を天に向けて伸ばした。そして脚は一本の巨大なハサミとなり、ぐわんと空気を切って振り落とされる。
『SET CHAIN ARRAY!』『CHAIN ARRAY CHARGE!』
即座に排莢するようにクローバックルを外し、チェーンアレイバックルに付け替える。
『CHAIN ARRAY TACTICAL BOMBER!』
チェーンアレイバックルの効果が付与された弾丸がハサミの先端にそれぞれ炸裂すると、棘付きの鉄球型に弾け、抉るように爆発した。さらに、鎖で繋がれた錨を右腕から射出し、残されたハサミの根元に巻き付ける。錨が固定されたことを確認し、力いっぱい上空へ投げ上げると、キメラジャマトの身体ごと空中に持ち上がった。
「ハァァッ!だぁッ!」
鎖を巻き直すと同時に俺も右脚のガス噴射で接近し、キメラジャマトの胴体に跳び蹴りをお見舞いした。シャコガイの殻の防御を突き破り、ヤシガニの脚がブチブチと千切れる。そして櫓の壁に激突した。
「ぐっ、うぅ……はははッ……強いね……確かに強い……でも、君だけでジャマトグランプリは止められないよ……?これからどうするつもりだい……?」
「……言ったろ。俺は一人じゃない」
彼の煽りに真っ向から返したその時、空から鐘の音が聞こえた。反射的に、俺たちは空を見上げる。鐘の音……このタイミングで誰かが願いを叶えた?
「ブーストバックル?」
俺たちが見届けたのは、雲を貫いて飛来する四つのブーストバックルだった。こんなふざけた芸当ができるのは一人しかいないな。
「英寿…!あいつも戦ってる…!」
なら、俺もあいつの覚悟に応えなければ。
「これで決める!」
パイレーツバックルを、ブラスターにへとセットする。小型バックル使用時とは違う、特殊な待機音が流れ始め、パイレーツバックルの舵輪を回転させることで、エネルギーが弾丸に込められる。
『SET!GO AROUND!』『PIRATE!FULL CHARGE!』
「認めない……君の成長なんて………僕は!僕は!」
キメラジャマトが、地面を叩いて突撃してくる。もうそこに、言葉で揺さぶる狡猾さも、人を嘲笑う悪辣さも無かった。
「じゃあな…」
『PIRATE!TACTICAL BOMBER!』
「ぐぁぁぁっ!……があっ……」
二つの放たれた弾丸は、捻れるように前進し、キメラジャマトの胸部に炸裂する。そして、キメラジャマトの身体を櫓に叩きつけると共に、水色と深緑のエネルギーが弾け、櫓ごと爆発四散した。
「よし……やった………!今度は………守れた………」
爆発が晴れても、キメラジャマトが出てくる様子はない。完全に死んだ、はずだ。櫓が一つ堕ちた以上、かみなりジャマト祭りは失敗。仮面ライダーの勝利……
「やった……」
変身を解くと、一気に力が抜けた。あのマントで回復できるのは状態異常と怪我だけで、体力までには関与しないらしい。安堵からか、緊張が解けた途端に、前のめりに倒れる……はずだった。
「間に合ってよかったよ」
「英寿……!」
俺の身体を支えていたのは、真紅の鎧をまとったギーツであった。彼の姿をよく見るために顔を上げると、俺は町の異変に気付いた。俺が破壊した以外の櫓が、一つ残らず全焼していた。ブーストバックルが降ってきてからあの一瞬で……何というスピードだろうか。俺もまだ、仮面ライダーを名乗るには程遠いってわけか。でもまぁ……今日の所は……
「俺も結構やるだろ?まぁまぁ、頑張ったと思うけど?」
「ああ。ありがとう、”ダパーン”」
自分を褒めてもいいだろう。玲、俺はお前から受け継いだこのバックルで、世界を守るよ。いつの日か、お前の願いを果たせるように。
少しずつでも前に。
*
すずなり鬼祭りのメインイベント、鬼の襲来。鬼が身に着けた鈴を取ることができれば、願いが叶うとされている。
今、母親の帰りを待つ少年・ショウタが、鈴を取らんと鬼と向かい合っていた。鬼に扮する広実須井は、ショウタを脅すようにゆらゆらと揺れていた。須井が揺れる度に、鈴が音色を響かせ、境内に緊張が走る。鈴付の紐を大量に巻き付けた長物を構え、勇気を持って踏み出したショウタと交差する。
ショウタは目いっぱい手を伸ばし、須井とすれ違った。
「取れた……!」
手に握られた鈴を掲げた瞬間、景和たちから歓声が上がる。そして、勇気を出した成果はすぐに表れた。
「ショウタ!」
手術を終えた母が、父と共に帰って来たのである。
「お母さん………ホントにかえって来た!」
ショウタは母に抱きつき、両親に鈴が取れたことを報告する。願いの叶ったショウタの姿に、誰もが笑みを浮かべるのだった。この三人を除いて。
本殿の陰で、須井は鬼の面を外した。その元に、赤哉と郁真が歩み寄る。
「部長、もう祭りも終わりです」
「そろそろ話してくれねぇか。あんた知ってるだろ、ジャマトのこと」
二人の追及に、須井は諦めたようにため息をこぼした。
「わかった。ショウタ君の勇気に免じて、僕の知ってることを話す。もちろん、奏斗君も同伴でね」
曇天は晴れて、空が赤らんでいた。
ジャマトのアジト付近のトンネルを、一人の男が壁に手を付きながら歩いていた。歩いているというよりは、身体を引きずっているという表現が正にた正しく、通った跡が水浸しになっていた。アクエリアスキメラジャマトのムスブである。いよいよもってダパーンに撃破された彼だが、爆炎に紛れて逃亡していたのである。
「まだだ……まだ、僕の願いは……」
「敗者が浅ましいな」
ムスブの前に、一人の男が立ちはだかった。青山優や景和の前にも姿を見せていた、スタッフに扮した男である。
「ソソグ……待ってくれ、僕はまだやれる……!」
「期待外れだった。なぜ私が、お前の遊びを容認していたと思う?強かったからだよ」
ソソグと呼ばれた男は、拳をムスブの腹部に突き刺した。拳はムスブの体内に取り込まれていた、IDコアを掴む。
「ダパーン程度に負けてしまった以上、お前の物語を結ぶ役目は終わった。消えろ」
「くそ……そんなっ…………ごはっ」
拳が引き抜かれると、ムスブの顔の溶解がおさまった。それは彼の能力の完全な焼失を意味し、うつ伏せに倒れる。そして、彼の身体は半透明となり、蒸発するように消えてしまった。
「そろそろ、”モーン”の感情も成熟した頃か……ダパーンよ。君の活躍は、これ以上見逃せない」
短髪に、ピンクの眼。デザグラのシナリオライター・ソソグは、デザグラスタッフの帽子をポイと捨てた。
JGPルール
ジャマトグランプリにペナルティは存在しない。
協力・妨害・裏切りなど、
あらゆる行為が容認されている。
次回:仮面ライダーギーツ外伝
「奴らの狙いはヴィジョンドライバーだ!」
─ベロバが仕掛ける─
「大将の首は俺が取る……!」
─次のゲームは!─
「いいよ。もうすぐ卒業だしね」
「新井はそのままでいいのか?」
─迫る卒業式─
「帰りたくないなぁ……」
「じゃあ叶えるよ、僕が君の願いを!」
31話 激情Ⅲ:ゾクゾクする過去♡