ジャマトグランプリ第一回戦・かみなりジャマト祭り。かつての参加者の願いを発動し、ブーストフォームマークⅡへと変身したギーツ。世界を守る覚悟を決め、パイレーツブラストフォームへと変身したダパーン。両名の活躍により、滅びの祭りは阻止。ジャマト陣営は次のゲームに駒を進める代償に、ナイトジャマトとアクエリアスキメラジャマトを失う結果となった。
「おのれギーツ……よくも私の愛すべきナイトを………復讐だ復讐だ!」
あくまでもナイトジャマトを倒されたことを強調し、怒りに震えるアルキメデル。そんな彼の逆上も上の空なのか、べロバはタブレットで前回のゲームの様子を繰り返し見ているようだった。
「まさかゲームに紛れてるとは思わなかったわぁ……古代人の成長は早いわねぇ?」
ジャマトグランプリを始めたとき以上に、べロバは感情が高ぶっているようだ。問いかけられた道長は呆れながら、ベロバのタブレットを取り上げた。
「そんなことはどうでもいい。早く次のゲームを始めるぞ」
道長が催促した通り、ゲームを始めるタイミング、その難易度のさじ加減も、ヴィジョンドライバーを持つべロバにある。ベロバの機嫌は相当良く、道長の不遜な態度にもケタケタと笑い返した。
「もちろん。スコアトップでラスボスのニラムを攻略すれば、あなたがジャマ神ね。ミッチー」
「あぁ。俺の理想の世界を叶えてやる」
かみなりジャマト祭りから一週間後。景和、祢音、朋希の三人は屋外のテーブル席に集合していた。キッチンカーで購入した軽食類とドリンクをテーブルに並べ、各々手を付ける。優雅に紅茶を飲んでいた祢音は、少し膨れ顔であったが。
「む~まさか奏斗にドタキャンされるなんて~」
今日三人が集合したのは、元々奏斗の復帰のお祝いをするためである。奏斗が仮面ライダーとして戦線に復帰したあの日。英寿が奏斗の肩を抱えて祭りの片付けに現れた際、景和と祢音は天地がひっくり返るくらい驚いた。同時に、一人で戦いに行ってしまったことに説教することになったのだが。どちらにせよ、無事に帰ってきてくれたことの安堵が大きく、説教は長続きしなかったが。
感情にもかなりの変化が見られ、今回の祝賀会も二つ返事でOKしてくれたのである。今まではあれやこれやと理屈を立て、関りを避けていたはずであったが。しかし直前で、残念なことにボランティア部から招集がかかってしまった。それも、緊急で絶対に集合だと言う。
「仕方ないよ。部活の大事な話なんでしょ?ね、朋希君」
「え、えぇ……」
それに対照的に、朋希の歯切れは悪かった。彼も奏斗の帰還に喜んではいた。しかしそれ以前……モーンに話を聞いてから、極めて他人との関りを避けている。心情としては、モーンの言うデザグラの上位権力者探しに注視してしまっていることが大きい。兎に角、集中力が散漫になっていることは事実であった。
「そうだけどさぁ……英寿も疲れてるみたいで、誘いずらかったもんね」
野暮用に振り回されている奏斗の話題を終え、祢音は直前のサロンでの出来事を思い返していた。
一度待ち合わせのためにサロンに集合した際の事である。仕事の休憩がけら訪れた英寿は、ソファでいつも通り足を組んでいた。しかしそこから、ピクリとも動かないのである。ツムリに淹れてもらったであろうコーヒーも、カップから湯気が立たなくなっていた。
「うん。おれ、英寿が寝てるところ初めて見たよ」
景和も、英寿の珍しい姿を回想しながら語る。最初はただの瞑想かと思われたが、三人が肩を叩いてやっと目を覚ましたのである。
「極めつけは、いつの間に……でしたもんね」
「そりゃあ英寿だって寝るだろうけどさ……お昼寝なんて初めてだもんね」
完璧人間を見せつけ続けていた英寿も、ジャマトグランプリの対応に骨が折れたのか。それとも、隙を見せてくれるほど仲間になれているのか。どちらかは分からないが、仲間の以外な一面を知れることは、嬉しいものである。
「でも、俺安心したよ。英寿も同じ人間なんだって」
「なんですかそれ、英寿さんのことなんだと思ってるんです?」
朋希の浮かれた口調に、景和も思わず笑みをこぼす。
「いや、俺達と同じ人間なのかなって思ってたから。まぁ冗談だけど」
「だよね~」「わかります」
一時の休息に和やかな時間が流れ、朋希がカフェオレに手を付けた所だった。
「冗談じゃないよ」
朋希の背後から声をかけてきた男性に、視線が集まる。
「あなたは……」
「英寿のサポーター、ジーンだ。英寿の様子がおかしいんだとしたら、真っ赤なキツネの影響かもしれない」
ジーンは自己紹介するなり、いきなり本題に入る。
せっかくの休日だと言うのに、まさかのボランティア部からの招集。しかも皆の誘いをキャンセルしてきたのもあって、余計に心象が悪い。祢音達からの誘いの方が先だったし断っても良かったが、大事な話がある……なんて真面目な文面が送られてきたことは初めてなもので、断りずらいことこの上なかった。
まだ芯が震えるほど寒いというのに、陸上部やサッカー部の部員たちは外のグラウンドで練習に打ち込んでいた。校舎の窓越しから見るだけで寒くなる。外部が活動しているということは、バスケ部も今頃体育館で部活だろうか。部を乗っ取った城玖は、今も部員と仲良くやれているだろうか。あいつも玲の死で人格が改変された一人だが、記憶を取り戻させたら責任の重さに押しつぶされてしまうだろう。俺が悪者で終わるなら、それでいい。
ボランティア部の部室は、三階の社会科準備室である。近場の階段を上ろうとした時、ふと図書室の扉の窓が目についた。休みの日にわざわざ、中で勉強している奴がいる。季節的には受験も終わる頃なのに、勤勉な者もいたもんだ。立ち止まってこっそり覗いてみる。
「……って、青山かよ」
机の前で頭を抱えて悶々としているのは、先日も世話になった青山優であった。かみなりジャマト祭りの時は、飲み物を奢ってもらったり、相談に乗ってもらったり、おんぶされて運ばれたり……心がまいっていたとは言え、思い返すと恥ずかしい。しかし、あれからお礼の一つも言えてなかった。流石にそれは道理に反すると思い起こして、少し寄り道することにした。
図書室の扉を抜けると、廊下の肌がピリピリする寒さとはガラッと変わり、空気の層を抜ける感覚を得るほどポカポカだった。暖かい照明も、勉強には打ってつけだろう。この時期に学校に来てまで勉強するものは滅多にいないという、俺の見立ては概ね正しく、図書室の使用者は青山一人だった。当の本人も、俺が現れたことに少々面食らっているようだ。
「よっ、青山。この前はありがとうな」
極めて自然に、俺は片手を挙げながら声をかけた。しかし、青山はいまいちピンと来ていないのか、小首を傾げるのみだった。
「……?青山?」
「……あー、同じクラスの奏斗君だよね……?私、何かお礼されるようなことしたっけ?」
忘れている……?運営が記憶消去を行ったのか?兎に角、青山が俺とさも初対面かのような態度を取って来た。青山はそんなに器用な嘘を付けれるようなタイプでは無いし、本当に記憶がまた失われたとみて間違いないだろう。なら、これ以上の関りは不要だ。彼女の性格上、厄介ごとに関わっていると知ったら手を貸そうとしてくる。この前のように。とりあえずは、遠ざけておくのが最善か。
「ごめん。俺の思い違いだったわ……悪い、勉強の邪魔して。消えるわ」
彼女に返事をさせないように言葉を並べ、出口に振り返る。青山からしたら訳のわからない支離滅裂な行動に見えただろうが、焦った頭ではこれが限界の言い訳だった。ドアノブに手をかけ、気温差で重たくなった扉を引く。冷たい風が頬に触れると、青山が椅子に座ったまま声をかけけてくれた。
「よくわかんないけど、困ってたら何でも言って?クラスのグループから、連絡先追加しとくからさ」
こいつ……本当に丸くなったよなと思う。何に影響されたんだろうな。
「ああ。助かるよ、ありがとう」
心ばかりの返事をし、図書室を出る。それからは、階段を足早に駆け上がり、三階の部室へと向かった。
(大事な話って……次の部長とかか?)
部長が卒業しても、一個下の新井は学校に居続けるし、ボランティア部の活動は形上継続するはずだ。新井の正体のモーンが戻ってくる気にならないと、空中分解は必至だが。モーンはまだ外に出る気にはなっていないようで、咄嗟に助けてくれてから顔を見れていない。あいつにも礼しないとなぁ。
と、考えている内に、部室の前に着いた。扉を開くと、今度は廊下と変わらない肌寒さの部室がそこにあった。既に新井を除く三人は集合しており、完全に俺待ちだった。気まずい。
「よし、来たね。それじゃあ、話しよっか」
俺がその辺のパイプ椅子に座ろうとしている間、部長はまくしたてるように早口で語った。らしくないな。
「ボランティア部の今後について、話したい」
いつになく真剣な雰囲気に、激しい違和感を感じる。
「ボランティア部は、今日で解散にする」
「は?」
俺以外の二人からも、どよめきの声があがる。ボランティア部を解散?俺たちがこの部活で活動している意味は……
「新井はそのままでいいのか?あんたが卒業しても、あいつが絵ぇ描くのを辞めるわけじゃないんだぞ」
郁真が俺の思っていることを先に代弁してくれた。俺も部長に声をかけようとした瞬間、スパイダーフォンに届いた着信に遮られた。
『奏斗様!ジャマーエリアが発生しました!』
ツムリの声だ。今日はとことん間が悪い。赤哉と郁真は俺とデザグラの繋がりを知っていたが、これで部長にも怪しまれるな……
「行きなよ。仮面ライダーなんでしょ、君」
俺の心配を踏み倒し、部長はあっけなく答えた。しかし、今は彼の追及をしている場合ではない。
「……話は後だ」
デザイアドライバーを装着し、俺はジャマーエリア内へと転送された。
*
出現したジャマーエリアは、範囲内の建物に干渉。町の中央に天守閣を生成し、町並みを江戸の城下町へと変えた。同時に、エリア内にいた景和たちの衣装が変化した。景和は革の鎧を装備した忍者、祢音は桃色の袴を着用した侍少女、朋希は水色の羽織の新選組風の侍に。同席していたジーンの姿は変わっていないので、標的の仮面ライダーのみ衣装が変わる仕様のようである。
法螺貝の音と共に、刀で武装した忍装束の忍者ジャマトが襲い掛かる。一斉に跳びかかる忍者ジャマトたちに、三人は咄嗟に腰の日本刀を抜刀し応戦する。
「なんで俺達だけこんな格好に!?」
「とりあえずっ、戦うしかないでしょう!」
鍔迫り合いになりながらも景和の疑問に答えた朋希は、腕を振り上げることでジャマトを押し返し、すれ違いながら胴に一刀入れる。そのまま背を斬りつけ討ち倒すと、左右から迫る忍者ジャマトを次々袈裟斬りで退けてゆく。そして、忍者ジャマトの波がおさまった所で、デザイアドライバーを装着。ビートバックルを使用する。
『SET』
忍者ジャマトの攻撃を右に受け流すと共に腕を波のように動かし、変身のポーズを取ると、そのまま仮面ライダーハイトーン・ビートフォームに変身した。
「変身!」
『BEAT!』『Ready?Fight!』
ビートアックスを真剣を持つように構え、忍者ジャマトの刀をいなして反撃の一刀を入れてゆく。背後からの縦一文字の斬撃も、背中にビートアックスを回して防御し、振り向きながら斬り上げて撃退した。
「変身!」「へ~んしんっ!」
『NINJYA!』『BEAT!』
景和と祢音も仮面ライダーに変身し、忍者ジャマトをそれぞれ一掃した。
城の天守閣からだろうか、大将の座についたべロバと、傍らの五十鈴大智のアナウンスがエリア内に響いた。
『まさに天下分け目の戦い!』
『さぁ、敵陣に攻め込んで大将のニラムを討ち、家宝を手に入れるのよ!戦国ゲーム、スタート!』
撃破された忍者ジャマトを押し退け、吾妻道長はゾンビバックルとジャマトバックルを装填した。
「大将の首は俺が取る。変身!」
『JYAMATO!ZONBIE!』
道長は前進しながら、仮面ライダーバッファ・ゾンビジャマトフォームに変身すると、忍者ジャマトと仮面ライダーたちの戦いに乱入する。回し蹴りでツタを発生させ、ナーゴとハイトーンを拘束すると、タイクーンを背後から叩き斬る。そしてナーゴの拘束を引き寄せながら解除して斬りつけた。ハイトーンは巻き込まれたビートアックスでツタを切断して脱すると、そのまま斬り上げるが、バッファは蹴りでビートアックスを弾き返し、横に薙ぎ払う。まだだと立ち上がるタイクーンとナーゴにも、追撃の一撃を入れ、エリアの最深部へと前進してゆく。
「奴らの狙いはヴィジョンドライバーだ!」
ジーンがいち早く、ジャマトの狙いに勘付いた。べロバがわざわざ敵陣と表現したことは、ニラムもエリア内に強制的に転送されている可能性がある。エリアの壁とジャマトの大軍で挟み撃ちにする算段であろう。
「させるか……行きましょう!」
三人は、陣地に攻め込むジャマトの軍団を追う。
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デザイアグランプリ陣営、陣幕とのぼりで囲まれた最深部に、鎧を着用したニラムが鎮座していた。木箱から自身のビジョンドライバーを取り出すと、ジャマトが町を破壊しながら攻め込む様と相まみえた。
「やはり来たか」
バッファだけではなく、ルーク、ビショップ、四体のジャマトライダーも集結し、横並びになってニラムに迫る。
「待て!」
仮面ライダー三人がジャマトの背後に追いつき、陣地内は乱戦状態となった。
しかし、これまで通り大勢に無勢の状況を覆すのは難しく、難なく退けられてしまう。三人が強敵たちに足止めされている内に、忍者ジャマトたちがニラムに攻め入った。が、まだ仮面ライダー側にも真打がいる。流浪侍の衣装の英寿と、紋付き袴でさながら坂本龍馬のような衣装となった奏斗である。真っ先にニラムに剣を振りかざした忍者ジャマト二体を、英寿は居合斬りで、奏斗は懐から西洋銃を取り出して撃ち抜いた。
「ったく……なんだこの格好」
「不埒な物の怪は俺たちが退散させる」
二人はデザイアドライバーにそれぞれバックルを装填、同時に変身の構えを取った。
『SET『DEPARTURE!』』
「「変身!」」
『BOOST!MARKⅡ!』『Voyage for desire!PIRATE&BLAST!』
「ハアッ!」「行くぞ!」
一歩先にブーストフォームマークⅡに変身したギーツが加速し、忍者ジャマトたちを一手に撃破する。その加速は赤く残像を残し、拳が炸裂するたびに炎が溢れ出た。三人のフォローにはダパーン・パイレーツブラストフォームが回った。最初にタイクーンを縛っていたジャマトライダーのツタをサーベルで断ち斬り、パイレーツブラスターでナーゴを攻撃していたビショップジャマトを撃ち抜く。さらに、パイレーツブラスターにシールドバックルを装填。シールドバックルを叩くように起動する。
『SET SHIELD!』『SHIELD CHARGE!』
そして、ギーツと戦闘に入っていたジャマトライダー二体へ向けて発砲する。
『SHIELD TACTICAL BOMBER!』
放たれた弾丸は紺色で半透明のアームドシールド型に変化しており、巨大化。ジャマトライダー二体の足元をすくい転ばせると、今度はルークジャマトの攻撃を受けていたハイトーンの前に着弾。高圧ビームをガードした。
『REVOLVE ON』
ここで、ベルトを反転させたギーツが深紅の狐となるビーストモードに変身。尾から発する高熱を背に、超加速でバッファを始めジャマトを押し返してゆく。
その間にダパーンは三人の保護に回った。右手でマントの端を掴みターンすると、水色のミストが溢れ出、膝を付いていた三人の怪我を治癒した。
「これでまだ戦える…!ありがとうございます、先輩!」
「一応、体力だけは戻らないから注意な」
ジャマトとの攻防で深手を負った三人が回復し、数の不利はほとんど無くなった。相手よりもライダー側の連携の練度のほうが上。このまま押し切れるかに思えた。
「やるぞ英寿!」
「あぁ………っ……!」
突然、ギーツが頭を抱え始めた。ダパーンが気付かぬ間に、ギーツの変身は解け地面へと寝転んでしまう。
「英寿……!?」
「皆、英寿寝ちゃってるよ!?」
万が一も考えられたが、ナーゴの言っている通り英寿はただ眠っているだけのようだった。もしやと思い、ダパーンはマントで治癒をかける。が、英寿はそのまま目を開かず寝たままであった。
「先輩……これは……!」
「こいつのバックルはブーストバックル五本分の力だ……つまり……加速に加えて疲労も五倍……追いついてないんだ、スピードに身体が」
いくら無敗の英寿と言えど、人間である。疲労が溜まれば眠くもなる
「何だか知らないが……殺らせてもらうぞ」
『POISON CHARGE!』
好機とみたジャマト軍団が、一斉に技のチャージを始める。英寿を庇い切りながらあいつらの同時攻撃を防ぐ。その方法をダパーンは必死に頭を回して考案し、指揮を執った。
「朋希と祢音は氷を!俺の水に合わせろ!景和は英寿を頼む!」
『SET WATER!』
炸裂させた水を一気に氷結、氷の壁を作る。その作戦を実行するため、パイレーツブラスターにウォーターバックルを装填する。残りの三人も無言でうなずき合い、それぞれ替えを取る。
が、彼らの準備は杞憂に終わった。
『BAZOOKA FIRE VICTORY!』
突如、空中からジャマトに向けて無数の火球が放たれた。火球が着弾すると、花火のように爆発しジャマト側の攻撃をキャンセルさせる。
「ちっ、ここは引くぞ!」
正体不明の攻撃に、バッファは撤退を選択した。ジャマトたちが戦場から消えると、陣幕が消え、英寿の衣装もいつもの冬服に戻った。奏斗たちも一旦変身を解除し、眠りについた英寿の元に集合する。当然のように、景和たちの格好も元に戻っていた。
「助かった……今の攻撃何だったんだろうね?」
景和の疑問は、すぐに解決された。攻撃が放たれた方向を見上げると、建物の間にかかっている渡り廊下の天井に、黒い鳥系のマスクをした仮面ライダーが立っていた。上半身よりも大きいバズーカを抱えており、バズーカの天面に赤色の火炎放射器が合体してる。その仮面ライダーは、颯爽と奏斗たちの元に飛び降りてきた。
「仮面ライダー……」
「情けない姿だね……浮世英寿」
彼の装着しているドライバーと二つの小型バックルは所々に擦り傷や色落ちが見られ、相当年季が入っているようであった。彼がバックルを外し変身解除すると、中から現れたのは、ボランティア部部長の広実須井であった。
「部長!?」
「え、奏斗知り合いなの!?」
突然のカミングアウトに、奏斗は言葉を失う。
「仮面ライダークルウス…!伝説のデザ神!まさかこんなところで会えるなんて!」
陰から観戦していたサポーターのジーンが、ハイテンションで部長の仮面ライダー名を叫ぶ。デザ神……英寿はここ数年無敗で、デザ神の座を譲っていないはずである。景和も同様の疑問を持ち、ジーンに投げかける。
「どうゆうこと?デザ神は英寿でしょ?」
「彼は十年前、八歳という若さでデザ神になったんだよ。今でもサポーターの間では語り草さ。五年前、もう一度参加したっきりだったけど、また見られるなんて!光栄だよ」
ジーンは握手を差し出すが、広実須井は手で払って断った。
「君たちのお人形遊びに付き合うつもりはない。奏斗君、こんな奴ら放っておいて部室に戻るよ。話は終わってない」
そう言うと、広実須井はドライバーを外してその場を去った。
*
部長が、仮面ライダーだった。それも、伝説のデザ神だって?部室に戻った時、残された二人も神妙な面持ちだった。彼らも部長が仮面ライダーだということを知ったのだろう。窓際の机に腰かけた部長は、飄々とした雰囲気を忘れ、真剣な表情である。
「よし、じゃあこれからのボランティア部の話を……」
「よしじゃないだろ。お前の知っていることを話してくれ……じゃなきゃ、だれも納得しない」
俺だけではなく、二人も鋭い視線を部長へ向けた。それに気圧されることなく、部長は言葉を紡ぐ。
「いいよ。もうすぐ卒業だしね……そうだな……何から話せばいいのか、うん…………そうだ、最初は……紅美ちゃんと僕の話から……かな」
新井の話。部長の初めて聞く紅美ちゃん呼びに少し驚いた。
「僕が紅美ちゃんと会ったのは、十年前だ」
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僕の家は、一般的な中流家庭だった。父は保険会社の社員で、母は普通にスーパーでパートとして働いている。兄弟はいない。両親はとても優しかったけど、仕事はとても忙しくて、休日にどちらもいないことはざらだった。不自由なく過ごさせてもらっていたけど、一人で家にいるのは退屈だった。
だから僕は、友達の予定が付かなかった日でも外に出て、公園で遊んでいた。公園には同年代の子供が沢山いるし、偶然他の友達と会えることはある。近所の公園は滑り台やブランコなど、小規模だけど、子供が遊ぶには十分な広さだった。
夕暮れ時、子供たちは帰路につき、母もそろそろ帰宅する頃。がらがらの公園のブランコで、一人ぽつんと座っている女の子がいた。
「帰りたくないなぁ……」
そう呟く少女は、何度か公園での遊びに混ざっていた記憶があったが、名前も聞いたことが無かった。
「どうしたの?」
僕は、話しかけてしまった。その時はただ、ここで見逃したらかわいそうだから、良心が痛むから。そんなくだらない、自分のための独りよがりな考えだったと思う。僕の声を聞いた少女は、ハッとしてその場を去ってしまった。ブランコの座席が勢いでガチャガチャと揺れて、僕は取り残された。まだ少女の事を何も知らない僕は、とっとと帰ることにした。
「へんなの」
今度こそ帰ろうと自宅方向に足を向けた時だ、白と黒のフリルのスカートの女性が立っていた。彼女は言うのだ。
「おめでとうございます!あなたは、仮面ライダーに選ばれました!」
僕は、仮面ライダーとやらに選ばれたらしい。
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「ちょ、ちょっと待て!じゃあデザグラは、小三のガキを戦いに勧誘したってことか!?正気じゃないだろ……!」
怒涛の展開に、郁真が話を遮った。その辺りは同意する、が。今までの未来人の悪辣さを見ていると、八歳だろうが面白ければ参戦させるであろう、というのが容易に想像できる。話通りなら、実際にデザ神になって伝説を残しているのだから尚更。
「うん……でも、本当の事だからしょうがないよ。それから、願いを考えるまでの猶予を与えられて……僕は何不自由なく過ごしていたからね。特に願うことも無かった。だから……僕は願いを他人のために使うことにした。ごめんね。前にさ、紅美ちゃんが虐待を受けてたこと、知らなかったって言ってたでしょ。あれ、嘘なんだ」
そうか、つまり部長が当時願ったことは。
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デザイアグランプリの参戦権を与えられてから、一週間ほどの期間が置かれた。ナビゲーターのツムリによれば、自らの願いをじっくり考えろ。とのことらしい。僕は考えた。親の仕事を願いで邪魔するのもいけないし、考えに考えて期限が迫った。そして、今日も一人残っていた少女に声をかけた。
「帰りたくないの?」
「……うん」
隣のブランコの座席に腰をかけ、少女と同じようにギコギコと漕ぐ。八歳の少年に、他人の心を慮る思考が成熟している訳も無く。ストレートに気になっていたことを聞いた。
「どうして?家族とケンカした?」
「ううん。お母さん、私がまちがえると、すごく怒るから、あいたくない」
私が間違えると。子供の言葉を翻訳すれば、些細なことで激高するということだろうか。まだ人間のことをほとんど知らない少女に、それが正しくないことであるのは、理解が難しい。親が言うのなら、そう。子供はそうやって育つ。
「お父さんは?」
「いないの。少し前に、違うお母さんとでてった」
さすがの僕も、ここで言葉に詰まった。少女の方を見ると、夏だというのに長袖を着ていることに気が付いた。もしかしたら、と思う。デザイアグランプリで勝利し、彼女の家族関係を修復できれば、幸せに生きることができるのではないか。それを独断で決めるわけにもいかず、またしても僕は正直に問いかけた。
「家族と、仲良くしたい?」
「……うん。昔に、戻りたい」
僕の願いはここで決まった。
「君の名前、なに?」
「…………こうみ」
「わかった。こうみちゃん、じゃあ叶えるよ、僕が君の願いを!」
後日、僕はデザイアカードに”こうみちゃんが幸せに家族と暮らせる世界”を記入した。
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「そこからは……そうだなぁ。大変だったよ。周りは大人だらけ。手助けをしてくれる人もいて、運もそれなりに良かった。僕は、最終戦まで残った」
たった八歳の少年が、苛烈なデザイアグランプリを勝ち抜く。本来なら、生き抜くだけでも厳しい。十年前か……そういえば、橋結カムロの料理スキルの源である赤哉の兄、上遠橙吾も部長と会ったりしたのだろうか。五年前、もう一度参加したと英寿のサポーターも言ってたし、性格のリソースとなっていた郁真の叔父・綾辻誠司とも会っていたのかもしれない。
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最終戦・ラスボスジャマトとの戦い。今まで一緒に戦ってきた仲間が次々命を落とす中、僕はラスボスの弱点を見つけることができた。背中にピラミッドを抱えた亀のラスボス。弱点はピラミッドの頂点にある発光体だった。火炎放射器から溢れる炎が、翼のように僕の背中を押していた。
『BOOST!FIRE!GRAND VICTORY!』
「あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙あっ、だああああああああああっ!」
人生で声をあそこまで荒げたのは、最初で最後だったかもしれない。最終戦において、自分の願いのために戦っている人はいなかった。皆が、世界を守るために必死だった。僕ものその一人だった。
炎に包まれ、身体の何倍にも膨れ上がった拳を、発光体に叩きつける。赤く光る四角錐の発光体が砕けると、僕の炎がラスボスへ伝播、悶え苦しみながらラスボスは爆発した。
『ミッションコンプリート!デザ神、降臨です!』
地面にフラフラになりながら着地すると、ツムリのアナウンスにより、デザ神の座に輝いたことを自覚した。でも、まったくそんな気にはならなかった。焼け野原になった戦場に横たわる、仲間たちの死体。僕は、その中でもまだ意識があった、上遠橙吾の元に駆け寄る。
「橙吾さん!」
「ありがとう……世界を守ってくれて…………もし、巡り会えたら……弟を、頼む…………っ」
『MISSION FAILED』
世界が、修復されてゆく。それでも、目の前の死体たちは修復されない。赤いノイズと共にこの世の波間に消えていくだけだ。信じられない。僕が掴んだ、彼女の幸福は。屍のもとに成り立っていると。
「こんなの……ただの呪いじゃないか……」
世界は新しく作り変わった。
デザ神として勝利を祝福された後、すぐに公園へ向かった。紅美ちゃんは笑顔で遊んでいた。一人ではなく、家族と一緒に。両親の顔を見たのは始めてのことだ。父親が紅美ちゃんの背中を押して、ブランコが大きく揺れる。その様子を、母親が風に揺られながら見ていた。
「あっ!お父さん、止めて止めて!」
紅美ちゃんが僕の姿に気付く。父親に頼みブランコから降りると、僕の元へ駆け寄ってきた。
「すいくーん!久しぶり!」
「う、うん。今日は、お父さんたちと一緒なんだ?」
紅美ちゃんが、親といる所を僕は一度も見たことが無かったから。僕の言葉はぎこちなかった。
「え?いつもいっしょだよ?お母さんたち、しんぱいしょうなの。すい君にも、まえいったじゃん」
世界は既に作り替わり、僕が紅美ちゃんとした約束も、無かったことになっていた。まるで、彼女ではない何かと話しているようだった。
僕に紅美ちゃんが笑顔で語る様を悟ったのか、両親も僕のもとに来て、ニッコリと笑うのだ。
「君、もしかして紅美が言ってたお友達かい?」
「ありがとうね。紅美、あなたに懐いてるのよ。お兄さんみたいに思ってるのかな?」
嘘偽りのない微笑みに、吐き気がするようだった。お前たちの不貞行為も、虐待も、無かったことになった。もう、彼らを非難することはできない。どれだけ当人が悪でも、願い一つで善に変えられるのだ。僕は分かっていなかった。願いを叶えることがどれだけ残酷なことか。そして、誰かが幸せになることは、誰かが不幸になることだ。紅美ちゃんの両親を変える願いは、橙吾さんたちの命と秤にかけるのに正当なものだったろうか。
僕は多くの命を犠牲にして、家庭崩壊を揉み消し、その業を望んでもない紅美ちゃんに背負わせたのだ。許されるはずがない。
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「そんな。兄さんが、デザグラに……」
「ごめん。まだ子供だった僕は、助けられてばかりだった」
部長は、自分だけを責めるように言葉を選びながら語っていた。わざわざ赤哉の兄の名前を出したのも、自らの行動に責任を強く感じていたからだろう。デザイアグランプリは、最初は未知の存在だった。コラスやベロバが場をかき乱したことで、次第に全貌が分かりつつあるが、一度の参加だけで探り切るのは難しい。ましてや、自分の願いを決める段階などでは。部長も玲と同じように、自らの願いに苦しめられた人間だった。
「僕の活躍は、オーディエンスからは大層ウケたらしい。今後のシーズンでの再参戦を望まれて、装備一式を預けられた。断り続けてたけどね」
机の上に並べられたバックルたちは、予想通り相当古い。ボロボロなのも、例の最終戦が相当苛烈なものであったことが想像に難くない。しかし、同時に部長は本気でデザグラを拒絶し、この装備達の管理をないがしろにしていたことが分かる。それほどまで戦いから身を引いていた男が、何故五年前の戦いに戻って来たのだろうか。新井紅美とモーンの関係性にも疑問が残る。
「願いを叶えてから……五年後くらいかな。紅美ちゃんの様子がおかしくなった」
────────────────────────────
中学二年生の春。紅美ちゃんは僕と同じ中学校に進学してきた。僕は数年の時を経て、デザグラの責任感とか、紅美ちゃんのことを乗り越えたつもりでいた。僕の行いは許され難いが、紅美ちゃん自身に罪はない。彼女が幸せに生きていれば、それでいいじゃないか。
そんな逃避的な感情で自分を騙していた毎日。異変の香りを始めて感じたのは、土砂降りの下校時だった。
「傘持ってきてて良かった~」
学校生活も好調で、僕は土砂降りだろうと上機嫌だった。交差点で赤信号が青に変わるのを待っていた。肩掛けの鞄が雨に濡れないよう、傘と同じ持ち手にし、呆けた顔で色が変わるまでの時間を示すメーターを眺めていた。赤色のメーターが切れかかった頃。僕は背中を小突かれてようやく、後ろから声をかけられていることに気付いた。
「うおっ、誰!?」
肩が飛び跳ね、振り返る。立っていたのは、傘もささずびしょ濡れの紅美ちゃんの姿だった。
「ごめん、須井君。傘忘れちゃったの。途中まででいいから入れてくれない?」
両手を合わせお願いする紅美ちゃん。僕は彼女がこれ以上濡れないように、慌てて傘を差しだした。打ち付けるような雨が制服に髪の毛を濡らしたが、僕の頭は次第に覚めていくようだった。傘の守備範囲にすっぽりと入った紅美ちゃん。何かがおかしい。
「……?」
「どうしたの、須井君?」
彼女は、平然と僕を見ている。彼女は、自分だけが安全圏にいて、僕がノーガードで雨風に晒されているこの状況を、良しとする人間だったか。僕は、気のせいだと思って処理した。世界が作り替わってから、もう何年も経っているのだから。
その後はなんとなくで相合傘をしながら帰り、家まで紅美ちゃんを送り届けた。玄関で、五年ぶりに紅美ちゃんの母親に会った。あまり聞きたくないので知らないようにしていたけど、改変後の母親は広告会社で働いているらしく、今はテレワークでほとんど家にいるようだった。
「ごめんなさいねぇ、須井君。この子ったら何回も伝えたのに、傘忘れちゃったのよ?」
「あ、あは……ごめんねお母さん。須井君」
母親と紅美ちゃんの会話を聞いて、違和感が膨らんで大きくなることを感じていた。二人の顔が見えない。家族と言うのは、お互いの顔を伺いながら会話をするものだったか。少なくとも僕の家はそうではない。濡れっぱなしの娘を前に、心配も前に説教?ありえない。
「紅美。私は須井君と少し話あるから、先に上っていなさい。制服はハンガーにかけとくのよ?」
「はい……じゃあ、またね」
母親の言葉に不満そうな態度を見せず、紅美ちゃんは靴を脱ぎ、水滴を垂らしながら二階へと上って行った。玄関はフローリングと段差になっていたので、150㎝程の母親が、僕を一方的に見下ろす形になっていた。いや、本当は目線は同じくらいだったかもしれない。けれど、僕はそれくらいに威圧感を与えられていた。紅美ちゃんが扉を閉める音が聞こえると、母親が探るような視線を僕に与えてきた。
「ごめんなさい須井君。ほんっとうに、できの悪い娘で……」
「そんなことないですよ。僕は紅美ちゃんと話してて楽しいですし、頭も良いから……いつも助けられてばっかりです」
「……そう」
できの悪い、なんてどの口が言うんだよ。と心の中で悪態をつきながら、僕評の彼女の話を、良い方向性で伝えた。でも、それが間違いだったのかもしれない。母親は、途端に目の光を落とし、呼吸一つ挟まず僕を詰めてきた。
「じゃあ、紅美に付きまとうような悪い友達はいないかしら?もしくは、紅美が悪い先輩を好きになっている素振り、悪い先輩が紅美を狙っているようなサインは見ていない?いないならそれで良いのよ?でもいたら心配じゃない?紅美には失敗しないように生きてもらわないと困るのよ。うちのお父さんは変な専門校に行ったりしたから今も苦労しているの。私みたいに社会から認められる人にならないと駄目でしょ?須井君みたいに頭だけじゃなくて、容姿にコミュ力もあれば完璧だったのにね。あの子にも須井君みたいな相手が見つからないかしら?ねぇどう思う?」
最初の問いに答える間もない言葉運びに、思わず後ずさった。雨に打たれている時以上に、背筋が冷えていくように感じた。だめだ。この親やばい。願いだけで簡単に変えられるものでは無かった。僕の願いは、こうみちゃんが幸せに暮らせる世界だ。五年前はそれで良かったのかもしれない。五年前の紅美ちゃんの言葉を思い出す。
(え?いつもいっしょだよ?お母さんたち、しんぱいしょうなの。)
重大なことに僕は気づいた。何も変わっていなかったんだ。デザイアカードに記載された願いを額面通り叶えれば、その時点での紅美ちゃんが幸せになるだけではないだろうか。僕は両親の性格がどう変わるかなんて願っていない。全てが、僕の思い通りになるとは限らない。当時の両親が行った虐待が消えただけで、本質的な性格や判断力が変わっていなかったとしたら。成長した紅美ちゃんがまた苦しむことになる。
僕はまたしても、デザイアグランプリに頼ることを考えた。でも、すぐに思い留まる。叶えられる願い自体に、僕の意思が反映されるわけではない。なら、この問題は僕自身が能動的に解決するべきだ。そう選択した。
「そうですねぇ……紅美ちゃんには僕がついてるんで……学校のことは安心してください。何かあったらすぐに伝えるんで、任せてくださいよ」
僕が紅美ちゃんの監視役を買って出る。正直、賭けだった。紅美ちゃんに向けられる、両親からの圧力を少しでも僕に逃がせたら。そんなつもりだった。母親が僕の提案に、鋭く冷たい目を見せる。
「…………そう!須井君がついてくれるなら心強いわぁ……!これからも、紅美をよろしくね」
母親は最後に好印象な反応をし、僕は胸を撫で下ろした。これだけ機嫌かよければ、紅美ちゃんも今日のところは大丈夫だろう。また明日学校で会って、詳しく話を聞こう。そう考えて、僕は紅美ちゃんの家を出た。雨はまだ降り続けていた。
でも、事態は一刻を争うほど深刻だった。
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「翌日、紅美ちゃんは亡くなった。交通事故だった」
部長は、言葉を詰まらせることは無く淡々と語った。新井の家族の話が出た段階から何となくは察していた。モーンは今の姿がオリジナルではなく、あくまで新井紅美の外見をコピーした状態と言うことか。だれにも気づかれずに入れ替わったものと思っていたが、当時高校生になって再会した時にはどんな気分だったのだろうか。
「僕も、彼女の葬式に招かれた」
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事故が起きた通りは、僕が前日信号待ちをしていた交差点だった。衝突したのは普通の自家用車で、雨脚が強くお互いに姿を目視できず正面衝突したらしい。痛みは無く即死だった。その日は友人の部活動に手伝いに出ていて、帰宅時間が遅れていた。僕が到着した頃には規制線が敷かれていて、彼女の亡骸を見ることすらできなかった。一目見ないと受け入れられない気がした。遺体の損傷が激しかったことから、火葬は先んじて親族同伴の元行われ、葬式には遺骨のみが遺影の前に置かれていた。
パイプ椅子の上で、僕はずっと俯いていた。まだ、認められない。彼女が死んだなんて。
「両親には内緒ですよ」
葬式が終わり、誰もが席を離れる中、僕に声をかける者が現れた。顔を上げると、カラーコンタクトだろうか、黒い喪服に似合わないピンクの瞳をした男が立っていた。確か、新井の父方の叔父として紹介されていた男だった。男は、水で濡れたのかくしゃくしゃでひしゃげた封筒を差し出してきた。
「なんですか……これ」
「手紙です。両親が処分しようとしていたので、拝借しました。それは容認できないので」
叔父の男から奪うように封筒を受け取ると、封筒から一枚の便箋を取り出す。便箋には、何度も書き直したのか大量の筆跡と消し後が残っていた。でも、まともに読める文章は一つだけだった。
『両親の過保護があなたに向きそうなことがとてもつらいです』
一発で僕宛のメッセージであることがわかった。
「なんだよそれ……僕はそんなこと……どうでもいいのに………………っ、君と話したいこと、まだ…………沢山あったんだ…………」
僕の行動は、結局彼女を苦しめただけだった。自己犠牲なんて、彼女は望んでなかった。勝手に理解者面をして、最後にはこれか。遺恨を残しただけじゃないか。便箋に水滴が落ちて、急いで拭うと、親族と話している両親の姿が見えた。
「ごめんなさい……娘は本当にできの悪い…………私たちの言うとおりにしてれば幸せになれたのに」
気付けばもう、僕は走り始めていた。話している間に飛び込み、母親の襟を両手でつかんで押し倒した。
「お前っ!ふざっけんなよ!全部、全部お前らのせいだろ!」
「なによあんた!」
暴走した僕を、手紙をくれた叔父が引きはがす。葬儀場を強制退場させられるまで、僕は暴言を叫び続けた。
「なにが幸せだ!こんなの…こんなの紅美ちゃんが望んでいるわけがないだろ!謝れよ……お前たちが殺した紅美ちゃんに謝れよぉっ!なぁ!何とか言えよ!どんな思いで………………こんなっ……おいっ!」
半分は、自分に向けた怒りだったと思う。僕の願いは、最後まで紅美ちゃんの苦しむ時間を引き延ばしただけだったのだから。
「気持ちはわかるけどさ。奥さんには俺からも説得しとくから、ここで頭冷やせ、な」
見間違えだったのか、ピンクの瞳もかしこまった口調もなくなった叔父に、近くの公園に連れてこられた。叔父は当たり障りのないことだけ言って、足早に葬儀場に戻っていった。ブランコの椅子にガチャリと座って、項垂れる。僕は何がしたいんだ。もう紅美ちゃんは帰ってこない。僕にできることなんて。
「おめでとうございます。あなたは、デザイアグランプリに招待されました」
半年に一回、恒例の勧誘だった。あるじゃないか、簡単で確実な方法。
「今すぐデザグラを始めろ」
僕は立ち上がり、ポケットからIDコアをツムリに見せた。
「僕が次のデザ神だ……」
五年ぶり二度目の参加だった。
今回の参加者には、前回大会のデザ神もいる様子であった。浮世英寿……噂に聞くところまだ高校生らしい。
「よっし!デザ神二人とチームとは、実に光栄だ!」
一回戦はチーム戦で、僕と浮世英寿。そしてベンチャー企業・ソニカの社長、綾辻誠司の三人でEチームだった。彼には感謝をしている。豪胆だが繊細な気遣いで、荒んだ僕の心を落ち着かせてくれた。でも、この浮世英寿は違った。
「お手柔らかに頼むよ、元デザ神」
自信満々に飄々で、一切の無駄が無い。それに、願いは働かなくても生活できる世界にしたらしい。まさに、僕の神経を逆撫でするような男であった。ギーツに変身した時の強さはまさに別格で、他を寄せ付けなかった。だけど、僕は負けるわけにはいかなかった。今回の願いは、絶対にミスが起こらないように。”僕の理想の親友、新井紅美が存在している世界”と記入した。小学生の時、どんな気持ちで願いを書いただなんて忘れていた。ただ、自分のせいで人が一人死んだ事実を揉み消したかった。
でも、独りよがりの願いで勝てるほど世界は甘くなかった。
『ミッションコンプリート!デザ神・ギーツ、降臨です!』
「惜しかったなクルウス。いつでも再挑戦は受け付けてるぞ」
だめだ。この男には、勝てない。そう悟ってからは、急激に全てがどうでもよくなっていった。彼女の死を受け入れて、進むことしかできなくなった。ただ、願いを叶える機会を奪った浮世英寿への恨みを残して。
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「浮世英寿は、それからも勝ち続けて、皆の願いを邪魔しているんだろう?」
部長は流石にモーンと新井の関係性までは理解していないようであった。まだ聞きたいことは沢山ある。そこからどうやって新井の非行を知って、ボランティア部を立ち上げることに至ったのか……とか。詳しく話を聞く必要がある。
それも、また後回しになるようだ。
景和からメッセージが届いていた。眠りの英寿とついでにジーンがどうやらピンチらしい。助けに行かない選択肢はない。
「部長はそう思っても仕方がないかもしれないけど、あいつは結構いいやつだし、人並みに悩んだりもしてるよ。俺は、信用してる」
今度はジャマーエリア外で起こった出来事のようだ。俺は部室を出て、英寿の助けに向かった。
*
─ようやくわかったよ!君の正体が!─
─君を始めて見かけたあの時から、君は強かった。ジャマトを恐れず、デザ神の不敗神話を築き上げてきた。それはなぜか、君は既にデザグラのノウハウを熟知していたからだ……!クルウスのような例外を除いて、世界が作り変えられれば記憶が消えるはず……!でも君は違った。それが可能な理由は一つしかない!─
─君は本当に西暦元年からデザグラを続けてきたんだ!何度も生まれ変わってね!君には前世の記憶を受け継ぐ特別な力がある!─
─そうだと言ったら、お前は信じるのか?─
─信じるよ!むしろ信じたい!君は2000年もの間輪廻転生を繰り返してきた!2000年前に生き別れた母、ミツメを探すために……!時にはデザグラに参戦し、時にはデザグラとは無関係の人生を過ごして……!君と母の再開が待ち遠しいよ!悠久の時を超えた、感動のドキュメンタリーだ!─
─俺の人生は、お前の娯楽じゃない―
「そこで見てなさい。推しのの死にざまを……フフッ、あはははっ!こんな不幸なことは無いわ!ゾクゾクする~」
人の人生で遊んできた罪。グレア2に変身したべロバに追い詰めらたジーン。ブーストマークⅡレイズバックルの後遺症により、目覚めない英寿に銃口が向けられる。
「嫌だ……ああああああああ!」
引き金は引かれた。
JGPルール
サポーターがゲームに
直接関与することは容認されていない。
次回:仮面ライダーギーツ外伝
「誰よりも、信用できる人に」
ーボランティア部の決断はー
「それが、最初のドキドキだったの」
「今度こそ、お前を信じる」
「戦おう、「一緒に!」」
32話 激情Ⅳ:絆の卒業式