仮面ライダーギーツ外伝 一歩IF:片脚の男   作:みなかみ

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33話 激情Ⅴ:仲間割れ♡闘牛ゲーム

 

 ニラムの所持するヴィジョンドライバーを奪うため、二回戦の戦国ゲームを行ったジャマトグランプリ。いい所までは行ったものの……結局はサポーターを味方につけたダパーン、新たな力で副作用を克服したギーツにより作戦は失敗。如何に強力なライダーとの戦闘を避け、ジャマトを勝利に導くか。参謀として腕が鳴る。

「さて、ヴィジョンドライバーを持つ君が、ジャマトグランプリのゲームマスターになった訳だ。生半可なゲームじゃ、ギーツとダパーンに阻止されるだけだよ」

 僕が眼鏡をかけ直しながら見つめる先には、ヴィジョンドライバーを所持する吾妻道長が不敵な笑みを浮かべている。権限を奪われたべロバは不貞腐れているが、こんなことで諦めるような人間ではないだろう。ジャマトの管理人・アルキメデルもとっておきを連れてくると言っていた。上手くやれば、デザグラ陣営を一網打尽にできる。

「次のゲームは俺が決める」

 そこで吾妻道長が考案したゲームは……

 

 

 月日は流れ、四月一日。先輩たちは進級し、3年生となった。まだそこに、玲先輩の席は無い。急いで元凶たる、モーンをデザインした人物を探して不正を認めさせなければ。こうやってボヤっとしている間も、どんどん奏斗先輩や、城玖先輩との年齢が離れてゆく。戦国ゲームで、ルークとビショップジャマトが不審な動きをしていたのだ。理由は分からないが、何かしらの謀略を巡らせに来たに違いない。

 だから僕は、こんなことをしている場合じゃないんだ。

「今日!四月一日は、私の誕生日!エイプリールフールだけど、嘘じゃないよ~!皆のお祝いコメントで、幸せに浸りたいと思います!以上、祢音でした!バイバ~イ!」

「……止めましたよ」

 僕が握っているのは武器ではなく、祢音さんのスマホのついた自撮り棒だった。突然街中に呼び出されたと思ったら、誕生日記念に配信する動画のカメラマンを押し付けられた。祢音さんはかなり強引な所がある。奏斗先輩が振り回されたエピソードも何回か耳にしていた。

「ありがとう、朋希」

 向こうから呼び出してきたと言うのに、カメラから外れた彼女にはあまり笑顔がない。原因は粗方わかっている。彼女の誕生日は、人生最大の不幸が起こった日なのだから。十一年前、彼女が身代金目的で誘拐されたのがこの日だ。結局、犯人は逮捕された後事故で亡くなっている。もうこの世に彼女へ憂いを落とすものは無いはずなのに、心のトラウマは消えないものだ。

「祢音さん。休憩がてら、どこかカフェでも寄りますか?奢りますよ、誕生日ですし」

 ベンチに座ったままの祢音さんに、携帯と自撮り棒を返した。彼女は僕の話を聞きながら撮れた映像をチェックしていた。一瞬曇った顔も、僕が淡々と話しかけていると、すぐに作り笑顔に戻った。

「大丈夫だよ。気持ちだけで、私は十分嬉しい」

 まぁ……スーパーセレブだもんな。高校生の財力では気持ちくらいしかあげられないってことかな。

「代わりにさ、朋希。私のお願い、聞いてくれる?」

「はい?」

 祢音さんのセレブぶりに感心している僕に、彼女は不意打ちを仕掛けてきた。

「朋希は、もう戦わない方が良いよ」

「……え?」

 言っている意味が分からなかった。お願いって、こういう時普通、買い物の荷物持ちをしろとか。お悩み相談に乗ってくれとか、そんなところじゃないのか。明らかに動揺を見せてしまった僕に追い打ちをかけるように、彼女は言葉を続けた。

「戦国ゲームの時から、落ち着き無いよ。玲さんの復讐、しようとしてるんじゃない?」

「あ、あぁ。違いますよ。あれは、ジャマト側の様子が変だったから……」

 ダメだ。口から出まかせしか出てこない。まさか祢音さんに見抜かれていたなんて。

「気持ちはわかるけど。玲さんも、奏斗も、望んでないと思うな。戦うときは、私も一緒に戦うから……だから」

「無理です……ヴィジョンドライバーが揃ってしまえば、デザグラは未来に帰ってしまう。今しかチャンスが無いんですよ。玲先輩を奏斗先輩に殺させた張本人を探して、皆の人生を取り戻すチャンスは……!」

 僕が拒否すると、視線の端に赤い布が見えた。ジャマトだ。ポーンジャマト一体のみで、赤い革のジャケットを羽織っている。

「見つけたぞ……!」

「待って朋希!」

 祢音さんの声も聞かず、僕は走り始めた。

 

 

「まさか英寿が転生していたとはな……」

「本当に、びっくり」

 とあるビル街を、奏斗とモーンは歩いていた。祢音の誕生日プレゼントを買い終え、次なる目的地を目指していた。道中、戦国ゲームで明らかになった英寿の秘密について語っていると、すぐに目的地に到着する。そこは五階建てほどのビルで、奏斗にも印象深い場所であった。

「確かここって、前に最終戦で戦った……」

「うん。私もいた場所だよ」

 奏斗にとって二回目の最終戦となった戦艦ゲーム。ビルが建っていた一帯は、まさにその舞台であった。直前の三回戦・椅子取りゲームで浮世英寿が敗退するというイレギュラーにより、タイクーン、ナーゴ、バッファ、カローガン、ダパーンの五名で最終戦は行われた。結果としては、バッファが退場。ムスブの乱入によってカローガンは脱落、ダパーンも大怪我を負った。参加者としては、初の最終戦に気圧される者、浮世英寿の圧倒的強さを再認識する者など、それぞれの記憶に深く刻まれているゲームである。

「あれ、狙ってたわけじゃなかったのか」

 最終戦の最中、新井紅美もといモーンも最終戦に巻き込まれていた。ムスブとの戦いで、ダパーンはそれどころでは無かったが。

「観戦前に用事を済ませようと思ってたの。ほら、行こう」

 ビルの中は納骨堂で、話を聞かずとも何をしようとしているのか奏斗は理解していた。ロビーのある一階からエレベーターで三階に上ると、時期ではないもののほんのりと線香の匂いが鼻を掠める。モーンは迷いなく、連なる棚の合間を抜けて、三段重ねになっている棚式のお壇の前に立った。

「ここに、紅美ちゃんの骨が納められてるの」

 一番下の観音開きの扉を開くと、棚の中では木製の骨箱がポツンと置かれていた。改めて、新井紅美が死んでいると再認識させられる。お供え物は特にされていないが、つい最近に線香があげられた形跡が残されていた。恐らく卒業した広実須井の残したものだろう。モーンは肩掛け鞄から果物を取り出すと、お供えして手を合わせた。

「これが好みかは分からないけどね」

「喜んでるんじゃないか。どうせ親も来てないだろうし」

「だといいけど」

 モーンに倣って、奏斗も骨箱に向けて手を合わせた。

 しばらくして、扉を閉めると、モーンはソソグの話題を始めた。

「やっぱり、紅美ちゃんを殺したのは、ソソグ……だよね」

「間違いないだろうな。玲が死んだときと、状況が似てる」

 他人を糸を手繰り寄せるように使役する能力。新井紅美を殺したのが、自身の後継者に相応しい感情を学ばさせるためだとしたら。ソソグに新井紅美を殺させる動機はある。しかし、まだ不正確な要素が一つある。

「なんでわざわざ俺に殺させるなんて方法を……?」

「奏斗がデザグラに参加する前だもんね……気に入る気に入らないの段階じゃないし……」

 二人とも腕を組んで考え込んでいても埒が明かないので、奏斗は他の参加者に意見を募ろうとスパイダーフォンを取り出す。すると祢音からの着信が鳴り響いた。静かな納骨堂内に爆音で着信音が轟き、奏斗は縦に伸びながら電話に出た。自然に口元を隠し、小声で応答する。

「おい、なんだ?今外出中なんだけど?」

『ジャマトだよ!朋希が……っ、追ってる!』

 電話先の音声的に、向こうは走っているようだった。奏斗とモーンは目で会話し、納骨堂を後にした。

 

             *

 

 現れた謎のポーンジャマトは、道中で英寿と景和の目にも留まり、朋希の追跡に二人も追いついた。そして、ポーンジャマトはジャマト側の用意した地下施設に仮面ライダー達を誘う。廃棄された工場から、細く出口の光が見える地下通路を通り抜けると、そこが戦場であった。

「待て……!このっ!」

 朋希と景和が同時にバッファロー印のフライヤーが張り付けられた地点を通過すると、緑と臙脂のバリアーが出現。後ろから追いかけていた英寿は行く手を阻まれてしまった。息をぜえぜえと切らせた祢音も、英寿の後方で両膝に手を当てた。

「英寿……朋希っ、やっぱり変……」

「道が塞がれてる。ここはタイクーンに任せるしかない」

 二人はサロンで戦いを見届けるため、地下通路を引き返す。

 そして、朋希と景和が追跡の末辿り着いたのは、直方体の巨大なホールであった。照明で焼かれるほど眩しく全体が照らされると、オーディエンスの観戦を示す瞳型のカメラが目を埋め尽くす。

「フフッ、ジャマトグランプリ三回戦・闘牛ゲームを始めるわ!」

 二人と相対したべロバの両サイドに、ルークジャマトとヴィジョンドライバーを身に着けた吾妻道長が立っている。オーディエンスからの溢れんばかりの歓声を浴びながら、うざったそうにバッファはルール説明を始めた。

「俺の考えたゲームだ。お前たちはマタドールに釣られて仕留められる牛。どっちかが勝つまで戦うデスマッチ。最後まで立っていたものが勝者だ。先に二回勝利したチームが勝ちとなる。二対一になったのは不本意だが…まぁいい。さっさと始めろ……」

 二人を誘い込んだのは、マタドールジャマトだったという事である。道長は淡々と説明していたが、朋希はそれどころではなかった。ファーストラウンドの相手はルークジャマト。今最も遭遇したかった相手である。深く呼吸しながら目を大きく開き、朋希はビートバックルを構える。景和も異常を感じ取ったのか、彼の肩に手を置く。

「落ち着いて、朋希君。数は有利なんだから冷静に……!」

「変身ッ!」

『BEAT!』

 景和の説得虚しく、仮面ライダーハイトーン・ビートフォームとなり、ルークジャマトに突撃する。ビーツアックスを逆手持ちし、まだべロバと道長が退散する前なのにも関わらず、大ぶりの一撃を繰り出した。道長がべロバの首根っこを掴み引かせると、目の前をピンクの刃が通過。ルークジャマトが左腕でガードする。

「ちょっ、危ないわね!ファーストラウンド、スタートよ!」

「くっ…!」

 ハイトーンの攻撃を防ぎつつ、左腕からツタが景和に向けて伸ばされる。景和は、ホール内に置かれた柱を蹴って攻撃を回避し、タイクーンに変身する。

「変身!」

『NINJYA!』

 ハイトーンと組み合うルークジャマトを引き剝がし、両手のニンジャデュアラーで交差するように切り裂く。

「大丈夫、朋希君!」

「邪魔だぁっ!」

 フォローに回ったタイクーンであったが、ハイトーンはそれを押し退け、突撃を続ける。

「出てこい、僕と戦えっ!」

 渦巻く憎悪が、溢れて止まらない。

 

 

「状況は!?」

 俺とモーンがサロンに飛び込むと、既に英寿と祢音が観戦を始めていた。戦いの様子を写すビジョンには、暴走するハイトーンを抑えようとするタイクーンと、淡々と攻撃を続けるルークジャマトの戦いが映されている。同じく一部始終を観戦していたツムリが、俺たちにゲームの概要を語った。

「バッファの始めたゲームです。全三回の戦いを、より多く生き残ったチームの勝利。一回戦は景和様がルークジャマトと、二回戦は祢音様とビショップジャマトが、三回戦は英寿様とバッファが戦う予定だったのですが……」

「手違いで、ハイトーンも紛れ込んでしまった」

 英寿が最後に言葉を結んだ。道長にしてはよく考えたゲームだ。言っては悪いが、強力なバックルを持ってる連中とは、最初から戦いをパスすればいい。どうあがいたって、戦いのルールを決めるのはヴィジョンドライバーを持つ向こう側だ。予定に無かった朋希が参加したのは何とも設定が甘いと言わざるをえないが。ルークジャマトに攻撃しようと、ハイトーンは余計に大きい予備動作を取り、タイクーンを巻き込んでいる。

「朋希……」

 今にしれみれば、あいつの様子もおかしかった。いまいちレスポンスが悪かったし、集中に欠いている様子だった。再起した俺に対しても、全く玲の話をしようともしない。きっとあいつも、独自に玲の死の真相を追って、何かを掴んだんだ。くそっ……自分に腹が立つ。玲に部長にモーンの事、私的に衝撃だった話が多すぎて、そこまで気を配れていなかった。あいつだって、目の前で玲が死んだところを見たんだ。俺以上に悔いが大きいことに、もっと早く気付くべきだろ……!

「助けに行かないと!」

「待てダパーン。あそこにはもうプレイヤーは入れないらしい。今からは無理だ」

 英寿の報告に、歯ぎしりで返すことしかできない。逆にチラミは飄々とした様子で、足を組んでいた。

「望むところじゃない。こっちが勝ち越せば、ジャマト側のプレイヤーは全員消えるんだから」

「でも……あの調子じゃあ」

 モーンが嘆くのも無理はない。ハイトーンは完全に前が見えなくなっている。せっかくの数の有利も生かせず、連携は最悪。ルークジャマトに正面から攻めても、ビームで押し返されるだけだ。あいつの強さなら、その虚をつく戦いができるはずなのに。

『どうした……やってみろよあの時みたいに!』

「朋希……戦国ゲームでルークと戦った時から、何か感じてたみたいなの。止めたんだけど……私の言葉じゃ」

 朋希の暴走に対して、祢音も負い目を感じているようであった。思い返せば、今日は祢音の誕生日だ。一年に一番幸せであるべきの日に、顔を曇らせるのはダメだろう。その空気を他の皆も感じたのか、話題は誕生日が中心に変わった。

「ナーゴ、最高の誕生日になるといいな」

「お誕生日、おめでとうございます」

 ツムリが祝いの言葉と共に、デザイアカードと同じようなデザインの招待状を手渡した。黄色と水色で、ナーゴらしいカラーに彩られた招待状には、オーディエンスからのパーティーの誘いの文面が記入されていた。未来人にも誕生日を祝う風習があるのかと驚きつつ、俺も手に提げていた紙袋の中身を押し付けた。街角の攻防で購入したキャンディである。

「えっ…」

「これまでの迷惑料だと思っといて。セレブの口に合うか、分かないけど」

「ううん、嬉しいよ。ありがとう」

 祢音は笑顔でキャンディの包まれた小袋を胸に抱えてくれた。彼女の表情は少し和らいだが、まだ嬉しそうではなかった。

 

 

 俺だって、ルークジャマトを変に思わなかったわけじゃない。目の前の朋希君が何を胸に秘めて、暴走しているのか。それも何となくわかる。話に聞いていた、玲ちゃんが死んだ理由を、朋希君はルークジャマトに感じている。助けてあげたいけど……ハイトーンの猛攻に、ビームの連射で対抗するジャマト。到底俺がつけ入る暇は無かった。ルークジャマトに可笑しな素振りは見られない。いつも通り、ジャッジャッ言ってるし。今結果を急いだって、多分仇は取れない。

「その気がないなら……ぶっ殺してやる!」

『ROCK FIRE!』

 ルークジャマトの首元に刃を押し当てて、ハイトーンは弦をタッピングで奏でる。俺は呆然とその光景を見ていたけど、ハイトーンの近くにある柱が不自然に波打つのが目に入った。まるで水面に水滴が垂らされたように、揺れが壁面に広がってゆく。

「危ない!」

 反射的に体が飛び出していた。波紋が俺たちに何をしてくるのかは分からなかったけど、守らなきゃと強く思った。朋希君はきっと、柱の以上に気付いていない。

「ぐあっ!」

 波紋の中から、とても鋭利な棘が伸びてきて、俺の脇腹をえぐった。ニンジャデュアラーの防御も間に合わなかった。当たり所が悪かったのか、ドライバーのバックルが弾かれて、勢いで背中からハイトーンと衝突した。ハイトーンの攻撃は逸れて、ルークジャマトの首元を少し掠めたくらいで明後日の方向に飛んで行った。俺はそのまま変身解除。バックルはカラカラと遠くの地面に転がっていった。

「っ……景和さん!」

 地面へ倒れ込む俺に、一瞬朋希君の気が逸れた。

「駄目だ!朋希君!」

 その一瞬の隙に、ルークジャマトはビームでの攻撃をハイトーンの背中に命中させた。そのままビートフォームの鎧が砕けて、変身解除しながら崩れ落ちた。二体一という有利な状況で始まったはずの戦いは、敗北に終った。

 

             *

 

 屋外の休憩所にて腰かけながら、私は深く溜息をついた。

 智樹と景和は負けてしまい、牢屋に収監されてしまった。次に戦うのは私だ。あの景和に攻撃した棘はなんだったのか。ステージギミックのつもりなのかもしれないけど、ジャマトに攻撃を加えることが無いのなら、ただの二体一だ。

「私だけで……勝てるかな」

 私が負けてしまえば、二本先取でジャマトの勝利となってしまう。しっかりしなきゃと思っても、プレッシャーが肩にのしかかるのを感じる。朋希だって、止めることができたはずなのに、私がためらっている内に、景和に対応を任せてしまった。きっと今も、景和は朋希のことを気にかけているはずだ。

「駄目だ、私」

「そんなことは無いと思う」

 気付けば、向かいに奏斗のサポーターの人が座っていた。面と向かって話すのは初めてだけど、ピンクの瞳が綺麗な人だ。基本オーディエンスってそれぞれの私室に行かなきゃ会えないイメージだったから、こんな街中で、しかも他人のサポーターと離せることが意外だった。名前……聞いたことなかったな。

「初めまして……でもないけど、私はモーン。あなたは、鞍馬祢音さん……であってるよね?お誕生日おめでとう」

「うん、それであってるよ。よろしくね」

 探り探りの口調には、こちらを気遣ってくれているのを感じる。子供の時から、交流関係を縛られてきたから、人の本心を読み取るのが苦手だった。デザグラの戦いを経て、少しはわかるようになったのかもしれない。この人は、良い人だ。たぶん。

「あまり気負いすぎないで。サポーターの私なら、あなたたちと違う動きができる。できる限り、次の戦いサポートする」

 彼女は穏やかに微笑んでいる。本当に私を思ってくれてるのだろう。そうだ。戦うときは一人でも、応援してくれる仲間がいる。仲間の顔を思い出して、少し暖かい気持ちになった。その反面、羨ましくなった。モーンさんは、面と向かって、まっすぐ声をかけてくれる。背中を預けるのがこの人だったら、奏斗も心強く思うはず。だけど、私のサポーターはそうじゃない。口調は優しいし、励ましてくれる。でも、言葉だけだ。手紙を介して贈られる言葉だけじゃ、どうしても信じきれない。

「羨ましいなぁ。私のサポーターもこんな人だったらなぁ……」

「全然。この前まで、面と話すだけでも怖かったの。会ってしまったら、きっと嫌われると思っていた。だからね、勇気を振り絞って……会いに来てくれるあなたのサポーターの方が素敵だと、私は思う」

「…どういうこと?」

 モーンんさんの口ぶりは、まるで私とキューンが何度も会っていると言う口ぶりだった。わからない。キューンの姿を、私は知らない。

「え、あそこにいる人がキューンじゃないの」

 モーンさんの言葉で、正面の柱の裏から茶髪の男性が出てきた。両手で黄色の小箱を大事そうに持っている。確かに、何度も会っていた。時々私の元に現れて、好き勝手言ってくる祢音TVのアンチっぽい人。まさか彼が……キューンだったなんて。

「勝手なことを言わないでくれ!僕はっ……君に言われなくたって……打ち明けるつもりだった!」

 キューンだと言われた青年は、焦り口調でモーンに抗議する。逆にその反駁が、自分をキューンであると認めたようなものだ。

「それが本当の顔だったんだ。手紙では、あんなに甘~いこと言ってたのに……!」

 私がポーチから彼のくれた手紙を開くと、キューンは返す言葉もなく自らのうなじに手を当てた。思ったよりも険悪な雰囲気になってしまったのを感じ取ったのか、モーンさんは冷静さとはかけ離れた焦った様子で私たちの間に入った。

「ごっ、ごめん。別に暴露しようとかそういうつもりじゃ」

「なんで一般人を装ってしょっぱい対応してたの⁉あなたは砂糖!塩!どっちなの⁉」

「砂糖なわけないだろ!」

 ハッと我に返ればモーンさんを挟んで叫びあってしまっていた。彼女は完全に困りきったようで、顔が引きつっている。でも、一回アクセルをかけた心はもう止まらなくて、負け惜しみのように言葉を吐き捨ててしまった。

「じゃあ……私の事からかって楽しんでたんだね………最低!」

 手紙をテーブルに叩きつけて、その場を去る。もう、どんな弁明も聞く気にはならなかった。

 

 

 祢音さんが帰ってしまってから、キューンは酷く項垂れて椅子に座り込んでしまった。

「ごめんなさい。私のせいで、祢音さんとケンカに……」

「いいよ。君がいなくても、いつかは同じ事になっていた」

 キューンが持ってた小箱の中身は、ブーストバックルだった。本当に、自分の気持ちを正直に伝えるつもりだったのだろう。それを私が邪魔してしまった。何という事だ。余計なことしかできないのか私は。

「なんでかな。手紙だと素直に言えるのに、面と向かうと逆のことを言ってしまう。なぁモーン。君ならわからないか?俺は彼女の事を……本気で応援したいと思っていないのかな」

 思ったことと真逆の対応を取ってしまう…か。今まで読んできた本に、そういう悩みを持つキャラクターは何人かいた。そして大抵は、正直な思いをたどたどしく伝えたり、するのだが……それを言ってもアドバイスにはならないだろう。まずは肯定から入るのが無難なのかな。

「それは違うと思うよ。手紙って不思議だよね。口では伝えづらいことだって、正直に言えるんだから」

 新井紅美もそうだった。自分の気持ちを文字に起こすことで、いつもは責任や嘘で作られた鎖に包まれた心を紐解くことができる。

「だけど、祢音は俺の手紙をもう読んでくれない。いったいどうすれば……」

「うーん……一度伝えたいことを書いてみて、そのまま読むってのは?そうすれば咄嗟に逆のことを言っちゃう心配もない」

 我ながら名案だ。最初はただの音読でも、次第に慣れて面と向かって言えるようになるはず。要は慣れだ。

「なるほど…!早速試してみるよ。ありがとう!モーン」

 キューンは先の光が見えたのか、顔がパァと明るくなる。これで二人の関係も修復できるといいんだけどな…

「その調子で頼むよ」

 突然、第三者の男性の声が聞こえてきて、私たちは同じ方向を向いた。グレーのシックなスーツに、白い花束を持っている。この男性には見覚えがあった。鞍馬祢音の父親にして鞍馬財閥の総帥…鞍馬光聖だ。私に声をかけてきたと言うことは、やはりこの人もデザイアグランプリにいっちょ噛みしているのか。

「君は祢音のサポーターの、キューン君だね。これまで祢音をサポートしてくれてありがとう」

 あくまで、キューンと目を合わせ、私を見向きもしない。きっと、祢音とひと悶着あった奏斗を快く思っていないのだろう。連動して、サポーターたる私も。

「頼むって…?」

「私の妻は古風な考えでね、昔の付き合いを大切にして、祢音を嫁がせようとしている。が、私は違う。鞍馬財閥の発展のためにも、未来の人間とコネクションを作りたい」

「それが祢音をエントリーさせて、芹澤朋希に預けた理由か」

 祢音さんは奏斗の暴走で脱落した後、朋希の元でトレーニングを受けていたと聞いている。それも激しくなるデザグラの戦いを見越して、関係者でかつ戦い慣れしたライダーに特訓を任せたという事だろう。

「あの子には、本当の愛を手に入れてほしいと思っているからね」

「最低限の親心はあるんだな。その花束も、娘のために?」

「……これ以上、悪者に襲われてはたまらないからね」

 皮肉のつもりだろうか。彼は私の方を見ながら答えた。一度反論しようとも思ったが、奏斗なら事実だとこらえるだろうと思い、私も口を噤んだ。

 

             *

 

 正に作戦通り。一回戦は見事に僕たちの勝利だ。今回から投入されたアルキメデルの秘蔵っ子、ダンクルオステウスジャマトが見事に二人の仮面ライダーを撃破。実に気分がいい。

「卑怯だぞ!」

「馬鹿正直に不利な戦いを仕掛けると思った?アルキメデルに頼んどいて正解ね」

 桜井景和は牢屋越しに抗議するも、バックルが無いようじゃ敵ではない。まだ気絶している暴走機関車の芹澤朋希からも、ビートバックルを頂戴した。彼は何か焦っていると、以前から目を付けていた。だからマタドールジャマトに僕自ら指示し、芹澤朋希をおびき寄せ、ルークジャマトとぶつけた。悪いけど、ゲームに便乗させてもらった形だ。ゲームマスターは不機嫌気味だが。

「俺のゲームで勝手なことすんなよ」

「勝てたからいいじゃないか。後は鞍馬祢音を倒せば、ギーツダパーンと戦うことなく全員退場」

 あくまで道長は正々堂々としたギーツとの決着を望んで、このゲームを組んだつもりだろうが。

「こんなものは序の口よ。ナーゴを不幸のどん底に叩き落とす、面白いスクープを仕込んでおいたから」

 それはとても楽しみだ。僕はビートバックルをポケットの中でいじりながら、どんな結末になるだろうかと思考した。

 

 

 モーンは祢音と話がしたいそうだ。誕生日おめでとうを言いそびれたことを気にしているらしい。意外とこういう所義理堅いよな。

『誘拐された鞍馬財閥のご令嬢、鞍馬祢音さんが、たった今保護されました!』

 それは、十一年前の出来事。祢音は誘拐事件に巻き込まれていた。英寿は俺にその映像を見せながら、古びた廃工場を眺めていた。

「それが、この建物ってこと?」

「ああ。何か、胸騒ぎがするんだ」

 祢音を誘拐した犯人が立てこもり、逮捕されたのもこの廃工場だそうだ。突然来てほしい所があるというものだから、付いて来てみたが。俺たちがこの場所を訪れていると知ったらどう思うだろうか。いつも見たいに調子いいふりをして、憂いをごまかしたりするかもしれない。明るそうに見えて、自分のパーソナルな部分にはバリアを張ってしまう。それが俺の知る鞍馬祢音だ。

「十一年間の今日、ここでか……」

 俺が独り言を呟いていると、中からガタンという音が響いて来て、俺たちは顔を見合わせた。誰かいる。

「行くぞ」

 それ以上は何も話さず、ゆっくりと足を踏み入れた。怪奇現象などは信じていないが、一体何の目的でこの場所に。

 足音を立てずに進んでゆくと、一筋だけ光の刺している場所に、白いチューリップの花束を供えている人間がいた。

「奇遇だなぁ。デザグラのスポンサーさん」

 英寿が声をかけると、男が振り返る。鞍馬光聖。やはり彼はスポンサーの一人だったか。以前、疑いをかけて祢音と口論になったこともあったが。まさかその通りだったとは。

「君たちか……いつもショーを拝見しているよ」

「花束を渡す相手が違うだろ。祢音に渡さないのか」

「君には関係の無いことだ、墨田奏斗君」

 やはり、パーソナルな部分を見せようとしない。英寿も不審に思ったのか、追い打ちをかけた。

「何を隠している?一人娘の誕生日よりも優先すべきことなのか?」

「これは見なかったことにしろ。スポンサー権限で、君たちの装備を取り上げることだってできる」

 鞍馬光聖は脅しの言葉と共に立ち去った。心の中で、疑念が積み重なってゆく。十一年前、誘拐された祢音。無事に救助されたはずなのに、花を供える理由。デザグラ運営は、スポンサーの連中に何かしらの対価を用意しているはずだ。鞍馬光聖が受け取った対価ってまさか……いや、考えるのは辞めよう。ここで確信を決めつけてしまうと、今を全力で生きている祢音を否定することになる。

 そんなこと、俺にはできない。

「なぁ、英寿。次の戦いで、試したいことがある」

 俺は、次の戦いへと気持ちを切り替えた。

「あの戦場に自由に出入りできるのは、”オーディエンス”だけなんだよな?」

 

             *

 

 セカンドラウンド開始直前。場内の眩しすぎる照明を浴びていたのは、鞍馬祢音ではなく、浮世英寿だった。ナーゴとビショップジャマトの死闘を心待ちにしていたオーディエンスからは、非難の嵐が降り注ぐ。そのブーイングの中で、英寿は不敵に笑った。

「おい、次はナーゴのはずだろ」

「話が違うじゃない…!せっかくとびきりのサプライズを用意してたのに…!」

 ジャマト側も仮面ライダーが順番を無視してくることを想定しておらず、驚いた様子だ。

 そして、驚いていたのは通路で待ちぼうけを食らった祢音も同様であった。戦場に入ろうとしたところで、英寿に順番を抜かされたのである。

「なんで…?」

「向こうが正々堂々の勝負を無視してきたんだ。こっちが好きにやっても文句ないだろ」

 さらに背後から、ドライバーを装着した奏斗とモーンも歩いてきた。モーンは祢音に微笑みかける。

「あなたはお誕生日会へ。一年に一度の日、思いっ、きり楽しまなきゃ」

 祢音は緊張がほどけたのか、ようやく笑顔を見せ、通路を引き返し会場へと向かった。

「さ、やるか」「ええ」

 二人は場内と通路を隔てるバリアに向き直ると、変身の構えを取る。

『SET DEPARTURE!』『MORN SET』

「「変身!」」

『DUAL ON!Voyage for desire!PIRATE&BLAST!』

『LASER ON MORN LOADING』

 二人が変身を終えた、同じタイミングで。英寿は景和のドライバーから弾かれたニンジャバックルを拾い上げた。

「忘れ形見、使わせてもらうぞ。タイクーン」

『SET』

 右側のスロットにマグナムバックルが、左側のスロットにニンジャバックルが装填される。

「変身」

『DUAL ON!MAGNUM!NINJYA!』

 仮面ライダーギーツ・マグナムニンジャフォームに変身を終え、マグナムシューターで牽制しつつ接近する。ビショップジャマトの左の大振りをスライディングで回避、ニンジャバックルの俊敏性を活かした蹴りを主体に戦う。二度の銃撃で体制が崩れた所に、両脚で挟み込み転倒させる。追い打ちで弾丸を放つが、直前で顔を逸らされて避けられた。ビショップジャマトがまたしても大振りの攻撃を繰り出して来たので、側転で距離を取ると、バックルを操作して必殺技を発動する。

『NINJYA!MAGNUM!VICTORY!』

 左脚全体に風を纏い、回し蹴りを放つ。これも顔を逸らされて避けられるも、一撃目はフェイント。空中で振り抜かれた左脚を留め、反対方向に振りぬいて踵の一撃をくらわせた。

 そして、またしてもジャマト側の不利を察したのか、ギーツの死角になっていた地面から波紋が広がっていた。

 ビショップジャマトの攻撃に合わせて、ギーツの背中に棘が伸ばされる。

『PIRATE STRIKE!』

 棘の一撃は、その場に突如現れたダパーンの攻撃によって受け止められた。エネルギーの込められたサーベルを振り上げ、棘の進路を逸らす。

『REVOLVE ON』

 さらにギーツがビショップジャマトを両腕で掴み、リボルブチェンジ。上下のアーマーを入れ替える反動を活用し、両腕から変化した両足でビショップジャマトを投げた。ビショップジャマトは棘と衝突し、棘を操っていたダンクルオステウスジャマトの姿が露になった。顔面全てが牙となり、棘が無数に生えた大剣を備えている。べロバたちはこの個体を古代魚ジャマトと呼称する。

「種明かしってやつだな」

「自由に出入りできるのはオーディエンスだけ。だから彼女の力を借りた」

 ダパーンの視線の先、入り口の前に仮面ライダーモーンが立っていた。彼女の瞬間移動能力でダパーンを即座に転送したのである。

「っ、グダグダじゃない!」

 なかなか思い通りに行かないべロバは、苛立ちを隠せない。そんなことはお構いなしに、ギーツはブーストマークⅡバックルを使用する。

『BOOST MARKⅡ!』

 変身を終えた瞬間から、赤い炎がギーツを包む。そしてその打撃のスピードは、古代魚ジャマトに地面へ潜る隙を与えない。武器を脇に抱えて、何度もストレートパンチを放つ。

 そしてダパーンVSビショップジャマト。ビショップジャマトが振り下ろした両腕をサーベルで抑え、腰のパイレーツブラスターを取り出しながら胴体に銃撃する。ビショップジャマトは負けじと胞子を霧散させ、一気に起爆させる。

『BLAST STRIKE!』

 ダパーンは地面に踵を叩きつけて、白の竜巻を生成。ギーツに爆発が到達しないように食い止めた。さらに、パイレーツブラスターにファイアバックルを込め、ギーツに向けて発砲する。

『FIRE TACTICAL BOMBER!』

 二つの弾丸はギーツの右拳を挟むように炸裂し、生じた炎の柱をその拳が掴んだ。炎はそのまま両端に長い棍棒となる。炎の棍棒を水平に構え、古代魚ジャマトの大剣の軌道を縫うように胴体に三度突きを加える。今度は縦に持ち替え、大剣の救い上げるような攻撃を防御、左足で蹴り上げ押し返し、自ら回転して勢いをつけて肩に棍棒を叩きつけた。

「押し切るぞ!」

『ジャマトグランプリをご覧の皆様へ』

 ジャマトたちにとどめの一撃を放たんとする二人の手が、いきなり流れてきたべロバのアナウンスにより止まった。

「なんだ…?」

『鞍馬祢音の誕生日を記念して、とっておきのスクープをお届け!』

 べロバのカミングアウトにより、場の空気が凍り付いた。

『鞍馬祢音は本来─────────』

 場に残されたのは、べロバの悪辣な笑い声と、オーディエンスの動揺と落胆の声。驚愕するダパーンは、直ぐに祢音の身を案じた。彼女は今頃オーディエンスとの誕生日会を行っているはずである。べロバのアナウンスを聞いていない保証もない。

「奏斗!早く祢音さんの所に!」

「わかってる!英寿。ここを頼む」

 モーンに促されて、ダパーンは変身を解除。瞬間移動でモーンと共に場内から消えた。ギーツは、震える拳でレーザーレイズライザーを握りしめる。

「任せろ……!」

『『DUAL ON!』HYPER LINK!』『LASER BOOST!』

 仮面ライダーギーツ・レーザーブーストフォームとなり、ビショップジャマトに拳を振り下ろした。

 

             *

 

 一年で一度だけの特別な日、それが誕生日。誕生日だけは、世界の主役は自分で、一番幸せでなければならない。でも、十一年前誘拐されてから、私の時は止まっているように感じる。人生最大の幸福と、不幸が一度に押し寄せて、いくつになっても私の心を揺らすのだ。あんな思いをしたのに、本当に幸せになれるのかと。

 でも、今年の誕生日を迎えるまでに、私の人生は一変した。デザイアグランプリの戦いの中で、沢山の仲間と友達ができた。応援してくれるオーディエンスもいっぱいいる。人間的にも、それなりに成長できたと思う。だから、今年こそは幸せになれるだろう。幸せになることを許されるだろう。

『祢音ちゃん!誕生日おめでとう!』

 部屋を埋め尽くす色とりどりのプレゼントと、真っ白なケーキ。部屋中から、オーディエンスの祝福の声が聞こえてくる。私は高揚感と共に、ロウソクに灯された火を吹き消した。また、オーディエンスから歓声があがる。今年こそ、私も少しは幸せになれたのかな。

『笑ってんじゃねぇよ!』

「え…?」

 さっきまで暖かかった声が、冷たく鋭いものに変わる。私が状況を飲み込むよりも早く、オーディエンスは無数の罵声を飛ばしてきた。

『ライダーの資格もないくせに!』『騙しやがって!』『今すぐ辞退しろ!』『仮面ライダーの資格なんて最初から無かったんだ!』『辞めちまえ!』『祢音ちゃんなんて大っ嫌い!』『君には分からないだろうね!』『嘘つき!』『裏切者ッ!』

「待って…!何のこと⁉」

 私が、オーディエンスを騙していた?デザスターだったこと?いや、その件は決着がついているし……全くの心当たりがない。私を囲い込むように、瞳型のビジョンが現れて、さらに非難の声が飛んでくる。

『あんたが存在しているのは創世の女神の力のおかげよ!』『虚構まみれのセレブなんて誰も興味ねぇよ』『偽鞍馬あかりってか、笑えるな!』『祢音ちゃんって最初からいなかったんだね…』『亡くなったあかりちゃんが可哀そう…!』

 

『鞍馬あかり二号さん!』

 

 鞍馬…あかり…?私に姉妹はいない。鞍馬あかり、二号?非難の嵐の中で、もしかしてと思ったことが現実になってくる。プレゼントの前に、ジャマトの用意したサプライズ映像が表示される。

『とっておきのスクープをお届け!』

 思い出の光景が、書き変わってゆく。

 事件現場で、お父さんはあかりを抱きとめることはできなかった。鞍馬あかりは帰って来なかった。お母さんが私にくれたお誕生日ケーキなんて無かった。ケーキに乗せられたチョコのプレートには、”ねおん”ではなく”あかり”と書かれている。

『鞍馬祢音は本来、この世には存在しない。女神の力で生み出された存在なのよ。あなたたちはずっと騙されてたの!』

 自分の身体が、ガラスのように崩れていくのを感じる。私はあかりちゃんの身代わり。ずっと、皆を騙していた…!

「待て!そうじゃないだろ!」

 オーディエンスの罵声に、一人反論する声があった。ドライバーを装着したままで、髪も乱れている。きっと大急ぎで来てくれたのだろう。奏斗だった。

「いいか、お前たちが応援してきたのはあかりじゃなくて祢音だろ!命をかけて戦ってきたのもこいつだ!騙してなんかない……祢音だって、本物のはずだろ!」

 奏斗の言葉は一見正論に聞こえた。だけど、怒りに染まったオーディエンスは止まらない。私への批判が、奏斗に向けたものへと変わった。

『誰もお前の説教なんて聞きたくない!』『偉そうに言うな!』『お呼びじゃないんだよ!』『シャギーを殺したくせに!』『正義面するな!』『この人殺し!』

 だめだ。私を守ろうとするたびに、その人が標的になる。こんなことなら、私が……消えた方がマシだ。

「お前ら…!」

「奏斗……そういうのもう……いいから」

 奏斗はきっと、傷ついた顔をしただろう。でも、もう顔を見ることすら、私はできなかった。

 仲間だった人が、敵になることが怖かった。

 

          JGPルール

 

      人間を不幸にするためなら、

 

     あらゆる手段が認められている。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「彼女は深みに近づきすぎた」

「全部ウソだったらよかったのに……」

─彼女のために──

「倒すんじゃない、守りに来たんだ……!」

─君たちのできること。─

「たとえ世界中が敵になろうとも、俺は…!」

34話 激情Ⅵ:きっと、誰かの王子様に
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