仮面ライダーギーツ外伝 一歩IF:片脚の男   作:みなかみ

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34話 激情Ⅵ:きっと、誰かの王子様に

 

 ジャマトグランプリ三回戦、闘牛ゲーム。ファーストラウンドは俺と朋希君で戦ったんだけど、連携が上手く取れず、五十鈴大智の策略にもはまってあえなく敗北。セカンドラウンドは英寿だけでなく、奏斗君も加勢に入って、優勢だと思たんだけど……

『とっておきのスクープをお届け!鞍馬祢音は本来、この世には存在しない。女神の力で生み出された存在なのよ』

「嘘だろ…」

 べロバの突然のカミングアウト。祢音ちゃんが、元々存在しない人間。にわかには信じ難かった。創世の女神が絡んでいるなら、誰かが祢音ちゃんが存在する世界を願ったはずだけど……いったい誰が?

「十一年前の誘拐事件か……」

 同じ牢屋の中、朋希君が目を覚ましていた。先の戦いの傷が痛むのか、右腕を押さえながら壁にもたれかかっている。

「……知ってるの?」

「ただの推理です。でも、簡単なことですよ。子供だった祢音さんは誘拐され、救助された。と思いきや実際は助かってなくて、スポンサーたる鞍馬光聖が新しい娘を創世の女神に作らせた。それだけでしょ」

 それだけ、という言葉が酷く軽いように聞こえた。思わず、体が内側から沸騰するように感じる。

「そうじゃないでしょ…!自分が本当は存在しないなんて知ったら……祢音ちゃんがどう思うか……考えないの⁉」

「どうだっていい…!祢音さんは生きてるんだそれで十分だろ!」

 朋希君は声を荒げて早口にまくし立てた。朋希君は、期間は短いけれど一緒に戦ってきた仲間だ。奏斗君のことを気にかけて、責任感が強くて、頼もしい人だった。俺より年下なのに、ずっとしっかりしていると思っていた。

 それは、俺の思いこみだ。大切な人の死を目の当たりにして、俺は正気でいられるだろうか。玲さんが死んで、周りの人の性格が一変して、悔やまずにいられるだろうか。俺は、彼を責められるほどにできた人間じゃなかった。

 言葉に迷った俺が歯ぎしりをしていると、戦いは終わりを迎える所だった。

『FINISH MODE!LASER BOOST VICTORY!』

『ナーゴの気持ちを踏みにじった…お前を許さない』

 英寿の怒りが乗せられた蹴りは、ビショップジャマトに直撃。周囲を漂う炎が、蹴りの挙動を再現して、何度も同じ威力の衝撃が襲って、べロバの客席方向にビショップジャマトを蹴り上げた。客席と激突する直前で、新種のジャマトのにビショップジャマトは串刺しにされた。

『はぁ…あ~あ。残念、勝者ギーツ』

 ため息と共に、ギーツの勝利を確定させたべロバ。すぐ様画面は次の対戦カードを表示した。ジャマト陣営は、万全な奏斗君を指定してくる訳もなく、祢音ちゃんを相手とした。決戦は明日の八時。俺たちはこの牢で、見ていることしかできない。

 頼む、英寿、奏斗君。祢音ちゃんを救ってくれ……!

 

             *

 

 それから、キューンも来ていたらしい。きっと、他のオーディエンスと一緒に、私を貶しに来たんだろう。まだ、信じられない。私が存在していなくて、身代わりの人間だということが。きっとあれは……ベロバのでっち上げたウソなんだ。そう、ウソなんだ……

「お母様、本当にことを話してください。私は……お母様の娘では無いのですか……?」

「何を言ってるの?そんな訳ないでしょ」

 執務室のお母様は、ケロッとした顔で笑う。その笑顔も、信じれないほど、私の心は素直じゃなかった。ナーゴのIDコアを、お母様の手に近づける。きっと、何も起こらない。全部全部……私の幸せな記憶は……

「……ッ!」

 IDコアに触れた瞬間、お母様は目を開いて手を弾いた。情報の整理が追いつかないという表情で、壁際に後ずさる。

「そうよ………私の娘は………あかり」

 そして、一言叫んだ。

「あなた誰ぇッッ!!!」

 夕日が降り注いで、ドレスの着せられたドールを輝かせている。この人にとっての理想の娘でもない、本当の娘でもない。私は………

「全部ウソだったらよかったのに……」

 私は誰でもない。誰にもなれない。

 それから、すぐに荷物をまとめて家を出た。お母様は引き止めてくれたけど、振り払った。あそこは私の家じゃない。暗い夜道を、当てもなく歩き続けた。居場所を求めて、誰かの愛を求めて。

 不意に、コートのポケットに膨らみを感じて、中身を取り出した。綺麗にラッピングがされた、キャンディーの小袋だった。奏斗とモーンさんがくれたものだ。祢音へとメッセージカードに名前が……

「えっ……?」

 一瞬、祢音ではなく、あかりへと書いてあるように見えた。反射的に地面に叩きつけて、何度もメッセージカードとキャンディーを踏み潰した。このプレゼントも、私に向けてじゃない…!

「消えてッ!消えてッ!消えてよぉッ!」

 せっかくのプレゼントをぐしゃぐしゃにしているうちに、メッセージカードにはちゃんと祢音へと書かれているのに気付いて足を止めた。あかりへと書いてある気がしたのは、ただの思い違いだった。

 すぐに奏斗たちの思いを雑にしてしまった罪悪感が襲う。私は目から大粒の涙を流しながら、プレゼントの小袋を拾った。

「ううっ……」

 最悪の誕生日に、涙が止まってくれなかった。

 

 

 キューンは、鞍馬光聖のオーディエンスルームを訪れていた。高級品であろう調度品は、地面に散らされ、本人はテーブルに両手を付いている。

「墓場まで持っていくつもりだったのか……?」

 鞍馬光聖の胸ぐらをキューンが掴む。

「それでも父親か⁉」

「私の娘は、あの誘拐事件の時に死んだんだ!私の愛と共に!」

 キューンを突き放し、鞍馬光聖はおぞましい真実を語る。娘のあかりを失った後、デザイアグランプリに声をかけられたこと。現代におけるデザグラ運営の手助けをする報酬に、願いを一つ叶える権利を与えられたこと。作られた娘を愛せるはずもないと考え、新たな理想の娘をデザインしたこと。その全てを。

「自分の理想のために祢音をデザインさせたのか……⁉彼女は、ずっと本当の愛を欲しがっていた……与えられなかったのか……!親であるお前が!」

「私の娘はあかり一人だ……!彼女の幸せを望むら、お前がやってみろ……鞍馬財閥の未来のために!」

 鞍馬光聖は、もう壊れてしまった。キューンは、そう感じざる負えなかった。

 

 

 怒り狂うオーディエンスが祢音に危害を加えないように、俺とモーンは対応に追われていた。ツムリとチラミに了承を得て、かなりのオーディエンスの説得を試みたが、空振り。その一言だった。オーディエンスが俺たちに求めているのは、圧倒的なリアル。何もかもデザインされる未来では得られない、生きた人間が織りなすドラマだった。そこに、女神に作られた存在はいらないという事だろう。最後には大抵、玲を殺めた件を一方的に責められて終わりだった。私の推しを返せ…もっとライダーを殺せ。その一点張りで嫌になった。

 以前ジットに求められた、自分の役割、と言う言葉を思い出す。元々ヒールの役割で始まった俺の戦いに、味方としての立ち回りを求めていないのだろう。だが、ここで引き下がるわけにもいかない。

 オーディエンスの説得は諦め、いつの間にか去ってしまった祢音の捜索にシフトすることとした。

「ここにもいないか……」

「奏斗、祢音さん…大丈夫かな?」

「……わからない。だけど、祢音は俺が参った時も見つけてくれた。今度は、俺が助けたいんだ」

 祢音。俺は諦めないぞ。俺たちが願いを叶えられる、平和な世界。そこに、景和も英寿も、祢音お前だって…いてほしいんだ。

 

             *

 

 牢に入れられてから、かなりの時間が経った。

 いろいろ試してみたが、バックルも取り上げられたこの状況で、牢から出るのは不可能であった。いつしか体力も尽きて、僕は地面にうずくまることしかできなくなった。腕の傷が痛い。景和さんが応急処置をしてくれて血は止まったけれど、いつまた傷が開くか分からない。ベルトのダメージもひどい。古代魚ジャマトの攻撃を受けて損傷したようで、若干火花が散っていた。

「もうだめかもな…」

「朋希君、もう休んだら?」

 景和さんは、あんなに突き放したのにまだ優しくて、文字通り手を差し伸べてくる。もはや抵抗する気力もなく、僕はされるがまま壁を背に座り込んだ。

「祢音ちゃん……勝てるよね」

「勝ってもらわないと困ります。だって、あの人は僕が鍛えたんだ」

 ずっと牢にいて、気が滅入ってしまったからか、自然に口は昔話を垂れ流した。

──────────────────────────

 最初に彼女と会った時、僕はめんどくさくてしょうがなかった。

 僕が最初にした仕事…IDコアのデータ改ざんにより、奏斗先輩が玲先輩を思い出すことなく、その暴走に巻き込まれ脱落したのが彼女だった。普通脱落した人間は記憶を消されて元の生活に戻る。しかし、記憶を消された後の彼女は、僕に引き渡された。これから激化してゆく戦いを生き抜けるために、戦闘訓練を積ませろ、と言うのが上からの命令。初めて会ったのは、運営スタッフ専用のトレーニングルームだ。

 本当の愛がほしい。そんな曖昧な願いを忘れた鞍馬祢音は、如何にも気弱な少女だった。

「あの、あなたは誰でしょうか?」

「あっ、あぁ…一応記憶は消されたんですね。はい」

 僕は雑にナーゴのIDコアを鞍馬祢音に渡した。危なっかしく受け取った瞬間、彼女は記憶を取り戻した。

「……!そっか、私……ダパーンに負けちゃったんだ」

「僕は運営スタッフの芹澤朋希。普段はIDコア管理室でデータの調整をしています。一応、表の顔は高校生で、墨田奏斗の後輩に当たります」

 奏斗先輩の名前を出したのはほんの嫌がらせのつもりだった。お前を今から鍛える奴は、お前を陥れた人の知り合いだぞ、と。それで彼女から諦めてくれれば、それはそれで先輩殺しの犯人探しに時間がさける。そう思っていた。

「へぇ……良かった」

「え…?」

 てっきり憎まれ口を叩かれるかもと思っていたが、鞍馬祢音さんの安堵した表情に、目を丸くした。そして、彼女は語る。

「あの人、独りぼっちだって思い込んでたみたいだから。ちゃんと心を許している人がいるんだね」

「……このバックルを使ってください」

 僕に支給された、予備のビートバックルを投げ渡す。それは僕にとって一番使い慣れている、かつ。祢音さんに合っているバックルだ。

「このバックル、なんかかわいい」

「言うとる場合ですか。次のシーズンまで時間はありません。これから、徹底的に鍛えます。あなたも、願いを諦めたくはないでしょ?」

「うん。お願い!」

 今にしてみれば、荒んだ心を彼女に浄化されていたのだと思う。

 

 

 トレーニングの最中、最終ゲームは始まったようだった。祢音さんの強い希望で、直接観戦に向かうことにしたのだが。

「おい!死にたくなかったら早く逃げろ!まだそっちの駅の方が安全だ!」

 初めて、ちゃんと仮面ライダーをしている先輩を見た。あの人は自分を卑下して、英寿さんたちに憧れていた。だけど、僕たちの目に映ったのは、確かに仮面ライダーだったんだ。

「……あんなに必死で……世界を守って何になるんでしょうか?」

 戦う先輩を見て思った、純粋な疑問だった。どれだけ一般人に犠牲が出ても、ラスボスを倒して世界を作り変えれば、全部無かったことになる。あくまで、ポイント稼ぎのためという建前がある。それでも、理解はしづらかった。殺されたって、生き残ったって。結局は勝ちさえすれば同じになるんだ。

「それは違うんじゃない?」

 混乱に揺れる人混みの中で、祢音さんは何やら掴みかけているようだった。

「人が一番強いときってさ……」

──────────────────────────

「焦りましたよ。時々あなたたちの戦いを二人で見に行ったのですが、皆どんどん強くなる」

 景和さんや奏斗先輩にとって始まりとなったあのシーズンだ。今となっては懐かしい。

「でも、祢音さんだって負けてなかった。手強かったでしょ?僕の弟子」

「うん。ジャマトグランプリで、君と一緒に戦って分かったよ。祢音ちゃんと、同じ戦い方だって」

 祢音さんの成長速度は目を見張るものがあった。汎用性は高いが、難度の高いビートバックルを天性のリズム感ですぐに使いこなした。僕ができたのは、基本的な体術と戦術指南だけ。でも、僕について貪欲に学ぶ姿勢が、とても嬉しかった。この人ならいつか、本当の愛を手に入れるだろう。そう思っていたのに。

「祢音さんはいつか、誰にも負けない仮面ライダーになるはずだったんだ。それなのに……こんな……」

「……良かった」

「え…?」

 初対面の祢音さんに言われたことと同じ言葉だった。何が良かったのか、問い正す前に、景和さんはスラスラと語る。

「朋希君。奏斗君への責任感とかで、いっぱいいっぱいになってたみたいだから。まだ周りを見れる余裕があるみたいで」

 景和さんの言葉で、感傷に浸っていた心が、再び冷めていった。こんな所で思い出話をしている場合じゃない。ルークジャマトを探さないと……。僕は、立ち上がろうとするも、無理やり景和さんに止められた。

「待って。まだ戦うつもり…⁉」

「祢音さんは自分のことは自分で何とかする……チャンスなんだ今が、ルークジャマトを捕まえる……!」

 景和さんは、僕のことを力いっぱい殴った。抵抗する気力も無くて、そのまま地面に崩れた。

「バカ……どこ見てるんだよ……!」

 彼の纏う怒気は、今までに見せたものとは全く異なるものだった。真っ赤でかつ黒い心ではなく、悲しみの青を含んだ、複雑な。

「玲さんを取り戻したい気持ちも……大切な人を失う悲しみもわかる……!だけど……祢音ちゃんを見捨てたら…玲さんも同じ苦しみを抱えることになるんだよ……⁉」

 心のどこかで、ずっと思っていたことを言われたようだった。気持ちが抑えられなくなって、ぽろぽろと涙が出始める。

「わかってる…わかってるけど…っ。僕のせいなんだ…僕が玲先輩を止めなかったから……!」

 今でも思い出すたび、胸が痛む。不調の玲先輩を戦場に出してしまったことが、全ての始まりだったんだ。僕が、止めないといけなかったんだ。

「僕の仮面ライダーの力を、使って……取り戻さなきゃ……!」

「お熱い所申し訳ないけど、その願いが叶うことなないね」

 牢屋の前に、五十鈴大智とルークジャマトが立っていた。嫌がらせのつもりなのか、僕のビートバックルを見せびらかしている。

「ナーゴは次の戦いで死ぬ。これで君たちも、晴れて消滅だね」

 決戦の時刻が、残りわずかに迫っていた。

 

 

 自室で、手紙を書いていた。モーンに提案された、気持ちを素直に伝えるためだ。この方法じゃないと俺は、また彼女を傷つけてしまう。

「そこで何をしてる……ナーゴのサポーターだろ」

 聞きなれない声に、手が止まった。ジーンがサポートしてた、ギーツの浮世英寿だ。こんなところまで何のつもりだろう。

「面と向かったら、思っていることと逆のことを言いかねない。この訳のわからない気持ちのまま、彼女になんて声をかけろって言うんだ……!」

 しまった。あまり深いかかわりでもない彼に、怒りの感情をぶつけてしまった。自責の思いが募って、顔を上げられなくなる。

「俺が会った所で、余計に彼女を傷つけるだけだ」

「所詮ただの傍観者だもんな」

 浮世英寿は、バッサリと吐き捨てた。反論の余地のない言葉に、俺は押し黙る。

「ナーゴの不幸に同情して…3.5次元の感情を味わって、それで満足か……?彼女は人間だ。誰かの自己満足のためにある偶像じゃない」

「じゃあ…じゃあどうしろって言うんだ!」

 去ろうとする浮世英寿の姿に、感情が抑えられなくて怒鳴りつけた。けど、彼はスパイダーフォンを投げつけて消えていった。

「何もするつもりがないなら、自分たちの時代に帰ればいい」

 彼の渡してきたスパイダーフォンには、一つの映像がライブ中継されていた。

『ぐっ…』

 懸命にべロバと戦う、サポーター仲間のモーンだった。

 

             *

 

 夜が明けて、戦いの時が迫っている。たぶん、今度は英寿やモーンさんに妨害されないように、向こうも手を打ってくるはず。次こそ私の番だ。でも……無理だ。自分が存在しないなんて知って、どうやって戦えばいい?この願いも、身体も、作られたものだったのに……!

「今日は何食べる~?」

「ラーメン~!」

 私の横を、仲睦まじい家族が横切っていった。後ろめたくその姿を眺めていると、建物の窓に、子供のころの私……あかりちゃんが映っているのが見えた。またその姿を消そうとして、鞄を振り上げた。だけど、そんな元気はもう無くて、地面にへたり込んだ。何してるんだ、私。

「私…誰?」

 近くから、水しぶきの音がして、顔を上げた。朋希たちを攻撃した古代魚ジャマトが、私に武器を振り上げている。あぁ……避けられない。ダメだ。

「祢音っ!」

 私の背後から、奏斗がタックルして古代魚ジャマトを吹っ飛ばした。そして、モーンさんもレーザーレイズライザーの射撃で私も守ってくれた。

「大丈夫か……!」

「触らないで!」

 私を立たせようとしてくれた奏斗の手を弾いた。仲間すらも、信じられないほど心は憔悴していた。きっと、私を庇えば…次の標的は奏斗になってしまう。そんなの嫌だ。それなら、悪者として消えてしまいたい。

「次は俺が戦いに出る。お前は…休んでいてくれ」

 奏斗は大丈夫だと、肩に手を置いてくる。

「俺たちにとって、お前はずっと鞍馬祢音だ。生い立ちとか、関係ない。だから、前を向けるまで…俺たちが背中を守る」

 かつて、私が…心の折れた奏斗にかけた言葉と似ている。奏斗は本気だ。守りたいと決めたら、自分を犠牲にしてでも、守ってしまう。

「……ありがとう、元気で」

 もう一度、私は奏斗を突き放した。同時に、足元から巨大な古代魚が私を呑み込んで連れ去った。

 せめて…相討ちくらいにはするから。

 身体が闘技場の地面に叩きつけられる。私に向けられる、オーディエンスのブーイング。殺してしまえという声。私だって、生き残るつもりでここに来ていない。勝てる気もしない。だけど、負ければ巻き添えでみんなが消滅してしまう。私が死んでも、古代魚ジャマトを倒さないと……!

『ファイナルラウンド、ファイト!』

 戦闘開始の宣言と共に、古代魚ジャマトが私を殴り飛ばす。先ずは距離を取って変身を…!

「きゃあっ!」

 柱ごと破壊するように武器を振りかざしてきて、何とか転びながら避けた。けど、畳みかけるように武器の先端を、起き上がれない私に突き立ててくる。武器を直前に素手で受け止めたせいで、掌からどろどろと血が流れ始めた。切れる手で武器を何とかとどめて、ベルトにバックルを装填した。

「…変…身っ…!」

『BEAT!』

 私がナーゴに変身して、手加減をする義理も無くなったのか、容赦なく棘の攻撃が全身を襲う。地面を転がりながらなんとか逃れる。そして叩くようにビートアックスを操作した。

『ROCK FIRE!』

 技を起動するべく、音を奏でようとするも、切れた手が痛くて武器がちゃんと握れない。

 その隙に、古代魚ジャマトは私の武器を弾いて、大剣で思いっきり斬りつけた。瞬く間にアーマーが割れて、変身が解除された私は膝から倒れた。

 首に、大剣がかけられる。

「ごめん……無理だ……」

 大剣が振り下ろされる。私は目を瞑った。

──────────────────────────

 戦いが始まる数分前、奏斗とモーンは会場に移動していた。

「次は邪魔させないわよ」

「べロバ…!」

 二人の前に、べロバが立ちはだかる。先刻の戦いで、モーンにエリアの壁を突破された反省を受けて、自ら手を下しに来たのだ。

「変身」

『LASER ON BEROBA LOADING』

 瞬時に形成された巨大な拳を、二人に向けて振り下ろす。ジャマーガーデン突入以来の、仮面ライダーべロバの登場である。二人は左右に転がって拳を回避すると、それぞれ仮面ライダーに変身する。

「変身!」

『DUAL ON!Voyage for desire!PIRATE&BLAST!』

「変身!」

『LASER ON MORN LOADING』

 モーンは瞬間移動でダパーンを会場に飛ばそうと、胸元に手を伸ばす。しかし、べロバはそんなことは織り込み済みで、モーンの腕を掴んで投げ飛ばす。

「瞬間移動なんて、厄介な能力もらっちゃって…!」

 モーンはべロバの巨躯から放たれる投げ技に対応しきれず、街灯の鉄柱に叩きつけられる。立て直す暇もなく、ベロバが追撃で踏みつぶそうと右足を下ろす。

「モーン!」

 その足を、ダパーンが鎖を巻き付けて止めた。それでもべロバの方がパワーは上で、鎖のついた足を右に広げ、ダパーンをモーンと衝突させた。二人そろって街灯の鉄柱を突き抜け、会場から遠ざけられる。べロバはレーザーレイズライザーで連射し、二人に攻撃を許さない。

「っ…くそっ!」

 ダパーンはパイレーツブラスターで地面を発砲し、粉塵で目くらましにしようとする。それでもべロバの射撃による制圧力が上で、次の一手を準備する前に粉塵を貫通する射撃を受けてしまう。べロバの射撃を受けた二人は、さらに大きく吹き飛ぶ。

「健全なジャマトグランプリに蔓延る害獣たち……ここで始末するわ!」

『FINISH MODE!LASER VICTORY!』

 紫色の高圧エネルギーをまとったレーザーレイズライザーを、二人に向けて近距離で叩きつける。

「ぐっ!」

『FINISH MODE!LASER VICTORY!』 

「っそ!」

『PIRATE!BLAST!GRAND VICTORY!』

 べロバの攻撃に二人も対抗し、エネルギーを纏った拳を振り上げる。三人の技は拮抗するも、位置エネルギーが合わさった分、べロバの必殺技の方が威力は上。余剰エネルギーの反動が二人に戻ってきて、その場で爆発を起こした。必殺技の威力はすさまじく、地面に大きな亀裂を生じさせる。

 中央にできたクレーターに、変身解除してしまった二人が倒れ込む。さらに、爆風の影響でバックルなどの変身アイテムも散らばってしまう。

「ダパーン、モーン。随分手を焼かされたわ。だけど…これで終わり」

 ダメージで動けない二人に、べロバは頭上から巨大な銃口を向ける。

──────────────────────────

 戦場に転送されたナーゴを救うため、会場の通路を走る英寿。彼は、意外な人物の登場に足を止めた。

「無駄だ。もうオーディエンス以外は中には入れない。ダパーンのサポーターもべロバが殺しに行った」

「バッファ…最後の対戦相手はお前じゃなかったのか?」

 通路に立ちはだかったのは、今回のゲームマスターを務めているはずの吾妻道長であった。

「知るか。どうせナーゴの負けには変わりは無い。まぁ、あいつには嫌なこと全部忘れられて幸せな結末だろ」

 英寿はそのまま立ち去ろうとする道長を、胸ぐらを掴んで止める。侮蔑と、怒りの感情を込めて。

「お前もべロバと大差ないな…!」

「あぁ?」

「仮面ライダーが苦しんで嬉しいか?」

 沸点の低い道長は、すぐに胸ぐらを掴み返す。

「一緒にすんな。デザイアグランプリなんてものが無けりゃ、こんなことにはならなかった…!だから俺がぶっ潰す!全ての仮面ライダーと共に、デザイアグランプリの全てを!」

 互いに手を放し、再び睨み合う。英寿は、ようやく道長の願いが聞けて、少し満足気だ。

「それがお前の本当の目的か」

「全ては幸せを願う人間のエゴが招いた不幸だ」

 道長は、ただ前を見据えてその場を去った。

「ナーゴ……戦うんだ。それしかない」

──────────────────────────

 決戦が始まり、牢の中で景和と朋希はただ見ていることしかできなかった。

「仮面ライダーが戦う原動力は、幸せを求める思いの強さだ。彼女に戦う気力は残っていない」

 牢の向こう側から、朋希のビートバックルを持った五十鈴大智が煽りをいれてくる。

「祢音ちゃんは本当の愛を求めてたんだ……だから、幸せになる権利がある!」

 景和は懸命に応援するも、弱りきったナーゴが圧倒的な攻撃力の古代魚ジャマトに対抗できるはずもなく。すぐに変身解除して追い詰められる。さらに、地下に存在する牢にも、大きな振動が伝わって来た。

「なんだ…!」

「べロバの方が、ダパーンとモーンを始末してるんだよ。彼らの能力は、今後のゲームでも障害になるからね」

「そんな…」

 実際に、地上で戦闘している二人は窮地に立たされていた。通常の何倍もの大きさを誇るべロバに、攻撃の予備動作すら許して貰えない。さらに、近距離で必殺技を食らい、動けないほどのダメージを受けてしまった。

 しかし、このべロバが放った必殺技が転機を招く。

 すさまじい威力の必殺技が、地面にも及び、天井に亀裂を走らせたのである。

「ぐあっ!」

「危ない、朋希君!」

 すぐに天井が崩れ、二人に瓦礫が降り注ぐ。その直前で、景和が朋希を壁際に突き飛ばした。結果的に二人は牢屋の中で分断される事となる。

「べロバ…やりすぎだ…うあっ!」

 五十鈴大智にも瓦礫は降り注ぎ、ビートバックルを手放しながら崩落に巻き込まれる。そして幸運にも、ビートバックルは牢屋側に転がって来た。

「っ!」

 景和と五十鈴大智が同時に手を伸ばし、タッチの差で景和がビートバックルを掴んだ。そして、瓦礫の隙間から向こう側の朋希に差し出す。

「景和さん……!」

「朋希君……戦って!君の位置なら、天井の穴から出れる…!」

 天井からは、人が一人通れるほどの亀裂が走っていて、細長く光が射している。景和の差し出すビートバックルを朋希は受け取るか一瞬迷った。今なら、このビートバックルで牢屋の外にいるルークジャマトに戦いを仕掛けることもできる。天井の穴から出るか、牢屋の向こう側に行くか。助けに行くか、復讐を優先するか。

 朋希は景和とルークジャマトを交互に見ると、ビートバックルを受け取った。

 

             *

 

 最初に彼と会った時、真面目そうな人だなと思った。

 頑固だし、昔のことを話そうとしない。デザイアグランプリの戦いを積み重ねても、その思いは変わらなかった。でも、奏斗の話を聞いて、玲さんについて知って、分かったことがある。朋希と似ていると。本当に誰も悪くないのに、自分のせいで大変なことが起こったと思い込んでいる。

 朋希は真面目だ。驚くほど真面目だ。だから、近くにいた私が伝えなきゃダメだったんだ。偽りの存在だった私と違って、朋希には味方が沢山いるよって。背負いすぎないでって。

 目の前に、私のポケットから落ちたプレゼントが転がっている。奏斗がくれたキャンディだ。私が…自ら粉々にした。自分の存在を信じられなくて。謝らなきゃいけないのに……もう身体が言うことを聞かない。

「ごめん……無理だ……」

 古代魚ジャマトが、私の首に大剣を振り下ろす。ごめん…みんな。

「……っ!─────────え?」

 大剣が私に届くことはなかった。恐る恐る目を開くと、古代魚ジャマトがオーディエンスの使うカードの様な形をしたバリアに囚われていた。モーンさんが来てくれたのだろうか。恐る恐る入り口の方を見ると、立っていてのは私のサポーターのキューンだった。

「俺は君と同じデザインされた存在だ!」

 なんでこの人が私を助けに…?彼は懐からいつもの便箋を取り出すと、そこに連ねられた文字を音読し始めた。

『私たちの未来では、理想の自分をデザインして、理想の人生を謳歌する。それで誰もが幸せになれるかと言われれば、そうでもない。』

 キューンの手紙に、オーディエンスも静寂する。ただ、彼の言葉だけが流れていく。

『なぜなら、誰かの不幸で自分が不幸になることを、私は知ったからだ。』

 手紙を持つ手が震えている。次第に、感情がこもってくるように聞こえた。

『君が苦しむ姿が、私を苦しませると知ったからだ。なのに私は、君にどんな声をかければ良いかがわからない。もはや、君のサポーターを名乗る資格なんて、私には────私にはっ……」

 キューンの言葉が詰まる。そして、彼は音読していた手紙を破り捨てた。飾られた、聞こえの良い文字を。

「君が教えてくれたんだ!」

 初めて、彼の声が聞こえる。キューンは横になっている私に寄り添うように、自身の服の襟元を握りしめながら声をかけきた。

「幸せかどうかを決めるのは、生まれた境遇じゃない…!決めるのは自分自身なんだ!だから諦めるな!」

 強く熱い、彼の本音が私の心に光を与えてゆく。諦めるな、前を向け。自分の幸せを否定するな。

「いつか本当の愛に恵まれ…幸せになる日が来る。たとえ世界中が敵になろうとも、俺は…!俺は君の味方だ」

 いつしかの手紙にも、同じことが書かれていた。私は君の味方だと。私はなんて遠回りをしてしまったのだろう。たとえ文字だけだって、彼は彼だ。なんで信じられなかったんだ。いつだって、彼はまっすぐだった。まっすぐに私の幸せを願っていた。

 古代魚ジャマトがバリアを破る。キューンは私の前に立ち、仮面ライダーに変身した。

「変身!」

『LASER ON KYUUN LOADING』

 古代魚ジャマトの棘を、キューンの羽根が防ぐ。四足歩行のライオンに、真っ白な翼の生えた姿が、仮面ライダーキューンだった。

「願い続ける限り、いくらでも可能性がある。だから戦おう、お互いの幸せのために!」

 キューンが、誕生日プレゼントのブーストバックルを差し出してくる。さらに、会場全体を包み込むように、テクノポップな音楽が聞こえてきた。ビートバックルから、流せるメロディーだ。私以外にも、戦っている人がいる。朋希も、戦っている。

「……!」

 不意に、誰かが私の腕を引いた。咄嗟に、振り返ると。そこには幼い頃の私……いや、鞍馬あかりちゃんが立っていた。彼女は、穏やかな笑顔を見せると、落としてしまったキャンディーを差し出してきた。

 私は増える手でそれを受け取り…書かれたメッセージをを読んだ。そこには、『祢音へ、月並みだけど誕生日おめでとう。これからもよろしく』と、少し斜め上がりの文字で書かれていた。奏斗の文字だ。メッセージカードなのに、回りくどい言い方をするのは実に彼らしい。

「私の分まで……生きてくれて……幸せになってくれて……ありがとう」

「……っ!」

 あかりちゃんの言葉に、思わず抱きしめた。生きなきゃ。彼女のためにも、私を助けてくれた……沢山の大切な人たちのためにも。

 私は立ち上がり、バックルを使用した。勇気のメロディーを背に。

「変身!」

『DUAL ON!BEAT&BOOST!』

『Ready?Fight!』

 足から炎を噴射し、思いっきり地面を蹴った。

 

 

「ダパーン、モーン。随分手を焼かされたわ。だけど…これで終わり」

 奏斗とモーンを排除するべく、ベロバのレーザーレイズライザーの銃口にエネルギーが収束する。

「待て…!」

「あらあら……」

 ベロバは意外な人物の登場に、引き金にかかった指を外した。このまま確実に二人を排除するより、このとびきりの不幸を体験した彼をなぶり殺す方がゾクゾクするのではないかと。

 鵜飼玲を守れず、皆とバスケをするという願いを失った。それが原因で、大切な居場所も崩壊した。現実を未だに受け入れられず、復讐に躍起になっている。そんな、参加者1不幸な男を、ベロバが見逃しているはずがなかった。

「先輩とモーンさんは殺させない…!」

 朋希は怪我の腕を庇いながらも、毅然として答える。その様子をベロバは滑稽だと感じたのか、高ぶりが抑えられない。上ずった声で、朋希を挑発する。

「いいの?あなた達を戦いに巻き込んだのは私よ?」

「……!どういう意味だ…!」

 朋希の好反応にベロバはゾクゾクし、言葉を繋げる。

「芹沢朋希と、鵜飼玲を仮面ライダーに選んだのは私だもの!いい不幸を見せてもらったわ!」

 現代の仮面ライダーは、デザイアグランプリ運営が候補を絞った上で、オーディエンスが選定する。玲と朋希を仮面ライダーに選んだベロバは、ルークジャマトとは違う意味での、元凶と言える存在であった。

「お前が……」

 驚愕の顔で拳を握りしめる朋希に、ベロバは高笑いで返す。いつもの朋希なら、ここで突撃していただろう。しかし今は、声をかける者がいた。

「朋希……!大丈夫だ……!」

 地面に伏せながら、そう告げる奏斗の言葉に、朋希は拳を緩めた。覚悟の決まった彼に、それ以上の言葉は不要だった。

「復讐は……諦める。僕は…」

 朋希は、缶蹴りゲームの時に祢音から聞いた言葉を思い出していた。

(人が一番強いときってさ……自分のためじゃなくて、誰かのために戦う時だよ)

 目を大きく見開き、べロバの邪念を振り払う。

「僕は、倒すんじゃない、守りに来たんだ……!思い出は大事で、輝いてて、取り戻したいけど……」

 ビートバックルの腱板を叩き、辺りに勇気のメロディーを奏で始める。

「……祢音さんが笑顔になれる、そんな今を大切にしたいのも、僕の願いなんだ……!祢音さんを守るために、お前に邪魔はさせない!」

『SET』

 ドライバーの右側にビートバックルを装填し、音楽のボルテージが上がっていく。朋希は地面に転がっていた奏斗のブラストバックルを拾い上げ、左側のスロットに加えて装填した。

『SET』

「チッ、ならば望み通り、ここで殺してあげる!」

「変身!」

『DUAL ON!BEAT&BLAST!』『Ready?Fight!』

 べロバの銃撃を大きく転がりつつ避け、朋希は仮面ライダーハイトーン・ビートブラストフォームに変身した。べロバは朋希が変身を終えて間もなく、銃撃による制圧戦を実行した。ハイトーンはそのことをある程度予測しており、ビートバックルで必殺技を起動する。

『BEAT STRIKE!』

 ハイトーンの足元から、七色の音量メーターが出現し、直方体の形をしたそれは、べロバの銃撃を防ぐ。耐久力はそれほどでもなく、すぐに砕かれてしまうが、一瞬の隙さえ与えられれば十分であった。音量メーターによる目眩ましの合間に、奏斗とモーンを抱えて距離を取った。戦いの炎に巻き込まれないように。

「なによ?逃げるだけ?」

「そんなわけないだろ……」

 ハイトーンは距離を詰めると、次々生成される音量メーターを盾にして、べロバを中心に走り回り、ビートアックスの遠距離攻撃を加える。氷の棘や、枝分かれする雷をとめどなく放っていく。

『TACTICAL BLIZZARD!』『TACTICAL THUNDER!』

 べロバが攻撃しようにも、ブラストバックルの走行補助でスピードが上がっており、その巨体ではなかなか捉えきれない。そのうえ、銃撃をしてもハイトーンはすぐに音量メーターの壁を生成し、防御してしまう。そして、壁から出るとともにエレメント攻撃を遠距離から放つ…という動きがしばらく続き、べロバは苛立ちを積もらせていく。

「もう…じれったいわね!」

 べロバは痺れを切らし、銃撃を諦め直接ハイトーンに拳を振りかざす。べロバが近距離に切り替えるタイミング。それをハイトーンは待っていた。

「っ!」

『BEAT STRIKE!』

 次に音量メーターが現れたのは、べロバの足元であった。近接攻撃のために前傾していた姿勢が、足裏から伸びてきた音量メーターによって大きく揺れる。

「うあっ!」

 倒れるべロバを横に転がり避けたハイトーンは、音量メーターを足場に、空へと舞い上がる。

『TACTICAL FIRE!』

 空中にてビートバックルをかき鳴らし、炎を発すると、下半身から噴射されるガスに引火。両足に炎属性が付与される。

「はあああ!でやぁっ!」

 ハイトーンは錐揉み回転で勢いを付けて、炎を纏った踵落としをべロバの背中に放った。

『BEAT BLAST!VICTORY!』

 炎は踵の先から、空中に霧散していたガスに一斉に広がり、まるで太陽のプロミネンスのように火柱が立ち上がった。ハイトーンの一撃はべロバの装甲を破壊し、変身解除へと追い込んだ。ハイトーンが危なげもなく着地をすると、ようやく爆破の炎がおさまる。変身解除したべロバは、息を切らしながらハイトーンを睨む。

「なによ……なんでその程度の装備に私が……!」

 ハイトーンは変身を解き、べロバに言葉を返した。

「祢音さんが言ってた。人は、守るために戦うときに、一番強くなれるんだ」

 完全に余裕を取り戻した朋希の口調に、べロバは舌打ちする。しかし、彼女の表情は悪意に満ちた笑顔へと変化した。

「まぁいいわよ……どうせ、あなたは全部忘れる」

「は…?っ!」

 朋希は、直ぐにべロバの言葉の意味を理解することとなった。会話をするよりも早く、ビートバックルが激しい火花を立ててショートしたのだ。元々ダメージが集っていたドライバーも同じように青い電気を纏いながら故障する。恐らくは、ビートバックルに五十鈴大智が細工を済ませていたのだろう。火花と電流は、ドライバーの中央にはめられたIDコアに深刻なダメージを与えてしまったのだ。

「やられた…!」

「スズメの参謀さんに感謝ね。次は覚えてなさい…!」

 ベロバはふらついた足取りで撤退するも、全員が後を追えるほどの余力は残っていなかった。

「おい…朋希!」

「朋希君…!」

 奏斗とモーンが朋希に駆け寄るも、すでに消滅は始まっていた。IDコアに亀裂が入り、身体に青いノイズがかかり始める。退場ではなく脱落。それが、朋希に与えられた結末だった。朋希は仮面ライダーとしての記憶を全て失い、元の学生へと戻される。

「……ここまでか……」

 朋希は諦めたようにドライバーに手をやると、IDコアとブラストバックルを奏斗に差し出した。その手には、亡き鵜飼玲の使っていた、シャギーのIDコアもある。朋希は、辺りに響き渡るメロディーがまだ続いてることに気付き、目を閉じて聴き入る。

「後の世界を頼みます。これで僕も……」

 消えゆく身体に抗わず、最後の言葉を紡いだ。

「誰かを守れる、王子様になれたかな……」

『RETIRE』

 朋希が残したIDコアたちとバックルを、奏斗は落ちる前に掴んだ。そして、青いノイズがわずかに残った虚空に語りかけた。

「……ありがとう、朋希」

 

 

 外から爆発音が鳴って、勇気のメロディーも聞こえなくなった。朋希が決着をつけたんだ。過去の憂いを、全部押しのけて。ならば、私も応えなければ。勇気のメロディーが途絶えないように、ビートバックルの鍵盤を叩く。

「祢音!使え!」

 私はキューンの背中にまたがって、彼のレーザーレイズライザーをキャッチする。レバーを二回操作して、私の二倍の大きさはある二又の槍をデザインした。

『SUPPORT MODE』

 キューンが古代魚ジャマトに距離を詰め、私が棘の遠距離攻撃を槍で薙ぎ払っていく。古代魚ジャマトはそれに対抗して、私を攫った時に使った巨大な古代魚を召喚してきた。キューンと古代魚が、目前まで接近する。

『BOOST TIME!』

 ブーストバックルのハンドルを捻って必殺技の発動準備を済ませると、槍を突き出して古代魚の口の中に突き立てた。キューンが咆哮して、私たちは弾丸の如く加速した。

「はあああああああっ!」「あああああっ!はあっ!」

『BEAT BOOST!GRAND VICTORY!』

 黄色の閃光となった私たちは、古代魚を貫き、そのまま本体へと突撃する。私たちの渾身の一撃は、古代魚ジャマトの右半身をえぐった。古代魚が目くらましになったのか、撃破までは至らなかった。だけど、古代魚ジャマトは行動不能になって地面に文字通り沈んでいった。

「うっ……!」

 そこで、私にも限界が来た。キューンの上から転がり落ちて、変身解除する。キューンがすぐに人間の姿になって寄り添ってくれた。動けないけど、死んではいない。ゲームの結果は、引き分けと言う扱いになったようだ。キューンの差し出してくるハンカチを受け取る。

「気にするな。どうせこれ以上不幸になりようがないんだ。後は幸せになるだけだろ」

「……っ」

 言葉が出てこない私に、キューンは焦った様子で取り繕った。

「あっ!いやっ…今のは傷つけるつもりは無くて……!」

 大丈夫。ちゃんと私には伝わってるよ。不器用でも、私の事一番に考えてくれてること。

「ありがとう。本当の事言ってくれて」

 改めて口にすると、なんだかおかしくなって、二人で笑い合った。会場のバリアが解かれたのか。英寿に景和、奏斗とモーンさんが私とキューンの元へ駆けつけてくれた。でも、そこに朋希の姿は無かった。私はキューンに支えながら立ち上がる。

「奏斗……朋希は?」

「あいつは……生きてる。だけど、記憶を消された。もう、お前たちのことは……」

 奏斗は悔し気にハイトーンのIDコアを握りしめる。ある意味、それが朋希にとって一番幸運だったと私は思う。辛い記憶を背負って、一人で生きていくのは無理だ。私もキューンがいなかったら……そう考えるとぞっとする。

「とにかく、無事で何よりだ」

「一緒に帰ろ、祢音ちゃん」

「祢音さん、あなたの誕生日会も改めて……」

 英寿も、景和も、モーンさんも、優しい言葉を投げかけてくれる。でも、私はこの怪我で戦えないし、一緒にいても足手まといになるだけだ。それに何より、皆の優しさに応えられる、精神的な余裕も無かった。

「……ありがとう。私には、帰れる場所なんて無いよ……」

 私はキューンと共に、皆の前から消えた。

 

             *

 

 戦いを心臓が張り裂けるような気持ちで見ていたツムリは、チラミと共にIDコア管理室の前を訪れていた。チラミは手際よく、IDコア管理室に鍵をかける。責任者の芹澤朋希に、関係者であった鞍馬祢音も表舞台から消えた。今は悪用されないように、封鎖するのが最善と判断されたのだ。

「見てられませんでした、お二人が苦しむ姿……」

 一回戦から、仮面ライダーにとって辛い出来事が立て続けに起こっていたジャマトグランプリ。それを傍観することしかできないツムリもまた、心が疲弊し始めていた。チラミはツムリに向き直ると、いつになく真面目な口調で語る。

「目を背けちゃダメ。参加者の理想を見守る務めが、ナビゲーターのあんたにはあるんだから」

「……しかし、次のゲームも……」

 ツムリの自信なさげな声に、チラミも肩を落とす。

「そうね。形式上は引き分けだけど……ナーゴとハイトーンを同時に失って、本当に痛み分けと言えるかどうか…」

 それだけ言い残して、チラミはラウンジへ戻った。ツムリはその場に残り、がらんどうになってしまったIDコア管理室の扉に触れる。その扉を開くものはもういない。

 

 

 ハイトーンを排除する作戦は大成功。ビートバックルにショートする細工をしておいてやはり正解だった。この闘牛ゲームで勝ちを決めきれなかったのは残念だが、二人も仮面ライダーを減らせたのは大きい。それにしても、一つ気になることがある。

「べロバ。君は何故鞍馬祢音のスクープを知っていたんだ?」

「ふん。知っていたのは、私じゃなくてそれよ」

 ハイトーンにやられて不機嫌なべロバは、吾妻道長の持っているヴィジョンドライバーを顎で指す。

「そのドライバーは、歴代のゲームマスターが見てきた、あらゆる記憶を宿す真実の目」

 道長の前にしゃがみ込んで、ドライバーを眺める。僕の知的好奇心を満たす記憶が、ここには沢山眠っている。

「それは興味深い……!」

「くだらないな」

 道長は立ち上がり、ジャマトのアジトを去ろうとする。当然の流れではある。自分がせっかく考えたゲームが、べロバの好き勝手のせいでめちゃくちゃにされたのだから。

「べロバ、お前とはもうやってられない。ここまでだ」

 道長の不遜な態度に、べロバは焦ったように彼の手首を掴む。

「待ちなさいよ!知りたくないの?ギーツの弱点……!」

 ギーツ憎しを掲げ続けている道長は、ピクリと反応を見せた。道長が思いとどまったことにべロバはご満悦で、彼のヴィジョンドライバーを腰に巻いてやる。

「特別に見せてあげるから……」

 すると、ヴィジョンドライバーから光が投影され、僕たちの意識はその記憶の中に取り込まれた。

──────────────────────────

 僕たちが立っていたのはデザイア神殿と似たような施設で、ゲームマスターの持つドクロの仮面を装着した者たちが、神殿の中央に向かって歩いていく。

「これは……」

「ヴィジョンドライバーの見せている記憶か……!」

 神殿の中央に目を向けると、仮面の男たちが一人の女性を取り囲んでいた。女性は何者だろうか、白の衣装に髪飾りは、ツムリを連想させる。階級が高いのだろうか、ドクロではなく、バツ印の仮面をして、赤とピンクのローブを纏った男が二人、金色のヴィジョンドライバーを装着し話し合っていた。

『いいのか、ソソグ』

『ああ、スエル。これでいい。彼女は深みに近づきすぎた』

 ピンクのローブを纏い、ソソグと呼ばれた男の声に応じて、赤いローブの男・スエルが金のヴィジョンドライバーの認証ボタンをタップする。すると、女性は胸を押さえて苦しみ始めた。そして、彼女の身体はみるみるうちに石化。蝶が羽化するかの如く、背中から石化が膨張して、彼女はその中に取り込まれた。

『創世の女神となれ!ミツメよ!』

 ミツメという名の女性は、正に女神と言う名を冠するにふさわしい、二対の羽根を持つ天使の彫刻へと変貌した。

 笑みが抑えきれない。これが、デザイアグランプリの歴史的な瞬間……!

「ギーツの母親こそが、創世の女神よ」

 

          JGPルール

 

      ヴィジョンドライバーには、

 

      運営に関わるあらゆる記憶が

 

         保存されている。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

─ジャマトグランプリ─

「ミッチーが有終の美を飾るゲームを始めましょう」

『敗者は地獄に落ちるがいい!』

─最終戦!─

「母さんが創世の女神……?」

「大丈夫……俺が……守るから……!」

「全ては、世界は私の思い通り……!」

35話 激情Ⅶ:ようこそ♡天国と地獄
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