ジャマトが人類を不幸にするゲーム、ジャマトグランプリ。三回戦の闘牛ゲームでは、ギーツがビショップジャマトの撃破に成功。しかし、仮面ライダー陣営は鞍馬祢音・かナーゴが負傷により戦線離脱、芹澤朋希・ハイトーンがIDコアの損傷による脱落と、手痛い戦力低下を受ける結末となった。ジャマトもじわじわと戦力を失い続けている。だから次のゲームで勝負をかけてくるに違いない……そう俺は考えている。
最終戦が始まる前に、確認したいことがあり、俺は学校を訪れていた。体育館では、休日の通し練習をバスケ部が行っている。進級し、新入部員を大量に抱えた部は、三年生最後の予選で、インターハイに出場しようと熱が入っている。部長は今、半田城玖が務めているらしいが……病欠だろうか、体育館にいる様子は無かった。理由はすぐに分かった。
「朋希さん、半田部長は?」
「インターハイ予選のトーナメント票を確認するために外出してるよ。そうだ、さっきのシュート練習のデータ分析なんだけど……」
俺が出ていくまでもなく、新入部員と、記憶を失った芹澤朋希が、城玖のいない理由を話していてくれた。そういうスケジュール管理は顧問がするものだろ…と思ったが。きっと顧問も不在なのだろう。城玖も多忙だな。部長としてしっかり部を牽引できているようで、心底安心した。俺はもうバスケができないけど、あいつがきっと夢を叶えてくれるだろう。玲の記憶が消えているせいで、俺とあいつの関係はばらばらになってしまったが…仕方のないことだ。
「それでね、一歩目の踏み込みに躊躇いがあるんだよ。だからね、動きを読まれやすくて…」
それに、朋希だ。敏腕マネージャーとして、後輩、先輩から信用されているようだ。今日は記憶の消えた朋希がどんな生活を送っているのか、気になって見にきたのであった。でも、この様子なら、何も心配はないな。ただのおせっかいだったか。
あいつらをこれ以上不幸にしないように、俺が頑張らないと。
アルキメデル自慢のジャマト、ダンクルオステウスジャマトは、ナーゴに体を半壊させられ、昏睡していた。しかしそれも今、復活しようとしている。ダンクルオステウスジャマトもとい、古代魚ジャマトの残骸に突き刺さっていたアンプルの中身は、どす黒いアルキメデルの血液だった。僕とべロバは、古代魚ジャマトの身体が、アルキメデルの血液で満たされる様子を上から見ていた。
「はぁ~っ!愛すべき我が息子よ~!」
アルキメデルの血液は、瞬く間に欠損部位を再生させ、意識を取り戻させる。古代魚ジャマトが元気になったことをアルキメデルは痛く喜んで、歓喜の声と共に抱き着いた。
「未来人の血液一つで、あそこまで再生するとは、興味深いね……」
「前にも話したでしょ。未来人の身体はデザインされたもの。その気になれば、古代人だってジャマトだって、好きに作り変えられる。ま、自分の身体を代償にだけどね。私はごめんだわ、だって人の不幸をまだ見ていたいもの」
なるほど…創世の女神の成り立ちも、ある意味浮世英寿の母親、ミツメがデザインし直された結果という事か。あの”記憶”の中で、何かを失った未来人は見られなかったから、未来人同士では”代償”のカウントはされないってことか。あぁ…面白い。まるで細工箱の仕組みを、一つずつ解いていくような感覚。点と点が繋がるたびに、僕の心は満たされていく。やっぱり…ここに来て正解だった。
「さぁ、ミッチーが有終の美を飾るゲームを始めましょう」
ベロバにそう語りかけられた道長は、共にアジトを去ってゆく。その背中を、アルキメデルが恨めしそうに眺めていたのを、僕は見逃さなかった。
*
エコバックを両手に抱えた景和は、一生うんうん唸っている姉・沙羅に向けて、冷ややかな視線を向けていた。
「姉ちゃんも一つくらい持ってよ…」
週に一度の食料品の買い出しを終えたエコバックからは、長ネギや2ℓサイズのペットボトルが飛び出ている。それを両手に三袋も持っているのだから、流石の景和も音を上げ始めた。しかし、沙羅はそれどころではなく、声を野太く嘆く。
「だってさぁ~一大事なんだよ!祢音TV無しでこの先どうやっていきていけばいいのォ~ッ!」
沙羅が大げさな身振り手振りで騒いでいたのは、鞍馬祢音の運営する動画投稿チャンネルが一向に更新されないことが原因だった。闘牛ゲームの顛末を全て把握していた景和ですらも、今の祢音の行方は分からない。ただ遠くの空を眺めるように、彼女の幸せを願うばかりだった。当然、脱落していった仲間の朋希への思いも込めて。
「幸せになれればいいけど…」
「それって誰に言ってる?私?祢音ちゃん?」
口を尖らせ不満を示す沙羅に、景和は両手を掲げて精一杯明るく返す。
「皆だよ!世界中の皆!ねっ」
景和の柔和な姿を見ても、沙羅は祢音TVの事で頭がいっぱいで、なかなか顔が晴れない。とりあえずは目の前の弟を楽にしてやろうと、半ばやけくそ気味に買い物袋を受け取る。地面が多く揺れたのはその時だった。
「きゃっ!」「うおっ!」
一度だけ激しく地面が揺れ、景和と沙羅は買い物袋の中身を地面にぶちまけてしまう。揺れは継続することなく一瞬だったので、注意は地面に散らばった食料品へとすぐに移る。二人は大急ぎで食料品を拾うが、かなりの数だ。
「あ一あ一あ一!」
「大丈夫です?」
焦る二人の元に、大きなエナメルバックを背負った男子が駆け寄ってくる。男子は二人の様子を一目で察すると、 エナメルバックを背負って拾うのを手伝い始める。沙羅は申し訳なくて、頭を下げるか、男子は屈託もなく笑った。
「あぁ、すみません!」
「いいっすよ。それにしても何の揺れだったんだろう…?」
景和が顔をしかめながらも、活としてしまったリンゴに手を伸ばした時、異変が起こった。地面に、大小様々なサイズの円が描かれ始めたのである。円はピンクや黄色など、 それぞれ単色でベタ塗りされており、地面に点在していた。
「これってまさか…!」
景和が顔を上げると、地面が再び大きく揺れる。ジャマーエリアが円形に描かれ、分断されたかと思えば、町は空に向かって落ち始めた。
「町が浮いてる……!?」
下界とバリアで断絶された町。その中央に、二十階建てビルの高さをゆうに超える巨大な彫刻が出現した。人型の彫刻は眼球のようなものを両手に抱えていて、他にも四本の腕が、三つの巨大な宝玉を備えている。背中からは先端が黒変した羽根が生えていて、あえて名を付けるならば、邪神という称号のふさわしいシルエットをした彫刻だった。
「ど、どういうことだ…………あっ!」
食料品を拾ってくれた男子も、聞こえてきた人々の悲鳴に振り返る。景和たちと同じく巻き込まれた一般一般人だちが、頭に味のついた天使ジャマトに撃されていた。天使ジャマトはサーベルや長物の槍で武装している。景和は即座にデザイアドライバーを装着して、タイクーンへと変身した。
「変身!」 『NINJYA!』
ニンジャデュアラーでサーベルの上段斬りを受け止め、 腹部への膝蹴りで退ける。その間にも別個体の天使ジャマトが、転んでしまい逃げれない人に槍を振り下ろそうと迫る。ニンジャデュアラーを手早く分離し、片方で槍を弾くと、すれ違いながらもう片方で斬りつける。
「皆逃げて!はぁっ!」
タイクーンに守られるが、一般人たちに逃げ場は無く、 散り散りになる。さらに敵は天使ジャマトだけではなく、 その屍を超えてルークジャマト現れた。
「ルークジャマト……おかしくはない……よな…?」
タイクーンが様子を確認する間もなく、ルークジャマトは肥大化した左腕で殴り掛かる。ニンジャデュアラーの刃と腕が衝突し、しばし拮抗したが、タイクーンが横に流して、正面蹴りで距離を取る。そうこうしているうちに、天使ジャマトは一般人を襲っていく。なんとか人数不利を覆そうと、タイクーンはニンジャバックルのクナイを引く。
「数が多すぎる…!」
『NINJYA STRIKE!』
ポンと煙が立ち上がり、タイクーンは四人に分身する。 分身はそれぞれ自立行動し、一般人を天使ジャマトの刃から守らんと戦う。天使ジャマトの対応は分身に任せ、本物のタイクーンはルークジャマトに立ち向かう。ルークジャマトの左腕を抱え込み、ビームの軌道を空へと逸らす。
だが、そこにも横槍が入った。古代魚ジャマトが大剣の薙ぎ払いを、出会い頭にぶつけてきたのである。
「ぐああっ!復活したのか…!」
大剣の攻撃を受けしまったタイクーンは、ルークジャマトを自由にしてしまう。ルークジャマトは左腕からの赤黒いビームで、タイクーンの分身を撃ち抜く。一人、二人と分身は消滅していき、天使ジャマトの魔の手が沙羅に迫る。
「姉ちゃん!」
タイクーンは沙羅の元に向かおうとするが、ルークと古代魚ジャマトの攻撃がそれを許さない。
「来ないで!」
「危ないっ!」
天使ジャマトのサーベルが、沙羅に振られる直前。先程の男子が飛び込みながら沙羅を抱えて、軌道から沙羅を外す。二人はそのまま赤色の円の中に倒れる。一度は避けられたが、次の攻撃に備えるまでの時間は無い。絶体絶命だと思われた二人だったが、天使ジャマトは興味を失ったように攻撃の手を止めて去る。
「はぁ……?」
肩紐を切られ、だらりと垂れ下がったエナメルバックを下ろしながら、男子が困惑していると、邪神が荘厳かつ嘲るような声で語り始めた。
『審判の時だ。幸せになりたければ、好きな色を選べ』
天使ジャマトに襲撃されている状況で、その言葉の意味を推理できる者はいなかった。ゲームに巻き込まれた中年男性が、他の一般人に向けて声を荒げる。
「みんな丸の上に乗れ!襲われないぞ!」
円の上に立っていれば、天使ジャマトからの狙いを外される。目先の安全を求めら一般人たちは、大急ぎで大小カラフルな円の上に逃げ込む。
「みんな待って!何かおかしい!」
一足先に円の上に乗っていたことで、邪神の言葉を聞く余裕のあった男子は、異変に勘付いた様子であった。男子は一歩赤い円の中から出ようとするが、全員の一般人が円の上に乗るほうが先だった。鐘の音が響き、邪神が喋り始める。
『地獄の色が定まった。今、地獄は赤い!敗者は地獄に落ちるがいい!』
女神が告げると同時に、赤い円が地面ごと消滅した。赤い円の中にいた沙羅や男子、他数名の一般人は、天空という地獄に落ちてゆく。落下した後はどうなるか、直ぐに分かった。肩ひもを切られていたせいで、先んじて落ちていった男子のエナメルバックが、虹色のシャボン玉となって消滅したのである。体がふわりと浮き上がるような感覚に息を呑み込んだ後で、一般人たちは絶叫しながら落下する。
「…つっ!」
『SET』
『DUAL ON!NINJA&BOOST!』
タイクーンは無理やりルークと古代魚ジャマトを振りほどき、ニンジャブーストフォームとなって加速する。炎を噴射しながら自ら穴に落ちると、地獄の色に選ばれた沙羅と男子、そしてもう一人の成人男性を腕に抱える。しかし最後の一人である会社員には間に合わず、伸ばした手が空振りになる。
「あっ!」
会社員は絶望の表情で落下していくが、直前で他の穴から発射されたアンカー付きの鎖が巻き付いて体を支えた。そして、マグロが一本釣りされるがの如く会社員は天空の町へと戻される。タイクーンは確信と共に浮上すると、会社員を助けたのは、ダパーンのパイレーツブラストフォームだった。
「ありがとう、助かった!」
「間一髪だったな。勝手にこの町に転送された。俺たちも落ちる対象ってことらしい……っ!」
ダパーンは、タイクーンが引き上げてきた男子を一目見て、喋るのを止めた。
「大丈夫?」
「……あっ、ぁあ……こいつら倒して…ゲームクリアだ!」
すぐにダパーンは気を持ち直し、タイクーンと共に二体のジャマトと戦闘を開始する。
同時刻。天空の町の別エリアにて。一般人たちは天使ジャマトから逃れるべく、円の中に入っていた。
「みんな!その円は危険だ!」
ダパーンと同じく、町に転送された英寿が、一般人めがけて走る。天使ジャマトは英寿を槍で排除しようとするも、華麗にさばいて槍を奪われる。そして、英寿はそれを武器に天使ジャマトたちを叩き伏せた。同時に、女神の宣言と共に赤い円が地面ごと消滅する。近辺の一般人は、買い物帰りの主婦のみが転倒し、円に残されていた。
英寿は間一髪で主婦を受け止めて、地面へと下ろす。主婦の買い物袋は空へと落ちて、シャボン玉に変わった。
「あっ、ありがとうございます……」
主婦は腰を抜かした様子で円から離れていく。
「新手のゲームか…」
「その通りだ。人間、最後に行きつくのは天国か地獄と相場は決まっている」
英寿の元に現れたのは、仮面ライダーバッファ・ゾンビジャマトフォームだ。英寿はそれを迎え撃つべく、ブーストマークⅡバックルを使用した。
「どんなゲームだろうと…俺が勝つ」
『SET』
英寿は右腕を大きく回し、指を弾いた。
「変身!」
『BOOST!MARKⅡ!』
仮面ライダーギーツ・ブーストフォームマークⅡは、バッファと正面から激突する。
空に浮かび上がった町。それを地上からモーンは焦り顔で眺めていた。
「これが次のゲーム…!」
『さぁ始まったわよ。ジャマトグランプリ最終戦、天国と地獄ゲーム』
べロバのアナウンスが、モーンの元にも流れ始める。空中に映し出されたヴィジョンの中のべロバは、天空の町の邪神を目線で示す。
『あれこそ、天国を見守る女神の姿。しかし、女神が課した選択で間違えたものが地獄行き……正しい選択をすれば生き残り、次の試練に挑戦できる。そして、最後まで生き残った人だけに、幸せになる権利が与えられる』
鐘の音と共に、選択を誤った一般人たちが地獄へ落ち、シャボン玉となって消えていく。
『ゲームの参加者は、町の人だけじゃない。あなたたち仮面ライダーも全員よ。ニラム、あなたもね』
モーンはレーザーレイズライザーを取り、変身の構えを取る。
「早く皆を助けに行かないと…へんしッ!」
『GIGANT BLASTER!』
変身の掛け声をするよりも早く、モーンは背後から何者かに肩を撃ち抜かれた。鮮血が噴き出し、ダメージと衝撃で気絶、そのまま血だまりの上に倒れる。動かなくなった彼女に、二人組の片割れの女性が駆け寄る。
「ひどいよこれ…やりすぎじゃない!」
女性に避難されたもう片割れは武器を下ろし、バックルを外して変身解除する。
「急所は外してある。それこそ、これくらいやっておかなければ、あいつは欺けない」
淡々と話す男の様子に、女性は不満げに黙り込む。
「……ごめんね、新井紅美ちゃん。必要なことなの」
女性はモーンの肩に布を結んで簡易的な止血をすると抱きかかえて、男と共に去った。
ダパーンの救援によって、不利だった状況は逆転した。タイクーンはルークジャマトを、ダパーンは古代魚ジャマトを相手に、一般人を背に戦う。
古代魚ジャマトが地面を大剣で叩くと、巨大な古代魚が出現。その獰猛な牙でダパーンに噛みつかんとする。それをガスの噴射でジャンプして避けたダパーンは、空中を泳ぐ古代魚の背に飛び乗り、頭に向けて疾走。パイレーツブラスターにファイアバックルを装填した。
『FIRE CHARGE!』
古代魚の頭を蹴り、ダパーンは巨大な口の前に躍り出る。そして、空中で身をよじって、古代魚の喉元に炎の弾丸を放った。
『FIRE TACTICAL BOMBER!』
炎の弾丸を食らった古代魚は体内から爆発し、穴を通り過ぎて落ちていった。ダパーンは転がりながら着地し、サーベルで古代魚ジャマトの大剣を弾き、胴体を十字に斬りつける。斬撃の火花が消えぬうちに、別のバックルを装填済みだったパイレーツブラスターを放った。
『CHAIN ARRAY TACTICAL BOMBER!』
二人の間に棘付きの鉄球型の弾丸が放たれ、高速回転。古代魚ジャマトの胴体を削り取りながら吹き飛ばした。その勢いで、古代魚ジャマトの右腕がもげる。
「っ……再生したてで脆いのか…!」
そして、リボルブオンで上半身にブーストを装備したタイクーンが、ルークジャマトを殴りつけ、古代魚ジャマトの元にぶっ飛ばす。あと一歩で撃破…かと思われたその時、邪神が語り始めた。
『次なる審判は明日の正午。心して備えよ』
邪神の言葉を受けて、ジャマトたちは撤退してゆく。一般人は恐怖のあまり、そのまま地面に座り込んでいる。タイクーンはすぐに変身解除して、姉の沙羅の元に駆け寄っていった。隣には、先程助けた男子もいる。その中でダパーンは、変身解除を渋っていた。ベルトに装填したバックルを中々外そうとしない。
「どうしたの?はやく皆を、安全なところに避難させなきゃ」
景和の呼びかけを聞き流すことはできず、ようやくダパーンは変身を解いた。そして、沙羅の隣に座り込んでいた男子と向かい合う。
「お前……奏斗……!」
「……ぁあ、城玖」
沙羅の隣にいた男子は、奏斗にとって因縁の相手・
「説明しろよ奏斗…何なんだよこの状況!」
「俺たちもまだ分からない。とりあえず、皆で隠れられるところを……」
奏斗の覇気のない対応に、城玖はさらに怒りを積もらせる。
「そんなすんなり納得できるかよ……だいたいな!俺はお前のそういう態度が嫌いなんだよ!」
城玖はそのまま奏斗を殴りつけようとしたが、その拳は近くで起きた爆発によって止められた。
『TACTICAL BREAK!』
『LASER BOOST VICTORY!』
仮面ライダーバッファと、仮面ライダーギーツ・レーザーブーストフォームの戦闘がまだ継続していたのである。バッファのゾンビブレイカーから放たれる毒の斬撃を、ギーツはレーザーレイズライザーの銃撃で相殺する。二人の実力は拮抗していて、激しい戦闘は、奏斗たちのいる場所まで移動するほどのものだった。しかし、邪神の宣告は既に終わっている。攻めあぐねた二人は、着地すると共に変身解除した。
「フン、殺すのは明日まで取っといてやる」
「その意気よ、ミッチー」
いつもの人の不幸を楽しむ狂気的な姿と打って変わって、べロバは冷徹な口調と共に現れた。そして、淡々とゲームの開設を始める。
「天国と地獄ゲームは、まさにこの世界の縮図よ。大勢の犠牲者の上に、たった一人の幸せが成り立つ不公平な世界。それがデザイアグランプリ」
足元に開いたままの穴から、大量にシャボン玉が浮かんできて、邪神へと集まっていく。
「これまで、数え切れない程のゲームで、多くの犠牲者を生んできた。彼らの幸せは女神の元へと集められ、たった一人の勝者の大きな幸せに変えられる……それが、デザイアグランプリの真実」
べロバは言葉を反芻し、意味ありげな視線を、奏斗と城玖に向ける。べロバの言葉を、道長が繋いだ。
「敗者の幸せを奪って、勝者だけに与える…そうやって人々の幸せを支配してきたのが、創世の女神だ」
ジャマト陣営の二人が語り始めたこの世界の仕組み。それを作った創世の女神。シャボン玉は、邪神の持つ三つの宝玉へと集められ、虹色の輝きを放った。
「フフッ……そんな残酷なことをしてきた創世の女神ってぇ……何者かしら?」
べロバは英寿に嘲るように言葉を投げかけると、一度だけ笑みを浮かべて去った。
「正体……?」
べロバの言葉が意味する真実を、英寿はずっと考えていた。
*
天空の町から降りることを許されなかった一般人たちが、暗闇のコンサートホールに身を寄せ合っている。エリア内からかき集めてきた蝋燭に火を灯し、毛布に身をくるんでぽつぽつと座席に座っていた。俺はホールの入り口から、中の様子を眺める。皆、生き残りを賭けたゲームに精神をすり減らし、震えている。友達を失ったのだろうか、女子高生も憔悴した様子で体育座りをしていた。このゲームの縛りなのか、俺たち仮面ライダーすらも、この町から脱出することは不可能だった。一応デザイアドライバーを使えば、サロンやオーディエンスルームに行くことは可能なようだが。
気になる事もある。モーンと連絡が取れないのだ。彼女の瞬間移動能力があれば、一般人を町の外へ逃がすことも可能だったはずだ。ジャマトグランプリのルールによると、サポーターによるゲームの直接干渉はルール違反。以前のように、べロバに妨害されたのだろうか。だが、べロバは俺たちの前に一度姿を現している。彼女がモーンを妨害し続けるとは考えらない。だとすれば、いったい誰が?
「僕たち、助かるの?」
沙羅さんが、行きがけで保護した少年の頭をなでる。少年に向かってしゃがみ、視線を合わせたのは城玖だった。
「大丈夫。皆で協力し合えば、きっと生き残れるって。あの浮世英寿に、沙羅さんの弟さんが守ってくれてるんだ。絶対大丈夫だよ」
彼の心優しい言葉の中に、自分の名が挙げられなかったことに少しぐさりとくる。少年から目を離した城玖が次に捉えたのは、俺の姿だった。目線が重なって、心臓がきしむ音がした。城玖はそのまま目を離さず、こちらに向かってホールの階段を上ってくる。そして、俺だけにしか聞こえないように告げた。
「出てけよ。俺は、お前の力なんて絶対に借りない…!」
彼の言葉には、怒りとは別の感情も混ざっているような気がして、俺はまた言い返せなくなった。彼にどう接していいのかわからない。俺は、今のあいつと、記憶が消える前のあいつ。どちらに何と声をかければいいのだろうか。安牌を取るつもりで、淡々としか言葉を返せなかった。
「でも…闇雲に逃げるのも、無理だ。敵の数は…」
俺が話し切る前に、城玖は肩を突き飛ばしてきた。俺に向かって、言葉の追い打ちをかけてくる。
「俺はな。そういうお前のなんでもわかってる物言いが大っ嫌いだったんだ。俺に命令するな…!」
もはやこいつとはもう会話にならない。だからせめて、最後に言わなければいけないことがある。
「頼む。俺たちがお前らを守りたいって気持ちだけは本当なんだ。ここから出ないでくれ……これは、英寿たちからの…お願いでもあるんだ……頼むよ…!」
城玖は言葉を渋りに渋った後、絞り出して了承した。
「…っわかった。けど、俺はお前じゃなくて、英寿さんのお願いを聞いたつもりだからな」
その後結局城玖に追い出され、俺は施設内の廊下を歩き始めた。空に切り離された町に、当然電気が通るハズも無いので、暗闇を僅かな視界を頼りに歩く。大きな窓が備えられた通りは、少し月明かりがあって歩きやすい。その窓際に、英寿が立ち尽くしていた。町を支配する、邪神をただ睨み付けている。夜空でも、虹色の宝玉は輝いて見える。
「……ダパーン。あいつは、お前の友達か?」
英寿は、ようやくこっちを向いて語り掛けた。あいつ…城玖との問答を見ていたのか。こんなに離れていたのに、地獄耳かよ。
「元だ。玲が脱落して、幼馴染だったあいつの心を作っていたものが消えた。本当は、もっと話の分かる人だったんだ」
そうだ。あいつは、口は悪かったけど。俺と一緒に夢を追いかけてくれた。辛い練習にも、付き合ってくれた。俺にも当然責任はあったが、いいやつだった、はずなのに。俺は、破損した玲と朋希のIDコアを、英寿に見せながら語った。
「今俺があいつに関わって、無駄に怒らせても、何にもならない。万が一記憶を取り戻すことになれば、あいつはどうなると思う」
間違いなく、かみなりジャマト祭りの時の俺のようになる。責任と喪失感で、抜け殻のようになってしまうだろう。そして、俺を部活から追い出したこと、理不尽に起こっていたことを悔いるはずだ。なら、変なアクションは起こさない方が良い。本物のアイツは、もう帰って来ない。
「……それで良いのか。大切な人と二度と会えない事を、お前は歯がゆく思わないのか」
英寿らしくない、塩らしい言葉だった。でもそれを茶化す気にはなれなくて、俺は目を逸らした。
「…………いいんだ。これで」
俺は自分の本当の気持ちを考えないようにして、話題を変えた。
「一般人はこの建物から出さない。ジャマト全員を倒すまで、俺達で守り切る。景和も了承してる。いいな、英寿」
「ああ。必ず、皆を守り切る」
俺と英寿は、拳を付き合わせた。
翌日、ホールの入り口前にて景和と落ち合った。
景和はなにやら考え込んでいたようで、話を聞いてみた所、昨晩はケケラと会って来たらしい。そこで聞いた話を、俺に共有してくれた。
「不幸と幸福が釣り合う世界?」
「うん。今までのデザ神の願いは、退場したり巻き込まれたりした人の不幸を集めて叶えてるんだって」
最初の審判の後にべロバたちが言っていたのはそういう意味か。景和は、まだ衝撃が隠せない様子で語る。
「この世界の幸福の総量は決まってるって……ほんとうにそうなのかな」
誰かが金持ちになれば、誰かが困窮する世界。デザ神の大それた願いを叶えるのに、何百人の願いが消費される世界。信じ難いが、妙な納得感があった。でも、今いる人たちを見捨てる選択にはならない。三人で力を合わせて、なんとか守り切る…いや、倒し切らないと。
次の審判まで、もう時間は無い。俺と景和は、昨晩と同じ場所で待機していた英寿の元へ向かった。英寿は相変わらず立ち尽くし、窓越しに邪神を眺めている。しかし、そこに新しい影があった。
「ようやく……難問の答えに辿り着いたかな」
ジャマト陣営に寝返った男、五十鈴大智だった。彼は俺たちを横目で一度見たが、構わず英寿に語り続ける。
「本来、結ばれるはずのない古代人と未来人。だれよりも幸せになりたいと願った彼女は、忌まわしき力を手に入れた」
古代人と、未来人……もしかして、英寿の本当の母親のことか…?彼女を探すために、英寿は二千年、戦い続けてきたと言う。彼女…願った…忌まわしき力?まさか…!
「人々の幸せを奪い、大いなる理想の世界に作り変える力を…!」
「母さんが創世の女神……?」
創世の女神は人間だった…?驚愕の事実に、思わず英寿も言葉を失い、大智はにやりと笑う。
「それホント…?」
「ああ。僕はこの目で見たよ。ヴィジョンドライバーに記録された……ミツメが創世の女神となる歴史を」
景和の疑問に答えた、大智は、邪神へと目を移す。
「あの神は、創世の女神を模倣したものだ。創世の女神は、人類とジャマトを争わせ、世界中の幸せを支配していたんだ」
俺たちの間に、沈黙が流れる。ついに大智は、俺たちにとどめの一言を浴びせてきた。
「かつて、人々の幸せを犠牲にして誕生したのが、君だ。女神の申し子、浮世英寿」
絶句。その一言でしか言い表せない空気だった。満足した大智は、その場を去る。英寿は何も喋れない。自分が母親探しのために二千年続けてきたこと、叶えてきた数多の願い。それも全て、自分の誕生が招いた結果であること。二千年の幸福を、知らずのうちに自らが支配していたこと。そんな残酷な現実を突きつけられ、立ち尽くすばかりだ。
そして、感情が爆発しているのは、景和も同じだった。
「……っ父さんも母さんも……俺たち家族は、ただ。家族で一緒に暮らせればそれだけで幸せだった…………なのに……創世の女神がそれすらも奪ったんだ。英寿…君の幸せを叶えるために……」
景和は感情に任せて、英寿に掴みかかった。抜け殻のようになった英寿は、なにも言い返さない。こんな状況、見てられない。
「待ってくれ…今は俺達で争っている場合じゃないだろ…!」
俺は、英寿と景和の間に入ろうとするが、景和の怒りの感情は強く、離れてくれない。それでも諦めず、俺は声を出す。
「もうここにジャマトが来る。皆を守らなきゃ…!」
「英寿に話を聞く方が先だ…!」
「…………」
彼らにとって、大きな問題なのはわかる。俺だって、玲の存在を、城玖や朋希の記憶を失っている。須井部長みたいな、デザグラの不幸と幸福に狂わされた人も見てきた。だからわかる。でも、今は…守るべき人がいるはずだ。
「英寿…!景和…!頼むよ!お前らの力が必要なんだ…!」
「………………」
「英寿……答えろ!君は母親と会うためにみんなを犠牲にして……何も思わないのか!」
二人の変わらない様子に、俺自身の心もすっと冷めていくように感じた。この時、祢音がいたら。朋希がいたら。俺の気持ちも変わることは無かったのだろうか。今、こいつらに頼るのは、無理だ。無駄だ。無謀なんだ。
「もういい…俺一人でやる……お前らが行かないなら…俺はたとえ一人でも……守るからな」
それが、俺が憧れたお前たちがすることだと思うから。そこまでが口にしなかった。俺自身、信じられなくなっていた。自分の目指してきた仮面ライダー像と言うやつに。
『さぁ、第二の審判の時だ』
*
くそっ。何が仮面ライダーだ。奏斗のやつ、かっこつけやがって。審判の時間とやらまで一時間もない。本当にこのままあいつを信じていいのか?俺たちのとこに来た敵だけでもあの数なんだぞ。少年の手前強がっていたけど、やっぱり怖い。
「ねぇ、城玖君」
「…はい?」
少年を背中に隠した、沙羅さんが声をかけてくれる。こんな状況なのに、穏やかな彼女の表情は、少しでも場を和ませてくれた。
「城玖君って、奏斗君のこと嫌いなの?」
意外な質問に、背筋が伸びるように感じた。でも、俺の気持ちは変わらない。俺が思うことは決まってる。あいつは自己中な奴で、勝手に夢を押し付ける。バスケで全国なんて、だれも行きたがってないのに、あいつだけの夢を、皆の夢みたいに言うのが気に食わない。怪我で、選手生命が絶たれた?知ったこっちゃない。あいつも夢を諦められて、俺たちも解放されて、良いことしかない。それを、正直に沙羅さんに伝えればいい。
「そりゃあもちろん…もちろん…あれ?」
なぜか言葉に詰まった。思っている事と口がシンクロしない。俺は、奏斗が大嫌いで…すぐに消えてほしいと思っているはずなのに。
「俺は、あいつのこと…」
『さぁ、第二の審判の時だ』
ガラス張りの壁越しに見える邪神が、鐘の音を鳴らす。コンサートホールの入り口を目指して、両サイドの廊下から天使ジャマトが隊列を組んで歩いてくる。右側の先頭には、ウツボカズラみたいな…確かルークジャマトと、古代魚ジャマト。反対側から天使ジャマトを引き連れて歩いて来ていたのは、人間だった。
「変身」
『JYAMATO!ZOMBIE!』
彼の変身した姿は、上半身に紫の鎧、下半身にツタ。片目の割れた、英寿さんと戦っていた仮面ライダーだった。彼が変身し終わると、天使ジャマトたちが一斉に槍を構えて、ホールの入り口へ駆けてきた。
「中に入れ!急げ!」
俺は無理やり入り口に固まっていた人たちをホール中に押し込む。そして、沙羅さんと一緒に大急ぎで扉を閉めて、その辺に落ちていた箒を扉の取っ手にねじ込む。こんなことやっても、ただの時間稼ぎにもならない。俺たちが箒で固定した次の瞬間には、激しい打撃音と共に、扉はへこみ始めた。皆は悲鳴を上げながら、階段を下ってステージ上に後退する。
『TACTICAL BREAK!』
扉を、チェーンソーが貫いてきた。チェーンソーは毒のようなもので扉を溶かしながら一刀両断。敵の通り道を作ってしまった。
「くっそ…逃げろ逃げろ!」
ステージ側には、外に出れる非常口がある。いざとなれば、そこから逃げる算段だ。俺は沙羅さんや少年を先に下がらせて、じりじりと後退していく。
「殺されたくなかったら、さっさと円を目指せ」
先頭を歩き続ける紫のライダーが、俺にチェーンソーの先端を向けながらにじり寄ってくる。
「そ、そんなのゴメンだ…誰がお前らのゲームになんか乗るかっ!」
「なら死ね…!」
震え声でなんとか啖呵を切った俺に、紫のライダーがチェーンソーを振り上げる。しかし、その一撃は、ホール側からの銃撃で弾かれた。俺は咄嗟に振り返る。非常口から入って来たのだろう。生身の奏斗が民衆を掻き分けて、白煙のあがる巨大な南蛮銃を構えていた。今のうちだと、俺はホールの端に避ける。結果的に、奏斗と紫のライダーが、ホールのステージと客席で向かい合う形になった。
「お前一人か?」
「あいつらは来ない」
『SET DEPARTURE!』
奏斗は左頬の前で拳を作り、腕をクロスさせる。クロスした腕で、両側のバックルを操作して、仮面ライダーに変身する。
「変身」
『Voyage for desire!PIRATE&BLAST!』
『Ready…?Fight!』
奏斗の変身した仮面ライダーダパーンは、紫のライダーにアンカー付きの鎖を発射する。紫のライダーがチェーンソーと爪で鎖を弾いているうちに掴みかかり、扉の残骸を破壊しながらホールの外に出る。
『SHIELD TACTICAL BOMBER!』
二人のライダーがホールから消えると、直ぐに青く巨大な盾形のエネルギーが入り口を塞いだ。たった一人であの数を相手するつもりなのか。そんなの無茶だろ…!もはや俺が好きとか嫌いとか、感情の問題じゃない。常識的に考えて無理だ。皆は、これからどうするかを口々に語っている。ここから出るか、信じて残るか。あいつの肩を持つのは不服だが、俺は…
「皆、ここに残ろう。外に出ても、無事に助かる保証はないんだ。なら、信じよう、仮面ライダーを」
俺が大声を出すと、沙羅さんを始めに、多くの人が頷いてくれた。ずっと座ったまま動かない、女子高生もいたが…とりあえず、こっちは信じるしかできない。これ以上誰も失わないために。
だけど……この胸のざわめきはなんだ?俺は奏斗が嫌いでたまらないのに、なぜかあいつを深く知っている気がする。本心では、彼の強い言葉に、ついていきたいと感じてしまう。それはなぜなんだ…?
俺はバッファを地面に叩き下ろすと共に、シールドバックルを装填したパイレーツブラスターを後ろ手に放ち、ホールの入り口にレイズシールド型のバリアを二枚張った。
「どけ!」
「ぐあっ!」
俺の膝で抑え込まれていたバッファが、バーサークローを突き上げてくる。俺はそれを受けて、胸部のアーマーから火花を上げて後ずさった。俺とバッファはお互いに距離を取る。改めて周りを見渡すと、ありえない量のジャマトだ。広大な町で散り散りになっていたジャマトがこの建物に集まってるんだ。天使ジャマトの数は計り知れない。右手からルークジャマト、左手からは、古代魚ジャマト…しかも欠損部位をもう再生させてる。どれだけしぶといんだ…
「お前も無謀だな。一人で勝てると思ってるのか?」
「勇気とか…無謀とか…今はどうでもいい…!俺は……みんなを守る!それだけだ……!」
かつての仲間の言葉に自分を重ねて、バッファにサーベルで斬りかかる。サーベルとゾンビブレイカーが激突すると同時に、両サイドのジャマト軍団が俺に向かってなだれ込んでくる。天使ジャマトの一体に鎖を巻き付けて、左サイドの軍団に投げつける。集合して団子状態になっていた天使ジャマトは将棋倒しとなり動けなくなった。
「こっちを見ろ!」
「やってられるか!」
ゾンビブレイカーを上に押し返すと、バッファが反撃の正面蹴りを放ってくる。それを右足に受けて怯んだ直後、俺も殴るようにパイレーツブラスターを突き出してバッファに撃ち込む。互いに大きく仰け反った間に、ルークジャマトが肥大化した腕で薙ぎ払って来た。それをなんとか後ろへのステップで避け、古代魚ジャマトの剣撃も同じようにステップで避けた。回避行動の最中に、パイレーツブラスターのバックルを差し替える。
『WATER CHARGE!』
ウォーターバックルの蛇口を回し、地面に向かって水の弾丸を放った。
『WATER TACTICAL BOMBER!』
その銃撃で三人が怯んだ隙に、必殺技を重ねがけする。
『BLAST STRIKE!』
太腿のファンから竜巻を発生させ、水の弾丸と合わせて渦潮を作る。それを3体に向けて放ち、天井スレスレへと巻き上げた。渦潮はそのまま右に流れていき、天使ジャマト軍団を足止めした。
『PIRATE STRIKE!』
空中へと運ばれた三体には、サーベルからの斬撃を放ち、同時に命中させた。直撃と共に爆発が起こるが、なんとバッファはそれすらも目眩ましに使ってきた。バッファが天井を蹴り返す音が聞こえたかと思うと、爆炎を抜けて、ゾンビブレイカーを叩き落として俺を肩から斬り裂いた。
「ぐうっ…!」
大きなダメージを受け、地面に膝を付いてしまう。マントからのミストで治癒をかけるが、息は上がったままだ。パイレーツバックルの治癒でも、体力までは回復できない。
「諦めるか…諦めて…たまるか…」
俺は既にふらつき始めていて、立ち上がるともう古代魚ジャマトの棘攻撃が迫ってきている。足首からのガス噴射でジャンプし、棘を飛び越えてパイレーツブラスターを構える。しかし。
一瞬身体が空に引かれるような感覚が襲って、動きが取れなくなった。
「ぐあああっ!」
ルークジャマトが放ったビームを、避ける動作を取ることができなかった。空中でそれをもろに受けてしまい、立て続けに他2体に攻撃が来る。
『POISON CHARGE!』
『TACTICAL BREAK!』
肩の装甲でゾンビブレイカーのポンプを動かしたバッファが、毒の斬撃を放つ。さらに古代魚ジャマトも巨大な古代魚を召喚した。先に毒の斬撃を胴体にくらい、さらに空中で打ち上げられた所を古代魚に噛み付かれる。古代魚はそのまま壁に俺を叩きつけてぶち破り、ホール内に俺を叩き落とした。ステージ上の一般人たちが悲鳴を上げる。
「お前…!」
「動くなっ!」
俺の元に城玖が駆け寄ろうとしてきて、声を荒げて制止する。息の切れる体にまたヒールをかけて、俺は精一杯元気な声を捻り出した。
「みんな…大丈夫……俺が……守るから……!」
サーベルを杖にしてもう一度立つ。シールドバックルで作ったバリアを破壊して、ホールへと天使ジャマトたちがなだれ込んでくる。こんなことで寝てられない……今この人たちを守れるのは俺だけで……そんな時でも諦めないのが仮面ライダーなんだろ……!
「そんなの嘘よ!」
今までずっと震えて黙っていた女子高生が叫んで、一瞬静寂が訪れた。
「え……?」
「あんたなんか信じられない……!私の友達は落ちて死んだ!あんたが来なかったせいだ!何も守れてないくせに……偉そうに言わないで!どうせ最後は……私たちを置いて逃げるつもりなんでしょ!」
女子高生の激昂が伝染するように、皆が俺に疑いの目を向けてくる。何が守るだ……そう言って一人しか来なかったじゃないか……ボロボロで、頼りないじゃないか、と。
「仮面ライダーなんて信じない!私の幸せは私自身で掴む!」
「待ってくれ!」
城玖の静止を振りほどいて、女子高生は裏口から出て行ってしまった。それを追うように、天使ジャマトが武器を携えて階段を下りてくる。皆に伝染していた……いや、奥底に根付いていた不安と疑心は、あっと言う間にパニックに変わった。みんな我先にと仲間だったはずの人たちを押し倒しながら裏口から出ていく。
「落ち着けってっ…うわっ!」
なんとかパニックを抑え込もうとした城玖が、圧に負けて地面を転がせる。先頭の天使ジャマトが、城玖が向けて槍を振り下ろそうとする。
その時には、もう体が動いていた。
「は……あ…奏斗…?」
俺はその身で槍の一撃を受け止めていた。左肩を貫かれ、大量の血がボタボタと鎧と地面に滴り落ちる。
「ぐうっ……ああっ!」
俺は反対の手でパイレーツブラスターを発砲し、天使ジャマトを倒した。しかし、その一撃がもう精一杯だった。それからヒールをかける余裕も無くて、変身解除。血の上に膝から座り込んだ。
「奏斗っ…奏斗ぉっ!」
城玖は起き上がって、後ろへ崩れる俺を抱えてきた。俺たちの横を、大勢の天使ジャマトと、バッファ達が横切っていく。もう俺は脅威ではない、と言うように。しかし、まだ城玖や沙羅さんと保護された少年目的で、天使ジャマトがじりじりと迫ってきていた。ここももう安全ではい。俺はもう、守れない。
「逃げろ…城玖…沙羅さん…」
「そんなことできないよ!」
「奏斗……なにやってんだよ!守るんじゃなかったのかよ!」
城玖は俺の右肩に手を回して一緒に逃げようとしてくれる。
非常口から外に出ると、外の景色は阿鼻叫喚だった。皆、小さい円を取り合って、蹴落とし合い、はぐれた人はジャマトたちに襲われんとしている。
「もうだめだ…もう…」
「嫌だ……そんなの……!」
絶望の声を漏らす城玖に反発して、俺はまた一人歩みを進めた。失血で視界が霞む。城玖や沙羅さんが止めようとしてくれたみたいだが、一度アクセルをベタ踏みした俺は引き下がれなくて、瀕死の重傷とは思えない体で駆け出した。
「皆に触れるなぁっ……!」
左手に持ったパイレーツバックルの舵輪を回して、パイレーツブラスターを召喚する。そして、右手に構えて近場にいた一般人を襲おうとしていたルークジャマトに発砲した。弾丸は一発だけルークジャマトの背中に当たったが、あまり怯んだ様子はなく。振り向きながらの右腕の裏拳で武器を弾いてきた。
「あ……っ!」
「いつからこんなめんどくさい”キャラクター”になってしまったのか」
突然、ルークジャマトが成人男性の声で喋り始めた。困惑して声が出ない俺は、ルークジャマトの膝蹴りを受けて地面にうつ伏せに倒れた。なんでこいつが人間の言葉を……これが、朋希が追いかけていた違和感…?ルークジャマトは俺の髪を掴んで持ち上げてきて、無理やり目線を合わせてくる。
「さて……冥途の土産に教えてやろうか。創世の女神が最初に叶えた願いは、何だと思う?」
なんだ?何を話している…?こいつは一体何者なんだ。そもそも、その答えは出ているはずだ。
「英寿の……誕生……っ」
「違う。それはミツメが最初に叶えた願いだ。創世の女神が最初に叶えた願いは”人間の幸福と不幸が釣り合う世界”だよ」
ルークジャマトの高圧的な発言に気圧される。すぐに、景和がケケラから聞いたという話を思い出していた。強者が弱者から幸福を搾取する構造……一見一般論かと思えた話。その構造を…こいつが作った?
「画期的な考えだったよ。その支配構造が、沢山の素晴らしいシナリオを生んでくれた。」
ルークジャマトは俺の頭を引っ張って、奈落へと身体を向けた。下から吹き上げる風が、俺の肩からの血を霧散させる。それを顔に被っても、ルークジャマトは動じず、勝手に話を続けてきた。
「恋人を殺してしまった男が、落ちぶれて不幸の狂信者になり破滅する。素晴らしいシナリオになるはずだったのに……お前は私のシナリオを超えた行動を取り始めた。本来死ぬはずだった芹澤朋希、青山優、広実須井、上遠赤哉、快富郁真、そしてモーンの行く末を変えてしまった」
今まで関わって来た人たちの名前が挙がって、呼吸が荒くなってくる。こいつだ。こいつが全部を仕組んだ首謀者…玲を殺させて、色んな人間を狂わせてきた。モーンの創造主、デザグラの創設者の一人……
「お前がソソグだな……!」
「そうだ。私はデザグラのシナリオライター。君たちの不幸も幸福も、すべて私が決めた……!私が最初に叶えた願いはね、ミツメの子供が輪廻転生するきっかけになったんだよ。今回の人生でも母に会えなかったという不幸が、彼に転生と言う幸福の奇跡を与える……そしてその末で、彼は意志のない神となるんだ。どうだ…”面白そう”だろ…?」
彼の発言全てに、純粋な悪意を感じ取れた。俺たちの戦い全てが、こいつ決められていたという絶望感と共に、俺しかいないとも思った。こいつは、俺の事をシナリオを超えた行動を取り始めたと言った。それなら、こいつに一矢報いることができるのは俺だけなんじゃないか。しかし、そう思った時には、既に全てが遅かった。ルークジャマトの姿をしたソソグは、俺の首を掴んで持ち上げ、地面に開いた奈落へと身体を運んだ。
その衝撃で、ポケットの玲と朋希のIDコアがポケットから落ちて、地面を転がっていった。
「やめろ!」「やめて!」
遠くから、城玖と沙羅さんが声を上げていたが、ソソグはお構いなしに持論を語り続けた。
「早く私の美しいシナリオから消えてくれないか。君さえ死ねば……全ては、世界は私の思い通り……!」
ソソグが手を放す。
俺は抵抗する力も無くて、そのまま空へ落ちた。最後に聞こえたのは、自分のベルトのIDコアが砕ける音だった。
「ごめん……みんな……」
英寿、景和、最後に信じられなくてごめん。城玖、沙羅さん、みんな、守れなくてごめん。
玲、こんなに情けない俺でごめん。
「ごめん………」
泡になって消える瞬間は、それほど痛くなかった。
JGPルール
犠牲者の幸せは
理想の世界を作り変える力に
運用される。
次回:仮面ライダーギーツ外伝
「俺のギーツは、こんな所で終わる奴じゃない」
「真実はこの目で確かめる」
─勝者は─
「勝利の女神がほほ笑むのは…ギーツか、バッファか…!」
─ギーツか?バッファか?─
「こんなくだらない世界…全て終わらせる!」
36話 激情F:ライダー全滅