仮面ライダーギーツ外伝 一歩IF:片脚の男   作:みなかみ

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空白編
37話 空白Ⅰ:ジャマ神無双!


 

 光の道。ここは死後の世界なのか、それとも現世との狭間なのか。気づけば俺は暗闇の中で、一つだけ煌々と輝く黄金の光を目指して歩いていた。俺は、仲間を信じられなくて、一人で突っ走って、死んだ。町に残された皆はどうなったのだろうか。それが心残りで、一度だけ振り向いた。

「英寿…景和…?」

 俺が歩いてきたはずの光の道に、二人が立っていた。しかし、俺とは反対の、引き返す方向を向いていて、顔は見ることができない。けど、ずっと一緒に戦って来た、仲間の背中だった。俺が彼らに呼び掛けても、反応することは無い。きっと、これは幻覚か、それとも彼らはまだ引き返せる余地があるということか。それならいい。あいつらなら、きっと世界を救える。俺がいなくても───────

「奏斗…!」

 声が聞こえて、俺は改めて前を向いた。

「あ……玲……」

 立っていたのは、俺が殺してしまった彼女、鵜飼玲だった。無意識とはいえ、操られていたとはいえ、俺が玲を殺したことは事実だ。何と声をかければいいのか、言葉が出てこない。玲に…謝らないと…謝って…それで…

「……奏斗、ごめんねぇ…」

 俺が迷っているうちに、先に玲は泣き出してしまった。その場にしゃがみ込み、かつてのかみなりジャマト祭りの時のように、蹲ってすすり泣く。俺は黙って向かいに座って、そっと抱きしめた。

「もう、誰が悪いとか…辞めよう。朋希も、城玖も生きてる。あいつらが、平和に生きれることを…願おう」

 すすり泣いていた玲は、俺の腕の中で、箍が外れたように、大声で泣き始めた。

「ちがあぁう……ちがうのぉ……奏斗にも生きてほしかったのぉ……私はどうなっても良かったから……ごめん……ごめんねぇ…!」

 俺は、しっかりと玲の涙を受け止めた。

 みんな……頼んだ…世界を……守ってくれ───────

 

             *

 

 ジャマトグランプリ最終戦。

 自分の母親が創世の女神だと知った英寿は、デザイアグランプリの運営と対立。最後まで勝ち残ったバッファがジャマ神となり、ついに理想の世界を叶えることに成功。ようこそ、バッファの世界へ。

『スター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズでおなじみの、浮世英寿さんが行方不明となって1週間。警察では、事件・事故の両面で調査を進めていますが、浮世さんは依然として見つかっていません』

 突然のスターの失踪に、世間は揺れていた。メディアは連日、浮世英寿が見つからないと同じ報道を繰り返し、町では絶えずその話題で溢れていた。そんな中で、ビルの屋上に佇んだ吾妻道長は、報道を淡々と一蹴した。

「見つかるわけはない。ギーツはもはや、存在しない」

 道長の身体に侵攻していたジャマト化は、跡形もなく綺麗に消え去っている。世界が作り替わった影響であるが、道長本人が、ジャマトの力はもう必要ないと判断したことが一番大きな要因だろう。そんな彼の隣に座り、足をプラプラさせていたべロバは、デザイアドライバーとIDコアを差し出した。

「運営が動き出したわよ。あいつらがあきらめるとでも思った?どうする?」

「答えるまでもない」

 道長はべロバの手からドライバー類を受け取る。

「全ての仮面ライダーをぶっ潰す力…ふふふっ、あなたも気付いてるんでしょう?結局あなたがやってることはぁ、あなたがずっと憎んでたライダーと同じだって」

「それがどうした?」

 べロバの煽りを無視した彼は、ドライバーを装着し、目的地へと向かった。

 

 

 一方、デザイアグランプリ運営。ツムリはいそいそとお盆にIDコアを並べるチラミに怒鳴っていた。

「なぜ今仮面ライダーを集めなきゃならないのですか!?プロデューサーも消えてしまって、ゲームを組み立てることも、理想の世界に作り変えることもできないんですよ!?」

 あれでもない、これでもないと選びきり、最後の一個を置いたチラミは、ツムリに開き直る。

「面白いからよぉ」

「はぁ!?」

「最強の力を手に入れたバッファに、プレイヤーたちがどう戦うのか!どう立ち向かうのか!ワクワクするじゃなぁ~い!」

 チラミが考えているのは、ショーを盛り上げることだけだ。ツムリがどう抗議しようとも、取り合うつもりがない。

「危険です!」

「いいのよ人の命なんてどうだって。ショーが盛り上がればね。バッファを倒して、ヴィジョンドライバーさえ取り返せば、デザグラを再開できる。そうでしょ?ほら、早く配ってきなさいよ」

 チラミの手元のお盆には、四十九個のIDコアが連なっている。鞍馬祢音が変身するナーゴのIDコアに、鞍馬家お抱えのSPの二人が変身するガルン・ランサーと、生き残っている中での選りすぐりの参加者たちが選ばれていた。そして空白となっている最後の一人は。

「彼にも声をかけなさい。そのほうがオーディエンスが喜ぶからね」

 チラミはとある人物への招待状として、マグナムバックルが収納されたピンク色のボックスも、ツムリに差し出す。だが、ツムリもジャマトグランプリで、仮面ライダー達が歩んできた悲しみの戦いを目にしてきたからこそ、チラミの提案をすっと了承できず言いよどむ。

「でも……」

「デザグラのためよ!ライダーをナビゲートする以外に、あんたに何の取り柄があるのよ…!」

 チラミは声を張り上げながら、ツムリの頬をつねった。

 

 

「世界が作り変えられて、人々の記憶も書き換えられた。祢音、君の記憶も……」

 超高級レストランの前で、キューンは寂し気に呟いた。今このレストランの中では、記憶を失った祢音が、母親の組んだ縁談をさせられている。世界改変の余波で、祢音の願いは消え去り、母親のお人形となってしまっている。キューンにとって、祢音が誰かと望まない結婚をしてしまうのは心苦しかったが、それでもいいと思う節もあった。自分が作り物の存在だなんて、そんな記憶は。

「いっそ、真実を忘れてしまった方が…幸せなのか」

 キューンは深く溜息をつくと、レストランを立ち去ろうとする。そこでふと、中庭が目に留まった。祢音を護衛するSPのベンとジョン。彼らが、デザイアグランプリのナビゲーター・ツムリからドライバーを受け取っている様を目撃してしまったのだ。

「なぜ今ドライバーを配っているんだ…?」

 SPの二人にアイテムを押し付けたツムリは、足早にレストランの入り口へと近づいてくる。キューンは、咄嗟に植込みの陰にしゃがんで隠れた。レストランへと入っていくツムリの後ろ姿には、あからさまな躊躇いの感情が見て取れる。そしてキューンは見逃さなかった。まだツムリはボックスを一つ持っている。

「まさか……祢音を仮面ライダーにするつもりか!」

 凄惨な記憶を、思い出させるわけにはいかない。キューンは直ぐにツムリの後を追い、祢音と対面するよりも早く、彼女の腕を掴んだ。

「待ってくれ!もう、祢音に辛い思いをさせないでくれ…!」

 キューンの必死の呼びかけに、ツムリは俯いた。

「でも、私にできることはこれしか……」

 なんとかツムリを説得しようとするキューン。しかし、彼が言葉を紡ぎ始めるよりも早く、祢音と縁談相手がいる奥のホールで破壊音がし、二人の意識はそちらに引っ張られた。二人が現場に向かうと、壁を突き破ったバッファが佇んでいた。ジャマ神となったバッファは、上下にゾンビの装甲を備え、角は黄金に輝くゴッズホーンへと巨大に進化。象徴的なマントも腰にだけではなく、背中を包み込むゴッズウォールが追加装備されている。かつてのフィーバーゾンビフォームと比較しても、神の名を冠するに相応しい、圧倒的な威圧感を放っていた。

「お嬢サマ!逃げてクダサイ!」

 バッファの前に立ちはだかったベンの言葉に、記憶を失った祢音は涙目で逃走する。キューンは反射的に、祢音の背中を追って走り始めた。対照的に、その場に縛り付けられたように動けないツムリは、鞍馬家SPの二人の変身を見届けた。

「「変身!」」

『HIT!BEAT!』『BEAT!』

『Ready?Fight!』

 ベンはフィーバースロットバックルでビートを引き当て、仮面ライダーランサー・ビートフォームに。ジョンはビートバックルを使用し、仮面ライダーガルン・ビートフォームに変身。ビートアックスを構え、一斉にバッファに斬りかかる。

「始めようか…仮面ライダー狩りを!」

 バッファはそう呟くと、ゾンビブレイカーを握り直す。ガルンがビートアックスを胸の装甲に叩きつけると、ランサーがその上から同じくビートアックスを叩きつけて、勢いを二倍にして斬り込む。二人の連携技に、大抵のジャマトは倒れてきた。しかし、バッファは傷一つ付かず、仰け反りすらしない。バッファは逆手持ちしたゾンビブレイカーを振り上げ、二人を一撃でぶっ飛ばした。壁に叩きつけらた二人だが、流石にタフで、もう一度バッファに向かってゆく。

 ツムリは一目で理解した。バッファの叶えた願い。その力の意味。

「全ての仮面ライダーをぶっ潰す…力」

 SP二人とバッファの死闘に、気を削がれていたツムリは、背後からべロバにボックスを横取りされてしまった。

「べロバ!」

「あんたの代わりにお仕事してあげる。ふふふっ、感謝なさい」

 べロバがナーゴのIDコアが入ったボックスを持ち逃げするのと同時に、ガルンとランサーが必殺技を発動する。

『TACTICAL THUNDER!』『TACTICAL FIRE!』

 ガルンが電撃を、ランサーが火炎を纏ったビートアックスを振るい、十字にクロスした斬撃を発射する。だが、バッファはそれを左腕で軽く弾き、カウンターの斬撃をお見舞いした。

『TACTICAL BREAK!』

 バッファのゾンビブレイカーから放たれた斬撃は、創世の力を帯びて虹色に光っていた。それを受けてしまった二人は、レストランの外に吹き飛ばされ、ダメージで変身解除する。

 バッファが倒れる二人の腰に巻かれたドライバーから、IDコアをもぎ取ると、思いっきり握りしめた。

「これでお前たちは二度と…ライダーにはなれない」

 開かれた手から、IDコアの破片がパラパラと落ちる。二人はその破片に手を伸ばすも、身体が水色のホログラムに包まれて、脱落させられてしまった。

「お嬢サマ……」

『RETIRE』

「全部忘れてしまえ」

 変身解除した道長は1言だけそう言い残し、仮面ライダーではないツムリには目もくれず、次の戦場へと向かった。

 一方、キューン。逃げた祢音は何処かに隠れてしまったようで、探すのに手こずっていた。

「楽しみにしてるわぁ……ナーゴの不幸を。アハハハっ!」

 反対側の通りにある庭園から、ベロバの笑い声が聞こえて、キューンは手遅れだったと悟ることとなる。彼が到着した頃にはすでにベロバはおらず、地面に座り込む祢音と、ドライバー一式が残されていた。

「祢音…!」

「キューン……私、思い出したよ。全部……」

 祢音はドライバーを拾い上げ、自らの足で立ち上がる。そして、猫らしくジト目でキューンを睨んだ。

「どうして私のことほっといたの?」

「いやっ、俺はただ……忘れたことが幸せになることもあると思って」

「そんなわけないし!ちゃんと思い出させてよ……」

 口を尖らせながら、キューンを詰める祢音。

「思い出してどうする……?この先……」

 しかし、キューンにはまだ迷いがあった。このままずっと、鞍馬あかりの偽物として生きていくことに、祢音が耐えられるかどうか。幸せであれるかどうか。

「まだわからない…けど、私は私でいたいから」

 祢音は少し言葉を詰まらせながらも、しっかりとキューンの目を見て答えた。その覚悟にキューンも背中を押され、一つの提案をする。

「そこまで言うなら。君にふさわしい居場所がある。俺たちが暮らす未来だ。デザインされた人間だけが暮らす世界なら、君も悩むことはないだろう」

「私が、未来に……」

 未来への移住。そのために、自分がこの世界でやり残したこと。少しずつ、祢音は考え始めた。

 

 

 一晩も絶たないうちに、チラミ選りすぐりのライダー軍団は全滅した。最後の一人、仮面ライダーグルービーにLOSEの文字が刻まれ、チラミは意気消沈する。

「ぜんめつぅ……?中には元デザ神もいたのに……」

「仮面ライダーじゃ太刀打ちできない。それがバッファの叶えた世界なんです。こんなやり方では、犠牲が増えるばかりです」

「犠牲が何ぃ〜っ!?」

 同じく気力を失ったツムリの言葉に、チラミは逆ギレし、さらにIDコアをポケットから取り出す。

「デザグラを取り戻すためには、手段は選べないのっ!あぁ〜っ……!誰かバッファに対抗できるやつはいないの!?とっておきの彼にもバックレられちゃったし〜!」

 机に散らばったIDコアには、チラミのお眼鏡に叶わなかった元参加者のものに加えて、タイクーンやダパーンなど、有力ながらも死亡済みの参加者のものばっかりだ。

「キツネちゃんはもうこの世界には存在しないし……」

 チラミは一度ギーツのIDコアを手に取るも、悲しげにそれを放り投げる。そして、代わりにツムリがそれを拾い上げた。

「浮世英寿様……」

「困ってるみたいだねぇ。運営さん」

 サロンの入り口から、良く通る男の声が聞こえて、二人は振り向いた。そこにいたのは。

「須井様……!」

「ぁあ〜!クルウスちゃん!どこで油売ってたのよぉ〜!」

 チラミがずっと"彼"と呼んでいたのは、元最年少デザ神の仮面ライダークルウスこと、広実須井だった。ジャマトグランプリの戦国ゲームにて、後輩たちに思いを託し、一線から退いたはずの須井。バッファ対抗のために、ツムリにマグナムバックルを手渡されてからも、ずっと戦闘を拒否していた。それが、今になって現れたのである。彼の姿を一目見たチラミは、腰を低くして須井の手を握る。

「来てくれたってことは、バッファを倒す気になったのよねっ、ね?」

「それは無理。だってバッファ強いんでしょ?他のみんなが全滅だ」

 チラミの手をあっさり跳ね除けて、須井もソファーに座り込む。

「でも……」

 須井はテーブルに転がっていた、ダパーンのIDコアを掴む。

「奏斗くんが死んじゃって、モーンも何処かに行っちゃったんだろ?ボランティア部の後輩から聞いたよ。学校に来てないって…」

 かつてモーンの口から語られた、新井紅美の顛末。モーンを作ったのはデザグラシナリオライターのソソグで、紅美を殺したのも彼だ。モーンに何かあったとわかった以上、ソソグが本腰を入れて動き始めたことに間違いはない。須井も覚悟を決めたのだ。奏斗の代わりに、ソソグを止めることを。

「見てばっかりじゃいられない。僕は戦うよ……世界を守る仮面ライダーとして!」

「じゃっ、じゃあ、今からバッファのところに〜…」

「だ、か、ら、」

 跪いて手を合わせるチラミに、須井は意地悪な顔をして目線を合わせると、がっちり肩を両手で掴む。

「手段は選べないよね?ゲームマスター?」

 須井の笑顔に隠しきれない圧に、チラミは気圧された。

 

 

 翌朝、デザイア神殿にて。チラミが取らされた行動は。

「ご協力のほど、お願い致します!」

 推しを失ったサポーターである、ジーンと台上の置物・ケケラに土下座をすることであった。コンパクトながらも綺麗な土下座をしたチラミは、地面におでこを擦り付ける。

「デザグラ存続のためにっ!バッファを倒して、ヴィジョンドライバーを取り戻していただければ、私が責任を持って、ちら〜っと!ギーツとタイクーンを復活させますので…!」

 情けないチラミの姿に、ツムリの横で須井は手を叩くジェスチャーをしながら、声を出さないように爆笑する。若干無理な提案かも…と思っていた須井だったが、あまりにもチラミが素直に土下座をしたので、面白くてしょうがないのだ。

「ケッ…俺たちサポーターを手駒に使う気か?」

「おねが〜い!猫の手でも…カエルの手でも借りたい状況なのよぉ…!」

 チラミの必死な姿に、ため息をつくケケラ。対照的に、ジーンはあっさりと承諾した。

「わかった。協力しよう」

「はぁ~っ!ありがとうございますっ!よっ!よっ!」

 ジーンのことを『アンタが一番!』と筆文字で書かれた扇子で仰ぐチラミ。ジーンのさっぱりとした様子に、ケケラは気を抜かれたようだ。

「変わったなぁジーン。昔のお前なら、推しのライダーが死んでも、感動したつってすぐ別のライダーに乗り換えてた口だろ?」

「まぁね。でも、英寿が俺を変えたんだ。ケケラだって、タイクーンがいないこの状況、笑えないだろ?」

「ああ。だが、力ずくってのは俺の症に合わねぇ。俺は俺のやり方でやらせてもらう」

 ケケラは含みを持たせた物言いをすると、どこかに自らを転送して去っていった。

 サポーターたちの純粋に推しを思う様を見た須井は、スンと笑う仕草を辞めた。内心、自分たちの命をエンタメとしか思っていないのだろうと、内心見下していた彼は自らを恥じ、真剣な面持ちで、振り向いたジーンと顔を合わせた。

「ごめん。君たちの事誤解してた。現代人でも未来人でも、大切な人を思う気持ちは、同じだよね」

 須井の差し出した手を、屈託なくジーンは握り返す。

「ああ。お互いの”推し”のために、一緒に戦おう」

「そろそろいいか?」

 和やかな空気になっていたデザイア神殿を、吾妻道長の声が張り詰めさせた。

「ゲームマスター。こっちから来てやったよ」

「バッファ…!?どうやってここに……あんたのアクセス権は切ったのに…!」

 狼狽するチラミに対して、不敵に笑った道長は、手元のヴィジョンドライバーを投げ返す。

「それがあったからな」

「あっ!はっ…あっ…ヤッター!ゲット〜!」

 チラミは地面に落ちたヴィジョンドライバーをいそいそと拾うと、拳を突き上げて浮かれる。道長の不可解な行動に、ジーンは眉をひそめる。

「なんで返した?」

「残ったライダーはお前らだけだ。さっさと変身しろ。この俺がぶっ潰してやる」

「なるほどね。仮面ライダーじゃない相手はぶっ潰せないって…?お人好しめ……」

 須井の言葉で、道長の真意を理解したチラミは、拾ったヴィジョンドライバーを装着する。

「舐められたものね……いいわ。ゲームマスターに楯突いたことを、たっぷり後悔させてあげる!」

 臨戦態勢となる三人。バッファの驚異的な強さを知っているツムリは、須井の前に立ちはだかって首を振る。だが須井の意志は固く、ふっと笑って一歩前に。ジーンとチラミの間に立った。

「ここで止めなきゃ。まだ僕たちは、この世界でやり残しがあるんだ」

「そうだね。俺たちには戦う理由がある。俺は英寿を…英寿の生き様を取り返す!」

『ZIIN SET』

『GLARE2 LOG IN.』

『SET』

「「「変身!」」」

 ジーンはレーザーレイズライザーの引き金を引き、チラミはヴィジョンドライバーにプロビデンスカードをスキャンする。そして須井は人差し指で二度頭を掻いた後に、マグナムバックルを操作した。

 三者三様の変身方法で、それぞれが仮面ライダーとなる。

『LASER ON.ZIIN LOADING』

『INSTALL.I HAVE FULL CONTROL OVER,GLARE2.』

『MAGNUM!』

 仮面ライダージーン、仮面ライダークルウス・マグナムフォーム、仮面ライダーグレア2が並び立つ。道長は彼らの変身を見届けると、2つのバックルを構える。

「勝つのは俺だ」

『SET FEVER!』

 右側にフィーバースロットバックル、左側にゾンビバックルを。肩を払い、片手で爪を作った道長は、バックルを操作して変身した。

「変身!」

『HIT!FEVER ZOMBIE!』

 仮面ライダーバッファ・フィーバーゾンビフォーム・ジャマ神へと変身を遂げると、仮面ライダーたちの睨み合いが始まる。

「ハッ!」

 火蓋を切って落としたのはジーンだった。ジーンの放つ銃撃をバッファは歩みを止めずに受け止めた。さらに、グレア2のパンチを軽く避け、ジーンをゾンビブレイカーで斬りつけると、一撃で彼を神殿の柱に叩き付けた。ジーンはなんとか重力操作の能力で神殿の縁に立ち持ちこたえる。

「予想通り…いやそれ以上だ…!」

『BULLET CHARGE』

 数撃でジャマ神バッファの能力を察したクルウスは、神殿から突き落とそうと彼の足元を銃撃して崩す。

「小細工を…!」

『ZOMBIE STRIKE!』

 バッファは落ちる直前でゾンビバックルを操作。毒手がジーンとグレア2を掴み、道連れにして引きずり落としていく。クルウスは一本目の毒手を避け、背面撃ちで破壊すると、ケケラの乗っていた台上を転がって降り、それを遮蔽物にして弾丸で毒手を破壊していく。

「……!危ない!」

 一人ならばいなしきれそうな様子だったが、生身のツムリが毒手に襲われかけているのを見てしまい、咄嗟に彼女を押し倒して身代わりに引きずり落とされた。

 落ちた先は現代の岩場で、既にジーンとグレア2が戦いを再開していた。

 グレア2がビットから放つレーザーを、喰らうどころか全て弾いてしまうバッファ。レーザーが起こす爆発も、全く意に介さない。そのままグレア2に近づいて、ゾンビブレイカーの重い一撃を叩き込んだ。そのまま連続で、向かってくるジーンとクルウスをひと払いで吹き飛ばす。彼らがどんな特殊能力を使おうと関係ない、なぜならば。

「強さの…次元が違う……!」

「そうさ。ここは俺の世界だ」

 全ての仮面ライダーからのダメージを無効。それが、ジャマ神バッファを神たらしめる所以。さらに、仮面ライダーに対しての攻撃力増加という、まさに"全ての仮面ライダーをぶっ潰す力"を体現した、仮面ライダーキラーとも言える存在なのだ。

 バッファがジーンを踏みつけて、ゾンビブレイカーを振り下ろす。ジーンは苦し紛れに重力操作を発動し拘束を抜けると、バッファの背中に立った。

「……っ!ゲームマスター、避けるよ!」

 クルウスも立ち上がり、グレア2を引っ張って射線から逃れる。ジーンはレーザーレイズライザーのレバーを引き、エネルギーをフルチャージした。

『FINISH MODE!LASER VICTORY!』

 ジーン必殺の光線が、バッファの背中に放たれる。

 しかしそれも、すべて弾かれ、辺りを焼け野原にしただけの徒労に終わった。

 バッファがクローに力を込め、創世の力を宿した斬撃を振り向きざまにくらわせる。ジーンはその攻撃で引き裂かれ、変身解除。地面に落ちた。

「くぅ〜っ…!こうなったら〜!」

 グレア2は応援にGMライダーを呼ぼうと、ブーストバックルを取り出す。しかし、ライダーを呼んでも時間稼ぎにもならないと悟っていたクルウスは、後ろからブーストバックルを横取りした。

「ちょっと!」

「悪い!借りるよ!」

『SET』

『DUAL ON!GET READY FOR!BOOST & MAGNUM!』

 クルウスはマグナムブーストフォームとなり、バッファ目がけて疾走する。そして走りながら地面を撃って岩を掘り出すと、ジャンプしながらの蹴りでバッファに命中させた。その攻撃で、バッファは初めて一、二歩ノックバックする。

「やっぱり…!無効化できるのは仮面ライダーの攻撃だけ?」

 クルウスが煽るように笑い、同じようにバッファの周りを走りながら蹴り出した岩で攻撃を繰り返す。

「ちまちまと……!」

「こっちだってデザ神なんでね!」

『RIFLE』

 加速させたスライディングで背後から急接近したクルウスは、滑りながら方向転換。くるっと回ってバッファの正面にしゃがみ込むと、彼のドライバーにライフルモードのマグナムシューターを押し付けた。

「お前のコアを砕く…っ!」

『MAGNUM!』

 マグナムシューターにバックルを装填し、一瞬でチャージを終えるクルウス。バッファも至って冷静にゾンビブレイカーのポンプを引いた。

『POISON CHARGE!』

「だあっ!」

『MAGNUM!TACTICAL BLAST!』

 バッファの攻撃発動よりも早く、クルウスが撃ち抜く。衝撃で、辺りは爆炎で包まれた。

 しかし、仮面ライダーの攻撃は攻撃。装備品もバッファそのものとしてカウントされる。爆炎の中、チリ一つつかないバッファが立っていた。

「くそっ…読み負けだ」

『TACTICAL BREAK!』

 クルウスの肩に、ゾンビブレイカーが振り落とされる。避ける暇もなく繰り出された攻撃をもろに受け、クルウスは火花を弾けさせ、変身解除して倒れた。

 うつ伏せに倒れたので、バッファは彼のIDコア破壊よりも、最後の一人の排除を優先する。

「後はお前だ。ゲームマスター」

「わっ、わかった!あなたの願いは何?どんな世界だってかなえてあげるから!仲良くなりましょっ、ねっ!?」

「もう叶えたい世界なんてない…!」

 バッファのあまりの強さに恐れをなし、早口で交渉したグレア2。文字通りあっさりと一蹴され、尻もちをつく。不動のバッファの様子に、グレア2はさらに早口になり、地面を飛び跳ねるウェーブダンスで攻撃を避け始める。

「あっ、あるでしょ!?焼肉食べ放題とか!毎日が日曜日とか!」

「あるとすれば…!お前たちデザイアグランプリが存在しない世界だ!」

 グレア2独特の避け方を振り下ろす斬撃で完封したバッファは、それを皮切りに連続攻撃を浴びせる。

「お前ら運営がいたから…!理想の世界を叶えたいなんて考える奴らが…!増えだしたんだ!他人を蹴落とし…自分さえ良ければいいって言う奴らがな!」

 バッファが思い出していたのは、かつての友人の最期。仮面ライダーとして戦わされ、仲間に裏切られて命を落とした。その時からずっと同じだった。世界平和でも、真実の愛でも、願いは願い。誰かを犠牲にすると決めた時点で、本質は同じ。自分さえよければいい。結局は誰も、自分のことしか考えていない。彼にとっては全てが敵だった。

 それまでの怒りを全て込めて、グレア2の首根っこを掴み地面にぶつける。

「何……言っちゃってんの……!」

 グレア2は声を低くすると、するりと手を抜けて、背中に掴みかかる。

「あんたら古い時代の人間が浅ましいだけじゃない!?あんただって、デザグラでその力を手にしたくせに…!」

「ああそうだ。だからもう、俺たちの世界に…デザグラはいらない!」

 バッファは無理やりグレア2の手を引き剥がし、投げ飛ばす。

 地面から少し顔を上げた須井は、複雑な感情でその光景を眺めていた。

「彼の言うことは正しい……けど、これでいいのか……?」

 須井もかつて、多くの不幸を糧に、願いを叶えた一人だ。そのことを何年も、何年も悔やんで。諦めたつもりになっても、まだこうして戦場にいる。バッファに共感したい気持ちと、大切なものを取り返したい気持ち。どっちも須井の本心だった。だから、グレア2とバッファの戦いに、これ以上口出しできなかった。 

「この世界はもう!お前らの思い通りにはならない…!全て終わらせる!」

「おだまり!オーディエンスの見せ物の、ウシの分際でっ!」

『DELETE.』

 グレア2が跳び上がり、空中で五つのビットの間に赤色の膜が出現する。両足蹴りの姿勢で膜を足に纏うと、バッファ目がけて落下する。バッファもそれに対抗して、ゾンビブレイカーを振るった。

 二人の攻撃が衝突し、今まで以上に大きな爆発が起こる。

 ジーンと須井は、固唾をのんで爆炎が消えるのを待った。が、やはり結果は明白で、立っていたのはバッファだけだった。グレア2は地面から立ち上がれないほどの大ダメージを受けている。

「これでトドメだ……!」

 バッファが武器を上げたその時だった。

 辺りに、赤い光が満ちた。

──────────────────────────

 破壊されたデザイア神殿。そこに一人残ったツムリは、ジャマ神と仮面ライダーとの戦いを、見ていることしかできなかった。手には、死んでしまったギーツのIDコアが強く握られている。

「デザグラは、もう……私はどうすれば……」

 ツムリが嘆く間にも、ジーン、クルウスと、次々ライダーが倒れてゆく。そして最後は、グレア2だ。未来のライダーの力でも、デザ神の力でも、運営の力でも、バッファには届かない。

 自らの存在に意義に揺れていたツムリは、ギーツのIDコアに語りかける。

「あなたなら、わかるのでしょうか……?デザグラを、ずっとずっと続けてきたあなたなら、教えてくれるのでしょうか……?」

 ツムリはギーツのIDコアを握り直すと、深く目を瞑って、"祈った"。

「英寿……!」

 デザグラ神殿を照らすほどの、赤く眩い光が、現代から放たれる。ツムリが目を開くと、彼女の手元からIDコアが消えていた。

──────────────────────────

 響く鐘の音は、祝福か産声か。

 赤い光の中で形取られる姿に、見覚えのないものはいなかった。

「一体、なにが…!?」

 グレア2は目を擦り。

「なんで…お前が……!」

 バッファは声を震わせ。

「どうやって生き返ったんだ……ありえない…!」

 須井は思わず立ち上がり。

「英寿…!」

 ジーンは興奮よりも、驚きが強い様子だった。

 光の中から目を覚ましたのは、死んだはずの浮世英寿だった。

 英寿自身も、状況を理解しきれないようで、両手を見ていたが、納得したように、彼らしく不敵に笑った。

「キツネだからな。化けて出てきたみたいだ」

『SET』

「変身」 

『DUAL ON!GET READY FOR!BOOST & MAGNUM!』

 英寿は仮面ライダーギーツ・マグナムブーストフォームに変身。マグナムシューターを装備する。

「フン……無駄だ。お前はもう、俺には勝てない」

「俺の相手はお前じゃない」

 ギーツはバッファに背を向けると、銃口をグレア2へと向けた。

「ええーっ!?」

 ギーツの怒りは、まだ収まらない。

 

             * 

 

「ギーツの復活は、世界の奇跡かあるいは絶望か……デザイアロワイヤルの開幕だ!」

 創世の間で、スエルは腕を組み直した。

「創世の女神は、破壊と再生を繰り返す。ようやくこのゲームも、終わりを迎えそうだ。第二の神となるのは…ギーツではなくツムリだ…ソソグ……!」

 

          DRルール

 

      IDコアを破壊されたライダーは、

 

    二度と仮面ライダーには変身できない。

 

           ただし、

 

        何事にも例外はある。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「次なるゲームに招待しよう!」

─次なるゲームは──

「そのゲームの名は…!」

─デザイアロワイヤル!─

「俺が奏斗を取り返す…!」

「これ以上景和を苦しめないで!」

「俺はデザグラを許さない!」

38話 空白Ⅱ:ギーツの行く末
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