仮面ライダーギーツ外伝 一歩IF:片脚の男   作:みなかみ

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3話 邂逅Ⅴ?:逆転の手段

 

 デザイアグランプリ、第三回戦、神経衰弱ゲーム。

 指令は、二人一組になって怪物ジャマトを倒せ。スコア最下位デュオは脱落。いち早くジャマトの特性に勘づいた俺と英寿は、最速クリアでポイント獲得。首位を独走する中、残りのジャマトを巡って、熾烈な足の引っ張り合いが起きようとしていた。その渦中にいる桜井景和はと言うと…

「道長さんと意見を合わせるなんて、できるのかなぁ…?」

 このザマである。バックヤードにて休憩していた桜井景和は、記録用の映像を撮り終えると、肩を落としてため息をつく。この相方と息を合わせるゲーム、英寿が桜井景和を引かなかった時点で、桜井景和にとっては難しいゲームになることは必然だった。話の通じないカボチャ、すぐ怒るバッファロー、軽薄な羊、そして───────いや、この話はいい。

 今重要なのは、桜井景和がロッカールームの扉に寄りかかってるせいで、俺が外に出られないという問題だ。サロンでカレーを注文した後、スパイダーフォンをロッカールームに置き忘れたと思い出し、取りに戻ってみれば、桜井景和が扉の前で動画撮影を始め、今に至る。おい、頼むから早く去ってくれ。今頃カレーが俺の席に到着している頃だ。冷めたカレーほど口にするに値しないものはない。

 

 不意に、電撃を受けたかのような感覚に襲われた。

 

(奏斗君、カレー好きだったよね?半田君がいい店知ってるんだって〜)

 

 何だ─────今の女の声?聞き覚えがない。部活のマネージャーか?違う、うちの部活のマネージャーはひょろい一年の男子だけだった。女性のマネージャーも在籍していないはずだ。何でだ?この声の正体は誰だ────

「奏斗君!奏斗君!大丈夫!?」

 気付くと、俺は桜井景和に肩を揺さぶられていた。謎の声の衝撃に、いつの間にか壁にもたれて座り込んでいたらしい。呼吸が荒れる。何故だろうか、ひどく頭が痛い。こんな姿、桜井景和に見られたくなかった。俺は無言で桜井景和を振り払うと、ロッカールームを出た。

 

 壊れかけた歯車が、再び駆動を始めた瞬間だった。

 

               *

 

 サロンに戻ると、既にカレーが到着していた。スプーンで均等にライスとルーをすくい、口に運ぶ。するとどうだろう。走り抜けるかのような辛味、だが、後味は悪くない。寧ろそこにフルーティーさすら感じる。この味を出せるのは、只者ではない。

「まさか、これ────あんたが?」

 カウンターの先のギロリに視線をやると、ギロリは母のような笑顔を顔に浮かべていた。

「はい、喜んでいただいて幸いです」

 このカレー、無限に食べられるかもしれない…。現役時代に出会っていたら、俺はカレー中毒になって栄養管理どころじゃなかった。

「只者ではないとは思っていたが…ここまでとはな」

 隣の席の英寿がぽつりと呟く。お前も食べたのか、この至極の味を────なんだスマホかよ。英寿の手元にあったのは、スプーンではなくスパイダーフォンだった。気になって横目で画面を確認すると、英寿が閲覧していたのは、過去のニュース記事だったようだ。

「スター様もニュースは見るんだな────これは…」

「違法カジノディーラー、黄金屋森魚、売り上げを持ち逃げして海外に高飛び────」

 記事の一面を飾っていたのは、今まで共にジャマトと戦っていた仮面ライダーメリー・黄金屋森魚だった。いつぞやの軽口を叩き、ヘラヘラと笑顔を振りまいていた平常時とは打って変わり、タキシードを見に包んだそれは、目付きは鋭くなり、写真の角度も相まってthe・悪い顔だった。

「えっ、待って、待って!それホント!?」

 バックヤードから帰ってきた桜井景和も食いついてくる。黄金屋森魚…胡散臭いとは常々思ってたけど、詐欺師だったとは。デザイアグランプリの参加者のプライベートは基本謎に包まれている。参加者同士は願いを叶えるために蹴落とし合うライバルであり、そもそも馴れ合う必要がないからだ。そんな人間関係でも巡り合わせというものがある。道端で桜井景和と偶然会ったり、動画投稿を繰り返す鞍馬祢音なんてやつもいる。

 が…黄金屋森魚は日本ではなく海外から参加していたという事か。服装もなんかアロハっぽかったし、アメリカにでも行ったのだろう。売り上げを持ち逃げとなると、追われるのは警察だけじゃないはずだ。違法カジノを運営していた悪の集団からも目を付けられているかもしれない。となると、黄金屋森魚の願いは、罪の帳消しと見て間違い無いな。

 桜井景和が記事の内容に絶句していると、カウンターのレトロな電話機が鳴った。ギロリが受話器を取り、電話先に低い声を返す。

「はい…かしこまりました…皆さん、呼び出しです」

 え?もう呼び出しなのか。というか、カレーはどうなる。まだ一口しか食べてないじゃないか。

 俺の心配を他所に、ギロリはラップをカレーにかけていた。

 

 

 デザイア神殿。要件はあらかた想像が付いている。

「皆さんにデュオ交代のお知らせです」

「交代!?」

 黄金屋森魚…やっぱりデュオを交代してきたか。明らかにパンクジャックとの連携に苦戦していたからな。

「くじ、引かせてもらったよ〜!」

 黄金屋森魚が持っていたのはバッファのカードだった。既にポイントを持っている俺たちの何方かではなく、吾妻道長がデュオになったか。デュオが変わらなかっただけ万々歳だが、さぁここからが大変だぞ、桜井景和。

「これにより、メリーさん、バッファさんのデュオが決定しました」

「えっ、じゃあ俺のデュオは?」

「パンクジャックになります!」

 パンクジャックは黄金屋森魚の傍らを離れ、どんと桜井景和の前に立つ。メタリックオレンジの顔がじわじわと桜井景和と距離を詰める。パンクジャックからは感情が読めない。ただ、デュオの相方という役割だけを果たす、ゲームのNPC のような存在。今のパンクジャックは、積極的にデュオにおけるお邪魔キャラを演じているようだった。

「どうも…」

 パンクジャックの圧に負けた桜井景和は、おずおずと挨拶をする。

「だから言ったでしょ〜」

 黄金屋森魚は、吾妻道長の肩に手を置き、トランプを手の内で弄んだ後、これ見よがしにバッファのマークを撫でた。ツムリとも負けず劣らずのトランプ捌き、流石カジノディーラーと言った所だが、なるほど。俺はくじを引かなかったからわからなかったが、カードの表面のライダーを表すマークは、少しプリントの厚みで盛り上がっている。黄金屋森魚はくじを引く際に、瞬時にカードの表面を読み取ってバッファを狙ったのだ。きっと裏で吾妻道長と話を通していたのだろう。俺たちのデュオとは交換しないで一位は狙わず、一人を蹴落として次のラウンド進出を狙う。見た目に相反し、狡猾な男だ。

 だが、桜井景和もイカサマに気づかないほど馬鹿じゃない。

「あっ、なんかズルしたんですか?前に違法カジノで、悪いことしてたんですよね?」

「昔の話だって。罪償って、心入れ替えたから」

 怪しい。

「逮捕されたって記事は見当たらないけどな」

「願いを叶えないと、お前の人生危ういってか?」

 英寿と俺の言葉に、流石にニコニコした笑顔を崩し、論点をすり替え始めた。

「あーほら!ほら!トレーニング、しといたほうがいいんじゃない!?そのハロウィンちゃんと息を合わせるの、大変だよ〜!」

 パンクジャックは、無機質な視線を桜井景和に向ける。

 

 

 砂浜を模したトレーニングエリア。

 もちろん、訓練するのは俺たちではなく、桜井景和とパンクジャックである。相対するは、仮想ジャマト。

「今回でお人好しも脱落だな」

「景和…マズイな」

「そんなこと言わないでよ!諦めずに頑張れば、きっと勝てるって!ねぇ、パンクジャック!」

 不動…。お人好しのポジティブも、人形には伝わらない。

「えっ…ちょっと頷いた気がするんだけど!」

「微動だにしてないだろ」

 波打つ音と、カモメの鳴き声だけが虚しく響く。運があるんだか、無いんだか。

「これ、返してやるか」

 そう言って英寿が取り出したのはブーストバックルだった。桜井景和のお人好しでゲットした副産物だ。

「は?渡しちゃうのかよ」

「元々タイクーンのだし、これがなかったせいで脱落した〜なんて言われても困るからな」

「ありがとう!これがあれば、絶対勝てる!」

 ブーストバックルを譲り受けた桜井景和は、おもちゃをプレゼントされた子供のような笑顔を見せる。そういえば、コイツはまだブーストバックルを自分で使ったことが無いとか言ってたな。今回のゲームでは、始めてブーストを使ったタイクーンがお目にかかれるという訳か。

「いい?同じ柄のジャマトを、同時に倒すのが攻略法。一緒に練習しよう!」

 相変わらずパンクジャックは不動だが、このお人好しとは案外いいコンビになるかもしれない。桜井景和はアローバックルをドライバーに装填し、長ったらしい変身ポーズを取り始める。

『SET』

 桜井景和が両腕を交差させている合間に、パンクジャックは仮想ジャマト目掛けて走り始めてしまった。

「あ、変身…」

『ARMED ARROW!』

「普通変身するまで待つでしょ…もうっ!」

 黄緑の弓を構えたタイクーンを待たずに、パンクジャックは二体の仮想ジャマトを千切っては投げ、千切っては投げ。コンビネーションもへったくれもない攻撃に、タイクーンはあわあわと戸惑う。

「ちょっ、話聞いてる!どいて!前にいると撃てないでしょ!」

 前言撤回。パンクジャックを手懐けるのは不可能だと確信した。

 

 

 サロン中に、聞き苦しい声が発せられる。

「あぁぁぁぁ…もうおしまいだ…」

「本当に失くしたのか、ブーストバックル」

「あれが頼みの綱だったのに…」

 桜井景和は泣き喚く。コイツにブーストバックルを渡すべきではなかった。パンクジャックとの地獄のトレーニングをやり切り、数分経ってみればこれだ。迂闊なやつ────とも思うが、心当たりはある。

「でもまぁ…よくここまで頑張ったよ、青年」

 この男だ。折角デュオ交代券を使ったのに、ブーストで逆転されては元も子もない。十分にありうる動機だ。ついになりふり構わなくなってきたな。

「なんか笑ってません?」

「はぁ!?同情してるんだよ!───────でも、失くしたもんはしょうが無いよなっ」

 あくまで嘘を貫き通すつもりか。俺も一言───と思った所だが、サロンに吾妻道長が戻ってきた。そして、ベストのポケットから、赤く光を反射するバックルを取り出した。

「お前が探してるのはこれか?」

「なんで君が持ってるんだよ!?」

 ブーストバックルは吾妻道長の手に渡っていたのか。吾妻道長もあっさり黄金屋森魚の策に乗るものだな。もっと不正を嫌う性格だと思っていた。ゾンビサバイバルの時、ジャマト判定になっていた俺を倒したギーツを「血迷ったか?」と責める程だったからな。ポイントが足りなくて、手段を選んでいられなくなったか。

「ずさんな管理で、盗まれるのが悪い」

「おいおい、何言ってくれちゃって─────」

 不正でデュオになった割に、二人のコンビネーションもあまり良くないようだった。桜井景和を養護するような発言に、うっかり口を滑らせる黄金屋森魚。桜井景和の疑心は、いよいよマックスに達していた。

「まさか…あなたが?」

「素直に認めたほうが、今後のためなんじゃない?」

「俺じゃないって〜!」

 見かねた英寿も、呆れたというような視線を注ぐ。

「だったら返してもらいます」

「ダメだね」

「やっぱり盗んだんでしょ!」

「その辺にしとけよ。信用失ったら、次のゲームがきついんじゃないか?」

 もう言い逃れられないと思ったのか、黄金屋森魚は開き直り、立ち上がって逆上し始めた。これが黄金屋森魚の本性か…自分の保身と安泰しか脳にない。群れを作る臆病な羊のように、味方を作って足元をすくわれないように立ち回る。しかし、それも終わりが近づいていた。

「君たちデュオには、負けてらんないからね!」

 桜井景和は黄金屋森魚への交渉は不可能と諦めたのだろう、今度は吾妻道長に詰め寄る。

「俺のバックル、返してください」

「ふん、いいだろう。ただしゲームに勝ったらな」

 そこで吾妻道長が提案したゲームは…

 

 

 浜辺のトレーニングルール、再び。ゲームと言うものだから、てっきり仮想ジャマトがらみのゲームだと想像していたのだが、吾妻道長がとった行動は以外そのものだった。おもむろに砂を集め始めたと思いきや、砂でてきた小山のてっぺんに、ブーストバックルを突き刺したのである。これじゃまるで…

「どっちが先にこのバックルを掴み取るか、ビーチフラッグス改め、ビーチブーストだ!」

 ビーチブースト…だと…本気で言ってるのか?こんなもの、ゲームとして成立するのか?俺は英寿をちらりと見たが、英寿はただ吾妻道長を、おもしれー奴だなと言うようにニヤニヤしているだけだ。英寿は常識的な話をするときは役に立たない。祢音TVに偶然現れていたときだって、物珍しそうに鞍馬祢音の携帯に手を振っていた。この男に人としての当たり前を期待することが間違っている。

「なんでこんなことするんだよ!」

 桜井景和と五十メートルほど離れたブーストバックル、そこから反対側に五十メートル先の位置に置かれた黄金屋森魚は、不服そうに左腕を上げる。

「なんだよ、やっぱりタイクーンにビビってんのか!」

「そ、そんなわけねぇだろ!」

 距離が離れている上、波音がうるさく、自然と言葉の語尾が荒がる。黄金屋森魚を黙らせた吾妻道長は、自分に言い聞かせるようにブツブツと呟く。

「誰かを蹴落とさなきゃ、理想の世界は掴めない。それがデザイアグランプリだ───────スリー!」

 カウントダウンが始まった。自分が参加している訳ではないのに、緊張が高まってきた。腕っぷしは黄金屋森魚の方が強いだろうが、どっちが先にバックルを取るかとなると、桜井景和に軍配が上がるだろう。年齢的な意味で。

「ツー!」

「勝つ執念が無いやつに、理想の世界はやって来ない。まぁどっちが脱落しても、俺にとっては大差無いけどな」

 英寿の歯に衣着せぬ物言いに、少しだけ桜井景和の表情が変わった気がした。ほんのちょっと、迷いが消えたような。

「ワン!───────ゴー!」

 掛け声と同時に、二人は砂を蹴った。

「うおおおおおおお!」「わぁぁあああああ!」

 どっちだ、意外と黄金屋森魚も足速いぞ。二人のスピードはほぼ互角だ。ある程度走った後、一斉に二人はブーストバックル目掛けて飛び込む。ビーチブーストを制したのは─────桜井景和だ。一瞬だけ、桜井景和の方が飛び込みが早かった。一足先に、桜井景和がブーストバックルを掴む。ブーストバックルは桜井景和のものだ。

「このっ…」

 たが、黄金屋森魚は往生際が悪い人間だった。桜井景和のブーストバックルを鷲掴みにし、ブンブンと振り回す。そして流れるような投げ技で砂浜に叩き落とすと、肩を踏みつけて無理矢理ブーストバックルを強奪した。ここまで性根が腐っているとは…吾妻道長もよく味方をするものだ。

「やった!やったぞ〜!ハッハッハッ!」

「これでこれは俺達のものだ」

 黄金屋森魚からブーストバックルを受け取った吾妻道長は、桜井景和を見下ろして、そう言うのだった。

 これが人間というものだ。結局は自分本位。他人のためなんて、考えない。俺は馬鹿だった。どうしてこんなにも絆されていたのだろう。愚かだ、やっぱり人類は、滅亡するべきだ。

(そんな世界…終わってしまえばいい)

 いつ聞いただろう、誰かの声がまた聞こえる。

 

               *

 

 

『DUAL ON!ARMED CLAW!ARMED HUMMER!』

『MAGNUM!』

 残りのジャマトが姿を表した。俺とギーツが発見したのは二組の計四体のトランプジャマト。場所は遊園地に面した水族館。目玉のイルカショーが派手に取り仕切られる真っ最中に、トランプジャマトはカフェテリアで休憩しているカップルを襲っていた。

 ギーツがマグナムシューターの牽制で一般人への攻撃を逸らす。

「ここから先は通させない」

「残りの二体は…あっちか」

 海岸を挟んだ向こう岸に、二体のトランプジャマトを取り合う四人の仮面ライダーが見える。せいぜい頑張るといい、俺たちはこいつらを倒して、トップを維持したまま次へ進んでやる。

 黄金屋森魚の悪行を受け、俺の心はまたゆらぎ始める。

 どうせ、人類は滅亡すんだ、あいつらの誰かが脱落したって、結局は関係無い。何があろうと────俺がその世界を叶えてやる。決めたんだ……全てに裏切られたあの日から。

 

(墨田奏斗ってあのバスケ部のエースでしょ?辞めたの?)

(私らには関係無いっしょ、それより祢音TVがさ─────)

 

 あの日の怒りを忘れるな。必ず見返してやる。あいつも、あいつも、誰だって、もう見下ささせない!

 右手のクローを一気に振り落とし、トランプジャマトの装甲を斬る。クローバーのA、以前と柄が変わってやがる。向かってくるジャマトをすくうようなハンマーの一撃で転ばせると、さらにハンマーを叩き落とす。今度はスペードのAか…。

「おい英寿!そっちは!」

「スペードとクローバーだ」

 ペアは揃っている。このまま押し切れば─────と、トランプジャマトと一進一退の攻防を展開していると、目の前を物凄い勢いで煙をまき散らしながらブーストバックルが通過していった。ブーストバックルは必殺技を一度しか使えない。誰かがジャマトを倒したのか?クローの腹を押し当ててトランプジャマトを柵に抑え込み、スパイダーフォンを確認する。

 ポイントが上がっていたのは、バッファ・タイクーンデュオだった。いつの間にかデュオが交代している。誰かが交代券を使ったのか。黄金屋森魚はともかく、桜井景和も交代券を使うとは思えない。吾妻道長…ビーチブーストの時点で見切りをつけていたか。

「手強い相手が、残っちまったみたいだな!」

「負けてられるか!」

 柵に押し付けたジャマトを薙ぎ払い、四体のトランプジャマトを一直線に追いやる。このまま同時に二人で攻撃できれば!

「あっ、それちょっと貸して」

「は?おいっ!」

 ギーツは勝手に俺のベルトからハンマーバックルを拝借する。そして自身のベルトに装填、リボルブオンして上下の装備を入れ替えた。ハンマーバックルが外れたからか、右手にしか装備していなかったクローは、気づかぬうちに左手にも生じていた。二刀流の武器だったのか、これ。

『SET』『REVOLVE ON』

『DUAL ON!MAGNUM!ARMED HUMMER!』

 なるほど、ギーツの意図はわかった。コンビネーション技だな。

「ここからが、ハイライトだ」

『MAGNUM!HUMMER!VICTORY!』

 俺は右脚で地面を踏み込み、ギーツの頭上に飛び込む。そこからさらに右脚を踏み込む。今度はギーツが装備したハンマーを。ハンマーの振り上げの効果もあって、トランポリンの要領で俺のジャンプは更に高くなった。足が悪い奴にこんなことやらせるかね、普通。─────でも面白い。この感覚、ダンクシュートを夢見た、練習の時の様な。

『CLAW!STRIKE!』『RIFLE』

 俺は両手を目一杯掲げ、一気に振り下ろした。二体のトランプジャマトの脳天へ。俺が攻撃を当てる刹那、横を図太いエネルギー弾が通っていった。音楽が流れていなくても、リズムは一つ。

 無論、攻撃は同時に命中。ジャマトは一匹残らず撃破された。

『MISSION CLEAR』

 また、理想の世界に近づいた。

 

 

「ミッションコンプリートです!」

 ツムリはハキハキと喋る。淡々と業務をこなすその姿は、パンクジャックとは違う無機質さを感じた。

「皆さんお疲れ様でした。連れ去られたカップルは無事、開放されました!」

「はあっ…よかったぁ…」

 正直カップルなんて開放されなくても良かったが。まぁこれもゲームの内だ。桜井景和は安堵の声をもらすが、明らかに不服そうな奴が一人いる。因果応報という言葉が相応しい。

「それではスコアを発表します!」

『PLAYERS RANKING』

 前は空中にスコアが浮かんでいたのに、今回はツムリ手持ちのタブレットにスコアが映っていた。予算不足なのか。

「一位、ギーツ・ダパーンデュオ!二位、タイクーン・バッファデュオ!最下位、メリー・パンクジャックデュオ!というわけで、メリーさんはここで脱落です」

 当然の結果だ。黄金屋森魚の敗因は、一口にくじ運だけとは言えないだろう。バックルを盗む不正、負けを認めない悪どさ。責任感ゼロな言動を含めて、バッファに見放された。最初から英寿に引いてもらっていたら結末は変わってたかもしれないと考えると、ある意味くじ運が勝敗を分けたと言えるのも、複雑なところだ。俺は、今回くじ運があったから生き残れたわけだし。

「こんなはずじゃ…」

「どんな手を使ってでも、勝たなければ無意味だ」

 吾妻道長の台詞に怒りが頂点に達したのか、黄金屋森魚は以前のお調子者おじさんのキャラを忘れ、いつにない剣幕で捲し立てる。

「お前ら覚えとけよ!次会ったら、容赦しねぇからなあっ!」

「最悪…」

 思わず本音が出てしまった。

「安心しろ、コイツに次なんて無い」

『RETIRE』

 すると、鞍馬祢音の最期と同じように、メリーのIDコアが消える。そして、何か物言いたげな顔をしながら、黄金屋森魚も消滅した。手持ちのバックルも同時に消え失せ、彼のドライバーだけが地面を転がる。その様を見届けたパンクジャックは無言のまま立ち去った。

「黄金屋森魚様は、仮面ライダー失格となりました」

 残ったドライバーを拾ったツムリは、珍しく憂いを含む口調だった。このまま解散かと思ったが、桜井景和が我慢出来ないというように声を上げる。

「あの!失格って、どこに行ったんですか?」

 ツムリは微笑み返す。

「普通の生活にお戻りになりました」

 そうだったのか─────ということは鞍馬祢音も今頃。

 

 

 ゲームの後は、あっさりと元いた場所に戻される。

 俺と桜井景和は同じ場所から転送されたので、帰っても顔を合わせなければならなかった。木の隅に止めていた自転車のキーを外し、カゴの中のシャンプーに気づく。そういえば母から使いを頼まれた最中の呼び出だった。まだ午後の四時だが、五時間経ってもドラッグストアから戻らない息子に、鬼の着信履歴ラッシュが待ち受けているだろう。早く帰らなくては。

「あっ、ちょっと待って、奏人君!」

 すんでの所で桜井景和に引き止められた。ダルい。

「今日のこと、ありがとう」

 無視してペダルを踏もうと思ったが、思わぬ言葉に、俺は足を止めた。ありがとう?なんか俺がしたか?

「サロンで言い合いになったとき、庇ってくれたんだよね、俺のこと────」

「記憶にない。イライラするから話しかけんな」

 俺はそれ以上は何も言わず、家路についた。感謝の言葉を人から言われたのは、いつぶりだろうか。

 

           DGPルール

 

         仮面ライダー失格者は、

 

     デザイアグランプリに関する記憶を消され、

 

         元の生活に戻される。

 

    ただし、強い願いほど、それ相応の代償がある。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

『最終戦。缶けりゲームを始めます』

─ラストミッションは─

「ライダーが全滅すればゲームオーバー」

─缶蹴りゲーム!!─

「これからも、景和を信じてあげて」

4話 邂逅Ⅵ?:信用と缶けり
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