仮面ライダーギーツ外伝 一歩IF:片脚の男   作:みなかみ

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40話 空白Ⅳ:かりそめの覚悟

 

 この世界の運命を変えるため、ライダー同士が戦うゲーム……デザイアロワイヤル。IDコア争奪戦を繰り広げる中で、皆を陥れようとしたスズメが、バッファローの手によって脱落。残るライダーは九人。そして、この俺、半田城玖には新たなミッションが課されて……

「永遠の別れってぇ……いつだってゾクゾクするじゃない?」

「おい…本当なんだよな!このミッションって…!」

 俺がカードから顔を上げた頃には、ベロバと名乗る女は居なくなっていた。日は完全に落ちて、探索終了のジングルが流れる。そして俺は、しばらくドライバーを外さないまま、そこにとどまっていた。

「沙羅さんを殺す……俺に、そんなことできるのか……?いや、奏斗を助けるためなら……」

 元々、その覚悟で戦いに来たはずだ。それに……もうわかっている。誰かを犠牲にしないと、自分の願いは……叶えられないって。

「城玖君?」

「うおおっ!?」

 背後に広実須井が来ていて、俺は咄嗟にカードを後ろ手に隠しながら振り向いた。彼の演説を思い出して、少し胸が痛む。

「ごめん。さっきは感情的になりすぎたよ。サロンに戻ろうか。祢音君から、話があるみたい。自分の願いについてだって」

 スーパーセレブで、スーパーインフルエンサーの鞍馬祢音の願い。それって、どんな大それたことなのだろう。 

 

 

 ナイトジャマトの剣撃をゾンビブレイカーで跳ね返し、クローで腹部を殴るバッファ。正面蹴りでビショップジャマトも押し返し、アルキメデルへ刃先を向けた。

「死に損ない共が……目障りだ」

「死に損ないはお前の方だろ!」

 バッファの挑発に乗り、古代魚ジャマトへ擬態を解いたアルキメデル。邪魔をするなら、正面から打ち砕くのみ。バッファは古代魚ジャマトの突進に合わせて、脇腹を斬りぬいた。それでも構わず古代魚ジャマトは大剣を振りぬいて、バッファの装甲に引っ掛けると、岩壁に叩きつけた。ナッジスパロウとの戦闘時とは異なり、バッファはダメージを受けて火花を散らす。そこに、古代魚ジャマトの発生させた棘が襲い、岩壁に縫い付けられる。

「ガハハハハ!己の力を過信したか!お前が手に入れたのは仮面ライダーをぶっ潰す力だけ!つまり!ジャマトの!私には!通用!しないんだよぉっ!」

 古代魚ジャマトが叫びながら大剣を振り下ろす中で、バッファは足に装備されたクローで蹴り上げ、棘を破壊。ついでに古代魚ジャマトをぶっ飛ばした。ジャマトにジャマ神特典が適用されないとは言え、高い破壊力は健在である。古代魚ジャマトは地面を転げながら、地面に潜行した。

「ウラァァイ!」

 そして岩壁から巨大な古代魚として表れてバッファに突撃し、不意打ちでバッファを木々の生い茂る坂へと突き落とした。その際、バッファの所持していたIDコアがバラバラと地面に散らばった。アルキメデルへ再び擬態すると、高笑いしながら奪い取ったポーチに詰めていく。

「ジャマトの貴重な肥料!渡すもんかぁ~!」

「よっ、お前がアルキメデルか。ちょいと話があるぜ」

 彼の元を訪れたのは、紺のスーツを着用した、人間モデルのケケラであった。

「次から次へと…今度はなんじゃーっ!」

「元気だな…」

 アルキメデルの元気に叫ぶ様子に少し引きながらも、ケケラは胸ポケットから取り出した写真を投げる。アルキメデルの足元にポトリと落ちたそれは、デザロワに参戦している様子が納められた、桜井沙羅の写真だった。

「そいつを仕留めろ。そうすれば、今まで倒されたジャマトを全員復活させてやる。女神の力でな。桜井景和を本物の仮面ライダーにするためには、悲劇が必要なんだよ」

 ケケラが自分に交渉を持ち掛けてきた真意を理解したアルキメデルは、写真をひらひらさせた。

「まったく…おたくらオーディエンスが一番のワルだよ!」

 

             *

 

 サロンのカウンター席に座りながら、背中で祢音さんの話を聞いていた。祢音さんの向かいには、沙羅さんが座っていて、今はその顔を見ることができなかったからだ。奏斗たちを手っ取り早く生き返らせるためには、あの人を殺すしかない。でも、生きている姿を見ると、殺した後の事を考えて、吐き気がしてしまったからだ。ポンチッチの裏に隠れる景和さんも、同じ理由で目に入れられなった。

「そんな…信じられないよ。祢音ちゃんが存在しない人間だなんて」

 そして、祢音さんの話を聞き終えた沙羅さんは、かすれた声で呟いた。大それたどころか、天地がひっくり返るほどのスケールが大きな祢音さんの願い。自分は女神に作られた存在で、鞍馬あかりの身代わりだった。だから、自分のことをみんなが忘れた世界を叶えたい。須井の言葉に、簡単にうなずけないのも納得できた。彼女の願いは、本人の頑張りでどうこうできるものではない。

「ごめん、祢音TVを見てくれたみんなを、騙すつもりは無かったんだけど…だから、世界中が私を忘れた世界を叶えなきゃって…」

「だっだけど…!私、祢音ちゃんのこと、忘れたくないよ!」

 どもりながらも、声を荒げる沙羅さん。でも、祢音さんには取り付く島も無くて。

「存在しない人間なんて、最初からいない方が良いんだよ。沙羅さんなら、きっと新しい推しを見つけられるから」

 返す言葉が無くなって、沙羅さんは短く息を吐く。そして、そのままサロンを立ち去ってしまった。横目に見えた、帰っていく姿は、切なげで気持ちの整理がついていない。と言うようだった。俺は沙羅さんがいなくなって、ようやく祢音さんの方を見た。やはりいたたまれない気持ちになっているようで、呼吸も荒そうだ。デリカシーが無かったかもしれないが、そこで俺は思わず声をかけてしまった。

「忘れられる必要なんてあるのか…?インフルエンサーやってたのも、戦ったのもあんたじゃないか。そこに…嘘はなかっただろ」

「やっぱり……友達なんだね。奏斗も……同じことを言ってくれた」

「え……」

 俺と…奏斗が……同じことを?

「私が作られた存在ってことがわかって…オーディエンスに責められた時があったの。奏斗はね、命をかけて戦ったのはこいつだから、祢音も本物だって……」

 思わぬところで奏斗の話題を出されて、またずきりと心が痛む。俺がのほほんと生きているときにも……あいつは世界のために、誰かのために戦ってたんだな。足のケガを引きずりながら…ずっと……

「でも、私が元からいない人なのも本当だから。願いを叶えたら…私は未来に行く。キューンが……誘ってくれて……」

「それが祢音ちゃんの本当の望みなの?」

 ポンチッチの裏から、諭すような声色で景和さんが出てきた。祢音さんも気が緩んだのか、絞り出すように本音を語った。

「……わからない……」

「だったら行くなよ!帰るところがないならうちに来ればいいし…!姉ちゃんだってきっとそう言うし……赤の他人とか関係ないよ……!俺たち、一緒に戦ってきた仲間っていうか……!俺は勝手に友達だと思ってるから……」

 祢音さんからの答えはまだ出ず、その日は解散になった。

 

 

 痛い……痛い痛い痛い……!

 目から血が噴き出るような、内側から沸いてくる痛みに悶えながら、私は目を覚ました。

「なに……これ……っ!」

 両腕を縛られて、全く身動きが取れない。しかも私を縛るものは有刺鉄線で、皮膚に直接噛みついてじんわりと血が滴り落ちていた。無理やり抜こうにも自由が効かない上に、少し動くだけで引き裂かれるような痛みが襲う。歯を食いしばって声を出さないようにしながら、状況を把握しようと前を向くと、一番会いたくない奴がいた。

「あっ、あぁ……ソソグ…!」

 私と同じピンクの瞳に、デザグラの戦闘服を黒一色にして、ピンクのラインを追加したような服…忘れるわけがない。一度立ち向かうと決めたものの、実際に本人を目の前にすると、口先が震えて息も荒くなる。そんな私を軽蔑するように、ソソグは無表情だった。

「目覚めてしまったか。私の理念に反し、墨田奏斗に肩入れするとは…学習とは難しいな。いらない感情もめばえさせてしまう」

 ソソグに奏斗と名前を出されて、首筋を掻きむしりたくなるような、ぞわっとした感覚に襲われた。私が撃たれて、気を失ってから何時間…いや何日たっているの…?あの浮いた町は…奏斗はどうなったの…!私の顔から意図を汲み取ったのか、ソソグはニタニタ笑い始めた。

「彼ならもう始末した」

 言葉が出ない。私は無力だった。自分のせいだと思ってしまうのは簡単だけど、それ以上に…受け入れられないという気持ちの方が大きくて、思考が要領を得ない。どうしよう、どうしようと冷や汗を流して、考えを取りまとめようとする。

「あ、起きてる」

 そんな素っ頓狂な声を出して入室してきたのは、青山優さんだった。一瞬、彼女の気の抜けるような喋り方に安心感を覚えたが、すぐにその気持ちも拭い捨てられた。私に目線を落とす彼女の瞳がピンク色になっていたからだ。青山さん、ソソグの手駒に…?

「それよりも、だ」

 さらにもう一人、私の元にやって来たのは、同じくピンクの瞳の轟戒真。今はこの二人が、ソソグの手駒ってことになっているみたいだ。ということは、私を撃って攫ったのもこの二人…?ソソグはシナリオライターだ。よっぽどのことが無いと、表舞台には出てこない。面倒事を洗脳でもした二人にやらせているんだろう。

「グランドエンドが近いと聞いた。広実須井を連れてくる期限はそれまでか?」

「あぁ、早めに頼もうか」

「ちょ、ちょっと待って!今広実須井って言った……?」

 あの人が今戦ってるってどうして……奏斗に託して、彼はもう……!いや、違う……私が奏斗を守れなかったから、まだ戦える彼が駆り出されているんだ。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。彼にはもう、戦ってほしくなかったから……

「チラミが彼を参戦させたんだよ。実にいい仕事だ。広実須井は、君に必要な感情のピースを埋めてくれる…重要な存在だからね」

 彼の語り口からわかった。やはりソソグは私のことを、後継者として見ていない。須井君と私を、利用するつもりなんだ。自分の目的のために。

 私は奥歯を噛みしめて、ソソグを思いっきり睨みつけた。決めたじゃないか。もう怖がってなんていられないって……ひるんでたまるか……!

「私は、あなたのお人形にはならない!みんなが自分の思い通りになると思わないで!」

 私が啖呵を切ると、ソソグは逆に無表情になって頭を上から鷲掴みにしてきた。ギリギリと指が喰いついて来て、私に強制的に上を向かせた。

「今までは、すべて!そうなって来た!墨田奏斗という異分子が消えた以上、私に相手はいない…!」

 激しく私たちは睨み合っていた。

 

 

 日暮れ、閉館時間近くの納骨堂には人っ子一人いなかった。そもそも、お盆の季節にはまだ少し早いのだから、来る人も少ない。広実須井はいつも通り深くしゃがみ込んで、最下層の段に位置する扉を開いた。中には、新井紅美の遺骨が置かれている。いつもだったら、この世界から忘れられたように、何も供えられていなくて寂しいのに。今日は数個お供え物が放置されていた。日持ちするお茶菓子、缶ジュース。

「よかったね。紅美ちゃん」

 須井は理解していた。このお供え物たちは、ボランティア部の人たちが残してくれたものだろう。自分以外にも、新井紅美を覚えてくれている人がいる。そう思うと、須井は心の中でじんわりあたたかい気持ちになるのだった。

 手際よく蝋燭にマッチで火を灯して、お線香をあげた。おりんを鳴らすと、通路全体に静謐な音が伝わっていく。

「こういうの、外に作れるお墓だったら……もっといい雰囲気になるかな」

 迷った時、いつもここに来るようにしていた。新井紅美の遺骨と対面すると、自分の罪をまた思い出すことができる。そしてまた、間違わないように。

「ごめんね。学生の財力じゃ、ここに場所を揃えるので精いっぱいなんだ」

 この場所に納骨をしたのは、彼女の両親ではない。結局最後まで、紅美の事を子供として見ていなかった両親は、帰って来た遺骨を物置へと閉じ込めた。それを、須井がくすねたのである。今になっても、盗まれたことがバレていないのは、そういうことなんだろう。あの両親は、紅美をいなかったことにした。

「僕は今ね。大学で……カウンセラーになるための勉強をしてるんだよ。もう紅美ちゃんみたいな人、いてほしくないしさ……君の人生をデザグラで捻じ曲げたことの……贖罪って言ったら違うけど。とにかく、僕は頑張るよ…」

 それが、須井の考えた、デザグラに頼らない願いの叶え方だった。

「でもさぁ……やっぱり……」

 彼は思いの丈を口にしようとして口ごもった。この先を話してしまっては、自分が揺らいでしまう気がする。そう思い、次の言葉に迷っている内に、彼は背後に転送されていた青山優に気付くことができなかった。

「僕は……ぐあぁつ!?」

 須井は背後から電流を流され、気絶した。単純なスタンガン。それが青山優の選んだ武器であった。何もデザロワのミッション時間中に倒して攫う必要は無い。新井紅美の遺骨を前にして、油断している所が、絶好の機会だった。

 

             *

 

 もうすぐ始まる。デザロワの佳境、IDコア収集ミッションは今日が最終日だった。俺は正午を迎える前に、いつもの体育館に一人ポツンと立っていた。目を閉じれば、また聞こえてくる気がする。皆の笑い声とか、鼓舞し合う掛け声とか。でも、それは全て俺の妄想でしかない。取り戻さなきゃ、全部壊した責任として。

 正午を伝えるアナウンスが鳴って、目を開くと、俺はエリア内の森林に転送されていた。

「祢音ちゃんの幸せは、祢音ちゃんが決めることだから。私の幸せのために、祢音ちゃんを縛る権利なんて無いし…………でもこれだけは言わせて。たとえ祢音ちゃんのこと忘れても…私はぜっったい!思い出すから!一生祢音ちゃん推しだから~!」

 俺が遭遇したのは、沙羅さんと祢音さんが仲直りをしている所だった。ハグし合って、和やかムードという言葉がぴったりはまった。木陰には景和さんもいる。今は誰も変身していない。チャンス…だ。

「なぁ」

 俺が声をかけると、全員がこっちを向いた。立場上はデザグラ支持派。須井が中を取り持ってくれたおかげで、警戒されている様子も無い。俺はポケットの中のバックルをなぞりながら、一歩彼女たちに近づいた。

「あんたたち、須井の話、乗る気はあるか?」

 沙羅さんと祢音さんはハグを解くと、首を振った。この人たちは、いつか戦い合う覚悟があるってことだ。じゃあ、もう、いいか。

「なら……俺に殺されても文句ないよな…?なぁ!?」

『SET』

 俺はブラストバックルを装填して、沙羅さんに掴みかかった。

「ちょ、ちょっと!」

「やめて!」

「変身!」

 動揺する沙羅さんと、止めようとする祢音さん。しばらくすれば、景和さんも戦いに来るだろう。俺は祢音さんを肘で突き飛ばして、バックルのコックを引いた。沙羅さんも抵抗するように、クローバックルで変身してくる。

『BLAST!』『ARMED CLAW!』

『Ready?Fight!』

 向かい合いながら変身を止めると、俺はこれ以上邪魔が入らないように、ハクビの両腕を掴んだままガス噴射で飛び上がって、離れの荒れ地に着地した。景和さんと祢音さんの二人が止めに入る前に、沙羅さん殺す…!俺は押し出すような正面蹴りで、ハクビを思いっきりぶっ飛ばした。彼女には戦う意思は無く、正直にダメージを受けてしまう。なんだよ、やり辛い。

「なんで…城玖君っ、うあっ!」

 低空飛行で飛びつき、殴り抜ける。追撃で、地面に転がっている所を蹴りつけた。ハクビは俺の攻撃を受けながらも、喋るのを辞めない。

「…あの時、一緒に景和たちを助ける方法を探そうって、約束したのに…!」

「うるさい!もうこれしかないんだよ!」

 彼女の口を封じるように。クローで立ち上がったところをさらに殴った。

「俺の願いは一つなんだ……奏斗たちがいてくれれば、俺はそれでよかったのに!」

 声が上ずりながら、悲鳴のような声を上げて、何度もハクビの背中を踏みつけた。もう彼女の言葉で迷いたくない。そもそも今に始まったことじゃないはずだ。誰だって、大なり小なり、他人の人生を犠牲にして生きているはずだ。だから、俺だけいい人である必要なんてない。俺だって…幸せになりたいんだ…!

「あんたがいなくなれば…奏斗たちは帰ってくる…そのためだったら、なんだってしてやる…!それが俺の幸せだ!」

「……!」

 踏みつけていた足が、浮かんできた。彼女はレイズクローを杖に、少しずつ起きあがってきていた。あんなに痛めつけたはずなのに。柱にしていたクローを振り上げて俺の右足を斬り、彼女は踏みつけから逃れた。俺は唐突な彼女の反撃に怯み、バランスを崩して転んでしまう。逆に、フラフラのハクビが立ち上がった。

「私も…勝手に景和を蘇らせたよ。カエルの置物さんが……私が戦えば、景和が帰ってくるって、言われたから……」

 そうか……あんたも同じだったのか。知らない奴にそそのかされて、戦わされて……

「あの時…奏斗君もって、すぐ言えばよかったよね……ごめんね……私も、城玖君のこと、言える立場じゃない事、わかってる。だって…景和のことで頭一杯だったから。約束したのに……自分の幸せしか、考えてなかった………」

 声色から、彼女が仮面の下で泣いているのが分かった。そして、以外にも、彼女はクローを地面に落とし、両腕を広げた。

「だから…いいよ。それが、城玖君の見つけた、方法…なんだよね」

 なんだよそれ……今になって、迷うなよ…俺……!重い腰を上げて、小さい一歩で、じりじりとハクビへと近寄っていく。今なら、やれる。俺は、やれる、やれる、やれるやれるやれる!その覚悟で……ここに来たんだ…!

 拳を振り上げる。

「うわぁぁぁぁあ!」

 俺の放った拳は、ハクビの肩の真上で止まった。できない…直前で、須井の言葉を思い出してしまった。

『本人に望まれていないことは、無闇にしてはいけない。いろんな人の願いを犠牲にした果てに、生き返ったみんなは、喜ぶかな』

 その言葉の意味がやっと分かってきていた。俺のエゴで、奏斗たちに業を背負わせることがどういうことか、沙羅さんを殺す手前になって、理解できた。

「ごめん……やっぱり…無理だ、できない…!」

『TACTICAL SLASH!』

 横から飛んできた斬撃が、俺を襲って斬り裂いた。景和さんの変身するタイクーンが放った一撃だった。俺は不意の一撃をもろに受けて、大きく仰け反りながら後退した。

『TACTICAL SANDER!』

 畳みかけるように、今度は雷が降ってくる。ナーゴの発生させた技だろう。避けることもできたが、それをする気にはならなかった。沙羅さんをボコボコにして、自分だけ無傷だなんて、そんなの駄目だ。電撃で身体が焼けるように痛くて、そのまま地に膝を付く。ハクビを庇い立てするタイクーンとナーゴが、俺の前に立ちはだかった。

「そっちが戦うつもりなら、容赦しないよ…!」

「姉ちゃんに手を出したこと、許さない…!」

「景和!?」

 どうやら景和さんは、姉に自分が戦っていることをバラす決意をしたらしい。あれだけナッジスパロウに怒っていたんだ。俺にこれだけ怒気を見せるのも納得。そして、俺がここで脱落するのも。それなら、思いっきりあと腐れなくしてやる。

「どうした?来いよ…!」

「このっ…!」

 俺の挑発に乗ったタイクーンが、ニンジャデュアラーを振りかざしてくる。しかし、それはハクビの声に止められた。

「ダメ!景和!」

 俺の目の前で、切っ先が静止する。

「城玖君は、私たちと同じで、ちょっと焦っちゃっただけなんだよ。許してあげて」

「なんでだよ…なんで俺を庇うんだ!お人好しが過ぎるだろ!」

 頭に血が上って、俺は立ち上がってハクビに迫ろうとした。当然、タイクーンとナーゴの腕に阻まれる。ただ、言いつけを守ってか、手を出すことはしてこなかった。俺はそれを良いことに、ハクビに怒鳴り散らかした。

「もっと怒れよ!俺はお前を殺そうとしたんだ!なんで…!」

「だって!今は私も、誰かのために戦いたいって、思ってるから……」

 ずしんと、俺の心に自分への失望がのしかかってきた。俺は力が抜けて、その場に座り込む。きっとあの人は、祢音さんの話を聞いてそう思ったんだろう。なんだよ、全然同じじゃないだろ。あんたちゃんと、人の幸せ、考えてるじゃん。結局、自分のことで焦ってたのは俺だけ。俺だけが……

「死ねぇぇい!」

 不意打ちだった。地面のいたるところから棘が生えてきて、俺たち四人を強襲した。全員防御が間に合わず、武器を弾かれ、分断させられる。棘が侵食してきた方向をうつ伏せになりながら見ると、今まで戦って来たポーンジャマトだけじゃなく、古代魚ジャマト、ビショップジャマト、ナイトジャマトが勢ぞろいしてきていた。

「我らジャマトのための生贄となれぇ~!」

 棘が引き、古代魚ジャマトが支持すると、ジャマトは一斉にハクビの元へ向かっていった。まさか…あのミッションを課されていたのは俺だけじゃなかったのか……⁉ポーンジャマトはハクビを取り囲み、俺の攻撃のせいで弱っていたところを短剣でさらに痛めつける。

「姉ちゃん!」「沙羅さん!」

 タイクーンとナーゴがすぐ救援に向かおうとするも、ナイトジャマトとビショップジャマトがそれを許さない。ハクビは瞬く間にダメージ超過で変身解除、手持ちの荷物を散らばらせながら倒れ込んだ。

「愛する子供たちのためだ。死んでもらうよ。ハハハハハッ!」

 古代魚ジャマトが沙羅さんへと大剣を叩きこもうとしたその時だ。俺は体が動いていた。

「やめろッ!」

 古代魚ジャマトにタックルして、怯んだところに連続で肘打ちを繰り出す。なぜだろうか、俺は殺すべき相手を守っていた。

「邪魔をするな愚図が!」

 大剣の刺突が、右肩の装甲を破壊する。俺がダメージで仰け反ると、追撃で何度も斬り込んできた。装甲はすぐに傷だらけになって、警告音が流れ始める。それでも、執念で古代魚ジャマトに食らいついた。

「沙羅さんを連れて逃げろっ!があっ!早く…早くしろ!」

「ええい鬱陶しい!先に貴様から肥料にしてやるゥーッ!」

 古代魚ジャマトの指示で、二体のジャマトがこちらに向かってくる。そして、奴らの一斉攻撃を防御する体力も無く、ビショップジャマトの爆撃、ナイトジャマトの光弾を受けて、爆発に巻き込まれながら崖の下に落ちていった。

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 仮面ライダードリューが、自分たちの身代わりとなって奈落へと消えてしまった。だからと言って、彼の生み出してくれた隙を無駄にするわけにもいかない。タイクーンは沙羅を抱えて逃走を図る。

「頼む、生きてろよ…!」

「必ず助けに行くから…!」

 ナーゴもタイクーンに続き、なんとかジャマトたちから逃げおおせた。それを許すジャマトたちではなく、古代魚ジャマトは声を張り上げる。

「追え~っ!お前たちは肥料を回収してこい!」

 支持を受けて、ビショップとナイトジャマトは崖下に飛び降りた。続いて、ポーンジャマトたちがタイクーンを追撃しようと走り出す。しかし、その歩みは銃弾によって阻止された。生身でマグナムシューターを構えた、浮世英寿が立ちはだかる。

「ギーツか…!お前には散々、私の息子たちをやられた恨みがある。あとでゆっくり相手をしてやるから、そこをどけ!」

「お前もドリューと同じ。誰かに依頼されて、沙羅さん狙いか。野放しにするわけにはいかないな」

 英寿の言葉に応えるように、道長も現れる。それに満足したように、英寿は言葉を続けた。

「本当に戦うべきなのは、俺たちライダー同士じゃない。この世界を玩具にしてきた未来の連中。アルキメデルもその一人だ」

「知るか。俺は目の前の敵を…ぶっ潰すだけだ」

 それ以上の言葉は二人には不要で、一斉にバックルを使用して仮面ライダーに変身した。

「「変身!」」

『BOOST!MARK Ⅱ!』

『ZOMBIE!HIT!FEVER ZOMBIE!』

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 結構な怪我だ…骨は折れてないみたいだが。崖に落ちてあちこちぶつけたし、いろいろ擦りむいている。枯れ葉の季節だったのが災いしてか、それがクッションになってくれた。俺はギシギシと痛む身体を引きずって、落ち葉の山から脱出しようとする。

「くそっ……」

 皆は無事に逃げ切れただろうか。ベロバの口車に乗った俺の責任だ。早く助けに行かないと。そう思いながらほふく前進で落ち葉の山を抜けると、目の前に『デザイアグランプリのひみつノート!』と表紙に丸文字で書かれた手帳が落ちていた。水玉模様のマスキングテープで装飾されたそれは間違いない。祢音さんが、何も知らない沙羅さんに向けて作ったものだろう。自己紹介をし合った時に、沙羅さんが読んでいたのを覚えている。

「爆発に巻き込まれてたのか……」

 上にかかっていた落ち葉を払って、それを手に起き上がろうとするも、上手く力が入らなくてまた倒れてしまった。その拍子にページが開いて、中身が見える。開かれていたページは、参加者たちの素性を紹介するものであった。倒れ込んだまま興味本位で、内容に目を通す。

 浮世英寿、桜井景和、吾妻道長……よくしれた名前とライダーが並んでいる中で、黄金屋森魚……我那覇冴……今は参加していないライダーのことも記してあるようだった。ということは……奏斗のことも書いてあるのかと思い立ち、ページを次にめくる。

 やはりあった。これまた知らないライダーの紹介に挟まれて、墨田奏斗の名がある。たった四行の短い紹介文を、俺はゆっくり読み込んでいった。

「仮面ライダーダパーン、墨田奏斗……白黒パンダライダー……捻くれ者で正直じゃない……」

 枯れた笑いが出る。祢音さんから見たあいつは、そう映っていたのか。本当はそんな奴じゃないのに。まぁ、怪我から性格が変わって、そうなるのも仕方が無かったけど……浮かばれない。しかし、その次に書いてある文章に、俺は目を見張った。

「傷を治してくれて頼りになる……戦いを終わらせるために戦う、正義の仮面ライダー………」

 天国と地獄ゲームの時に見た、あいつの姿そのまんまだった。自分を顧みず、みんなを守ろうとしていた。死んでしまうまで、諦めてなかった。あの時のあいつに、嘘はなかったんだよな。それを俺は拒絶して……

「そっか、須井の言ったとおりだ。奏斗は、自分のためじゃなくて、誰かのために戦ってたんだよな……」

 俺はポケットからパイレーツバックルを取り出した。あいつが死ぬときまで使ってた力。海賊なんて他人の大切な物を奪うイメージしかないのに、正義のために力を使ってた。みんなの傷を治せる、一番やさしい力。

「この力の本当の使い方は……」

 崖の上から、ビショップとナイトジャマトが飛び降りてくる。きっと俺にとどめを刺しに来たのだろう。まだ枯葉に紛れる俺の姿は見えていないようだ。そのままやり過ごすこともできたと思う。でも今俺は、戦いたかった。

「わかったよ、奏斗。俺は……お前を蘇らせない……」

 木を柱に立った時、落ち葉が踏みしめられて、ざくりと音が鳴った。ひみつノートは、ジャケットの中に忍ばせた。二体のジャマトが俺に気づく。俺はベルトを反転させて、空いたスロットを右側に持ってきた。

「俺だって……お前みたいにやって見せるから……!皆を守る……仮面ライダーになるから………だから頼む……力を貸してくれ!」

『SET DEPARTURE!』

 パイレーツバックルが、初めて起動した。バックルから荒波のエフェクトが溢れ出て、ジャマトたちが撃ってきた光弾を弾く。弾かれた攻撃は俺の背後で爆発を起こし、背中を押した。

「変身!」

『DUAL ON!』

 バックルの舵輪を回すと、黄色の電撃が手から襲ってくる。まだ俺を正式な使用者として認めていないということか。それでも俺は構わず変身を遂げ、電撃を纏いながら大きく肩を拭う動作をすると、マントが装着された。

『Voyage for desire!PIRATE&BLAST!』

「俺は……守るために戦う!」

『Ready…?Fight!』

 マントから流出した黄色いミストが、俺の傷を癒してゆく。なるほど…これなら幾らでも立ち上がれそうだ。仮面ライダードリュー・パイレーツブラストフォーム。親友と同じ姿……この力なら……!

『SET DRILL!』

 肩に大量に大量に下げられたホルダーからドリルバックルを武器に装填して、操作する。

『DRILL CHARGE!』

 バックルの起動と共に、二つ並んだ銃口にドリルが装備される。俺はパイレーツブラスターを両手で持ち、小脇に抱えるように構えて突進していった。

「でやぁぁぁあ!」

 対抗したナイトジャマトが棘型の光弾で応戦してくるが、それでも構わず突き抜ける。回転するドリルは木の葉を巻き上げるほど勢いを増し、同時に足から噴射されたガスを纏うことで、遠距離攻撃を防げる気流のバリアを作った。バリアは光弾を全部弾いて、俺は前に出ていたビショップジャマトに肉薄、ゼロ距離で引き金を引いた。

『DRILL TACTICAL BOMBER!』

 発射されるドリル型の弾丸はガスで強化されていて、これを受けたビショップジャマトは空中に浮かびながら木に激突した。ドリルの回転が確実に両腕を削り、胞子を発射させれないほどの損傷を与えた。俺はナイトジャマトが剣を掲げながら走ってくのを横目で確認して、アンカーを発射。ビショップジャマトを木に縛り付け、邪魔をさせないようにする。

「来いよ!」

 鎖を切り離すことはせず、その場に立ったままナイトジャマトの剣戟をサーベルで受け止めた。攻撃を防がれたナイトジャマトは剣の突起にサーベルを引っ掛け、上へと持ち上げてくる。俺の脇腹狙いだろうか、一度身を引いての刺突が飛んできたが、俺はすれ違いながらターンして回避。ガス噴射の勢いでバク宙して、ピンと張った鎖でナイトジャマトの腕を巻き付ける。そして肘打ちで手首に攻撃し、大剣から手を離させた。後は蹴りでナイトジャマトを拘束したままのビショップジャマトの元にぶっ飛ばす。

『BLAST STRIKE!』

 大腿部のファンから強烈な旋風を引き起こして、縛り付けてた木ごと二体のジャマトに風圧で大ダメージを与えた。風を受けている間、ジャマトたちは火花を散らし続け、収まってもダメージで立ち上がれないようだった。俺は鎖を巻き直して、パイレーツバックルを武器に装填する。

「これで…トドメだ!」

『SET!GO AROUND!』『PIRATE!FULL CHARGE!』

 舵輪を大振りな動作で回転させて、銃口を敵に向け、俺は躊躇なく引き金を引いた。

『PIRATE!TACTICAL BOMBER!』

 二つの銃口から放たれたそれぞれ深緑と水色のエネルギー弾は、一発ずつジャマトに命中し、大爆発と共に撃破した。爆発によって起きた風がこちら側まで届いて、枯れ葉が大きく舞う。

 俺は枯れ葉の雨を浴びながら、変身を解いた。一気に力が抜けるようで、その場に倒れそうで前かがみになる。

 やばい…頭から、落ちる……

「…あれ……」

 俺は倒れていなかった。身体が、景和さんの腕で支えられていたからだ。すぐに反対側に祢音さんもついて、俺に肩を貸してくれる。

「なんで……」

 この人たちは、俺に恨みがあるハズなのに。沙羅さんを襲った俺を、許さないはずなのに、どうして。俺が言葉に詰まっていると、景和さんがバツ悪そうにそっぽを向きながら答えた。

「別に許したわけじゃない。姉ちゃんが信じるって言ったことが正しいのか…見極めないと」

 祢音さんはそんな景和さんの返答に苦笑いして、俺に語り掛けた。

「そう?私は信じるよ?だって、奏斗の親友だもんね!ほら、沙羅さんもサロンで待ってるから!行こ!」

「……ごめん……ありがとう」

 奏斗、俺。バスケ部の時と同じで、お前の背中を追ってばかりだけど……俺なりに頑張ってみるよ。

 お前が果たせなかった願いを、今度は俺が叶えられるように。

 俺が仮面ライダーになるよ。

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『HIT!MONSTER!』

「ただ目の前の敵を…ぶっ潰すだけだ!」

 こちら側の戦いもいよいよ大詰めだった。上半身の装備をMONSTERへと変えたバッファが躍り出て、拳で巨大な古代魚を粉砕する。その勢いで古代魚ジャマトは地面を転がった。最後の一撃を、レーザーブーストフォームとなったギーツが繰り出す。

『FINISH MODE!LASER BOOST VICTORY!』

 炎とホログラムがギーツの分身を四体作り出し、時間差で飛び蹴りを放つ。五連続の必殺キックはさすがの古代魚ジャマトも耐え切れず、ギーツの着地と共に爆散。彼の死をもって、ジャマトはついに全滅となった。

 残されたポーチを、バッファが拾い上げる。アルキメデルが集めていた肥料もとい、破損したIDコアたちだ。これでバッファも大量にポイントを取り返した形となる。

「こいつは貰っていくぞ」

「好きにしろ」

 一時の共闘もここで終わり。二人の道は交差し、また別々の帰路についた。

 

             *

 

 日没後、完全にこと切れたアルキメデルの亡骸を前にして、べロバは舌打ちで返した。傍らにはケケラもいる。

「まったく…笑えねぇな」

「……使えないわね。このおもちゃだけでも貰っていくわよ」

 べロバはアルキメデルの手の内から、IDコアを無理やりもぎ取る。それはよりにもよって、あのナッジスパロウのIDコアだった。今度はこのおもちゃでどうしてやろうかと思案している内に、ジーンが二人の元を訪れた。

「相変わらず悪趣味なことしてるみたいだね。二人とも、ビジョンドライバーを渡してほしい」

 彼の役目は交渉役。ニラム直々の推薦である。といっても、ジーンは今アイテムを英寿に渡してしまっていて丸腰。べロバとケケラは完全に油断しきって、嘲笑で返した。

「フン、俺たちがそんな話、安々と乗ると思うか?」

 しかし、ジーンには強力な交渉のカードがあった。この世界の結末に関わる、重要な問題。時間を旅する未来人が避けては通れない道。

「もうすぐグランドエンドを迎える。二人も、ゲートが閉じる前に未来に帰れなかったら、消滅することに変わりは無い」

 それが、スエルに盾突いてはいけない理由。彼の管理する四次元ゲートが、唯一の過去と未来を繋ぐ扉であるからだ。

 

          DRルール

 

    オーディエンスは四次元ゲートを通じて、

 

       様々な世界を旅している。




次回:仮面ライダーギーツ外伝


─デザロワ延長戦!─

「あいつがめちゃくちゃにした世界を…取り戻すんだ!」

「返してくれ……全部返してくれよ!」

─ソソグの計画実行─

「お前のくだらない物語なんか…俺がぶっ壊してやる!」

「素晴らしい…!最高の感情だ!最高の物語だ!」

41話 空白Ⅴ:純白の崩壊
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