仮面ライダーギーツ外伝 一歩IF:片脚の男   作:みなかみ

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41話 空白Ⅴ:純白の崩壊

 

 焼野原、アルキメデルの亡骸を間に挟んで、ジーンはべロバとケケラに語る。

「もうすぐグランドエンドを迎える。二人も、ゲートが閉じる前に未来に帰れなかったら、消滅することに変わりは無い」

 グランドエンド。この時代でのデザイアグランプリ終幕を意味する。未来人は、データだけの存在。未来と繋がりを絶たれると、その姿を維持できなくなる。時間旅行とはそれだけリスクの高いものであり、それを仕切っているスエルの地位も相当の物であった。グランドエンドをちらつかせられては、流石のサポーターたちも弱い。人間モデルのケケラも唇を尖らせてビジョンドライバーを取り出した。

「ったく…そいつは困るなぁ」

「ビジョンドライバーは返すしかなさそうね。でもその前に…」

 べロバはビジョンドライバーを装着して転送された。ケケラもそこに続く。

「女神さまに挨拶しないとね。フフッ…」

「往生際の悪い奴らだ…」

 取り残されたジーンは低い声で呟いた。

─────────────────────────

 女神を見上げたべロバとケケラは、それぞれデザイアカードをかざした。

「私たちの最後のお願い、聞いてくれる?」

「頼むぜ、女神さんよお」

 べロバが願ったのは、『理想の不幸を見るまでこの世界に存在出来る権利』。ケケラが望んだのは、『理想の笑いを得るまでこの世界に存在できる権利』。女神は鐘の音と共に、二枚のデザイアカードにDoNeの文字を赤く刻む。また願いを叶えた女神であったが、頬には小さな亀裂が走り始めていた。

 

             *

 

 あれほど人に謝ったのは初めてだった。俺としては、どれほど頭を下げても気が済まなかったのだが、沙羅さんは笑って許してくれた。とんでもないお人好しだけど、嬉しかった。あの人みたいにもっと広い心を持てるようになりたい。それまで敵だった人を、許せるような。

 沙羅さんと戦ったときは、心がいっぱいいっぱいで気づけなかったが……須井が姿を見せない。あいつは俺が戦うのを止めようとしていたし、あの時来ないのは不自然だ。スパイダーフォンの連絡にも応答しない。やっぱり……俺の知らないところで敵に襲われたのだろうか。脱落扱いになっていないということは、少なくとも生きている。もしそうなら、どうにかして助けないと……

「三日間のタイムリットは過ぎたね」

「IDコアを一番集めたのは、沙羅さんのはず……!」

 景和さんと祢音さんがそう話し始めて、はっと我に返る。そうだ……今はまだデザロワの真っ最中。須井はこの戦いを運営の時間稼ぎなんて言っていたが、負けてしまってはお話にならない。まずは勝ち抜いて、もっと運営に近づかないと……

『ミッションの結果を伝える』

 PLAYERS RANKINGのシステム音とともに、サロン内に順位表が表示される。真っ先に表示されたのは沙羅さんだ。三十三ポイント……かなりの数だ。これなら一位は確実…!

『決着は延長線へと持ち越された』

「えっ…!?」

 ハクビのすぐ下に、バッファが同点で名を連ねていた。五十鈴大智から強奪した数は相当のものだったのだろう。事を嘆く暇もなく、スエルがアナウンスを続ける。

『明日の正午から一時間、プレイヤー同士でIDコアを奪い合え。トップとなったものは脱落者を指名できる』

 つまり、これまで戦いを避けてきたジャマ神に打ち勝たなきゃならないということだ。俺たちの攻撃をすべて無効にして、逆に攻撃力はカンストのチートライダー……そんな奴とまともに戦って、俺たちは無事でいられるのだろうか。頼るのは癪だが……浮世英寿、仮面ライダーギーツの力を借りないと厳しそうだ。

 俺は初めて、奴に着信をかけた。

 

 

 彼に会いたいと伝えると、私有地であるらしい屋上に呼び出された。自分からコンタクトを取ったものの、あのスターと話すということもあって、若干心臓の鼓動を速くしながら、俺は屋上への扉を開けた。

「来たか」

 何をするでもなく、夜の光で照らされていた街を眺めていた英寿さんが振り返った。

「ジャマ神と一騎打ちすることになった。英寿さんも…手を貸してくれないか?」

「悪いが断る。俺にもやらないといけないことがあるからな」

 あっさり断られて、英寿さんは街の方に向き直り、フェンスに手を組み直してしまった。

「そっかー……」

 そりゃそうか。前に助けてくれたものの、そもそもデザロワ反対派で、戦いには消極的だったから。なら、こっちもこっちで、精一杯やるだけだ。この延長戦で、あっさりエンドってわけには行かない。

 俺は彼の隣に並んで、フェンスに手を置いた。ずっと眺めていられるほど、価値ある景色だとは思えない。だけど英寿さんには見えているものが違うのだろう。そこでふと気になったことがあり、俺は口を開いた。

「なぁ、英寿さんは…運営を倒したら、何を望む?」

「運営に利用されている…創世の女神を……母さんを解放する」

 創世の女神…たしか、参加者の願いを叶える存在。景和さんがそう言っていた。そして、創世の女神が英寿さんの母親であることも。運営がこの世界から撤退しようとしている今だからこそ、英寿さんは他のライダーとの戦いを避けているのだろう。より運営に近づくために。

「俺も運営と戦いたい。須井と連絡がつかないんだ。もしかしたら、運営に……そうなら助けないと」

「須井が………わかった。信頼できる仲間をお前に託す。時が来れば、一緒に戦えるかもな」

 かもなって……まぁいいや。この人とも意思の共有はできた。俺は全力で立ち向かって……奏斗の願いを。デザイアグランプリの存在しない世界を…叶えるだけだ。

 

 

 翌日。正午になって、廃車などが大量に放置されたスクラップ場に転送された。いざ決戦と意気込んでいると、祢音さんが信じられないことを語り始めた。俺たちはバッファに見つからないように、廃材の裏に隠れつつ、空気を混じらせた声で話し合う。

「運営が引き上げるって……ホントなのかよ」

「デザロワの勝ち負けに関係なく決定事項だって。私のサポーターが言ってて…」

 いくらなんでも早すぎる。まさかデザロワ終了まで保たないなんて。どうする…このままだと運営は勝ち逃げだ。桜井姉弟も動揺があらわになっている。

「じゃあ勝ち残っても……願いは叶わないの?」

「デザグラのせいで消えてしまった人たちを……そのままにしていくって言うのか……?」

 俺達が何も話せないまま呆然としているとこを、ドラム缶が倒れる騒音で叩き起こされた。全員で反射的に音の方向に首を回すと、すでにバックルを構えて臨戦態勢の吾妻道長が待ち構えていた。

「こんなくだらない戦いは、これで終わりだ」

『ZOMBIE!HIT!FEVER ZOMBIE!』

 ジャマ神バッファに変身したあいつは、一歩一歩と迫ってくる。くそっ……ここで戦ってる場合じゃないけど……逃げれる相手でもない!

「「「「変身!」」」」

『PIRATE&BLAST!』『BEAT!』

『ARMED CLAW!』『NINJA!』

 俺達は変身と共にゾンビブレイカーの薙ぎ払いで、隠れていた廃材ごとぶっ飛ばされた。ジャマ神バッファと戦うのは初めてだけど……噂通りの強さだ、ふざけてる…!

 体制をいち早く立て直したタイクーンとナーゴがそれぞれ武器を肩アーマーに命中させるも、火花すら散らず、カウンター気味に腕のクローで斬り裂かれる。ハクビの攻撃はそもそも避けられ、彼女に振りかざされた攻撃はタイクーンが庇う形となった。次いでナーゴが掴みかかった所を、蹴りで払う。

 作戦も何もない、ただ爆進する暴走列車に体当たりされているだけの、消耗するばかりの戦い。正面からじゃ絶対に無理。何とかして、あいつの持つポーチを奪わないと…!

「止まれ!」

 俺はバッファにアンカーを射出。鎖を身体に巻きつけて、腕ごと動きを奪う。どんなに攻撃力が高くても…足さえ止められれば……!

「フンッ!」

「マジかっ!?」

 バッファは鎖に縛られたまま身体を振って、逆に俺をぶん回して、近場の廃車の側面に叩きつけた。鎖が解け、俺はダメージで視界がチカチカ明暗する。

「こんのっ……馬鹿力……!」

『WATER TACTICAL BOMBER!』

「合わせろ!」

 俺は車体に背中をめり込ませたまま、パイレーツブラスターから、ウォーターバックルの力を得た水の弾丸を、腕を振りながら発射する。二発の水の弾丸は、炸裂と共に合体し、水の大きな玉となってバッファを包む。

「……っ!」

『TACTICAL BLIZZARD!』

 俺の意を汲んでくれたのか、ナーゴが倒れたまま、冷気をビートアックスから放ってくれた。強力な冷気により、水の玉は急速に氷結。大きな氷塊となってバッファを丸ごと凍らせた。

『ZOMBIE STRIKE!』

 一瞬希望が見えたかに思われた。しかしバッファもあらかじめ必殺技を発動しておいたのだろう。氷塊の真下から、巨大な毒手が現れて握り潰し、氷を砕いてしまった。バッファは足元の氷を払い除けながら地面に降りると、ゾンビブレイカーを二度振り、俺とナーゴに斬撃を飛ばしてきた。それぞれ防御の体勢を取る暇もなく、俺は廃車を貫いてさらに大きくぶっ飛んだ。

「くっそ……!」

 すぐにヒールをかけて立ち上がるも、まだ頭がグラグラして上手く立てない。その間にも、ハクビが襲われる。

「ライダーになったことなんて忘れろ……!そうすりゃあ…!これ以上不幸にならずに済む……!」

 バッファがハクビに振り落としたゾンビブレイカーを、横入りしたタイクーンが両手の武器で十字に受け止める。

「そういうわけにもいかないっ!」

「何も願うな!願うから不幸になるんだ…!」

 タイクーンはバッファの蹴りや斬撃を食らいながらも、必死に抑えようとする。

「犠牲になった人たちは俺が助ける……!それだけは……譲れない願いだ!」

 苦し紛れに放つパンチはバッファの顔面に入るも、やはり攻撃は効かない。押し返されて、ハクビ共々投げられる。

「そんなことしても……また他の犠牲者が増えるだけだっ!」

 バッファはタイクーンの襟元にゾンビブレイカーを引っ掛けて振り、地面に引きずりながら投げ飛ばした。そして、クローにエネルギーを込める。

「いつかは…終わらせなきゃならないんだよ……!」

「沙羅さんっ!」

 クビめがけて必殺の突きを放つバッファ。モロに受けてしまうかに思われた攻撃、それを割り込んだナーゴが背中で受けた。ハクビを構ったナーゴだが、お構い無しにクローを振り抜いたバッファは、二人まとめて動けないほどのダメージを与えた。二人は変身解除に追い込まれる。

「ライダーにならなきゃ、命の危険もない。それ以上何を望む?」

 バッファは二人のドライバーからIDコアを抜き取り、力を込める。

「やめて!私には、まだやり残したことが…!」

「私にだって……!」

「………二度とライダーになるな」

 二人の叫びを聞き入れるようなバッファではなく、そのままIDコアを握りしめ、破壊した。

『RETIRE』

 二人は青いホログラムとなって消えてしまった。ドライバーと、沙羅さんのIDコアを込めたポーチだけが残る。バッファはついに、それに手を伸ばした。

「こんのぉっ…!」

 俺は彼がそれを手にする前に、サーベルで斬り掛かって押し込み、廃バスの側面に押し込んだ。

「景和さんっ、速く…ぐぁあっ!」

 バッファに思いっきり頭突きをされて、火花を散らしながら俺は振り払われた。そのままゾンビブレイカーの連撃で三度斬りつけられる。俺が地面を転がされている頃には、タイクーンはポーチを拾っていた。

 

             *

 

「約束通り、ケケラとべロバから返してもらったよ」

 ジーンはテーブルに、二つのヴィジョンドライバーを並べた。それを目前にして、ニラムは両手を重ねてほほ笑む。

「君に頼んで正解だったよ」

 まずは一つ。自分がかつて使っていたヴィジョンドライバーを掴む。そして二つ目をニラムが手にする直前、ジーンが横から掠め取り、たった今オーディエンスルームに入室した英寿に投げ渡した。

「計ったな、ジーン…!」

「キツネのサポーターだからね。化かすこともあるさ」

 ニラムに対して、ジーンはキツネを形を指で組んでおどけて見せた。そして、英寿はドライバーを装着することで、創世の女神へのアクセス権を得て、創世の間へと転送された。

「お前ら運営に母さんは渡さない」

 その捨て台詞を聞いたニラムは、ジーンに構っている場合ではないと、自らも転送されて後を追った。

─────────────────────────

「母さん!」

「待て!浮世英寿!」

 創世の女神に駆ける英寿と、それに続くニラム。彼らの足を止めたのは、赤い仮面のスエルだった。

「グランドエンドと共に我々は消える。女神も共にな。お前は全てを忘れるんだ。他でもない、女神の力によって」

「母さんはそんなこと望んでいない!」

「女神に意志など存在しない。願いを叶えるただの道具に過ぎない」

「道具じゃない!」

 スエルの言葉を遮るように何度もがなる英寿。必死な様子の英寿に、スエルは一枚のデザイアカードを見せた。彼が言葉を発するとともに、願いが刻まれる。

「”浮世英寿がこの世に存在しない世界”を叶えろ…!」

 英寿は目を深く閉じて、創世の女神の選択を待った。願いを叶える鐘の音は途中で途切れた。創世の女神は一体に衝撃波を放ちながら、スエルの願いを拒否。悲鳴のような音と共に、デザイアカードを弾き返した。創世の間の地面を、デザイアカードが沈むように消えていった。

「もう限界のようだな。やはり…お前を仮面ライダーとして選んだソソグの選択は間違いだった。不確実性だらけの現代人に傾倒するからこうなる」

「限界……何のことだ?」

「女神の力は、時と共に弱ることは最初から分かっていた。私はその代替品として、”新たな女神を育成する”ことにした。しかし我が友人ソソグは、”女神の血縁者を擁立する”べきだと主張した。それがお前だ、浮世英寿。だが……結果女神は無価値なガラクタになり下がり、その息子は我々の願いを妨害する邪魔ものでしかない。貴様も、女神も、グランドエンドと共に処分する」

 怒りに駆られ、スエルに跳びかかる英寿。スエルは手をかざすだけで英寿のアクセス権を剥奪し、現代へと強制送還した。

────────────────────────

 英寿が戻されたのは、正にデザロワが決着しようとしているスクラップ置き場であった。

 ハクビが失ったIDコアを引き継いだタイクーンにジャマ神バッファが猛攻をかける。ドリューがフォローに入っているが、仮面ライダーをぶっ潰す力の前には、パイレーツバックルの多彩な能力であっても厳しかった。

『DRILL TACTICAL BOMBER!』

 二人のライダーの間に飛び込んだドリューは、一対のドリルを備えたパイレーツブラスターをバッファに叩きつける。できる限り腕を伸ばしてドリルを押し込むが、バッファは一、二歩引いた程度。ほとばしる火花は、バッファよりもむしろドリル側が悲鳴を上げて起きたものだった。

「いい加減に邪魔だ…!」

 バッファはゾンビブレイカーでドリルを叩き落とし、深くドリューに斬り込んだ。ジャマ神としての力が発動し、ドリューはゾンビブレイカーから発せられた斬撃と共に、鉄材の山を二つほど破壊しながら吹き飛ばされた。いよいよ回復能力を使う間もなく、変身解除してしまう。

「景和さんっ…逃げっ!」

「もう終わりだ…!」

 城玖の叫びも虚しく、バッファは現時点で最もポイントを持つタイクーンに爪をかけた。バスの外壁にタイクーンを叩きつけ、ダメージ超過で変身解除させた。バッファは地面に伏せる景和のベルトに手を伸ばす。IDコアを破壊することを優先したのだ。最後の抵抗で、景和は必死にバッファの腕を掴んで止めた。

「……っ、ライダーだったことなんて忘れろ!デザグラに出会う前はそうやって生きてただろ!」

「ああそうだ!でも知ってしまったからには引き下がれない!もう諦めるわけにはいかないんだよッ!」

 声が裏返ってしまうほどに訴える景和。バッファは邪念を振り払うように、景和を投げながらIDコアを抜き取った。

「無駄なんだよ。どのみちデザグラは、この世界から消える。無くなっちまったもんは、この世界から戻らないんだ」

「アイツに…創世の女神に償わせるッ…!今まで奪って来た、大勢の人たちの命と幸せを取り戻すんだよぉっ!」

 景和は無駄だと分かっていても、IDコアが握られるバッファの右拳に掴みかかる。変身もしてない状態で敵う相手でもなく、バッファに首を絞められてまたバスの外壁にぶつけられた。

「諦めろ!理想を願えば、別の不幸を生むだけだ…!」

「諦めてたまるかぁ!あいつがめちゃくちゃにした世界を…取り戻すんだ!」

 二人のやり取りを傍観してた英寿は、思わず廃材を殴った。誰の願いも叶わない、誰の思いも届かない。それが古代人の限界。どん詰まりの重く、日が落ちていくかのような重い空気がその場には流れていた。バッファがいよいよ景和を投げ飛ばし、IDコアを握りしめる。

「お前の理想論は……もう聞き飽きた」

 いよいよ、タイクーンのIDコアが砕かれるかに思えたその時。思わぬ乱入者がバッファの手からIDコアを弾いた。モンスターフォームのパンクジャックだ。景和は地面を這いながら、こぼれ落ちた自分のIDコアを手に掴む。幸いにもヒビは入っていなかった。

「はいそこまでー。延長戦は終わりだ。惜しかったな」

「余計な邪魔しやがって!」

 間髪入れずに、延長戦終了のアナウンスが流れる。バッファとタイクーンの同率一位。決着はつかなかった。城玖もようやく廃材の山から抜け出してきて、会話の和に入る。パンクジャックは全員が揃ったことを確認すると本題を持ち掛けた。

「それよりお前らにメッセージだ」

────────────────────────

 場は移り、野外劇場。パンクジャックもとい晴屋ウィンは、一人ステージに立つ。座席には英寿、道長、景和、城玖がそれぞれ距離を取って座っていた。相容れない様子にウィンは冷ややかな目をしながらも、問いをなげかける。

「創世の女神は本当に罪深い存在だったのか?」

「俺たちに天国と地獄ゲームを持ち掛けたあの置物……それと変わらねぇんだろ」

 一人だけ参戦の遅い城玖は、直近のジャマトグランプリ最終戦の情報しか持ち合わせていない。参加者を奈落に落としていた邪神が、創世の女神のイメージにイコールになるのは当然の流れだった。情報が不足している景和も同じで、何を今更…と目を逸らす。ウィンは二人の反応をある程度予見していたようで、自らがツムリと共に調べ上げた情報について語り始めた。

「デザグラの記録にはこうある。”近代の愛を願ったナビゲーターは、三日三晩祈りを捧げ、その身に奇跡の命を宿した。同日、彼女は世界を創り変える力を手に入れたのだ。”これが何を意味するか分かるか?」

 ウィンが目線を送る英寿は、未だに黙りこくっている。それを見かねて、ウィンはステージを一段降りる。お得意の大げさな語り口で話を続けた。

「命を生み出す神話はいくつも存在する!岩や、太陽の光から、神は子どもを産んだ!同じように!古代のデザ神と未来人・ミツメの間にも、奇跡が起きた。ラブ&ピ~ス!誰かを不幸にするために、女神の力が産まれたわけじゃない」

「でも女神のせいで、犠牲者が出ているのは事実だ!」

 景和は強情で、立ち上がって抗議した。最初は景和と同じスタンスを取っていた城玖も、考えを巡らそうと口元に手を当てる。

「女神の力を利用して、デザグラのシステムを作ったのは運営だ。女神に罪は無い」

「罪は道具にあるか…それを使った奴らにあるか…あんた、そう言いたいんだろ?」

 腰を上げながらウィンを指差し声を上げる城玖。ウィンはその通りと、ニヤと笑って返した。

「どちらにしろ消えるべき存在なのは変わりないだろ」

 道長が話は終わりだと言うように、席を立ってしまった。景和の意志も固く、どこかへと去ってしまう。彼らの説得は不可能だった。

「そうこうしているうちにグランドエンドが始まっちまうぞ。諦めない限りチャンスはあるんだろ?」

「言ってくれるな」

 英寿はウィンの言葉を受けて、ようやく元の調子を取り戻した。スエルと再び相まみえるため、ステージを走り抜けてゆく。その場にポツンと残された城玖。バッファとの戦いで後回しになっていたが、行方不明の須井を探さなければならない。それに、シーカーもカローガンも延長戦には来なかったのも不自然だ。もし須井が運営の手の内にあるならば、城玖は打つ手がない。他のライダーと違って、バックにサポーターが付いていないからだ。

「そう言えば昨日、英寿さんが信頼できる仲間を託すって……」

「それが俺ってわけだ、よろしくな」

 ウィンが城玖にてを差し伸べた。運営へのアクセス権を持つ案内人。それが城玖にとってのサポーターとなった。

 

             *

 

 昨晩、気を失った須井君が運ばれてきた。実行犯の青山さんは深く電撃を与えすぎたみたいで、朝方になっても目覚めなかった。一晩中、彼の横たわる姿を見つめながら、考えていた。ソソグが言っていた、私に足りない最後の感情のピースとは何なのだろう。彼からは、血が沸き上がるような怒りの感情を学んだ記憶がある。まだ何か足りないことが……

「紅美ちゃん…?」

 いよいよ、須井君が目を覚ました。一瞬、まどろんでいた彼は私をコピー元の新井紅美と誤認した。しかしすぐに私だと気付いて、笑顔の仮面を張り付けた。

「なんだ、モーンか…生きてたみたいで、良かったよ」

 その取り繕う様子に、私はじんわりと心の中に新しく別の感情が湧いてくるように感じた。彼はまだ目覚め切ってない身体を動かして、私の拘束を解こうとして手を伸ばしている。

「ようやく起きたか」

 彼の手は、いきなり現れたソソグの手によって止められた。轟戒真と青山さんも来ていている。ソソグの腕を須井君は振り払う。

「お前、ソソグか…!」

 須井君はソソグに殴り掛かろうとして、轟戒真に止められた。ソソグはこの瞬間を待っていたかのように、満面の笑みで語りかけた。

「そうだ。私がソソグ。君の幼馴染を殺した張本人だ」

「なんでだ…なんで殺したんだ!モーンに感情を学ばせたかったんだろ……そこまでする必要無かっただろ!」

 須井君はとても怒りっぽい。気持ちを抑えようとしても、端から溢れてくる様子だった。声の語尾が震え、上ずっている。私は言葉を失っていた。何を言っても、彼の怒りに薪をくべるだけだと思ったから。黙ることしかできなかった。その間にも、私の中でまたじわじわと染みが広がるように感情が広がっていた。この気持ちの正体は何…?

「なぜ殺した?そっちの方が面白いからに決まっているだろう?モーンを現代社会に溶け込ませる依り代も必要だったしな?」

「ふざけんな…!返してくれ……全部返してくれよ!女神の力でも使って!今すぐ!」

 ハッとして、声を荒げた須井君が口を噤んだ。これが、彼が押し殺してきた本音……わかった。私は勝手に、彼が紅美ちゃんと折り合いを付けたものだと思い込んでいた。でも、普通は簡単に諦めきれるわけがない。だって彼は、絶対的に強いヒーローじゃなくて、後悔を消せずに生きてきた人のはずだったから。人間だったから。いつから勘違いをして、役割を押し付けてしまっていたのだろう。私の思考を読んでいたかのように、ソソグは高らかに笑い始めた。

「ふふっ、はっはははは!そうだモーン!この人間は、主人公でも何でもない!ただの一般人が少し背伸びをしているだけだ!思っただろう、今?”かわいそう”?」

 ソソグにそう言われた時、私の中で湧いていた感情が初めて身を結んだ。紅美ちゃんを始めて目にしたときに感じた最初のドキドキ……デザグラに注視しすぎて、いつしか忘れてしまっていた。

「この感情は……」

「誰かを守りたいと思う、根源的な”愛”。それが、お前に足りていなかった感情だ」

『CROSS FADE!』

 彼のベルトから発せられる、黄金の光が、私の心臓を貫いた。あまりの痛みに、私は腹の底から絶叫する。その様子を須井君は黙って見ているだけだった。心底失望したような顔で。あぁ、奏斗も、城玖君も、朋希君も、玲さんも言っていた、自分のせいだって。やっと意味が分かった。誰かを深く愛していたからこそ、そう思えたんだね。あぁ─────わかった。

────────────────────────

 モーンは意識を失い、彼女の胸元から溢れた光が、虹色のプロビデンスカードを形どった。

「やっとだ!このカードの力で、新たな神は成る!」

 ソソグは今世紀一番の上機嫌で、カードに手を伸ばす。モーンの胸元からカードが離れる直前、カードを掴んだ手はソソグのものではなかった。

「この時を待ってた…!」

 横入りした青山優が、両手でカードを掴み取っていた。いつの間にか、瞳からピンクは抜け落ち、深い茶に戻っている。自身の洗脳が効いているはずだと思い込んでいたソソグは、笑顔が消える。

「なぜ……」

「どうやら、”管理室の主人”が仕込んでいたらしい」

 須井を立たせた轟戒真が答えた。シーカーとカローガンのIDコアを運営上層部に提供したのは、当時のIDコア管理室の責任者・芹澤朋希である。彼は二人のライダーのIDコアを渡せと伝えられた時、悪用される可能性を考慮していた。洗脳に対抗しうる、意識のバックアップ機能を仕込んでいたのである。玲を撃ってしまった奏斗を間近で見ていたのは彼であったから。

「最初から助けるつもりなら、スタンガンは酷くない…?」

「う~それはごめんなさい!このカード奪わないと、計画は阻止できないって思ったから。モーンちゃんにも悪いことしたけど……それももう終わり!」

 青山は須井に拝むように謝った後、ソソグに向けて拳を突き出す。ソソグの顔が、しだいに怒りに満ちてゆく。

「お前の計画についてくる奴は、一人もいないようだな」

「そうだ…!」

 ソソグの足元に、銃弾が放たれる。パイレーツブラスターを構えた城玖と、彼を連れてきたウィンが背後に立っていた。城玖がパイレーツバックルを扱えるようになっていると確信した須井は、安心したように息を吐いた。

「城玖君…!」

「話は聞いたぞ。奏斗を、玲を殺したのもお前だな…!お前のくだらない物語なんか…俺がぶっ壊してやる!」

 パイレーツブラスターの銃口を向けたまま、城玖はソソグに凄む。ここに来るまでの道中で、ウィンから聞いたのだ。デザグラを裏から操る、シナリオライターを自称する運営が存在すること。そして、ダパーンとシャギーを直接手にかけた可能性があることを。五人はソソグを取り囲み、じりじりと滲みよる。

「諦めて未来に帰れ…!俺たちの人生、これ以上……お前のおもちゃにされてたまるか…!」

 城玖の叫びが最後のトリガーとなり、ソソグの怒りが頂点に達した。右足を大きく踏み鳴らし、五人と自身を転送させる。

 転送されたのは、まさにグランドエンドが発生しようとしている現場だった。鎖に繋がれた創世の女神が天空に浮かび、パラパラとその破片が地面に降り注いでいる。その真下で、ソソグは初めて口を開いた。

「もういい。私が最も忌み嫌う者……それは私の作る物語を否定する者だ…!私の物語を否定するならば、ここで全員を、削除してやろう!」

「ふざけないで!私たちの人生は、私たちが決めるんだから!」

 青山はブレザーの胸ポケットに虹色のカードをしまい込むと、コマンドバックルを構える。それに合わせて、他の四人もバックルを手にした。

「ハハッ、パンクじゃねえか!ノッてきた!」

 ウィンはモンスターバックルを。

「俺は誰の指図ももう受けない。俺自身の力で、願いへの道を切り開く!」

 戒真はパワードビルダーバックルとギガントバックルを。

「紅美ちゃんの無念、ここで晴らす…!」

 須井はマグナムバックルとブーストバックルを。

「そうだ……未来は、俺たちの人生が積み重なって勝手にできるもんだろ!」

 城玖はパイレーツバックルとブラストバックルを、ドライバーに装填した。それぞれが思い思いのルーティンを取り、ドライバーのバックルを操作した。

「「「「「変身!」」」」」

『GREAT!』

『MONSTER!』

『WOULD YOU LIKE A CUSTOM SELECTION…!』

『GET READY FOR!BOOST & MAGNUM!』

『Voyage for desire!PIRATE&BLAST!』

『『『『『Ready?Fight!』』』』』

 五人は拳や武器を構え、ソソグに突撃する。 ソソグは腰のベルトを操作する様子はなく、握っていた手を開いた。すると、指先から無数の糸のようなものが溢れ出た。それはピンク色をしていて、創世の女神の出現により破壊されていたビルの破片を手繰り寄せた。破片は背後からライダー達に衝突し、たちまちその足を止める。

「もう色を消して隠す必要も無い。君たちのような神の当馬程度、私に指一本触れられない」

 とめどなく投げつけられる瓦礫。クルウスはスライディングで避けながら、マグナムシューターで破壊する。瓦礫が砕けたことで糸が緩むが、すぐに細かな破片に結び直されてクルウスを襲う。カローガンはレイジングソードで瓦礫を一刀両断。糸ごと斬り裂いて一気にエネルギーを溜める。しかし、バックルを武器から分離する暇がない。

『GIGANT HAMMER!』

 シーカーがギガントハンマーを地面に打ち付けたことで、無数の壁が一気に建造される。複雑に建造された壁はライダー達に一瞬の暇を与えた。

「…!今だ!」

『TAKE OFF COMPLETE!JET&CANNON!』

 カローガンはコマンドフォーム・ジェットモードに変身し、飛び上がって瓦礫の隙間を潜り抜け、斬りかかる。しかしそれも、ピンクの糸が幾重もの壁を作り防がれる。糸がカローガンに集中したことで、瓦礫を飛ばすリソースが少し減った。それを見逃さず、カローガンと反対方向からパンクジャックとドリューが跳びかかる。

『PROPELLER TACTICAL BOMBER!』

 またしても防御で張られた糸を、プロペラ型の砲弾が回転して斬り裂き続ける。それをパンクジャックが殴り抜けることで、糸の壁を貫いた。今度こそソソグに届くかと思われた攻撃。しかし、プロペラ型の砲弾にも、糸が巻き付いて止められた。糸はうねるように動き、空中のカローガンに砲弾を投げつけた。砲弾がぶつかってしまい、空中に投げ出されたところを、足に糸が絡みつく。そして、パンクジャックとドリューにカローガンを激突させた。

「どうした?次は?」

 地面に倒れる三人の元に、巨大な瓦礫が落とされる。

『MAGNUM STRIKE!』

 クルウスの腕に装備されたアーマードガン。そこから発射した高圧ビームによって、瓦礫は焼き切られる。さらに、シーカーが次々と壁を建造してゆくことで、三人が離脱する隙を作った。

「無駄なことを…逃げるつもりか?」

「そんなわけないだろ…!」

 ドリューの声と共に、ソソグの正面の壁が展開。その先には、必殺技をチャージし終えたパイレーツブラスターを構えたドリューが一人。

『PIRATE!TACTICAL BOMBER!』

 ドリューが放つ砲撃を糸で防御するソソグ。そこまでは想定済みで、ドリューは仮面の裏で引きつったように笑う。

『COMMAND TWIN VICTORY!』

『GIGANT FINISHER!』

『MAGNUM!TACTICAL BLAST!』

『MONSTER STRIKE!』

 ソソグの後方の壁が捌け、残りの四人が必殺技を放つ。キャノンモードに変身していたカローガンが、二連の砲台からエネルギー球を。シーカーは三つのウェポンから同時に斬撃、ビーム、衝撃波を。クルウスはマグナムシューターから弾丸を連続発射、パンクジャックはグローブ型のエネルギー弾を同時に発射した。

「もうわかった」

 ドリューの砲撃を受け止めていた糸がさらに伸び、包み込んだかと思えば、ソソグの周囲を回転。四人の攻撃を掠め取り、一つの巨大な光球を形成した。そして、自身を糸のドームで守りながらも、光球を破裂。一体に強力な衝撃波を発生させた。シーカーが咄嗟にハンマーを叩きつけ、何重もの壁を作りガードしたが、すべて吹き飛ばされる。

「お前たちの力は、私を超えられない。古代人の限界だ!」

 ドームから出てきたかと思うと、ダメージを受けて動けない五人を糸で縛り上げ、何度も頭上でぶつけさせるソソグ。最後には、ビルの壁に投げ飛ばした。その勢いで、ビルを二つほど貫き、変身解除しながら五人は地面に倒れた。

「うっそだろ……ここまで…!」

「流石は運営上層部…!」

 城玖と戒真がなんとか膝を付けるも、立ち上がるまでは至らない。

「一発も通らねぇとはな…!」

「どうすれば…!」

 ウィンと須井が衝撃の声を漏らす中で、ソソグは一歩、一歩と近づいてきた。

「さて……こちらも……」

 ソソグの興味は五人にはなく、創世の女神を前にして激戦を繰り広げるギーツとゲイザーだった。

「そこをどけ―ぇッ!」

 崩壊を始めている創世の女神の元で、ギーツは冷静さを欠いていた。ゲイザーのビットからの集中砲火を浴びて、変身解除してしまう。彼の元にこぼれ落ちる創世の女神の破片。英寿はその一つを拾い、握りしめる。ソソグは機嫌を直し、ただ、笑いをこらえた顔で傍観していた。

「忘れてたまるか……あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ッ!」

 英寿の咆哮と共に、創世の女神の破片が、新たな白いバックルへと変貌した。女神の力も無く、英寿自身の意志で。バックルは自動で英寿の手を離れて、ドライバーに装填される。そして、彼を叫びと共に仮面ライダーギーツ・ブーストフォームマークⅢへと変身させた。

『BOOST MARK Ⅲ!』

 存在しないはずのギーツの新たな姿に、ゲイザーは驚愕する。純白の鎧、真っ赤な複眼。背中から溢れ出る、九つの尾。尾は燃えるようにねじれ、うねり、触れる全てをねじ切るように崩壊させた。ソソグはその破壊神ともいえるギーツの出で立ちに、プロピデンスカードが完成した時以上に高らかに笑った。

「素晴らしい…!最高の感情だ!最高の物語だ!」

 ソソグは笑いながら手を叩き、腹の底から笑う。

「もういい!もうわかった!ふふっ、英寿は神として覚醒する!彼女よりも早く!はははっ、君たちにたっぷり嫌がらせして、カードを奪う時間は…ある!」

 ピンクの糸が、倒れる須井を巻き取り、ソソグの元まで連れていく。

 そして、その腹を拳で貫いた。

「須井!」

「ほら、城玖君が呼んでいる。クルウス、君は夢から覚める時間だ……自分はただの負け犬だと、自覚する時間だ…!」

 ソソグの拳には、大量のIDコアが握られていた。そして、そのIDコアが須井の身体に馴染んでいく。

「僕は……がぁ……お前の、駒じゃない…!」

「これからそうなる」

 須井の身体が溶け、棘や脚が足が内側から突き出る。拳は巨大な貝のように肥大し、顔は次第に赤く半透明になっていった。

 うめき声と共に、ピンクの糸が解けると、須井は赤く変色したアクエリアスキメラジャマトに変異していた。

 

          DRルール 

 

      仮面ライダーのテクノロジーは

 

       運営に創造・管理されている。

 

         ──は存─し──




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「古代人が寄って集まったところで…」

─全ての終わり─

「僕のやったことに、意味はありましたか……?」

「俺たちは…自分の足で歩く……!」

「みんなが待ってるよ」

─グランドエンド!─

「助けて……仮面ライダー……!」

「みんな、ただいま」

42話 空白F:仮面ライダーを呼ぶ声
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