仮面ライダーギーツ外伝 一歩IF:片脚の男   作:みなかみ

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42話 空白F:仮面ライダーを呼ぶ声

 

 僕はずっと嫌いだった。自分の大切な人の顔を借りたあの未来人。なんでよりによって紅美ちゃんを選んだんだ。あいつが紅美ちゃんを見さえしなければ、彼女はまだ幸せになる余地はあったはずなんだ。でも、それは言い訳でしかない。自分の罪悪感をちょうど上乗せできる人が、都合よく現れただけじゃないか。紅美ちゃんを不幸にしたのは僕だ。

「僕は……がぁ……お前の、駒じゃない…!」

「これからそうなる」

 情けない。自分が嫌になる。モーンに失望してどうする。全部僕が始めたことだ。僕が願いさえしなければ……

 こんな不幸まみれの世界にならなかったのに。

────────────────────────

 広実須井は、赤いキメラジャマトに変異させられた。途端に彼の自我は消える。地面に足を下したかと思えば、肩の方の棘を引き抜いて、四人に向けてきた。

『MONSTER!』

『WOULD YOU LIKE A CUSTOM SELECTION…!』

 ウィンと戒真の判断は早かった。須井が変異するや否や、二人はパンクジャックとシーカーに変身する。

「分が悪いな…撤退だ……!」

「待てよ、須井を見捨てるのかよ!」

 ギガントハンマーを構えるシーカーの腕を城玖が止める。責任と焦りが心に絡みついて、引きつった顔を彼はしていた。しかし、継戦が不可能なのは明白だ。

「まだモーンのカードはこちら側にある。それなら、奴らは必ず追ってくる。それまでは耐えろ!」

「しゃあねぇ、仕切り直しだ!」

 パンクジャックがグローブ弾を放ち、それをキメラジャマトが受け止める。すかさずシーカーが四人の前に壁を建設する。グローブ弾が爆発し、壁が崩れる頃には、四人はその場から逃げおおせていた。ソソグは腕を組み、創世の女神へ向かっていくギーツ・ブーストフォームMARKⅢを眺めた。

「どこへ行こうか無駄だ。ギーツは覚醒した。世界は私のものだ……!」

 新たなギーツに備えられた、燃え盛る尾。創世の女神を縛る鎖に噛みつくと、空間を捻じ曲げて破壊した。大きく飛び上がり、降り注ぐ瓦礫を足場にして、創世の女神へと手を伸ばした。

「ソソグに乗せられたな。ギーツ、お前に創世の女神は渡さない」

 創世の女神に手が届く直前、スエルが現れ、共に目の前から消えた。ギーツの手は空を切り、地面へ真っ逆さまに墜落した。墜落の衝撃で変身が解かれ、英寿は気を失った。

「そこで寝ているといい。どうせ君は、神になるのだからな!」

 ソソグはキメラジャマトを引き連れて、その場を去った。

 

             *

 

 全員が煤だらけになった体を動かして逃げ着いたのは、休業中のスタジアムだった。おあつらえ向きの、バスケのコート。それを取り囲む、放射状に広がった客席。照明のつかない空間は冷たく、空の箱は静寂に包まれていた。別にここで試合をしていたわけじゃないが、嫌でも思い出す。毎日、楽しくバスケをしてたあの頃を。どうして、どうしてこんなことに。俺はプラスチック製の硬い座席に、深く腰を下ろした。

「くそ……これからどうするんだよ。アイツ、マジで強すぎるだろ…!」

 少し離れの席に座った青山優が、カードの所在を確かめるように胸ポケットを握りしめた。

「なんとかして、このカードをモーンちゃんのところに」

「だとしても、待ち構えている可能性があるな」

 コートと客席を隔てる鉄柵に寄りかかった轟戒真にそう言われて、青山優は口を尖らせた。ソソグはきっと俺たちを追っているはず。ここにずっと隠れられるわけじゃない。そもそも、グランドエンドが近くて、グズグズしてる場合じゃないってのも事実だ。

「どうすればグランドエンドを止められるんだ……もう時間が無い……」

 あのデカい石像みたいなやつ。あれが創世の女神だろう。それをめぐってギーツが運営と戦っていた。ソソグと同等くらいの立ち位置のやつも動いてるってことだ。晴屋ウィンがふらふらと歩きながら俺の後ろを横切った。

「とにかく休んだら移動すんぞ。プロデューサーのニラムに会えば、話を付けてもらえるかも」

「ほう、そこまではどうやって行くつもりだ?」

 スタジアムにソソグの声が響き渡って、俺たちは一斉に周囲の警戒を始めた。円陣を描くように背中合わせになって、辺りを観察するも、それらしい気配はない。どこだ、どこにいる。

「諦めるといい。古代人が寄って集まったところで…できることはないのだからな」

 ソソグの声と共に、スタジアムの天井が砕け、キメラジャマトが飛び込んできた。俺たちはバックルを即座に使用し、変身して構えた。キメラジャマトは赤い光弾を着地するよりも早く打ち込んできて、俺たちをコートに突き落とした。破壊された鉄柵が地面にガラガラとこぼれ、地面に亀裂を作りながらキメラジャマトが着地してくる。

「須井…俺たちが分かんねぇのか…!」

 キメラジャマトは、言葉にできないようなうめき声を吐き出しながら、腕の貝殻で殴り掛かってくる。咄嗟にパイレーツブラスターで撃ち返そうとしたが、引き金にかけた指が止まってしまう。中にいるのが須井であると思えば思うほど、攻撃する気持ちが鈍る。結局俺は撃つことができずに、ギガントソードを装備したシーカーに守られた。

「諦めろ…!今の俺たちに、こいつを救う手立てはない!」

「でも!俺は……」

 ギガントソードで貝殻を弾いて、斬撃を与えるシーカー。パンクジャックとカローガンも加勢して、数の有利でキメラジャマトを追い込んでいく。俺はその輪に入っていくことができず、ただ足を止めた。あいつだって、きっと居場所があったはずだ。家族とか、ボランティア部とか。もし須井が生きて帰れなかったら、かつていた居場所は崩壊してしまうのではないか。玲が消えて、俺がバスケ部をぶっ壊したように。

 腰蓑のように生えたカニの脚が、無数に伸縮して一帯を襲う。皆は俺の足が動かないのを感じ取っていたのか、庇うように立ち回ってくれていた。カローガンの持つレイジングソードにエネルギーが溜まる。ソードから分離したバックルが、カローガンをコマンドフォーム・キャノンモードへ変える。

『TAKE OFF COMPLETE!JET&CANNON!』

 砲身から二発のレーザーが放たれて、扇を描くように薙ぎ払った。この攻撃で一瞬カニの脚が焼き切れて途切れる。脚が再生する前に、シーカーとパンクジャックが接近。ギガントハンマーとパンチの重い一撃をくらわせた。キメラジャマトはこれを受けて、壁際まで追いやられている。

「倒すのか、助けるのかどっちなんだ?冷たい奴だな」

 気付かぬうちにソソグが背後に現れていた。反射的にパイレーツブラスターを向ける。今度こそ撃てると思ったが、今度はピンクの糸を腕を縛られて止められた。皆もソソグが姿を見せたことに気付いていたが、キメラジャマトが足止めをしてきてこっちまで来ることができない。

「貴様ほど利用価値のない男は見たことが無い。私はわかったぞ。貴様の行動原理は常に他人に依存している。墨田奏斗を生き返らせたい、墨田奏斗のようになりたい。バスケ部を取り戻したい。他者のための奉仕は何の意味も成さない、歴史に残らない。影響されるのではなく、する側にならなければ、人生に価値なんてないのだよ!」

 ソソグは声の出ない俺を煽り倒すと、腕を縛っていた糸を振り上げ、壁に叩きつけた。鉄筋コンクリートの壁に物凄い衝撃でぶつかった俺は、変身解除して倒れてしまった。

「その点広実須井は素晴らしかった。自分の利益のために他人を切り捨てることができ、決断力もある。それに……何よりも行動が分かりやすい」

 ソソグが指示すると、キメラジャマトは周囲の地面を液状化させ、三人の足元を崩した。するとキメラジャマトの体表がボコボコと、内側から沸騰するようにうねり始める。そして一瞬のうちに全身から棘を放った。三人は身をよじってかわそうとしたが、肩や太もも、脇腹に棘が掠る。地面に刺さっていた棘を見ると、赤色の粘液が付着していた。恐らくは毒だろう。即効性の毒は三人を戦闘不能にして、地面に伏せさせた。当然変身も解けて、指一本動かすこともできない。

「私はこの世界に絶えず価値を与え続ける。ギーツが神と成る物語を生み出すことで!」

 ソソグは仰向けに倒れていた青山に糸を向ける。胸ポケットにしまわれていた虹色のカードは、するりとソソグの手元に収まった。ソソグはコートの真ん中に立ったまま、俺たちを順番に眺める。誰から始末するか、品定めをしているようだった。

「やはり…まずは貴様からだな。私を謀り、計画の邪魔をした。青山優」

「あんたねぇ……全部わかったような口して……ムカつくのよ……」

「遺言がそんなことでいいのか?」

 キメラジャマトが指示を受けて、棘を装備して青山の背中に向ける。どうすればいい、俺はなんでこんなに弱い。誰も守れない、奏斗みたいにできない、仮面ライダーに……なれない。

「もうだめだ…もう…」

「ダメじゃないッ‼」

 俺の言葉をかき消すように、変身した姿のモーンが、瞬間移動で現れた。彼女は大きな翼で力強く飛びながら、キメラジャマトを蹴り飛ばした。そして、息を切らしながらも着地する。腕に食い込んでいた有刺鉄線の傷は深かったようで、変身しているのに両腕から滴り落ちている。

────────────────────────

 城玖とソソグが戦闘を始める十分ほど前。デザイア神殿。グランドエンドを実行しようとヴィジョンドライバーを手にするスエル。彼の歩みを、ニラムが前に立って止めさせた。襟元を正しながらスエルに凄む。

「女神を育成するとは、どういうことですか、スエル。女神とは、唯一無二の存在なのでは」

 ニラムの問いに答えたのはスエルではなく、サマスであった。隣には、状況が呑み込めないと言うようなツムリもいる。

「スエル様が成功させたのです。女神の力をデザインし、再現することを。ミツメと同じ力を宿した存在をデザインし、幾度となくナビゲーターを務めさせた。そしてついに彼女は、力を開花させた」

 自身も知りえなかった情報を、サマスが語り始めたことに眉を寄せるニラム。その反応を楽しむかのように、サマスは笑みで返した。

「心当たりがあるでしょう?浮世英寿が復活したのは、ツムリ。貴方が願ったからなのです」

 ジャマ神バッファと運営の激しい戦い、そこに復活し乱入した浮世英寿。それは女神の力に目覚めかけていたツムリが、英寿の存在を望んたために起きた事だったのだ。スエルがそこで初めて口を開き、ヴィジョンドライバーを装着する。

「後継者が育った以上、ミツメは用済みだ。彼女のおかげで我々は力を手に入れた。世界を意のままに作り変える力をね」

「ひどい……ミツメさんの純粋な思いを、そんな風に利用していたなんて…!」

 女神の真実に、涙ぐむツムリ。サマスはスエルの隣に移動すると、満足げに笑みを浮かべた。

「スエル……あなた達のやり方は、リアルと言えるのですか?」

 やはりそこで、声を上げたのはニラムだった。彼はツムリを庇うように立ち、スエルたちへ凍てつくような視線を向ける。それでも、彼の心は激しく燃えていた。

「一人の女性の愛を、女神と言う虚像に変え……フィクションを作り上げた。挙句の果て、ツムリや浮世英寿を後継者とし、ソソグとゲームのように競い合う。私は、フィクションの上に成り立つデザイアグランプリに価値があるとは思えない!」

 スエルのドライバーを奪取しようと、自らのヴィジョンドライバーを懐から手に取るニラム。しかしその手は、サマスの拳銃から発せられた弾丸により砕かれた。ドライバーが血の照り返す地面を滑る。サマスは追い打ちをかけるように、ニラムの腹部を今一度撃ち抜いた。

「サマス…!」

「しょせんエンターテインメントなんて虚構そのものでは?あなたの後任は、私が」

 サマスはニラムのドライバーを拾い上げる。ニラムのスーツには大きく赤い染みが広がり、まともに立つことすらできない。ツムリに支えられて、前を向くのがやっとだった。

「使命に情熱を持ちすぎるとは、らしくない。お前も、この世界の影響を受けたか」

 スエルは笑い交じりの声でそう告げると、サマスと共に去っていく。ニラムとツムリに、彼らを追うほどの余力は無かった。

 それでも、ニラムの心はまだ諦めていなかった。

「ツムリ……私を、今から言う所定の場所へ……」

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 ニラムの肩を組み、ツムリは自らを転送するために使用していたタブレット端末を操作する。指定の座標を打ち込み、起動する。自動的に周辺情報が書き換えられて、二人の転送が完了した。

「モーンさん……!」

 両腕を有刺鉄線に繋がれて、気を失っているモーンの姿があった。血が滴る両腕とは対照的に、胸元は大きく侵食するように灰色にくすんでいた。ツムリはあまりの惨状に声が出ない。ニラムはツムリの力を借りて両膝をつける。

「感情を司るデータを抜かれている……」

「そんなことされたら、どうなってしまうんですか……?」

「感情のデータは、記憶から……っ補填することができる。だが……ここまで痛めつけられていては、長くは生きられない」

 ニラムはモーンのスカートのポケットから、変身用のカードが装填されたカードリッジを見つける。そしてモーンの腰にかざしてベルトとレーザーレイズライザーを出現させる。カードリッジを、ツムリに握らせる。

「彼女を変身させろ……ライダーのシステムが、彼女を補助するはずだ。スエルも、ソソグも、どちらも作るデザイアグランプリにはリアルが無い。私は、それを認めない。彼女に…託す」

 既にニラムもモーンにも猶予が無いと理解していたツムリは、震えながらも頷いて従う。モーンのベルトからレーザーレイズライザーを引き抜き、カードリッジと合体させる。

『MORN SET』

「お願い……目覚めて!」

 ツムリが銃口をモーンに向けて、引き金を引く。反動で尻餅をつく。レーザーレイズライザーから放たれたカード型のデータは、モーンの周囲を旋回し、仮面ライダーモーンへとその身を変身させた。

『LASER ON MORN LOADING』

「っは…!」

 モーンは肺に溜まった空気を塊のように吐き出して、意識を取り戻した。同時に、ニラムとツムリの姿を見て、状況を理解し始める。

「けほっ……はぁっ……その調子だと、あまり、良くないことが起きてるみたい、だね。貴方にも、私にも……」

「すまないが…その通りだ。この世界にはっ、今……リアルが必要。浮世英寿と、君の推しの力ならばきっと……」

 ツムリの手に握られていたレーザーレイズライザーを、ニラムは力の限り立ち上がり、モーンの手に持ち直させた。そしてまた地面にひざまずいた。

「世界を、変えろ。他でもない……君の力で。仮面ライダーを……呼ぶんだ────」

 最後に、ニラムは微笑みと後悔の入り混じった表情をすると、消滅してしまった。壮絶な最期を目にして、ツムリは絶望の表情を浮かべる。だがモーンは、より一層レーザーレイズライザーを握りしめ、力強く声を絞り出した。

「城玖君たちの所に行く。ツムリちゃん、手伝ってくれる?」

「……はいっ。これで、最後ですね」

 緊急事態であると自分を律して、モーンの装甲に指を添えるツムリ。まさかツムリが自分に対して情があると思っていなかったモーンは、仮面の下で気の抜けた顔をすると、涙を滲ませた。

「そうだねっ……バイバイっ、あなたには……もっと自分のために、生きて欲しいな───」

「……さようならっ」

 ツムリはモーンの装甲を撫でることで、瞬間移動の発動を肩代わりした。自らの手で、仲間を死地に送り込んだ事実に、ツムリはしばらく動けなかった。

────────────────────────

 俺は、地面に横たわったまま、モーンの姿を目にした。彼女の登場にソソグは動揺しているようであった。

「モーン…!カードを抜いたということは感情が消えているはず…!なぜ動ける……!」

「あなたが必要って言った、喜怒哀楽、愛……確かに一回消えた。でも、私は……それ以上にもっと、色んなドキドキを、皆に教えてもらったから……!だから忘れないよ、ダメなことなんてないよっ!」

 モーンは翼から四角錘形の羽根を分離させると、自動操縦でソソグに向かわせる。ソソグの糸が羽根の対処に一瞬向かった隙に、瞬間移動でソソグの前に急接近。手早く自分のカードを奪い取って、再び瞬間移動して距離を取った。

「動きなら私の方が速い。ソソグ、もう終わりに……うぐっ…!」

 背後から、モーンの腹が棘で貫かれた。ソソグが糸を透明にさせて、モーンの足が止まるタイミングを狙っていたのだ。透明だった糸がピンクに色づいて、操られた棘が引き抜かれる。貫通した場所から血が大量に流れて、彼女は変身解除と共に両膝を付いて座り込んだ。力が抜けたように、だらりと首が下がる。

「モーン!」「モーンちゃん!」

「ギーツが覚醒したからな。貴様の存在は不要。思い上がるな」

 彼女の身体が、虹色のホログラムとなって消え始める。また同じだ。誰も守れないで終わるのか、また……

「だい……じょうぶ。城玖君、君は…自分の足で歩けるよ……じしんを、持って……」

 モーンの、消え入るような掠れ声が聞こえた。彼女の言葉のはずなのに、なぜか奏斗や玲からかけられた言葉かのように感じた。人は、支え合って生きている。でもそれは、頼り切ってるからじゃない。一人一人が精一杯生きているから成り立つんだ。俺一人じゃ、無理かもしれないけど。

「だからって諦めるのだけはダメだ……!」

 そう思えると、もうウジウジしている時間なんてなかった。最後の力を振り絞って、俺は立ち上がった。

「変身ッ!」

『Voyage for desire!PIRATE&BLAST!』

 俺は変身と共に走り出し、モーンの前に立つ。そしてすぐにパイレーツブラスターにバックルを装填して、必殺の砲弾を放った。

『PIRATE!TACTICAL BOMBER!』

「無駄なことを…!」

 案の定、ソソグは糸を前面に張って防御する。また俺に弾き返してくるつもりだろう。それは分かっていた。

『PIRATE!TACTICAL BOMBER!』

「無駄でもいい!お前が作った物語なんか、認めてやるもんか……!俺たちは…自分の足で歩く……!」

 俺はソソグの糸の前で停滞していた砲弾に、何度も重ねるように同じ技をぶつける。糸で受け止められた砲弾は、一つの塊となってどんどん大きくなる。俺は技を撃ち続けながらも、マントを翻して、モーンの傷を治した。

「俺が食い止めてる!モーン!動くなら頼む、皆を連れて…!」

 もう一度撃ち込もうと構えると、キメラジャマトが俺とソソグの間に割り込んできた。おもむろに手の貝殻を開いたかと思うと、俺がせっかく育てた弾丸を呑み込んでしまった。殻の中で弾が弾け、腕もボロボロになったが、すぐに赤い体液に包まれて再生する。モーンの方はどうかと目をやると、怪我は治っているのに、動けずにいた。それどころか、全身から虹色のホログラムが出て崩壊を始めた。

「ウソだろ…!なんで!」

「ごめん、元から、じかんは……」

 

             *

 

 自分が起きているのか、寝ているのか。泥の中で泳いでいるみたいに体が重い。瞼の裏を見ているようだ。暗くて何もないのに、血の巡りだけははっきりと感じられる。ただ、音だけは無限に反響していて、轟戒真や、青山優、晴屋ウィンの苦しむような声が聞こえてくる。僕はきっと、ソソグに操られて、戦わされているのだろう。みっともない。僕は、人に迷惑をかけることしかできないのか。

(須井…俺たちが分かんねぇのか…!)

 城玖君の声だ。ああ、迷うことなんてないのに。君は撃っていい。その権利があるんだ。卒業式の一件で、僕はてっきり救われたものと思っていた。紅美ちゃんのことをさっぱり忘れて、未来に進めるはずだと。でも、また機会が巡ってきたら迷ってしまった。運営への憎しみが消えなかった。また、やり直せるかもしれないと思ってしまった。頭を掻きむしり、僕は耳を塞いだ。

「早く殺してくれ……考えるのが嫌だ。なにをしたって上手くいかないんだ。僕は、そういう人間だから……」

「なんて顔してるんだ」

 僕の意識しか存在しないものと思っていた。聞きなじみがある、忘れるはずがない声が響いて、僕は耳から手を放して顔を上げた。

「あなた達は……」

 ボランティア部ゆかりの人物が二人、そこにいた。赤哉君の兄、上遠橙吾さん。郁真君の叔父、綾辻誠司さんだ。二人とも、一緒に戦って、僕の目の前で死んだ。ソソグが僕の身体に同化させたIDコアには、彼らの物も交じっていたのか。だから、僕の意識に干渉を。

「まずは、ありがとう……からかな。赤哉のこと、立派に育ててくれて」

「そうだな!よく郁真を手なずけた!俺は誇らしいぞ!」

 突然の再会に何を言えば良いのかわからなかった。言葉に詰まっていると、誠司さんはずんずんと歩み寄ってくる。

「もしかしてお前……俺たちが死んだこと、気にしてたのか?」

 目を逸らしながら頷く僕に、素っ頓狂な顔をする誠司さん。そりゃそうだ、引きずるに決まっている。まだ子供だった僕を、守ってくれたのが二人だ。どっちも強くて、とても勇敢な仮面ライダーだった。失敗してばかりの、僕とは違う。本当に生きて願いを叶えるのは、この人たちであるべきだった。

「そっか。子供に背負わせるには、あまりに酷な戦いだったよね」

 橙吾さんが、僕の肩に手を乗せる。兄だったからか、年下への声色が優しい。

「君は、とっても責任感のある人だから。忘れろって言っても難しい……よね」

 気を使っているのだろう。橙吾さんはとにかく言葉を選んで、丁寧に喋ろうとしていた。そこで案の定というか、らしいと言うか。誠司さんはもどかしさを振りほどくように大声で叫んだ。

「前にも言っただろう!願いは力だ!人のために行使する願いはとても尊い。だがな、自分をないがしろにしていては、意味がないのだぞ」

「……そうだね。君は人生を、色んな人に捧げて、導いてきた。次は君が、君のために人生を生きる番なんだ」

 僕は思わず、橙吾さんの手を弾いて、二人から離れるように後ずさりをした。

「違う…!僕は利用してただけだ。自分の……紅美ちゃんを助けたいってエゴのために、ライダー達やボランティア部の人生を…!誰のためにもなっていない。紅美ちゃんも救えてないし、皆は自分の力で幸せになっただけだ…!それでもあなた達はまだ言えるんですか……僕のやったことに、意味はありましたか……?」

「「あったよ」」

 僕が長々と反省の弁を述べていたのに、二人は迷うことなくあっさりと答えてきた。また言葉が出なくて、黙ることしかできない。すると今度は、外の世界からの声が聞こえた。

(無駄でもいい!お前が作った物語なんか、認めてやるもんか……!俺たちは…自分の足で歩く……!)

 城玖君の声だった。どこまでもまっすぐで、明るい言葉だ。僕には、あんなことは言えない。かっこいいな。

「彼を、本当のライダーにしたのはお前だ!そして、彼の憧れであるダパーンに道を示したのもお前だ!お前の頑張りが、希望を繋いでいる!これでもまだ、自分はまだ何も成していないと?」

「それにね。あの世で聞いていたんだ。新井紅美さんから」

 橙吾さんに、紅美ちゃんのことを話した経験は無い。彼が知っているということは、言っていることは本当…?僕は当然のカミングアウトが近づいて、胸が痛むように感じた。紅美ちゃんは僕のこと、なんて……

「誰よりも、かっこいい私のヒーローだから、信じていいって。すごいじゃないか。最初から間違ってないんだ、君の愛情は伝わっているんだよ」

「……っ。そっか……そっか……僕も、これから幸せに……なっていいのかな」

 暗闇だった世界に、文字通り光が射してくる。城玖君とはまた別の声が僕を呼んでいた。どうやら僕は、まだ生きられるらしい。

「みんなが待ってるよ」

「達者でな。なるべく、こっちには来るな」

 二人の優しい笑顔が遠ざかって、身体が浮かび上がるように感じた。

 僕はまだ生きていたい。信じられる未来を見つけるために。

 

             *

 

「ウソだろ…!なんで!」

「ごめん、元から、じかんは……」

 ニラムの言った通り、やっぱり私は長くなかった。仮面ライダーのシステムで、無理やりこの世に留まっていただけみたい。身体がどんどん崩れていくのが分かる。怪我は城玖君が治してくれていたくないのに、死ぬなんて不思議な気分。ソソグから取り戻したカードだって、今から使ったって間に合わないかな。

「ふふっ、ははははは!今度こそ完璧に始末してくれる!」

 ソソグが私を嘲笑うと、キメラジャマトが赤い光弾を放って、城玖君に命中させた。不運にドライバーに攻撃が当たってしまい、まだ余力があるのに変身が解けてしまう。城玖君は転がりながら、私の前に伏せた。ドライバーのIDコアがひび割れてしまう。

「ちくしょう…やられた…!」

「……まだ……終わりじゃ…ないよ」

 ソソグが糸を集めて、巨大な槍を生成している。今から始めれば、間に合う。私は奏斗の使っていたIDコアを取り出して、左手で握りしめる。そして、灰色になった胸の前にかざした。

「なっ……モーン貴様…!止めろ!」

 キメラジャマトが私に向かって棘を装備して駆けてくる。私の邪魔をさせるつもりだ。

「させっるかよ!」「ぐっ!」「だあああ!」

 ウィンさん、戒真さん、青山ちゃんが毒に侵された身体を無理やり動かして、キメラジャマトにとびついてくれた。力関係はひっくり返らないけど、これで時間が稼げる。自分もと立ち上がろうとしていた城玖君に、私は声を絞り出した。カードを手にしてた右手を差し伸べる。

「城玖君…!あなた達のコアを…ここに……」

 城玖君は頷いて、ドリュー、ハイトーン、そしてシャギーのIDコアを右手に乗せてくれた。カードと共に、色が混ざり合って溶けた。私の胸の色を補うように、奏斗のIDコア光ってが融合していく。

 未来人には、自分の姿を自由にデザインする力がある。私の命の灯は消えてしまうかもしれないけど、この身体を残すことはできるかもしれない。

「私のかわりに……みんなを、助けて……仮面ライダー……!」

 ダパーンのIDコアが、私の中に完全に混ざった。虹のホログラムに分散し始めていた、私の身体が、新しい命に書き変わっていく。

「その、姿は……!」

 

 視界は冴えているのに、私の意識が消えていくのが分かる。

 

 ああ、最後にちょっとは恩返しできたのかな。

 

 さようなら、世界。そして──────

 

「おかえり、奏斗───────みんな、ただいま」

 

 俺の意識はここで目覚めた。まだモーンの残影が残る足で、俺はしっかりと地面を踏んだ。

 次第に、俺が俺として成っていく。俺が死んでいる間のことは、この身体が教えてくれた。モーンの記憶、それと、城玖の記憶が。

「墨田奏斗……モーンの身体を使って…!」

「使ったんじゃない。託されたんだ、俺は…!」

 右手をソソグに向けて突き出すと、そこで新たなバックルが生まれた。俺の瞳がピンク色に光ると、荘厳な鐘の音が鳴り響く。創世の女神の力とは違う、自らをデザインする未来人の力を、世界に適用する。蘇った俺は、その力を手に入れていた。モーンの感情の力を宿したカードと、皆のIDコアが一つなる。そして、純白のバックル・エモーショナルバックルが完成した。そのバックルは、ドーリア式の大理石の柱が二つ並んだ上に、大きく洋鐘が象られ、全体をアイビーのツタが張っていた。白と黒のみでできたそのバックルを、分離させたレーザーレイズライザーの銃身へ合体させる。

『SET BEATITUDE!』

 バックルを装填した瞬間に、レーザーレイズライザーにもアイビーのツタが伸びて、紫と黒を基調としていたグリップも白一色に変わる。柱の両端から、赤、青、黄、緑の四色のエネルギーが溢れ出て、コート中に満ち、その場を白いフィールドに変えた。ソソグとキメラジャマトがひるみ、その隙に青山たちは離脱することができた。

 右手に持ち替えたレーザーレイズライザーのレバーを操作すると、エモーショナルバックルの洋鐘が動作し、鐘の音が反響する。四色の粒子が俺の腰に集まると、デザイアドライバーとダパーンのIDコアへ変化。さらにパイレーツバックルとブラストバックルも創造され、自動的に装填される。

 俺は右手を掻きむしるように胸の前を通過させると、顔の横で手首をクロスさせる。そして左手でブラストバックル、右手でパイレーツバックルを操作。最後に、ソソグに向けてトリガーを引いた。

「変身!」

『DUAL ON!』

 俺の身体にパイレーツブラストフォームの装甲が生成されて、アンダースーツごと純白へと色が変わる。象徴的だったマントが一度硬化したかと思うと、ガラスが砕けたように分散し、モーンの背中に備えらえていたような翼へと再生成された。放たれたカード型の弾丸は、二つの三角形に分離。象徴的だった丸みのある頭部にそれぞれ突き刺さる。二つのカード型弾は頭部の形状を変化させ、シャープな流線形へとなった。

『MIXED SOULS!PIRATE BLAST!WITH EMOTIONS!』

『Ready?Fight!!!』

 俺は仮面ライダーダパーン・エモーショナルフォームへと変身した。白いフィールドが弾けて、コート全体を粉雪のように舞う。

「レーザーレイズライザーと合体するバックル、未知のダパーン…!私のシナリオには無い…!そんなものは認めないぞ!」

 ソソグが糸を操り、俺の四肢へと巻き付ける。

「奏斗!その糸を切れ!操られるぞ!」

「問題ないよ」

 俺は糸を意に介せず、一歩目を踏み出した。すると、身体に巻き付く糸が勝手に解けて、散らばって地面に落ちる。

「な、なぜだ!糸の支配は絶対のはず!」

 歩き続けてソソグに迫りながら、俺は語った。

「運営の時間操作に干渉を受けない。俺がそんな風に”創造”した姿だからな。お前の糸も、時間を捻じ曲げる類の能力なんだろ?」

 レバーを操作して、再び鐘を鳴らす。

『JOY BILL!』

 右手に緑色の粒子が集まり、巨大で細長いクチバシが生成された。そのクチバシは高速で回転して、ドリルのように空を裂く。俺は走り始め、ソソグに向けてクチバシを突き出した。

 予想通り、キメラジャマトを盾に防御してきた。クチバシは貝殻の防御を貫いて、心臓部へと突き刺さる。

「いいのか、中には広実須井が入っているのだぞ…?」

「わかってんだよ…!」

 回転するクチバシが、キメラジャマトの体表を分解し始める。空いた左手で空けられた穴に手を伸ばし、引き抜くと、須井の身体を奪還した。まだ意識が無いようで、翼から分離させた棘で安全に城玖の所まで運搬する。

「頼んだぞ、城玖」

「おう、任せとけ!」

 城玖は須井をおんぶして邪魔にならないようにコートを抜ける。青山たちも同様にコートを出る。これで戦いに集中できると、キメラジャマトの抜け殻を蹴ってソソグにぶつけた。ソソグは糸で抜け殻を跳ね除けるも、その顔には冷汗が見える。

「逃げんなよ、ここできっちり決着付けよう」

 右腕の武装を解除して、すぐさまレーザーレイズライザーのレバーを二度動かす。黄色の粒子が、鐘の音と共に左腕に五本の鎌が供えられた鉄甲鉤を生成する。

『ANGER SCYTHE!』

 自分自身を糸で引っ張り、離脱しようとするソソグめがけて手甲鉤を振るう。鎌は避けられたが、文字通り空を切った。鎌から黄色の斬撃が五つ放たれる。キメラジャマトが横槍で赤い光弾を放ち、幾つかは弾かれたが、そのうちの一つはソソグの肩に当たった。その瞬間に、ソソグの身体が猛スピードでこちらに引き寄せれられる。

「この力は…!」

「言っただろ…逃げんなって!」

 俺は翼で浮かび上がると、足部からのガス噴射で勢いをつけてソソグを正面から蹴った。ついにソソグに打撃が入り、地面へと叩きつけた。俺は手甲鉤を解除しつつ着地する。

「ぐうっ、なぜだ……わからない、貴様はなぜここまでの力を!」

「仮面ライダーだからだよ」

『EMOTIONAL SPHERE!』

 レバーを五回連続で操作し、翼、クチバシ、手甲鉤、そしてイルカの尻尾を一斉に装備する。そしてそれらの武装は一度粒子となって分散すると、俺の手元で一つのボールになった。俺はその純白に輝くボールをコートでドリブルをすると、左足から前に踏み出した。モーンの身体だからだろう、全く痛みは無い。それ以上に、皆が俺に与えてくれた力が強く背中を押していた。

 少しでもあがくつもりなのだろう、地面を突き刺した糸が、コートを破壊して、物理的に俺の足を止めようとしてくる。キメラジャマトの光弾による妨害もあった。ドリブルをしながら進みつつ、ターンやトラップを織り交ぜて避けて、距離を詰めていく。そして左足で力強く地面を踏みしめてジャンプるすると、キメラジャマトの抜け殻に、ボールを叩きこんだ。さながらダンクシュートのように叩きこまれたそれは、一撃で上半身の装甲を砕き、抜け殻を爆散させた。ここまで派手に爆発したら、再生能力も使い物にならないだろう。後の敵は一人だ。

『FINISH MODE!』

 トリガーを長押ししながらレバーを操作することで、必殺技を発動する。再び全ての武装が生成され、俺は翼で飛び立つ。そして空中でもう一度トリガーを引いた。

『EMOTIONAL MIXED VICTORY!』

 翼の角度が上向きに変わり、四色の粒子が吹き荒れる。それはブースターの代わりとなり、一気に加速。左足で放った必殺キックは防御の糸を全て斬り裂き、ソソグを貫いた。

 俺が着地すると共に武装が解除され、ソソグが断末魔と共に爆発した。爆炎の中で、虹色のホログラムに消えながらソソグは呟いた。

「まだ、諦めん……ギーツは神と成る……その限り……私は何度でも……」

 ソソグは全てを言い終わる前に消滅した。天井の穴から光が射して、俺を照らしている。バックルとレーザーレイズライザーを分離して変身を解くと、四人が俺の元に駆け寄って来た。特に城玖が嬉しそうで、人一倍声もデカかった。

「奏斗、お前!お前おいっ!帰って来たんだなぁ……!ごめんな、俺、今まで俺……ひどいことばっかりして……ホントにごめん!」

 豪快に頭を下げる城玖の肩に手を置き、元に戻るように促す。

「誰のせいとかさ、そういうのやめよう。俺は戻って来た。これからは、お前が守ってくれたものを繋ぐよ」

「…っ、ありがとう!マジでありがとう…!」

 城玖があまりにも涙ぐむので気まずくなっていると、青山と轟戒真、ウィンが詰め寄ってくる。特に青山の目がじっとりとしていて居心地が悪かった。

「ちょっと。私たちもそこそこ頑張りましたけど!?演技とかやったことないしっ、超怖かったから!もっと感謝しろ~!」

「あ~確かに。俺もいろいろ調べて肩凝ったな~。病み上がりでこのレベルのバトルはきつかったわ」

「まったくだ。何度演技をやめてソソグを殴り倒そうと思ったか」

 こ、こいつら……蘇ったばかりの人間に配慮とか無いのか…?まぁ、でも……この身体をくれたのはモーンだし、それまでの状況を作ってくれたもの、時間を稼いだのは皆だ。俺は最後にちょっと戦っただけ。ここは折れるとするか。

「わかったよ。ありがとう、みんな」

 俺の包み隠さない感謝の言葉に、全員が満足げにうなずく。その隙間を縫うように、一人こちらに歩いてくるのが分かった。須井だ、やっと目が覚めたのか。彼は目を擦りながら、俺に声をかける。

「おかえり、奏斗君。モーンに助けてもらったのかな」

「ああ。あいつもきっと……どこかで死にたがってたのかもしれないな。後悔で」

 これは俺の憶測だった。他人に利用するために作られて、言いなりになって生きた。俺と一緒にボランティア部の活動をしたり、本を読んだり、肩を並べて戦ったり……その日々は少しでも救いになったのだろうか。

「俺、あいつのために、できたことがあったのかな」

「きっと、あったと思うよ。彼女の学んできた感情が、君の力になっているんだから。間違いじゃなかったのは確かだよ」

「そうだな。そうなれるように、頑張るよ」

 俺たちがにこやかに笑い合っていると、創世の女神の物だろう。鐘の音が聞こえたかと思えば、空の色が変わり始めた。水の中に黒い絵の具を垂らしたかのように、暗がりが広がっていく。状況は、ウィンが説明してくれた。

「グランドエンドだ。エモーショナルバックルに守られてる奏斗は良いとして……」

「俺たちの力と記憶が消える、か……」

 戒真の言葉に城玖がハッと焦り始めた。

「そうだ!運営が帰っちまう。どうする!?」

「あー!そうじゃん!ソソグがいなくなったから満足しちゃってたよ!」

 慌てふためく城玖と青山。その二人をなだめるように、須井は両手を頭の後ろで組んだ。

「大丈夫だって。きっと、英寿もいま戦ってるはずだよ。ね?ここは彼を信じよう。僕たちは、できることをやった。全知全能になんてならなくたっていい。未来は僕たちの努力が積み重なってできるものなんだろう?だから今日くらい、自分を許そうじゃないか。たとえ、不完全でも」

 空を見上げながら語る須井の様子は、達観していて、でも諦めている様子も無かった。卒業式の時よりももっと、晴れやかで、すがすがしかった。

「あとの未来は君に任せた、奏斗君」

「……そうだな!奏斗、また困ったらぶん殴ってでも俺を頼れ!」

「あまり無理はしすぎるなよ」

「そういうこった。また一緒に戦おうぜ」

「みんなによろしくね!奏斗!」

 皆のドライバーが、青いノイズと共に消えていく。そして俺はエモーショナルバックルの能力で、白い粒子に包まれる。

 きっと次に目を覚ますときには、新しい世界が訪れている事だろう。

 俺たちは精いっぱいやった。次はお前の番だ、英寿。

 

             *

 

 母・ミツメとの最後の対話を終えた英寿。創世の女神の崩壊と共に、彼は決意した。誰もが幸せになれる世界を創ると。

「この世界は終わらない。お前の思い通りにはさせない」

「ギーツ…!グランドエンドは完了したはず。創世の力で抗ったか…」

 スエルが変身したゲイザーの前に現れた英寿。彼は目を深く閉じると、これまでのデザイアグランプリの戦いを想起した。

 英寿は母の力を受け継いだバックを握りしめ、自らが神と成る決意を固める。

「俺は忘れない。この世界の全てを……!」

『MARK Ⅸ!』

 ブーストマークⅨバックルは二つに分離し、ドライバーにそれぞれ装填される。

『SET IGNITION!』

「変身!」

『REVOLVE ON』

 ベルトを反転させると、バックルが展開して青い炎が溢れ出る。そしてスロットルレバーを引くことで、彼を最強の神へと変身させた。

『DUAL ON!DYNAMITE BOOST!GEATS Ⅸ!』

 仮面ライダーギーツⅨ。創世の力を宿した九尾の白狐は、暗黒の空を裂いて、青空の元に降臨した。

「俺は俺の手で叶えてみせる。理想の世界を…!」

 

          ──ルール

 

本日の番組は、演出上の不都合により終了いたしました。

 

     次回以降の放送予定はありません。

 

────────────────────────

          DGPルール 

 

   創世の力を持つライダーは、一人ではない。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「なんでお前だけライダーに?」

─ギーツの新世界に─

「俺が創り変えた世界だからな」

「どうしてジャマトがまだいるの!?」

─ジャマトの残党が!?─

「ジャマトを裏で手引きしている存在がいるはずだ」

「ツムリを第二の女神に変える」

43話 一歩Ⅰ:俺たちのデザグラ
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