43話 一歩Ⅰ:俺たちのデザグラ
グランドエンドが実行されて。デザイアグランプリの運営は多くの犠牲を残して、この世界からいなくなろうとしていた。しかし、ギーツが世界を創り変える力でそれに抵抗して……
荘厳な鐘の音。その音色を聞いた者たちは、思い出した。自らは仮面ライダーであったと。街中を歩いていた俺、墨田奏斗は、英寿の世界改変の一部始終を見届けた。実際に英寿の隣にいたわけではないのに、何が改変されたのかが把握できた。これも未来人の身体の力……いや、俺が手に入れた"別の創世の力"のおかげというべきか。
「英寿、どうするつもりなんだ。ライダーたちの記憶を戻しても、戦う力があるわけじゃないのに」
復活したばかりで、まだ分からないことが多いな。とにかくダメ元でサロンに行くとするか。もしかしたら英寿やら、その動向を知っている奴がいるかもしれない。久々に会うのは緊張するけど、しょうがない。
エモーショナルバックルの鐘を手動で鳴らして、サロンに自らを転送した。
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小高い丘に作られた自然公園。備えられたベンチからは町が一目で見下ろせる。そこに座って景色を眺めていた英寿。隣にはツムリも座っていた。
「グランドエンドは実行されたはずです。世界中がデザグラの記憶を忘れる以外は、全てを変えないまま。運営とオーディエンスがこの世界から引き上げて……」
「消えたよ。運営とオーディエンスはな」
「じゃあ私だけなぜまだ残っているのですか?」
英寿は立ち上がる。風が強く髪を叩いていた。
「まだナビゲーターが必要だからだ。俺のデザグラを続けるためにな」
「俺のデザグラ……確かにあなたの世界です」
ツムリもまた英寿の後を追うように立ち、平和な町並みを目に馴染ませていた。
*
記憶を取り戻した仮面ライダーだった者たち。その事実に無視を決め込む者もいれば、お互いにコンタクトをとる者もいた。
元仮面ライダーナーゴ、鞍馬祢音もその一人だった。家出用のスーツケースを引きながら、待ち合わせのカフェテリアへと向かう。その待ち合わせた相手と言うのが、元仮面ライダーハクビの桜井沙羅だった。集合時間きっかりだったが、早く来てしまったのだろう、机の上に乗せられたプラカップの中身である紅茶は半分以下に減っていた。祢音はがの姿を見つけると、同時に沙羅も気付いて手を振って来た。
「祢音ちゃん!」
「沙羅さん…!ごめんなさい、突然呼び出したりして」
頭を下げる祢音に、沙羅は焦り気味に明るい声を出す。
「ううん!全然!それよりもさ、記憶が戻ったって本当?」
「うん。変だよね。私たち、バッファに倒されて…」
デザイアロワイヤルの延長戦にて、二人はジャマ神バッファに敗北。IDコアを砕かれた。通常、記憶を司るデータを持つIDコアが無ければ、思い出すこともできない。
「二度とライダーになれないはずなのに、ライダーだったこと覚えてる。なんでなんだろう…」
「景和は?」
「私たちと同じだよ」
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一方、アパートの一室の桜井家。元仮面ライダータイクーンの桜井景和は、クローゼットやあらゆる収納をひっくり返していた。
「あれ…?やっぱりドライバーが無い……でもなんで記憶が戻っているんだ?」
彼の探し物こそ、グランドエンドにより消えた自分の力だった。まだ英寿からなにが起こったのかを説明されていない景和は、ただ困惑するばかりだった。
その時、玄関のチャイムが鳴らされた。景和ははいと返事を返しながら、ドアスコープを確認することも無くドアを開ける。その先に立っていたのは、元仮面ライダーバッファの吾妻道長であった。
「うおっ!なんでここに!?」
「上がるぞ」
混乱する景和を他所に、道長は靴を脱いで桜井家に押し入った。じろじろと壁や床の仕上がりを観察する。
「なんで俺んち知ってるの!?」
「意外といい家住んでんな……」
道長がソファーに腰を下ろし、腕を組む。戦う様子のない彼に、景和は状況確認をしに来たのだと理解した。道長も突然のことで、情報が足りていないのだ。景和は散らかした洗濯物を拾い、畳みながら問う。
「はぁ……君もライダーの記憶が戻ったの?」
「あの時確かにグランドエンドが起きて、全てを忘れたはず」
グランドエンドによって力が消えたのは、道長も同じだった。ジャマ神の力を持とうとも、運営の力には抗えない。
「でもライダーだったことを覚えてる」
「こんなことは初めてだ……」
*
公園から自分たちを転送して、デザグラの運営施設の跡地へ向かった英寿とツムリ。サロンへとつながる扉の前まで来たところで、英寿の足が止まった。
「中に誰かいる」
「え?」
警戒を促す英寿。しかしツムリは、扉の向こうにいる存在に懐かしさを感じた。つい先ほどまで、共にいた人物の気配があったからだ。
「……モーンさん!」
その言葉に英寿の反応を待たず、ツムリは自動扉を抜けてサロンに入室した。しかし、サロンのソファーに座っていたのは。
「あ……ツムリ、あんたは消えてなかったんだ」
「奏斗様…!?」
待ちくたびれたと言うように、奏斗が手を組んで座っていた。意外な人物に次の言葉が出ないツムリ。後ろから追いかけてきた英寿も、開いた口が塞がらあない様子だった。昔の仲間を懐かしむよりも、驚きの方が先に来ている。
「ダパーン…!?お前、なんで生きてるんだ」
奏斗は何処から話せばいいかと詰まりながらも、自らのエモーショナルバックルを取り出しながら語った。
「えーと……モーンが、俺のIDコアを取り込んで蘇らせてくれたんだ。この身体の主導権は今俺になってる……彼女の意識は死んでしまった。そのときのゴタゴタで……俺も創世の力に似たものを手に入れた」
「そうなんですね……」
情報量に圧巻されるツムリ。奏斗の一通りの説明を聞いた英寿は、久方ぶりにニヤリとした笑いを見せた。当の奏斗は、うわでた…という顔をしていたが。奏斗の向かいに腰かけ、彼も自ら手にしたギーツⅨバックルを机に置く。
「なるほど。まさかお前が俺に近い力を手にしてたなんてな。俺のは母さんからもらった力だ。ソソグとやらが手引きしてきたらしいが……決めたのは俺だ。俺は自分自身の意志で決めた事に、後悔は無い」
「わかってるよ。お前は、人に言われてどうこうするような、柔い性格じゃないって嫌ほど知ってるし。で、次はお前がデザグラをやるの?ライダーの記憶を戻したりして」
奏斗の視線の先には、机の上に重ねられた、ミッションボックスがあった。どれもデザイアドライバーとバックルが収納されている。その他にも、長方形の黒い盆の上には、タイクーンとバッファのIDコアもあった。
「ああ。忘れるわけにはいかないんだ。多くの犠牲も、理想を願う心も」
「歴代のライダー全員の記憶を、英寿が戻したんです」
「ライダーの運命を決めるのは運営じゃない、あいつら自身だからな」
英寿の始めるデザイアグランプリの運営方針とは、仮面ライダーたちが、自分の意志で世界を守るというものであった。たとえ見返りが無かったとしても。その意図を理解した奏斗は、何度か頷くと、英寿に手を差し出した。
「わかった。俺も手を貸すよ。運営も完全に消えたわけじゃないだろうし、人手は多い方が良いだろ?」
英寿はまた口角を上げると、がっしりと握手を交わした。
「助かるよ。ありがとな、戻ってきてくれて」
久しぶりの仲間との会話に、奏斗は多めに瞬きをして手を離した。英寿はタイクーンたちのIDコアを見下ろしながら語る。
「本当は他にも叶えたいことがあったんだ。今の俺にはこれで限界だった。砕かれたナーゴやハクビのIDコア、お前の力なら戻せないか?」
奏斗は少し考えると、首を横に振った。
「多分無理だ。素材が足りない。英寿、お前の世界を書き換える力とはジャンルが違うんだ。俺のは、そうだな……自分起点で、近くにある物に干渉して作り変えられるって感じ。ゼロからは難しい。彼女たちのIDコアを作るなら、その人の記憶がうんと入った別のIDコアが必要だ。タイクーンのIDコアを消費しても良いってなら、話は別だけど……景和が許さないだろうな」
「なんでも上手くはいかないもんだな」
そう呟いた英寿の腹が鳴った。ここしばらく、食事をしていなかったのと、創世の力で体力を大幅に消費したからだろう。
「異様に腹が減った……」
気の抜けた様子で呟いた英寿に、奏斗はあきれ顔をするのだった。
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ツムリがお椀に入れてくれた蕎麦をすする。空になったお椀に、直ぐに次の蕎麦がいれられる。まさか蘇っての初めての食事が、わんこそばだなんて。美味しいけど。いや、年越しにも引っ越しにも蕎麦を食べるし、意外とわんこそばもめでたいのか…?英寿の粋な計らいとか……
顔を上げると、俺の倍のペースでそばに胃にかき込んでいた。違うわ。お祝いとかじゃないわ。普通に英寿が食べたいだけだこれ。
「食いすぎじゃないか…お前」
「本来、女神が創世の力を使うには、脱落者の理想を願う心……私たち未来人の言うギラギラが大量に必要でしたから。英寿、あなた一人の力で願いを叶えるのには限度があるんです」
ツムリは淡々と蕎麦を英寿の椀に入れながら説明した。英寿も食べながら語る。
「少しずつ叶えていくしかないな。誰もが幸せになれる世界を……。逆にお前は食わなさすぎじゃないか?」
既に八十以上お椀を重ねている英寿に対して、俺はまだ三十だ。んな無理を言われても……
「あんまり腹減ってないんだよ。この身体になってから。味はわかるけど」
「未来人にとって、現代人の食事は嗜好品のようなものですからね。元々食べなくても大丈夫なんです」
「そうか。難儀な身体だな」
英寿は若干煽るような表情をすると、次の蕎麦に手を付けた。くそ、絶妙に腹持ちならない所は全く変わってないな。こっちだって元運動部だ。現役の時はそれなりに沢山食ってた。負けられるものか。
そう思って箸を持ち直すと、いつものように。サロンの空間に映像が表示された。街中でポーンジャマトが暴れている。一つはスケートボードができる公園、もう一つは多目的アリーナの屋外駐車場だった。
「ジャマト?まだ生き残りがいたのか」
「グランドエンドによって、全てのジャマトが消えるわけではないんです。生き残ったジャマトが、後に神話や魑魅魍魎の伝承として語られることも……」
なるほど。確かに日本の妖怪も、当時の勘違いや犯罪者が曲解されたものであるとも聞いたことがある。ジャマトもそれの一員になっていたという訳だ。
「そんなことだろうと思ったよ……」
「伊達に二千年は生きてない…ですか。タイクーンとバッファにドライバーを届けますか?」
「言ったろ。決めるのは俺たちじゃない」
概ね同意だ。ただどうしても、俺は英寿ほどまだあいつらを信じられてはいない。自分の中で最後に記憶に残っているのが、ジャマトグランプリ最終戦のあいつらだからだ。どっちも悪人ではない。ただ、道長は割り切りすぎている。景和は、家族のことになると危ういし、場合によっては昔の俺くらい視野が狭い。あいつらが望まない限りは、戦いから遠ざけておくのが無難だと思う。
「じゃあ決まりだな。俺は駐車場の方に行く」
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現場に到着。ジャマトは当たりの車のガラスを割りつくして暴れていた。一般人は近くにおらず、遠くの街路樹のあたりであたふたしてるくらいだ。それでジャマトは破壊行為を辞めようとはしていなかった。
「目的も無く暴れてるってわけか?」
『SET BEATITUDE!』
エモーショナルバックルとレーザーレイズライザーを合体させて、純白のフィールドを展開する。ポーンジャマトがそれに困惑している内に、鐘をレバー操作で鳴らし、ベルトとバックルを出現させる。右手で首元を掻きむしるような動作をした後、両腕を組む。その腕を下すのと同時にベルトのバックルを操作。そしてポーンジャマトめがけてトリガーを引いて、仮面ライダーダパーン・エモーショナルフォームに変身した。
「変身!」
『DUAL ON!MIXED SOULS!PIRATE BLAST!WITH EMOTIONS!』
白いフィールドが弾けるのと同時に、レーザーレイズライザーで銃撃しながら接近する。ポーンジャマトはエネルギー弾をスレスレで避けて、自ら窓を割った車の陰に隠れる。物陰を利用して逃げるつもりだろう。させるか。
『SORROW TAIL!』
レバーを三度操作して鐘を鳴らすことで、腰から青いイルカの尾を生成する。その場でターンして尻尾を振るう。尻尾は自動車をすり抜けて、ポーンジャマトのみを攻撃。再び開けた場所に戻した。クチバシが分離、鉤爪が重力操作の力ならば、尻尾は透過。攻撃する対象を自由に選択できる。ポーンジャマトはとにかく逃げ腰で、こちらと戦う様子は見せずにまた走って隠れようとする。
「鬼ごっこをするつもりはない…!」
俺は地面に手をついて、創世の力を発動した。鐘の音と共に、周囲の車の窓ガラスが修復され、逆にポーンジャマトの足元の組成が組み換わる。足首から下を完全に固定されるように、アスファルトの作りを変えた。これでもう逃げられない。俺はベルトのパイレーツバックルに備えられた舵輪を回すことで、パイレーツブラスターを召喚した。そして、ブラストバックルを外して、その武器にはめ直した。
『BLAST TACTICAL BOMBER!』
銃口から放たれる二つの空気弾がポーンジャマトに迫る。どうやら腕から木の幹を生やして防御を行ったようだが、空気弾は構わずポーンジャマトを撃破した。ポーンジャマトはいつも通り爆発する。しかし、中から現れたのは生身の人間だった。
「…っ、なんだ!?」
俺は慌てて地面の組成を組み換え直し、地面とアスファルトを分離させた。ポーンジャマトの中にいたのは、いたって普通のサラリーマンだった。そこでまた、異変に気付く。サラリーマンの胸元辺りから、肉眼でもギリギリ見えるくらいの小さなポーンジャマトが出てきていた。重ね重ね何なんだ。見たことない特性……!
「悪いけどほっとく理由も無い…!」
レーザーレイズライザーからの銃撃で、小さなポーンジャマトはあっけなく焼け死んだ。大きさにして二センチくらいだった。寄生していたとでも?さっきの新技と言い、生き残りというわりにはおかしな進化をしている。
「ああ!寝てる場合じゃな~い!遅刻遅刻!」
「ちょ、あんた!」
俺の声も聞かず、寄生されていたサラリーマンは目覚めるなり走り去っていった。身体に異常が無いのならいいのだが。俺はバックルとレーザーレイズライザーを分離して変身解除する。
「調べる必要がある、か……」
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『BOOST TACTICAL VICTORY!』
ギーツⅨは右手に装備したギーツバスターQB9・ブレードモードにおける必殺の斬撃で、ポーンジャマトを撃破した。そしてダパーンが経験したように、ポーンジャマトから、小型のポーンジャマトが出てきて、焼け死んだ。寄生先は生真面目そうな警官で、すぐに仕事へと戻っていった。
「今までのジャマトとは違うな。放っておけば、面倒な進化を遂げそうだ」
「英寿!」
変身を解いた英寿の元に、なじみの仲間が二人。景和と道長だった。まるでこれまでの因縁が無かったかのように、英寿は軽く挨拶で返した。
「ギーツ…!なんでお前だけライダーに?」
「俺が創り変えた世界だからな」
英寿の持つブーストマークⅨレイズバックルを目にした道長は、全てを理解する。
「俺たちの記憶が戻ったのも、お前の仕業か」
「またデザグラが始まったの!?」
「ああ。でも運営してんのは俺だ。創世の神としてな」
女神の力を受け継いだことを知った景和は、声のトーンを下げた。未来人の脅威が無い今でも、女神への恨みは健在だった。
「母親の後を継いだってことか…?」
「そんなところだ。この世界で生き残ってるジャマトの残党を片付けないとな。お前らもエントリーしたいか?強制はしないぞ。見返りがなきゃ、戦う理由が無いもんな」
決断を迷う二人を置いて、英寿は公園を立ち去った。
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英寿が消えた後、残された景和と道長。新生デザグラに対してどう思うか、腹の探り合いだった。
「君はどうするの。エントリーするの?」
「さあな。お前は?」
道長の問いに、景和はポケットに手を入れ語る。
「創世の女神はもういなくなっちゃったからね……もう罪を償わせることもできないし……」
「ギーツが戦っているのは、あいつなりの償いなのかもな」
たとえそうだとしても、景和の心は曇ったままだった。
*
「着きましたよお、こちらです~」
合流していた沙羅と祢音が向かったのは、都内の高級タワーマンションだった。祢音が仮面ライダーであるということを思い出した、ということは、本当の家族の一員ではないことを思い出したことになる。そうなると、鞍馬家に留まることはできなかった。ならばすることは一人暮らしである。業者の男性は丁寧に資料を渡しつつ、部屋へと案内した。
「この物件凄いですよ~こちらみてください~、日当たりも良いですし駅からも…」
「買います、一括で」
祢音はさっと資料に目を通すと、即決した。うん億円する部屋をさらっと。数秒前までニコニコしていた沙羅も、流石に大声を出して驚愕する。
「ええええ!な、中見なくていいの!?」
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購入したばかりの部屋は、家具が無い分余計に広く感じられる。そこに向かい合って体育座りをする二人。
「スーパーセレブは買いっぷりが違うねぇ」
「一人暮らしとか初めてだから……緊張するなぁ」
沙羅は顔が曇っりきりの祢音に、正座で向き直ると、穏やかな笑顔を見せた。
「大丈夫、私に何でも相談して?」
「ありがとう…!でも、びっくりだね。英寿が創った世界に変わってたなんて」
数分前、沙羅の元に景和から連絡が入ったのだ。グランドエンドの最後に、英寿が創世の力を手にして抗ったことを。
「多分、英寿だけじゃないかも。グランドエンドの時……城玖君たちにも何かあったんだと思う。これ見て」
そう言って祢音はスマーフォンでSNSで拡散された動画を見せた。その動画に映っていたのは、駐車場で戦っていた白いライダーの姿。
「奏斗君…?蘇ってたの!?じゃあなんで私たちに教えてくれないんだろ?」
「仮面ライダーになれない私たちとは、関わりたくないって感じなのかな。天邪鬼だし、事なかれ主義というかねぇ。まぁ、あの二人が守ってくれるなら安心かな」
口を尖らして批判しているわりに、祢音の声色には棘が無い。世界の話題もほどほどに、気になるのは今の生活だ。祢音は部屋全体を見渡すと、沙羅に首を傾げた。
「で……家具っていつ揃うの?」
「いやいやいや?庶民は自分で買いそろえるんだよ。でも大丈夫!私がソファーからカーテン、電化製品も、ぜ~んぶ一緒に選んで揃えちゃる!」
「沙羅さぁん…!」
祢音は感激のあまりに抱き着き、沙羅は至福の笑顔を浮かべるのだった。
*
再びサロンで落ち合った英寿と俺。自らが戦っていた際の映像を眺めながら話し合う。
「やっぱり英寿が戦ったのも、寄生タイプだったのか」
「野生の割には、進化が速すぎるな」
ツムリは映像を地図へと切り替える。地図にはポーンジャマトが出現した地点に緑のピンがったっている。だが、いつものように赤いバリアが広がっているような表示は無い。
「ジャマーエリアが展開されているわけではありませんね……」
「ゲームじゃないとすると、ジャマトの単独行動ってわけだ」
英寿の推測通りとするなら、このジャマト騒動において未来人は関わっていないということだ。それだけならまだいいが……不安要素はある。ジャマトの先導者であるアルキメデルは、英寿と道長が倒したはず。その後を継いだ奴がいる可能性がある。それがいったい何者なのか……どうしても俺の記憶は城玖やモーンの視点になってしまうので、確信は持てない。俺が悶々としていると、自動ドアを開いてサロンに入って来るものがいた。
「なんだか世界が穏やかじゃねぇなぁ」
「晴屋ウィン…!お前グランドエンドで記憶を失ったんじゃ…!」
「よっ、さっきぶり。俺も運営の一人だったからな。特典ってやつさ。力が足りないってなら手を貸すぜ」
ウィンはソファーに深くもたれかかる。仲間が増えたことに英寿はあからさまに嬉しそうだ。
「ノーギャラでもいいってならな。その代わり、金じゃ買えない幸せが手に入るカモ」
「ったく、相変わらず人を化かす天才だな」
俺もそう思う。とにかくの問題は。
「ジャマトを裏で手引きしてるやつがいるってことだな」
「ああ。スエルやソソグがこのまま引き下がるとは思えねぇ。運営の動向は俺が探っておく」
「助かるよ」
ウィンと英寿は拳を突き合わせた。彼が運営を探ってくれるなら、こっちはジャマトの対処に集中できる。これはありがたい。新生デザグラ運営のメンバーの結束がさらに強くなったように感じた。
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運営の件はウィンに任せ、俺たちが向かったのはジャマーガーデンの跡地。人がなかなか踏み入ることのないこの地は、まだ瓦礫や残骸が散乱していた。それでも、植物は侵食して瓦礫は緑に消えようとしている。ジャマトの遺伝子が植物の成長に干渉してたりするのだろうか。
「手がかり、見つかるといいのですが…」
「二人とも、これを見てくれ」
英寿が急にしゃがみ込んだので、俺とツムリは後ろから覗き込む。広葉樹系の葉に、透明な液体が滴っていた。普通に汚い。
「ジャマトの体液のようですね」
尚のこと汚い。それに加えて。
「まだ新しいな……」
「やはりジャマトがここに…もう少し奥に…」
突然、英寿が指を立てて俺たちを静止した。何者かに気付いたようだ、俺も辺りを警戒すると、確かに聞こえる。山中を疾走する足音。そして、黒いフードを目深に被った男の姿。
「誰だ…!」
俺と英寿は同時に走り出し、男を追いかける。が、相手には地の利があったようで、すぐに行方をくらましてしまった。息をひそめたのか、それとも何らかの能力を使ったのか。とにかく、これ以上の追跡は難しそうだ。足を止めた俺たちは、湿っぽい地面に残された足跡を見つめる。それは、途中で不自然に途切れていいた。がしかし、確かにそれは。
「ジャマトじゃない」
「人間……?なんでこんなところに」
謎を解き明かすばかりか、疑問が増えてしまった。
*
屋外の休憩所で、履歴書を書く景和。自らが恨むべき創世の女神はもういない。女神がいなければ、亡くなった犠牲者たちを取り戻すことはついぞ叶わない。ジャマトの残党も、英寿がいればたいていは何とかなるだろう。地に足のついた職を身につけなければと、履歴書を書くのに至った。
「いけね……」
半年以上も戦っていれば、頭の中にはどうしてもよぎる。『職歴:仮面ライダー』と無意識に書いてしまい。景和は履歴書をくしゃくしゃに潰した。ため息を吐きながら顔を上げると、向かいの机に粒のように小さいポーンジャマトが目に留まった。
「ジャマト…?」
景和が観察していると、ジャマトは休憩していた男子大学生の胸に跳びつき、寄生した。一瞬のうちに植物が身体を侵食し、大学生はポーンジャマトに変貌した。人々は悲鳴と共に蜘蛛の子を散らしたように逃げはじめ、ポーンジャマトは机を蹴飛ばして暴れ始めた。景和は反射的に人々の盾となり、ポーンジャマトを羽交い絞めにする。
「いまのうち!逃げて!」
景和がポーンジャマトを抑えているが、逃げようとしていた一般人も苦しみだし、ポーンジャマトに変わってしまう。一人、また一人と寄生され、五体に増えて景和を取り囲む。別の個体に殴られ、羽交い絞めを解いてしまう。
「いったいどうなってるんだ…!」
一体のポーンジャマトが短剣を装備し、振りかざす。景和は腕を組んで防御の構えを取った。しかし、そのポーンジャマトは駆けつけた奏斗に蹴り返された。
「危ない所だった」
「奏斗君…!?なんで」
「詳しいことは後にしてくれ。お前はまだ寄生されてない人を任せた!」
景和は驚きながらも、なんとか自分を納得させて、避難活動に映る。その間に奏斗はエモーショナルバックルを使用して仮面ライダーに変身した。
「変身!」
『DUAL ON!MIXED SOULS!PIRATE BLAST!WITH EMOTIONS!』
仮面ライダーダパーン・エモーショナルフォームの姿を見た景和は、ただ息を飲んで驚愕した。それを知らず、ダパーンはレーザーレイズライザーによる射撃でポーンジャマトの短剣を砕いた。そしてゆっくりと前進しながら腕のサーベルを構え、一対五の戦いに挑んでゆく。
「ったく、見ない間に大層な姿になりやがって」
一般人を逃がしきり、呆然とする景和に、一人の男性が話を振った。タイクーンのサポーター・ケケラだ。ただ景和は人間体のケケラを始めてみたもので、一般人と勘違いして逃がそうとする。
「ちょ、危険ですよ!逃げてください!」
「わかんねぇか?俺の声。ほら、桜井景和!」
ケケラがしゃがんでいつもの置物と同じポーズをしたところで、ようやく景和は正体に勘付いた。
「ケケラ…!この世界からいなくなったんじゃないのか?」
「ちょいとこの世界のビザを手に入れてな」
そう言ってケケラが見せたのは、最後のあがきで女神に叶えさせた願いが記されたカード。理想の笑いを得るまで、この世界に存在できる権利。
「お前はこのままただの一般人で終わるのか?お前は本物の仮面ライダーになるんだ」
ケケラの手を叩き落として、強く睨む景和。
「何が目的だ…?」
「誰かがジャマトに襲われてても、お前は見て見ぬふりできんのか?それとも、ギーツとダパーン。信用できねぇ奴らにこの世界を任せられるか?」
そんな二人の会話を他所に、ダパーンはレバーを四度操作。展開している翼を水平に変形させる。
『PLEASURE WING!』
メカニカルな羽根の隙間から赤い波動が一気にあふれ出し、ダパーンを高速移動させる。その高速移動の間に、ポーンジャマトを次々と殴りつけ、一か所にまとめ上げた。加速をやめ、翼を閉じると同時に、今度は手甲鉤を装備する。
『ANGER SCYTHE!』
手甲鉤を盾に振り、五本の黄色い斬撃を発射。これを受けたポーンジャマトたちは、急激に重量が増加。一塊になったままそこから一歩も動けなくなる。そしてダパーンは接近しながらクチバシを右腕に装備。回転させながら突き出した。
『JOY BILL!』
回転したクチバシは一斉に五人の一般人に作用し、ポーンジャマトと分離させた。そして左腕のアンカーを射出。ポーンジャマトの抜け殻だけを縛り上げ、一般人から振り放した。一般人は重力操作から逃れ、その場で倒れる。ダパーンは鎖で拘束を固めたまま、クチバシと手甲鉤の武装を解除。パイレーツブラスターに、パイレーツバックルを装備して必殺技を発動した。
『PIRATE!TACTICAL BOMBER!』
パイレーツブラスターから放たれた二つの白い砲弾は、縛られて逃げられないポーンジャマトたちを一撃で砕いた。その爆風で、本体であった小型の寄生ジャマトも焼き尽くされた。
「すっげ……」
力を持たない景和は、その力をじっと目に焼き付けていた。その背後で、ケケラも口角を上げて目を大きく開いた。
「人のピンチを見て見ぬフリできない。それでこそ、俺の推しってもんだ…」
*
一度沙羅と別行動を取り、町をふらついていた祢音。家具のことは今すぐはしょうがないが、食事だけでも確保せねばと町に出たのだ。全部を全部、沙羅に頼りきと言うのは、祢音にとって流石に申し訳なさ過ぎた。それでは鞍馬家から自立して生活しているとは言えない。
そんな彼女の目にとびこんできたのは、ビルの大型ビジョンに映されたニュースだった。
『速報です。鞍馬財閥の総帥・鞍馬光聖さん宅に先程、東京地検の家宅捜索が入りました』
「え…?」
衝撃のニュースに、祢音も足を止める。鞍馬光聖はこれまで政府に働きかけ、ジャマトの情報が世間に流布しないように手を回してきた。創世の力と言う恩恵をちらつかせることで。グランドエンドにより運営が未来へ撤退したということは、もう創世の力は使えない。ならば、今更鞍馬財閥に恩義を図る必要も無い。政府側に嫌疑がかかる前に、足切りにされてしまったのだ。
祢音がそのニュースに耳を傾けていると、またしても通行人が苦しみだして、ポーンジャマトにその身を変えた。現れたポーンジャマトは、直前まで一緒に歩いていた彼氏に襲いかかる。祢音は突然のことに困惑しながらも、買い物袋を投げ捨てて、ポーンジャマトと一般人の間に割り込む。
「逃げて!」
ジャマトの短剣の刺突を避け、関節技で抑え込もうとするが、力の差は埋められず投げ飛ばされる。
「うっ…ライダーの力があれば…!」
祢音にジャマトが短剣を命中させる直前、青い炎と共に加速した白狐・レジェンドキュウビが弾き返した。祢音が後ろを振り返ると、英寿がドライバーを装着した姿で立っていた。
「英寿…!」
「後は任せろ。変身!」
『DUAL ON!DYNAMITE BOOST!GEATS Ⅸ!』
仮面ライダー・ギーツⅨに変身を遂げると同時に、青く地面が裂け、ポーンジャマトが吹き飛ばされる。それだけでポーンジャマトは大ダメージを受け、立っているだけでもフラフラの状態になってしまう。それでもギーツⅨに向かって走るが、鐘の音と共に、水晶の塊に閉じ込められた。
『BOOST CHARGE!』
ギーツⅨはギーツバスターQB9・レールガンモードにエネルギーをチャージし、引き金を引く。
『BOOST TACTICAL VICTORY!』
放たれた青いレーザーは一撃でポーンジャマトを粉砕。寄生されていた一般人から抜け出してきた寄生ジャマトも、精密な射撃で撃ち抜き倒した。
「大丈夫か?」
ギーツⅨは目を開いた一般人に歩み寄る。一般人は元気に戻っていて、感謝の意を述べながら彼氏と共に帰っていった。
「どういうこと?どうしてジャマトがまだいるの!?」
「今までとは違う方法で、ジャマトになった可能性がある」
祢音の疑問に答えるギーツⅨ。これにて一件落着かに思われたが、まだ終わりではなかった。すでにどこかで寄生されていたのだろう。周囲に集まりだした一般人が、一斉にポーンジャマトに変身。十体以上の群れを成してギーツⅨに刃を向けた。
*
戦いから離れ、行く当てもなく歩いていた道長。そこに声をかけてきたのは、決別したはずのサポーター・べロバだった。
「ライダーじゃないと暇そうねぇ」
「なんでお前がここに、べロバ…!」
露骨に不快な顔をする道長に対して、べロバは再会に満足げだ。
「帰るわけないでしょ。あんたの不幸を見るまでは」
べロバが見せたカードに書かれた願いは、ケケラと同じようにグランドエンドの直前に叶えられたものだった。理想の不幸を見るまで、この世界に存在できる権利。べロバはにやにやしながら道長に絡む。
「ギーツとダパーンに任せてていいの?ジャマトは着々と進化を遂げてるのよ」
「進化?どういう意味だ?」
道長の話をまともに取り合うべロバでもなく、舌を出して返した。
「べ~っ!あはははっ!教えないわよ。ライダー引退して幸せになろうとしてる人にはね」
「誰が……」
決意と共に去る道長を、べロバは満足げに眺めていた。
「そうよねぇ、あんたはそういう男よねぇ……さ、ここからね」
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謎の研究室。ジャマーガーデンからジャマトの種子を持ち帰った男は、こらい笑いをしながらフードを脱いだ。
「ふふっ、ふふ……この世界は、生まれ変わろうとしている……!」
男は虫眼鏡を持ち、フラスコの中身を覗いた。小さな寄生ジャマトたちが、フラスコ内で無数に繁殖している。寄生ジャマトを手引きしているこの男、元仮面ライダーナッジスパロウの五十鈴大智その人である。IDコアをバッファに砕かれ、彼にとって必用となるときが来たのだ。ジャマトの力が。
「我こそが新世界を支配する、ジャマ神…!始めようか…パラサイトゲームを!」
顔にまでジャマトの意匠が侵食した彼は、寄生ジャマトを再び野に放った。
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現れ続ける寄生ジャマト。対応に追われるギーツⅨ。その様子を、ビルの屋上から観察する者がいた。
「スエル様からの指令です。ギーツとダパーンを亡き者にし、阻止されたグランドエンドを完了させろと」
サマスの視線の先にいるのは、ギロリでもチラミでもない。新しいゲームマスター。仮面を着用したまま、オペラグラスでギーツⅨを凝視している。
「お安い御用だ」
「両名共に創世の力を持っていますが…」
「創世の力には、創世の力で対抗すればいい」
ゲームマスターは仮面を脱ぎ、素顔を露にする。彼の名はジット。かつて奏斗に、鵜飼玲のバッドエンドを視聴させた男である。
「ツムリを第二の女神に変える」
DGPルール
この世界にジャマトは
存在してはならない。
次回:仮面ライダーギーツ外伝
「ここでお前を倒して…グランドエンドを止める!」
「ほぉ……やってみろ」
─パラサイトゲーム─
「ようやくあんたの不幸が拝めそうね」
─ターゲットは─
「沙羅さんを探せ!」
「姉ちゃん…?姉ちゃんッ‼‼」
44話 一歩Ⅱ:この世ならざる者たちへ