仮面ライダーギーツ外伝 一歩IF:片脚の男   作:みなかみ

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4話 邂逅Ⅵ?:信用と缶けり

 

 デザイアグランプリの過酷な戦いによって、多くの参加者が脱落していく中、勝ち残ったのは四人。理想の世界を叶えられるのは、この中の一人だけ…今までのゲームで、最初に弾かれた者を除くと、退場は一人、脱落は二人。どうやら、脱落と退場では意味合いが変わるそうだ。ジャマトにやられ命を落とすと退場。この世界から存在が消える。逆に、脱落は記憶を消され、元の生活に戻ることができるそうだ。

 と、なるとだ。俺のせいで脱落した鞍馬祢音は、デザイアグランプリの存在を忘れ、家出系配信者として今も名を馳せている…だろう。正直興味は無い。他人が家出をしてる様子なんか見て、何が楽しいんだか。俺には理解できない。

 俺の通っている学校では、前日に迫った学園祭の準備が進んでいる。毎年この時期はどの生徒も、勉強から開放された空気に色めく。二日間にわたり行われる学園祭の最終日には、一発だけ打ち上げ花火が上がる。その瞬間をどうにか異性と一緒に見ようと、恋に飢える者は、獣のような視線を光らせ、あれやこれやと策を謀るのである。等の俺は、教室で一人寂しく購買で買ったパンを食べている。これは別に孤独な訳では無い。俺がただ誰とも関わりたくないだけ……。

 明日の出店、たこ焼き屋の設置が済んだ教室では、クラスメートがそれぞれグループに別れてご飯を食べている。何やら、近くに座っていたイケイケの女子がスマホを見ながら驚いている様子だった。

 偶然にも、話し声が耳に届く。何だって…?

 

              *

 

 居心地の悪い教室を出ると、廊下は一面色とりどりの紙やダンボールの装飾で彩られていた。目がチカチカしてしょうが無いので、階段を登って屋上を目指す。

 この学校の学園祭では、一日目に教室で出店を行い、二日目に体育館でクラスや部活動で練習した出し物をやる、という具合だ。どこにでもある、何の変哲もない学園祭…。反吐が出る。誰もがそんな青春を渇望してるでもないのに。こんな行事、くだらない。誰がこんなものを日本に定着させたんだ。もし過去に行けるなら、殴ってでも阻止したい。

 そもそもこの学校のモラルが終わってるんだ。放っておけば、ほら。階段の踊り場の隅に、隠すように空き缶が捨てられていた。学校の中でポイ捨てをするなんて、精神がどうかしてるとしか思えない。俺は空き缶を拾い上げ、屋上へ出た。

 ひゅうと勢いの強い風が吹いて、前髪を揺らした。緑色の柵に囲まれた屋上からは、町の景色が端から端まで一望できる。もちろん、桜井景和と遭遇した公園も。足の怪我のせいで遠出はできないが、この前は自転車で遠くのドラッグストアまで行けた。怪我は回復しつつあるのかもしれない。俺は屋上の階段の横に置かれたゴミ箱を見る。右手で缶を掲げ、膝を曲げる。現役時代のフリースローを思い出し、俺は左足でジャンプしながら、缶を投げようとした。

 が、すんでのところで左足がズキリと痛み、俺は屋上の地面に膝をついた。制御を失った缶はゴミ箱の縁を弾き、扉の前に落ちた。くっ、そっ。まだ何も治ってない。最近の溜まっていた疲労が一気に痛みになって帰ってきた。俺はコンクリートの地面を叩く。拳の皮膚が破けて、少し血が滲んだ。

「ポイ捨ては良くないな、墨田奏斗君」

 階段を囲う立方体の壁の影から、一人の男が現れた。その男は、学校の制服を一寸の乱れなく着こなしている。肩にホコリ一つ見えない。だが知らない男だ。上の学年だろうか。男は俺が捨てそこねた缶を拾う。

「見りゃわかるだろ。俺はゴミを捨てようとしただけだ」

 勘違いしやがって。このクソ野郎。お前も俺に説教するつもりか?だいたい、何故俺の名前を知ってる?

「ああ、ごめんごめん。からかっただけだよ」

 男は俺の前にかがみ込み、缶を目の前に置いた。

「僕の名は広実須井。端的に言うと、勧誘しに来たんだよ。僕が部長を勤める、ボランティア部にね」

 ボランティア部?あの偽善部のことか?うちの学校ではボランティア部の悪名は高い。何も、部活に構成する殆どの部員が、人間関係を拗らせて部活を追われたり、以前素行不良で目を付けられていた生徒ばかりだと言う。人間性に問題がある者を片っ端から勧誘するその姿は、悪者の行き着く最終処分場、偽善部と呼ばれている。広実須井は、俺の思考を読み取ったのか、不敵な笑みで人差し指を立てた。

「君、僕の部を偽善部だなんて思ってないかな?まぁ、正解だよ。偽善結構、相手に得ならそれで良し。それがうちのモットーなんだ」

 ボランティア部なんて、さらさら入る気は無い。そんなものに所属してしまったら、自ら負けを認めるようなものだ。ボランティア部に入ることで、俺は正式に学校の腫れ物になる。

「お前の部には入らない。俺は、バスケ部だ」

「そう言っても、君、信用無いじゃないか。バスケ部にはもう戻れないよ。君は間違ったんだ」

 知ったような口を利くな。信用が無くてもバスケはできる。俺以外の奴らが腐ってるだけだ。練習はいつものらりくらりでサボるくせして、試合で負けたら言い訳をして、責任転嫁する。そんな精神性で勝てるわけが無いと、あいつらはわかっているのだろうか。

「俺は間違ってない…どうしようもないのはあいつらのほうだ!」

「日々の活動だけならね。でも、本題はそこじゃないんだ。君をボランティア部に推薦した者がいた。排除されたんだよ、そのバスケ部の子にね。それから気になって調べてみたんだけど、これは酷いな。墨田奏斗、君のいい噂は殆ど出てこなかったよ。周りとコミュニケーションを取っていなかったからね、当然の仕打ちだ」

 そんなことはわかってる。だけど、どうしても教室のぎゃあぎゃあと騒ぐ声が、煩わしく感じるのだ。そう思ってる時点で、俺は仲間に入れない。いくら学校で爪弾きにされようと、思いは変わらなかった。

「すぐに入れとは言わないよ。そうだな───学園祭が終わるまでにその気になったら、この空き缶のプルタブをボランティア部まで持ってきてくれないか?ちょうど今、寄付のための活動をしているんだ」

 言いたいことを言うだけ言った広実須井はプルタブを外し、俺の目の前に置いた。そしてそのまま、階段を降りて屋上を去っていった。俺は思わず空き缶を掴み、ゴミ箱に叩き入れる。何だったんだあいつ。あんな罵倒ばっかりで、本当に勧誘する気なんてあるのか?冗談じゃない、ボランティア部なんて。俺がデザイアカードに書いた願いは何だ?人類滅亡だぞ。何が悲しくて人のために、無償で、働かなくてはならないんだ。絶対に滅ぼす、人類は。

 だが俺の心にも、少しだけ綻びがあったのかもしれない。これは広実須井がポイ捨てしたものを拾っただけだ、と言い訳して、俺はプルタブをポケットに入れた。これは後で捨てる。学園祭が終わるギリギリまで引っ張って、期待させてから捨ててやる。

 そう思った矢先だった。屋上から見える景色の切れ間に、赤い有刺鉄線の壁が走った。その壁は町全体を分断するように左右に伸びる。ジャマーエリア────?呼び出しはまだ……

 咄嗟にスパイダーフォンを見ると、画面には『緊急ミッション・ラスボスを倒せ』と映っていた。

 下の階から、窓を乗り出してジャマーエリアを珍しがる声が聞こえる。流石はラスボス、今までとジャマーエリアの範囲が桁違いだ。幸いこの周辺の区域は巻き込まれなかったが、ジャマーエリアは、端が見えないほど広かった。

 

 

『きんきゅぅじたぃです!仮面ライダーの皆さん、今すぐ防衛にあたってくだふぁい!』

 ん?ツムリ、なんか今頬張ってなかったか?って、そんなこと気にしてる場合じゃないか。デザイアドライバーを装着してジャマーエリア内に飛ぶと、そこはお洒落な雑貨屋が並ぶ広場。スタンダードなデザインのジャマトに、大勢の人間が襲われている。大人子供、老若男女関係なく……しょうが無い。今は戦うしかないか。

『SET』

 クローバックルを右側にセット。制服の襟を正し、クローバックルを起動。仮面ライダーに変身する。

『ARMED CLAW!』『Ready?Fight!』

 両腕のクローでジャマトの背中を斬りつけ、一般人の男性をすんでのところで救う。逃げるように視線で促すと、男性は悲鳴をあげながら人混みへと逃げていった。このジャマト、武器を持っていない。撃破条件も無いみたいだ。やっぱり本命はラスボス……所詮コイツラはオマケか。だからといって、一般人を見捨てたら減点だ。どこが安全かも分からず、ただジャマトに背中を向けて散り散りになる一般人の前に立ち、ジャマトの軍団を次々斬り捨てる。

「おい!死にたくなかったら早く逃げろ!まだそっちの駅の方が安全だ!」

 指示に従って、人波みは次第に統制されてゆく。ジャマトのパンチをクローで挟み込み、そのまま押し斬って撃破する。あと少しでここのは全て片付く。後ろ目でいなくなってゆく一般人を見ると、一瞬、見覚えのある人間がいた気がした。二人組、男と女。それだけを確認した頃には、人混みに紛れてわからなくなってしまった。なんだ?気になるが、今はラスボスが優先だ。最後のジャマト二体を一気に撃破したところで、スパイダーフォンからツムリのナビーゲーションが響いた。

『これより、最終戦。缶けりゲームを始めます』

 ラスボスの居場所の見当はついている。町一の高層ビルに、寄生するように生えたクリスマスツリーのような塔型の植物。地上にいる人間を襲っているのか、伸びたツタがうねうねと這うのが見えた。本体はまだ見えない。俺はツムリの話を聞きながらビル目掛けて歩き始めた。仮面ライダーに変身している分、まだ足は痛まない。近場で助かった。

『ラスボスは、発見した人間を捕まえ、その生命力を使って巨大化します』

 あっという間に現着。物陰から覗き見ると、既に吾妻道長の変身するバッファが当のラスボスと交戦しているようだった。ラスボスは緑の体色に、二つに分裂した馬の頭を持ち、全身から棘が生えていた。身体こそ俺の半分ほどの大きさ、だがバッファが苦戦してるのを見るに、相当なやり手。

『デザクラ史上、特に大勢の犠牲者を出したジャマトですが、一つだけ弱点があります。足元の缶です』

 ラスボスが生やした塔から人間の生命力が集まり、缶が妖しく光る。ラスボスは子供のようにパチパチと拍手をする。くっそ、今は缶の話は聞きたくないんだ。遅れて、タイクーンも到着したようで、俺と近くの柱の影に隠れる。対角線上には、マグナムシューターの銃口を覗き込む、ギーツの姿も見える。

『缶を蹴れば、吸い取られた生命力を取り返し、ラスボスを枯らすことができます』

 つまり、缶を最初に蹴ったライダーが、デザ神になれる…!真っ先にタイクーンが飛び出し、負けじとバッファも缶に一直線。走りでは間に合わない。俺は右腕のクローを外し、缶めがけて投げた。これならあの二人よりも速い…!いや、ギーツが銃弾を放っていた。しまった。流石に銃弾のスピードに投擲はかなわない。

 誰の攻撃が最初に缶に届くか。俺は固唾をのんで見守っていたが、先にラスボスが行動に移った。生命力を集めた缶のプルタブを捻り、中に溜まった液体を飲み始めたのだ。生命力はラスボスの活力となり、身体はみるみる巨大化。俺たちの二倍ほどの大きさとなって、全ての攻撃を薙ぎ払った。

 そして、ジャマトは嘲るように笑いながら何処かへ転送されていった。潜伏先を変えたのか、他のジャマトも去ってゆく。

『ただし、一箇所には留まらず、人間を探して移動します。もし、誰も缶を蹴れずに捕まってしまったら─────ゲームオーバーです』

 無慈悲な結末が、ただ不安を募らせる。

 

 

 人差し指の付け根から手のひら全体を覆うように包帯をかける。消毒液が染みて、じんわりと手に痛みが伝わった。

 サロンは沈黙に包まれている。皆、ラスボスの対抗策を思案している様子だった。

 過去に大勢の犠牲者を出したジャマトか……缶を蹴らない限り攻略はできないが、缶を蹴るにはラスボスの攻撃を掻い潜らなければならない。あの調子だと、ラスボスはまたでっかくなって、いよいよ手が付けられなくなるだろう。缶を蹴るためにはどうすればいいのか…

「捕まった人って救えるんですよね!?」

 どうやら桜井景和は、ラスボスの攻略よりも人命救助の方に気が行っているようだ。いつも通りのお人好しだが、デザイアグランプリのシステム的に、不信になるのも仕方がないと思う。前の神経衰弱ゲームだって「捕まった人は開放された」と言いながら、俺たちは人質がどこに捕らえられていたのかをそもそも知らなかったし、本当に自由になったのかも定かではない。デザイアグランプリの運営は、ゲームの進行以外には殆ど無関心だ。

「ゲームを攻略できれば…」

 救急箱を持ったギロリが答える。そうだ。ゲームさえ攻略すれば、ラスボスの養分になった人間も、破壊された町も元に戻る。今は焦るべきじゃない。なんとしてもラスボスを攻略しなければ。

「だがライダーが全滅すればゲームオーバー。犠牲になった人たちは救えない」

 英寿の言葉に、再び沈静が流れる。英寿は腕を組み直すと、かつてのデザイアグランプリについて語り始めた。

「かつて、ライダーがひとり残らず倒され、幕を閉じたデザイアグランプリがあった。そのゲームのラスボスは、ジャマーエリアに存在する人々を、根絶やしにして姿を消した」

 ひとり残らず……じゃあその時のデザイアグランプリに英寿は参加していなかったという訳か…ん?待てよ。ライダーがひとり残らず倒され、ジャマーエリア内の人間も殺されたなら、なぜ英寿はそのデザイアグランプリについて知っている?外側からでも見ていたのか?

「今回と同じ、缶けりゲームのジャマトです」

 ギロリが茶器を片付けながら補足する。さらに英寿は話を続けた。

「その悲劇は、人々の記憶から消された。全てを忘れ、幸せに生きられるように…」

「そんなことが…」

 桜井景和は絞り出すように返事を返す。

「まぁ、まだ俺が参加し始める前の話だがな」

「あの…英寿君ってデザグラのこといろいろ詳しいみたいだけど、いつから参加してるの?」

 確かに。答えようによっては、さっきの矛盾も解けるかも。

「西暦元年」

 ふざけてんのか。これも英寿特有の"化かし"ってやつか?桜井景和も半信半疑…いや、信じられていないようだ。

「真面目に聞いてるんだけど…」

「信じないなら聞くな…」

 英寿はカウンター席に戻ってしまった。今の言葉には少し、英寿の本音が混ざっていた気がした。桜井景和なら、信じるかもしれないと期待していたのかもしれない。だが…西暦元年。流石に嘘だろ。西暦元年、二千年も前だ。そんな長い期間も人間が生きる術はない。

 英寿の話がなあなあで流れ、珍しく大人しかった吾妻道長がついに英寿に噛み付いた。

「そもそも願いを叶えてスターになったのに何でまだ参加してる?デザイアカードになんて書いた?今度はどんなふざけた世界を望んでる?」

 確かにそれは気になる所だ。スターになれば富に名声。殆どがおのがままだ。次は愛が欲しいだんなんて言わないよな?

「一つ言えるのは…世界平和でもなければ、愛でも、人類滅亡でもない。ましてや仮面ライダーをぶっ潰すことでも…」

 吾妻道長の顔が言いたげに揺れる。仮面ライダーをぶっ潰す力か、彼らしい狂暴な願いだ。

「答えは叶えてからのお楽しみだ!」

 英寿はさっきの神妙な面持ちから、ニヤリと笑った"化かし"の顔に変わる。スター以上に物凄い願いが待ち構えているのか…想像がつかないし、したくもない。吾妻道長も同じ考えのようだ。

「おい、お前のブーストバックルをよこせ」

 恐喝の先は桜井景和。もしかしてあいつ、またブーストバックル手に入れてたのか。気づかなかった。

「ブーストバックルのスピードならラスボスに見つかる前に缶を蹴れる。それ以外に攻略法は無い」

 確かに、ラスボスの双頭が張り巡らせる探知を抜けるには、隠密かスピードかの二択しかない。隠密性に優れたバックルが現状無い今、攻略できるのはブーストバックルのスピードだけ……ブーストバックルさえあれば攻略は格段に有利。吾妻道長の優勝は必至だが…そうは問屋が卸さない。桜井景和は反発する。

「渡さないよ!今度こそ…俺が使うから」

「ふんっ、しくじれば大勢の人間が犠牲になる!世界を守る覚悟がお前にあるのか!」

 お前には無いだろう。今まで他人にブーストバックルを譲り続けてきて、次のお前はどうするんだ、桜井景和。

「あるに決まってるだろ!」

「そこまでです」

 ヒートアップしてきた口論を、ギロリが制した。

「今日はもうご帰宅なされては?ラスボスが現れたら、お呼び出しがありますので」

 桜井景和は無言でサロンを後にする。吾妻道長は待てよとその後を追った。あくまでまだブーストバックルを諦めないつもりらしい。続いて英寿も立ち去ろうと歩き出す。

「おい、英寿。ちょっと付き合え」

 英寿は意外そうな顔を俺に見せた。

 

 

 俺が頼んだのは、とろろに卵黄が落とされた蕎麦。英寿はシンプルなざる蕎麦だった。

「「いただきます」」

 挨拶がハモって、少し気まずい気分になりながら、割り箸を割った。さっそく蕎麦に手を付けようとすると、横から向けられる視線に気付いた。英寿目当てだ。やはりスター・オブ・ザ……スター様の人気は下町の蕎麦屋にまで轟いているようだ。

「こういうところ、よく来るのか」

「まぁ、近所で評判だし」

 蕎麦屋の店主は、嬉しそうにテキパキと働いている。有名人が自分の店に来るというのは、嬉しいものなのだろうか。しばらく蕎麦に手を付けていると、先に英寿から話を切り出してきた。

「で、話ってなんだ?」

 そう、なぜ今日は貴重な時間を削ってこんなところに来たのか。確かめたかったのだ。デザイアグランプリに異様に詳しい浮世英寿に。俺は、手元に置いていたスマホの画面を机の上をスライドさせて英寿に見せる。

「これ、何かわかるか」

「確かこれは……ナーゴのチャンネルってやつか?」

 鞍馬祢音が動画を投稿しているチャンネル。通称祢音TV。若者の間で人気爆増中。俺は普段見ていない。

「ああ。でも、見てくれ。一本だけ残して、他の動画が全部消えてる。調べてみたら、動画が消えたのはゾンビサバイバルの途中でだった。親が止めでもしたんだろう。問題はこの動画…」

 俺は唯一チャンネルに残された動画を全画面表示で再生する。タイトルは「祢音からご報告があります」。二人で画面を覗き込む。

『鞍馬祢音です、ぴかり』

 恒例らしい挨拶をする鞍馬祢音からは、覇気が感じられなかった。動画の内容とは、祢音が自撮りしながら、インフルエンサーを卒業すると発表するもの。ネットでは祢音ちゃんが突然の卒業!?と違う意味で大盛り上がり。

「確かに妙だな」

「退場した参加者は、デザグラに関する記憶を消されて、元の生活に戻される。それがルールだったよな?だけど、鞍馬祢音は突然動画配信を辞めた。コイツはデザグラが始まる前から動画を投稿してる。消える記憶ってのは、本当にデザグラに関するものだけなんだよな?」

 俺の問いに、英寿は何だそんなことかと言うように蕎麦を頬張った。

「デザグラを退場したら、消えるものは二種類ある。一つはデザグラの記憶。もう一つは…デザイアカードに書いた、願いを叶えたいと思う心だ」

 願いを叶えたいと思う心…?つまり、鞍馬祢音は退場した反動で、本当の愛が欲しいという願いを失い、動画配信を突然辞めたとういことか。じゃあ、俺も退場したら人類滅亡を願わなくなる…?考えたくないな。まぁ、話を聞いて心はスッキリした。早く蕎麦食って、ここを退散させてもらおう。

「こんばんわ~」

「いらっしゃい!おっ!景和、沙羅ちゃんも!久しぶり!」

「お久しぶりです」

 はぁ…?桜井…景和。なんで、ここに。

「あああっ!英寿君に、奏斗くん!?どういう組み合わせ?」

「よっ」

 英寿は軽く挨拶を交わすが、桜井景和の姉だろうか、沙羅という女は、黄色い声をあげて俺たちの席に近づいてきた。

「えええええええっ!英寿様!?どうして!?」

 

 

 柄でもない外食なんてするんじゃなかった。

 その後、何故か桜井姉弟と相席をすることになり、とにかく肩身が狭かった。姉である桜井沙羅は、英寿にメロメロ。姉弟の仲の良さが織りなす漫才芸に相槌を返す英寿の構図がおよそ四十分間ほど続き、完全に俺はだんまりを決め込んでいた。挙句の果てにはたぬきそば世界一!とか叫び始めるし。そして今も、桜井姉弟の帰り道に付き合わされている。何故か英寿もついてくるし。というかご近所さんなのか?ほぼ帰る方角が同じなのだが…いやそんなはずは。もう黙って帰ろっかな…そうしよう。

 俺は来た道を戻り始めた。三人は会話に夢中だ。気づくはずはない。一人の夜道は、事故のあの日を思い出す。考えてみればあれから、夜遅くまで外出するのは控えていた。強がっていても、心は事故を恐れていたのか……情けない男だ。

「うぃ!大丈夫、きみ!」

 突然後ろから軽くどつかれた。振り返らなくてもわかる。桜井沙羅だ。何のつもりだろうか。まさかあの二人ではなくこの女にバレるとは。

「あの…何です?スター様とは喋らなくても?」

「ううん、景和と二人で大事な話してるっぽかったから。男の友情ってやつかなぁ。かぁ〜熱いよね」

 帰りたい。何のつもりで俺に関わる?

「いや、君は景和とどういう関係なのかな〜って。英寿様とは知り合いとしか行ってくれないし、もしかしたら君はどうかなって」

 桜井景和との関係…?腐れ縁…か?それも家族に伝えるのは印象悪いか。ならば…戦場を共にした仲間…?いや臭すぎるし、そんな関係を認めたくもない。なら、妥当な答えは。

「まぁ…ただの顔見知りですよ。あっちは俺のこと嫌ってるだろうし、あいつが仲良いのはスター様の方です」

 ハンマーを譲ってくれたとはいえ、それは天性のお人好しによるものだ。正直俺本人は嫌われれてるとしか思えないし、たぶんこれは正解。

「そんなこと無いと思うけどなぁ……景和、大抵の事は許しちゃうし、お人好しなのよ。誰でも直ぐに信用して、直ぐに騙されちゃう。でも、自然と景和の周りは人が少ないんだよね…あんなに騙されやすいのに」

 それは意外だな。あれくらいのお人好しをカモにしたがる奴なんて、この世にゴマンといると思うが。

「きっと、お人好しすぎて怖いのかな?…今日ね、嬉しかったのは、英寿様に会えたからじゃないの」

 桜井沙羅は、俺の肩にドンと両手を置いた。

「君と英寿様が、景和と友達だって、分かったから!」

 友達だって…?冗談はよしてくれ。無言で手を振り解いて去ろうとするが、桜井沙羅はしつこく粘着してくる。こういうとこ姉弟だよなホント。

「ちょいちょいちょい待って!これからも、景和を信じてあげて。きっと損はしないから。ね?」

 桜井姉弟は、家族が二人以外いないそうだ。事故で両親を亡くしたらしい。事故というのは、人の人生を狂わせる。俺は一人だったから、自分を制御できなかった。だけど、この姉弟は信じられる互いがいたからこそ、支え合って乗り越えられた。羨ましいとは言いたくないが、人生で気を許せる、いわゆる信用できる人間がいるという点はとてもいいことだと思う。俺の人生には現れなかったが、桜井姉弟の平穏を、俺は密かに願わずにはいられないのだった。

 

              *

 

 文化祭当日。我がクラスのたこ焼き屋は大盛況。午前中の内に全ての在庫を消費し、午後はヒマになった。

 こうして今俺がいるここは、遊園地である。別にサボりではない。呼び出しがあったのだ。ついに、ラスボスのジャマトが現れた。遊園地の中心にそびえ立つ塔。がらがらの園内を見るにもうここらへんに人間はいないだろう。無人のアトラクションの上でカラスが鳴いている。塔の側に鎮座したラスボスは、既に巨大観覧車の全長を超えていた。また缶の中味を飲み干して、一回り大きくなる。

「ラスボスは、絶えず成長しています。皆さん、十分に気をつけてください!ミッション、スタート!」 

 ツムリの宣言と共に、景和はブーストバックルを握り締め、決意めいた表情を見せた。

「みんなは危ないから下がってて」

「お前、本当にやる気かよ」

「もしラスボスに見つかれば終わりだ」

 吾妻道長は最終警告かブーストバックルを諦めきれないか、景和を脅すような発言をする。景和の呼吸は激しくなった。一度ミスれば終わるリスク。日常生活ではそうそう訪れない。

「世界平和を願ってるんだろ?」

「あぁ!だから俺が守る!」

 英寿の言葉に背中を押され、景和はバックルをベルトに装填した。

『SET』

 景和は自分を鼓舞する様に胸を二度叩き、ブーストバックルのアクセルスロットルを捻った。

「変身!」『BOOST!』

 仮面ライダータイクーンは、赤い鎧を身に着け、地面に降り立つ。

『BOOST STRIKER』『Ready? Fight!』

 ブーストライカーに搭乗したタイクーンは、目にも止まらぬスピードで、アトラクションの上を駆ける。ラスボスが察知し、無数の棘を発射するが、ブーストのスピードが先に逃げおおせる。ブーストライカーのマフラーが激しく火を吹き、ラスボスはその火に思わずひるむ。タイクーンはブーストライカーを乗り捨て、遂に缶へと狙いを定める。

『REVOLVE ON』

 最高速度が出るブーストの装甲を足側に切り替え、即座に地面に着地……制御が効かずに地面に尻餅をついていた。何やってんだ。ラスボスが気づくぞ。

「いってぇ〜!けど、大成功!」

 それでもタイクーンは立ち上がり、缶に一直線。ブーストの効果でさらに加速し、缶はもう目前だ。

「行ける!」

 しかし、目前でラスボスが缶に迫るタイクーンを補足した。ブーストの加速の際に発せられる爆音で、背後に回っていたタイクーンに気づいたのだ。ラスボスは棘を連続発射し、それを回避したタイクーンの足は思わず止まる。その一瞬の隙に、ラスボスは巨大な腕でタイクーンを殴り飛ばした。

「景和!」

「変身!」『MAGNUM!』

 その時、ギーツに変身した英寿が飛び出した。吾妻道長が「何をするつもりだ…」と呟く。マグナムではラスボスに叶わない。死ぬつもりか?

 一方、タイクーンはラスボスの攻撃により変身が解け、ジェットコースターのレールの上に崩れる。ラスボスはそこに容赦無く棘を放ち、景和は走って逃げようとしたが、棘が足元に着弾して爆発し、地面に振り落とされる。そして、ひときわ巨大な棘が動けない景和を貫ことうとした刹那─────間一髪でギーツが棘を砕いた。

『SECRET MISSION CLEAR』

「「はぁ?」」

 シークレットミッションだと?スパイダーフォンを確認すると、ギーツが達成したミッションとは、『ラスボスの攻撃からプレイヤーを助けるといったものだった』まさかコイツ……

「どうゆうこと…」

「このゲームの攻略に、本当に必要なアイテムだ」

 ギーツが現れた宝箱を開く。そこにあったのは、黄緑色に、手裏剣があしらわれたバックルだった。

「ラスボスに見つかってくれて、サンキュ」

 ギーツはわざとらしくバックルにキスをする。

「おれを、その気にさせたのは…そのアイテムを手に入れるためか…!」

 景和は血が混じった声でまくしたてる。

「また、化かされたな」

「そんなにゲームが楽しいか…!世界がピンチになってる、こんな時にっ…!」

 景和は激昂し、喉を抑える。ラスボスのパンチをもろに食らったのだ、ただではすまない。が…ギーツ。結局はこれか。恐らく昨日の帰りに、英寿は景和を焚き付けたのだろう。全ては、自分がデザ神になるために、か。

「世界は守る。理想の世界を、叶えるついでにな!」

『SET』

 俺たちが問答をしている合間にも、ラスボスはさらに大きくなってゆく。タイクーンの攻撃に、怒り心頭の様子だ。

「変身!」『NINJA!』『Ready?Fight!』

 バックルの手裏剣が回転し、ギーツの装甲が鮮やかな緑色に変わる。ニンジャ……隠密性に優れたこのバックルこそが、ラスボスの攻略に相応しいアイテムということか。

「さぁ、ハイライトだ」『NINJA DUALER』

 迫るラスボスの棘を、高速移動で回避する。そして煙を放ちながらワープ。今度はレールの上に。今度は空中に。ラスボスの目を欺き、何度も回避行動を繰り返す。動き出したコースターの上を駆け抜けてワープすると、今度は二つの持ち手がある刀、ニンジャデュアラーを構え、棘を次々斬り落とす。ニンジャデュアラーの刃は長く、高速移動も相まって、棘は一つ残らず弾かれた。確かにこれなら、缶を蹴るのも容易だ。ラスボスは完全にニンジャの力に押されている。

 ラスボスの背後にワープしたギーツ。そこからさらに分身し、ラスボスを中心に360度を取り囲む。ギーツはそれぞれ印を結び、ニンジャデュアラーの歯車を回転させる。

『ROUND 1・2・3!』『FEVER!』

 ギーツがニンジャデュアラーを掲げると、それ自身が高速回転し、刃から炎が生じる。一方のギーツは水、はたまたは風、雷と、四種の属性を帯びた刃が、ラスボスの方向を向いた。

『TACTICAL FINISH!』

 一斉にニンジャデュアラーがラスボスに放たれ、ラスボスを中心でクロスするように斬り裂いた。この攻撃により、ラスボスは大ダメージ。膝をついた今なら、缶を蹴れる。

『REVOLVE ON』『NINJA STRIKE!』

 足にニンジャの鎧を纏い、ついにギーツは缶を蹴った。蹴り飛ばされた缶はジャマーエリア外へ一直線────!とはならなかった。直前でラスボスが缶を掴み、すぐに姿を消してしまったのだ。一応、缶を蹴ったからこのゲームは勝利になるのか?

「これで、終わりじゃないよな?」

「ああ。まだジャマーエリアが解除されていない」

「その通り、ゲームは終わっていません」

 ツムリが現れたかと思うと、すぐにデザイア神殿に転送された。

「ジャマーエリアより外まで缶を飛ばさなければ、ラスボスに缶を回収されて、何度もゲームは続きます」

 それ先に言えよ……ニンジャの脚力だけじゃ、外まで缶を飛ばせないじゃないか。協力前提のゲームだったのかよ。

「おい、なんでニンジャバックルなんてものがあるって知ってた?」

「お前らとはゲームの経験も知識も違うからな」

 飄々と吾妻道長をいなしたエースは、景和を見下ろす。

「そんな顔すんな。世界は俺が守ってやる」

 景和は激しく英寿を睨みつけ、彼らしくない言葉を吐き捨てるのだった。

「もう信じないよ…君のことは…!」

 

           DGPルール

 

    仮面ライダーが全滅したらゲームオーバー。

 

         そのエリアは消える。

 

         存在も、記憶すらも。

 




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「姉ちゃんが襲われてるんだよ…!」

─それぞれの願いをかけて─

「叶えたい事があるなら、戦え。それしかない」

─戦え!!─

「みんなを、助けるまでは…倒れないから…!」

5話 邂逅Ⅶ?:切り札は誰
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