デザイアグランプリ、最終戦。缶けりゲーム。ラスボスに見つからないように、缶を蹴れ。景和を化かしていたギーツが、攻略に必須のニンジャバックルを入手。缶を蹴ることに成功したが、ジャマーエリアの外まで飛ばさなければ、缶けりゲームは何度でも続く。
仮面ライダーが全滅すれば、世界は滅ぶ。
崩壊の危機に追い込まれた世界だが、俺の心は意外と落ち着いていた。どちらにせよ、俺がデザ神になれば、人類は滅亡だ。別にジャマトから人を守らなくたっていいし────このプルタブを渡しに行く必要もない。さっきの広場でだって、ジャマトから人を救ったのも、ポイントのためだ。と、自分に言い聞かせてみる。
俺は最近の、自分の矛盾した行動に辟易していた。
幸せそうに過ごしてる奴らに、自分と同じ不幸な目に合わせてやるために俺は仮面ライダーになったのに、仮面ライダーとして人を守る活動に殉じてしまっている。はっきりとした答えが見つからずに最終戦まで来てしまったが、今この時、人類滅亡とは具体的にどんな願いなのか、俺は考え始めていた。俺の望む人類滅亡。その先で俺は一体何をすればいいのか………
プルタブを手でいじりながら考えていると、景和が赤いカーテンを開いて、崩れるように現れた。全身に包帯を巻かれ、ボロボロの身体を引きずりながら、サロンを出て行く。それを目にした英寿も後を追う。なんだ?不意に、ギロリの元のダイヤル式電話が鳴った。
ついに、ラスボスが───────
*
デザイア神殿に向かうと、ツムリが景和に警告を言い渡していた。
「そのケガで大丈夫ですか?もしジャマトにやられれば、タダでは済みませんよ」
そうだ。その重症の身体じゃ、優勝はもう無理だ。肝心のブーストもラスボスにはほぼ無意味だし、むしろラスボスに返り討ちにされる。それでも景和が現場に行きたがる理由とは。
「そんなのどうだっていい!姉ちゃんが襲われてるんだよ…!」
なんとなく察しはついていた。拡大し続けるジャマーエリアは、都心部に足を突っ込み、かなりの速度で町を侵食している。もうじき、俺の住んでいる町ものまれる。これまでの経験から考えるに、桜井沙羅の勤め先も、我が家の近所にあったのだらう。
「わかりました。もう一度忠告しておきますが、ラスボスとまともに戦ってはいけません。缶を蹴る以外に、攻略方法はありません」
現場に転送されると、景和は変身もせずに姉の捜索へと足を向けた。変身したほうが速く動けるのに、焦りで頭が回ってないか。
「勝負だ、ギーツ!」
「勝負になればな」
英寿は煽るように……明らかに吾妻道長を煽りながらニンジャバックルをちらつかせる。この二人は桜井姉の安否には興味ないようだ。それは俺も同じ、逆にブーストをもつ危険なライバルが減った。小型バックルだけの俺だが、ものは考えようだ。普通に缶を蹴れば、ラスボスに回収される。ならば、誰かが缶を蹴ったところを、武器を投げて缶の軌道を変え、最終的に俺が飛ばしたことにすればいい。誰も蹴った瞬間に勝者が決まるとは言っていない。この作戦で、勝利を掴む!
『SET』
「変身!」「変身!」「変身」
『DUAL ON!ARMED HUMMER!ARMED CLAW!』
『ZOMBIE!』『NINJA!』
『Ready?Fight!』
変身を完了した三人は、それぞれの武器を手に、ジャマトに立ち向かう。俺はいつも通り、ハンマーを投げて道を切り開くと、クローでジャマトを貫いて次々撃破する。その横をバッファが突進しながら突き抜け、ギーツは空中をワープしながら、それぞれ缶を目指した。俺も正面切って缶を狙いたいところだが、後ろで機会を伺っていれば、勘のいいギーツに気づかれる。人が一通り逃げたのを見ると、別の路地へと移った。
ジャマトを殴りながら移動した先。そこはオフィス街で、変わらずジャマトが溢れかえっていた。最終戦のジャマトの物量は今までの比じゃない。ここも速く一掃しないと……あいつらが缶を蹴ってしまう。クローでアスファルトを剥がして飛ばして目眩ましをすると、ハンマーを投げて押し倒すように一気に三体を倒した。まだまだジャマトは尽きないが……ん?誰かの話し声が路地裏から聞こえる。逃げ遅れたのか、強く言い合う声だ。急いで路地に足を運ぶと、そこにいたのはなんと。桜井姉弟であった。
「あいつら…」
「何なの…今の怪物たち…」
「もう大丈夫だから!」
「大丈夫なわけない!」
桜井沙羅は、頬に涙を伝わせながら景和に掴みかかる。
「だって、あいつらのせいでお父さんとお母さんは…!」
「えっ?どういうこと?」
あいつらの両親は事故で死んだんじゃ無かったのか…?俺はジャマトを相手取りながら話に聞き入る。
「思い出したの…忘れてた記憶を」
「記憶…これに触れたから」
IDコアに触れたら一般人でも記憶が戻るのか。桜井沙羅は、息も絶え絶えのまま話を続ける。
「お父さんとお母さんは、事故で亡くなったんじゃない…あいつらに…!」
桜井沙羅が語った過去。それはもう数十年も前の話だった。
ジャマーエリアによって、突如分断された家族。ジャマーエリアに囲まれ、逃げられなくなった両親。迫りくるジャマト。その時、仮面ライダーは現れなかった。
桜井沙羅は、ジャマトになぶり殺される両親を、ただ眺めている事しかできなかった。死の間際の母親が残した言葉。
『誰か…娘を…!』
その言葉に動いた一般人は、桜井沙羅をジャマーエリアから引きはがす。桜井沙羅はまだ両親が助かるかもしれないと、必死に抵抗する。腕のアクセサリーの紐が千切れるほどに。
地面に散らばったアクセサリーのビーズは、両親がプレゼントしてくれた、大切な宝物であった─────
「そんなことが…」
「あの時景和はいなかったから…なんでこんな大切なこと、忘れてたんだろ…!」
それがまさに英寿の言っていた、かつて起きた、ラスボスジャマトによってライダーが全滅させられた回の話だった。消えたのは、桜井姉弟の親だけではない。今も大切な人の存在を忘れ、生きている人がこの世界には、大勢いるのだ。
「ジャマトが…?父さんと母さんを……ぐっ!ぐぁあ!」
「景和!」
桜井姉弟をジャマトが引きはがす。そして、ジャマトは桜井沙羅を抱えた。ラスボスの養分にするためだろう。景和はラスボスの攻撃による怪我が尾を引き、抵抗することすらできない。今は俺がやるしかないか……!俺も路地に急ぐが、都合悪く大量にジャマトが押し寄せ、行く手を阻まれる。
「ウザいんだよ…お前ら一々!」
クローを一気に振り抜き、手前のジャマトだけでも退け、ハンマーを隙間を通す様に投げる。しかし、距離が離れすぎていた。景和を踏みつけていたジャマトに弾かれ、ハンマーは空を切る。
「景和!景和ーっ!」
「畜生!逃げんなっ!ぁああ!」
俺が追いついた頃にはすでに、桜井沙羅は連れ去られていた。俺は舌打ちをしながら、クローをジャマトごと壁に突き刺し、その場を後にした。気絶していた景和を持って。
(待ちなさい…!どうしてなの…奏斗ぉ…)
またあの声だ。今は消えてくれ…今はそんな気分じゃないんだ。俺の心の内は、まだ黒い感情が深く渦を巻いている。
*
桜井姉弟の会話に聞き入っていたせいで、缶にハンマーを投げる作戦は失敗に終わった……と思っていた。ギーツとバッファは二人仲良くスコアを減点されていた。このゲームの勝敗にスコアはあまり関係ないなので良かったが、肝心の最終戦で足の引っ張り合いが起きていたとは……人のこと言えないか、俺。
正直、今はゲームの勝敗よりも興味が惹かれている事があった。この世界にはどれほどジャマトに殺され、事故死扱いになっている人間がいるのかという事だ。適当な人間にIDコアを触らせたら、ジャマトに殺されたり、知り合いが犠牲になった様を思い出すのか……。もしデザイアグランプリのシステムが何らかの誤作動を起こして、人類全員がジャマトの記憶を蘇らせたらどれほどの混乱が起きるのか。とても気になるが、デザイアグランプリの情報を第三者に公開することは禁止されている。こんなしょうもない好奇心で脱落なんて、アホらしい。
もう一つ気になるのは、最近聞こえるようになった"声"だ。デザイアグランプリに参加している間、俺に強い感情の上下が起こったときに、それは聞こえる。最初は些細な事だった。ただカレーを食べたいと強く思った時である。それは何か俺と日常的な会話をしているようだった。声質からして女性。二度目は、黄金屋森魚の悪行を見て、人類滅亡を再び強く思うようになった時。同じ人物の声だったが、今度は切羽詰まった様子だった。そして直近の、ジャマトに強い憎しみを持った時だ。今回の声の主も、何やら激しい感情の高まりがあったらしい。
この声の正体に関して、俺は仮説を立てた。
単純に、声の主は、桜井姉弟の親と同じように、デザイアグランプリで仮面ライダーが敗れジャマトに殺されてしまった、消えたバスケ部の誰か、という説だ。仮説と言うにはあまりにも稚拙だが、声の主は明確に俺を奏斗と呼んでいたし、半田というバスケ部の男の名も口にしている。半田とはクラスが違う上に、俺はクラスメイトと全く仲良くないので、俺と半田の名前を同時に知っているのは必然的にバスケ部の部員まで絞られるというわけだ。俺は最初自分のIDコアに触れたとき、過去のデザイアグランプリやジャマトの記憶について全く思い出せなかったが、きっと誤作動でも起こしたのだろう。声の主の記憶を取り戻せば、この煩わしい声から開放される。
俺は意を決して、腰のデザイアドライバーにはめられたIDコアに触れた。来い!俺の過去の記憶!
……………。
何も起こらないか…。やっぱりこの声はデザイアグランプリのシステムとは別の要因によって起こっているのか?俺の前世の記憶とか?謎の超パワーによる予知?─────デザイアグランプリ以上のSFを持ち込むのはやめよう。頭がパンクする。
そうだ、他の人物のIDコアに触れるのはどうだろう。偶然俺のIDコアが故障してるだけかもしれない。とりあえず、英寿に頼んでみるか?いや、何か探られそうで癪に障るな。なら吾妻道長に…もっとだめだ。殴られるかもわからん。となると残るは……景和か。
俺がわざわざサロンまで運んでやった景和は、ベッドに横たわり、ギロリの看病を受けている。傷はさらに深くなり、なかなか血も止まらない。姉の沙羅はその後かなり捜索したが、既にラスボスの塔まで運ばれてしまったようだ。全く見当たらない。もう缶の中か……いや、そんな悪い事を考えるのはよそう。コイツに悪い。
「姉ちゃん!」
「どうかご安静に!」
姉への絶叫と共に、景和は目を覚ました。くそっ、寝てる間に触ってみるつもりだったが、先に起きてしまったか。ギロリは身体を無理やり起こす景和を制止するが、もはや忠告は耳に届かない。
「そうはいかない…!姉ちゃんがラスボスに…!」
「その身体で無理しない方がいい」
英寿の声を無視し、景和はベッドから降りようと、傍らのギロリの肩を支えにする。
「これ以上ジャマトに…姉ちゃんまで奪われるのは嫌だ…!ずっと事故だと思ってたけど…姉ちゃんが思い出したんだ…!父さんと母さんは…ジャマトの犠牲になったって……もう、家族を失いたくない…!」
必死になる景和に、昨晩の桜井姉弟の様子を思い出す。幸せとは、どれほど脆いものなのか。どれだけ乗り越えたと思っても、さらなる不幸が幸福を包む。それが、人がいる限り終わらない悲しみの連鎖。最初から全部無かったら…こんな悲劇なんて起こらなかったのに。
「みんな…俺に考えがある」
そこで景和が提案した作戦とは。
「なんでこうなるかねぇ…!」
ラスボスが次の標的に選んだのは、学園祭真っ只中の俺の学校だった。かなり規模の大きい学園祭だったこともあって、部外者も数多く来ている。ラスボスが狩り場に選ぶには十分。俺が到着した頃には大半の生徒や大人たちがラスボスに連れらさられ、次の養分候補として塔に吊るされていた。
「変身!」
『DUAL ON!ARMED HUMMER!ARMED CLAW!』
校舎の物陰にて変身した俺は、校内に乗り込み、廊下を徘徊するジャマトを一匹ずつ確実に殴り倒していく。ジャマトが暴れ回ったせいで、生徒たちが長い時間をかけて作った装飾や展示はぐちゃぐちゃのバラバラ。午前中のどんちゃん騒ぎは何処へやら。生徒の姿はほとんど見えない。窓の向こうに、校庭に居座るラスボスが見えた。そして、外からはマグナムの銃声や、チェーンソーが擦れる音。次は仲間割れしないでちゃんと戦えよ、ギーツ、バッファ。
ジャマトのパンチによる攻撃をしゃがみながらかわし、腹部にハンマーをぶちかます。この攻撃はみぞおちにクリーンヒットし、ジャマトは教室の扉を破壊しながら転がる。その衝撃で、近くにあった棚が将棋倒し的に崩れ、一面に赤本などの参考書や、ハードカバーの小説が散らばった。
「図書室だったか、ここ」
あまり訪れないから正確に覚えていなかった。図書室の中もジャマトが荒らし回ったようだが、図書貸出用のカウンターから、何者かがすくっと立ち上がった。制服を着ている男、うちの生徒だ。よくジャマトに見つからずに隠れていたが、おいおい、コイツ。
「あっ、あの…ありがとう、ございます…」
バスケ部の後輩マネージャー、"芹澤朋希"じゃないか。俺は仮面ライダーに変身していたから俺とはバレていないようだが、こんなところで会うとは。芹澤朋希は、とにかく体が弱い。何かに付けてすぐ体調を崩すし、むしろ全快の状態を見たことがない。だからバスケ部の活動も参加せずに、マネージャーとして活動している訳だが、全くと言っていいほど話したことがない。
芹澤朋希は、ボサボサの髪から塵を払い、似合いもしない太い縁のメガネを直す。仮面ライダーの存在に困惑してるのだろうか?まぁいい、今はラスボスだ。俺が無言で図書室を去ろうとすると、芹澤朋希は滅多に聞いたことがない大声で俺を引き止めた。
「あの!頑張って、くださいね…」
なんか他人の手柄を横取りする作戦を立てているのが心苦しい。返答に困っていると、外から誰かの叫び声が聞こえた、
「ラスボス!ここにいるぞっ!」
景和…!おいおいおい、まさかあいつ、自分でやるつもりか…!
「共同作戦?」
景和を雑にソファーに座らせた俺は問いかける。
「四人で一気に仕掛けよう…!誰かが注意を引き付ければ、他の誰かが缶を蹴れるはず…」
それはこの満身創痍の男が捻り出した、苦肉の策だった。だいたい、誰がその役をやる。ラスボスの注意を引くならば、自分で缶を蹴ることができない。それはデザ神の座を他人に明け渡すことと同義だ。誰も賛同するはずがない。当然の如く、吾妻道長は反発する。
「そんな分の悪い賭けには乗ってられないな」
「そんなこと言ってる場合じゃない!これは救う戦いなんだ…!」
「理想を叶えるゲームだ!」
「ゲームじゃない!」
頑なな景和に痺れを切らした吾妻道長は、ドライバーを手に取る。
「……見返りを叶えるために俺たちは戦ってるんだ。誰かに勝ちを譲るなんてありえない」
そしてサロンを出て行ってしまった。
「二人は!作戦、乗ってくれる!?」
確かに、ラスボスに対抗できるニンジャとブーストが分散してる今、仮面ライダー同士で協力するのは現実的な勝ち筋だ。もし英寿か景和が囮になると言ってくれたら、俺でも勝てる可能性がある──────────だとしても。
「その作戦、俺は降りる。自分の願いは、自分で叶えたい」
たとえその願いが、人類滅亡だとしても。やっと見つけられたんだ。俺の、人類滅亡の答えが。俺は座っていたソファーの背を離れる。
「世界がこんな時でも!?」
「誰も間違ってない」
何とか俺を引き留めようとする景和を、英寿が止めた。
「世界のために自ら犠牲になろうとするやつなんて、そうはいない」
「自分さえ良ければ、他の人が犠牲になってもいいって言うのか?」
「その言葉、そっくりお返しするよ」
英寿は組んでいた手足を解かぬまま、まじまじと景和の顔を見て語る。
「自分の姉さえ守れれば、自分たちさえ幸せなら、誰かが幸せになれなくても構わないと言うのか?誰よりも傲慢なのはお前の方じゃないのか?」
それはお人好しの裏を突いた本質だった。世界を守りたいと願う、聖人君子の景和に生まれた、家族という綻び。世界平和という大義名分に隠れていたエゴを見抜いた英寿は、机に置かれたデザグラのジャケットを景和に押し付ける。
「叶えたい事があるなら、戦え。それしかない」
「…………わかった」
「どうした!当ててみろよ!」
あの時に諦めたと思っていたが…自分で囮になるとか、どこまでお人好しなんだよ…!
「ここで隠れてろ!」
芹澤朋希を置いて俺は窓を飛び出し、離れたグラウンドに急ぐ。あの怪我で囮なんてやったら、本当に死ぬぞ…あいつ。タイクーンは足にブーストを装備し、貧弱なアローでラスボスを牽制しながら棘を紙一重で避け続けている。ブーストの加速は瞬間的なものなので、細やかな動きができず苦戦しているようだ。
すぐに足元にかすった棘で足が止まり、棘の連撃をもろに食らっている。タイクーンの全身から火花が散った。次の一撃を食らったら、タイクーンは退場になってしまうだろう。塔の側面で拘束されていた、桜井沙羅の悲痛な声が響く。
「景和!」
「俺のことは…気にしないで…みんなを、助けるまでは…倒れないから…!」
図書室からグラウンドまでの距離はだいぶ離れていて、足を庇いながらのスピードでは、到底間に合わない。
やはり、遅すぎた。塔の頂点から生えてきたラスボスと同じ程の大きさの棘が、赤い蒸気を帯びてタイクーンを貫いたのだ。
棘が貫通すると共に大爆発が起き、タイクーンは爆炎の中に消えた………文字通り。丸太の身代りを残して。
『TACTICAL SLASH!』
突如、ラスボスの頭上に一人の忍者が現れた。忍者は右手に備えた武器の刃を振り下ろし、ラスボスの頭を斬り裂く。そして、ぎごちないワープで屋上に着地した。
「どうなってやがる!?」
「どうやら、ニンジャバックルが共鳴したみたいだなぁ!目的を果たすためなら──自己犠牲も厭わない。タイクーンの忍の心に」
これじゃまるで、バックルも生き物だ。着弾の直前発動したニンジャバックルの能力で、タイクーンは生きながらえたか。いや、ただの延命じゃない。自ら切り札を買って出たタイクーンが、一躍デザ神候補トップに躍り出たのだ。彼の手元には今、ニンジャとブーストが揃った。
「言ったでしょ?俺は倒れないって!」
タイクーンを仕留めそこねたラスボスは怒りを滾らせ、枝分かれたした巨大な棘を放つ。棘は着弾前に不規則に弾けたが、タイクーンはギリギリで避け、校舎内へと飛び込む。そして、ラスボスを完全にまいて時間を稼ぐと、今度は天井をぶち破って飛び出してきた。足にブーストを備えている。
『DUAL ON!NINJA&BOOST!』『Ready?Fight!』
「皆、待ってろよ!」
タイクーンはラスボスの手に跳び乗り、ラスボスの体表を一気に駆け上がる。全身に生えた棘を、二つに分離したニンジャデュアラーで破壊し、時には避けながら。
『SINGLE BRAID』
そして、ニンジャデュアラーを一つに合体させると、畳み掛けるように必殺技を発動する。
『BOOST TIME!』
ニンジャデュアラーを回転させて足場にすると、天高くから蹴りの構えを取った。世界を守るヒーローが狙う標的は、ラスボスではなく、人質が囚われている塔。
『NINJA!BOOST!GRAND VICTORY!』
「だあぁぁぁぁぁあっ!」
タイクーンの右足は炎を帯び、さらに風の力で蹴りの速度はさらに増す。タイクーン渾身のキックは塔は真っ二つに折り、人質が一人、また一人と地面にふわりと落ちる。
「誰か、今のうちに…!」
しまった。見とれてる場合じゃないだろ。
「任せろ!」「勝つのは俺だ!」
ギーツとバッファが、我先にと駆け出す。今こそ、作戦実行の時!
「盛大に───────打ち上げだぁっ!」
ギーツがバッファを巻き込みつつ缶を蹴った。ラスボスがさせるかと飛ばされた缶に手を伸ばす。
「今だ!」
『HUMMER STRIKE!』
「もっとぉっ──────飛んでけぇ!」
俺は精一杯腕を振り、ハンマーを投擲した。ハンマーは縦回転をかけながら缶に命中!見事缶はジャマーエリアを破壊しながら遥か彼方へと飛んでいった。やったぞ!ラスボスも悔しそうに消えてゆく。缶を失ってもすぐに消えるわけじゃないのか。まぁとにかく。
「作戦勝ち…」
変身を解いて余韻に浸っていると、吾妻道長が腕を抑えながら出てきた。ギーツの蹴りに巻き込まれてたのによく無事だったな。
「最初に蹴った俺の勝ちだ!」
「いや、蹴ってないだろ。それに、ゲーム終了のアナウンスがまだだ」
英寿が一蹴する。てことは、まだゲームは続いているのか?おい……缶を蹴ればあいつを枯らせるんじゃなかったのかよ…
「ラスボス…しぶとすぎだろ…」
今にもいざこざが起きそうな俺たちの背後で、景和は黄色い柵にもたれ掛かっていた。全身傷だらけ、煤まみれの彼だが、何故か今は輝いて見えた。これが、狡い手に頼らない、自らの手で平和を掴み取るヒーローの姿か。ラスボスの魔の手から開放された桜井沙羅が、すぐに景和を介抱する。
「景和っ!大丈夫!?」
「……無事で良かった…」
桜井沙羅は、必死に泣きそうな自分を抑え、景和に微笑む。
「なれてるじゃん!凄い大人に!」
景和は、その言葉を嬉しそうに受け取ると、ポケットから折り紙で作られた手裏剣を手に持ち、姉に笑いかけるのだった。まるで、子供が百点のテストを親に見せるかのような、満面の笑みで。そのやり取りに、姉弟は安堵からか、一際顔を緩ませて笑うのだった。
「桜井景和様!これ以上の参戦は大変危険ですので、ここで脱落となります!」
姉弟の穏やかな空気を現実に戻すかの如く、立体駐車場の上からツムリが見下ろしていた。
「脱落なら…元の生活に戻れるんですよね?」
「はい!」
ツムリは、景和の問に快活に答える。その態度は、景和にラスボスとの戦いを忠告していた表情とは変わり、元の貼り付けたかのような笑顔だ。これは英雄に対する称賛か、それとも不必要な者を切り捨てる哀れみの笑顔か。本意が伺い知れない。
「良かったぁ…姉ちゃんを一人にするわけには行かないんだよ」
景和は安心したようだが、俺はスマホの中の、生気が尽きたかの様な鞍馬祢音の顔を思い出していた。ここで景和が脱落なら、景和は世界平和を願う心を失う事になる。それは、彼の人格形成に大きく関わる願いだ。もし消えてしまったら、その人生は姉との平和な元の生活と言えるのだろうか。俺は苦虫を噛み潰したような思いで、景和を目に焼き付ける。本当のコイツとは、ここで永遠の別れだ。
「これ、君に返すよ…おかげで、姉ちゃんを救えた…!」
景和は痛みに耐えながら、ニンジャバックルを英寿に差し出す。
「お前自身の心が、奇跡を起こしたんだ」
バックルを受け取った英寿は景和にねぎらいの言葉をかけた。
「英寿君がそんなこと言うの、珍しいね…また化かしてる?」
「あぁ、そうかもな」
英寿の顔が少し綻ぶ。いよいよ、最後の時が近づいてきた。景和のドライバーのIDコアが消え、体に青いノイズがかかる。
「姉ちゃんひとり救うだけでこれだもんな…世界の平和を守るってのは、簡単じゃないな…」
『RETIRE』
景和は、ドライバーを残して完全に消えた。
さようなら、桜井景和・仮面ライダータイクーン。もし人類滅亡の願いが叶ったのならば…また会おう。
DGPルール
負傷や病など、緊急の理由によって
参戦不可能になった場合
脱落となる。
ただし、本人が希望した場合は、続行可能。
次回:仮面ライダーギーツ外伝
「心配だったんだ、今まで」
─ラスボス最終戦!─
「今から緊急ミッションに挑んでもらう」
「これが最終戦にやることかよ!」
─デザ神の座は誰の手に─
「何が理想なのか。やっとわかったんだ」
「こんな世界は…一発KOだ!」
6話 邂逅F?:Wake up!理想の世界