ついにタイクーンまでもが脱落し、残り三人となったデザイアグランプリ最終戦、缶けりゲーム。このゲームに勝てさえすれば、理想の世界を叶えられる……はずだったのだが。
「どうなってる?缶はエリア外まで飛んだ。ゲームは終わるはずだろ?」
「本来なら、ラスボスが枯れて倒せるはずなのですが…私たちも想定外です」
なんとラスボスジャマトが、正規の攻略方法を突破してきたのだ。缶をデザイアエリア外まで飛ばした後、ラスボスジャマトは逃亡して消息が不明となった。まいったな、このまま潜伏され続けられれば撃破は困難を極める。それでも、英寿と吾妻道長は至って冷静だ。
「ラスボスが生きてるってことか」
「ああ。それ以外考えられない」
俺が次の作戦を練っていると、警告音と共にデザイアエリア内の地図が表示される。今まで徐々に広がっていたデザイアエリアは、ここに来て一気に広がり、都心部を全て覆わんとしていた。
「ジャマーエリアが、拡大している…?」
ツムリがそう呟くと、別の映像が表れる。田舎風景の川原。そこもジャマーエリアが通過し、ジャマトのフィールドへと変わる。川の中央に、俺が飛ばした缶が刺さっていた。まさか、缶のあるところまでジャマーエリアを広げたのか…?そんなのありかよ…
すると、缶は緑色の巨大な手に拾われた。ラスボスだ。ラスボスは缶を持ち上げると、なんとそれを飲み込んだのである。何てことしてくれたんだ。
「缶ごと飲んでしまいました…!」
「ふざけんなよ…!あれじゃ蹴るどころの話じゃないだろ…!」
何とか缶を飛ばす方法を模索していのに、これじゃ全部お釈迦だ。
「話が違うぞ…どうなってる!」
「ジャマトってのは進化する生き物だ。こっちもそれに対応するしかない」
だからって缶を飲むのが進化なのかよ…
「その通り」
「ゲームマスター!」
ボイスチェンジャーを使っているのか、低い機械的な声に振り返る。ゲームマスターとツムリに呼ばれた男は、全身白いスーツに黒いフードを被り、顎の部位が赤い骸骨の仮面を被っている。
「ゲームマスター…?お前が?」
「元締めのお出ましとは、よほどの緊急事態らしいな」
ゲームマスターは英寿の軽口を無視すると、俺たちの間を通り抜ける。
「仮面ライダー諸君。今から緊急ミッションに挑んでもらう」
「何をやらせる気だ?」
「缶の破壊だ。そのために、攻略のキーアイテムを育ててもらう」
キーアイテムを…育てる?ゲームマスターが俺たちに提示したのは、テーブルの上、まるでこの中から好きなのを一つ選べ。と言わんばかりに三つ並べて置かれた、卵だった。大きさはダチョウの卵程だが、黒いマーブル模様が走っている。言葉を選ぶなら、恐竜の卵か。
「ふざけるな…これが最終戦にやることかよ!」
吾妻道長はラスボスの攻略が難化した事で苛ついていたのか、ゲームマスターに食いかかる。確かに、ここに来て卵の育成とは…肩透かしもいいところだ。それでも、英寿は自信満々である。
「やってやるよ。どんなゲームだろうと勝ち抜けたやつが、デザ神になる」
英寿は、真ん中の卵を選んだようだ。
今、真の最終戦の火蓋が切って落とされる。
*
ジャマトというのは性懲りもない。現れれば人を襲い、大人子供関係なし。それも大量生産だからたちが悪い。今日も今日とてジャマトは人を襲っている。
『卵は上手に育てれば、ラスボスを倒すアイテムになるかもしれません。ジャマトに割られないよう注意しつつ、防衛に当たってください』
「簡単に言うよな…」
こっちだって、元々足をかばいながら戦ってんのに、卵も守らなきゃいけないとか、ハードル高すぎ。
「何でこんなことしなきゃいけないんだ…」
「じゃあ辞めれば?後は俺と英寿で一騎打ちするから、勝手にしろよ」
「誰が!」
吾妻道長の怒りはマックスだ。その見境の無さはジャマトに匹敵するな。俺は左肩からタスキのようにかけた紐に、くるむように卵を入れる。ここからどんなアイテムが飛び出すかは知らんが、それで勝てるならやるしかない。
『SET』
「変身!」「変身!」「変身」
『DUAL ON!ARMED HUMMER!ARMED CLAW!』
『ZOMBIE!』『NINJA!』
『Ready?Fight!』
もはや恒例とまでなった組み合わせの変身を終えた俺たちは、町に蔓延るジャマトを退けながら、眼前のラスボスを見上げる。もう顔を上げて首が痛くなるくらいデカくなったラスボス。あそこのどこかに缶が……
「って、やばっ!」
辺りのジャマトは明らかに卵狙いだ。俺は背中でブロックするようにジャマトの攻撃を避け、的確にクローを振るう。いつもみたいに大ぶりの攻撃をすると、自分で自分の卵を破壊するはめになってしまう。攻撃には最新の注意を図らないと…
「卵を育てるったって…!」
プラスチックのテーブルを蹴り上げて盾にし、ハンマーで底面を押し込んで前方のジャマトを転ばせる。
「温めりゃいいのか?」
んな鳥じゃあるまいし。他の二人はどうしているのだろうと横目に見ると、
「こんなんほっときゃ勝手に育つだろ…!」
あぁ、バッファは完全にだめだ。卵をその辺に置いてジャマトをぶちのめしている。自分の子供にもああするつもりなのか。とんだ放任主義である。そしてギーツは。
「見ろ、俺たちが倒すべきラスボスだ。お前の使命を感じるんだ。この世界の運命は、お前の成長にかかってる」
卵に使命を悟らせていた。
「何あれ、超英才教育じゃん」
「知るか!」
ギーツは卵を空中に放ると、五体ほどに分身し、内三体ほどはラスボスの体表に貼り付く。そして、ニンジャデュアラーで突くと、一瞬だけラスボスの体が透けて、缶がはっきりと目視できた。等の缶は、ラスボスの喉元に留まっている。
『TACTICAL SLASH!』
そして残りの分身が他のジャマトを倒し、分身は一つに戻った。
「お〜とっとっとっと!」
『SECRET MISSION CLEAR』
ギーツは危なっかしく缶をキャッチ。同時に、シークレットミッション達成のアナウンスが流れた。差詰、内容は『缶を発見する』か。ニンジャバックル持ち以外にはクリアできるのか?そのミッション。ギーツのスパイダーフォンが蜘蛛型に変形し、プレゼントボックスを運んでくる。中身はバーストバックル。くそっ、ギーツがまた一歩リードか。やっぱり最終戦までに大型バックルを揃えてないと厳しいな…
「って、ラスボスいないし…!」
気付かぬ間に、ラスボスはもう移動していた。逃げてんのか、何なんだか。
とりあえず俺は、卵を温めることにした。
サロンにあった毛布でまんべんなく包み、辺りを貼るホッカイロで固める。これでもう完璧か?卵は育てた経験が無いからよくわからないが……とりあえず毛布の中で卵が茹で上がらない限りは大丈夫だ。
「こんなんで育ってんのかよ?」
卵をまじまじと見つめながらぼやく吾妻道長を尻目に、俺はギロリが入れてくれたグリーンティーを口にする。普通に洋風なカップで来るのかと思ったら、普通に湯呑で最初はびっくりした。まさかただ緑茶を横文字にしただけだったとは。店に行ったらつい普段は口に出来ないものを頼んでしまい失敗する、悪い癖だ。
俺が緑茶に備え付けられた羊羹に舌鼓を打っていると、途端に膝の上に置いていた灼熱の塊の中央から何やら音がした。耳を当てて聞いてみると、ピシ、ピシと聞こえる。孵化が始まっている…?ようやっと来たか!俺の大型バックル!
「さて、何が出てくるでしょうか」
ギロリの言葉に、期待が高まる。ガチガチに固められた毛布を剥がしていくと、中の卵が勢い良く割れ、中からバックルが飛び出した──────────灰色に四つの羽根がついた、またしても小型バックルである。俺は真顔になりながらバックルを手にすると、ギロリが説明してくれた。
「プロペラバックルのようですね。空を飛んで、缶のところまで行けるかも…」
大型バックル狙いだった俺からすれば、少々残念だが……確かに空を飛べるのはかなりのアドバンテージだ。これでただ邪魔なだけの通常ジャマトとの戦いをパスできる。缶の位置は既にギーツが割り出した。ハンマーバックルも当てようによっては缶を破壊できるかもしれない。今ラスボスジャマトが出れば、俺の勝ちは近いぞ。
「おい、早く割れろ!」
「あぁ…乱暴はいけませんよ」
「どう育てようが俺の勝手だろ、おい!」
俺のプロペラバックルを見て焦りを覚えたのか、吾妻道長は卵を机の角でコンコンし始めた。休日に卵かけご飯作ってるみたいだな。と、卵も急かされてうんざりしたのか、ヒビが入って独りでに割れた。
「うおっ!」
飛び出て空を切ったバックルは、クッションの上に着地する。はい、小型バックル。今度は茶色に、尖った三角形が付いたバックルだ。
「これは…」
「ドリルバックルですね。缶の破壊に役立つかもしれませんね」
もしかしてこの卵、小型バックルしか出てこない仕様なのか?
散らばった卵の殻をギロリが片付けている。
「これでラスボス倒せんのかよ…」
「ゾンビと組み合わせれば、可能性はあるかもな」
カウンター席でいつものポジションに座っている英寿は、紅茶が入ったティーカップをスプーンでかきまわす。また大量に砂糖でも入れたのだろうか。ゾンビと組み合わせればって…大型バックルの無い俺はどうしろというのだ。
「何だ、その余裕。お前の卵はうんともすんとも言ってないぞ」
「俺のは大器晩成だからな。寝る子は育つってか?」
英寿は手の中で卵を弄んでいたが、危うく落としそうになって口パクで「あぶね〜」と呟いていた。相変わらずの態度だな。
「何だそれ……卵も孵ってないのに勝ったつもりかよ」
「…悪いことは言わない。ラスボスは俺に任せとけ」
始まったぞ。英寿の化かしが。それも意に介さず、吾妻道長は鼻で笑う。
「誰が?」
「もし、ゲームで命を落とせば、この世界から退場だ。ジャマトにやられたら、元の世界には戻れない…でも、ここにいれば助かる。タイクーンみたいに、元の世界に戻れる。こんな悲劇は、忘れるに限る」
元からない堪忍袋の緒が切れた吾妻道長は、一気に距離を詰めて英寿の胸ぐらを掴む。
「ふざけんな!俺は!お前には絶対に負けない!」
「勇気と無謀は違う」
「…勝つのは俺だ…!」
吾妻道長は英寿を突き放す。あくまでコイツはゲームを下りる気は無いらしい。
「……俺だって戦う。勝ちは譲らない…!」
ここまで来たんだ。俺の理想の世界は絶対に叶える…!
「どうしてもやる気か?他人の不幸のために」
それは俺の人類滅亡の願いか、吾妻道長のライダーを倒す力の願いか。恐らくどっちもだろう。そんなクズみたいな願いを掲げる俺らを、英寿は庇おうとしている。成長するラスボスジャマトに、俺たちは敵わないと判断したのか。こんな時に、くだらない優しさ見せやがって。
「俺が何のために戦うのか。何が理想なのか。わかったんだ。こんなところで諦めていられない。今辞めたら、意味が無い」
俺はサロンを出ると、デザイアドライバーを外し、ジャマーエリア内の自分の町へと戻った。
*
冬が近いからか、夜風が冷たい。俺は何故か、学校の屋上に戻っていた。
何となく家に帰る気にもなれず、気づけば学校のここに足を運んでいた。景和のように、家族に気を配る必要はない。両親は学園祭が始まる前から揃って出張に────というありがちな理由なのもあるが、そもそも両親と俺が不仲だからである。当然の仕打ちだ。怪我のリハビリの時に、随分と迷惑をかけた。見捨てられないほうが不自然である。
三時間前には、タイクーンがここで一世一代の勝負を繰り広げていたのだが、今は静けさを取り戻している。学校の人間の大半は、ラスボスの養分にされてしまった。ただ常人には楽しかったはずの学園祭は、謎の生き物に壊され、踏みにじられ。悔しかっただろうか、いや、恐怖でそれすら感じる暇も無かったかも。
俺はフェンスに寄りかかると、またプルタブを眺める。ボランティア部、か。人のため、なんて考えたこともなかった。ここでこのプルタブを捨てれば、きっぱりと悩みから開放されるかもしれない。空き缶のゴミ箱に向かって、プルタブを投げようと構える。が、やはりその手は止まった。
何考えてんだ。俺が理想の世界を叶えれば、ボランティア部に入る事なんてないのに。
「無事だったんですね、先輩」
屋上の扉を開けて、聞き馴染みのある声の持ち主が現れた。日中に助けた、芹澤朋希だ。まだ学校にいたのか。
「………話すのはいつぶりだ?」
俺は選手、あいつはマネージャー。そもそも会話をした記憶がほとんど無い。俺を先輩呼ばわりするのも、初めて聞いたくらいだ。
「僕も遠く昔の事だから忘れました───────」
芹澤朋希は俺の横に座る。ジャマーエリアに囲まれて、家に帰れなくなったのだろうか。だとしたらえらい遠い所に住んでるな…
「あの…僕を図書室で守ったパンダさんって、先輩ですよね?」
俺は不意の見透かされた発言に、二、三歩後退する。気づいてやがったのか。芹澤朋希は、目線を合わせ、淀みなく問いかけた。
「先輩って…なんで戦ってるんですか…?」
なんでって……デザグラの情報をみだりに公開するのは禁止されている。もちろん、芹澤朋希も例外じゃない。願いを叶えるゲームに参加してるだなんて行ったら脱落だ…いや、一つ言える事がある。少しくらい、こいつに悩みを相談してもいいかもしれない。
「………人類滅亡のためだよ」
「人類滅亡…?じゃあ、なんで僕を守ってくれたんですか?」
芹澤朋希は、眼鏡の裏で目を丸くする。そりゃ、驚くのも訳ないだろう。だけど、コイツは俺の人類滅亡の願いを速攻で鼻にかけなかった。驚かないのか、学校の先輩が厨二病と言えないくもない願いを掲げてて…
「……俺は、人類滅亡を達成したら、また一からスタートすればいいって思ってる」
芹澤朋希は俺の話を黙って聞いていた。
「人が傷付いたり、悲しんだり、それって終わりがないんだ。だったら一度全部終わらせて、悲しみのない世界をまた作れればいい」
だからこその人類滅亡。最初は自暴自棄になって書いた願いだが、桜井姉弟との対話を得て、俺の心は少し前向きになっていた。デザイアカードに書いた願いは変えられない。だからこそ今は、"前向きな人類滅亡"を望むしかないのだ。デザグラは何度でも開催されるゲーム。何かまた別の願いを叶えるタイミングが来るかもしれない。希望的観測だが。
ちょっと言い過ぎたかな…?俺は恐る恐る芹澤朋希の方を見ると、彼はなぜか憑き物が落ちたかの様な表情をしていた。
「どしたの?まぁ、信じないか…人類滅亡とか」
「いや、そうじゃなくて。ちょっと嬉しかったんです。バスケ部での先輩、すごい苦しそうだったから。今は前向きに生きてくれてて、良かったっていうか……」
そうか、お前は俺の願いを否定しないのか…
「なんか、ありがとう。決心ついたよ。じゃあな…」
俺は一人、屋上を去った。明日の朝、必ずラスボスジャマトは現れる。勝負だ仮面ライダーども。願いを叶えるのは、勝つのは、俺だ…!
※
「いいの?あんなに聞いちゃって…?」
僕の後輩が、扉の影から顔を覗かせる。
「いいんですよ。心配だったんだ、今まで。"昔の先輩"とは大分変わっちゃったから…」
*
明け方。俺はラスボスの前に佇んていた。少し遅れて、吾妻道長もやってくる。ついに出現したラスボスは、いつにも増して大勢のジャマトを従え、いよいよ仮面ライダーを潰すために本気を出してきたって感じだ。が、来たのは俺と吾妻道長だけ。英寿は一向に来ない。
「おい、英寿は…?」
「…さあな。卵が割れなくて困ってるんじゃないか?」
「大器晩成型らしいけど?」
「どちらにせよ好都合だ、その隙に終わらせてやる」
ジャマトの群れが、じりじりと迫る。ラスボスもこっちに気づいた。いよいよ来る、デザ神決定の瞬間が。
…プロペラバックル。正直ハズレ枠だと思ってたが、前言撤回するよ。このゲームの、攻略方法は見えた。
『SET』
「変身!」「変身!」
俺はバックルのプロペラを回し、仮面ライダーダパーンに姿を変えた。
『ARMED PROPELLER!』
『DUAL ON!ZOMBIE!ARMED DRILL!』
『Ready?Fight!』
俺とバッファは同時にジャマト向けて走り出す。
跳び出してきたジャマトを、バットの要領で振りかざしたプロペラで撃退すると、前の二体をプロペラの両端で抑え込み、そのまま後方へ投げ返す。へぇ、結構使い勝手いいじゃん、これ。
前に進みながら、プロペラの鋭利な羽根でジャマトを斬り落としていく。だが、今回のジャマトはとてつもなく数が多い。一斉に俺に跳びかかってくる。
「そう、簡単に…負けるかよ!」
俺はプロペラを回転させ、前方に向かって一気に飛翔する。回る羽に巻き込まれて、かなりの数のジャマトが倒れた。そして、空中を飛んでいると、ラスボスがいつも通り棘を放ってくる。プロペラの飛行性能なら、ジャマトは俺を捉えられない。棘を避けつつ、チャンスを待つ。地面ではドリルで突進しながらバッファがジャマトを相手している。俺が避けた棘は地面へと降り注ぎ、ジャマトが巻き添えとなった。
遠くから、赤いバイクが走ってくるのが見える。ギーツのブーストライカーだ。だが、腰に抱えた卵がまだ孵っている様子はない。ついに英寿の不敗も終わりか。俺はデザイアドライバーのスロットに、もう一個の小型バックルを差す。
『SET 』
『DUAL ON!ARMED PROPELLER!ARMED CLAW!』
左手にクローを装備すると、ラスボスの大振りの叩きつけを飛び回りながら避け、ラスボスの拳はビルの壁に叩きつけられる。そして、俺はラスボスの手の甲に、クローを深々と突き刺した。この攻撃は、ラスボスにあまり効いていない。装甲が硬いからか、蚊に刺された程度の痛みだろう。でも、今はそれでいい。
再び飛行を開始して刺さったままのクローから手を離すと、どこからともなくもう一本のクローが補充される。俺は同様にラスボスの攻撃を避けながら、反対の手にまたクローを刺した。これで準備は整った。同時にバッファも、ゾンビとドリルの突破力を持って、地上のジャマトを捻り潰していた。バッファは必殺技を発動。ゾンビの能力で生成した毒の手腕が足場となり、ドリルを振りかざしながら上昇してくる。
チャンスは一度切り。この一撃に全てを賭ける!
俺はプロペラを前方に向け、ラスボスに接近する。その間、ラスボスは防御をしようと腕を振るう。
そのタイミングで俺は用意していたもう一つの必殺技を発動する。
『CLAW STRIKE!』
ラスボスの手の甲に刺さっていたクローが、必殺技の発動に伴って斬れ味が増し、独りでに動いてラスボスの手をえぐる。その攻撃でラスボスは一瞬怯んだ。たとえ小さな攻撃でも、使い方次第で、強敵を討つ一手になる。缶への道は開いた…!
「「勝つのは…俺だぁぁあ!」」
『PROPELLER STRIKE!』
『ZOMBIE!DRILL!VICTORY!』
必殺技の発動により、プロペラの回転速度が更に上昇する。俺たちの攻撃は、ラスボスの腕をすり抜け、缶が埋まっている喉元に到達した。プロペラの斬撃に、ドリルの破壊力。いいぞ…!缶を破壊できる…!
と、思ったのも束の間。何かが弾け、俺たちはビルの壁に叩きつけられた。そのまま地面に落ち、ビルの外壁が降り注ぐ。
「どうなってやがる…」
「逆流したんだよ…缶のエネルギーが俺たちに…!」
缶を破壊するよりも前に、人の生命エネルギーを秘めた液体が弾け、俺たちの攻撃は跳ね返されたのだ。衝撃で動けない俺たちに、ジャマトの群れが再び迫る。怪我した左脚が瓦礫に埋もれ、身動きが取れない。どこまでも、湧いて出てくるゴミ共が…!
不意に、颯爽とブーストライカーが現れ、ジャマトの群れを撃退した。ギーツのやつ、卵も孵ってないのに来やがって…!
「これ以上は辞めておけ!後は俺の卵が孵るまで…」
「うるせぇ!」
バッファが、ギーツの警告を一蹴する。
「ゾンビってのは…死にかけてからが…本盤なんだよ…!」
『REVOLVE ON』
バッファは上半身にゾンビの鎧を切り替えると、ゾンビブレイカーを杖に立ち上がる。節々から火花が走り、特徴的な角が折れている。
「何度やられようが、俺は戦う…!たとえ死んでも…俺は生きる!」
馬鹿が、生死は根性でどうにかなる問題じゃないんだぞ…!ラスボスが仕留めんと棘を発射し、ギーツは回避できたが、バッファはそれをもろに受ける。その攻撃で、折角育成して手に入れたドリルバックルは破壊されてしまった。
「勇気とか…無謀とか…どうでもいい…!俺は負けない…!それだけだ!」
ゾンビブレイカーを握り締め、それをラスボスに向ける。その生き様を目にしたギーツは、納得したように頷いた。
「そうだな…それだけだ!」
ラスボスは棘を密集させて、枝分かれした大剣を作ると、バッファ向けて振り下ろす。
そこに、ギーツが割って入った。まだ割れない、卵を手にして。
「起きろ、ねぼすけ。俺はもう、目覚めたぜ」
ラスボスの大剣による一撃を、なんと卵で受け止めた。最初は正気かと思ったが、すぐに心は変わった。卵に、黄色いビビが入り始めたのだ。
まばゆい光とともに、ラスボスが押し返される。辺りに卵の殻が散らばり、中から現れたのは……黄色い怪物の大型バックルだった。ギーツは息を呑むと、ブーストとバックルを付け替える。
『SET』
「ここからが、ハイライトだ…!」
ギーツがバックルの頭を叩くと、怪物が目を覚ます。そして、黄色と青のアメリカンな見た目をした鎧が、ギーツに纏わされる。
『MONSTER!』『Ready?Fight!』
モンスター…!これがラスボスを打ち砕くための、力。ギーツは必殺技を発動すると、グローブに囲われた右拳を構える。
「こんな世界は…一発KOだ!」
『MONSTER STRIKE!』
ギーツの右拳に、星型のエネルギーが集結し、エネルギーに満ちた拳は黄色に光を放ちながら大きくなる。
そして、それを一気に振り抜いて開放すると、拳は更に巨大化。命中した拳は、ラスボスの喉元に仕込まれた缶を破壊。その上でラスボスを空中まで運び、木っ端微塵に粉砕した。
『MISSION CLEAR』
ミッションコンプリート…デザ神、降臨。
「おやすみ…モンスター」
ギーツは変身を解くと、モンスターバックルを撫でる。俺も何とか瓦礫から抜け出して、変身を解いた。脚に別状なし…もうリハビリ生活はゴメンだ…
「なぜ俺を助けた…!」
吾妻道長は座り込んだまま悔しそうに瓦礫を叩く。
「英才教育。負けない気持ちってやつを教えてもらったのさ、先生」
英寿の軽い言い回しに、吾妻道長はまた掴みかかった。ラスボスにボコボコにされてたのに、タフネスな奴だ。
「お前!」
「…負けなければ、いつか勝てる日が来る。何時でも相手になってやるよ」
それに対し、吾妻道長は恨み節を返す。だが、その顔は少し笑っているように見えた。
「どこまでも気に食わないやつだ…ギーツ…」
『RETIRE』
IDコアが消え、同時に彼の体も消えてゆく。ドライバーだけが無慈悲に地面を跳ねる。次は、俺の番だ。
「…負け、か。まぁ、他人を蹴落とそうとしたわりには、持ったほうなんじゃないか?」
俺は俯いたまま自虐を投げる。勝つために、色々策を巡らせてきた。最初は鞍馬祢音を道連れに、なんて考えてたのに、最終的には正々堂々と戦っていた。何故だろうか?景和に絆されたのか?それもあるだろう。だけど、俺は純粋に…
「願いを叶えたい。その真っ直ぐな心を忘れんな」
英寿は、俺の肩に手を乗せる。英寿の目には、俺への労いの思いだけでなく、少し寂しさも混じっているような視線に思えた。こんな奴と会えなくなって、寂しくなるんじゃねぇよ、英寿。
「それ、忘れるってわかってる奴に言うかね…まぁ、お前の望む世界も。俺が人類滅亡を願わない世界も。少しは………」
「楽しみだなぁ………」
『RETIRE』
視界が、青いノイズに包まる。
薄れゆく意識の中で、遠くから鐘の音が聞こえた……
*
大盛り上がりの学園祭。その中で、陰気臭い空気に包まれた教室があった。社会科準備室、図書室以上に紙に支配された狭いこの教室こそ、ボランティア部の活動拠点である。
その開かれざる門を、叩く者が一人……
*
デザイアグランプリの参加者の選考は、厳正なる審査によって行われる。一口にそう言っても、実際のところはただの人気投票だ。最終戦まで残った有望株は、再選の可能性が高い。
「はい。これが、次の参加者のリストだよ」
薄暗い"IDコア管理室"の中で、受け取ったタブレットに表示されたリストに目を通す。どれどれ…?
「浮世英寿、吾妻道長…意外だな、桜井景和も出るもんだと思っていたけど………げ。墨田奏斗も再参戦?」
彼を選ぶなんて、物好きな人もいるもんだ。もう彼には戦ってほしくないのに…
「しょうが無いか……貴方にも追加エントリーの声がかかるかもしれません。準備は怠らずにお願いします。"鞍馬祢音"さん」
DGPルール
デザ神が願いを叶えると世界が作り変えられ、
人々の記憶はリセットされる。
こうして、新しい物語へ続く。
次回:仮面ライダーギーツ外伝
「ようこそ!デザイアグランプリへ!」
─新しいゲームの始まり─
「あんたのバックルなんか小さくなぃ?」
「昔はやんちゃだったからねぇ〜」
「デザイア〜ッ!」
─新ライダー参戦!─
「さぁ、必殺のメロディー!いっくよ〜!」
7話 変心Ⅰ:新世界のブラスト