仮面ライダーギーツ外伝 一歩IF:片脚の男   作:みなかみ

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変心編
7話 変心Ⅰ:新世界のブラスト


 

 人生ってのは、不公平だ。

 俺はかつて、努力をする幸運を与えられた。まだ小さい時から、幸運にも没頭できる物を見つけた俺は、それに人生を注いできた。だが、その日々は長くは続かなかった。交通事故という不幸により、選手生命を絶たれた俺は廃れ、人生を駄目にした。

 それでも、未来に希望はある。

「恵まれない保護動物のために、募金お願いしまーす!」

 俺は、ボランティア部に勧誘されるという幸運を掴んだ。兼ねてより、現役を引退した後は、ボランティア部として残りの高校生活を過ごすのも悪くないと思っていたが、うちの学校のボランティア部は部長の勧誘が無いと入れないらしい。だが部長の広実須井は、俺を勧誘した。なんというラッキー。

 ボランティアとはいいものだ。他人の幸福というのは、自身を幸せにできる。誰かに「ありがとう」と言われる度に、むしろこっちがありがとうと思うくらいだ。

 俺は"ボランティア部"と刻まれた黄緑の法被に制服の上から袖を通し、募金箱を掲げながら、全力込めて声を出す。

「や、やぁ。墨田奏斗、君。精が出るね…」

「部長…三十分遅刻。はい、これ着る!」

「あ、あぁ…」

 やっと現場に到着した広実須井部長に、ボランティアの法被を渡す。またこれだ。部長は遅刻が多い。勧誘されたときには、聡明な印象を受けたのだが…思ったよりも自堕落な人間らしい。

 というか、ボランティアの部員のうち四分の三がそうだった。部長は元より……

 

             *

 

 学園祭の最終日、墨田奏斗はボランティア部の部室である、三階社会科準備室を訪れていた。

「ほら、皆。やっぱり来ただろう、彼が墨田奏斗だ」

 部長が俺を指差すと、残りの三人が射るような視線を向ける。男子が二人、女子が一人。噂通り、曲者揃いという言い方が正しそうだ。これから俺もその一員となるのだが。一番奥、使われていない教員用の机に座った部長は、両腕を広げ大袈裟に話し始めた。

「じゃあ早速、君はボランティア部に入って何をしたい?」

 これも何かの試験なのだろうか?いや、無駄に気張るのはやめよう。俺はただ、本音を伝えるだけだ。

「俺は、ボランティア部に入ったら……困っている人への手助けがしたいです」

 俺の解答を聞いた部長は、突然背中から地面に落ちた。何だ?ボランティアってのはそういう無償の救済をするもんだろ?

 転げ落ちた部長に部員が手を貸す。すると、俺を省いて部室の角でコソコソと話し始めた。俺は立ち尽くしたまま聞き耳を立てる。なに………こんなはずじゃなかった…………思ってたんと違う…?俺を勧誘したのは部長なのに、どういうつもりなんだ?

「あの!俺、変ですかね!?」

 不意に出した大声に、ボランティア部の四人は肩を強張らせて振り返る。もしかしたら入る部活を間違えたのかもしれない。出口へと足を向けると、俺の肩を誰かが掴んだ。部長だろうか、軽く目をやると、それはボランティア部唯一の女子の部員だった。

「いや、全然問題無いよ。入部大歓迎。仲間が増えたね」

 その部員からは、広実須井部長とは違ったタイプの"真面目さ"を覚える。広実須井部長からは、社会の理想をそのまま写したかのようなきっちりとした立ち振る舞いのイメージだが、この女子部員からは、落ち着いた見た目ながらも自分の我を通した、自由なイメージを感じる。深色の茶髪のロングヘアーを揺らしながら、女子部員は微笑んだ。

「私は二年の新井紅深(あらいこうみ)。これからよろしくね、墨田奏斗君」

 同学年の新井紅深の声は、少し棒読みに聞こえる。

 

 

 他にも部員はいる。だがお世辞にも活動態度は真面目と言えない。彼らも広実須井部長へと推薦されたから入ったのだろうが、何故部活にい続けてるのか、理解ができない。

 それに、広実須井は三年生だ。進路活動に余裕があるからボランティア部を続けているらしいが、彼が卒業したらどうなる。ボランティア部は崩壊だ。

「全く…手伝ってくれるのは新井だけですよ」

 少し離れた木々の通りで、新井紅深は募金の協力を呼びかける旗を振っていた。新井紅深を一瞥した広実須井は、やれやれと言うように頭を振る。この仕事だって、俺が市に問い合わせて見つけたものだ。個人で行える活動の他にも、ボランティア部として実績を残したい。その思いとは裏腹に、ボランティア部の活動は怠惰そのものだった。

「まぁ、最近ボランティアの活動も停滞気味だったしね。本職に戻るとしようかな…!」

 広実須井部長は、派手にボランティア部の法被を羽織ると、新井紅深とは反対方向に駆け出した。俺の持っていた募金箱をかっ攫って。彼がボランティア部を設立した理由は、てっきり退学寸前の生徒たちの受け皿になるために作ったものだと思っていた。それは少し違うみたいだと、新井紅深を見て思う。彼女が人間的問題を抱えているとは思えないし、これといった人間的特徴もない。強いて言うなら、話し方に抑揚があまり無いところだろうか?最初に会った時に感じた、自由な印象は何だったのだろう。

「おーい。奏斗君」

 募金箱を失ってやることが無くなった俺の元に、新井紅深が小走りで近づいてくる。

「どうしたの?」

「奏斗君にお客さんだって。凄いね、スターとお友達なんだ」

 感情の起伏が薄い声で、新井紅深が背後を振り向かずに指差す。スター様……って……新井紅深の指す先には、紺色のモダンなスーツを身にまとった、スター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズである、浮世英寿がそこにいた…!胸元に目立つ赤い薔薇をキザに持ちながら、浮世英寿は俺に歩み寄ってくる。

「綺麗な花ほど棘がある………サインやろうか?」

「え………まじで?」

 感激する俺に対し、新井紅深は首を傾げて去ってゆく。どうやら彼女はこの奇跡を理解していないらしい。スター、浮世英寿。彗星の如くこの世に現れた彼は、先ずは役者関連の全日本スターアカデミー賞 新人賞を始めとしたあらゆる賞を総なめ。モデルにおいての活躍も凄まじく、男性部門の賞も総なめ。出版した自伝も爆売れしこれまた賞を総なめ。ついでに数々の賞を総なめし、日本のメディアの頂点に君臨する男。それが浮世英寿なのである。普段なら、こんな辺境の地にスターが来るなんてありえない。なんということだ…!

「またやってるんですか!いい加減にしてください!」

 薔薇を差し出す浮世英寿を、白と黒二色で仕立て上げられた服を着た女性が跳ね除けた。ポニーテールに、白いレースのカチューシャ。彼女も俳優なのだろうか?整った顔立ちをしている。それに、手の内の黄色い箱は何だ…?謎の女性は咳払いをして調子を整えると、手元の箱をスライドさせて開く。

「おめでとうございます!厳正なる審査の結果…あなたは選ばれました」

 ビックリマークが刻まれた蓋が除けられると、中に納められていた物が露わになる。一つは二つのレールに、中央に何かを入れるであろう穴が空いているバックル。そしてもう一つは、白を基調に、黒でマークが描かれた筒状のアイテムであった。書かれているのは、パンダ?俺はそっと指先でアイテムに触れる……

 

(どうせもう終わりなんだよ…!)

 

(これからも景和を、信じてあげて)

 

(……俺だって戦う。勝ちは譲らない…!)

 

(こんな世界は…一発KOだ!)

 

 思い出した………過去の、俺の記憶。世界を憎み、誰彼構わず八つ当たりする、醜い人間の記憶だ。そうだ、今までずっと忘れていた。

 英寿の英才教育の賜物で、缶けりゲームは終了。そのままギーツがデザ神となり、英寿の理想の世界は叶えられた。敗北した俺は、デザイアカードに書いた願いを忘れ……いやありえないだろ…!何だあの真人間は…!

 人類滅亡の願いを忘れた俺は、人類の平和と自由を願う、当に桜井景和のような人間になってしまっていた。ボランティア部の誘いを蹴ろうと画策していたのに、これじゃ頓挫だ。そりゃあ、部長達も戸惑うはずだ。友達のいない、捻くれた男を勧誘したはずが、来たのはボランティア部の法被を自作するような男だったのだから。

「……まじで最悪…!」

 終いには英寿は俺の法被にサインを刻んでいた。俺の周りをどんよりとした空気が包む。誰だよ…俺をデザイアグランプリに再参加させたやつは……とんだハズレくじだ。願いを叶えられるチャンスが巡ってきたのはいいが、こんなんだったら思い出さないほうがマシだった。これからは、真人間の頃の俺を枷にして生きていかなければならない。俺はサインを書き終えた英寿を見る。この調子だと吾妻道長にも同じようなことをやったのだろう。だが……問題はそこじゃない。

「お前、なんでナビゲーターと一緒にいるんだよ…まさかお前の願いって…」

「そう、叶えたんだよ。運営と家族になってる世界をな」

 いつの間にか、ツムリから熱い視線が注がれていた。この感じだと、(お願いだからギーツを倒して!!!)とか思っている辺りか。

「では、呼び出しがあるまでお待ち下さい…!」

「じゃ、またデザグラで」

 俺は頭の中で整理する。ボランティア部の人間や、これから現れるであろう新メンバー……覚えることが沢山だ……これからのゲームが億劫になってきた……

 

             ※

 

 英寿とツムリは、次の参加者へ向けて歩みを進める。

 その時、お嬢様生活を満喫する鞍馬祢音と遭遇することはなかった。

「ナーゴも、タイクーンも、元気でやってるかなぁ〜!」

 英寿は呑気に、デザイアグランプリが始まるまでの、束の間の休息を謳歌する。

 

             *

 

「ようこそ!デザイアグランプリへ!」

 デザイア神殿は相も変わらぬ姿を見せていた。今となっては懐かしい。集められた五十人、配られたデザイアカード。素性も全く知らない者たちと、デザ神の座を目標に、骨肉の争いが始まるのだ。

 初参加者に向けたツムリのナビゲーションを聞き流しながら、自分のデザイアカードに願いを記入し、周りを見渡す。今回は地雷系な女に、ガムを噛むパンクロッカー風の男、なんと老人までいる。再選された者は、英寿に吾妻道長。景和や鞍馬祢音の姿はない。ますます選考基準がわからなくなってきたが、今回の参加者で最も警戒すべき人物を、俺は知っている。それは、英寿でも、吾妻道長でもない。見間違いであることを祈りつつ、もう一度スパイダーフォンで参加者名簿を確認する。

『仮面ライダーカローガン・青山優』

 間違いはない…俺と同じ学校の生徒かつ同じクラス……バレー部の青山優だ。俺は参加者の隙間から、対角線上に居座る彼女を垣間見る。少し外に跳ねたショートカットに、それ以外に特徴の無い外見。よくクラスの陽の者たちとつるんでいるのを見る。いわゆる取り巻きというやつだ。自分の意見を持たず、他人に流されるがまま。では、何故俺が彼女を問題視しているのか。それは……

「デザイア〜ッ!」

 俺の思考は、ロッカー風の男がかき鳴らすギターの爆音で粉砕された。改めて名簿を確認する。晴屋ウィン…こいつだ。仮面ライダー名は……何!?パンクジャック…!?

「ツムリ〜!君に一目惚れだぜBaby!結婚しようよ!ツムちゃ〜ん!」

 いや、無いな。人違いだ絶対に無い。この騒がしい男から、寡黙なNPCの姿は全く連想できなかった。歌を口ずさみながらツムリの手を取る晴屋ウィンを、英寿が遮る。

「待てよ、俺の姉さんに触んな」

「あっ、お前はスターの浮世英寿。人の恋路の邪魔をぉ、ねぇツムちゃん」

 晴屋ウィンの華麗なウインクを避けるように、ツムリは顔を背ける。姉やらツムちゃんやら、参加者の意向に振り回され、なんだか可愛そうになってきた。溜息をこぼしながら顔をあげると、俺に視線が向いていた。青山優である……俺に気づいた彼女はボランティア部の法被を凝視していた。

 

 

『運命の第一回戦は、海賊ゲーム!街中の旗を、チームに別れて守ってください!』

 多くの参加者が振るいにかけられる一回戦。人気のない港には、数隻の漁船がぷかぷかと浮かんでいた。波止場の中央に寄せられたドラム缶や瓦礫の天辺に、ジャマト印の黒い旗が立っている。

『その旗は、ジャマトの落とし物で、彼らが取り戻すと凶暴化します!くれぐれも奪われないように!』

 なるほど。差詰この旗は海賊旗。これから現れる海賊ジャマトの勲章ってわけか。ルールは大体理解した。戦うためのバックルは…前の一回戦・宝探しゲームとは毛色が違う。きっと向こうから支給してくれるだろう。盗賊と海賊で若干ネタ被りだしな……

「ねぇ!さっきから何で無視してんの!?聞いてんの!?」

「あぁ、あの、お嬢さん、落ち着いて……」

 一番の問題はこの女だ。ランダムで決まったらしいチーム分け。俺の所は三人チームで、俺、青山優、そして老人の丹波一徹、この三人だった。この割振りは、悪意があるとしか思えない。俺に敵意を燃やすやかましい同級生と、戦えもなさそうな御老体を抱えて戦えというのか。冗談じゃない。丹波一徹は、俺への怒りに駆られる青山優を止めようとあわあわしているが、あまり効果はない。

「うるせぇよ。どうせどう返したって、お前怒るだろ」

「はぁ!?そんなことないんだけどっ!」

 青山優は、ふんぞり返って俺を睨み付ける。この青山優という女には主体性というものがない。だから周りの意見に流される。俺は真人間だった頃の行動が災いしてか、クラスで格好の悪口の標的されていた。特に女子。女子は黒い生き物だ。叩いていいと見なされた者は、クラスの輪を正すという大義名分を持って目の敵にされる。だから個人の芯が無い者……ハブられるのが怖いやつは、意見という言葉を搾取される側に回るしかない。だけど、その中でも青山優は異常だった。他人の言葉に百パーセントで同調し、特に何もされてないのに被害者張本人のように怒っている。ある意味一番恐ろしい。

『アイテムを各自プレゼントします!』

 俺たちの口論が終わらぬまま、旗を支える木箱の上に、三つの宝箱が現れていた。それぞれ自分に一番近いものを手にする。最初にマグナムを使ったっきり、大型バックルとはそれ以来だ。今度こそ頼むぞ……と、箱を開く。

「蛇口…ね…」

 まぁ、今までの流れから何となく察しはついていた。俺に配られたのは、前大会で浮世英寿が最初に入手していたバックル、ウォーターバックルだった。吾妻道長にハズレだと笑い飛ばされていたのを覚えている。他の二人はどうだろう。

「これは…」

 丹波一徹は…プロペラか。まぁ悪くはない。小型バックルの内ならまだいい部類だ。プロペラは小回りがきくし、ジャマトに囲まれても巻き返せる。

 そして青山は…

「うわっ、なにこれ。手裏剣?」

 ニンジャだと…!デザグラは優遇しない……優勝者の英寿にも小型バックルは巡ってくるし、ブーストが使えるのは一回きり。それは重々承知している。だが…あの青山に、ニンジャ?自己犠牲の精神を持つ者に共鳴するニンジャバックルは、過去のゲームでは桜井景和に一直線だった。お人好しの景和にニンジャ。これは納得できる。たが、自分で責任も取れない、人の悪行を見て見ぬふりをする青山に、自己犠牲の精神があるとは思えない。何かの手違いで交換できないだろうか。

 わなわなと自分の手が震えていると気づく。

「あ〜れぇ〜?あんたのバックルなんか小さくなぃ?」

「黙れ…」

 馬鹿はこういうところに抜け目ない。人の不幸が好きだから、常にアンテナをはって、尻尾は掴んで離さない。本当に俺たちの相性は最悪最低だ。

『海賊ジャマトが現れるのは二回。第二ウェーブまで旗を守り抜けば勝ち抜けです!それでは、ゲームスタート!』

「っ!」「ええっ!」「うわぁっ!」

 ゲーム開始のアナウンスと同時に、地面が爆ぜた。

 初っ端からいきなり攻撃…っ!間一髪で攻撃を避けた俺たちは、水面に目を凝らす。水平線の切れ間に、白い布を広げた帆船が現れていた。側面からせり出した筒から、白い煙が立っている。今のは砲台からの攻撃か…!

 先に泳いできていたのか、数体のジャマトが漁港に上がってくる。数は多いが、こっちだって一人じゃない。協力すれば何とか行けるか…!

『SET』

「変身!」

『ARMED WATER!』『Ready?Fight!』

 レイズウォーターで海水を高圧噴射し、青龍刀を振りかざすジャマトを海に吹き飛ばす。

 ウォーターバックルは環境に依存するバックルだ。水を使った強力な攻撃ができる分、水がないところではカスみたいな性能になる。このまま水攻めで倒すのも悪くないが、相手は海賊。ある程度は体制があるかもしれない。ならば効率的な使い方は…

「水道管っ…!」

 レイズウォーターを逆手持ち。トンファーのようにスナップを効かせながら振り抜き、海賊ジャマトの武器を砕く。ウォーターバックル最大の活用法は、殴打による攻撃だ。

『NINJA!』『ARMED PROPELLER!』

 あいつらもようやく変身したらしい、お互いの姿を見て、喜び合いながらハイタッチしている。はよ戦え。

「変わっちゃったよ〜!」

「よーし!行くよ、おじいちゃん!」

 青山優が変身したカローガンは、ニンジャデュアラーの一刀を両手で握り、海賊ジャマトに斬りかる。戦闘の初心者にしては果敢な部類だが…海賊ジャマトの短剣に弾かれてしまった。ニンジャデュアラーはカラカラと虚しい音を立てて港の端に落ちる。

「っ、うわぁ〜!」

 武器を失ったカローガンは、一目散に瓦礫の裏に隠れる。何してんだよ。

「こうなったら爺さん!俺たちだけでもやるぞ!」

 レイズウォーターの蛇口の部分で海賊ジャマトの頭部を粉砕。丹波一徹が姿を変えたケイロウに振り返る。しかし、そこには誰もいなかった。

「いてて…腰が…」

 カローガンが隠れている横の木箱の角に蹲っていた。誰だこの今にも死にそうな老人を参加させたやつは…まともに戦えるの俺だけかよ…!

 その間にも海賊ジャマトは次々旗へと迫る。ドラム缶を蹴って転がし、将棋倒しに転ばせると、レイズウォーターをぶん投げ、海面から飛び出すジャマトを撃退した。ブーメランの様に帰ってきたレイズウォーターをキャッチ。再びの高圧放水で、倒れたジャマトを壁にたたきつけて倒した。

「いい加減戦えって…!三人で戦うはずの量だから、手がかかるんだよ!」

「だって、怖いしぃ…!」

「はぁ……っ!じゃあニンジャバックルよこせ!そっちのほうがまだ戦える!」

 こうして口論している間にも、ジャマトはとめどなく旗に押し寄せる。ニンジャの分身能力があればまだ対応できるはずだ。ジャマトの首元を蛇口の根本で押さえつけながら、カローガンに手を伸ばす。

「や!あんたにだけは貸したくないっ!」

 カローガンは俺の手を弾いた。ふっ、ざけんなよこいつ…!戦わないなら大人しく従っとけっての…!

 …だったらいいさ。こっちだって考えがある。ジャマトの拘束を解き、レイズウォーターの至近距離放水で風穴をあける。その攻撃で他のジャマトも怯んだ一瞬のスキに、波止場のギリギリのところで止まっていたニンジャデュアラーを拾った。さっきカローガンから弾かれたものだ。ニンジャフォームで使うよりは威力が落ちるが。無いよりはマシ。

『ROUND 1・2!』

 側面の手裏剣を回し、合体させた刃に風が集まる。最大必殺はやっぱり使えないか…!ならば狙うは直線。この一撃で、全員を倒す!

 レイズウォーターの放水で、全員を海上に追いやった。今だ!

『TACTICAL SLASH!』

 刃を大きくニ度振り抜き、十字の斬撃を風の力で立体化させると、斬撃は真っ直ぐに海上のジャマト向けて飛んでゆく。ありったけのエネルギーを込めた斬撃は、次々とジャマトを両断し、海賊船の船主に傷を残した。

『第一ウェーブ終了です!』

 何とか切り抜けられたか……海賊船は水平線の先に姿をくらます。今回は一度しか砲撃してこなかったが、第二ウェーブともなれば次々砲弾が飛んでくるだろう。その攻撃をさばきれるだろうか。

 新シーズンの幕開けは、不安に満ちている。

 

 

 第一ウェーブでかなりの仮面ライダーが脱落した。

 残ったチームは、A、B、D、H、Lの五チーム。DとHは新規の参加者だ。二人組と三人組、見たところアスリート志願者や、スポーツブランドの社員など、運動を生業にしている者の集まりのようだ。

 Bチームは既に一人。仮面ライダーバッファの吾妻道長だ。八木沼という地雷系ファッションの女がペアだったようだが、早々に脱落してしまったらしい。吾妻道長はゾンビバックルを手にドカッとソファーに陣取る。

 そしてAチーム。浮世英寿、晴屋ウィンペア。晴屋ウィン……仮面ライダーパンクジャック。奴には十分警戒するべきだ。晴屋ウィンと、神経衰弱ゲームで登場した運営、仮面ライダーパンクジャック。目立ちたがりと無口、性格は真反対。最初は人違いかもと思ったが……仮面ライダーの持つIDコアは個人専用。ならば同じデザインのライダーなんてありえない。俺には運営がろくでもないことを企てているとしか……

「俺は……知る人ぞ知る〜!パンクロッカァ〜!晴屋ッ、ウィン〜!」

「いちいち弾かなくていいから」

「別人だろ」

 この逐一ギターで歌いだす脳天気な男を見ると、疑っていたこっちがバカにされた気分になる。サロンにいたって、ただうるさいだけだ。こっちはただギロリの作る飯を楽しみにしていたのに……台無しだ。

「あぁ、腰が…」

「ねぇ〜さっきの戦いで突き指したんだけど!」

 勘弁してくれ……。円形状のソファーの両サイドを二人にガッチリ固められ、出ることができない。このままずっと好き勝手喋らせるのも癪だし、話題を変えるとしよう。

「なぁ、爺さん。あんたはデザイアカードになんて書いた?」

 青山優の愚痴は無視して、丹波一徹に顔を向ける。丹波一徹は、小っ恥ずかしそうに答えた。

「私は、若返りたいと。昔はやんちゃだったからねぇ〜」

 若返りか。過去の経歴を改ざんして、スターにだってなれるゲームだ。人の寿命を戻すなんて造作もないか。

「お嬢さんは?」

 丹波一徹は青山優に話を振る。ようやく自分の番が来て嬉しかったのか、青山優は意気揚々と答えた。

「うん。私は、幸せに暮らせてる世界、かな!」

 なんか普通だな。と言葉を飲み込む。特徴のなさを極限まで突き詰めるとこうなるのか。具体的に自分はこうなりたい、とかないものか。そんなしょぼい願いなら、戦う気も起きないだろう。

「な〜にその不満そうな顔。じゃああんたは何なのよ…!」

「俺か…?俺の書いた願いは………言えない」

 言えるはずないだろ、否定されるに決まってるなら尚更。

 

             * 

 

 今回のシーズンも波乱の幕開けだな、モニターを眺めながら思う。第一回戦の第一ウェーブでもう十人まで人が減ってるのはもちろんのこと…最終戦までには何人残れることか。それにしても随分と…いや、本当に変わったよね。仮面ライダーダパーン、墨田奏斗。

「ねぇ、芹澤君。私、決めたよ。追加エントリー、受ける」

「ここではハイトーンって呼んでほしいんだけど……まぁ、わかりました。君なら受けると思ってましたよ」

 机の上に置かれた二つの宝箱と、デザイカードを重ねて渡す。中には僕がしっかりと使い方を指導したビートバックルと、デザイアドライバー、そして仮面ライダーナーゴのIDコア。

「願いはもちろん、本当の愛が欲しい、ですか?」

「うん。やっぱり、自分の願いにはまっすぐでありたいの。芹澤君のおかげで、強くなれたし!」

 彼女は片手で猫のポーズを取る。最近の女子高生にはこの可愛らしい仕草がウケているらしい。僕にはよくわからないけど。

「ダパーンの所へ行ってください。手が足りなくて、相当困ってるようです。ボスの海賊船の姿も発見されてますし………嫌ですか?彼の所へ行くのは」

「ううん。大丈夫、奏斗はもう裏切ったりしないと思うな。だって、ボランティア部なんでしょ〜」

 やっぱり記憶改変というのは残酷だ。デザイアグランプリの記憶と、願いを失っていた頃は、彼は正義をこよなく信じる人間だったし、彼女は親の言いなりで抜け殻みたいな精神性だったのに。記憶一つで世界は変わる。

「じゃあ、行ってきます!」

「えぇ、行ってらっしゃい」

 僕、芹澤朋希は、IDコア管理室を出ていく鞍馬祢音の姿に目を細めた。

 

 

『皆さん、第二ウェーブです!旗を七本も奪われ、ジャマトは凶暴化していますので、くれぐれもご注意ください!』

 注意するってねぇ……このメンバーじゃ注意したところで、結局戦うのは俺だけだ。帆を大きく広げた海賊船が、ベルを鳴らしながら港に迫っている。あっちがどれだけ弾を持っているのか知らないが、観察したところ砲身は四つ。そう何回も発射はできないはずだ。砲撃の合間を縫って攻撃できれば、あの海賊船を沈められる。問題は、あっちまで届く武器が青山優のニンジャデュアラーしかなく、コイツが戦いを恐れていることだ。

『それでは、第二ウェーブスタート!』

「変身!」『ARMED WATER!』

 開始の宣言と同時に海面に放水して、水しぶきの壁で目眩ましをする。これであっちは迂闊に砲撃できない。味方のジャマトまで巻き込むマネはしないだろう。その一瞬の時間で俺がなすべきことは。

「ほら、戦わないならこっちに隠れてろ。そのほうが安全だ」

 変身したまま待機させていたケイロウとカローガンを、倉庫の中に隠す。ジャマトに狙われて邪魔されるくらいなら、最初からいないほうがマシだ。後は…

「来る…!」 

 四つの砲弾が港向けて放たれ、次々海賊ジャマトは旗に迫る。波止場に横付けされた漁船を盾にして砲撃を防ぎ、レイズウォーターを投げつけて旗への進撃を阻止する。転がりながらレイズウォーターを拾い、柄でジャマトを叩き砕く。

 ドンと腹に響く音が鳴る。歯ぎしりしながら海を見ると、もう次の砲弾が放たれている。

「ペースが早いっ…!」

 再び漁船の裏に隠れたが、今度の砲撃に漁船は耐えきれず、粉々に砕けてしまった。またしても海賊船から閃光が走り、とめどなく弾は港を襲う。砲弾を防ぐための遮蔽物はほぼ無くなり、弾が放たれるペースは次第に早くなる。海賊船のデッキに、七本のジャマトの旗が潮風に靡いていた。まさか……

「あの海賊船自体がジャマトか…!」

 あれを倒さない限り、このゲームは終わらない。海賊ジャマトを捌きつつ、思案する。あの海賊船ジャマトは遠く離れている。こっちに遠距離攻撃の手段はない。ニンジャでワープを使うか、プロペラで飛ぶかしかあの"海賊船ジャマト"に攻撃は届かない。でもだめだ。海賊船ジャマト本体にどんな能力があるかわからないし、悠長に飛んでいたら撃ち落とされる。一体どうすれば……

 海賊ジャマトを身代わりに砲弾を凌ぐと、一度砲撃の手が止まった。

 少し間が空いて、二発連続で砲弾が飛んでくる。旗を守らんと身構えていると、一発目の砲弾は上空で炸裂。中から水塊が溢れ出してきた。その水塊が港に振ろうとした刹那、二発目が爆ぜ、今度は機械が入っていたようだ。トーンと静かな音が響く。いや、この音には聞き覚えがある。海賊がいる時代にそんな技術は無い……この音は……

「居場所を探知してる!身を守れ!」

 魚群探知機…いわゆるソナーと言うやつだ。一発目の水塊を介して、二発目から発生した音波が、倉庫に隠れた二人のライダーを炙り出す。水塊が雨と変わり、港に降り注ぐと同時に、爆発性の砲弾が倉庫を破壊した。気づくのが遅かった…!

 爆発と同時に、爆炎の中からカローガンが飛び出してきた。いや、吹き飛ばされたという方が正しいか。勢いのまま地面に体を打つカローガンに、海賊ジャマトが襲いかかる。ケイロウはどこに行った…逃げられたのか……いや、今はカローガンがやばい!

「寄ってたかって…!」

 タックルで大剣を振りかざすジャマトをどかし、レイズウォーターの一振りで、連続で海賊ジャマトを退ける。ギリギリ間に合った。カローガンは変身が解けて、青山優の姿に戻っていたが、IDコアは割れていない。アーマーブレイクのみで済んだ。

「速く、逃げるぞ…!」

「……っ、でも…」

 青山優に肩を貸して、別の倉庫を目指す。どうやらソナーは連続で使えないらしい。今のうちに隠れないと…青山優の命が危ない。

「私見逃せばいいじゃん…!このままじゃあんたも、旗取られてゲームオーバーだよ!」

「死なない限りはチャンスがある!スターがそう言ってたんだよ……だから、今は死なない方が先決だ……」

 まだ退場なら、記憶を消されるだけですむ。そう、記憶を消されるだけで────────いや、駄目だろ。あんなヤツに後戻りなんて絶対に嫌だ。死んだほうがマシだ…!!!

「全員……ぶっ潰す……!」

 俺は青山優を雑に柱にもたれかかせると、レイズウォーターを投げて、砲弾を海賊船ジャマトに向けて跳ね返した。砲弾は海賊船ジャマトに当たり、黒煙が立ち込める。

「ボランティアなんて二度とやるか……理想の世界を叶えるまで……俺は逃げない…!」

 たとえ一人でも戦う覚悟を決めて一本進む。

『SECRET MISSION CLEAR』

 宣言と共に、足元にピンクの宝箱が降ってくる。まさかと確認すると、『最初に砲弾に攻撃を当てる』のシークレットミッションを達成していた。心臓が高鳴る。これが、俺の新しい力。

 宝箱には、一つの大型バックルが入っていた。そのバックルは、バルブが備わった高圧ガスボンベに、二つのメーターが付いたものだ。俺はバックルを足側のスロットにセットする。

『SET』

「変身…!」

 ガスボンベのバルブを開くと、バックルから大量の白いガスが噴射する。そのガスは、やがて鎧を形取り、俺の足に装着された。

『BLAST!』『Ready?Fight!』

 新しいアーマーは、両腿にはメーターや伸びたホースと高圧ガスボンベ。そしてふくらはぎには、回転するファンやホースと直結した六角形の噴出口が両足に四つずつ備え付けられていた。

 間違いない。ブラスト、風、疾風、爆風……このバックルこそ、俺のIDコアに適した力だ。お誂え向きに、足への装備。もう十分、俺は……

「自分の"脚"で立てる…!」

 俺が右足で地面を蹴ると、噴出口から圧縮された白いガスが噴出。いつもよりも高くジャンプする。その勢いのまま、旗を取ろうとしていたジャマトを蹴り飛ばす。ジャマトは一撃でその身を砕き、海へと落ちた。

 旋風脚ばりに回し蹴りで竜巻を起こし、海賊船ジャマトの砲弾の勢いを殺す。砲弾はボトボトと沈んでいった。いける……このバックルなら、第二ウェーブも切り抜けられる。

「ほら…大丈夫?おじいちゃん?そこの君も」

「おぉ…ありがとう、お嬢ちゃん」

「ありがとうございます、ほんと、なんて言ったらいいか…」

 自分の新しい力に惚れ惚れしていると、俺の背後からほのぼのとした会話が聞こえた。何だ、ケイロウ無事だったのか……って、一人多くないか?しかも、この聞き慣れた声は忘れない。スター・浮世英寿と肩を並べるほど人気な女……

「鞍馬祢音!?」

「そう、その鞍馬祢音なのです!ピカリ!」

「はぁぁぁ?」

 なんでこいつがここに……しかも、鞍馬祢音が着てるのはデザイアグランプリの戦闘服だ。こいつ、もしかして。

「私も戦うよ。奏斗だけに、いいカッコさせてられないからね〜」

『SET』

 彼女が持っていたのは、ピアノの鍵盤に、ターンテーブルが合体した、これまた見たことないバックルだった。ようやく新規のバックルで決めようと思っていたのに、これじゃ締まらないな。

「へ〜んしんっ!」

『BEAT!』『Ready?Fight!』

 仮面ライダーナーゴ・ビートフォーム…ナーゴがバックルの鍵盤を弾くと、辺りにリズミカルな音楽が鳴り響く。ナーゴの持つギター状の武器、ビートアックスと合わせて、如何にも、音の名にふさわしい姿だった。

「勇気のメロディーだよ、奏斗。一緒に倒そう!」

「勇気とかウザいんだよ…そんなのなくたって戦える」

「連れないなぁ…まぁ、いっか!」

 俺達は軽口を叩き合うと、互いに振り返って海賊ジャマトから旗を守る。俺はブラストの蹴りで、ナーゴはビートアックスの斬撃で。

『BLAST STRIKE!』『TACTICAL FIRE!』

 ファンを急速に回転させて両足に風を纏うと、昔ながらの飛び蹴りで海賊ジャマトを倒す。一方のナーゴも、ビートアックスによる炎の薙ぎ払いで、海賊ジャマトを一掃していた。これで残るは、海賊船ジャマトのみ。

「さぁ、必殺のメロディー!いっくよ〜!」

『FUNK BLIZZARD!』『TACTICAL BLIZZARD!』

 二人は同時に港を駆け抜け、海面向けてジャンプする。ナーゴがビートアックスを振り落とすと、海面が凍りついた。俺は着地すると同時にレイズウォーターを投げる。海水をまき散らしながらレイズウォーターは海賊船ジャマトに迫り、同時にビートアックスの凍てつく能力で飛び散った水が凝固し、海賊船ジャマトを捕らえた。

「これでとどめだ!」

「これでトドメだよ!」

『BLAST!WATER!VICTORY!』

『METAL SANDER!』

 俺はブラストの能力で大きく跳び上がり、ナーゴは氷で出来た道を走る。そして海賊船のデッキ向けて、渾身の踵落としを決めた。直撃した部位から亀裂が生じ、ウォーターの能力で内側から噴水のように海水が吹き出す。海水を下から吸い上げて貫通させた。仕上げは…

「にゃ〜っ!!!」『TACTICAL SANDER!』

 天から雷が降り注ぐ。海水で濡れた海賊船ジャマトは、雷に一気に感電し、体が耐えきれなくなったのか、エネルギー超過か、爆散した。

「よしっ!やったね、奏斗!」「あぁ…」

 ナーゴがグータッチを求めて来たので、俺はナーゴを見ずにそれに応える。二人の拳が重なったとき、俺は違和感に気づいた。もしかしてこいつ、変身解いてる?

「おい!いま解いちまったら…!」

「あっ!ウソっ!?」

 鞍馬祢音がナーゴから戻ったせいで、ビートアックスのおかげで凍っていた海面が溶け、俺たちは海に真っ逆さまに落ちた。海面とぶつかった衝撃のためか、自動的に俺の変身も解ける。俺は泳げるが…

「ちょっ、やばっ…」

 お前泳げないのかよ…!俺は鞍馬祢音の手を取るが、この距離を担いで泳げなんて…

「お〜い!お二人さん!大丈夫か〜!」

 遠くから声が聞こえたと思うと、港からケイロウが飛んできていた。思わぬところで、彼のプロペラが役に立った。

 

 これが、デザイアグランプリの新シーズン、本当の幕開けだった。

 

           DGPルール

 

       デザイアグランプリの参加者は、

 

          厳正なる審査の元、

 

      ゲームマスターによって決められる。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「ジャマトが変身しやがったぞ〜!」

─人々を守り、─

「迷宮脱出ゲームを始めましょう」

「何かの暗号か…」

─迷宮から脱出せよ!─

「何とか言ったらどうなの!?」

「次はちゃんと隠れてろ……二度も守るのは面倒だ」

8話 変心Ⅱ:閉ざされた迷宮
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