仮面ライダーギーツ外伝 一歩IF:片脚の男   作:みなかみ

9 / 44
8話 変心Ⅱ:閉ざされた迷宮

 

 デザイアグランプリ、新シーズン。一回戦、海賊ゲーム。ジャマトから旗を奪われないよう守り抜け。ランダムで決められたメンバーに恵まれなかった俺は、何とか第一ウェーブを突破。続く第二ウェーブでは、ダパーンのIDコアと相性のいいブラストバックルを入手。一気にクリアを目指そうと意気込んだ俺の前に現れたのは、鞍馬祢音だった。

 どうやらIDコアに触れて記憶を取り戻した彼女は、再び動画投稿を再開。人気者の復活に、再び若者の世界は湧いている…らしい。動画の内容よりも、気がかりなのは追加エントリーの件だ。公平を期すデザイアグランプリが、第一ウェーブを回避した上で、最初から大型バックルを持たせて参加させるなんて、あり得るのだろうか?そもそも追加エントリーというのが不自然そのもの…

「ちょっと、奏斗君。聞いてるの?」

「えっ?」

 しまった。俺は意識を思考の外へ戻す。ぼやけていた視界がピントを合わせると、新井紅深がパイプ椅子の上で腕を組んでいた。眉毛は八の字に吊り上がっている。

「どうしたんだい〜奏斗君。君さ、最近変わったよねぇ。集中力が散漫だよ」

 窓際の席で、広実須井が地球儀を回しながらおちょくった。注意してくる割には、口の端からにやついている。そう、ここはボランティア部の部室、社会科準備室。振り返り休業日だと言うのに、わざわざここに足を運んだのは、自分で撒いた種を拾うためだった。

「三階の分、回収してきた?早く終わらせようよ」

「………はい」

 ペッドボトルキャップがパンパンに詰まった袋は、両手にずしりと重い。ボランティア活動でありがちな、廃品回収だ。本当はバックレたかったのだが、記憶を消されていた俺の言動が依然として残っている。聖人だった俺は本当にクズだ。あくまで何もしないボランティア部を、俺は変えようと意気込んだらしい。休む暇も無いほどに仕事を取り付け、他の部員を道連れにしている。申し訳ないとは思うが、以前の俺のわがままに付き合ってくれているのは、新井紅深と広実須井だけだ。残りの二人は……今日もサボりだ。

 広実須井はサンタクロースのようにゴミ袋を抱える。

「じゃ、これは僕から業者に渡しとくよ。じゃあ解散。鍵返しといてよ〜」

 社会科準備室から広実須井が消えると、一気に静かになった。長テーブルを挟んで向かいの新井紅深は、黙って文庫本を開いている。これは、鍵を返してくれるということなのだろうか?

 テーブルの中央に置かれた社会科準備室の鍵。鍵についた青いタグは、元々油性ペンでしっかり名前が記されていたのようだが、日焼けとともに文字は消えかかっている。それを新井紅深が取る素振りを見せなかったので、暫くはくつろぐつもりだろう。ページを捲る音と換気扇が回る音しか流れない部屋から、俺は大人しく帰ることにした。

「奏斗君ってさぁ…多重人格者なの?」

「……いきなり何?」

 俺はパイプ椅子から離した腰を戻す。新井紅深自信から話題が振られた事に驚くとともに、また嫌な記憶が回帰する。新井紅深は文庫本から目を離さないまま続けた。

「だって前は"全員死ね…"みたいな険悪オーラばりばりだったじゃない」

「今でも変わらないけど?」

 会話中でもページを捲る手は止まらない。感情の読めない声が、紙が擦れる音と一定に流れる。俺は完全に彼女にペースを取られていた。鞄の中から、一つ音が追加されたのを、振動で感じる。

「嘘。それが世界平和だなんて言ってみたり、また元の調子に戻ったと思ったら…少し反省の色が見える。もしかしたら、今の奏斗君は、本当の奏斗君じゃないのかな…って」

 大層な観察眼だが、完全な間違いだ。デザイアグランプリの記憶の管理システムに、人格が振り回されているのを、新井紅深は知る由もない。探偵気取りもいいとこだ。

「…お生憎様。俺はずっと俺のままだ。人格が変わるだなんて、フィクションの話だろ」

「そう…もしそうだったら、仲良くなれると思ったんだけど」

「……多重人格者と友達になりたいの?」

 新井紅深の不思議な思考に、興味が出てきた。普通の人間だったら、同じ顔で違う人間だなんて、気味が悪くてしょうがないはずだ。顔を前に出して彼女の答えを待つ。

「…だって、多重人格者と仲良くなれば、一気に友達増えるじゃない。一人と友達になれれば、その後はまた一人、一人。それって、凄くコスパ良くない?私はそう思うんだけど…?」

「わからないな」

 思ったよりも消極的で卑しい解答に興が冷めて、俺はパイプ椅子を畳む。さっきから、鞄の中でスパイダーフォンが震えている。恐らく次のゲームの呼び出しだ。早くデザイア神殿に行かないと…

「あ」

 ドアノブに触れた俺を、新井紅深が引き止める。

「鍵返しといてくれない?もう、聞きたいこと終わったから」

 彼女は、文庫本を閉じた。

 

             *

 

 雪の足音が近づく季節。厚手のダッフルコートを着てきたのは間違いだった。バスの待合室にもたれかかりながら、私、青山優はダッフルコートのボタンを外す。少しひんやりとした空気が、肌にじーんと伝わる。

「脱ぐと寒いってどういうことよぉ……うっ、かはっ、」

 外の冷たい空気を吸うと、こもったような痛みが喉を襲って、思わず咳がでる。この前の戦いのせいだ。そう、私はデザイアグランプリに参加していた。そこで隠れてた倉庫が爆撃されて、炎にのまれた私の喉には大きな火傷が残った。ジャマトは怖いし、喉に後遺症は残るしで、踏んだり蹴ったりだよ。しかも今日は、バレー部の活動が午後ときた。

 時刻は十一時半、寸分違わずきっかりにバスは到着した。バレーボールを入れたエナメルバッグが肩にめり込む。定期を運転手さんに見せて、一番奥の席に座る。こうして定期をしまっている間も、私はずっとデザイアグランプリの事を考えてしまっていた。

 私に叶えたい願いなんて、大層なものはない。ただ平和に毎日を過ごしていれば、それだけで幸せだ…って思っていたけど、実際にこの身に命の危機が訪れた時に、思わず私は震えた。このデザイアグランプリは遊びじゃない。本気で叶えたい願いが無いと、到底生き残れないって。しかも、負けたら元の生活にも戻れないってわかった。正真正銘、死んだら終わりだ。

 考えにふけっている内に、バスは発進していた。直前に駆け込んだのか、スーツ姿の大学生くらいの人が、息を切らして手すりに掴まっている。このバスは都心を通るルートだから、会社勤めの人や、他校の生徒も活用している。だけど、今日はやけに人がガラガラだ。まぁ、昼に利用してるから当然か。私以外に、高校生の人なんて…いや、いた。俯いていたせいでわからなかったが、運転手側の一人席に、何やら花束を抱えた男が一人。一年生の上遠赤哉(かみとおあかや)だ。なんで私があの子の名前を知ってるのか、それは、彼がボランティア部だからだ。

 ボランティア部はキライだ。だって…だって…あれ、なんで私はボランティア部がキライなんだっけ?

「うわっ!」

 何かが割れるような大きな音と一緒に、運転手さんが大きくハンドルを切る。バスが横に傾いて、窓と身体がぶつかる。最後に見た景色は、奈落の底に落ち、遠ざかっていく空の景色だった。

 今日は、やけに晴れている。

 

             *

 

 ジャマトが現れたのは、古めかしい城のようだ。デザイア神殿内に表示された地図によると、複雑な構造に、一本の塔が離れて建てられているのがわかる。

「ジャマーエリアが現れました。皆さん、すぐにミッションに挑んでもらいます」

「待てよ。カローガンがまだ来てない」

 英寿が指摘する。以前吾妻道長が仕事で遅れた際は、だいぶ長い時間待ちぼうけだったが。集合してすぐにナビゲーションが始まったものだから、あいつが今どこに居るのかは確信している。俺だって、校舎内で隠れられるところを探していたせいで、一番最後だったくらいだ。

「カローガンは、一般人と共に城の中に囚われています」

 やっぱりか。何やってるんだ、あいつ。

「腰に優しいやつで頼むよ」

「おいおい爺さん、そんなゲームねぇって」

 晴屋ウィンは、丹波一徹の肩に腕を回す。そんな調子で、大丈夫なのかこいつらは。もう御託はいい。早くゲームを始めてくれ…

「今回の舞台は、こちらです!」

 デザイア神殿がホログラム状に変化し、エリア内に転送される。そこには、一面の青空が広がっていた。なんだ、次のステージは青空だったのか………いや、ありえないだろ。

「嘘だろ」

 重力が下向きに働き、参加者は絶叫しながら奈落へ落ちてゆく。俺も叫びたい衝動と戦い、歯を食いしばりながら耐える。次第に闇が晴れ、ジャマーエリアが見える。城は八本の塔と六角形の壁に囲まれていた。

 地面とぶつかる寸前にふわりと重力が軽くなり、落下のダメージは最小限に抑えられる。丹波一徹は腰を痛そうに擦っていたが…もう若返りじゃなくて、腰を治す方を願いとしたほうがいいのではないか。

「ここは…?」

「ジャマトが作り上げた異空間のようです」

 レンガ造りの城に、アルファベットを模ったような植え込み。細部までこだわられた作り込みには、人ならざる者がこんなものを創造できるのか、と驚嘆の感情が先に出てくる。近くの小屋はワインセラーでもあるのだろうか、樽の他に葡萄が干されている。

 いくつかの足音がして、二又に伸びた石畳の階段から、数名が降りてきた。囚われの被害者とはこいつらか。肥満体型の中年男性に、姉弟だろうか?中学生の少女と小学生の少年。そして青山優。ニンジャバックル片手に険しい顔で被害者たちを先導している。いっちょ前にヒーロー気取りか。喉がいずいようで、さすりながら眉間にしわを寄せている。最後尾には……おいおい……何でこいつがここに……この発言もこのシーズンで二回目だ。

「あれ?ねぇねぇねぇねぇ!あそこ!」

「こいつは奇遇だな」

 思わぬ人間の登場に、鞍馬祢音も英寿も驚いた様子だ。そう、仮面ライダータイクーンこと、桜井景和だ。デザイアグランプリの記憶を失い、平和に過ごしていたはずだが…ゲームに巻き込まれるとは、運のないやつ。

「有名人が二人も…?」

「英寿さまだ!」「祢音ちゃんもいる!」「かわい〜!」

 姉弟と中年男性は、嬉々として英寿と鞍馬祢音に釘付けになる。その後ろで、興味の無さそうな二人が世間話をしながら歩いていた。

「ここって何処なんですか?ってかあなたたち誰なんです?」

「説明すると長くなるんですけど〜まぁ、あなたたち五人を守るのが私たちの役目っていうか?」

 お前戦えないだろと心中で毒づく。はて、五人を守る?一見青山を除いた被害者は四人しかいないようだが…?

「ほら、あんたもなんか言いなさいよ!」

 青山は徐ろに景和の背中に手を伸ばしたかと思うと、長身の陰に隠れていた男を引っ張り出す。その男とは…

「上遠赤哉……お前まで」

 ボランティア部の後輩、上遠赤哉だった。ダボダボな制服に、目が見えないほどの長い前髪。ボランティア部の部室でも何回か、聖人の頃の俺が話しかけていたようだが、結果は惨敗。上遠赤哉は、周りとのコミュニケーションを完全に遮断している。長い前髪で世間から目を背け、常に携帯の中の世界に入り込んでいる。彼が喋っている姿は一度しか見たことがない。俺が最初にボランティア部の部室に行き、あの羞恥のスピーチをした時だ。上遠赤哉は、部長だけには心を開いている。

 上遠赤哉は、イライラを隠しきれない青山を完全に無視していた。そして景和が怒れる青山を止めて……いや、景和は青山と上遠赤哉から目を逸らしている。やっぱりか。デザイアグランプリで脱落したのが原因で、世界平和を願う心を忘れている。今の桜井景和は、世界平和に懐疑的で、決断力も無い。情けない人間に変わっていた。

 正直がっかりだ。ため息が止まらない。

「あの!どうして皆さんはここに?」

 鞍馬祢音は混乱の元を絶とうと話題をゲームに移す。質問には中年男性が答えた。胸には『区営バス』のタグ。なるほど、彼はバスの運転手か。

「道路にいきなり穴が空いて砂に沈んで、気付いたらここにいたんです。それよりこの妙な首輪外してくれよ!」

 運転手の首元には、植物の蔦のようなものが巻き付いている。いや、運転手だけじゃない。他の被害者も全員、青山も含めてだ。

「彼らはジャマトに連れ去られた一般人です。それでは第二回戦、迷宮脱出ゲームを始めましょう。先ずは近くの一般人とライダーで、ペアになってもらいます」

 あの首輪は守る対象の証ってわけか。さて俺は誰と組むか……英寿は小学生の少年、葉山良樹と。吾妻道長は鞍馬祢音に近づいた運転手、尾形次郎の首根っこを掴んでペアとした。鞍馬祢音は良樹の姉、葉山梢と女子同士で組み、丹波一徹と桜井景和がペアとなった。この両人には不安が残る。

「よし。上遠、俺と行くぞ」

 必然的に、俺は後輩である上遠赤哉を側に置く。上遠赤哉は返事をせずに頷いただけだった。余りものとなった青山は、不機嫌となって口をとがらす。

「えぇ〜じゃあ私は誰と組めばいいのよ」

「自分で自分守ってろよ」

「一般人を保護しながら、迷宮を脱出できれば勝ち抜け。守りきられなければ脱落です」

 青山も一応被害者の枠に当てはまるが、仮面ライダー。逆にこいつはラッキーだ。他人に気を配らず、己さえ守れればそれでいいのだから。

「ふ〜ん。で、俺は誰を守れば?」

「私です」

 ツムリとペアになれると知って、晴屋ウィンは途端に上機嫌になる。その様を弟になった英寿が睨みつけていた。何か策があって家族になったのだろうに、情は湧くものなのか。

「ツムリちゃんでも出られないんだ…」

「出口ならそこにある」

 吾妻道長が目指す先には、アーチ状の木製の門が取り付けられた壁だった。そのサイズは俺たちの二倍以上あり、一見枷のようなロックはかけられていない。手で押せば開きそうなもんだが。その下に転がっている壊れた樽や割れた瓶などを見れば、結末は想像出来た。

「無理ですよ。その扉はどうやっても開きませんでした」

 一応破壊を試みたらしい。ジャマトが想像した空間だ、物理的な常識は通用しないのがセオリーと思った方がいい。

「どうやら、音声認証で開く扉のようですね」

 壁には、中世の世界観とは不似合いの音感センサと、金縁のタイルに掘られた三つの蔦の柄。これはジャマトの文字か…?よくジャジャジャって喋ってるもんな。

「扉を開ける合言葉が必要かもしれません」

「何かの暗号か…」

 これだけで解読は出来ない。城に潜り込んでヒントを探さないと…

「なんだ!?」

 尾形次郎が叫ぶ。城やワインセラーからジャマトが溢れ出していた。今回は執事やメイドに扮している。俺たちは一般人を囲むように立ち、それぞれのバックルを手にした。

「ジャマトです!仮面ライダーの皆さん、お願いします!」

 青山のやつ、変身の振り付けを考えてきたらしい。左手を開いて上向きに前に突き出すと、手首に右手を重ねる。まるでバレー選手がサーブを打つ前のルーティンのようだ。各々もどこで思いつくのか、大振りの振り付けをする。

『SET』『SET』

「変身!」「変身!」

『SET』『SET』

「へんしんっ!」「へ〜んしんっ!」

『SET』『SET』

「変身…」「変身っ!」

『SET』

「変身!」

 デザイアドライバーから形成されたホログラムのアームは円形に重なり、同時に仮面ライダーたちの鎧を装着させた。

『ZOMBIE!』『MONSTER!』

『ARMED PROPELLER!』『BEAT!』

『BLAST ARMED WATER!』『NINJA!』

『BOOST!』

『Ready?Fight!』

 一斉に仮面ライダーへの変身を終えた七人は、一人ひとりがペアとなった一般人を庇いながらジャマトを相手取る。俺はレイズウォーターを得物に、蹴りを主体とした戦闘を展開する。太腿部分のメーターが空気圧を調整し、蹴りが命中する瞬間に蒸気を噴射して加速。首元を蹴られた執事ジャマトは頭から地面に叩きつけられる。

 カローガンも、慣れない戦闘ながら張り切っている。ニンジャの俊敏な特性を活かし、縦横無尽にジャンプしながら着地ついでにメイドジャマトをニンジャデュアラーで斬りつけていた。

 どれだけ倒しても、城からジャマトはとめどなく現れる。

「ジュラピラ」「ジュラピラ」

 ジャマトが聞き慣れない言葉を発している。今まで気にした事は無かったが……何故ここまで同じ単語を…?統率のとれたジャマトの群れの中で、三体だけこちらに歩いてくる個体がいた。その手元には。

「なんであいつらがドライバーを…?」

 右手にはデザイアドライバー。左手には植物に侵食されたようなレイズバックルが、緑色に妖しく光っている。ジャマトたちはそれらのアイテムを腰に装着する。

「ジュ、ラピラ…ヘンシン…」

 左側に差されたバックルを叩くと、ベルトから植物が増殖し、ジャマト本体を蝕んでゆく。

『JYAMATO』

「おいおいおいジャマトが変身しやがったぞ〜!」

 植物はやがて漆黒の鎧を生み出し、ジャマトは仮面ライダーに変身した。皆が動揺する中、ジャマトライダーに最も近い位置にいたパンクジャックが真っ先に標的となる。

『JYA JYA JYA STRIKE!』

 ジャマトライダーが必殺技を発動すると、拳全体の血管が巨大な蔦となり肥大化。そこから放たれるパンチは、パンクジャックをはるか後方へ吹き飛ばした。咄嗟に防御の体制をとったから無事だったが…あのラスボスさえ倒したモンスターバックルが力負けするとは……

「不味いな…ここは一旦…」

「皆を守らないと!奏斗っ……ぐっあぁぁ!」

 一般人がいて血の気が湧いたのか、勇敢にもジャマトライダーに立ち向かおうとしたカローガンの足が止まる。苦しんでいる…?

「おい!大丈夫か!」

 カローガンの首に巻き付いた植物が縮み、首を絞めていた。後方を見ると、他の一般人も動揺に苦しんでいる。それでも、カローガンの苦しみ方は異様だった。濁ったような咳をしきりに繰り返している。

「ジャマトが近づくと首が締まるんだ…!ナーゴ、こいつを借りるぞ!」

 ギーツはナーゴのビートバックルを拝借すると、リボルブオンした後にビートバックルを使用した。

『REVOLVE ON』『DUAL ON!BEAT&BOOST!』

 ビートアックスのドラムを叩き、属性を選択。注意を促す。

「皆!伏せてろ!」

『METAL SANDER!』『TACTICAL SANDER!』

 ビートアックスのネックから青色の雷が生じ、ジャマトライダー含めた全てのジャマトに雷が落ちる。俺は上遠とカローガンを庇い、雷から難を逃れた。雷を受けたジャマトは激しく炎上する。流石にこの攻撃なら倒せたか…?

 いや、まだだ。ジャマトライダーは足から蔦を伸ばし、マリオネットのようなカクついた動きで立ち上がった。

「あのライダーは不死身か…!一般人を抱えていては、逃げるしかない!」

 ギーツに促され、バッファが城の扉を豪快な蹴りでこじ開ける。

 ライダーとジャマトの戦いは、広い城内へと移った。

 城の中はジャマトの巣窟となっており、接近戦は必至だが、その分柱等の遮蔽物が多い。ジャマトを振り切れば暫くは隠れられる。

「上遠!青山!こっちだ!」

 乱戦の最中で、仮面ライダーはバラバラとなり、それぞれのルートで脱出の糸口を探すこととなった。

 

             ※

 

 東の館のラウンジに逃げんこんだ英寿、祢音、一徹の三組。一般人たちは椅子に腰掛けると、安堵の息をもらすが、未だに緊張状態が続いている。

「ヒマワリ…これが暗号の鍵か…」

 英寿は壁に取り付けられた向日葵の絵画を目にし、ニヤリと笑う。絵画の下には四つの暗号文字。その最初の文字が、門に貼られていた暗号と一致する。

「何かの手がかり?」

「そうだな」

 祢音は絵画を眺める英寿に近寄り、暗号文字を含めた絵画の写真を撮る。そして、自然な声のトーンを意識して、英寿に話題を振った。

「ねぇ、ゲームマスターって何なの?」

 英寿は気兼ねなく祢音の質問に返す。

「デザイアグランプリの全ての権限と秘密を持つ存在だ」

「秘密…?」

「なぜゲームマスターが急きょ君をエントリーしたのか。心当たりはあるか?」

 逆に質問で返され、祢音は言い淀む。が、すぐに彼の指示を思い出し、動揺の見えないように返答する。

「わからない…けど、お父様が何か知ってるんぽかったんだよね」

 本当にわからないのは、彼が何故このような指示をしたかだ。

(浮世英寿に鞍馬財閥を調べさせるんだ。後々必要になる)

 

             *

 

 西の館、厨房。俺たちは何とかジャマトを振り切ることに成功した。両開きの扉の前に冷蔵庫や棚でバリケードを作ると、ジャマトは追跡を諦めたようで、二人の首輪は緩まった。反対側にも廊下に通じる扉があったが、逃走のためにそこは塞がないでおいた。

「はぁ…助かった…」

 青山は調理台にへたりと座り込む。上遠は棚に収められた紙類が気になるようで漁っていた。調理台越しに青山を見下ろすと、嫌味をふんだんに盛り込んで語る。

「お前さぁ…もう戦うなよ。どうせ怪我してるんだろ、喉。今回は一般人なんだから、大人しく守られとけ」

 俺が手のひらをさすジェスチャーをすると、青山は右手を背中に隠す。手に血がべったりついていた。

「大丈夫だって……あっ、ほらほら!これ、攻略のアイテムなんじゃない!?」

 ごまかす彼女の声はガラガラだ。次ジャマトが近づいたら戦闘は避けさせるべきだろう。青山は作り笑いをして、足元に転がっていた何かを拾う。それは、チェーンアレイとドリルのバックルだった。以前ここで脱落した参加者がいたのだろう。埃を被っている。

「それでジャマトライダーに勝てるわけ無いだろ…」

 ジャマトから逃げるのに必死でまともに聞いてる時間はなかったが、さっきゲームマスターからアナウンスがあった。あのジャマトライダーや、そもそもこのゲーム自体がゲームマスターでも想定外の事態らしい。そこで攻略のためのアイテムを送るということらしいが……やっぱり引っ掛ける。缶蹴りゲームにおいてのゲームマスターは、ジャマトは進化する生き物だと言っていた。だとしたら、ジャマトが特異な行動をしても不自然じゃない。何かそう思わせる理由があるのか……?

 ぐい、と服を引っ張られていると感じて、力の働く方向を見ると、上遠が何かを訴えかけていた。が、喋るつもりは無いらしい、上手く意図が掴めない。

「え………どうしたんだ?」

 聞いても、上遠は首を振るばかり。そこで、上遠がいくつかの手帳を持っていると気付く。まさか攻略のヒントでも見つけたのか…

「ねぇ!ちゃんと言ってくれないと、わかんないんだけどっ!」

 厨房に青山の大声が響く。青山は相当上遠に怒りが溜まっていたらしい、遂に耐えきれなくなったか、立ち上がって上遠の肩をドンと押した。上遠が散らばった紙類の上に尻餅をつく。俺は左腕で青山を諌めたが、怒りが鎮まる様子はない。青山は俺の腕と拮抗しながら怒りをぶつける。

「自分の言いたいこと伝えないでさ!わかってもらおうなんて甘えじゃん!黙ってないで、何とか言ったらどうなの!?」

「やめろ!今はお前の気持ちどうこうより脱出の方が優先だ…!」

「私だけの気持ちじゃないよ!あんた達ボランティア部なんて、皆に嫌われて当然の人らでしょ!」

 喚き散らす青山の声が途切れると、厨房はまた静かになる。青山はクラスメートの取り巻き。結局は他人の意見を真に受ける奴でしかない。確かにボランティア部は嫌われ者の集まりかもしれない。でも、俺たちにも心ってもんがある。

「それさ……お前が本当に思ってることなのかよ」

 冷めた目で青山を一瞥すると、上遠に手を貸して立たせる。

 途端に、二人の首輪が締まった。ジャマトライダーが近付いていると思った瞬間、バリケードが扉ごと粉々になり、ジャマトライダーが瓦礫を越えて厨房に入ってきた。

「後ろの扉から逃げろ!」

『BLAST!』『Ready?Fight!』

 調理台を片手で跳び越えると共に変身。ジャマトを蹴りつけるが、全く効いてる様子がない。俺の蹴りを片手で止めていた。バケモンすぎるだろこいつ…!姿勢を崩して青山と上遠の前に立つと、二人の背中を押す。

「速く逃げろって!」

「でもっ……もうっ!」

 青山は上遠の手を強引に取ると、西館ホールへ続く廊下に駆け込んだ。ここで引くわけには行かない。俺はウォーターバックルを装填する。

『SET』『ARMED WATER!』

 レイズウォーターを逆手持ちし、ジャマトライダーに殴りかかろうとした刹那。

「……カナト……」

 ジャマトライダーは、カタコトの日本語で喋った。それも、俺の名前を。何故だ。なんでジャマトが俺の名前を…?ジャマトはそれだけ言うと厨房から去る。標的の二人がいなくなって、別のライダー達に目的を変えたのか。意図はわからないが、俺はその場に立ち尽くすばかりだった。

「だぁぁぁぁぁあ!」

 隣の廊下から、青山の叫び声が聞こえて、俺はふっと我に返る。俺は直ぐに向かおうとしたが、ジャマトの群れがが道を塞ぐ。そのジャマトの懐には、黄色い宝箱が収められていた。

 

             *

 

 喉が焼けるように痛い。いや、本当に火傷したんだから、焼けた喉が痛いって言う方が合ってるかな。私は上遠赤哉の触りたくもない手を強く握り、廊下の角を曲がった。ジャマトライダーが遠ざかったおかげで、頭も考えるほどの容量が空いてきた。でも油断はできない。もっと距離を取らないと……

 さっきから、ずっと私はモヤモヤしている。私の学校で、ボランティア部の評価はサイアクだ。話の合わない不思議ちゃんばっかりで、どの子も暴力的で陰湿………そりのあわない人は外される。それが若い子供のルールだ。でも…奏斗の言葉が引っかかる。ボランティア部を、皆から嫌われてる人を私が嫌うのは、本当に私の意思なのか。私は何も知らない、上遠赤哉について。

「いっ!」

 また首が締まって足が止まる。前方の中央ホールへと繋がる廊下から、ジャマトライダーが接近していた。今度は鎌を持っている。奏斗が戦ってるのと別のジャマトライダーだ。まともにやりあっても勝ち目はない。

「こっち!」

 元々通ってきてきた廊下の突き当りに、大きな窓が見える。あそこからなら出られるかもしれない。私は上遠赤哉の手を引いて必死に走る。でも、首輪が緩む様子はない。

『JYA JYA JYA STRIKE!』

 あとちょっとで窓に手が届くところで、ジャマトライダーの必殺技が私たちを襲う。直撃はしなかったけど、地面が剥がれて足を取られ、派手に転んでしまった。いよいよ私たちは行き止まりに追い詰められる。

「ぐっ……あぁ…」

 一体どうすれば……視界の縁で、上遠赤哉が首を押さえて苦しんでいる。私だって痛い。火傷のせいで、咳が止まらない。だけど……私は戦える。上遠赤哉を見捨てれば私だけでも逃げられるかもしれない。だって、上遠赤哉は奏斗が守る一般人だからだ。ボランティア部なんてキライだし、守る義理もない………

 でもそれって、本当に私が思ってること?私はボランティア部に何か嫌なことされた?ボランティア部の人って本当に悪い人?それを私は直接見た?

 考えはぐるぐる回る。けど、答えは結局見つからなかった。

「理由なんて無いじゃん……」

『SET』

 私はニンジャバックルをベルトに付けて立ち上がった。もう既に息は切れてる。呼吸もまともにできない。でも今は…逃げる気にはなれなかった。私には彼を守る理由はない。でも見捨てる理由も無い。今はそれだけで十分、私は怖くても立ち向かえた。

「だぁぁぁぁぁあ!」

『NINJA!』『Ready?Fight!』

 カローガンへ変身すると同時に、ジャマトライダーめがけて足を踏み出した。壁にニンジャデュアラーを押し当てながら走って、ディスクを回す。

『ROUND1・2・3!』

 エネルギーが溜まった刃を、ジャマトライダーの肩に押し当てた。更に首が締まって、視界が白く点滅し始める。それでも私は刃を振り抜いた。

『TACTICAL SLASH!』

 肩を斬り裂かれたジャマトライダーは鎌を手放す。チャンスと思った矢先、傷口がすぐにツタに塞がれて、私は首を持って持ち上げられた。ジャマトライダーがバックルに手を伸ばす。あの必殺技を使う気だ。私はニンジャバックルの手裏剣を回して、瞬間移動で拘束を抜ける。

『NINJA STRIKE!』

 そしてすぐに背後に現れて、空中から右足で蹴りを放った。

「っ!」

 ジャマトライダーの反応速度は凄まじく、私の右足を掴んでいた。そしてそのまま壁に叩きつけられる。アーマーブレイクの警告音が鳴って、衝撃でニンジャバックルはホールへと転がってしまった。変身が解けてしまって、私は地面に放り出される。

 無慈悲にもジャマトライダーは拳にツタを込めた。

『JYA JYA JYA STRIKE!』

 だめだ……もう動けない。私は目を閉じた…

 

『GOLDEN FEVER!』

 

 エンジンがうなる音がなって、私はゆっくり目を開いた。

『JACKPOT HIT!GOLDEN FEVER!』

 そこでは、ダパーンが真紅の鎧を身に着けて、ジャマトライダーの必殺技を天井に弾き返していた。ブーストだ。浮世英寿が持ってるはずの。なんで、奏斗が?

「無茶しやがって……攻略のアイテムが運任せなんて、ゲームマスターも手厳しいよな」

 よく見ると、ダパーンのベルトには、ガスボンベのバックルと他に、金色ピカピカのスロットが付いていた。これが攻略のアイテム…いろんなバックルをランダムで出すんだ。

「次はちゃんと隠れてろ……二度も守るのは面倒だ」

 ダパーンは腕のマフラーから炎を、足から強風を吹き荒らして、ジャマトライダーごと館の壁をぶち抜いて外に飛び出した。私はあまりの風圧に吹き飛ばされそうになる。それを、上遠赤哉が支えてくれた。やっぱり…ボランティア部って悪い人たちだけじゃない…?

 私は、厨房にいる時、上遠赤哉の前髪で隠れた目をはっきりと見た。ヒントになりそうな紙類を見つけた上遠赤哉の目は、キラキラと光ってた。その素直で真っ直ぐな心を、奏斗に伝えられない所に、私はイラついたんだ。おかしいのは、私のほうなんだ。

 

             *

 

 ジャマトライダーを地面に叩きつけると、一帯がクレーターのように窪んだ。フィーバースロットバックル。運が絡む分、爆発力は凄まじい。まさかブーストの力を初めて使うのが、こんな形になるとは思わなかった。

 バク転をしながら地面のジャマトライダーを蹴り上げ、空中に持ち上げた所で、ガスと炎を同時に噴射し、拳と膝の打撃でジャマーエリアを覆う城壁に一撃で吹き飛ばした。

 ジャマトライダーは足に蔦を纏わせ、城壁を蹴り返してこちらに迫る。俺はガスを左足側からのみ噴射し、錐揉み回転で回避。ブーストの炎で蔦を焼き切った。

「これで終わりだ…」

 スロットを再び回し、必殺技を発動する。

『GOLDEN FEVER VICTORY!』

 空中で右足を振り抜いてガスを放つと、それは竜巻を生み出し、ブーストの力で一気に発火。炎の竜巻はジャマトライダーを襲い、全身を焼きながら上空へと巻き上げる。そして俺は竜巻の頂点から蹴りの構えを取る。そして、ジャマトライダーが竜巻を脱したタイミングで急降下。キックはジャマトライダーの腹部に命中。再び竜巻の中を通過し、ジャマトライダーが地面に落ちると共に、炎の竜巻はジャマトライダーに収束、内部から爆散させた。

 ジャマトライダーを完全に撃破したことで、デザイアドライバーのみがその場に残る。

「すごい力だな。これ」

 俺はフィーバースロットバックルを取り外すと、直ぐに青山たちの元へ向かう。まだ迷宮の謎は解けていない。本番はここからだ。

 

           DGPルール

 

        ゲームから脱落した者は、

 

   デザイアカードに記載した、理想を願う心を失う。

 

       忘れた方が、幸福な願いもある。




次回:仮面ライダーギーツ外伝

「ジャマトの言葉で変身を意味していたとしたら」

─ジャマトの暗号をといて─

「ギーツを出し抜いて、俺たちと脱出するか?」

─迷宮脱出!─

「上遠。俺と約束しろ」

「俺たちの運命は誰にも決めさせない。俺たちの手で決める!」

9話 変心Ⅲ:フィーバー★ライダーの決意
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。