寡黙・ざ・ろっく 作:喜多ちゃんの脳を焼きたい症候群
結束バンド(まだ言ってない)バンドミーティング!!!
「喜多ちゃんも起きたことだし、コレからの話をします!」
私が目覚めたのはSTARRY内のテーブルで、30分ほど経ってからだったようだ。
天使の虹夏先輩と悪魔のリョウ先輩が天国と地獄で綱引きしてた夢を見てた気がする…。
そして、寝ていた間に知らない人が来ていたようだ。
カウンターテーブルで背を向けて座るお姉さんは店長さんらしく、虹夏先輩のお姉さんらしい。
挨拶させていただいたが、パソコンに釘付けで軽くフラれてしまった…あの体たらくで嫌われてしまったかしら…。
いや、見ているのはひとりちゃんのチャンネルらしい。
そりゃ、釘付けでも仕方ないか。
「おねーちゃんの厚意でライブをやらせてもらうことになりました!!」
ばーん!と効果音のつきそうな虹夏先輩スマイル。
掲げたフリップ(スケッチブック)には「ライブ出演 5/10」と書かれている…え?
「あの…先輩。5月10日にライブするんですか…?」
「うん、するよー。喜多ちゃんも1曲くらい弾けるように…」
「いや、郁代にも全曲弾いてもらう。もちろん歌も」
ひぇ…リョウ先輩は悪魔でなく鬼だった…
…でも、顔がいいから許せてしまう…
『喜多さん』
じっと見つめていたひとりちゃんには気付いていた。
気付いていたが、あえて無視していたが声を掛けられればそれも難しいか…
『今回は三曲らしい。やれる』
鬼教官がいた。
無理・無茶・無謀は嘘つきの言葉だ、とでも言いたげだ…。
「…がんばりましゅ…」
私の言葉に気を良くしたのか、こちらを見る目を逸らしてくれた…。
まずい…あと9日で何とかなるのかしら…!!
「と、とりあえず!今回はカバーをやるよ!出来れば次回からはオリジナルがいいんだけど、作曲はリョウがやるとして…歌詞は…どうしよっか?」
「音楽経験ある方が助かるからひとりにお願いしたい」
「それもそっか。後々各人で作りあってくるってのもアリだしね!」
そしたら、MV撮ってミニアルバム作って物販売ってメジャーデビューだ!と気炎を挙げる虹夏先輩の顔は喜色に満ちている。
『チケットってノルマ制なんですよね?今回は?』
とひとりちゃんが尋ねれば、
「今回はおねーちゃんの厚意でね!一応ノルマを割り振ってて、もう売り切れてる日の空いた時間でやらせてもらえるらしいから。人気バンドの前座って形だね!」
打順は1番!とのこと。
最低限はやらなくちゃ…!
私は拳を握り込む。
「ひとりちゃん!今晩からの特訓もお願いします!!」
ガタッと勢い付けて立ち上がり手を取れば、ひとりちゃんは満足げに頷いてくれた。
しかし、そこに待ったが入る。
「ちょーちょーちょー!待った待った!ひとりちゃんのブートキャンプは正直やり過ぎだから!少しは加減しないと喜多ちゃん潰れちゃうよ!」
確かに毎日徹夜近くはしんどかったけれど、他の皆さんに比べればまだまだ追いつけていないんだから!
「喜多ちゃん、元気になったようだけどまだ疲れ残ってるから!指も凄いことになってるし!」
「郁代は頑張ってる。左手見れば分かる」
『基礎は大体できてるので、あとは曲の練習をしながらの反復で10日までは十分。』
3人とも私の疲労を気遣って優しくしてくれる…でも!
「私やります!ギターボーカルとして!このバンドの一員として!」
虹夏先輩以上の気炎を挙げる私。
何故か3人とも体ごと私から少し離れた。
「き、喜多ちゃんがやる気十分なのは分かったよ…キターンとした光で焼かれるほどに」
キターン…?
「なんだか良くわかりませんけど、足を引っ張らないよう頑張ります!」
「…ひとり、郁代はひとりの家でもああだったの…?」
『いえ、ウチではもっと静か、と言うか…』
目の前でリョウ先輩とひとりちゃんが密談しようとしているが、ひとりちゃんのスマートフォンから聞こえる
「ひとりちゃんの肉声で褒めてもらえるように頑張ります!!!」
『コレが今の彼女のモチベーションです』
ぽかーん、とした2人にひとりちゃんが
やる気満々の私へとハッとした2人が詰め寄ってきた。
「ひとりちゃんの声聞いたの!?」
「郁代、詳しく」
そんな2人を見てひとりちゃんも遅れてハッとした。
「聞いてくださいよ!ひとりちゃんってご家族には普通に喋ってて…っ!」
そこまで言ったところで、ひとりちゃんに物理的に待ったをかけられてしまった。
口を両手で塞がれればまともな声は出やしない。
「む〜〜!!」
『私の声についてはご勘弁』
ひとりちゃんは合成音声で2人へと謝罪をしながら私の口を封じる。
えー!と興味の尽きない2人は引き下がるわけもない。
続けて入力したそれで引き下がってくれたが。
『今はまだ無理ですが、私の決心がついた時にお話させてください』
「ふーん。なら、しょうがない。勘弁してあげる!まぁ、気長に待つからその時は一緒にお喋りしようね!」
「ひとり、黙ってて欲しかったらお金貸して」
そこでスパーン、と一喝。
「こらこら、借りない!2人とも!返ってこないから貸しちゃダメだよ!」
と虹夏先輩。
リョウ先輩はお金に疎いんだなぁ…。
「さて、喜多ちゃんのやる気を確認できたところで今日の本題ね!」
そう言いながらテーブルに放置されていたスケッチブックを手に取るとそれをパラリとめくる。
「ライブ出演に際してアーティスト写真を撮ります!」
「今日中」
驚きのあまり1拍。
「『急過ぎません!?』」
まさかの事態にひとりちゃんと目が合う。
まさかハモるとは…
『私たちジャージなんですが?』
「問題ない」
「私が問題あります!帰って着替えて化粧を直す時間をください!!!」
「喜多ちゃんがここまでボロボロだとは思ってなかったし、正直サプライズでするべきではなかったねぇ」
あはは、と軽く笑う虹夏先輩。
それどころではない…!!
「ひとりちゃん!ウチへ行きましょう!服は貸すわ!!」
2時間ください!!
そう言ってひとりちゃんの手を取り、私たちはお店を飛び出した。
***
私は絶望した。
虹夏先輩たちと待ち合わせは下北沢の駅前。
時間はきっかり2時間後だ。
私は幽鬼さながらにふらつきながらひとりちゃんの後ろを行く。
もう一度言う。
私は絶望していた。
「おーい!こっちこっち…ってええ!?なんでまた喜多ちゃん死にかけてるの!?」
「ニジナツ先輩…」
「おいこら、その名で呼ぶな」
うぅ…と縋り付けば、ノータイムで慰めてくれた。
やはり優しい。
「仲間は虹夏先輩だけ…」
「どーした、どーした!?なんでそんな弱ってるのー!?ちょっとひとりちゃん!せつめ…い?」
幽鬼の私に注目していたからか、ひとりちゃんの方への反応が遅れていた虹夏先輩。
そこにはオーバーサイズのダボっとしたパーカーと太ももから下を晒した美少女がいた。
「…っ!?」
「…おお…」
絶句する虹夏先輩。
離れた場所から遅れてやってきたリョウ先輩も感嘆を口に漏らした。
「めっっっちゃ可愛いじゃん、ひとりちゃん!普段からそう言うの着なよ!!」
手放しの賞賛にひとりちゃんは顔を真っ赤にして照れている。
「でしょう!?可愛いでしょう!?着飾り甲斐ありますよね!?…なのにひとりちゃん…」
そこで一度切り、私は滂沱の如く涙を流した。
「…私の服、ほとんど入らなかったんですよぉ…!」
「え!?あ!…あー…」
と一部を比較しながら何かを察してくれる虹夏先輩とよく分かってなさそうなリョウ先輩。
やはり、仲間は虹夏先輩だけ…っっ!!
【祝】ぼっちオシャレ解禁
喜多ちゃんの欠席合成アー写が無かったことになります。