寡黙・ざ・ろっく 作:喜多ちゃんの脳を焼きたい症候群
『僕は悪くない』
5がつ1にち
きょうもきたちゃんがおとまりの日でした。
きたちゃんのひだりてがすごくけがだらけでしんぱいだったけど、だいじょうぶっていっていたのでよかったなっておもいました。
5がつ2にち
きょうはおとーさんがおやすみだったので、すいぞくかんにつれていってもらいました。
おさかなさんたちがキラキラしててすごくきれいでした。
5がつ3にち
きょうはほいくえんのおともだちとこうえんであそびました。
りきさくのおしろをあしたはかんせいさせたいです。
5がつ4にち
きょうもこうえんであそびました。
おしろはかんせいしたけど、ボールがぶつかってこわれちゃいました。
ふたりはないちゃったけど、おともだちとまたつくろうってやくそくしました。
5がつ5にち
きょうはいつもよりもごうかなごはんでした。おねーちゃんもだいすきなからあげがたくさんあってうれしかったです。
そういえば、きょうまできたちゃんをみてなかったけどげんきそうにごはんをたべていたので、よかったなっておもいました。
***
5月6日
今日はゴールデンウィーク明けの登校日。
正直時間がないので休んでしまおうかとも思ったけれど、ひとりちゃんも行くって言うし、私はひとりちゃんと一緒に登校することにした。
どうせ、もともと始発だから、と一緒に家まで来てくれるらしい。
そこで着替えてから一緒に学校へ行こうと。
この数日は詰め込みでずっとギターを弾いていたから、正直ボロボロだ…。
虹夏先輩のおかげで夜寝る時間は確保してくれるようになったのがありがたい…けれど。
休みなく6時間弾き続けるのはキツかったわ…。
ギターも授業と同じなのね…。
始発に揺られ家の最寄りへ向かう。
家から学校までそう遠くないのは助かった。
トントン、と。
どうやら、私は意識を失っていたらしい。
頭を軽く振り、目を擦ってから見開けば、ヘッドフォンで何やら聴いているひとりちゃんと目が合う。
『次、代々木上原』
ハッとした私。
危ない、寝過ごして折り返すなんてことになったら…そのまま彼女の家方面まで行ってしまうことになっていたら、今日は学校を休むほかなくなっているところだった!
「ありがと、ひとりちゃん」
と顔の前で手刀を立てる。
ヘッドフォンをつけたままの彼女には聞こえなかっただろうし。
彼女へ向けた視線をそのまま車窓へ移すとやや赤みを帯びた紫が空を覆っていた。
緩やかに速度を落とす車体に合わせて私たちも腰を上げれば、間を置かずに扉が開いた。
時刻はもうすぐ6時半。
以前であればまだ寝ている時間だ。
まばらに降りる人波に流されながら改札へと辿り着く。
彼女の最寄りで買った切符を通せば、見知った私の街だ。
***
おはよー。
そんな定型句があちらこちらから異口同音で発されている。
そんな言葉を聞いて私たちは朝の短い時間の練習を切り上げて解散することとした。
「それじゃあ、ひとりちゃん。またお昼に」
持ってきていたギターを担ぎ直して振り返れば、小さく手を振ってくれるひとりちゃんがいる。
それに手を振りかえしながら教室を出れば、この教室に通う見知った友人らと鉢合わせた。
「おはよー、2人とも!」
「喜多ちゃんおはよー。」
「ってあれ?今日はもうコンサート終わり?」
コンサートって…。
「えー!普段より早く来たのに!この間は遅刻ギリギリだったから聞きそびれてたのにー!」
「あ、あはは…いや、あれはコンサートとかそう言うんじゃなくて…」
「アレは即興ってやつだよね!ジャムって言うんだっけ?」
「即興って言うとその場限り…みたいなやつ?」
ロックをよく聞くと言っていた聴き専の友人がそう言えば、ダンス部に入ったと言っていたもう一方がそう問う。
「いや、その場限りってわけじゃないの。あの後ひとりちゃんとバンド組むことになって、今ギター教えてもらってるの」
「「へー!」」
私が口を挟めば私に視線が集中した。
「バンドって喜多ちゃんギター弾くの!?」
「ライブとかやるの!?」
「私はまだはじめたばかりのど素人だから、一緒に組んでるみんなに迷惑かけないようにするためにこの連休中泊まり込みで練習してたの!ライブの予定が急に入ったから今とにかく忙しくって…」
「「いつやるの!?」」
圧がすごい。
「え、えっと…今度の火曜日に…」
「おっけー!絶対行く。みんなにも言っておくから!」
「私もダンス部のみんなに言っておくね!」
なんだか話が大きくなってきた。
「もう当日券しかないし、開場17時で開演18時の1番目だから…」
「「オッケー!」」
そう言って2人は教室内へと駆け込んでいった。
振り返った先で…恨みの籠った視線を私に向けるひとりちゃんと目が合ってしまった…。
余計なことを言ったわ…ごめんなさい…。
両手を合わせながら退散する以外、私には選択肢がなかった。
***
昼休憩中の練習はいつもの階段下。
無言で合わせるのみだったが、少しだけ余裕が出てきた私は本番同様に歌うよう言われていたので、少しテンポを落としたもので合わせた。
10日までに間に合うか焦っていたのは昨日まで。
昨日以上に楽になったフレーズを弾き続けた。
そして、放課後となった今。
私たちはSTARRYへとやってきていた。
「喜多ちゃーん…?この間よりは顔色良いみたいだけど、ほんとにロインくれた時間に寝たの…?」
私の顔を両手で掴み覗き込む虹夏先輩。
じっと私の顔を矯めつ眇めつ凝視する彼女との距離は吐息が掛かるほどだ。
ち…ちか…っ!?
「虹夏、その辺にしてやれ。茹で蛸よりも赤くなってるぞー」
「だってお姉ちゃん。ひとりちゃんのギター講座の影響で当日に影響が出ても嫌じゃん」
ここでは店長と呼べ、とバッサリ切り捨てる星歌お姉さんに救われた。
まだバクバクと心臓が早鐘を打ってるわ…。
「郁代、今の写真いくらで買う…?」
「是非とも私に送った後消してください」
そう言いながら私は千円札を取り出した。
広まるのはよろしくないけれど、写真としては欲しい…!!
「毎度」
スルリと私の手から引き抜かれた千円札をリョウ先輩は人差し指と中指二本で挟み込み、そう茶化した。
惜しくはない、惜しくはないわ千円札…。
『虹夏ちゃん、リョウさんが喜多さんのお金を巻き上げてます』
「山田ァっ!!」
やべっ、とその場から逃げる先輩はさながら猫のようで、俊敏に虹夏先輩の追跡を躱しながら店外まで逃げ果せる。
「くっ…どうせ戻ってくるからその時説教だ…!」
息巻く虹夏先輩は喉の奥から威嚇音を鳴らしている。
その時、ピロン、とロインの通知。
見れば、私と虹夏先輩の写真が添付されていた。
…バンド共有のロインに…。
「山田ァっ!!」
私が虹夏先輩と同じように声をあげてしまっても許されるはずだ。
視界の端にギョッとした顔のひとりちゃんが居るが関係ない。
「虹夏先輩…」
「喜多ちゃん…」
「「天誅を下さねば…」」
私たちの様子をオロオロ見守るひとりちゃんには悪いが、かの悪逆非道のベーシストを誅さねばならない…。
私と虹夏先輩はその場から駆け出した。
今回の敗因
喜多ちゃんに「山田ァっ!」って言わせたかった。
後悔はない。