寡黙・ざ・ろっく   作:喜多ちゃんの脳を焼きたい症候群

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guitar hero

じっと。

こちらを見やる冷えた瞳。時間は停止していた。私の口は何事も漏らさずに開閉を繰り返し、彼女の口は一文字に引き結ばれていた。

 

 

後藤ひとり。

 

 

同学年。

 

 

特技はギター。

 

 

それ以外のなに一つを知らない。

 

拍手を打っていた両手は合わせたままで停止し、彼女を見つめ続けることに終始した。

すると、おもむろに彼女が動き出す。

ジャージの右ポケットから取り出されたそれは、カバーも何もない無機質なスマートフォン。どうやら数年前のモデルであり、傷一つないそれは、逆に彼女らしいとも言えた。

 

指紋認証でロックを外したかと思うと、普段からよく使う私以上の速度で何某かを打ち込みだした。

 

『いつからそこに?』

 

スマートフォンから出力された合成音声にハッとする。

明らかに自分へ向けた問いかけだ。

 

「えと、あの…隣の教室にいたんだけど、ギターの音が聞こえて…」

 

画面から一切目を離さず、私の答えを聞き流す。

 

『迷惑だった?』

 

続いた質問にかぶりを左右に振って応えた。

 

『そう』

 

という合成音声を皮切りにギターについた諸々を外して立ち上がる彼女。机の上に置かれた、革製と思われる大きなギターケースにギターを収めると、パチン、パチンと留め具を止めていく。ギターと繋がっていた箱型のなにかからヘッドフォンのケーブルを抜くと、スマートフォンに繋ぎ、ヘッドフォンを耳にあてがう。

 

そのまま、自らの荷物を持つと私の横をすり抜けて、廊下へと向かって行ってしまう。

 

「あ、あの!」

 

呼び止めるもむなしく、聞こえていなかったかのようで彼女はそのまま行ってしまった。

 

残されたのは余韻に浸る私一人。

 

時計が刻む音のみが教室内に残されていた。

 

 

 

***

 

 

余韻に浸ったままの私は知らぬ間に家路についており、何なら知らない間に服まで全て脱いで湯船に浸かっていた。

湯船のふちに顎を乗せ、放課後の教室にてつま弾く彼女を想起させる。

 

(…かっこよかったなぁ…)

 

寡黙な彼女はその声を聴かせてくれなかった。

しかし、雄弁な彼女の演奏は未だに耳を離れてくれない。

彼女が奏でた有名バンドの新譜の歌詞を口ずさむ。彼女が残した残響が、いまだに胸に燻ぶっていた。

 

(~♪~~~♪)

 

覚えきれていない歌詞を鼻歌で誤魔化す。

そこで、あれ?と思い至る。

 

昨晩公開されたばかりの曲をなぜああも弾けていたのか…?

 

ザバッと勢いをつけて湯船から上がると、拭くのも適当にして脱衣所に置いたスマートフォンをひったくった。

開くアプリは動画投稿サイト。

昨晩公開された楽曲のタイトルを間違いながら、訂正しながら入力し検索。

「弾いてみた」というカテゴリは知っていた。

 

「桜色…桜色…弾いてみた…っ!?」

 

まだ少ない投稿の中で見覚えのあるピンク色を見出す。

開いてみればこれまた見覚えのあるギター。

 

音を出せば、とんでもない演奏が耳をつんざいた。

 

「これ…後藤さん!?」

 

投稿者コメントには「聴いて」の三文字のみ。

原曲が投稿されてからわずか二時間後に投稿されていた。

素人目にも巧みな演奏技術が光って見える。

まだ24時間も経っていないのにとんでもない数の高評価とコメント数。

登録者数も一流のプロと遜色ないようだ。

 

投稿者名は…

 

「ギターヒーロー…」

 

その演奏に惹きつけられ、また胸を締め付けられた。

 

 

***

 

 

その後、私も登録し、片っ端から動画を視聴する。

ギターとは何か。

それすら知らない私にとってはただただ凄いとしか表現のしようがない。

自室に籠って、動画を垂れ流しにする。

 

そのいずれもが人気の楽曲。

私の十八番と言える曲すらも彼女は奏でていた。

 

こんなすごい人だったなんて…

 

同学年の彼女はただただ「ギターが好きなんだ」と雄弁に語る。

 

今まで何かに没頭したことのない私は惹きつけられた。

こんなことまで出来るほど何かに集中したためしがない私にとってその演奏は

 

(…遠いなぁ…)

 

彼女の魂の発露は私にとってはとんでもなく遠く、そして眩しいものに感じたのだった。

 

気付けば、23時。

夕食もそこそこに部屋に引きこもってしまったので、少し小腹がすいてきてしまったが、太ってしまうので我慢する。

 

ポン、と。

 

スマートフォンが通知を表示する。

 

『ギターヒーロー新着通知』

 

ええっ!?とすぐさま新規投稿を開く。

 

タイトルは…「同級生に聞かれてしまった無口女のエレジー」…?

開いてみればすぐさま楽曲が開始される。

 

最初は寂しげな曲調、独りぼっちな風景が思い起こされる。

曲が終わったかと思えば…まだシークバーは残されているのに…?

 

手をたたくパチパチという音が数回入ったかと思うとギャンっ!!??と弦がかき鳴らされた。

恐らく、あの瞬間の彼女の心境を表現しているのかもしれない。

低音をガタガタ震える右手でかき鳴らしたかと思えば…スッと。

ドラマのような曲展開。

なんだこれって思ってしまいそうではある。

それでもあの時彼女は私を意識して努めて冷静でいるようにしていたようだ。

そのシーンを想起した私はクスリと笑みをこぼした。

 

投稿者コメントにて「お耳汚しをすみません」だなんて…。

 

明日必ず、彼女を訪ねよう。

 

きっと、動画投稿していることは隠しているだろうから、周りには言いふらさずに。

きっと私がこれを観ているだなんて思ってもいないんだろうなぁ…




ひとりちゃんはコミュ障(ギターは雄弁)

ギターヒーローバレは全二次創作中最速であると自負しています(入学三週目・出会って初日)
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