寡黙・ざ・ろっく   作:喜多ちゃんの脳を焼きたい症候群

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意:掃きだめに鶴


A jewel in a dunghill

翌朝。

 

 

 

「誰よりも先に登校している」との噂の彼女に会うため、いつもよりも1時間も早く家を出た。一時間は彼女とお話しできるんじゃないかなぁ…?

 

 

 

なんて考えていた時が私にもありました。

 

 

 

始業前…予鈴が鳴っても現れない。

 

 

 

各休憩時間で、教室前で待っていても…現れない。

 

 

 

彼女と同じクラスの友人が言うには、どうやら登校はしているらしい。

 

 

 

普段なら常にいるものだから誰も気にしていなかった様子。

いや、あの見た目だ。

みんな彼女の席を不自然に見ようとしていなかったよう。

確かにかわいいし、きれいな人だった。そりゃみんな気後れしちゃって、視線を向けることさえ躊躇うだろう。

 

 

 

昼休みを待ち、彼女の教室へと駆ける。

終業のチャイムと同時に教室後方の扉から転がり出て彼女の教室を見れば…

 

 

 

(いた…っ!!)

 

 

 

私同様に真っ先に教室を出た彼女の手にはギターケース。

昼食らしきものは見当たらない。

 

「もしかして…」 

 

誰にも知られない彼女だけの練習スポットでもあるのかもしれない。

喉元どころか口の中まで出てきた彼女の名前を噛み殺し、彼女のあとを尾行()ける。

無意味に身体を壁に押し付け隠しながら、悠然と歩む彼女を追う。

 

 

階下に降りる彼女を尻目に動き出そうとしたところで…

 

 

「お~い、喜多~!」

 

 

びっくぅ、と大袈裟に身体を揺らす。

 

その声の主は中学の時からの友人クラスメイト(さっつー)

あわあわと口元を歪ませながら、唇に立てた人差し指をあてがう。

 

 

「…どったの?お昼食べないの?」

 

 

そのジェスチャーが通じたらしく、声音を抑えつけつつそう聞いてきた。

友人、さっつーは私の視線を追い、何を見ているのかを気にしているようだ。

 

「…朝からお熱の彼女?」

 

「…そうなの。朝から話しかけようと探してて、ようやく見つけたんだけど…どうやら、どこかでギター弾くみたいなのよね…」

 

「いや、完全にストーカーじゃん。喜多ちゃん、やばいよ~?」

 

いや、失礼でしょ。

仲良くなりたいだけだもの。

ストーカーは言い過ぎ。

 

 

 

「だから、今日はパス。みんなで食べてて」

 

 

 

うい~、と軽い返答の後、さっつーは踵を返した。

 

 

声が聞こえてやしないか、と少し不安なまま彼女の後を追って階段を下りる。

 

しかし。

 

 

 

(最上階の一年生フロアから行くとして…どこかしら?)

 

 

一つ階を下りて、フロアを覗く。

彼女の目立つ桃色髪は視界に入らない。

さらに降りてまた覗く。

 

ダメだ、完全に見失ったかも。

私は肩を落として溜息を吐く。

 

と、そこで幽かなギターの音が聞こえた。

音の出どころは…

 

 

(1階…?)

 

 

全ての階段を下りたそこは階段の下のデッドスペース。

予備の机や椅子、清掃用具が置かれた場所だ。

不自然に整理されており、人が一人入れる程度の隙間が作られていた。

机のバリケードのために上から覗き込むことも難しい。

しかし、そこから幽かながらギター音が聞こえてくるのだ。

 

 

(ココね!!)

 

 

目を輝かせながら覗き見る私。傍から見れば何をしているのか声をかけられても仕方ないほどにはおかしい風体であるのは分かり切っているが、昨日の素晴らしい演奏を見たのだから、また見たいと思うのは道理であると豪語したい。

 

そこには狭く暗い机の山の中で、胡坐をかいて座り込み、瞑目しながらヘッドフォンから出る音に耳を傾けている彼女。

 

差し込む光も相まって、昨日とはまた違った神聖を感じさせた。

 

 

キュゥゥゥン、と何かが締め付けられ、私はまたも息を失う。

 

ふと、目を開けた彼女。

視線は怜悧なまま私へと固定された。

 

 

さすがに隠れたままではばつが悪く、狭く閉ざされた入り口から努めてにこやかに笑み、手を振るう。

 

ティィン、とやや間抜けな音を残して、一番細い弦が爆ぜた。

 

 

それなのに、彼女は一切の動揺を見せない。

 

 

(く…クールすぎる…!!)

 

 

ゆっくりとヘッドフォンを外すさまを見送り、声をかけた。

 

 

「あ、あの、昨日振りね、後藤さん。私、隣のクラスの喜多 郁代。ギター上手くて私感動しちゃった!!!」

 

 

ずずい、と。

一瞬で距離を詰める。新しくできたお友達のみんなには「正直それ怖かった」と言われたものの、悪癖とはいえ短期間では直せない。後藤さんは、そんな私へ左手のひらを差し向け、寄る私を押しのける。なんで、と思うもその右手に打ち込みだしているスマートフォンを見れば、昨日同様『お話ししてくれよう』としていることが分かった。

 

 

『こんにちは、喜多さん。後藤ひとりです。』

 

 

合成音声を再生しながらペコリと頭を下げた後藤さん。

 

 

 

…それだけ?

 

 

 

頭を上げた後藤さんは、ギターを床に下ろして切れてしまった弦を下のほうから抜き去ると、ギターケースから新しい弦を取り出して取付作業を始めた。

 

 

え、それだけなの…?

 

 

「後藤さんはいつからギターをやってるの?」

 

 

問いかければ、作業の手を止め、スマートフォンに入力。

 

 

『中学一年から』

 

 

「出身は?中学はこの辺?」

 

 

『県外で片道2時間』

 

 

質問には答えてくれるものの作業は滞りなく進む。なんだかもやもやが溜まってくるが、淀みない作業に私はまたため息をついてしまいたくなった。

 

 

「県外から2時間って、毎日もしかして始発?」

 

 

 

『はい』

 

 

驚いた。誰より早く登校してくる彼女は、まさか毎日始発の電車に乗ってきているだなんて。しかも、昨日の新着を見る限り、寝たのは23時以降ではないのだろうか?

 

 

「もしかして、今日少し寝不足?」

 

 

『はい』

 

 

問いかけには全て簡素な答え。もしかして、「はい」か「いいえ」で済む質問をしてしまうとずっとこんな調子なのではないのだろうか?

 

 

「後藤さんってバンドとかやってるの?」

 

 

『いえ』

 

 

やはりそのよう…しかし、この質問には入力が続いた。

 

 

『やりたいとは思っていますが、私は会話が苦手なので、諦めてこのような状態』

 

 

なるほど。喋れないのではなく、喋らないのね。

 

 

『友人作りも諦めてる』

 

 

なるほど。会話のテンポが合わないからそれも諦めている、と。

 

ならば!!

 

 

「なら、私とお友達になりましょう!!」

 

 

そう言いながら顔を近づければ落ち着き切った視線に初めて動揺が見て取れた。

 

 

『ちかい』

 

 

さっと入力された合成音声にそう出力させながら、彼女は私の顔面にスマートフォンを押し付けた。




弊社ぼっちは以下の仕様です。

・原作並~以上の実力(バンド時も同様)
・友人作りの気力なし(出来ないのではない、作らないんだ(自論))
・コミュ障メーターを振り切っていて、もはや喋ることを諦めている(あっ、って言わない)
・入力操作のため割と短い回答が多い(ですます調が抜け落ちる)
・承認欲求はOH!TUBEで大体満たされている(いいね!くれてる)
・自分の自信の無さから何事にも動じなくなっている(ビビり卒業)
・目は原作の半分ほど(くーるびゅーてぃー)
・自信がないのに姿勢は悪くない(猫背なんてなかった)
・常にライブブーストぼっち(ココテストに出します)
・承認欲求モンスターなんて居なかった(いいね!足りてる)

・奇 行 を し な い(するのはむしろ陽キャSNS大臣の方…?)
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