寡黙・ざ・ろっく 作:喜多ちゃんの脳を焼きたい症候群
「友達になりましょう!!!」
押しのけられたので、再度そう言う。
彼女は友達が要らないんじゃなくて諦めていただけなのだから。
「後藤さん!!」
そう言いながら彼女の両手を取る。
自分の気持ちを精いっぱい伝えるべくそうするが、勢い余って彼女のコミュニケーションツールを奪ってしまっていたことに気付けなかった。
昨日今日と見せてこなかった動揺が見て取れる彼女。
わずかな逡巡があったものの、最後にはコクリと首を縦に振ってくれた。
また新しいお友達!やったわ!!
そう感動していると、後藤さんは私の腕を振り払いスマートフォンを手に取った。そこで私は先の過ちに気付く。
「あ、ごめんなさい。スマホがないと会話できないわよね…」
取り落したスマートフォンを拾い上げた彼女が操作しようと…その様は四苦八苦しているようで…
…え?
「も…もしかして…さっき落とした時に壊れちゃった…?」
油の切れたブリキのごとき動きでこちらへ視線をやる後藤さん。
その目には大粒の涙が滲み、悲しみとほんのわずかな怒りで満たされていた。
「ご、ごめんなさい!放課後一緒に修理に行きましょう!!」
私はその場で汚いのも構わずに土下座をした。
***
「後藤さん!!」
私は放課後に約束していた友人へ断りを入れて、彼女のもとへ向かう。
彼女のクラスはホームルームの終礼が終わったばかりだったようで、ちょうど荷物を持ち上げようとしたところだった。
声をかければ一度こちらを見やり、私の存在を認めたかと思えば何のリアクションもなくすぐさま来た。
…!?
横を通り過ぎる直前で、彼女の空いた左手が私の腕を掴む。
(…え!?指先…!?)
触れる指先はたとえが悪いようだが、まるで樹皮のように固くなっていた。
ギターを弾く人の指先ってこうなるの!?
固い指先が私の腕をなぞる。
ゾワゾワとした未知の感覚に私が背筋を震わせているととんでもない力で引っ張られた。
一刻も早くこの場から立ち去りたい、と言外のニュアンスを感じながら。
「ご、後藤さん!?待って!歩けるから!!??」
転んじゃう!という言葉を発する直前で解放された。
姿勢を歩くものにする直前で彼女へ目をやると「早くしろ」と言いたげな目線がありありと感じられた。
やばい、ゾクゾクしてしまう…。
その後は横に並び立って、校門へ向かいながら出来るだけ「YES」「NO」で答えられる範囲で質問を重ねる。
「後藤さん、修理ショップの宛てはある?」
首をフリフリ。否定らしい。
「なら、近場でもいいかしら?下北沢の駅から少し歩くけどスマホの修理を専門にやってるお店があるみたいなの」
今度はコクコク。肯定みたいね。
「それなら、案内するから付いてきて!」
やや、足を速め、彼女の前へ出る。
駅方面とはややズレた方向へ。
10分ほど歩いていると…
トントン
スマートフォンの地図アプリを覗く私の肩を叩いて呼ぶ後藤さん。
「ん?なあに?」
差し出されたのは何もない左手の平。
困惑して首を傾げているとスッと私のスマートフォンを指差す。
地図を見せろってことかしら?
「どうぞ?」
そう言いながら差し出せば、手に取らずにそのまま覗き込む。
数秒そうしていたかと思えば、おもむろに進行方向とは異なる方向を指差した。
「え?」
お互いに顔を見合わせながら同時に首を傾げた。
どうやら私が道を間違えているらしく、それを訂正してくれているようだ。
私の頬が朱を差すように赤くなる。
案内すると言ったのに赤っ恥じゃない。
しょうがないでしょう、昔から地図は苦手なのよ!!
「ごめんなさい、後藤さん…方向音痴で…」
顔を押さえ、赤い頬を少しでも早く収めるべく、努めてる私の前にやや曲げられた左手の平。
今度は何を求めてるの?
そう逡巡している間に彼女は私の右手を取って目的地へ向けて歩き出す。
教室の時と違って力強さはないものの、私を引っ張っていってくれるようで…
この気持ちはなんなの…昨日から何度も…
方向音痴の羞恥以上に頬を赤くしながら顔を伏せながら付いていく。
後藤さん…格好良すぎでしょ…?
***
「パーツの取り寄せが必要になりそうですね」
修理店につき、スマートフォンの状況を見てもらったところ、店員さんはそう答えた。
ほとんど動かない後藤さんの表情を見るとやや絶望している様子を滲ませている。
「あ、あの代替機の貸し出しとかないんですか?」
「代替機は同じくらいの機種をお渡ししているんですが、ここまで古いと…全く違う機種でもよろしければお渡しできますが、いかがいたしますか?」
そう話している私たちに後藤さんは
「(パクパク)」
私に向け、口を開閉している。
話せればいいってことかしら?
「合成音声の発声アプリとかそういうのって…?」
「ああ、この機種の基本アプリで入ってるやつですよね?今はフリーのアプリで似たようなのがいくつか…それが使えればいいんですか?」
後藤さんはコクコク。いいらしい。
「それをお願いします」
分かりました、少々お待ちください。と定型句を残して店員さんは奥へ引っ込む。
後藤さんを見ればホッとしたのか右手を胸に当てていた…デカ…
「(チョイチョイ)」
小さく手招く彼女。目を合わせれば、ゆっくり手を合わせ、深々とお辞儀をした。
「いや、後藤さんやめてちょうだい!?私がいけなかったんだし。ほんと申し訳ないことをしたわ…」
後藤さんが言いたいことはなんとなく分かる。修理ショップの場所を調べるにもスマートフォンは壊れており、頼れる人もおらず、どうしたものかと悩んでいたのだろう。
私が原因とは言え、後藤さんの力になれたのであれば幸いだ。
「お待たせしてます。故障状況を把握しなければ料金の算定等が出来かねますので、一時間ほどお時間いただいてもよろしいでしょうか?」
「はい。終わりましたら、私のほうにまで連絡をいただければと思いますが」
畏まりました、とまたも定型句。差し出されたメモ帳に自分の電話番号を書き、店を後にした。
「一時間、時間が出来ちゃったわね」
どこか入りましょうか?という前に彼女は進みだす。修理店に向かう道中で見つけた公園へと足を踏み入れた。そこのベンチに腰掛けるとギターを取り出した。
え、ここで?
彼女はちらと私を見るとベンチの右隣を手で叩く。
座れってことかな?
彼女の隣に腰掛けると彼女はカバンからイヤホンを取り出し、ギターに繋がった箱型のなにかへと差し込んだ。
自身の右耳にイヤホンを差し込むと反対側を差しだしてくる。
ま、また聞かせてくれるの…!?
私は喜んで一方を受け取り、自身の左耳へと差し込んだ。
右耳で聞こえてくるチャラ~ンという綺麗な和音。
対して左耳からは何も聞こえてこない。
すぐさま後藤さんが箱型のそれの電源を入れたかと思うとおもむろにつまみを弄りだす。
変化はすぐだった。今まで聞こえていた小さな弦の音は機械を通してよく知るエレキギターの音として左耳へと届く。
何回か各弦をつま弾き、ギターの一番上のつまみを弄ると再度チャラ~ン…しかし、その聞こえ方は先のものとは全くの別物だった。
こ、こんなすごい音するのね…!!
音楽…とりわけ、カラオケに慣れ親しんだ私には知らない、楽曲の一部でなく楽器一つが単体で奏でるその音の圧に私は大きな衝撃を受けた。
雷に打たれた、と表現してもいいのかもしれない。
ギターの表面を叩いてリズムを取って、彼女は昨日弾いていた『桜色』を弾きだした。
彼女の鼻歌交じりに行われるリサイタル。
私も交じって一緒に歌い上げる。
まだ歌詞も曖昧だけど、それでも歌う。
「~♪~~♪」
彼女は瞑目して奏で続け、集中の海に飛び込んだようで。
私は彼女が奏でるメロディに完全に酔わされていた。
二人して他の誰かが公園の砂利を踏む音も聞こえないほどに。
曲が終わると、真後ろから二人分の拍手が聞こえた。
私がびっくりして飛び上がるとイヤホンが引っ張られ私の耳から抜ける。
一方、後藤さんの耳に残ったそれは、彼女の耳に大打撃を与えていた。
どうやら、急にジャックから抜くととんでもなく大きな音が出るらしい。
「おうおうおう、大丈夫?驚かせちゃったね」
金髪をサイドテールに結い上げた女の子が後藤さんに近寄り、心配の気持ちを伝えている。
もう一人の青髪ショートの女の人は私たちに背を向けて体を震わせていた…もしかして笑ってる…?
「勝手に聞いちゃってゴメンネ?私は下北沢高校2年の伊地知虹夏。こっちで笑ってるのは山田リョウ」
「あ、はい。私は秀華高校1年の喜多郁代です。こちらは後藤ひとりさんです」
「よろしくね?…ねぇねぇ、二人はバンド組んでるの?私たち今バンドメンバーを探してるんだけど、フリーなら一緒にやらない?」
「ざ・はむきたす」と喜多郁代の出会いはなかった。いいね?
「ギターに繋がる箱型のなにか」はV〇X社のアンプラグ2を想定してます。
あと、原作読み返してたら「ぼっちLV.100」なる存在がいたの思い出した…
弊社のはそれです()