寡黙・ざ・ろっく   作:喜多ちゃんの脳を焼きたい症候群

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読:インシュロック
意:(商品名)結束バンド


誤用:飲酒・ロック


in Shu-Lok

「バンド…ですか?」

 

うん、と満面の笑みを浮かべる伊地知先輩。

お隣の山田先輩はすでに明後日の方向に視線を奪われているようだが、どうやらお二人とも音楽をやっている方たちのようだ。

 

「後藤さん、やったわね!バンド組んでくれる人がいたわよ!!」

 

私は浮かべた笑顔のまま後藤さんに向き直る。

彼女の表情は…やや複雑そう…?

 

そわり、と右手をジャージのポケットに入れてみるが、お探しのスマートフォンは現在故障していてリペアショップに預けたままだ。

 

代案としてカバンの中身を漁ろうとしていたので、すかさず私のスマートフォンのメモアプリを起動して彼女に持たせる。

 

一瞬、パッと華やいだようだが、すぐに元通りの後藤さんに戻って、スマートフォンに入力を始める。

最初からこうすればもっと細かく意思疎通が出来ていたわね…。

 

〈勧誘いただき光栄です私はこのようにコミュニケーションに問題を抱えているためそのようなお誘いをいただくとは夢にも思わず感涙してしまいそうですできればやらせていただきたいとは思っておりますが中学一年から三年間一度も誰かと合わせたことがないためきっとコミュニケーションの問題も相まってご迷惑しかお掛けしないかと思いますが本当に私でよろしいんでしょうか〉

 

「長い長い!!そして読みにくい!!え、なにこれ今の数秒でこの内容打ったの!?すごくない!?」

 

書きあがった文面を音読した伊地知先輩は読み切った後にそう突っ込む。随分と丁寧な突込み…。

 

「後藤さんは普段から合成音声アプリを使ってコミュニケーションを取っているようでして…」

 

「え、何その他人事感。友達じゃないの?」

 

「え、知り合ったのは昨日ですし、お友達になったのは今日のお昼からですね」

 

いや、連帯感凄くない!?とごもっともなセリフを頂戴する。

確かに彼女とお友達になってからはものすごく日が浅いけど…日が浅いというか跨いですらないけど…。

 

「とりあえず、二人の演奏聴いて一緒にやりたいなって!ちょうど私とリョウはドラムとベースだから、ギターとボーカルが欲しかったんだよね~」

 

「できればギターは二本ほしい。私のギター貸すから郁代もギターボーカルとしてやって」

 

すごい距離感の詰め方…いや、わたしもやるな…。

 

「とりあえず、喜多ちゃんは私と連絡先交換しよう?後藤…ひとりちゃんでいい?ひとりちゃんのスマホは…?」

 

「それが私のせいで後藤さんのスマホが故障してしまっていて…」

 

「あー、あそこのお店に行ってたからここで時間をつぶしてたんだ。それじゃあ、今日これから合わせてみるのは難しいかな…?」

 

「後藤さんは通学にすごく時間がかかるのでこの時間からは難しいかも…」

 

うーん、と腕を組みうなる伊地知先輩。…あっ、毛先が地面につきそう…

 

「分かった!明日以降で都合つくならこの先にある〈STARRY〉って最近できたばっかりのライブハウスがあるから二人で来て!うちのおねーちゃんが店長のお店なんだけど、そこで練習させてもらえるんだー」

 

「ん。そこで合わせてみよう。ダメなら解散」

 

「ちょーいちょいちょい。練習続けていけば仲良くなれるかもしれないでしょうが!!」

 

うがー!!と雄たけび交じりに山田先輩を一喝する伊地知先輩。

それにカラッと「冗談」と返している二人の掛け合いは随分長い付き合いなんだな、と思わせる。

 

ふと、後藤さんの方に目を向ければ…

 

「あ、何か書いたのね」

 

伊地知先輩へ向け精いっぱい腕を伸ばしてアピールしていたようだが、長い間触れられていなかったらしい。

いつも以上に細められた双眸が哀愁に満ちている。

 

〈会話弱者に回答権も質問権もなんなら生存権すらないんですか〉

 

「ご、後藤さん!ごめんなさい。私がもっと気にかけるべきだったわ!!」

 

大粒の涙を湛えた蒼い瞳は、中空に固定されていて抱き着いた私すら視界に入らないようだった。

どうしたどうした、と二人も寄ってきて書かれた内容を確認し、片や大慌て、片や笑いを堪える、と先ほどの焼き直しの状態になっていた。

 

「ひとりちゃん!ごめんって!普段筆談みたいなことやらないから慣れてないだけだって!だからお願い帰ってきて~!?」

 

伊地知先輩に揺さぶられる勢いのまま目から涙が零れ落ちた。

 

***

 

今日は買い出しで出てきただけだからそろそろ行くねー、と言葉を残して二人が去っていく。

嵐のような人たちだったが、悪い人たちではなかったなぁ…。

 

「後藤さんがもしもバンドに入るなら私もやってみたいかも!その時はギター教えてくれる?」

 

コクコク。

後藤さんは口を開かずに首肯する。あんなに上手いんだもの。きっと先輩たちは驚くわ!

 

そうだ…

 

「そういえば後藤さん。昨日帰ってから私…」

 

そう話を切り出せば彼女はギターを片付ける手を止めてこちらに目を向ける。

話題の提供者たる私はスマートフォンを操作して動画投稿アプリを起動させ、目的のチャンネルを表示させる。

 

「見つけちゃった!」

 

表示されたソレを彼女に見せると彼女は

 

「………ひゅっ!?」

 

息を吸い込む音のみ残して停止した。

 

あ…あら…?

 

「後藤さん…?あの…?」

 

目を大きく見開いたまま…呼吸も止まっているようだ。

ギターを戻し切った動きのまま停止しており、時間さえも切り取られているように思えた。

 

が、しかし。

 

しゃがみ込みながらこちらを向いて停止したので、そのままの体勢のまま横倒しになって倒れこんだ。

 

「ご、後藤さぁん!?!?」

 

倒れた拍子にどこか怪我をしていないか、彼女の両の手が傷つくなど以ての外!などと一瞬のうちに考えを巡らすもまずは状況確認をせねば!!

 

スマートフォンを脇に置いてすぐさま駆け寄れば、大したけがもない様子。

倒れこんだ際の衝撃で呼吸も戻ったようだ。

 

一先ず、ほっと息を吐いた私は彼女の現実への復帰を試みる。

口数が全くない彼女は彼女の中での自己完結により何やら悪い想像を巡らしているようで…

 

「ご、後藤さんが嫌なら誰かに言いふらしたりしないから!だから戻ってきてぇ~!!」

 

日も暮れた商店脇の小さな公園には倒れこむギター弾きの少女とそれに泣きつく少女が発見され、一時は通報騒ぎにまで発展しそうになっていたことを後に知った。

 

***

 

「それじゃあ、お預かりします。」

 

ありがとうございましたー、との定型句を背に受けて私たち二人はリペアショップを出た。

 

「サンマンハッセンエン…」

 

私は財布を覗き込み、絶望していた。

故障個所は数か所に渡り、総計したら3万8千円になると試算された。

私が原因なんだから弁償しなくては…

かくなる上はお父さんとお母さんにお願いして…

 

『喜多さん』

 

絶望感に身を浸しながら呼ばれた方を見る。

代替機を使って合成音声アプリを使っている彼女は分かりにくいながらもやや笑んでいた。

 

『もう古い機種だったのでお気になさらず。修理費用は不要』

 

ジワリ、とやさしさに涙を禁じ得ない。

 

「で、でも…今日のは私のせいだし…」

 

『それでも』

 

短く切って彼女は別の文字を打ち込みだした。

 

『私うれしいんです。今日は特にいい日だった。友達は出来たし、バンド仲間の候補まで見つかった。全ては昨日喜多さんに見つかったからですよ』

 

そう再生しながら今度は明らかに笑みを湛えてこちらを見る彼女。

再生が終われば、また視線を画面に戻し打ち込み続ける。

 

『私はこんなだから誰にも見向きされなくて、友達は欲しかったけど諦めてた。』

 

『こんな私でも仲良くしてくれますか?』

 

「後藤さん…」

 

私は先ほど以上に涙を溜め、その決壊は容易くボロボロと音が出るほどの勢いで涙を流す。

 

「私は後藤さんと…ひとりちゃんと仲良くなりたい…。頑張ってるギターを応援したい…。一緒に演奏したい…。バンドだって一緒にやりたい…。ひとりちゃんとずっといっしょにいたい…」

 

私の声は涙で歪んでまともに発声できていないだろう。

この時ばかりは彼女の合成音声を使いたいと思ってしまう。

 

でも、

 

「それと弁償の話は別じゃなぁい…」

 

(おとがい)を上げて泣きじゃくる私。

今日友人になったばかりの人にダメなところばかり見せているからか、嗚咽(おえつ)を抑えられない。

子供染みた泣き声を上げる私の肩へひとりちゃんは手を置く。

ギターへの情熱が詰まった左手で。

 

私は決めた。

彼女のそばで彼女と高みを目指すんだ、と。

 

『それに喜多さんは知っているでしょう?』

 

『私はギターヒーロー。収益だってちゃんと出てる』

 

その顔は先ほどの微笑みとは違って…

 

漢気を感じさせる強い、挑戦的な笑みであった。




原作ぼっち要素「バグる」

拙作超強化ぼっち「溢れる雄味」

これは勝ったな(ボ喜多過激派)
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