寡黙・ざ・ろっく   作:喜多ちゃんの脳を焼きたい症候群

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(刺)劇的ビフォー →対虹夏


STARRY -before-

[今日はよろしくね!]と書かれて終えたロインを閉じる。

現在はお昼休み。いつもなら教室で新しくできた友人らと昼食を摂っているところだったが、昨日同様階段室のデッドスペースでひとりちゃんと二人きり。

 

昨日と違うところはギターケースを抱きしめながらお昼ご飯と思しきおにぎりを咀嚼するひとりちゃんが居ることだ。

 

曰く、他人に直接聞かせたのは初めてだったそうで、終わった後にとんでもない質問攻めにあったとのこと。

 

予鈴が鳴った後だったため、そんなに長い間拘束されたわけではなかったようだが、質問に答えようと打ち込んでいる間に次々と質問を重ねられたため答えるに答えられない状態になっていたらしい。

 

昼休みに迎えに行けばいつも以上に細められた視線に射抜かれ、私の中では罪悪感がうなぎ登り。

謝り倒して、何とか許してもらえたものの視線に関しては多少しか改善されなかった。

 

未だに睨み付けられているが、先ほどに比べれば幾分か優しい。

 

「ひとりちゃん、今日で大丈夫らしいから、一緒に行きましょ?」

 

もしゃもしゃと緩慢に咀嚼を繰り返す彼女は、食べきって何も無くなったラップを丸め、ポケットへ。

代わりに取り出したスマートフォンで出力した。

 

『今日は私が先導しますからね?』

 

昨日は道案内に関しては特に言及はされなかったが、どうやら何某かを言いたかったようだ。

方向音痴に関しても申し訳ございません…。

 

「え、ええ。よろしくね…?」

 

そう伝えればスマートフォンを仕舞いながらコクコク。

おんぶにだっこになってしまっているなぁ…。

 

***

 

放課後。

ひとりちゃんは特に迷うそぶりもなく、件のライブハウスへと向かう。

 

…校門を出る前に地図を確認しただけなのにどうして…。

 

初めていく場所は大概迷っていくので、その能力は真剣にうらやましいと思う。

…何かコツとかないかしらね…。

 

マンションの地下階にあるらしく二人で階段を下りる。

ドアプレートには「close」と書かれており、部外者には立ち入りにくい。

それを見てすぐに伊地知先輩へコールする。

 

3度の呼び出し音を聞き流すと応答があった。

 

『あー喜多ちゃん。ついたー?』

 

「あ、先輩こんにちは。今ドアの前です」

 

おけおけー、と軽い返事の後パタパタと足音が続く。

 

 

…?

 

全然開く気配がない?

 

「せ、先輩?まだですか…?」

 

『あ、今部屋にいたの。下居りてるからもうちょい待っててー?』

 

部屋?ここ地下なのに下りてる?

スピーカーにしてるので、ひとりちゃんにも聞こえているのだけれど、私と目を合わせ首を傾げた。

 

「『おまたせー!あ、』もう切っていいか。いらっしゃーい!!」

 

振り返れば階段上に伊地知先輩がいた。

 

「ウチ、ここの上に住んでるんだよね。ちょうどこっちも帰ってきて荷物置いて、スティック取ってきたところだったんだよ~。今開けるね?」

 

トントン、とリズム良く階段をくだり、一番下は両足で着地。

スカートのポケットから取り出したかわいらしいキーホルダーのついたカギを差し込み開錠。

 

「どうぞ~!」

 

扉を全開にして私たちを先に中へ入れてくれる。

気遣いが完璧だ。

 

「リョウは提出物のせいで遅くなってるから、中入ってくつろいでて。飲み物は何がいい~?」

 

扉を閉じながら入ってくる伊地知先輩は勝手知ったる庭のごとく店内を闊歩。

その足でDrinkと書かれた小部屋へ入るとそう声を掛けてきた。

 

「私はジンジャーエールを。ひとりちゃんは?」

 

『コーラ』

 

彼女は既にスマートフォンを取り出しており、簡素に書かれたソレを音声にした。

 

「それが昨日言ってた合成音声かー!なんか面白いかも」

 

こちらを覗き見た伊地知先輩はにこやかに微笑みながら手際よく飲み物を用意している。

1分もしないうちに4人分の飲み物を用意して、その全てを器用に両手で持ってこちらへとやってくる。

 

「テーブル出してあるから、椅子だして座っちゃって~?」

 

よいしょ、と小さくこぼしながら中央付近に置かれたテーブルへと軟着陸。

適当に飲み物を配して、壁に寄せられた椅子を取り出す。

 

招待されたお客さん(私たち)は恐縮しきりに椅子を頂戴して飲み物の前へと腰を落ち着けた。

 

「ありがとうございます。飲み物までもらっちゃって…」

 

「いーのいーの。来てもらったんだし気にしないで!」

 

恐縮のまま礼を述べれば、快闊な返答をもらう。

私、まだ何もできないのにいいのかしら…。

 

そう悩む左隣でひとりちゃんはスマートフォンをタプタプ。

何某かを打ち込んでいる様子。

でもそれを知らなければ、ものすごく態度が悪い子に見えちゃうけれど、なぜだかその姿が真剣すぎて別の感情が首をもたげているのを感じた…。

 

…一昨日からだけど…この感情は何なのかしら…。

 

『すみません伊地知先輩。このような合成音声でしかお話しできなくて。失礼だとは理解していますが、ご容赦いただけますと幸いです』

 

「あー、うん。気にしてないからいいよ!態度が悪い無口なお客さんより事情が分かってる分遥かにいいし!」

 

あっけらかんと、そう答える伊地知先輩の度量に感心した。

もしかしたら、急にバックレたりしても笑って許してくれるのではないのだろうか…?

 

「リョウも大概無口だし、そうやってコミュニケーションが取れるなら問題ないって!」

 

『私は喋れないわけではないんですが、ひどい吃音持ちなもので。喋りたくないんです…』

 

吃音症。そんな話は聞いていなかったが、なるほど。それが理由でこういうコミュニケーションなんだ。

 

「言いにくいことは言わなくていいからね!これから仲良くなっていこう!喜多ちゃんもね!」

 

「は、はい!」

 

初めて入るライブハウスの内観に目移りしているとそう話を振られた。溌溂とした先輩の言動は優しいオーラに包まれる…なんだか母性を感じてしまう…。

 

「とりあえず、今日は初顔合わせ兼初合わせってことで。まぁ、顔合わせは昨日したけど、自己紹介からね。私はシモコー2年の伊地知虹夏!担当はドラムで、ドラム歴は2年くらいかな?バンドを組むのは今回が2度目で、以前は中学の時に同級生と少しやってたくらい。好きな音楽ジャンルはメロコアとかジャパニーズパンクかな?」

 

ほい次は喜多ちゃん!と自己紹介のタスキを渡された。

 

「はい!喜多郁代、秀華高校1年です。楽器経験はありませんが、カラオケは大好きで中学のころからしょっちゅう行ってます!好みはPOPSですかね?日本だけじゃなくてK-POPも聞いたりします!」

 

お願いします!と締めくくれば間髪を入れずにひとりちゃんは準備が終わっていたのか、即座に再生する。

 

『後藤ひとり、秀華高校1年。ギター歴3年。好みは特になく、よく聴くのはチャートに入ってる人気曲。趣味はそれを聞きながら練習すること。ネットにも上げてます』

 

再生が終われば伊地知先輩がやや大げさ気味に拍手してくれる。

 

…え、ネットってそれ言っちゃっていいの…?

 

「ひとりちゃんはネットにも上げてるんだ~?結構長いの?」

 

『ギターを始めて少ししてからなんで2年半くらい』

 

「へー…。え?」

 

ひとりちゃんの返答を聞いて…伊地知先輩は何かに思い当たったのか目を見開いて固まった。

 

「…いや、さすがに…そんなわけないよね…?いや、世の中狭いってよく言うしありうる…?」

 

ぶつぶつと漏れ出る独り言。丸聞こえですよ…?

 

「あ、あの~…ひとりちゃんってギターヒーローって知ってる…?」

 

やや自信なさげに、確信を持ちながら伊地知先輩はそう問うた。

 

『それ私です』




虹夏バレRTAタイム世界記録(自称)

リョウ先輩動かすの難しくて今回は諦めました。
来世に期待してて。


弊社喜多ちゃんのポンコツ具合にほっこりしてる自分。
焼かねば…(使命感)
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