寡黙・ざ・ろっく 作:喜多ちゃんの脳を焼きたい症候群
…演奏パートまで行けなかった愚かな作者を罵ってください…
ええええええええええええええ!!!!!!!
伊地知先輩の
防音がしっかりなされたライブハウスだから良かったものの、普通の部屋ならクレーム待ったなしであっただろう。
大口を開け、右手の平を宛がいながらあわあわさせてる伊地知先輩は先ほどまでの母性が皆無となっていた。
ちょうど大声を発声させたあたりで扉が開いていたので、道の反対側まで響いていたかもしれない。
「虹夏うるさい。すごく響いてた」
遅れて登場した山田先輩は両耳を手でふさぎながらやってくる。
「リョウ!聞いてよ!ひとりちゃんはギターヒーローさんだったんだよ!!!」
驚きをそのままに山田先輩へと詰め寄る伊地知先輩。
勢いに気圧されるがままに重心は後ろへと寄る。
あのまま詰め寄られたら、背中の楽器と思しき荷物が床に叩きつけられてしまうのではないのだろうか…。
「ギターヒーロー…?ってオーチューブの?」
両手を前に壁として出していたが、そのまま伊地知先輩を押し返すことに成功した。
「私大ファンなんだよね!一昨日くらいからオリジナルのソロも弾いてたし!」
押し返された伊地知先輩は山田先輩をさらに押し、遂には山田先輩を押し倒す。
物理的な力関係の意味で伊地知先輩のほうが強いらしい。
床に倒れこんだ山田先輩はほんの数秒のじゃれあいであったが肩で息をしているありさまだった。
体力面でも伊地知先輩の圧勝なんだ。
『どうもギターヒーローです』
起立しペコリ。
ひとりちゃんは合成音声に合わせて頭を下げた。
その後に上げた彼女の顔はいつも通り澄んだものだったが、私側から見える口角がやや上がっているようだった。
「はぁ…はぁ…どうも」
息を切らせながら復活した山田先輩はそう言って続けた。
「山田リョウ…シモコー2年…担当はベース…最近の好みはテクノ歌謡とサウジアラビアのチャートを少々…」
落ち着き切っていない喘鳴を押さえつけて自己紹介。
最後によろしくと付け加えるとそのまま置かれた丸椅子へと体ごと着陸した。
「重い荷物持って来たばかりのところ…はぁ…はぁ…全力虹夏パワーは堪える…」
その背中にはナイロン製と
両方を背から下ろし、その一方を私へと差し向けた。
「え…?これは?」
「昨日言ってたギターね。それ使って。自分のはその内飽きたら買うといい」
手渡されたそれを開けてみれば目の覚めるような水色のボディ。
取り出してみればしっかりとした重さが手に伝わる。
「一応問題ないことは確認してる。チューニングのやり方とかはひとりに聞いて」
これで練習できる…と感動しているところにそう言われた。
はい!と返答すれば、後はそのギターに目を奪われるのみ。
ひとりちゃんのギターよりも丸みのあるかわいらしさ。
彼女のギターはずっしりとした重厚感を感じさせたが、私の方のが好みかも…!
「喜多ちゃんはリズムギターとボーカルの担当よろしくね?どっちも難しいかもしれないけどバンドの顔役だから一緒に頑張っていこー!」
おー!と右こぶしは突き上げる伊地知先輩は念願かなったと思えるようなテンションで金の尾を存分に振り回していた。
『私がリードギターをしながら教えるので、大船に乗った気でいてください』
横から聞こえる音声に目を向ければ優しい目をしたひとりちゃんが居た。
「今日からお願いします!師匠!みなさん!!」
師匠と呼んだ時は顔がフラットに戻っていたが、すぐに優しいものに戻った。
「おー、喜多ちゃんやる気満々だねー!よーし、このまま一度合わせてみよー!」
何の曲やろうかなー?とスマートフォンでプレイリストを探る伊地知先輩もやる気十分でにこやかにしていたが…
「え。今日はもう解散にしない?疲れた」
と未だに床に這い蹲っている山田先輩。
…汚いからせめて机にしたら…?
山田先輩の疲れた声に「山田ァ!!」と恫喝するも山田先輩は動じない。
これも日常の一幕なのだろう。
『山田先輩は少し休憩してからやりましょうか。伊地知先輩は選曲を。喜多さんはこの時間で少しギターに触れてみましょうか』
ひとりちゃんがそう提案してくる。
確かにすぐにでも弾いてみたい。そんな衝動に駆られている私だった。
「もぉ~、しょうがないなぁ…。じゃあ、そうしよっかー」
片手に吊るされた山田先輩をテーブルに乗せながら、残念気に同意してくれる伊地知先輩。
私たちは、彼女に教えられたスタジオへと足を向けた。
伊地知先輩…凄い力…。
そして、スタジオの扉の前。
「…お、おも…」
教えられた扉を開けようと試みるも慣れない私には動かせなかった。
「喜多ちゃん。普通取っ手が有ったら押し下げて引くだろうけど、防音室の扉はそれやるとロックされちゃうんだよ…?」
後ろから寄ってきた伊地知先輩は初心者あるあるだと、ニヤニヤ笑いを浮かべながらそう言ってきた。
…もっと早く言ってください。
力んでなった赤面を羞恥のものに変えながら、私は教えられたとおりにレバーを引き上げて開ける。
重いものの動いてはくれた。
「…わぁ…」
そこは6畳ほどの空間に大小さまざまなスピーカーとドラムセット。
壁の一辺には鏡張りがされている如何にも「音楽スタジオ」と言えるような部屋だった。
中央に立てられたマイクスタンドへ駆け寄り、あ、あっと小さく声を出してみた。
さすがに電源が入ったままではなかったらしかったが、その正面に映るマイク前の私は一端のボーカルのようですごく映えた。
記念に一枚、ぱしゃり。
取れた写真を確認するとそこにはすでに準備を始めているひとりちゃんが写っていた。
「あ、私の分まで椅子を用意してくれてありがとう!…それじゃ、よろしくお願いします」
そう言って、抜身のままだったギターを手に、椅子へと腰掛ける。
…そういえば、構え方も知らないわ…
腰掛けすぐに彼女へと目を向ければ、私と同じ姿勢で止まったひとりちゃんが居た。
私が目を向けたのを認めると左手に持ったギターを持ち上げ、右太ももにギターのくぼみを合わせる。
なるほど~!
同じようにギターを構えれば、準備は…あら…?
「…あ、ピックがないわ…」
そうつぶやく私の前でひとりちゃんは首を横へ振る。
今はいらないってことかしら?
彼女のはギターケースから小さな丸い機械を取り出し、それをギターの天辺へつけた。
一番太い弦を鳴らす。
電源の入ったそれにデジタル表記の赤い文字で「C」と書かれていた。
それを見ながらその弦がつながった先のつまみを回すと「B」になったり、「C」になったりする。
こうやってチューニングするのね!
そうして、緑色の「E」になったところでつまみを回すのをやめた。
一番太い弦はE…覚えた…けど…。
「なんで英語なのかしら…?」
ぽつりと呟けばひとりちゃんはスマートフォンを取り出してタプタプ。
『ドレミをアルファベットにするとCDEになるから』
ドがC、と音声が流れ終わる前にスマートフォン置いて、機械をこちらに渡してくる。
自分でチューニングしてみろってことね。
受け取ると、彼女の真似をする私の前で再度タプタプ。
『それあげる。家にまだあるから』と。
『それにこれでも合わせられる』
そう言って取り出された金属のなにか。
確か…音叉って言ったかしら?
それを椅子に叩きつけると小さな音。
そんなんで本当に合わせられるのかしら…?
それを右手に左手で私を呼ぶ。
え?耳を出せってこと?
言われたとおりに耳を差し向ければ、こめかみのあたりに音叉を押し付けられた。
小さな音でしかなかった音叉の音が耳の中で…いや、脳内で反響した。
「っ!?」
突然の音の大きさと振動のくすぐったさに飛び上がるとひとりちゃんはいたずらが成功した子供のように無邪気に笑っていた。
なんていたずらっ子なんでしょう!!
『こうやって耳に当てて聞いてもいい。ギターに当ててもいい。これが「A音」…「ラ」の音。基準になるから覚えて』
そう
『6弦がE音で5弦がA音。あとはハーモニクスで合わせられる。』
ポンポン、とここ数日で聞き覚えのない音を出しながらあっという間にチューニングを終わらせたひとりちゃん。
『慣れたらこんな感じ。喜多さんもやって』
真剣な顔をしたひとりちゃんを見ながら惚けていた私は「やって」と言われて、ハッとする。
教えてもらっているのに何を見惚れているの私ぃ~!!
今後の喜多郁代の脳内焼くプラン
・結束バンドを「喜多郁代の喜多郁代による喜多郁代のための楽園」する
→具体的にはアー写を貼りまくったぼっちちゃん状態にする。
ぼっちちゃん→「これは恋…?」
リョウさん→「…顔が良い!!」
虹夏ママ→「…虹夏ママ…!!」
…ふぅ、ヨシ(ヨシじゃない)