寡黙・ざ・ろっく   作:喜多ちゃんの脳を焼きたい症候群

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全略


STARRY-after-

「ひとりちゃん、喜多ちゃん。そろそろいい?」

 

ガチャリ、と淀みなく開いた扉から顔を出した伊地知先輩。

サイドテールが扉に隠れ、あわや知らない人かと思ったほどだ。

ひとりちゃんに教わっている間に30分の時間が過ぎていた。

 

「あ、はい。お待たせしてすみません」

 

「いーのいーの。散々リョウに「まだ。もうちょっと。飲み切るまで」とか言われて引き止められてたし」

 

困っちゃうよね〜?なんて茶化しながら引き延ばしに失敗した山田先輩を伴ってスタジオ内へ入ってきた。

 

「まだ休みたかった…」

 

「ほら、リョウ。準備準備ー!」

 

はああ…なんて、分かりやすいため息を吐きながらもベースを取り出し、ケーブル…シールドというのだったか…を手早くアンプと呼ばれるスピーカーへと接続した。

私は持っていたギターを部屋の隅に置かれているスタンドに置くよう指示されたので、素直に従いまた席へと着いた。

 

「喜多ちゃんも歌えるようなら歌っていいからね。有名だし知ってるんじゃないかな?」

 

たくさんつまみが付いた機械の電源を入れるとスマートフォンを接続して、曲を流し始めた。

 

これは…

 

「結構古い曲ですね。もちろん知ってます!」

 

「カラオケ大好きなら知ってるよねー。有名アイドルバンドだし。コレね、ひとりちゃんのチャンネルの中から見つけたんだー。コレなら二人ともできるって思ってさー」

 

そう言いながら、ドラムの前まで移動する先輩。椅子の高さを調節して、足元のペダルを何度か踏む。

ドンッドンッと経験したことのない音が振動が鼓膜と共に前髪を揺らした。

 

横では接続の終わったギターの音量を調節しているひとりちゃん。

山田先輩はもう終わったのかスピーカーから流れる曲に合わせてフレーズをつま弾いていた。

一通り設定が終わったのか音を切ってひとりちゃんも合わせているようだ。

 

ジャーン、と和音で締め括られた曲に引き続き、伊地知先輩がドラムスティックを叩き合わせてカウントを取る。

 

今流れ切った音声がまた最初から再演されたかと思えるほどに揃った美しいハーモニーに一瞬惚けるもすぐさま自分の役割を思い出し、先ほど調べた歌詞が表示された画面を注視すれば、自分の意思から離れた右足がリズムを踏んでいた。

 

***

 

「いやー!サイコーだったよ、二人とも!やっぱりバンドって楽しいねー!」

 

1時間で6曲ほど、原曲を流し、演奏するを繰り返してから河岸を変えてファミレスへと移動した私たち4人。

いくらか注文された料理を頬張りながら、先ほどの演奏を思い出したのか伊地知先輩が声を上げた。

 

「虹夏は結構ミスってたけどね。と言うわけで謝罪のポテトをください」

 

「ダメです」

 

ダメ出しをしながら流れるようにフライドポテトを乞う山田先輩に伊地知先輩はにべもなく手をはたき落として断る。

 

「…い、郁代ぉ…」

 

斜向(はすむ)かいに座る私へ涙を湛えた目で縋る彼女はさながら雨に濡れた子犬を想起させる。

 

「ダメだよ、喜多ちゃん。こんなお金に頓着ないダメベーシストに引っかかっちゃ」

 

付き合っちゃいけない3Bはベーシスト、ベーシスト、ベーシストなんだから、なんて。

それ全部ベーシストじゃないですかーと破顔して返せば、流石に冗談だけどねー、なんて言いながら自分が注文した分から小さなワンプレートを盛り付けて山田先輩へと差し出していた伊地知先輩。

 

2人の気安い関係は見ていて笑みが溢れる。

 

「やっぱりひとりちゃんは流石だねー。手元を見ないでつっかえずに弾けてるんだもん」

 

そう話を振られれば、スマートフォンを両手に構え入力するひとりちゃん。

…なんで両手…?

 

『手元は見てますよ。じっと見るのではなく、コードチェンジの前に移動先だけ覗き見る感じ』

 

いつも以上の速さで入力されたそれは会話の継ぎ目なく自然な会話として成り立つほどであった。

 

「…その高速入力もギターのお陰なのかな…?」

 

あまりの速さに面食らった伊地知先輩は思わずそんな質問をしてたが、当のひとりちゃんには分かっていないのか、首を傾げながら

 

『ただの慣れ』

 

と一刀両断。

普通にすごい特技だと思える。

 

『伊地知先輩、今後の予定は』

 

「あ!そうだね。とりあえず、まずはライブがやれるくらいには練習したいかな!楽器隊はこのままでもインストバンドか喜多ちゃんボーカルで出来ると思うけど、喜多ちゃんのギター練習もあるし、まずはバンドとしての最低限を整えたいかな!と言うわけで喜多ちゃん!頑張ってね!」

 

「は、はい!ひとりちゃんも伊地知先輩も山田先輩もご指導お願いします!」

 

「喜多ちゃん固いよ!もう仲間なんだから虹夏でいいよ!リョウもリョウでいいでしょ?」

 

「私のことは山田大明神と「調子に乗るな!」リョウでいいです…」

 

落とされた手刀の痕を撫で付けるように自ら頭を撫でながら山田…リョウ先輩。

虹夏先輩は全く、なんて言いながら腕を組んだ。

 

そこへひとりちゃんの言葉がある種の爆弾を落とす。

 

虹夏(ニジナツ)ちゃんはいつからリョウさんと仲良いんですか?』

 

ぷっ…、と私の口から音が漏れる。

リョウ先輩も同様、いや私より酷い音が漏れた。

 

本人たるニジナツ先輩は一瞬の停滞の後に発火した。

 

「に、ニジナツって誰だよぉ!!私は虹夏(ニジカ)だってぇ!!」

 

わーん!と大袈裟な泣き声を上げるも私たちの笑いは加速するだけだ。

その中に…

 

「…ふふ!…ふふふふ…!」

 

やらかした本人が抑え込めない笑い()を上げていた。

 

「「「声!!」」」

 

気付いたのは同時だったようで私たち3人は異口同音を発した。

その注目にハッとしたひとりちゃんは目を伏せてスマートフォンで

 

『ニジカちゃん、すみません。みんなあんま見ないで』と、赤面を隠しながら言う(言わせる)

 

私たちはみんなで顔を突き合わせて笑みをこぼした。

 

***

ひとりちゃんを駅へ見送り、その場で解散となった。

家路に就く私は演奏中に撮った幾枚もの写真を眺めながら。

背にある新たな重みに思いを馳せながら帰路を行く。

朝よりも重くなったはずなのにスキップでもしたくなるほどに私の足は軽やかだ。

 

「今日から本格的に練習開始…!」

 

ひとりちゃんに教わった運指は所謂準備運動とのことなので続けるとして

 

「まずはメジャーコード。1番難しいFコードは明日教えてくれるって言ってたし、それ以外を暗記して出来るようにしよっと」

 

教本に貼られた猫を模した付箋はひとりちゃんが付けてくれたもの。それを思いながら私は口遊む。

 

初めてのスタジオ。

初めてのドラム(振動)ベース(低音)ギター(煌き)

その全部が合わさった中で歌うのは心地よかった。

 

「みんな凄かったなぁ…」

 

歩調を緩めて独り言つ。

足を止めて、拳を握り昼の一幕を真似して…

 

「私も早く上達するぞー!!」

 

おー!と虹夏先輩のように突き上げた。




半端な時間の投稿…
内なる獣(承認欲求モンスター)を抑えられなかった…

やりたかったことリスト
・虹夏をニジナツと読み上げさせる(達成)
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