満足か、こんな(透き通るような)世界で。俺は……   作:御簾

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遅れました。
HGエクシアくんの関節と格闘してたらこんなに時間が経ってた。


『繋げる』先生

「よう、こんなとこで何やってんだ?子供にしちゃあ随分なナリじゃないか。」

 

 通りすがりのあいつはそう言って、ショルダーバッグから包帯や消毒液を取り出した。手当はいらねぇ、そう言い返すだけの余力も残っちゃいねぇ私を知ってか知らずか、特に何も追求することはないままに。

 正直に言うと、初対面でそんなことをされるような経験がなかったからどう対応すればいいのか分からなかった。誰が手当なんて出来るんだよ。コイツだよ。そのカバンからどれだけ出てくるんだよ。包帯なんか収まりきる量じゃねぇよな。

 

「よし、できた。それじゃあな、気をつけろよ。」

「わーってるよ……っくし!」

「ははぁ、そりゃそんな格好じゃ寒いだろうな。」

「っせーよ。」

 

 要らんことを考えているとぺち、と額を軽く叩かれる。手当は終わったらしい。見れば丁寧に処置されていて、綺麗とは言わないものの見るに堪えないレベルではなくなった。それに、少しばかり気力も戻ってきた頃だ。ならば問題ないだろう。

 ズタボロになったジャンパーは投げ捨てた。存外に気に入っていたから少し残念だったが、もう修理は無理だろうって位にはボロきれに成り果てていた。仕方ない。割り切って残りの仕事に向かうとしよう。綺麗とも言えないメイド服のまま立ち上がろうとした私の肩に、男物のジャンパーが載せられる。

 

「持っていけ。見てるこっちが寒くなる。」

「でもこれは──」

「いいんだよ。貰っておけ。じゃあな。」

 

 半ば押し付けられるような形で、私はあいつのジャンパーを手に入れた。内ポケットには真新しい弾丸がひとつと紙切れが入っていた。開いてみたいが、それよりも自分には仕事があるのだ。そうやって頭の隅に置いやって、また街の中を走っていくことになった。

 そういえば吊り橋効果、なんてアスナは言っていたがそんなことはない。私はコードサイン『ダブルオー』。そんな簡単に誰かに心を許したりなんか、

 

「あの、リーダー?」

「…………ああ。」

(どうして弾を眺めて笑ってるんだろう。)

(確か、アビドス高等学校の方から頂いたそうですが。)

(じゃあ聞いてみようよ!)

(やめよう。アスナ、蹴られて死んじゃうよ。)

(ええ。あのまま放置していた方が面白……何かわかるかもしれませんから。リーダーのあの……)

 

 心を許したりなんか、しない。

 

「──ふふ。」

 

(((わ、笑ったぁ──!)))

 

 

「う、ん──!?」

「命中率95%か。衰えたもんだな、俺も。」

「95%で」

「衰えた」

 

 味わい深い顔で顔を見合わせるシロコとセリカ。生徒の皆さん、砂漠の中からおはようございます。そう言わんばかりの銃声が響いているのはアビドス高等学校の校庭。コンクリートの壁に貼られた的に向かって列ぶ生徒と一人の大人は、それぞれの愛銃を構えていた。

 

「ノノミは……仕方ないな、測定だけ頼んだぞ。」

「はぁ〜い!」

 

 命中率の測定とか、なんか色々。ノノミがアヤネと並んで人型の標的を並べている間、ニールはライフルを弄る。特に装飾もされておらず、何の変哲もない無骨な狙撃用ライフルだが、しかしそれが彼には似合っているような気もした。サブウェポンとして手渡された拳銃で、人を模した看板にヘッショカマしながらホシノは思う。うむ、いい感じに狙えているな。素晴らしい。

 

「やるな。」

「うへへぇ、おじさんも本気出せばこのくらいは出来るんだよ?そんな事より先生の利き目はどうなのさ?」

「あー、後でトリニティに顔出すからな。そん時に救護騎士団の所に行ってくるつもりだよ。治りかけてたんだが、少し前に無茶してな。」

「身体は資本だよ、先生。」

「お前が言うと説得力違うな。」

 

 胴体正中線をぶち抜いて板を縦半分に叩き割ったシロコが歩いてくる。流石のニールでもそんなことはしない。ちょっと引いた。それを知ってか知らずか──おそらく知らないだろうが──彼女はマガジンを取り替える。淀みなく行われるその動きは、彼女が戦う者であることを否が応でも感じさせた。

 見ていて凄いとは思うだろうが、しかしそこまでだ。強いて言うならあまり嬉しくは無い。まだ若い彼女たちが、何故こうして戦わなければならないのか。過酷な運命に晒され、未来への希望を持てないまま生きるなんて悲しすぎる。

 

「──全く、何がどうなってんだか。」

「どうしたの?」

「ああ、悪いな。セリカはもう少し……落ち着いて狙う事をしてみようか?あと外したからって怒りながらリロードするな。銃が歪む。」

「わ、分かってるわよそのくらい!でも上手く当たらないっていうか、なんというか。撃っても外れるのよ!」

「銃口曲がってるんじゃない?」

「曲がってないわよ!」

「うへぇ、お酒でも飲んだ?」

「飲めないわよ!」

「いいことでもありましたか〜?」

「給料は上がったわね!でも違うのよ!」

「あの、グリップを忘れているのでは?」

「それだわ!」

「大丈夫かなコイツ。」

 

 

 

 

 

 

「よぉ、今日は1人なのかよニール。」

「生憎1人だな。」

 

 日にち変わって、ミレニアム。自分の愛機はどんな状態なのか、早朝からのんびりと確認しに来た彼を待っていたのは見慣れたジャンパー、とネル。自分の与えたそれを思ったよりも気に入っているらしい。いつもはスカジャンを着ているのに、自分と会う時だけはあの服装になる。

 視界の端にチラチラと映り込んでくる金髪やら黒髪やらはなるべく気にしないようにして、彼は校門の前に座り込む少女を連れて歩いていく。向かう先はエンジニア部。以前ハロをぶっ壊して中身だけ引っこ抜いた暴走集団だ。

 

「おう、やってるか?」

「そんな居酒屋みてぇな呼び方しなくても。」

「やあ。元気そうだね。」

「ぐぅ。」

「説明しましょう。1週間寝てません。」

 

 扉を開いた先にはディストピア。部品に紛れたエナジードリンク。なんだコイツらたまげたなぁ。アホみたいに積み上げられたジャンクパーツやらなんやらをかき分けた先から声がする。

 ちなみにオイルと鉄とエナドリと何かの匂いで大惨事だったりする。さっさと換気をしてしまおう。二人は顔を見合せて手近な窓を開く。う、とかそんな感じのうめき声が聞こえるが気にしない。足元に何か蠢いていたとしても気にするものか。

 

「そこは気にして欲しいかな!」

「おう、何やってんだお前。」

「ヒマリ先輩に言われてライフル作ってました。」

「キャラ変わってねぇか?ちゃんと寝ろよ?」

「ぐぅ……」

「オラ!起きろ!掃除の時間だ!」

 

 向こうで寝落ちしているヒビキを担ぎあげたネルを見ながら、ニールも目の前の2人を肩に担いで入口付近へレッツゴー。見た目よりも軽い。しっかりとした食生活の指導をしてやるべきだろう。まずはエナドリを断つところから始めて、規則正しい生活習慣を叩き込んでやらねばならぬ。

 いくら生徒たちの肉体が強靭であるとしても、だ。不健康はやはりどんな肉体をも蝕むものなのだから、その管理も我々大人の仕事だろう。ふと過去を思い返し、笑う。あの頃は大変だったけれど、それでも満ち満ちていたように思えたから。皆を残してきてしまったのは心残りだが──今更嘆いたとて何が変わる。己は己のやるべき事を果たすだけなのだ。

 

「ウタハ、少しいいか。」

「ん?」

 

 忙しない片付けとのんびりした昼食を終え、ようやくマシな顔になったウタハと向かい合って座る。食堂は騒がしい。あちらこちらから生徒たちの賑やかな声が聞こえてくるし、時折爆発音も聞こえる。何故だ。

 そんな訳で、ニールは何事かとこちらを見やるウタハを真っ直ぐ見返した。何かを察してくれたのか、彼女は立ち上がって部室へと歩いていくから己も倣う。彼女もそうだが、エンジニア部は機械バカであってもアホではない。精密機械を開発するだけの技術と、それを扱い、改良するだけの知能がある。頭の回転は早いものなのだ。

 

「それで、何用かな。『アビドスの』先生。」

「おいおい、そんなに身構えなくてもいいだろう。取って食おうって訳じゃねぇ。ただ少し、問題が発生しててな。」

 

 少しトゲのある言い方に苦笑する。無理もない、やはり己は外からの来訪者、それも先生とは違う完全なイレギュラーなのだ。ガンダムという規格外の力もある。これで警戒するなという方が難しい。むしろアビドスの生徒たちのように、こちらに心を開く生徒の方が珍しいとも言える。

 無理くり広げられたエンジニア部の部室──いや倉庫の中。大破した機体が転がっている。修復自体は進んでいるらしい、機体の隣には予備パーツと思しきコンテナが積まれていた。どこの誰とも知れない男の為にこうして尽力してくれたのは生徒だけでは無い。

 

「ともすれば、アイツにも──シャーレにも関わる、キヴォトス全てを巻き込んだ大事件が起こる。」

「それは、私にだけ話してもいいものかな?もっと大きな、連邦生徒会のような組織に話すべき議題では?」

「そうだろうな。連邦生徒会が正常な組織だったら、の話だが。」

「どういうことだい?」

 

 問いかけに応じず、ニールはデュナメスの側へと歩いていく。ウタハは何も言わず、彼の背中を見守るだけ。やがて倉庫の隅、大きなシャッターを背にしながら、彼は見慣れない紙箱を取り出した。

 

「いいか?」

「それで君の話が聞けるのなら。」

「すまんな。──さて。」

 

 離れているはずなのに、少しばかりの煙たさと匂いが来る。彼の話が始まるまで、あと数瞬。窓を開けようとして、彼が腕を掲げていることを知った。『開けるな』、そう言っているように。

 

「助かる。──お前もいるんだろ、ネル。出てこい。」

「ハ、お見通しってか?」

「カンだよ。」

 

 ウタハと並ぶネル。2人からの視線を浴び、しかし平然としながら逆に射抜くほどの眼光。隻眼故に研ぎ澄まされたそれを受けた2人は僅かにたじろぐ。

 

「まず初めに、このキヴォトスにおけるパワーバランスから──」

 

 

 

 

 

 

「では、あくまで彼は協力者──先生とは違う、新たなる来訪者ということなのですね。それも、創作の世界からやって来た。」

「うん。そういうことだね。」

 

 先生は薄く笑って、机に突っ伏した。残業に次ぐ残業、果てしない仕事の先にはまた仕事。そろそろノイローゼになりそうだ。げんなりとした彼女に毛布をかけ、コーヒーを差し出したのは今日の当番。

 

「ありがとう、カンナ。」

「いえ。ヴァルキューレの問題に付き合わせることになってしまい、申し訳ない限りです。」

「仕方ないよー。防衛室長のお願いなんだから。」

「──そうですね。」

 

 あーつかれたー。先生が文句を垂れる。しかしその顔はパソコンの画面に釘付けのままで、カンナがどんな表情をしていたのか。それを窺い知ることは出来なかった。それを知っていれば、きっと未来は変わっただろうに。

 しかし先生はそれが出来なかった。何故か急増したヴァルキューレ警察学校関連の仕事に、SRT特殊学園とヴァルキューレの軋轢解消。頼まれれば断れない性格の彼女に、防衛室長の仕事がのしかかる。

 

「それで、その……もびるすーつ?は今どこに?」

「ああ、ミレニアムのエンジニア部が管理してるよ。修理するために色々必要なんだってー。高い技術がどうのこうの。装甲材だって……ぶつぶつ。」

「あー、すみません。仕事の邪魔になってしまいましたか。今の言葉は忘れてください。先生。先生?」

「Eカーボンの精製と加工には高い技術力が必要…………しかし…………将来的な発展を…………」

「あのー。」

 

 先生は疲れていた。

 

 

 

 

 

 

「……即ち、エデン条約。それが狙われるだろう。」

「あ?んな事言われても何か出来るわけでもねェしな。」

「ああ。それこそセミナーの出番だろう。そして各学校と連携し、連邦生徒会の防衛室長とも──」

「それが、きな臭い。」

 

 ニールが身体を揺らすと、立ち上る紫煙も揺れる。傾いた太陽が照らし出す部室の中、機体の陰で暗くなったその場所。彼の瞳が黄金に輝いているようにも見えた。ネルが瞬きすればその光は気のせいだったと分かるし、きっと光の反射だろうが──しかしその一瞬、彼が違う人に見えてしまった。歳若い、黒髪の少年だった。

 

「ネル。」

「ああ?」

「アイツを頼む。」

「それは美甘ネルに対しての、か?」

「ああ。C&Cじゃない。」

「わーったよ。アンタには借りがあるしな。」

「助かる。それとウタハ。機体の修理状況は?」

()()()()()()()()()()

「そうか。なら仕方ないな。」

 

 ポケットから取り出した紙片を投げる。

 

「これは?」

「お前らがぶっ壊したハロの代わりだ。」

「…………えっと、納期は?」

「1週間。」

「でき」

「るよな?」

「────やってやろうじゃないかぁ!」

「ヤケクソじゃねぇか。」

「まぁ自業自得だからね!」

 

 目がキマっているが気にしない。ハイになりながら設計図を書き始めたので放置しておく。自分が吹っかけた仕事だから邪魔するにも悪い。まぁハロを分解してデータベースだけ残したことは非常に怒っているが。コユキはどこに行ったのだろう。

 セミナーのどこかでくしゃみが聞こえた気がする。ネルがふと振り返ると、扉が僅かに開いていた。はて、自分はキチンと扉を閉めたはずだが。ピシャリと容赦なく扉を閉めると聞き覚えのあるうめき声が聞こえた。あいつら後でシバキ倒す。ネルの覚悟は決まったので、とりあえずニールは何をしているのだろうと確認してみる。

 

「ああ。頼んだぞ。──お前も素直になれ。あ?無理?黙ってごめんなさいでもすりゃいいだろ!?なぜそれが出来ん!?恥ずかしい?──あー、もしかしてまだ初等部とかだったり……」

「おい。」

「どうした?」

「アイツか?」

「うーん、正確には違うっつーか。──じゃ、そういうことでな。大人しく言うこと聞けっての。誰かを信じろ。な?」

 

 電話を切って、彼はネルの頭に手を乗せた。紫煙の香りが残った彼の腕は、ジャケットと同じ匂いがする。すん、と鼻を鳴らして、ネルはニールに彼女の端末を差し出した。

 

「ほれ、直接連絡した方が早いだろ。登録しとけ。」

「あ?嫉妬してんのか?」

「──殺す。」

 

 あー、リーダーってば素直じゃないんだから。誰かの声が響いてから、エンジニア部の扉が吹っ飛んでいった。あとニールはいつの間にか居なくなっていた。さすが狙撃手。逃げのスキルも高いのか。褐色黒髪メイドは静かに感服していた。

 

「待てコラァァァァァ!」

「リーダー!私じゃないってば!」

 

 哀れカリン。強く生きろ。

 

 

「えへ、えへへ。見ちゃいました見ちゃいました。」

 

「かっこいいですねぇ、強そうですねぇ。」

 

 銃声が、一度。




はよエデン条約編書きたい。

書くよ。

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